艦隊これくしょん その刀は誰が為に   作:幻在

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大型建造失敗したぁ・・・・・

赤城「大鳳さんを狙って、全部外していますものね・・・」

加賀「もう正規空母だけでも四隻いるんだから十分じゃないの?」

それはそうなんだけどさぁ・・・・ほら、使える駒は多い方が良いじゃん。こんな言い方は嫌だけどさ。
それに、潜水艦も来ないし・・・・・

蒼龍「潜水艦がいれば、遠征も楽になるしね~」

飛龍「まあ、諦めずにがんばりましょう!」

では、本編をどうぞ。


黒河最強の艦娘 那珂

吹き飛ばされる。

そのまま地面に背中から落ちる。

息が吐き出される。

「げほ・・・ごほ・・・!?」

「あー、少し強かったかな?」

吹き飛ばされた川内は、腹を抑えながら起き上がる。

「ぐう・・・・」

「まあ、たった二日で蹴突を極めるなんて、まるで桜兄を思い出すね」

「おう・・・にい・・・?」

「うん、私のお兄ちゃん。本名は『馬坂(まさか) 桜花(おうか)

吹っ飛ばした方の葉子は片足を僅かにあげながらそう言う。

「兄がいたんですね」

「うん。結構厳しかったけどね」

川内の言葉に苦笑いを浮かべて返す葉子。

「そういえば、貴方の妹たちってどんななの?」

「・・・」

葉子がそう問いかけた時、川内はその場で俯いて動かなくなる。

(あ、しまった)

失言だったと後悔する葉子。

「ああ、ごめん。忘れて」

「いえ・・・・気にしないで下さい・・・・」

以前、時打から聞いた話では、彼女と妹の神通は、末の妹である那珂を失っている。

川内は、先まで元気とは思えない足取りで立ち上がる。

その様子に、馬坂は頭を掻き、溜息を一つ吐いた。

「今日はここでやめようか」

「え、そんな・・・」

「今の貴方の精神じゃ、少し無理があるわ。一旦、休みを入れなさい」

葉子はそう言うと、川内の肩に手を置く。

「休みましょ?」

「・・・・・はい」

葉子の言葉に、川内は不承不承と言った感じで、承諾した。

「で?なんで執務室(ここ)な訳?」

そう言って、時打は送られてきた書類を()()にサインやら意見やらを書き殴っている。

「やだな~、どうせそれすぐに終わるんでしょ?」

「今回は多いんだよ。それに秘書艦が・・・」

「えっと、これはあっちで、これはこっちで、あああ・・・・」

時打が視線を向けた先では、書類を絶賛舞い上がらせている初霜の姿があった。

「大丈夫か初霜~」

「す、すみません!すぐに纏めますので!」

あわあわと書類を急いで纏めようとする。

頭にある鉢巻の縛り方からみても、その姿はある意味、残業でやけくそになった男性社員の様だ。

まあ、駆逐艦(子供)なので酒は飲まないだろうが。

「も、持ってきま、したぁぁぁぁぁぁああああ!?」

なんとかまとめた初霜は急いでそれを時打の元へ持っていこうとしたが、何のいたずらか落ちていた()()()に足を取られ、すってんころりと盛大にサマーソルトキックを放ったが如き回転でアクロバットに転倒した。

そのままスカートがめくれ、あられもない姿をさらしてしまう初霜。

「あうう~」

そのまま目を回すおまけつきだ。

「おいおい・・・・」

「セェイッ!!」

「ぐはぁ!?」

その様子に、何をしているんだと言った顔でズレた方向の事を頭に思い浮かべていた時打の顔面、詳しく言うと目に鋭い蹴りを入れる川内。

「な、何故・・・・」

そのまま倒れ、がっくりとその場にひれ伏す時打。

「あーららー」

その様子に苦笑いを浮かべる葉子。

「う~ん・・・・って提督ぅ!?何が起きたんですか!?」

やっとの事で復活した初霜は、時打に起きた惨劇に思わず悲鳴を上げる。

「あー、気にしない方が良いよ。というか気にしないで」

「あ、はい」

川内に念を押された初霜は承諾するしかなかった。

「いたた・・・・何だったんだ?」

「あ、もう復活した」

「まあこんな事は日常茶飯事だったからね」

復活した時打はともかくとして、そこへ執務室の扉が開き、神通が入って来た。

「提督、少し話をしたい事が・・・・あ、姉さんもいたんですか」

神通は部屋に入るなり、その様に言う。

「なんだ?話たい事って?」

「はい・・・・その・・・・」

時打の問いかけに、しどろもどろになる神通。

「那珂の事について、話があるそうだ」

『!?』

そんな神通の代わりに、部屋に入って来た長門がその様に言う。

「神通!?」

川内が思わず声を挙げる。

「ごめんなさい・・・でも、どうしても提督には、知ってもらわなければならないから・・・・」

神通は申し訳なさそうに、俯きながらそう言う。

「・・・・・初霜」

「分かりました」

初霜を退室させる時打。

「で、どうしていきなりそんな話になったんだ?」

「姉さんの弟子入りを、聞いていた霧島さんから、過去の事を詳しく話さなかったと聞いたので・・・提督は、どうして姉さんが強くなりたいのか、御存知ですか?」

神通は、そう聞いてくる。

「いや、さっぱりだ」

「私の方は、とにかく妹を守れるようになりたいって聞いたわね」

その問いに時打は素っ気なく答え、葉子はその様に答えた。

「そうですか・・・・・」

しんみりとした空気になる。

その空気に、先耐えかねたのは予想外にも川内だった。

「分かった」

川内は、俯いていた顔を挙げて、時打と葉子を見た。

その眼に、確かな決心の色をつけて。

「話すよ。私が強くなりたい理由。そして、那珂がどんな存在だったか」

「姉さん・・・・・」

「ごめん神通。そしてありがとう。これで、言わないで終わらなくて済んだよ」

神通に微笑む川内。

「ま、一応、話は着いたという事で、前々から疑問に思ってた事を言わせて貰うぞ」

そこへ割り込むように時打が口を開き、艦娘の戦績表を取り出す。

そして、その中にある『軽巡洋艦 那珂』のページを出す。

「このバカげた戦績はなんだ?」

そこには―――――

 

 

 

 

 

 

駆逐艦   五百六十三隻

軽巡洋艦  五百三十五隻

重巡洋艦  六百七十四隻

潜水艦   三百六十七隻

航空母艦  五百七十三隻

戦艦    七百六十九隻

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「普通の出撃でここまでの戦績なんて叩き出せない。それこそ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()じゃなければ尚更だ」

時打は、視線を強くする。

「何故、コイツだけこんな戦果を叩き出せた?いや、どうやってこんな戦果を叩き出した?いくら大和でもここまでの事は出来ないぞ?レ級を三十隻を沈めるなんて、常軌を逸してる。どうしてここまでの事が出来たんだ?」

時打は、そう問い詰めた。

それで顔を見合わせる川内と神通。

そして、川内が口を開いた。

「それは――――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある海域にて――――――

 

 

 

 

「きゃぁぁああ!?」

「神通!?」

神通が被弾し、大破へと至る。

今回は、通常の撃滅任務であり、敵艦隊である戦艦二隻、空母二隻、軽巡二隻といった艦隊に、こちらは軽巡三隻、駆逐三隻の水雷戦隊で戦闘していたのだ。

しかし、当然といえば当然の様に、軽巡や駆逐艦如き火力で戦艦の装甲を貫ける訳が無く、一方的な戦闘に陥っていた。

そして、今、戦艦一隻と軽巡二隻を相手どっていた、川内、神通、三日月、卯月、白雪のうち、川内以外が多大な被害を(こうむ)っていたのだ。

「く・・・・」

一方で、軽巡は沈める事に成功したが、残る戦艦はまだまだ健在。

川内は、もう一時間に渡る戦闘に、ずっと全力で動いていたからか、かなりの疲労が見られた。

そのまま、戦艦ル級flagshipの主砲が川内に向けられた。

その時、ル級の足元で轟音と共に高い水柱があがった。

「!?」

その水柱から、人影が飛び出し、ル級の背後に回り込むと、膝裏を蹴り、膝かっくんの要領で膝を水面に着かせ、その後頭部に自身の腕に取り付けられた主砲を突きつけ、砲撃。

だが、彼女の持つ二十センチ砲ではル級の装甲を至近距離でも貫けず、すぐさま振り返って主砲を突き着けようとしたが、それを許さない様に、振り返った瞬間に顔面を蹴られ、今度は水面に倒れ伏す。

そして、その人影は、魚雷発射管から魚雷を数本抜き出すと、それをル級に向かって軽く投げる。

そして、魚雷がル級の背中に触れた途端、大爆発を起こし、巨大な水柱が立ち上った。

「・・・・」

その光景に茫然とするしかない一同。

だが、これが()()だ。

「あー、終わった!」

と、収まった水飛沫の中から、先ほどの人影が出てくる。

「おーい!大丈夫~?」

その人物、那珂が笑顔で手を振ってくる。

その様子から、被弾後どころか疲労の少しも見当たらない。

「え、ええ・・・誰も沈んでないから」

「そっか~、良かった~」

川内の言葉に、那珂はホッとする様に顔をほころばせる。

「じゃ、帰ろっか!」

その那珂の一言で、艦隊は帰還をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

那珂は、希に見る、『怪物艦(モンスターシップ)』と呼ばれるものだった。

 

怪物艦というのは、駆逐艦が、兵装なのはそのままに、機動力などのステイタスが戦艦越えしているもの例に、主に、駆逐艦、軽巡に多く見られる、いわば、()()()()()なのだ。

その力は絶大で、すごいものといえば、全部戦艦のみの編成の艦隊を相手取る事も可能な程なのだ。

だが、失敗艦というだけあって、その代償はさまざま。

声の喪失、盲目、感情欠落、部位欠損、その他もろもろ。

だが、代償が大きければ大きい程、その力は絶大だった。

 

 

 

 

 

 

 

川内たちの自室にて。

神通は、大破のままベッドに寝転がっていた。

「あーらら、入渠許可してくれなかったね」

その神通の有様に、なんでもない様に言う那珂。

「そうね・・・・」

疲れていたのか、ぐっすりと眠っている神通。

その妹の様子に、川内は、頭を撫でた。

那珂は、一ノ瀬の時に建造された艦娘だ。

その為、すでに改装は済んでおり、その衣装はアイドルの様な恰好だった。

この時、部屋から出る事は許されておらず、艦娘たちは、ほとんどの時間を自室で過ごすのだ。

瑞鶴は抜け出して街に出向いていたようなのだが。

「あーあ、暇だなぁ。歌っても良ーい?」

「やめなさい。神通の傷に響くし、なによりあの提督に聞こえるでしょう?」

「うーけちぃ」

そう不貞腐れる那珂。

神通の容態を全く気にしていない様子だ。

その様子に、何も言わない川内。

否、言っても無駄だからだ。

その時、放送が流れた。

「ん?」

『軽巡の那珂、川内。今すぐに執務室に来て下さい。繰り返します――――』

拡声器(スピーカー)から、秘書艦である五月雨の声が響いた。

「なんだろ?」

那珂は何気ない様に呟くが、川内は訝しむ様な表情で放送を聞いていた。

先ほど出撃して報告してきたばかりだ。なのになぜ今呼び出されるのか。

「~♪」

那珂は相変わらず能天気に部屋を出ていこうとする。

「あ、那珂・・・・」

川内の静止を聞かずに部屋を出て行ってしまう那珂。

「・・・・」

しばしその場に立ち尽くしていた川内だったが、すぐにその後を追う。

その道中、遠征帰りだろうか、ボロボロな駆逐艦たちを見かけたが、那珂の姿を見ると、慌てて道を空けた。

その中には、明確な敵意を持った視線もあった。

その様子に、川内は溜息が出そうになる。

 

 

 

 

那珂の怪物艦としての代償は、『楽』以外の感情の欠落。

 

 

 

 

『怒』の感情が無いから殺意が無く、『哀』の感情が無いから容赦がなく、『喜』の感情が無いから油断する事が無い。

とにかく、『楽』の感情しか持ち合わせていない為に、那珂には、精神的にも身体的にも、どの艦娘にも劣らない戦闘能力を引き出す事が出来るのだ。

だが、その感情の欠落の所為で、誰かが沈んでも悲しむ事が出来ず、その死を笑う事しか出来なかったのだ。

だから、那珂は嫌われていた。

彼女の事を知っている翔鶴と瑞鶴、そして現在行方不明である大和は例外として、他の艦娘からは嫌われているのだ。

 

 

 

 

 

そして、執務室にて。

「たった二隻で、ウェーク島の敵泊地を攻撃しろ・・・・!?」

前任提督、秋村からその様に言われ、川内はその表情を驚愕へと染める。

「その通りだ。何、お前たちなら大丈夫だろう?何せ、戦艦相手に何度も勝ってるんだからな」

秋村は、嫌な笑みを浮かべながら、その様に言う。

「で、でも、そこは小さいとは言え、泊地ですよ?せめて、重巡の一隻でも・・・・」

「実はこの後に重要な任務があってなぁ。そいつらにはそれをやらせる予定なんだ。それに、大破してないのはお前たちだけなんだ。だから、な?」

秋村の言葉に、歯噛みする川内。

どこまで下衆なのだこの男は。

しかし、反論をいくら並べようとも、全ていなされ、襲い掛かろうものなら五月雨にやられる。

「・・・分かりました」

承諾するしかなかった。

一方、那珂はそのやり取りに一切口を出さないでいた。

こういう時には、大抵、自分の髪を弄って、会話には一切参加しないのだ。

どういう意図があるのか分からない。

だが、それを追求した所で、何の意味も無い。

川内は、出撃するべく、部屋を出る。

那珂もいるから大丈夫だろう。

そう思っていた。

 

 

 

それが、最大の慢心だと気付かずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、ウェーク島にて。

敵の思わぬ罠により、包囲され、砲撃や爆撃、雷撃の暴風雨にさらされ、最初はなんとかしのいでいたが、徐々に敵の物量によって押されはじめ、ついに川内が被弾してしまった。

「くう・・・!」

思わず水面に膝を着く川内。

「被弾するなんて情けないよ。そのままじゃまた当たっちゃうよ?」

その川内を見て、相変わらずの調子でそういう那珂。

「うるさい・・・そんなの分かってるっつうの!」

なんとか立ち上がろうとする川内。

だが、その直後に敵の放った砲弾による水柱が立ち上がる。

「きゃあ!?」

それでまた膝をついてしまう川内。

「全くもう」

那珂は、そんな川内に呆れ、砲撃を続ける。

「このままじゃ・・・・」

川内は、今の状況に絶望しか感じなかった。

敵の包囲網の一部に突破しかけている状態だが、敵の猛攻に逃走は困難を極めていた。

それに加え、川内の被弾によって、航行能力の大体が減少。

スピードが落ちる始末である。

一方で那珂は全くの無傷。

それに疲れも感じない。

その様子の那珂を見て、川内は一つ、ある考えを思いついた。

「那珂、私を見捨てて逃げて」

川内は、自分を庇いながら戦っている那珂に向かって、そう言った。

「・・・・何?」

那珂が攻撃の手をやめないでそう聞いてくる。

「私を連れて逃げるのは、多分、出来ない。だけど、貴方一人なら、逃げる事は出来るでしょ?だったら・・・」

「こんな時に、ふざけないでくれるかなぁ?」

突然の、那珂の低い声。

「!?」

そして衝撃。

視界が急変し、長い浮遊感の後に、水面に着水。

そのまま水面を滑り、止まった所で痛む腹を抑えながら、体を慌てて起き上がらせる。

「那珂!?」

驚愕の中、川内は妹の名を呼ぶ。

「川内が逃げて」

那珂は、相変わらずの笑顔でそう言う。

「な、何を言ってるの!?私なんかよりも、私が・・・・」

「早くいかないと、魚雷を撃ち込んじゃうよ?」

「ッ・・・・!?」

いつもの笑顔で、那珂は、そう言う。

その表情に、微かな『本気』を入れて。

「那珂・・・・」

「早くいってよ。正直、邪魔なんだからさ」

那珂は、敵の方向を向く。

そして、魚雷を一本、引き抜く。

「ッ・・・・」

それは、『沈める』の意志表示。

川内は、那珂から背を向けて、走り出す。

胸いっぱいの悔しさを込めて、川内は走った。

そして、ある程度逃げた所で、水偵を飛ばした川内。

理由は、索敵ではなく、那珂の安否。

どんな窮地に立たされても、絶対に勝った那珂。

今回も、ありえない様に敵を撃滅している。

そう思っていた。否、現実逃避をしていた。

敵泊地は、半壊。しかし敵は一部健在なのを除いて、轟沈と大破。

その中に、那珂の姿は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――その後、母港へ帰還した私は、その事を報告。提督から、罵声を浴びた後に、一ヶ月の、謹慎を受けました」

「拷問―――の間違いじゃないのか?」

そう問いかける時打。

「・・・・」

「図星・・・か」

時打は、そう呟くと、冷めたお茶を一口飲む。

「暁たちの時もそうだったが、凄惨だな」

時打は、そう、無表情にそう言った。

「・・・・何も言わないんだ?」

葉子がそう聞いてくる。

「言ってもしょうが無いだろ。俺に出来る事は、導く事だ。他人の過去に口を出す事なんてできないさ」

「この子たちよりも凄惨な過去を持っている癖に?」

「内容が全く違う」

乾いた会話が二人の間を飛び交う。

だが、それもすぐに終わり、時打は川内を見据える。

「那珂の事は分かった。怪物艦(モンスターシップ)なら、その強さもうなずけるだろう。お前が強くなりたいって、馬坂に願ったのは、その時の自責の念からか?」

「・・・・」

川内は、その問いに何も答えない。

「・・・・肯定、として受け取っておく」

時打は、ふう、と一息吐く。

「なるほどね・・・・」

そこで、葉子が口を開いた。

「貴方の事情はよく分かった・・・・・だったら、一つ、ある事をしてもらうわ」

葉子は、川内に向かって、人差し指を立てる。

「もうすぐやってくるであろう人買業者たちの撃退。これに貴方も参加してもらうわ」

「「!?」」

葉子の言葉に、目を見開く川内と神通。

その中で、時打は何も言わない。

「その戦いの中で、神通を守りなさい。そして、無事、守り切ったら、貴方は、立派な馬坂流の人間よ。その時に貴方に出来るメリットは、一つは私たち馬坂家の人間からの支援を受けられる事。上手くいけば、この鎮守府の運営にも大きく影響するわ。もう一つは、馬坂の最奥。馬坂の人間でない者には、この奥義を教える事は出来ない」

そして、立ち上がる葉子。

「ごめん時打。すこし()()()よ」

「書類は燃やすなよ」

そう会話瞬間、突然葉子が、その場で回転しだした。

「「!?」」

まるで、小さな竜巻の様に、高速回転をする葉子。

そこで、川内は気付いた。

彼女の足元が、赤く発光し始めている事に。

やがて、葉子が回転をやめると、その右足は、熱気を感じる程に赤熱していた。

正確には、彼女の履いている、黒のロングブーツが。

「これが、我が一族に伝わる最奥、馬坂流戦闘術最奥義『火爪(ヒヅメ)』」

「ひ・・・づめ・・・」

まるで、小さな太陽を思わせるその熱は、川内と神通を圧倒していた。

「摩擦によって生まれた熱が、その速さに応じて、その熱量を増大し、敵を中から焼く」

しかし、その熱は徐々にその迫力を弱めていき、やがて、冷める。

「これが、火爪。海の上で使えるかどうか分からないけど、これを習得したければ、自分の妹を守りなさい。そして、無事、守り切れたら――――――」

葉子は、真っ直ぐに、川内に指を指す。

 

 

 

「―――――貴方を、自分の信念を貫ける者として、認めてあげるわ」

 

 

 

 

 

 




次回 『師匠と弟子』

飛天の理の元に。

お楽しみに!

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