艦隊これくしょん その刀は誰が為に   作:幻在

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取り戻せ 儚き命の為に

「♪~」

「うるさいぞ七火」

「良いじゃねえかよこれぐらい」

鼻歌を歌っていた『千間(せんけん) 七火(しちか)』を咎める『破道(はどう) 葉緒(はお)』。

二人は今、山道を歩いていた。

七火の持つ刀の先には一つの籠。その中には、不機嫌そうな顔の赤子が一人。

優香だ。

「それにしても、まだつかんのかね~」

「黙っていろ。これでもお前の趣味に付き合ってやってるんだ。無駄な事いうな」

「へいへい」

本来、彼らにはもう三人仲間がいるのだが、この山道で邪魔が入らないように入り口に置いてきたのだ。

たとえ、誰かが来ても、巨漢の褐色の二人、ジョンとウィルソンの持つガトリングガンの餌食になるか、銃剣使いの沙影の技でやられるかのどちらかだろう。

「お、そろそろだな」

ふと、門が見え、そこを潜り抜ける。

「ん?」

そこには、一人の少女がいた。

僅かながらに汗を流している所を見ると、どうやら急いでここまで来たらしい。

「誰だあの嬢ちゃんは」

「さあな。ここは本来封鎖されてるから、参拝客ではない様だ。それに・・・・敵意が剥き出しだ」

長刀の柄に手をかける葉緒。

「・・・その子を離して下さい。それだけしてくれれば刀なりなんなりあげます」

吹雪は、葉緒が放った殺気に怖気づく事なく、睨み返す。

「悪いがそうはいかねえんだなこれ。刀を手に入れるまで返す訳にはいかないんだよ」

そう言う七火。

「どけ、ガキ。じゃないと斬る」

更に重く、低い声でそう威圧する葉緒。

本来だったら、ここで退いているだろう。

だが、命の危険に晒される瞬間なんていくらでもあった。

だって自分は、心を持つ兵器(ソルジャー)『艦娘』なのだから。

「どきません」

きっぱりと、吹雪は、そう言い放つ。

「そうか」

一方で葉緒はそれを聞くと、長刀を鞘から抜き放つ。

吹雪は、右腕をまげ、肘裏に左手を置いて、構える。

「なら死ね」

「艤装展開ッ!!!」

恐ろしいスピードで迫り、横に一閃、薙ぎ払う葉緒。

だが。

「む」

「ぐう!?」

鋭い金属音と共に、思いっきり後ろに弾き飛ばされる吹雪。

だが、その姿に、違和感があった。

さっきまで背負っていなかった鉄の塊。

右手には二本の銃口の様なものと、砲台のようなグリップ。

そして、両太腿には、まるで魚雷発射管の様なものが取り付けられていた。

「なんだありゃぁ!?」

「・・・艦娘か」

驚く七火を他所に、葉緒は冷静に予測する。

「優香ちゃんは返してもらいます」

そして吹雪は、真っ直ぐに主砲を七火と葉緒に向ける。

「そうかい」

すると七火はいきなり右手に持っていた籠をぶらさげら刀を、いきなり鞘を飛ばす様に外す。

「!?」

それに目を見開く吹雪。

だが、籠は七火の近くにあった木の枝にぶら下がり、鞘は真っ直ぐに刀に戻る。

「・・・・」

「面白い芸当だろ?」

ニヤニヤと笑う七火。

それに怒りで顔を歪める吹雪。そこには焦りの感情も滲み出ていた。

「いくぞ。死んでも後悔するなよ」

葉緒が、そう警告し、吹雪は、身構えた。

一方で七火は刀を二本抜いて二刀流になる。

「そんじゃ、行くでェ!!!」

そして、ぶつかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タイヤがこすれる音が響き、リムジンが道路を全力疾走する。

「うわぁあ!?」

その上で、小太刀を突き刺してなんとか振り下ろされないようにしている瑞鶴の姿があった。

そんな瑞鶴を片手で引き寄せる時打。

「落ちんなよ!このスピードで落ちたら轢死ものだ!」

「分かってるわよそんな事!」

何故こんな事になっているのかというと、余りにも時間が惜しかったから時打がリムジンの上に飛び乗ったのが始まりでそれに続くように瑞鶴が飛びのったのだ。

そして響夜と長門と勝義と美織はリムジンの中に乗り込み、そして待った無しで全速力で美濃柱山にむかっているのだ。

そのリムジンの中では、物凄い揺れの中で頭を抱えている勝義と美織の姿があった。

その様子に、何も言わない長門と響夜。

「うわぁぁああ!?」

「だからしっかり掴まってろ!」

外ではあまりの揺れになんども落ちそうになっている瑞鶴と時打の叫び声が聞こえる。

「あともう少しで美濃柱山です」

そこで、運転手の男が彼らに向かって、到着が近い事を知らせる。

「そうか・・・」

勝義は、短くそう答えた。

「・・・・また、子供の手を借りなければならないのか・・・」

悔しそうに、そう言う勝義。

そんな勝義に、長門は、口を開いた。

「それは違うと思います」

「なに?」

それに顔をあげる勝義。

美織も、長門に注目する。

「天野さんは、もう貴方たちの知っている様な子供じゃない。今は、沢山の笑顔を守る一介の剣士です。今、彼が、貴方たちの娘さんを助けに行っているように」

長門は、拳を握りしめ、それを見つめる。

「そうだぜおっさん」

その言葉に、響夜も乗る。

「また手を借りないといけないのかというとそうじゃねえ。俺たちは俺たちの意志でアンタらに協力してんだ。今更、関係がどーのこーの言う必要なんてないだろ」

そして、右拳を左掌にぶつける。

「あんたらの娘さんは任せておけ。必ず連れて帰る。もちろん、生きてでな!」

二カッと笑いながら、響夜はそう言う。

それで、しばし茫然としていた勝義と美織だったが、お陰で幾分か緊張が解けたのか、笑みを零す。

「そうだな。任せよう」

「優香をお願いします」

そう、頭をさげる。

そして、タイヤとアスファルトが思いっきり擦れる音が響き、車が止まる。

「つきました!」

「おし!行くぞ長門!」

「ああ!」

短く気合を入れ、バン!と扉を開けて外へと飛び出す響夜と長門。

その上から、時打と瑞鶴も飛び降りてくる。

「うお!?」

「あれは、ガトリングガンか!?」

そこには、派手の倒れているトラックやハチの巣にされている車などがあり、そこには、何人も地面に倒れている剛玄組の組員たちがいた。

「シャァァァアアアア!!!」

「! 避けろ!!」

そして、山道の入り口と思われる場所に、ガトリングガンを持った二人の褐色巨漢の片割れがガトリングガンを時打たちに向かって構える。

それにいち早く気付いた響夜が危険をしらせ、それぞれが倒れているトラックに身を隠す。

その瞬間、叫び声と同時に、連続で続く轟音と共にガトリングガンを発射。

「くっそ!あんなもの持たれちゃ近付く事なんて出来ねえぞ!」

「せめて、あれだけでも破壊できれば・・・・」

悪態吐く響夜の言葉に、瑞鶴がバックから取り出した小太刀二本を腰の後ろのベルトに差しながらそう言う。

「ならば私が・・・」

「待て長門。艤装なんてもの使ったらお前が艦娘だって事がバレるぞ」

「しかし、このままでは・・・・」

長門が飛び出そうとするも、時打が止める。

「俺と瑞鶴があいつらを撹乱する。その間にお前らは左右から回って、不意打ちでガトリングガンを二重の極みで壊せ。そこから後は俺が山にいくから、それぞれの得物をやれ。良いな?」

「おうよ!」

「了解!」

「それなら!」

時打の考案した作戦を承諾した三人。

そこで、ガトリングガンがその攻撃をやめる。

「今だ!」

「鬼人化ァ!!」

その途端、瑞鶴の体が一回、ビクンッ!と跳ねたと思った瞬間、体から蒸気を出し始める。

そして目が鮮血の様に赤くなる。

トラックから飛び出す四人。

手筈通り、時打と瑞鶴が真正面から突っ込み、長門と響夜は側面から突撃すべく、左右それぞれへ走り出す。

「ウオオオオオオオオオ!!!!」

「シャアアアアアアアア!!!!」

それを見た巨漢の男二人が今度は同時にガトリングガンを乱射。

「飛天御剣流・龍巣閃ッ!!」

「鶴翼乱舞ッ!!!」

それと同時に時打が抜刀、それと同時に、瑞鶴と時打が高速で剣を振り回し、命中弾を斬り落としていく。

「んな!?」

「バカな!?」

「・・・ッ!?」

引金(トリガー)を引きながら、巨漢の男二人―――よくみると同じ顔である―――信じられないとでもいう様な表情と共に、声を挙げ、黒マントの男が眼を見開く。

「ぐ!?」

「流石に、はげし・・・ッ!!」

だが、流石にガトリングガンの連射性に苦戦しているのか、弾がばらけるギリギリの所で止まってしまう時打と瑞鶴。

「ウオオオオオオオオ!!!」

「シャアアアアアアア!!!」

それに気付いた巨漢の男二人がさらなる咆哮をあげ、ガトリングガンを瑞鶴と時打に集中させる。

時打と瑞鶴の体力が無くなるのが先か、それともガトリングガンの弾が切れるのが先か。

そこでふと、マントの男、沙影が視線を右に動かした。

そこには、まさに側面から突っ込んでくる響夜の姿があった。

「チッ!あの二人は陽動か!」

敵の意図を見抜いた沙影はすぐさまマントの下から銃剣を抜き出し、響夜に向ける。だが。

「こっちにもいるぞ!」

「!?」

左から声が聞こえ、慌てて振り向くと、そこに長門の姿が。

「なんだと!?」

「ウオオオオオオオオオオ!!!!」

「シャアアアアアアアアア!!!!」

だが、巨漢の男、ジョンとウィルソンは左右から近付いてくる二人に気付かず、むしろ燃えている状態で目の前の二人をハチの巣にしようとしていた。

「チィ!!」

舌打ちをして両手の銃剣を二人に向ける沙影。

そして、発砲。

銃弾は真っ直ぐに響夜と長門の眉間を貫かんと飛んでいく。

だが、その軌道を見切った二人は顔を傾けるだけで回避。

「!?」

「射撃の正確さが仇になったな!」

眼を見開く沙影。そんな沙影に長門がその様に言う。

射撃の正確な相手の弾道というのは、急所を狙うという癖がある者が多い。

だから、眉間を狙ってくると踏んだ二人は、顔を傾けたのだ。

「「オオオ!!!」」

そして、どういう訳か、右に立つジョンはガトリングガンを右に、左に立つウィルソンは左に構えている為に、どちらも本体を狙うのは簡単だった。

だから、二重の極みが入った。

そしてガトリングガンは大きな音をたてて爆散。

「ぬあ!?」

「ぬお!?」

一発だけでガトリングガンが粉砕されたのをみて驚くジョンとウィルソン。

「提督さん!!」

銃撃の嵐が止み、それと同時に瑞鶴が叫んだかと思うと時打は全速力で走り出す。

「行かせん!!」

その時打に立ちはだかる様に銃剣の銃口を向ける沙影。

だが、時打が跳躍した瞬間、それまで時打がいた場所から小太刀が飛来してきた。

「!?」

思わず、それを銃剣で弾く沙影。

その弾かれた小太刀はくるくると回り、一人の少女の手元に戻る。

「御庭番式小太刀二刀流『陰陽撥止』」

瑞鶴が、そう沙影を見据えながらそう言う。

沙影は、ギリッ、と奥歯をかみしめ、忌々し気に瑞鶴を睨む。

「オオオ!!」

「お前たちの相手は私たちだ!」

「シャアア!!」

「行かせねえ!!」

一方で、沙影を飛び越えて山道に入っていった時打をおいかけようとするジョンとウィルソンだったが、響夜と長門が立ちはだかり、それを防ぐ。

「どけお前ら!」

「どけと言われてどく俺たちじゃねえ!!」

そして殴り合いの喧嘩に発展する。

「ヤアア!!」

「シィィ!!」

そして、瑞鶴と沙影も、その刀剣をぶつける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁあ!?」

大きく弾き飛ばされる吹雪。

そして、石塀に叩き着けられる。

「ぐう・・・」

「これが艦娘か」

「なんか拍子抜けだなぁ」

つまらなそうなものを見る様な眼で吹雪を見る葉緒に、とんとんと右手の刀で肩を叩く七火。

「こっのぉ・・・」

無理に立ち上がる吹雪。

「そうこなくっちゃなぁ!!」

それを見てニヤリと笑いを浮かべる七火。そして走り出す。

「く!」

吹雪は、それを見て左の魚雷発射管から魚雷を一本抜き放ち、それをダーツの要領で向かってくる七火に向かって投げる。

「小賢しい!!」

だが、それを左の刀で弾かれてしまう。

だが、その直後に吹雪は主砲を発砲。

「ぬお!?」

高速で飛来する砲弾をなんとか左に転がる事で回避する七火。

そこへ新たな魚雷を投擲する吹雪。

「ぬおわ!?」

それに驚いて更に転がる七火。

「こなくそ!」

「!?」

そこで、まさかの自分の左手の刀を投げる七火。

回転のかかったその刀は、あまるで巨大な手裏剣の様に迫ってくる。

「うわぁ!?」

それを左へ大きく飛び退く事で回避する吹雪。

「背中ががら空きだ」

「!?」

そこへ、背後から長刀を構えていた葉緒が立っていた。

「しまっ・・・」

「ぬぅん!!」

「きゃあ!?」

そして、大きく神社の方へ吹っ飛ばされる!!

何度もバウンドしながら石作の地面を転がっていく吹雪。

「葉緒、もう少し手加減したらどうなんだ?あれでも女の子だぞ?」

「関係ない。俺にとって歯向かう者全てが敵だ」

「本当に容赦ないなお前」

葉緒の言葉に引く七火。

「ぐ、うう・・・」

顔を擦りむいたのか、火傷したように痛い。

「まあいい。とっとと片付けるぞ」

すると、葉緒が真っ直ぐにこちらに歩いてくる。

一方で吹雪はなんとか立ち上がり、主砲を葉緒に向け、発砲。

だが、無駄な体力など使うつもりなんてないとでもいう様に最小限な動きで回避する葉緒。

「巌流と呼ばれる剣術がある」

ふと、何かを語り出す葉緒。

「それは、古文にも記されていない幻の流派。かつて、宮本武蔵のライバルといわれた佐々木小次郎がこの剣術を扱っていたとされる」

そして、吹雪をその長刀の射程に納めたかと思うと、右手に持った長刀を、左の腰へ持っていき、わずかに腰を落とす。

「当時佐々木小次郎が得意とした『燕返し』と呼ばれる技が存在する。それは、剣の軌道を急激に変えると言う荒業の事を指すのだが、その先に、鞘を率いない居合が存在する」

それが、何かの技の前兆だと予期した吹雪は、慌てて身を引く。

「それが――――()()・燕返しだ」

 

ビュオッ!!!

 

その瞬間、物凄い風切り音と共に、吹雪の主砲が真っ二つに切断される。

それと同時に、吹雪の右脇腹から左肩にかけて、真っ赤な液体が、噴き出す。

「あ・・・・」

短く声を漏らす吹雪。

だが、後ろに倒れかけていた筈の吹雪の右足が動いて、その場に踏みとどまる。

「む!」

「ハァァア!!!」

その状態で艤装を分離(パージ)し、右足で大きく前に出る推進力を作り出し、左足で飛び上がる。

主砲で威力を削いだ上に、後ろに下がる事で直撃を回避したのだ。

更に葉緒の居合は、時打の扱う飛天御剣流とは違い、二段抜刀術が存在しない。

ならば、居合発動後には、決定的な隙が出来る。

そして、踏み込んでしまえば、長刀の間合いじゃ踏み込まれたときには対処できない。

そのまま右肘を曲げ、前に突き出し、肘鉄を食らわせようとする。

(行ける!!)

そして、勝てる。

だが、そう思った瞬間が命取りだった。

突如、腹部に酷く重い衝撃が走った。

「が・・・!?」

「俺がそれに対処法を考えていないとでも思ったか」

蹴りだ。ものすごく鋭い蹴りだ。

左足がピンと伸ばされ、真っ直ぐに吹雪に垂直蹴りを食らわせていた。

そして、吹っ飛ぶ。

「吹雪ィ!!!」

その時、誰かが吹雪を呼ぶ声が聞こえ、遠ざかる意識の中で、門の前から物凄い勢いで走ってくる、良く見知った黒髪の男の姿を見た。

(し・・れい・・・か・・・・)

「ガァ!?」

一時消えかけていた意識が、神社の扉に叩き着けられ、突き破った事で、無理矢理引き戻される。

そのままゴロゴロと転がっていき、神社の奥にあった何かの祭壇にぶつかる。

「う・・・うう・・・」

体中が痛む中で、時打の姿を見た吹雪は、無理にでも立ち上がろうとする。

だが、思う様に力が入らず、なかなか立ち上がれない。

そこで、吹雪は片手を祭壇の上につき、それを支えにして立ち上がろうとした。

そして、ある程度立ち上がり、もっと高い所に手をつこうとして手を伸ばしたところで、何か、丸みをおびた手すりの様なものを掴む。

だが、その形と感触から、それが手すりではないとすぐに分かる吹雪。

では何か。

顔を持ち上げ、その正体を見た。

「かた・・・な・・・・?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おおおお!!」

「うお!?まだいたのか!?」

吹雪が吹き飛ばされたのを見た時打の頭には何かがカーッと昇る気がした。

その瞬間、加速して、時打は長刀を持つ男に突撃する。

そして突撃しながら回転。

「ぬ!?」

 

―――飛天御剣流・龍巻閃『旋』

 

この技は、息吹の元となった技。

突撃の威力に加え、回転による遠心力を加算させるこの『旋』は、本来返し技として機能する龍巻閃の中で、唯一、先手を打つ事を可能とする。

逆刃刀の刃が時計回りに回転する為に、葉緒の左斜め下から斬りあげられる。

それを、葉緒は長刀で防ぐ。

そのまますれ違っていくように時打は葉緒の後ろへ飛んでいく。

葉緒がすぐに背後を見た時、そこには、態勢を立て直すでもなく、真っ直ぐに先ほど吹き飛ばした吹雪の元へと向かっていた。

「チィ!」

すぐに時打の意図を呼んだ葉緒はすぐさま追いかけようとする。

だが、そんな時打の前にどこからともなく刀が飛来する。

「!?」

それを時打は一瞬、目を見開くも、すぐさま逆刃刀で弾き飛ばす。

「ちょ~っと待ちな」

「・・・・」

刀が飛来してきた方向を見ると、そこには刀を体中に装備した男が一人。

「敵を目の前にして逃げるなんて、軍じゃ死罰ものだぜ?」

「生憎と俺は陸軍じゃないし、自衛隊でもない。そんなものが適用されるとは思わないがな」

「そうかい」

そこで七火は更に二本、刀を抜く。

すると、鞘の部分がパキンと半分割れ、刃が残った方を連結させる。

「・・・連刃刀か」

連刃刀。

二つの刀を連結させて、二重の刃を作り出し、そこで斬られた部分は、傷口の縫合が上手くいかず、そこから肉が腐っていき、死に至らしめるといったものだ。

これは、『るろうに剣心』の主人公、緋村剣心の逆刃刀を作った人物、新井赤空が初期に作った殺人剣だ。

「お、ご名答。ちょいとダチが作った代物でな。俺、刀が好きなんだわ」

「ふざけろ。お前がいう刀が好きっていうのは、()()()()()()()()()()()()()()()って意味だろ」

早く吹雪の安否を確認しなければならない。

だが、この二人はどちらもかなりの使い手だ。

流石に、背を向けてはいられない。

ふと、左の視界で葉緒が動いた。

「!」

すぐさま反応し、防ぐ。

「そこをどけ。余り時間をかけている暇などない」

「どくか!」

鍔迫り合いに入るも、時打は自ら引いて時計回りに回転。

そこからバランスを崩した葉緒に龍巻閃を撃ち込もうとする。

だが、葉緒はすぐに態勢をたてなおし、それをしゃがんで回避。

そしてお返しと言わんばかりに足を斬らんとばかりに長刀を横薙ぎに払う。

それを時打は高く飛んで回避する。

「!?」

「たけぇ!?」

その高さに驚く葉緒と七火。

「龍槌閃!!」

そして、その落下の一撃を葉緒に撃ち下ろす!!

葉緒は、それをバックステップで回避する。

時打は葉緒を追撃しようとする。

だが、背後から七火が連刃刀を持って、突き刺してこようとする。

「こっちもいるぜ!」

だが、時打はすぐさま振り向いて、連刃刀の二つの刃の間に逆刃刀を滑りこませ、鍔で止める。

「!?」

「俺を突き殺したければ、電の牙突を超える技を繰り出すんだな」

そして、そのまま逆刃刀を回転させて連刃刀の刃をどちらもへし折る。

立て続けに、下に滑り込み、そのまま刃を跳ね上げるように、七火を打ち上げる。

 

飛天御剣流 龍翔閃。

 

「ぐおあ!?」

鳩尾に直撃する。

そのまま打ち上げられ、石作の地面に叩き着けられる。

「ほう・・・」

ふと、葉緒が感嘆の声を漏らした。

「今のは龍翔閃か。つまり、お前が飛天童子か」

「・・・・」

時打は、振り向いて葉緒を見据える。

「だが、なんだその刀は。あの男にでもなったつもりか?」

あの男とは、当然、あの男の事だろう。

「別に、もう人は殺したくないだけさ」

「ふん。あの飛天童子が聞いてあきれる。もう人を殺さなくなったのなら、それは弱者にも等しい」

「お前の持論はどうだっていい。さっさとそこをどけ」

時打は歩き出す。

そのまま正眼の構えに入る。

「ふん。俺にとっては、お前の様な腑抜けた奴が生きているというだけで虫唾が走る。だから、ここで殺す」

両方、退く気など無いようだ。

時打は歩くのをやめず、葉緒はいつでも迎え撃てるように構える。

だが。

「おー、いてぇいてぇ」

ふと背後からの声で止まる時打。

振り向くと、そこには、何事も無かったかのように起き上がっている七火の姿があった。

「まさかアンタが飛天童子だとはな。恐れ入ったぜ」

(何故だ。鳩尾に入った筈だ・・・・)

時打は、何故、七火が立ち上がれたのかを理解していないようだった。

だが、それはすぐに分かった。

「そうなると、こっちは秘密兵器を出さなきゃな」

と、七火は持っていた刀と、更には上半身に来ていた服まで脱ぎ捨てる。

すると、腹には何やら銀色のサラシの様なものが巻かれていた。

「・・・薄刃乃太刀」

「やっぱ知ってたみたいだな。その通り!これは薄刃乃太刀だ!」

薄刃乃太刀。

刀としての強度を保ったまま薄く鍛える事で、数メートルの長さと刀としてはありえない程にしなる刀身を実現させた、赤空の後期型殺人奇剣。

七火は、薄刃乃太刀を、腹からシュルシュルと抜き取ると、すぐさまそれを鞭の様に放つ。

そして、その蛇の様にしなるその刃を、時打の背後から突き刺さんと伸びる。

時打は、背後からくるそれを大きな動きで回避。

それをみて、ニヤリと笑う七火。

「ほう、紙一重でかわせば、手首の返しで自由自在に方向転換できるこの刀の餌食になると知ってて、わざと大きく避けたな?」

「刃としての強度を保ったまま、薄く鍛える事で、しなやかさを追求し、更には刃の先を僅かに重くする事で、持ち手の手首の動きで軌道を自由自在に変える事の出来る。この刀は、限りなくそれに近い」

時打は、その様に指摘する。

「ご名答だ。なんだ?よく知ってるなお前。もしかして、これの作り主を知ってんのか?」

「知ってるもなにも・・・・まさか・・・・」

この男、まさか『るろうに剣心』を知らないのか?

もしそうだとしたら、こちらの剣術の特性を知らない可能性がある。

ならば、向こうの剣の特性を知っているこちらが有利か?

時打は、その様に思案する。

「おい葉緒!お前はさっさと刀を取りに行ってくれないか!薄刃乃太刀は鞭と同じで集団戦には向いてないからよ!」

「チッ、さっさと片付けろ」

七火の言葉に、舌打ちをして吐き捨てる葉緒。

「!? 待て!」

「待ちな!」

「!?」

すぐさま追いかけようとした時打だったが、七火が放った薄刃乃太刀が右から襲い掛かり、思わずさがって回避してしまう。

「お前の相手は俺だ!」

「ッ・・・」

歯噛みする時打。

一方で葉緒は、どんどん神社に向かって歩いていく。

だが。

「む!?」

突如、突き破られボロボロとなった神社の扉から、物凄い剣気が発せられた。

何か嫌なものを感じ取った葉緒は大きく飛び退いた。その瞬間、扉の残骸が爆散する!

「!?」

「なんだァ!?」

その轟音に驚く、時打と七火も驚く。

葉緒は、無言で長刀を構える。

土埃が舞う、神社の入り口から、人影が現れる。

その人影に、その場にいる全員が注目する。

その姿は、黒いコートを来て、中には、黒を主としたセーラー服。

その左腰には、黒鞘が差さっており、右手には、黒鉄の刃を持つ、刀。

 

 

それこそが、時打のかつての愛刀『影丸』だった。

 

 

そして、それを持つのは、黒髪を、頭の後ろで結っている、一人の少女。

もとの姿からは、いくらか成長しており、体の各部分も成長していた。

しかしそれは、時打が、良く見知った人物だった。

「吹雪・・・・?」

それに応えるように、少女、吹雪は、口を開いた。

「貴方たちに、司令官は殺させません。司令官の、大切な人の想いの為に」

 

そう言い、吹雪は、影丸を敵に向けた。




次回『吹雪 影丸 抜錨』

未来の申し子の為に

お楽しみに!

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