大きく吹き飛ばされる響夜。
「ぐおあ!?」
木に叩き着けられ、一瞬意識が遠のくも、持ち前の打たれ強さで持ち直す。
「なかなかに倒れんな」
一方で、健吾の方はまだまだ余裕と言った感じで首を回していた。
「くっそ・・・」
よろよろと構える響夜。
打たれ強い、といっても、それでも限界はある。
「やはりお前が俺様に勝つ事は不可能だ!ハッハッハー!!」
「んだとゴラ!?」
地面を蹴り、響夜は健吾に向かって走る。
そして、右で二重の極みを放つ。
だが、図体がでかい為に、自然的に胸にその拳がめり込む。
「ん~ん、痒いなぁ」
「チィ!」
健吾の余裕そうな表情を見て、すぐさま左で二重の極みを撃ち込む。
「ハッハッハ、無駄無駄ぁ」
「くそ!」
今健吾が、服の下に来ている厚さ一センチもあるタイツのの様なスーツ、『衝撃吸収スーツ』によって、撃ち込まれた衝撃をスーツ内で伝導、体外へ吐き出す機能を有している。
だから、二重の極みの特性である、『一撃目の衝撃で抵抗を失くして二撃目で破壊する』という行為ができないのだ。
「オラオラオラオラオラァ!!」
二重の極みをラッシュで撃ち込み続ける響夜。
だが、長くは続かず、一旦距離を取る。
「効かないねぇ」
しかし、散々打ち込んだのにも関わらず、余裕な表情をして指をパキパキと鳴らす健吾。
「くそ、どんだけ反則なスーツなんだよ・・・・!」
ギリッと歯を食いしばる響夜。
(もうあれを使うしかないのか・・・・?)
そう思いはじめたその時、腹に重い衝撃が走る。
「ぐお!?」
健吾がアッパーカットで響夜の腹を殴ったのだ。
そのまま宙を舞い、背中から地面に落とされる響夜。
「ぐは!?」
「ハッハッハー!弱い弱ーい!そしてまだ終わってないぞ!もっと俺様を楽しませてみろォ!」
「この野郎・・・・」
もとより、響夜は負ける気などない。
だが、肝心の二重の極みが効かない、というよりも、打撃だとかの類が効かない相手にどう対処すればいいのかが分からない。
あのスーツが吸収しきれない程の衝撃を与えればなんとかなるかもしれない。
しかし、二重の極みのワンランク上の、握り拳から指を弾くように広げる事で、三つの衝撃を重ねる『三重の極み』は、
成功するまで敵が待ってくれる訳が無いので、必然的に、二重の極みに頼るしかない。
じりじりと近寄ってくる健吾。
響夜はなんとか立ち上がろうとするも、中々立ち上がれない。
だがその時。
ヒュッ
「!?」
突然、顔の右側面に右腕をかざす健吾。
そこに、なにか光るものが飛来し、健吾の右腕がそれを弾き飛ばす。
宙を舞うそれは、それが飛来してきた方向から出てきた影によって掴まれ、健吾に向かって、その双剣を向ける。
瑞鶴だ。
「瑞鶴!?」
「何だらしない様になってんのよ!」
瑞鶴は響夜のありさまをみるなりそう怒鳴る。
「ぬぅ、貴様も俺様の道を阻むか!」
「俺様って随分と身分のお高い事で」
地面を蹴り、健吾に向かって走り出す瑞鶴。
両腕を交差させ、健吾に向かって、その双剣を、重ね当ての要領で振るう。
『
一刀目の後ろから二刀目を叩き着け、重ね当てで敵を切断する御庭番式小太刀二刀流の技。
「ぬん!」
「!?」
それに対し、健吾はみずから胸を出す。
その胸に、瑞鶴の交差させられた双剣が叩き込まれる。
(自分から体を・・・・!?)
その行為に困惑する瑞鶴。
だが、そこで異変に気付く。
健吾から一滴の血も流れていないのだ。
「!?」
「ハッハッハー!このスーツは、衝撃を吸収するだけでなく、防刃にもすぐれているのだ!」
「だったら!」
今度は瑞鶴は右腕を後ろへ引き絞り、右の小太刀を突き立てるように真っ直ぐに健吾に向かって突く。
「防刃素材は刺突には弱いのよ!」
「その通りだ!」
「!?」
だが、健吾はその攻撃を、左手の人差し指と中指でその刃を受け止める。
「嘘・・・・うが!?」
それに驚く暇も無く、顔面に拳を叩き込まれる瑞鶴。
それで意識が遠のく。
しかし、意識を闇から引きずり出すかの様に、二撃目が瑞鶴の顔面を襲う。
「あ・・・かあ・・・・」
「まだまだおねんねには早いぞ!」
「瑞鶴!」
よろめく瑞鶴。
その瑞鶴に、三撃目を入れようとする健吾。
だが、二撃目で意識を引きずり出されたために、瑞鶴はその三撃目が来る前にすでに攻撃態勢を整えていた。
「な、める、なぁ!!!」
「ぬお!?」
瑞鶴の眼が真っ赤に染まり、体から蒸気を発する。
高速回転する瑞鶴。
御庭番式小太刀二刀流奥義―――――
「ハァァアア!!!」
その回転を使い、超高速の六連撃が健吾に叩き込まれる。
――――『回転剣舞・六連』
右斜めから平行に三撃、同じく左斜めに三撃。
計六連撃の交差した連撃が健吾を襲う。
さらには、
だが。
「良い攻撃だ。だが、まだまだだな」
「嘘・・・!?」
だが、健吾には全く効いている様子が無い。
それに目を見開き驚愕する瑞鶴。
健吾の右腕が動く。
「!?」
それに瑞鶴が気付いたのは、すでにその右手が瑞鶴の首を掴んでからだ。
「あ・・・・か・・・・」
「いいぞぉ。もがけもがけ!もがき苦しめ!」
健吾の右腕を引きはがそうと、両手でその右手を掴むも、その剛力の前に、成す術が無かった。
「瑞鶴!!」
「きょう・・・やぁ・・・・」
意識が朦朧としているのか、喉を抑え込まれて声が出ないのか、かすれた声で響夜の名を呼ぶ瑞鶴。
「ハッハッハー!どうした喧嘩屋ぁ!このままではこの女は死ぬぞぉ!」
ニヤリと笑う健吾。
「テメェ!!」
それに頭に血が上ったのか、立ち上がって健吾に向かって走り出す。
そして、その背中に二重の極みを叩き込む響夜。
だが、当然の如く、その衝撃はすべて体外へ吐き出されてしまう。
「小賢しいわ!」
「ぐは!?」
振り向き様に左腕で殴られ、吹き飛ばされる響夜。
その吹っ飛んでいく様を見て、ほくそ笑む健吾。
ざしゅ
「む!?」
突然、瑞鶴を掴んでいる右腕に、鋭い痛みが走る。
振り向いてみるとそこには、健吾の右腕に瑞鶴の右の小太刀が突き刺さっていた光景だった。
瑞鶴の顔は、蒼白ながらも、してやったり、といった表情で、笑っている瑞鶴の姿があった。
しかし、健吾はそれを見て多いに顔をニヤつかせる。
次の瞬間、思いっきり右腕を振り上げたかと思うと、瑞鶴を思いっきり地面に叩き着ける。
「ガハァ!?」
それによって、空気が不足していた肺の中の空気が更に吐き出される事になり、上手く呼吸が出来なくなる。
「なかなかに舐めた事をしてくれるじゃないか」
「あ・・・あ・・・・」
健吾は、右腕にささった小太刀を引き抜く。
その右腕から止めどなく血があふれ出る。
「ふん!」
「あが!?」
だが、右腕に力を入れた途端、右腕からあふれ出ていた血がぴたりと止まる。
筋肉によって止血したのだ。
「ハッハッハ!こんな切り傷程度、筋肉さえあれば血などとめる事など造作も無い!」
豪快に笑う健吾だが、瑞鶴はすでにそれを聞いていない。
先ほど力を入れられた事で、更に首が絞められ、急速に意識が遠のいているのだ。
「瑞鶴ッ!!」
その様子の瑞鶴にいち早く気付く響夜。
高笑いをする健吾。
そんな中、響夜は見た。
瑞鶴がこちらを見て、微かに口を動かした事を。
「に・・・げ・・・・て・・・・・」
なんとか読み取る事が出来たその言葉に、響夜は、頭の中で何かがフラッシュバックして砕けるのと同時に、何かが沸騰するような感覚に襲われる。
ゆらりと立ち上がる響夜。
そして、何を思ったのか、胸の前で、両手を合わせる。
そして、数回深呼吸をした後、突然、地面が揺れた。
「ぬ?」
異変に気付く健吾。
響夜が、両手を、両肘をその場に固定し、右手を反時計回り、左手を時計回りに上に向かって拳を作りながら半回転させる。
そして、両手の拳を今度は思いっきり打ち付ける。
なんの儀式なのか、首を傾げる健吾。
「・・・・『明王モード』」
そう呟いた響夜。
そして、ゆっくりと歩き出す響夜。
背後に、明王の化身を移しながら。
それを見た健吾は、何かやばい、と瑞鶴を離し、身構える。
「げほ!?ごほ!?」
酸素がやっとの事で吸い込めた瑞鶴は、はげしく咳き込む。
やがて、それが収まると、瑞鶴は、心配する様に響夜を見る。
「響夜・・・?」
その表情は、怒りに染まっていた。
右拳を握りしめる響夜。
そして、健吾を射程に収めた瞬間、響夜が踏み込む。
左足を前に出した瞬間、地面がいきなり爆ぜる。
「ぬお!?」
「きゃあ!?」
足での二重の極みだ。
それで健吾の態勢を崩す。
その健吾に、響夜の
宙に浮いている為に、後ろに下がる健吾。
「ふん、だからなんどやっても・・・・!?」
いきなりよろめく健吾。
そして、先ほど響夜の拳が当たった場所に微かな鈍痛があった。
「な、何故だ!?スーツがあるかぎり、お前の二重の極みは効かない筈・・・・」
「流石に、四つも重ねればとどくか」
「!?」
響夜が口を開き、身構える健吾。
「右手で二つ、左手で二つ。この
また、右手に左手を添える響夜。
「これが
「く、くそがぁぁああ!!!」
健吾が雄たけびと共に走り出す。
一方で、響夜はその場で右腕を振りかぶる。
健吾は、左肩を前に出し、ショルダータックルを喰らわせようと、更に加速する。
(大丈夫だ!俺にはこのスーツがある限り、奴の二重の極みは効かない!そうだ、絶対に効かない!効かないんだ!)
自身に暗示をかけ、謎の恐怖を振り払う健吾。
だが、そんな様子に気付いていないのか、はたまた呆れているのか、響夜は、容赦なく明王の拳をその左肩に叩き込む。
「五重の極み」
ほどなくして、健吾の左肩に鈍い痛みが走る。
「ぬあ!?」
思わず下がってしまう健吾。
そんな健吾に追撃と言わんばかりに、今度は左手に右手を添えた状態で腰の方から左拳を振りかぶる。
そして、健吾の腹に、左拳を叩き込むのと同時に、左膝を叩きこんだ。
「七重の極み」
それによって下がる健吾。
そして・・・
「ゴハァ!?」
喀血した。
「ば、ばかな・・・・な、なんで・・・・!?」
「片手で三つ、もう片手で二つ。そして、片足の膝で二つ。合計七つの衝撃で喀血か」
狼狽する健吾を他所に、響夜は、冷酷な眼差しでそう説明する。
明王モード、というのは、一言でいえば、ただの自己暗示だ。
だが、響夜は、先ほどの儀式の様な動き、『プリショットルーティーン』によって自らのイメージを固め、雑念を消し、自身を一つの破壊兵器とする事で、二つ以上の衝撃を作り出す事が出来るようになったのだ。
「さて、問題だ。お前のスーツ、十の衝撃は耐えられるのかねぇ」
腰のあたりで、両拳を構える。
そして、腰を落とす。
そして健吾は直感する。
あれはヤバい、と。
「く、くそぉぉぉぉぉぉぉぉぉおお!」
だが、自身のプライドが、逃げる事を許さず、もはや自暴自棄になって響夜に突進する。
ここでプライドを見せずに逃げていれば、こんな事にはならかっただろう。
右足で二つ、左足で二つ。それを体内で伝導させ、それぞれを両手に伝導させる。
そして、両手を前に突き出し、相手に直撃させた瞬間に、その二つの衝撃と共に、左右同時に三重の極みを放つ。
両足で四つ、両手で六つ。その合計は十。
その一撃は、山をも砕くほどの威力。
「ふう・・・・」
何かが突き抜けたかの様なその森の光景。
同時に、地面に膝をつく響夜。
「ハア・・・ハア・・・ハア・・・」
だいぶ、久々に放った十重の極み。
その威力は、人を一撃で木端微塵にする程の威力で、もし、健吾が衝撃吸収スーツを着ていなければ、間違い無く殺していただろう。
「ハア・・・・・」
立ち上がる響夜。
そして、放心している瑞鶴に向かって歩き出す。
「おい、無事か?」
「・・・・・ええ」
声をかける事で、瑞鶴は我に返り、力無く返事をする。
「・・・・なんで来た?」
響夜がそう質問する。
「・・・・貴方が、危なそうだったから」
顔を伏せる瑞鶴。
そんな瑞鶴を、響夜は、何を思ったのか、抱きしめた。
「・・・・二度としないでくれ」
「・・・・・無理」
微かな嗚咽と共に、瑞鶴はそう答えた。
次回『馬坂の最奥 『火爪』炸裂』
地獄の業火に焼かれて消えろ
お楽しみに。