艦隊これくしょん その刀は誰が為に   作:幻在

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ついに、心意改装を果たした吹雪の戦いが始まる!!




吹雪 影丸 抜錨

時打が七火と葉緒と戦っている間、吹き飛ばされた吹雪は・・・・・

「・・・・」

自分が手に持った刀を見つめていた。

その手は、まだ祭壇に置かれている刀剣を掴んでいた。

吹雪は、それが直感的に時打の愛刀『影丸』だと見抜いていた。

それを持ちあげ、右手で柄を、左手で鞘を持つ。

「・・・・」

息を飲む吹雪。

これを抜いてしまえば、もう後には戻れないかもしれない。

正直に言って怖い。だけど、引く訳にはいかない。

下手をすれば、この剣に込められた狂気に呑まれてしまうかもしれない。

だけど、だからといって、あの赤子を見捨てる事などできない。

ならばどうすれば良いのか。

これを抜く事。

さすれば、自分の中の何かが変わってしまうかもしれない。

艦としての誇りを捨て、新たに剣士として目覚める。

それが、どうしても怖い。

あの鎮守府に残った、唯一の姉妹艦である、叢雲との関係を断ち切ってしまうかもしれない。

「・・・・・」

吹雪は、眼をつむる。

 

 

だけど、これを持った彼は、己の全てを捨てて、この街に住む人々を守ろうとした。

ならば、自分も、その道を行こう。

 

 

「お願い」

吹雪は、自然とその刀に語り掛けていた。

「大切な人を守る為に、もう、何も失わない為に。力を貸して、影丸」

そして、吹雪は、それを、抜いた。

 

 

 

 

 

その刀身を見た瞬間、胸が焼かれるような感触に見舞われた。

 

叫ぶ間もなくその熱は、体を包んだ。

 

だけど、そんな事で悲鳴を叫んでいる程、自分は、弱くない。

 

―――体現(イメージ)するは、全ての人の命の為に、己の全てを捨てた一人の少年。

 

刀身を、どんどん抜いていく。

 

―――闇に生き、誰かの為に傷付いていった、その少年。

 

その時、服装が変わっている事に気付く。

白かったセーラー服は、黒く、鴉羽(からすば)色に染まり、その上から、黒い、フード付きのロングコートに変わる。

 

 

突如、頭の中に何かが流れ込んでくる。

 

それは、記憶。この剣が蓄積していった、戦いと悲しみと激動の記憶。

 

 

 

 

やがて、青色の炎が収まり、そこにいるのは、膝をついて、抜けきった鴉羽色の刀身を持つ刀を右手を持つ、一人の少女。

その姿は、成長しており、女性としての象徴も、幾分か成長していた。

ただ、その瞳から、涙を流していた。

「・・・・・こんなの、悲しすぎます・・・」

だが、すぐに涙をふき取り、立ち上がる少女。

そして、踵を返し、出入り口に向かって歩き出す。

ふと、気配を感じた。

吹雪は、刀を鞘に戻し、そのまま、何も構えず入り口に向かって歩き出す。

そして、刀の間合い一歩手前で、居合斬りを放つ。

一刀だけでなく、正方形を描くように、入り口を吹き飛ばす。

そのまま外に出る。

そこでは、七火と対峙する時打と、どうやら先ほどの攻撃を避けたのか、神社の階段の下で片膝をついている葉緒の姿があった。

そして今、時打が押されているという事を、感じ取る吹雪。

刀を右手に持ったまま、吹雪は、口を開いた。

「貴方たちに司令官は、殺させません」

影丸の記憶から読み取った、時打の、大切な人の言葉を思い出しながら、言い放つ。

「司令官の、大切な人の想いの為に」

そして、影丸を敵に向ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウオオオオオ!!!」

「ドラァァァアア!!!」

拳と拳がぶつかる。

が、すぐに決着がついた。

「ぐあぁぁあああ!?な、なんだぁぁぁ!?」

いきなり、ぶつかり合ったジョンの右腕から血が噴き出す。

それと同時に骨までも玉砕される。

「っし!」

「おい!?それ人体に向かってやっても良いのか!?」

ガッツポーズを取る響夜に、激しい格闘戦を繰り広げている長門がなんとかと言った感じで叫ぶ。

「いいんだよ死ななきゃ」

「そういう問題じゃ・・・・うお!?」

ウィルソンの蹴りを体を半ば地面に投げ出すようにかわす長門。

そのまま地面に倒れる。

「シャァアア!!」

鋭い雄叫びと共にウィルソンが拳を振り落とす。

「く」

長門はそれを右に転がって回避する。

その途端、コンクリの地面に拳がめり込む。

「な!?」

「そらそらぁ!もっと行くぜぇ!!」

と、縦横無尽にラッシュを繰り出すウィルソン。

それを長門は、その華奢な腕から考えられないような腕力で、繰り出されるラッシュの中にあるウィルソンの両腕を掴む。

「んな!?」

「たとえ、素早くラッシュを繰り出したとしても、結局は二本の腕だ」

そしてそのまま思いっきり頭をさげたかと思うと、もの凄い勢いでのヘッドバッドを食らわせる。

「ぐあぁああ!?」

だが、かなり打たれ強いのか、すぐに態勢を立て直すウィルソン。

しかし、仰け反って上を向いていた視線を前に戻すと、そこには長門の姿が無かった。

「終わりだ」

「!? ぐえ!?」

突然後ろから声が聞こえたかと思うと、絞め落とす様にチョークスリーパーをかける長門。

そのまま一気に絞め落とす。

「ああ!?ウィルソン!」

「余所見してる場合かよ!」

「ぐは!?」

余所見をしていたジョンに、響夜がその腹に拳を叩き込む。

余程重かったのか、すぐにその場に沈んでしまう。

「ちぇ、手応えねえな」

「あるのは怪力だけか」

どこか残念そうにいう響夜と、締めて落ちたウィルソンを丁寧に下ろす長門。

「チッ、使えない奴らが」

「チェストォォォ!!!!」

舌打ちをする沙影に、瑞鶴が右の小太刀を振り下ろす。

それを左の銃剣の刃で受け止める。

そのまま弾こうとした沙影だったが、瑞鶴は、更に左の小太刀を振り上げる。

「な!?」

「陰陽交叉ッ!!」

一刀目の小太刀の上から威力を上乗せするように二刀目の小太刀を叩き着ける陰陽交叉。

それにより、左の銃剣の刃が斬り落とされる。

「バカな・・・ッ!?」

「悪いけど現実よ!」

そこへ止めを刺す様に、鋭い直進蹴りを食らわせる瑞鶴。

「ぐは!?」

そのまま吹っ飛んでいき、山道の入り口の脇にあった立札に激突する。

「一丁上がり」

そう言って、くるくると右手の小太刀をペン回しの要領で回す瑞鶴。

「大丈夫か!?」

そこへ、さっきまで後ろで戦いを見ていた勝義と美織がやってくる。

「なに、こんなもん安いもんよ!」

「歯応え無かったわ。これなら、天龍と戦った方が幾分かましよ」

なんでもないようにそう言う響夜と瑞鶴。

「さあ、いきましょう。ていと・・・天野さんが先に行ってます」

「ああ、そうだな」

長門の言葉に同意する勝義。

「急ぎましょう!」

美織がそう言い、全員が一斉に走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「吹雪・・・・」

時打がそう漏らした。

何故なら、目の前の少女、見覚えのある姿から幾分か成長して女性らしくなっている上に服装が白から黒が主となる服装に変わっているが、それは確かに、艦娘、特型駆逐艦一番艦の吹雪だ。

そして、その右手には、かつて時打と共に、幾たびの修羅場を潜り抜けてきた愛刀『影丸』の姿。

「・・・・」

「司令官、この男は私がやります。なので司令官はその何やら鞭の様な剣を持った男をお願いします」

唖然としている時打を他所に、吹雪は、葉緒を見据える。

その勇ましいさまに、時打は、ため息を一つはいた。

「吹雪」

そして、彼は彼女の名前を呼んだ。

吹雪は何かと思い、視線を時打へ向ける。

そして、時打は七火の方へ向きながら、ドスの効いた声で吹雪に言う。

「これが終わったら、覚悟しておけよ?」

「・・・・・・・はい」

その怒気に、怯えた様な声で答える吹雪。

「そういう訳で一つ目の罰だ」

「は、はい!」

慌てる様に返事をする吹雪。

「その男を、殺さずに仕留めろ。良いな?」

時打は、吹雪に向かって、そう言う。

吹雪は、少しぼーっとしていたが、すぐに表情を引き締め、目一杯の声で応える。

「はい!」

その様子に、不思議と笑みを零す時打。

「殺さず?」

そこへ、若干、怒りを含めた声を発する男、葉緒が割り込んでくる。

「そんなふざけた心情で俺を倒そうなぞ、バカのする事だ。世の中、勝ち負けが決まるのは生か死。弱肉強食だ。そんな世の中で敵を生かすなどとほざくなど言語道断だ」

そして、葉緒は吹雪を睨みつけ、言い放つ。

「そんな奴は生かしておけない。そんな志で戦いに身を投じるなら、俺が殺す」

そんな風に言う葉緒だったが、吹雪は、冷ややかな眼でそんな葉緒を見つめている。

「・・・・なんだその眼は?」

「弱肉強食ですか。確かに、その通りでしょう」

吹雪は、葉緒に向かってそう答える。

そして、ゆっくりと階段をおりていく。

「ある人は言いました。剣は凶器、剣術は殺人術。どんな綺麗事を並べても、それが真実。『人を活かす剣』と唱え続ける人間は、自分の手を汚した事が無いから言える、甘っちょろい戯言、と」

でも、と吹雪は続ける。

「今は、剣の時代じゃなし、血を流す争いの必要としない時代でもあるんです。それに、私は、その甘っちょろい戯言の方が好きです。今は、本当は刀なんて必要のない時代の筈なんです。それでも」

階段を降り切った吹雪は、右手の影丸を葉緒に向ける。

「貴方の様な、弱者を見下し、戦いを(たの)しみ、そして殺していく様な輩がこの世にはびこっているから、私たち剣士は剣を取るしかないんです。弱き人々を、守る為に」

「何の意味がある?」

ビュン、と長刀を薙ぐ葉緒。

「弱者を守って何の意味がある?弱者など、所詮何も出来ない虫けら同然。仲間がいなければ、何も出来ない虫けらを守って何の意味がある」

冷酷な正論を叩き着ける葉緒。

「一人じゃなにも出来ないからこそ、繋がりが出来て、強くなれるんです」

だが、それでも屈せずに吹雪は言う。

「この刀の持ち主は一人だった。だからこそ、道を踏み外しかけたし何度も殺されそうになった。だけど、誰かがそんな人に道を教え、支えるだけで、その人は強くなれた。支えがあるから、いくらでも前に進めるんです」

「ふん。所詮はそいつも弱者の一人に過ぎなかったって事だ。一人じゃ何もできない、抱え込む事のできない弱者だ」

「弱者弱者って・・・貴方はどうなんですか?あの人だって、仲間でしょう?」

「アイツはオマケだ。山道に入り口に置いてきた奴らもな。勝手についてきただけだ」

葉緒は、そう吐き捨てた。

「そうですか。どうやら、これ以上話し合うのは無理そうですね」

残念です、そう言った吹雪は、影丸を両手で持つ。

「そうだな。これ以上の口論は時間の無駄だ」

葉緒もそう言い、長刀を構える。

「セアァアア!!」

その瞬間、時打の叫び声が聞こえた。

そこでは、七火の薄刃乃太刀を掻い潜りながら、なんとか踏み込もうとしている時打の姿があった。

だが、吹雪と葉緒はそんな戦いを繰り広げている二人をちらりとも見ず、睨み合う。

そして、同時に走り出す。

「ハァァア!!!」

「ッ!!」

吹雪が剣を上段に構え、葉緒が右から薙ぎ払う様に構える。

そして、刃と刃が衝突する。

 

 

 

 

 

「うおりや!」

「ッ!!」

七火が乃太刀をうねらせ、時打へ向かわせる。

それは地面を跳ね返り、まるで針を縫う用に何度も地面に向かって弾き飛ばされ、そのまま時打に突っ込んでいく。

時打はそれを、深鳳の切っ先を突きつける事で防ごうとする。

だが、一瞬、七火の口角が吊り上がったかと思うと、薄刃乃太刀の刃が深鳳の切っ先にあたる。

その瞬間、薄刃乃太刀が左へ、逸れるように曲がる。

「!?」

更に、その刃は弧を描く様に曲がり、時打の首を貫かんと迫る。

時打は、それを上体を大きく右に体を傾ける事によって、薄皮一枚、斬られる程度で避ける。

だが、それでも追撃をかけるように、たった今時打を通り過ぎた薄刃乃太刀の切っ先が急激にその軌道を変えて、時打の後頭部へ迫る。

「貰ったァ!!」

七火がそう叫ぶ。

だが、時打は、普通の剣客ならありえない行動に出る。

なんと、鞘をベルトから外し、その先で薄刃乃太刀を弾いたのだ。

「な!?」

鞘を率いた二段抜刀術を使う時打だからこそ、考えつく防御法だ。

そのまま右へ体を投げ出し、転がって、乃太刀から逃れる。

「さっきのは仕留めたと思ったんだがな」

本心では驚きながらも、七火は笑いながらそう言う。

一方の時打は、その顔に笑みなど作らずに、頬に冷や汗を流していた。

正直に言って、あの様に不規則な動きをする、鞭の様にしなる剣と戦うのは初めてであり、かなり攻略するのが難しい。

その不規則な軌道を読むのは、かなり難しい。視界の外から攻撃される上に、視界から外れた瞬間、また別の軌道を描いて、襲い掛かってくる。

時打は、左手に持つ鞘を見る。

「・・・・一か八か・・・・」

時打は、そう呟くと、真っ直ぐに七火を見据え、そして、しゃがんだ状態から、一気にトップスピードで走り出す。

「ハッハー!!」

七火は、それを見たかと思うと、その様な笑い声をあげて、薄刃乃太刀を時打に向かって放つ。

それに対して、時打は、乃太刀とぶつかる瞬間に大きく飛び上がる。

「飛天御剣流・・・・」

だが、七火は手首を動かし、乃太刀を時打へと向かわせる。

落下軌道上から刺し貫くつもりなのだ。

「貰ったァ!!」

どう動こうと、目の前から迫る乃太刀の刃からは時打は逃れられない。

たとえ、深鳳で防ごうとしても、その刃は軌道を変えて、確実に決まる。

そして時打は、迫りくる乃太刀の刃を、()()()()()()()

そのまま乃太刀は軌道を変えて、弧を描きながら時打の首を刺し貫かんと迫る。

直撃すると思われたその時だった。

 

 

ガキィ!!

 

 

なんと、反転させていた刀身に()()()()()()()鞘で、薄刃乃太刀を防いだのだ。さらに、乃太刀の切っ先は鞘にめり込み、さらにその部分には中に刀身が収まっている為に貫通する事も無い。

つまりは、どんなに手首を動かしても、一度抜かない限り、刃を時打に当てる事など不可能。

しなる為に死角から()()()()という優位を持つ代わりに、『薙ぐ』という要素を殺した。それが、この殺人奇剣『薄刃乃太刀』。

「ナニィ!?」

思わず声をあげる七火。

だが、時打は、そのまま落下していき、七火の脳天に深鳳を叩き着ける。

更に、それだけでは終わらず、納めかけていた鞘を、思いっきり鍔に叩き着け、その衝撃を利用して七火に二撃目を喰らわせる!!

 

「三頭龍・共鳴!!」

 

時打は倒れ行く七火の体を踏み台に飛び上がる。

そして、その背後に着地する。

ドシャ、と七火が時打の背後で倒れる。

時打は、鞘に納めた深鳳を左手に持つ。

だが。

「ぐ、うう・・・・この野郎・・・・」

なんと、七火はふらつきながらも立ち上がる。

「よくもやってくれたなぁ・・・この代償は、高くつくぞ!!」

そう叫んだかと思うと、すばやく薄刃乃太刀を時打に向かって放つ。

そのまま真っ直ぐに飛んでいく乃太刀だが、それは、後ろを向く時打の右をすり抜ける。

それを見た七火は、ニヤリと笑い、手首を返した。

すると乃太刀は、軌道を変えて弧を描き、時打に向かって再度突っ込む。

本当なら、ここで回避行動を起こすのが普通だろう。だが、時打は、ただ突っ立ってるだけで動こうとしない。

「諦めたか!ならそのまま死ねェ!!」

そして、乃太刀は時打を貫く。――――――筈だった。

「は?」

いきなり足元がぐらつく。

その為に態勢を崩し、同時に、手を動かしてしまった為に、乃太刀の軌道が逸れる。

そして乃太刀はあらぬ方向へ飛んでいく。

「な、なんだ・・・・!?」

慌てて乃太刀を引き戻し、再度、乃太刀を放つ。

だが、結果は同じで、急に足元がぐらつき、態勢を崩して乃太刀の軌道が逸れる。

「あ、頭叩かれて、脳がイカれたのか・・・?」

「それもあるが、違う」

時打が振り返った。

「ど、どういう意味だ!?」

「三頭龍・共鳴。本来、三頭龍っていう技は、連続で三撃、相手にお見舞いする技だ。この共鳴は、一撃目に、龍槌閃の派生、刃を叩き着けるのではなく、上空から刃を突き刺す『惨』の要領を使い、柄から相手の脳天に衝撃を加え、更に、柄ですぐさま刀を納刀した時の衝撃を使って二撃目を入れる。本当なら、ここで相手は脳震盪で倒れるんだが、そうならない相手には、この技の三撃目の効能が後になって効いてくる」

時打は、深鳳の柄に触れ、刀身を半ば引き抜く。

「その三撃目には、飛天御剣流、龍鳴閃という技が使われる。簡単に言って、神速の抜刀術の逆回し、いわば神速の納刀術だ。そして、その納刀した際に起こる鍔鳴りは、まるで龍の(いななき)きの如き超音波が発生し、お前の耳の奥にある、平衡感覚を司る三半規管を麻痺させたんだ。お前が薄刃乃太刀を上手く扱えないのは、頭叩かれた事で軽い脳震盪状態から、龍鳴閃の効力が倍増させられたんだ。だから、今お前がまともに立っていられるのはある意味奇跡なんだよ」

と、時打は、深鳳を鞘に戻し、左半身になって腰を落とす。

抜刀術の構えだ。

「ふ・・ざけん・・・なよ・・・」

七火から、なにやら震えた声が聞こえた。

「ふざけんなよテメェぇぇぇええええ!!!」

そこから絶叫して薄刃乃太刀を振るう。

どうやら、頭を打ってまともな考えが出来なくなっているようだ。

だが、もはやその軌道は滅茶苦茶といっても良い。

だからこそ、時打は、一撃で仕留める事が出来た。

大きく、前に飛び、そのまま抜刀して、七火の首筋を叩く!

「ぐは!?」

その一撃を喰らった七火は、ゆっくりと、倒れ、気絶した。

時打は、しゃがんでいた態勢から立ち上がり、刀を反転させて、逆手に持った状態で鞘に刀を収めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

高く、高く飛び上がる吹雪。

そのまま、飛び上がる勢いが衰え、完全に止まったかと思うと、重力が彼女を地面へ引っ張り、落下していく。

その勢いを利用し、吹雪は、影丸を上段に構える。

「龍槌閃ッ!!」

「ぬぅんッ!!」

物凄い勢いで振り下ろされる刃に対し、葉緒は、地面を抉りながら長刀を上えと斬りあげる。

そのまま衝突する。

「ぐ」

落下のスピードに加え、振り下ろすタイミングが完璧(ジャスト)だった為、威力は吹雪の方が上だ。

一方で、葉緒は地面を長刀で抉る事でデコピンの要領で迎え撃ったが、それでも威力は吹雪が上。だが、体重の問題で、一瞬の加速が終わってしまい、弾かれる吹雪。

だが、空中で回転し、地面に華麗に着地。

「オオオ!!」

「く!」

だが、追撃と言わんばかりに葉緒が剣を上段から振り上げる。

そのまま上から、さまざまな方向から剣が振り下ろされる。

吹雪は、それを素早く後退しながら反らす事で直撃を回避し続ける。

だが、黙って攻撃を受け続けている吹雪ではない。

真上、唐竹から振り下ろされる一刀。

それを見切った吹雪は、左足を軸にして回転。

上段からの振り下ろしを回避する。

そのまま一回転して、返し技(カウンター)で遠心力をたっぷりとつけた技、龍巻閃で葉緒を背後から攻撃する。

これに咄嗟には反応できない葉緒。

その一撃は吸い込まれるように葉緒の背中に直撃する。そして、吹っ飛ぶ。

(決まった・・・ッ!!)

記憶から読み取り、急速にそれを体へと技術を染み込ませる心意改装と思想改装。

本来なら長い年月を費やして習得する筈のものを、こうして前借りみたいな感じで習得したものだが、決まると気持ち良いものがある。

その感覚に若干の恐怖を覚えながらも、吹雪は、吹っ飛んでいった葉緒を警戒する。

一瞬だが、葉緒が体を前に投げ出し、威力を軽減していたようにも見えた。

案の定、葉緒は立ち上がった。

「何故だ」

怒気を孕んだ声で、葉緒は吹雪に問う。

「何故、峰打ちでやった?」

その表情は変わっていないが、眼から感じ取れる怒気は、尋常ではない。

「言ったでしょう。殺さずに貴方を倒すと」

「ふざけるな」

「!?」

気付くと、吹雪の懐に、葉緒が潜り込んでいた。

その長刀を持っている右手は、左腰の方にあった。

「しまっ・・・」

「秘剣・燕返しッ!!」

恐ろしいスピードで飛来してくる鞘無しの居合。

それが吹雪の胸に直撃する。

大きく、後ろへ飛んでいく吹雪。

だが、血はその胸から吹き出さなかった。

「・・・・チッ」

「くう・・・!」

ギリギリの所で鍔元(刀身の根元)で防いだのだ。

吹っ飛ばされた先でなんとか踏みとどまり、警戒する様に構える吹雪。

「貴様は俺を侮辱したいのか?世の中、弱肉強食だ。勝った者こそ正義。負けた者は悪。それはこの世の常識だろう」

「・・・・・侮辱って、貴方の言うセリフには矛盾を感じますね」

「何?」

「弱肉強食。確かにそうです。弱い者から社会という土台から蹴落とされる。強い者がより高い高みへと昇っていける。それはこの世の理です。でも・・・」

吹雪は、葉緒に影丸を突きつける。

「そんなものは、繋がりがあれば怖くないッ!!」

吹雪は葉緒に向かって言い放つ。

「共に支え合える仲間がいるから、守りたい誰かがいるから、負けたくないライバルがいるから、弱い人間はいくらでも強い人間に立ち向かっていける!繋がりの無い世界なんてものは、進展する技術の停滞しか生まない。争いがあるから負の感情が生まれるかもしれない。でも、だからこそ、負けたくないから新しい事に挑戦したくなる!超えようと思うから沢山の事に挑戦したいと思う!『繋がり』があるから、人は、前に進めるッ!!」

そして吹雪は、影丸を両手で持ち、正眼の構えとなり、葉緒を睨み付ける。

「それが分からない貴方に、私は負けない!!」

「ほざけ」

だが葉緒は冷酷な態度をやめない。

「滑稽な演説ご苦労。だが、所詮そんなものは無駄にしかならない。所詮、数の力など、圧倒的力の前には無意味なのだ。どんな策を練っても、結局は力の前にひれ伏す。世の中、力だ。権力国力経済力、その他全ての『力』が全ての有無を決めるのだ。どれだけ綺麗事を並べようとも、それが真実だ!」

「そんなもの全て、人がいなければ成しえません!!!」

地面を蹴り、神速で駆け抜ける吹雪。

「権力は、誰かに支持してもらわなくちゃ成しえない。国力は国そのものが無くちゃ成しえない。経済力なんて働く人たちがいるから成り立っているんです!この剣術(ちから)だって!誰かが作ったものを使わなくちゃ、やる事なんてできない!沢山の人々が協力しなくちゃ、それは決して、絶対に成しえないんですッ!!!!!!!!!!!!」

有らん限りの声で叫んだ吹雪。

「ほざけ!結局は誰かの協力を請わなければならないというなら、そいつは弱者の中の弱者!虫けらの中の虫けらだ!一人で強くならなければ意味が無いのだ!そうしなければ生きていけないのだ!例え繋がりを持っていたとしても、そいつが無能なら、ソイツの為にやってきた努力は全て水泡に帰す!だから、無能な奴は邪魔だ!うるさい虫けらだ!道端に落ちている石ころだ!そんな奴の為に、時間など割いていられるか!この世は、弱肉強食だッ!!!!!!!!!!!!!!」

それでも、自分の言葉を曲げない葉緒。

その構えはすでに秘剣の構えに入っている。

「ハァァァァアッッ!!!!!!!!!!!!」

「オォォォォオッッ!!!!!!!!!!!!」

そして、互いに大技を放つ。

 

我流飛天御剣流 九頭龍閃『結』

 

秘剣・燕返し

 

葉緒の放った、秘剣・燕返しは、これまでの最高速度を出した。

肉眼では捉える事のできない程のスピードで、吹雪の首を刈り取らんばかりに、その刃を振るう。

刀身のリーチもさることながら、速度でさえも吹雪よりも早い。

確実に先に決まるのは葉緒。

葉緒自身もそう確信していた。

だが、次の瞬間、葉緒の振るっていた長刀が()()()()()()()()()

「!?」

その違和感に、眼を見開く葉緒。

見ると、なんと、長刀がその中間あたりで、へし折れていた。

 

 

九頭龍閃『結』

 

それは、九つの斬撃を九つの方向から繰り出す九頭龍閃を、一点に集中させるのが、この『結』だ。

九頭龍閃の乱れ打ちで放つ『乱』とは違い、通常の九頭龍閃と同じこの『結』は、以前、時打が大和の砲弾を弾く時に使ったアレは、『結』では無く、通常のだ。

理由としては、ただ単に九つの斬撃をその砲弾に喰らわせて弾けばよかっただけなのだ。

だが、この『結』は、本当に一点に攻撃を集中させ、威力を収束させる為に、武器や防具を破壊するのに有効なのだ。

そして、今、吹雪は、()()()()()つもりでこの『結』を放ったのだ。

 

 

だからこそ、葉緒の長刀は()()()

そして、秘剣・燕返しは、不発に終わる。

「ハァァア!!!」

九頭龍閃の放った直後、吹雪は、深く身を沈めた。

そして、大きく踏み込み、飛び上がる。

「龍翔閃ッッッ!!!!!」

「グハァア!?」

そして、渾身の一撃が葉緒の鳩尾に直撃した。

 

 




次回、吹雪編最終回

『我鎮守府ヘ帰還ス』

お楽しみに!

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