艦隊これくしょん その刀は誰が為に   作:幻在

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我願うは、幸福を守る力

ヒトヒトマルマル――――午前十一時。

 

大本営、長官室。

そこには、執務机に座る豪真、その傍らにボードをかかえている筑摩。

その豪真の正面の椅子に座っているのが瑞鶴。そしてその傍には時打と長門、そして翔鶴。

「ざっと、今、お前が疑問に思っていたあの変身の概要だ」

「そうですか・・・・」

瑞鶴は、納得といった感じでそう呟く。

今回、瑞鶴が心意改装のみならず、思想改装なる変身を果たした事により、今、豪真と時打の間だけで議論とも呼べない議論をしていた。

「そこで、お前には、改装せずに空母としての能力を保持したまま戦うか、それとも、改装をして、近接戦闘特化になって戦うか、お前の意思を聞きたい」

豪真が、そう瑞鶴に問う。

今回、心意改装によって、瑞鶴の一部始終ながらも、怒涛の連続攻撃が得意だという事が分かった。

ただ、問題は、瑞鶴の空母としての能力が失われるか否かにあった。

あの変身で、瑞鶴は空母としての能力が使えるかどうかがわからなかった。

ただ、加賀の詳しい報告では、小太刀の鞘の上に、龍驤や飛鷹型などの陰陽術系の空母が使う様な巻物があったと言われている。

もしかしたら、瑞鶴は、改装しても空母としての能力を失わずに済むかもしれない。

だが、しれない、だ。

そういうのが残る保証など無い。

「・・・」

しばし考える瑞鶴。

「瑞鶴・・・」

「・・・・」

翔鶴が心配そうに声をかける。

時打は、黙って瑞鶴を見つめる。

「・・・・・以前に、翔鶴姉が、誘拐された事がありました」

「ほう・・・・」

ふと、語り出す瑞鶴。

「その時、自分の無力さを思い知りました。私に、陸上で戦う力なんて、そんなに、無いから・・・・」

瑞鶴は、スカートの様な袴の裾を握りしめる。

「あの時もそうだった。接近されて、至近距離で砲撃を喰らった私を、あの人は、空襲から身を挺して守ってくれた。あの時、私が動けていれば・・・・ううん、私が接近さえ許していなければ、あんな事にはならなかった・・・ッ!!」

瑞鶴の声が震える。

それには、確かな悔しさが滲み出ていた。

「だから・・・」

瑞鶴は、いつの間にか流していた涙を拭い、顔をあげ、確かな決意を持った表情で、豪真を向く。

「改装してください。皆を守れる、力を下さい」

瑞鶴は、そう懇願する様に、豪真に言った。

「・・・・それがお前の意思だな?」

「はい」

豪真の問いに、即答で返す瑞鶴。

ふう、と一息吐く豪真。

そして。

「・・・・ついてこい」

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後。

「改装、終了したそうです」

工廠にて、筑摩が妖精の言葉を通訳するように言った。

「どんな姿なんでしょうね・・・」

「さあな。それは俺にも分からない。どんな姿だったんだ?加賀」

「そうね・・・・忍びなれども忍ばないって感じだったかしら?」

「どこの戦隊ものですか?」

翔鶴の疑問に、時打が加賀にふり、それに加賀が答え、その答えに突っ込みをいれる電。

「とにかく、これで白兵戦が可能な奴が長門も入れて三人か・・・」

「これからどんどん増えてきそうで、なんか怖いです・・・・」

「それはその時に考えようぜ」

電の不安な声に、お気楽に答える時打。

「おーい!」

廊下の向こう側から、瑞鶴の声が聞こえてきた。

「あ、瑞鶴・・・あら」

翔鶴がその姿を認めた瞬間、少し戸惑ってしまった。

そこには・・・・

「まんま蒼紫じゃねえかよ!?」

黒い忍び装束だというのは聞いていたが、それがまんま、人誅編の四乃森蒼紫の衣装なのだ。

「えっへへ~。どう?」

と、くるりと回ってみせる瑞鶴。

多少、アレンジが加わってみるも、遠くから見ればどこからどうみても四乃森蒼紫のコスプレだ。

「まあ、良いんじゃないか・・・?」

「え、ええ・・・」

「あはは・・・」

なんとも言えない感想を述べる時打と翔鶴と電。

「あの時は考える余裕は無かったけど・・・・良いんじゃないかしら?」

「あ、加賀さんが珍しく褒めた」

「!?」

加賀の何気ない褒め言葉にニヤリと笑う瑞鶴。

そして加賀は自分の発言に気付いたのか、顔を赤くする。

「あ、あれは、その・・・」

「加賀さんがでーれたでれたー!」

「!? ま、待ちなさい!!」

他人に言いふらそうとする瑞鶴に、その瑞鶴を追いかける加賀。

「あ、行っちゃった・・・」

「すっかり仲が良くなりましたね、あの二人」

その二人の様子に、唖然とする電とくすりと笑う翔鶴。

「そうだな」

それに同情する様に、笑う時打。

 

 

―――その時。

 

 

 

 

 

 

『―――――ヤハギ』

 

 

「!?」

突如脳裏に聞こえてきた声に声に出す事無く驚く時打。

「? どうかしたのです?お兄ちゃん」

そんな時打の様子に気付く電。

「ああ、いや、なんでもない・・・・」

時打は、やるせない表情で答える。

その様に、翔鶴も首を傾げる。

「・・・・なんだったんだ?」

自分の頭を抑えながら、そう呟く時打だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――――ヤハギ、ヤハギ、どこにいるの?ヤハギ』

 

 

 

 

 

 

 

その声は、時打の心に語り掛ける様に、彷徨う。

 

 

 

 

 

 

 




次回 吹雪編

『我欲するは闇夜の力』

ただ、誰かを守りたいだけだった。

お楽しみに!

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