艦隊これくしょん その刀は誰が為に   作:幻在

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捜索活動

ヒトハチマルマル――――午後六時。

 

 

「つまり、秋村の奴は他にも艦娘を引き連れてたのか?」

『ああ、見る限り、睦月を含め、陽炎と木曾がいる。ちなみにどうやら先にとっておいたホテルに泊まっているらしい』

時打は、電話越しに達也からその様な報告を受けていた。

「木曾は、サーベルとか持ってるから分かるが、陽炎の方はなんでだ・・・・睦月がいるのに、連れてくるなら戦艦だとか重巡とか連れてくるのが妥当の筈だが・・・」

『それについては俺は分からん。俺は海軍じゃないからな』

「分かってるよ。それじゃあ、また新しい動きがあったら連絡してくれ」

そうして通話を終える時打。

「どうでしたか、司令官」

「ああ。どうやらホテルに泊まっているらしい」

「ホテル・・・ですか・・・・」

吹雪が、恨めしそうにそう呟く。

吹雪も、虐げられていた者の一人。

秋村に対して決して浅くはない恨むを持っている。

自分の手でとにかく叩き潰したいだろう。

「一応、長官には許可取ったからな」

時打は、そう呟き、自分の目の前にある資料室を見据える。

そこへ入ると、時打と吹雪は、そこにある資料をあさる。

内容はもちろん、秋村の事だ。

あちらこちらにある資料をあさり、どうにか秋村 禅斗の資料を見つける事ができた。

「えーっと。出身は神奈川。幼少の時はそれなりに裕福な生活をしていた、と」

「こっちは家系ですね。うわ、父親が元海軍将校ですか・・・・うざい」

「そういう所のプライドが高いって事だろ。他には?」

「そうですね・・・」

まとめた結果。

 

秋村 禅斗。

年齢は二十九。

階級は少将。

海軍将校と、金持ちの娘の間に生まれ、それなりに裕福な生活をしていたらしい。

父親の影響で海軍の就職、それなりに高い成績を納め、無事提督に就任。

黒河では、多数の轟沈者を出すも、海域の奪還に貢献。

よって転属前は大佐にまで上り詰めたらしい。

そして、舞鶴に入ればその戦果は劇的に向上。

日本海側に出現する深海棲艦を撃滅していっているらしい。

 

 

 

 

 

 

「「・・・・・胸糞悪」」

その資料をしまう時打と吹雪。

「こっちは舞鶴に着任してる艦娘の名簿だな・・・・えっと・・・伊勢や日向もいるのか・・・・他には・・・・げ、武蔵もいる・・・・・睦月型もいるところをみて、あの睦月は最古参だな・・・・」

そう、時打は資料を読み漁る。

他にも、これまでの資源の収入。出撃回数。遠征の回数などの資料を見て見たが、その全てが普通だった。

おそらく、偽装をしているのだろう。

「あ、司令官、携帯鳴ってますよ」

「ん?ああ。達也からだな。なんだ?」

時打は、携帯(ガラケー)を取り出し、通話ボタンを押す。

「時打だ」

『舞鶴にいた仲間から連絡が入った。轟沈者はいないそうだ』

「は?」

時打は茫然とした。

『轟沈者はいない。だが、解体された奴がいる』

「そういう手があったか!?」

『ほかにも、『食事』を制限したり、食事を質素なもの(レーション)にしたりして、なんらかの『認識』を刷り込ませているらしい』

「その認識ってなんだ?」

『それまでは分からなかったらしい。とにかく侵入してみて分かったのはこれだけだ。後、出撃回数は通常の倍だ』

「それだけ分かれば十分だ。秋村の奴の動向は?」

『酷いものだ。艦娘だけを部屋に残して自分だけ豪華な夕飯だ。おそらく、資源を売りさばいて金に換えているんだろう』

「なんて奴だよ・・・・」

『引き続き監視を続けるが、どうやら動き出すのは今夜になるらしい。それまで起きているな?飛天童子』

「当然だ。夜戦には慣れてる」

『なら問題ないな。切るぞ』

プツ・・・・と通話が切れる。

「司令官、どうでしたか?」

吹雪が聞いてくる。

「奴を叩き出す算段が立てられそうだ」

「そうですか・・・・・」

吹雪は笑わない。

時打が笑ってないから。

それが何を意味をするのか。

一度、飛天童子という人間の体験と記憶を追体験した事がある吹雪だから分かる。

たった一秒の間で、三年という年月を頭に叩き込まれた吹雪だから分かる。

「司令官。命令を下さい」

吹雪は、時打に向かってそう言う。

 

―――時打は笑わない。戦いの中で、決して笑わない。

 

「私は貴方の(ふね)。この身果てるまで、貴方の元で戦い続けると誓った(ふね)であり、剣士です。だから、命令を下さい。敵を打ち倒す、貴方の想いを、私に預けて下さい」

吹雪は、そう言った。

時打は、それにしばし茫然とするが、すぐに頷き、口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒトキュウマルマル―――――午後七時。

医務室。

「調子はどうですか?羽黒さん」

「ええ。だいぶ良くなりましたよ」

電の言葉に、羽黒は笑みを作り、そう返した。

しかし、まだ淀みは抜けきっていないらしい。

「うん・・・分かった・・・・・伝えとくね」

部屋の奥では、飛龍が携帯を通して誰かと会話をしていた。

しかし、今終わったようで、飛龍は電と羽黒に歩み寄る。

「どうやら、睦月の他に陽炎や木曾もいるらしいよ」

「陽炎と木曾ですか・・・・陽炎の方は、問題ないとしても、問題は同じ刀剣を持つ木曾さんの方ですね・・・」

刀剣、というか近接武器を持つ艦娘は、白兵戦でもそれなりの戦果を叩き出す事例が多い。

伊勢や日向、天龍と龍田。そして例外である思想改装を施し、剣士として目覚めた艦娘。

ただ、問題は、元祖的な存在である伊勢たちと、思想改装の艦娘との剣術の差は、歴然といっても良い程の差がある。

意識の差である。

もともと『艦』としての認識の高い伊勢たちは、砲撃戦を得意とするだけあって、剣術の方は、真面目にそれに打ち込んでいら者よりも劣るのは当然。

そして、思想改装は、『流入現象』と呼ばれる脳へ直接、本来なら長い年月をかけて磨かれる筈の技術を叩き込まれるのだ。

そして、それで完成するのが、それに特化した『(艦娘)』だ。

されど、時には、電や長門といった例外が存在する。

人と同じように努力し、力を身に着けていけば、おのずとその力は、海上でも威力を発揮されるようになるのだ。

そして、木曾も同じような存在なら、倒すのは容易ではない。

「電ちゃんならどうにかなるんじゃないの?」

「そう簡単に言わないで下さいよ。私の牙突は一撃必殺。だけど当たらなければ意味はないのです。しかも木曾さんの剣術は未知数が多いのです」

「確かに・・・・」

蒼龍の言葉に、電はそう返す。

「ああ、それと、作戦、立てられたみたいだよ」

飛龍が、そう付け足してきた。

「どういうものなの?」

そして、飛龍は、作戦の内容を伝えた―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そろそろ時間だな」

秋村は、時計を見て、そう呟いた。

「ほら、いくぞ」

秋村は、自分の後ろにいる三人にそう声をかける。

完全無表情の睦月、眼の下に酷い隈がある木曾、そして、首になにやら首輪のような鉄塊を巻かれた陽炎。

秋村は、改めて滑稽だなと思ったようにほくそ笑み、歩き出す。

「お前たちの同類を迎えにな」

そして、秋村は、()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・動いたか」

達也はそう呟き、対物(アンチマテリアル)ライフル『ウルティマラティオ・ヘカートⅢ』のスコープから目を放す。

もともと艦娘を狙撃する為に用意したものだったが、自分をこのように依頼した人物が自分で決着を着けるといってきたから、狙撃をやめて、こうして監視する事だけに集中しているのだ。

だが、奴らが動いたという事は、こちらも動かなければならない。

「報酬を受け取る前に、死なれてはこまるからな」

達也はそう呟くと、電話をかけた(コールをした)




次回『夜中の決戦』


奪わせるな。己の信念を貫くなら。

おたのしみに!

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