赤城「これで南雲機動部隊の面々が揃いました」
いやぁ、ここまでくるのに苦労したなぁ・・・・
加賀「確かに、ボーキサイトが不足していて、中々空母の建造に乗り出せなかったものね」
だいたいはお前ら空母のせいだがな!
飛龍「でも、どの出撃にも空母を出す提督もどうかと思いますよ?」
うぐ・・・・・
蒼龍「聞いた所によると、戦艦の建造にも着手しているだとか」
ほら、だって、お前らの戦闘も楽になるじゃん?
金剛「Ho Shit!!すでに金剛型だけじゃなく、扶桑型や伊勢型、それに陸奥と大和もいるのに、まだ戦艦が欲しいんデスカ!!」
だって長門まだ来てないし。
山城「なんでそんなにサラッと言えるんですか・・・」
ついでにいって潜水艦が来ないからイライラしてんだこっちは!
一同『知るか!』
なんだと!?資源集めんのがとんでもなく楽になるんだぞ!?空母が大好きなボーキ食えなくなるぞ!
空母『うぐ・・・』
まあこんな雑談は置いておいて、吹雪編第二話、どうぞ!
マルヨンマルマル――――午前四時早朝。
艦娘は、まだ熟睡している筈なのに、一室だけ、ごそごそと音がする。
「これで、よし」
小声で、同室の艦娘を起こさないようにそう言う。
その姿は、半ズボンに白いTシャツの上にパーカーを着ている、という姿だった。
その背中に、小さな鞄を背負う。
「・・・・」
ふと、彼女は、隣のベッドに寝る叢雲を見る。
もうすっかり熟睡しており、目覚める様子は無い。
その笑みからみて、余程楽しい夢を見ているようだ。
「んん~、どうだぁ、私の魚雷はぁ・・・」
「・・・・ごめんね」
彼女は、叢雲にそう一言呟き、部屋を出ていく。
夜の暗い廊下、何かと警戒して、大きな音を立てない様に、歩いていく。
そして外に出て、以前見てしまった瑞鶴が使っていた山の向こうにある街への抜け道。
その入り口であるマンホールの蓋を開け、中に入り、蓋を閉める。
そして、地下水道をしばらく歩いた所で、梯子が見え、そこを登っていき、上の蓋を開ける。
そこは江戸か明治の境かと思ったが、路地から出て、さらに感嘆する。
「うわあ・・・・」
初めて見る街の風景に感嘆する吹雪。
まだ朝の四時という事もあって、人はいないが、それでも惹かれる所があった。
だが、そんなに街を見ている暇は無い。
「そうだ、駅」
吹雪は、駅に向かう。
迷わずに進めたのは、鎮守府にある電子機器室にあるパソコンで出した地図を頭の中に叩き込んでいたのが幸いしたようだ。
そして、駅つき、彼女は一度振り返る。
「・・・・行ってきます」
そう一言呟き、彼女は、電車に乗り込んだ。
「・・・・・」
「えーっと、その、はい、確かに口にはしましたよ、はい、でもそれは神通だけで・・・あはは」
「もう一つのっけろ」
「はい」
「ひぃぃぃ!!?」
執務室にて、川内は、どこから持ってきたのか、石抱と呼ばれる、日本の江戸時代より続く拷問器具の餌食にあっていた。
大きなギザギザのついた木の板に人間を正座で座らせ、その足の上に四角く切った石を乗せ、苦しめるものだ。
「ごめんなさいもう言いふらしたりしませんだから許してなんでもしますから奉仕とかしますからおねがいします」
「そこまで呪詛の様に言うなや・・・・もういいぞ」
「あーらよっと」
川内の膝の上に乗っかっていた石の束を、響夜が二重の極みで破壊する。
「ううう・・・・」
未だに足が痛いのか、地面にへたり込む川内。
一方で、この執務室に来ているのは、響夜、長門、瑞鶴、電、翔鶴、大淀の七人。
「なんて事だよ・・・・まさか吹雪が・・・」
時打は、そう言う。
事の発端は、叢雲が時打を訪ねた事にあった。
吹雪が朝っぱらからどこにもいないと言い、鎮守府中を探してもどこにもいなかった。
一日待てば戻ってくるだろうと思い、明日になってみても、吹雪は部屋に戻らなかった。
これはただ事じゃないと、本格的に探してみた所、吹雪の自室からある程度の服とリュックが無くなっている事に気付き、吹雪が自主的に出て行ったと推測。
そこで可能性として川内をとらえて、こうして罰という名の拷問をしたのだ。
「その兆候はあったんじゃないのか?」
長門が、鋭い眼光で時打を睨む。
「ああ」
時打は、机の隅に置いていた一枚の書類を引き出す。
「この間の身体検査の結果。ここを見て見ろ」
「えっと・・・・心意に淀みあり?改装に武器が必要?なにそれ」
瑞鶴が、その書類を見て、そう言う。
「なんでも思想改装にはいろいろあるみたいでな。これに書いてある通り、なにかしらの武器が必要らしいんだ。お前の場合は、変異系といって、もともと持っていたものがその願望に見合ったものに変化するっていう感じだ」
時打はそう説明する。
「そうなると、吹雪の奴が金山市に行ったのは、そこにあるお前の刀を取りに行ったんじゃねえのか?」
響夜がそう予測する。
「・・・・」
「な、なんだよ?」
そんな響夜を、時打は睨む。
「お前・・・俺の刀の事言ったっけ?」
「なぁに、お前の事は調べさせてもらったぜ。飛天童子といえば金山市、爺さんから聞いた飛天童子の話では、お前街を出る時に刀を持たずに出てったらしいな」
「そこまで・・・・はあ、そうだよ」
響夜のいきさつに、観念した様に、時打は言い出す。
「確かに金山市には俺の現役時代の愛刀『影丸』がある。だけど、どうして吹雪はそれを欲しがったりなんてしたんだ・・」
考え込む時打。
「確かに・・・・」
一緒に考え込む翔鶴。
「・・・・私の所為なのか・・・?」
ふと、長門がそう呟く。
「私が・・・・吹雪に負い目を感じさせていたのか・・・だから、吹雪は・・・」
「長門」
声を震わせる長門に、時打が咎めるように声をかける。
「お前の行動は間違っていない。仲間を守るために身を挺する事は、間違ってはいないんだ。ただ、お前は傷付き過ぎたんだ。そこに悪いも良いも無い。勝手に自己嫌悪するのは良いが、今はこれからどうすかを考えるんだ」
「そう・・・・だな・・・ああ、すまない。取り乱したりして」
時打の言葉を聞いて、沈んでいた長門はもとの活気を取り戻す。
「さて、これからの事だが、もうある程度は決めている」
時打は、執務机から立ち上がる。
「吹雪を連れ戻しに行く。もう二日も経っている筈だから、すでにアイツは金山市についてるかもしれない。だから、響夜、瑞鶴、長門に俺の四人で金山市に行く。電には悪いがここの主力の一人だから残って貰う。しばらく開けるから、ここの指揮は大淀に任せる。なるべく
「分かりました」
時打の言葉にうなずく大淀。
「それから、鎮守府へ敵が攻撃してきたら戦闘面での事は大和に譲渡、大淀は戦況を伝える事に専念しろ」
時打は、そう言い、改めて一同を見渡す。
「行こう。手遅れになる前に」
「ここが、金山市・・・」
吹雪は、金山市の駅の前で立ち尽くしていた。
高いビルが並び、街には娯楽という娯楽を持つ施設が立ち並び、派手な服を着る人たちが多い。まさにリッチと言っても過言は無いその街の風景に、思わず絶句してしまう。
「ここに、司令官の刀が・・・」
「邪魔だ」
「あ!?すみません!」
後ろからその様に言われ、思わず避けて謝ってしまう吹雪。
こんな風に人が入り乱れている所は、吹雪にとっては慣れないものだ。
「どきなさい」
「すみません」
「オラどけ」
「ひぃ」
「目障りだ」
「ごめんなさいごめんなさい」
初対面なのに容赦無く浴びせられる罵声に縮こまりながらも受け流し、道の隅に行く事が出来た吹雪。
「はあ・・・・怖い」
なんというか、随分と殺伐とした街だ。
金山市は、もともと暗黒都市と呼ばれていた無法地帯。
その風習が残っていても可笑しくは無い、のだが。
ふと、吹雪が人混みを避けながら歩いていた所。
「ん?これは・・・」
ふと本屋にあったある本に目をつける吹雪。
「これは・・・・」
本の題名は『飛天童子』だった。
試しに開いて読んでみると。
「飛天童子、その正体は、まだ年端もいかない少女だという事・・・・少女!?」
その内容に驚く吹雪。
確かに、時打の容姿は美男子のそれであり、髪もかなりサラサラだ。
伸ばせば女性と見間違われてもおかしくは無いだろう。
「当時は、彼女の存在で反乱軍は子供さえも使う非道な集団だと思われていたがそうでは無く、彼女は独自に活動していた事が分かっていた。事実、彼女はたった一人で戦っていた事が判明していた・・・・・一人で・・・?」
吹雪は、さらに読み進める。
「僅かばかりにも反乱軍の人間を殺していた事も、革命の日移行にも分かっており、彼女は決して反乱軍の仲間では無かったという事が分かった。しかし、反乱軍決起の際、彼女は反乱軍の側についていた事が判明していた」
更に、更に読み進める。
「革命の日の三か月前、彼女には、義理の姉と呼べる人物がいたという事も判明。その名前は、『加賀』・・・・て、え・・・・」
思考が止まる。
加賀
もしかしたら別人かもしれない。
名前が同じというだけで、もしかしたら、別人なのかもしれない。
「苗字は無い。ただ分かっている事は、彼女は、とある組織が飛天童子を殺そうとして計画で、その実行中、彼女が飛天童子を庇い、死亡したという事だけ。その墓は金山市の第三墓地にあるとされている。その後の一週間は、飛天童子が活動していない事から、かなりの精神的ダメージがあったという事が分かる・・・・」
ぱたん、と、吹雪はその本を閉じた。
「・・・・・行こうか」
吹雪はそうつぶやき、歩き出す。
こればかりは、本人の口から聞いた方がいいだろう。
金山市には、一つだけ、開発されていない山がある。
その理由としては金山市の自然破壊的な開発に業を煮やした政府が絶対死守的な行為に出てどうにか開発を止める事ができたというのが大きい。
もうすでに夏である上に、ビル群が多いために、こういう都会で多いヒートアイランド現象もある為に、金山市の気温がかなりの高温となっているのだ
なので、吹雪はすっかり汗だくとなっている。
「はあ・・・はあ・・・・きつい・・・・」
途中、自販機で買ったミネラルウォーターを飲み干しながら、そういう吹雪。
そして、目の前にそびえ立つ緑が残る山、『
「ここが・・・・・」
しばし見上げていた吹雪だったが、すぐに意を決した様な表情になり、いざ入ろうとした時。
「ちょっとそこの君」
突然、後ろから声をかけられた。
「そこに入るのはやめておいた方がいいよ」
「・・・・・私ですか?」
振り向くと、そこには、なんだか頼りなさそうな顔立ちをした男性がたっていた。
「そう、君だよ。そこに入るのはやめておいた方がいいよ。なんてたって、ここの辺りで有力な組織が管理してる山だからね。不要に入ると、すぐに捕まって拷問の対象になるよ」
「・・・・」
すらすらと言う彼の言葉に、躊躇いも無い事から、どうにも真実味を感じてしまう吹雪。
吹雪は、そんな彼から視線を外し、山の方を見る。
もとより、刀を一目見ようと思って、黙って鎮守府を出てきた身。
そこで成果なんて無しに帰れる訳が無い。
とにかく、今は引く。
「分かりました」
「分かってくれるとうれしいよ。その様子だと、長旅で疲れてるようだね」
「・・・・」
なんて目ざとい。
確かに吹雪は関東からここまで三時間も乗り換えに乗り換えを繰り返し、時には、新幹線の中でずっと座りぱなしで、遊び道具などを置いてきた事で暇を潰す事も出来ず、疲労が溜まる一方のままここに来たのだ。
「良かったら、僕の家に来ないかい?まあ、僕もこの辺りにある組の一人なんだけどね」
そうおどけるように笑う男性。
「そうだ。まだ名前を言ってなかったね。僕は
「吹雪です。よろしくお願いします」
ぺこりとお辞儀をする吹雪。
「こちらこそよろしく。じゃあ、早速ついてきてくれ」
男性、清松についていく吹雪。
歩いたのは、ほんの少し歩いた程度で、大通りの一つにある大きな賭博場の前に案内された。
「やあ、今帰ったよ」
「おう清松!」
店に入ると、早速、清松に声をかける者が一人。
ここの
「んん?どうしたその女の子は?」
「ああ、山に入ろうとしてたから引き留めてあげたんだ。かなりお疲れの様子だから、ジュースの一つでも出してくれないか?」
「山に・・・いや、後で聞くとしようか。おい嬢ちゃん!こっちに来な。なんか出してやるよ」
「は、はい」
クーラーが効いていて、涼しいのを感じながら、吹雪はカウンター席に座る。
そこへ明るい橙色の液体、オレンジジュースをガラスのコップに入れて出される。
「あ、ありがとうございます」
それを、喉が渇いていたのが一息に飲み干す吹雪。
「ふう・・・ああ、おいし」
「ガハハハ!いい飲みっぷりじゃねえか!ほれ、こいつはサービスだ」
と、出されたのはごく普通のショートケーキだった。
「わあ、ありがとうございます!」
「良いって事よ」
丁度、お腹が空いていたのでこれはありがたい。
手を合わせて行儀良く頂きますと言い、ケーキに齧り付く吹雪。
「なあ清松」
「なんですか、
清松に、巨漢の男、
「あの嬢ちゃん。本当に山に入ろうとしてたんだな?」
「ええ。ずんずんと山に向かって歩いて行ってましたよ。あと一歩でも山に踏み込んでたらどうなっていたか・・・」
「ああ。あの人、あの刀だけは何が何でも守ろうとするからな。誰にも取られたくないんだろうよ。
重信は、そう呟いた。
ふと、オオ!!という歓声が響いた。
「なんだ?」
「どうやら、ルーレットの方で何かあった様ですね」
見るとそこには、沢山の人だかりができていた。
「ん?」
そこへ、吹雪が興味深そうに向かっていってるのが見えた。
「す、すみません・・・・あ」
そこで吹雪が眼にしたもの。
それは、大量のチップを所有している男と、どうやら負けて根こそぎ持っていかれた様子の男がいた。
「くそ、なんで・・・・」
「ハッハッハー!どうやら運は俺に味方してくれたみたいだな!」
「も、もう一回だ!」
「良いだろう!」
と、またゲームを始めようとしている男二人。
その時、吹雪は素早くあたりを見回した。
そして、隣にいた男のポケットに手を突っ込み、すばやくチップを五枚抜き出す。
それに気付かぬ隣の男。どうやら、あまりにもこのゲームが面白いのか、気付いていないようである。
「あ、あの!」
吹雪が声をあげる。
視線が一斉に吹雪に向く。
「私も参加してもよろしいでしょうか?」
会場がどよめく。
「な!?」
「おお!?度胸あるじゃねえか!」
それを遠目から見ていた清松と重信がその様に声を漏らす。
「君は・・・」
「私にもやらせてください。一回だけです」
そう言って、吹雪は、ルーレットテーブル、赤の十九番にその抜き出した五枚のチップを叩き着ける様に置く。
「赤の十九番。これでお願いします」
あまりにも大胆な行為に唖然とする一同。
「ハッハッハ!ディーラー、彼女も参加させてあげたまえ!ちょっとした体験だ!良いだろう!」
「ちょ!?何勝手に・・・」
「お願いします」
大金を持つ派手な服の男の言葉に、反論する絶賛負け続けの男だったが、吹雪がそれに割り込んで更に懇願してきたので、ディーラーは仕方ないといった風に頷いた。
「分かりました、お嬢さん、貴方の参加を受け入れます」
「ありがとうございます」
「では、席にお座りください」
ディーラーにそう言われ、椅子に座る吹雪。
「おー!結構可愛いじゃねえか!」
「頑張れよー!」
周りからの応援。
それに若干のプレッシャーを感じながらも、吹雪は、ルーレットを凝視する。
そして、ディーラーがベルを鳴らし、
「赤だ。赤の二十五番!」
「そうか、じゃあ俺は黒の十三番だ」
と、負け男は残りの掛け金を全て置き、もう片方の男は挑発するかのように半分もその数字に置く。
全員、掛け金が三十六倍になる一目賭けだ。
ディーラーが、全員が賭け金を置いたのを確認し、ルーレットのホイールを回す。そして、金属のボールを、それとは反対方向に投げる。
「かけ金の追加、または変更を」
ディーラーがそう言う。
「このままだ」
「俺もこのままで」
「・・・」
男二人はそう言うも、吹雪だけが何も言わない。
ただただ、回るルーレットを見る。
「お嬢さん、もうよろしいですか?」
「少し待ってください」
吹雪はそう言い、じっとルーレットを凝視する。
「ん?」
ふと、清松は、そんな吹雪の様子に、ある光景をフラッシュバックさせる。
「あの子・・・・・」
清松が、そう呟いた時、吹雪は、極限にまで集中していた。
ボールの周りがだんだんと遅くなり、回転するホイールも遅くなる。
(これは・・・・・!)
吹雪は、ボールがどこに入るのかを演算する。
そして・・・・
「変更します。赤の十九番から、赤の十四番へ」
『!?』
それを聞いた会場の一同がどよめいた。
「分かりました」
だが、ディーラーは同様した様子などなく、吹雪の置いた五枚のチップを、赤の十九番から赤の十四番に動かす。
一定の時間が経過し、ディーラーが、ベッドの終了を宣言する。
そして、ボールが、ポケットに落ちる。
その数字は・・・
「赤の十四番」
「「な!?」」
『オオオオオ!!!!』
まさかの大当たり。
それに驚く男二人を他所に、周りの人間が歓声を上げる。
「すげぇよ嬢ちゃん!」
「まさか当てちまうなんて」
「もの凄い強運の持ち主だなおい!」
「あわわ・・・」
周りからの褒め言葉に困惑してしまう吹雪。
そして、眼の前に、先ほどだしたチップの三十六倍の金額のチップが出される。
「わあ!?」
一方で、負けた二人というと・・・・
「負けた・・・・また負けた・・・」
負け続けていた男は完全に折れていた。
「く、やるな。だが、勝負はこれからだ!」
一方で、派手な男はどうやらまだまだ続けるらしい。
「・・・・あれ、偶然と思うか?」
「いや、必然だ」
重信と清松が、そういう。
吹雪はあの時、ルーレットを見て、
その姿は、間違いなく・・・・
「もしかしたら、時打くんの愛弟子だったりしてね」
「まさかな。あいつは自分の飛天御剣流を誰かに教える事はしねえよ」
重信は、そんな事あるかとでもいう様にそう言う。
「単に似てるってだけだろ?」
「そうだね。そうなのかもしれない」
清松は、そう呟き、ウーロン茶を飲んだ。
その視線の先では、吹雪が目の前の男を圧倒していた。
回転しだしてからの変更で、必ずヒットするという荒業を連続で成功させていた。
「ああ、楽しみました・・・」
「君の様な年の女の子がするような事じゃないと思うんだけどな・・・」
カウンター席で、満足そうな笑みを浮かべる吹雪に、若干引き気味な苦笑いを浮かべる清松。
「しっかし、嬢ちゃん、中々の運の持ち主だな」
「いえ、ただボールとホイールの動きを見て、どこに入るのかを予測しただけですから」
と、重信の褒め言葉に何でもない様に答える吹雪に、顔を引き攣らせる清松と重信。
(この子やっぱり・・・)
清松は、そんな吹雪を見て、かつて
最も、その時はアッサリと返り討ちにあって、命からがら逃げる事ができたが。
「さて・・・・これどうしましょう・・・・」
と、吹雪は、先ほどボコボコにした男から分捕った大きな黒い革のカバンの中に納まっている大量のチップを見る。
「何って、金に戻せばいいだろ?」
「そんな簡単に言わないで下さいよ。これでもし盗まれたりしたら、少なからずショック受けますよ」
「そりゃあこれだけの大金をもってたらな」
重信はそう言い、吹雪に注ぎなおしたオレンジジュースを入れた。
「そういえば一つ聞きたかったんだけど・・・」
「はい、なんでしょう?」
「どうしてこの街に来ようと思ったんだい?」
「え?」
きょとんとする吹雪。
「その恰好からみて、君の街の人間じゃない。それは、ずっとこの街で生活してきた僕だからこそ分かる事だ。君も知ってるだろう。この街は、かつて暗黒都市と呼ばれた元無法地帯。その風習は、今でも残っているんだ。まだ殺伐として空気も残ってるし、極道の組織の間での抗争も終わっちゃいない。そんな危険な所で、どうして君は一人でここに来ようと思ったんだい?」
「・・・・」
黙りこくる吹雪。
その表情には、陰りがあった。
「・・・・私」
だが、何かを決したのか、俯いたまま語り出す。
「実は、ある場所で戦ってた、兵士、ていうのかな。とにかく、そんな事をやってたんです。でも、私が原因でいつも傷付く人がいるんです。私がもっと強かったら、相手の攻撃にいち早く対応できていたら、そんな風に思ってしまうんです」
「だから、力を求めに、あの山の噂を聞いて、ここに来たって事なんだね」
清松が、そう続けた。
「はい」
吹雪は、それを、否定する事なく肯定した。
「馬鹿ですよね。ただの噂にすがるなんて、強くなる確証も無いのに。でも、待っていられなくて、もう、その人が傷付いていくのも見ていられなくて・・・・」
吹雪は、自虐する様に笑う。
「・・・・僕は、君と同じ様な子を見た事あるよ」
「・・・・え?」
いきなり語り出した清松に、困惑する吹雪。
「その子は、ある大切なものを失って、しばらく、動かないでそのままだった事があるんだ。でも、ある日、彼は、何かを思い出した様に、立ち上がって、前を向いて、また歩き始めたんだ。その、失った大切な人の言葉を思い出してね」
「・・・・」
しばし茫然とする吹雪。
清松は、それに構わず語り続ける。
「彼はその人の言葉を信じて、この街を去っていった。まだみぬ笑顔を守りに行くためにね。最近は、連絡すら寄越してくれないけど」
「そう・・・なんですか・・・」
苦笑いを浮かべる清松に、吹雪は、そう答えた。
「ただ、あの山にある刀は本当にやめておいた方が良い。あの刀の持ち主と、あの山を管理してる組織の御頭は、かなり仲が良かったからね。その組織の御頭は、あの刀を何としてでも守り通すつもりでいるから、面談して懇願しても無駄だよ」
「そうですか。はあ・・・みんなに怒られるなぁ・・・」
と、遠い眼をする吹雪。
「まあ、今はパーッと飲もうぜ。お前の勝利祝いだ!」
「あ、はい!ありがとうございます!」
重信のそんな言葉に嬉しそうに乗っかる吹雪。
だが、彼ら、いや、彼女は知らなかった。
「ほう、ここが、あの
自分に恐ろしい試練が待っている事に。
次回『迫りくる刃』