「提督・・・・・」
五月雨は震える声でそう呟いた。
「久しぶりだなぁ、五月雨」
一方で、秋村は嫌らしい笑みで五月雨に声をかける。
「心配したぞぉ。お前、ずっと監禁されていたんだからなぁ」
「あ、あれは、私が・・・・・」
「だけど、もう大丈夫だぞ。お前はもう一人でいる必要なんてないんだからなぁ」
秋村は、そう言う。
五月雨は、怯えるような表情で、秋村を見つめる。
「答えろ秋村」
時打が口を開いた。
「なんだよ?」
秋村が忌々し気に返す。
「なんでそこまで五月雨を欲しがる」
時打は、それだけ聞いた。
「なんで欲しがるのかってぇ?そんなの決まってんだろ」
秋村はこういう。
「そいつは俺のものだからだよ」
「なんだと?」
時打は眉間にしわをよせる。
「俺が手塩をかけて銃器全般、格闘技術、工作技術なんかを
「銃器全般・・・・人でも殺す気だったのか?」
「ハッ!そんなの、
時打の問いに、秋村はさも当然の様に答える。
「世の中、人を蹴落とさなきゃ生きていけない。だけど蹴落とすには力と手駒がなくちゃいけないんだよ」
「その為のCQCと武器か」
時打は、忌々し気に秋村を睨む。
「そうだ。それに五月雨、お前はどうしても俺の所に戻ろなくちゃならないんだぜ?」
「何を・・・・」
五月雨がそう呟きかけた時だった。
秋村が、指を鳴らす。
すると、コンテナの影から、陽炎が出てきたのだ。
その眼は虚ろであり、その首には、鉄の首輪。さらには、謎のラベルと共に、いろいろなランプやら電子機器がむき出しになっていた。
(あの構造にラベル・・・・・まさか・・・・)
それの仕組みに気付く時打。
それは、五月雨も同じだった。
「爆弾・・・・ッ!?」
五月雨が、そう呟いた。
その時、木曾が悔しそうに顔を歪めた。
睦月は、相も変わらず無表情だが。
「
秋村が、わざわざ英語で答えた。
それは、首輪の中に仕掛けるタイプのプラスチック爆弾。
「お前ッ!」
「おーっと動くなよ?じゃないとドカン!だからな?」
秋村は、そう言って、右のポケットから起爆装置らしきもの出す。
「五月雨、戻ってこい。俺にはお前が必要なんだよ」
「人質とっておいて何言ってるんだお前は!?」
「チッ、うるさいなぁ。おい、木曾、睦月」
「!?」
秋村の言葉で、飛びかかってくる木曾。
一方の睦月は主砲を向けてくる。
「くお!?」
木曾のサーベルをバックステップで避ける時打。
そのすぐあと、木曾は追い打ちをかけるようにサーベルを薙いでくる。
それをさらに下がってかわす時打。
その後もくる追撃をバックステップで避け続け、五月雨からかなり引き離されたとき、不意に木曾がさがった。
時打は、その意図をすぐに察すると、すぐさま睦月の方を見る。
そこには、主砲を向けてくる睦月の姿があった。
睦月は、すぐに主砲の引金を引いた。
時打は、腰を曲げ、引き腰になる状態で頭を下げて回避。
そこへすぐさま木曾がサーベルを突いてくる。
「西洋剣術か!?」
「ハァ!!」
連続で突いてくる木曾。
そのスピードは、かなり速い。
常人では見切れない速さだが、時打にはそれは見える。
深鳳で木曾のサーベルをギリギリの所でいなす時打。
だが、その時、時打が高速で突いてくるサーベルを右に避けた。
「!?」
「俺を突き殺したければ、電の牙突を超える技を持ってくるんだな!」
――――龍巻閃
時計回りに高速回転し、遠心力をつけた一撃が、木曾の背中に叩き込まれる。
「グハァ!?」
そのまま吹っ飛んでいく木曾。
すぐさま時打は睦月の方を向く。
その瞬間に睦月が発砲。それを時打は深鳳の逆刃を使って斬る。
だが、突如、背後から殺気を感じる。
すぐさま時計回りに回転する時打。
そして、背後から突いてきた木曾のサーベルを、またしても右に避ける。
そのまま、また木曾に龍巻閃を叩き込もうとしたその時だった。
「木曾~、分かっているなぁ?負けたら、陽炎が
「ッ!?」
突如、秋村が放った言葉の意味を、瞬時に理解してしまう時打。
その為に龍巻閃を中止し、前方に転がる時打。
―――だが。
ゴギッ
「ぐ・・・!?」
回転の軸足だった右足を捻ってしまう。
だが、すぐに起き上がり、片膝立ちで秋村を睨み付ける。
「お前・・・・ッ!!」
「木曾、いいな?負けたら、ドカン!だぞ?」
「ッ・・・・分かった・・・・」
秋村の言葉に、木曾は悔しそうに顔を歪め、かすれた声でそう答えた。
「頼む・・・死んでくれ・・・・」
「木曾・・・・・・ッッ秋村ァ!!!!」
時打の絶叫。
それと同時に、木曾が斬りかかってくる。
「ッ・・・」
一方で、五月雨は、時打が右足をくじいている事を見抜いていた。
そして、時打は、これ以上攻撃
「あのままじゃ・・・・」
「さ~て、五月雨ぇ。今度はお前だ」
「!?」
秋村の言葉で、五月雨は、時打たちの戦闘から目を離し、秋村の方を見る。
「戻ってこい五月雨。それならば、あの男の命も、こいつの命も助けてやろう」
五月雨は、無性に胸を掻きむしりたくなった。
こんな
だが、自分の為に、他人を見捨てる事なんて出来ない。
五月雨は、後ろを見る。
そこには、痛めた足で必死に木曾や睦月の猛撃を躱し続けている時打の姿。
ふと、時打が五月雨の方向を見る。
「ッ!」
だが、すぐに視線を外し、木曾たちの攻撃をかわし続ける。
五月雨は、拳を握りしめる。
しばしの葛藤の末・・・・・
五月雨は、右手に持っていたガバメントを捨てる。
その瞬間、秋村が醜悪な笑みを、一層深くする。
五月雨は、秋村に向かって歩き出す。
「!? さみだ・・・・ぐ!?」
時打が五月雨の名を呼ぼうとしたが、視線を外してしまった事により、木曾のサーベルが、左脇腹を掠る。
「良いぞ。戻ってこい五月雨」
秋村は、五月雨に向かって手招きをする。
五月雨は、うつむいたまま、秋村に向かって歩く。
そして、秋村の目の前に立つ五月雨。
「五月雨」
秋村が、彼女の名を呼び、左手を差し出す。
その時だった。
五月雨が、秋村の左手首を、右手で掴む。
「・・・・は?」
「セァァァア!!!!」
間抜けな声を発した秋村だったが、五月雨が声をあげた瞬間、五月雨は左手首を持ったまま回転しながら秋村の懐に潜り込む。
左腕を左脇腹に入れ、そのまま左上腕を左手で掴む。
そして、沈めた腰を頭を下げるのと同時に突きあげる!
その瞬間、秋村の足が地面から離れ、それだけでは無くものすごい勢いがついて、秋村の体が五月雨の前方に投げ出され、背中から叩き着けられる。
「グハァ!?」
それで意識がとびかける秋村。
その所為で右手に持っていた起爆装置を手放してしまう。
柔道の代表的な技、『背負い投げ』だ。
さらに、本来なら左手は襟首を持つ為に、腕のみを持って投げるその技の本来の名前は、『一本背負い』。
しかも、相手の体の事を何も考えずに投げる事に特化した投げ方だ。
「く!」
五月雨はすぐさま秋村が手放した起爆装置を拾う。
それを見た時打は、同じように見ていた木曾をすりぬけ、睦月に向かって走り出す。
「!?」
時打は、右足を大きく踏み出す。
その瞬間、右足に激痛が走るも、時打はそれに耐え抜き、前に大きく踏み出す。
その途端、睦月が主砲を撃つ。
時打は、それを左斜め下から斬りあげた深鳳の逆刃で一刀両断。そして、左足を踏み出し、大きく上空へ飛ぶ。
「!?」
睦月は、そこから撃ち落としに警戒する。
だが、時打は、睦月の頭上を通り過ぎると、睦月のすぐ背中で着地。
そして、左足を軸にして、睦月の背中の艤装に横一文字に一撃を入れる。それも、逆刃での斬撃。
「う!?」
うめき声をあげた睦月だったが、すぐに振り返って、主砲を放とうとしたが、振り向いて主砲を突き出した瞬間、睦月の主砲が砲塔、砲門もろとも切断される。
時打が左から薙いだ深鳳を、すぐさま切り返し、主砲を斬ったのだ。
そして、時打は、左手で睦月の腹に掌打を叩き込む。
「ぐぅ!?」
そのまま吹っ飛んでいく睦月。
一方で、木曾はぼうぜんとしたまま睦月が吹っ飛ぶ姿を見ているだけだった。
睦月が沈黙したのを見届けた時打は立ち上がり、深鳳を鞘に納める。
そして、右足を引き摺りながら、五月雨の元へ向かう。
「五月雨」
「あ、時打さん・・・」
五月雨は、両手に起爆装置を抱えたまま、時打の方を見る。
「陽炎さんの爆弾を」
「おう」
五月雨の言葉にうなずく時打。
そして陽炎に近付く時打。
「ひっ・・・・」
「落ち着け。顎を挙げて、首を出せ。じゃないと斬りにくい」
小さく悲鳴をあげた陽炎だったが、時打の声音に、なにかと従う。
そして、言われた通りに顎をあげ、首を曝け出す。
そこへ、時打は深鳳の逆刃で首輪を切断する。
「あ」
「木曾!」
時打は、木曾の名を呼ぶ。
「!?」
「陽炎を頼む。提督である俺に介抱されても、不安が残るだろうからな」
「あ、ああ、分かった」
よろよろと立ち上がる木曾は、すぐに陽炎の元へ向かう。
「さて、あとはその起爆装置を・・・・」
「五月雨ェ・・・」
『!?』
突如、憎悪に
「俺を裏切る気かぁ・・・!!」
秋村だ。
時打はそんな秋村に糾弾する様に声をかける
「もう終わりだ秋村。この起爆装置と爆弾が上に提出されれば、すぐにお前は軍法会議にかけられて、有罪にされる。無駄な抵抗はよせ」
「終わり?終わりだと?」
秋村は、低い声と共に、笑みを作る。
「まだ終わっちゃいねえ。睦月ィ!!」
秋村がそう叫ぶ。
すると、睦月がむくりと起き上がる。そして、艤装を分離した。
「睦月・・・・!?」
睦月は、スカートのポケットから、筒状の何かを取り出すと、それを片方を首に押し当て、反対側にあるボタンらしき突起を押す。
すると、プシュッという音が発せられる。
「もうやめろ睦月。これ以上争っても意味が・・・・」
「無駄だ」
時打の言葉を木曾が遮る。
「ソイツはもう・・・・提督無しじゃ生きていけない・・・・」
木曾は、悔しそうにそう言う。
その意味を理解できなかった時打と五月雨だったが、時打は、先ほど睦月のやった行為で思いあたる事を口にする。
「薬物か・・・!?」
「!?」
それで五月雨もハッとする。
「ハハハハハハハハー!!」
「秋村!貴様ァ!!」
高笑いをあげる秋村に時打は斬りかかろうとしたが、右足の激痛がそれを止めてしまう。
「ぐ!?」
(さっきの無理が祟ったか!?)
睦月に斬りかかるさいに右足で踏み込んだ時に悪化させてしまったようだ。
一方で、睦月は、虚ろな目で歩み寄ってくる。
「さあ!殺せ!ここにいる奴ら全員殺せぇぇぇええええ!!」
秋村が、そう叫ぶ。
「くそ!」
羽黒の時から見ても、睦月の近接格闘の強さはかなりのものとみえる。
いま、足を痛めている時打では、うまく戦えるかどうかも分からない。
「提督」
「!」
ふと、五月雨が口を開いた。
「私がやります」
そう言って、五月雨は時打に起爆装置を差し出す。
「な!?いくらお前がアイツに同じように育てられたからといって、睦月は艤装をつけた時より、格闘戦闘の方が強いんだ!いくらなんでも無茶だ!」
木曾が、そう叫ぶ。
「大丈夫です」
だが、五月雨は、止まらない。
時打は、差し出された起爆装置を受け取る。
「私には、まだ、やり残した事があります」
五月雨は、ポケットに手を突っ込む。
するとそこから、黒いゴムの手袋が出てくる。
その手袋には甲や指の関節等に鉄板がついていた。
防刃仕様の手袋だ。
「だから、こんな所で立ち止まる訳にはいかないんです」
そして、五月雨は睦月と対峙する。
次回『五月雨ならぬもの』
その一撃、五月雨に非ず。
お楽しみに!