艦隊これくしょん その刀は誰が為に   作:幻在

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瑞鶴、誇りの為に

電、長門、瑞鶴が戦闘を開始して数分。

司令室では、騒然としていた。

「報告します」

久三が声をあげる。

「陸上攻撃部隊、旗艦『金剛』から電信。駆逐艦『電』が単身でレ級に向かい、残った金剛たちは飛行場姫への攻撃へ向かった模様」

「そんな!?駆逐艦一隻じゃいくらなんでも無理がある!」

久三の言葉に、声を挙げる三鷹。

「仕方ないだろう、彼女自身がそう具申してきたんだ」

「だからって!」

久三の冷たい態度に、声をあげる三鷹。

だが・・・

「水上打撃部隊から電信!黒河の長門が単身で戦艦棲姫、南方棲戦鬼と対峙、武蔵と陸奥は足柄と那智の援護に向かった模様!」

亜美がその様に言う。

「ええ!?」

その報告にさらなる驚きを表す三鷹。

「大和型でさえも苦戦する戦艦棲姫に加えて、南方棲戦鬼まで加わってるんじゃ、勝ち目が無いよ!」

「でも、これも彼女自身からの具申よ?それは尊重すべきじゃないの?」

「ッ・・・・」

亜美の何気ない言葉に、歯噛みする三鷹。

これでは、ただでさえ少ない黒河の艦娘の主力ともいうべき二人を失ってしまう。

「空母棲姫を攻撃していた機動部隊から報告。敵に援軍が現れた模様。ヲ級改flagshipが二隻との事です」

そので翔真がさらなる衝撃を叩き着けるように、そう言う。

その場にいる全員が息を飲んだ。

「このままでは、いづれ・・・」

「全滅か・・・」

豪真が、苦い顔でそう言う。

その場に重い空気が漂う。

 

 

 

・・・・一か所を除いて。

 

 

 

「だから、どういう意味だよ蒼龍!?・・・・はあ!?瑞鶴の姿が変わったって?それも、全くしらない・・・え?忍び装束?」

時打が、無線越しになにやら意味の分からない会話をしていた。

「時打、何があった」

「だから・・・・え?あ、はい」

豪真が声をかけた事で気付いたのか、海図から目を放し、ヘッドフォンを外して豪真の方へ向く時打。

「何があったのよ?今、切羽詰まってる状況なのよ?」

亜美がそう言う。

その態度に、少し嫌な顔をする時打だったが、すぐに報告した。

「えー。なんでも、瑞鶴がいきなり炎に包まれて、それがおさまったら、なんだか黒い忍び装束を来て、小太刀を二本、腰に差していたとかなんとか・・・・・」

「心意改装か」

「へ?」

豪真が、時打の報告を聞いてそう呟く。

「心意改装?」

三鷹がそう言う。

それで、何かに気付いたかの様に、その場にいる全員を見渡す。

「ていと・・・・長官、話した方がいいのでは?」

「うむ・・・そうだな」

彼のすぐそばに立っていた筑摩がそう耳打ちすると、豪真は、諦めたかのように語り始める。

「心意改装というのは、艦娘自らの意志で、改装を促す現象の事だ」

その言葉に、全員が驚愕する。

もちろん、翔真も。

「艦娘自らって・・・そんな事、聞いた事がありません!」

亜美がそう声をあげる。

本来、艦娘の改装は、各地方にある本営でのみ可能で、その艦娘の最後の姿、あるいは、そうなる筈だった姿、あるいは、そうなるかもしれない可能性をもとに、実装されるものだ。

そのお陰で、その艦娘の性能は大幅に向上し、深海棲艦との戦いにもかなりの成果が期待できる。

だが、その中で、艦娘自らの意志で、自身の改装を促す事が可能なのだ。

それを、『心意改装』というらしい。

もともと、不確定要素の多い艦娘には、まだまだ未知の要素が沢山あるのだ。

感情の昂りで戦闘能力が向上したり、何故人間の、それも女の子の姿をしているのかという事とか、色々あるのだ。

その中で、最も不可解なのが、この心意改装だ。

本来なら、それなりの資材の元に、姿を変貌させるものだったのだが、この心意改装は全くの別。

自らの意志で、その姿を変化させる。

その引金は、まだ分かっていないが、なんでも、艦娘が、力を欲する時、覚悟を決めた時、そして、絶望的な状況である時、この三つの要素が揃っていなければ、この心意改装は発動しないらしい。

「しかも、心意改装も、一時的なものでもあるのだ」

「つまり、瑞鶴がその姿を維持できるのに限りがあると?」

時打がそう聞く。

「その通りだ。時に、今、黒の忍び装束と言ったか?」

「え、ええ・・・あれ?でもそうなると・・・・」

「ああ、瑞鶴はまだ改。その先に改二、改二甲が存在するが、その姿は、そのどれにも該当しない」

「これも、心意改装の副作用かなんかなんですか?」

神代がそう言う。

だが、豪真を首を横に振った。

「いや、それは思想改装だ」

『思想改装?』

さらなる記憶に無い名称に、混乱する一同。

「思想改装とは、その艦娘が、一番なりたい存在。自身の概念(軍艦)を捨ててでもなりたい存在への強い想いがあって成される改装だ」

「そんなものが・・・」

久三が声を震わせてそう言う。

思想改装。

原理としては心意改装と同じだ。

だが、その内容は全くの別物。

何かに強い憧れを持ち、なお、自分を捨ててでもなりたいその存在になる。その様な心を持って、なおかつ、その意志を妖精にくみ取って貰ってなされる改装。

その願った姿になった艦娘は、本来、その艦種とは全く別の性能を発揮する様になる。

例えば、駆逐艦が、スーパーマンの様な怪力を求めたとする。

自分が艦じゃなくなっても良いから、その力を欲し、それを、改装を任された妖精が感じ取り、勝手に設計図を変更。

そして、それで誕生したのが、スーパーマン並みの怪力をもつ駆逐艦が現れてしまったのだ。

そのお陰で、敵深海棲艦を素手で殴り飛ばすという快挙をなしとげた。という逸話が、実はこの世界には存在する。

だが、それで自分がその軍艦としての信念を捨て、新たな信念をもってこれからの人生を歩んで行かなければならないという現実を突きつけられてしまう事が起きてしまう。

一度改装してしまえば二度ともとに戻る事はできない。

ただ、その艦種としての能力が残ったり、残らなかったりと、そういう度合いは存在するらしく、今の瑞鶴がどれほど、元の自分の力を有しているかは分からないのだ。

「そんなものが・・・・」

「ただ、思想改装を成功させた艦娘は、この関東では初めてだ。下手に言って、艦娘に無理を強いさせたくは無かったから黙っていた」

そういう豪真に、その場の全員が黙る。

だが、その沈黙を破ったのは時打だった。

「今は祈りましょう。自分たちの艦娘が、勝利をつかみ取る事を」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オオオオオオオオオ!!!!!」

雄叫びを挙げて、戦艦棲姫に突っ込む瑞鶴。

その両手には、二本の小太刀。

水面を全力疾走し、戦艦棲姫に突っ込む。

その瞬間、戦艦棲姫が砲撃する。

発射のタイミングをずらしで、副砲も加えた間髪入れずに連続で砲撃してくる。

その砲弾を、聴覚で飛来を予測。

そのまま右へ左へジグザグに走行。

狙いをつけられないようにするためだ。

「くぅぅ!!」

巻き起こる水柱に顔をしかめながらも、瑞鶴は避け続ける。

その時、砲弾中に、()()()()()()()()()()に気付く瑞鶴。

「! 三式弾!?」

直感的にそう予測した瑞鶴は、すぐさま行動に移る。

右手の剣を前に、その柄頭に左手の剣の切っ先を向け、そのまま左手の剣で右手の剣で弾き飛ばすッ!!!

 

 

御庭番式小太刀二刀流『陰陽撥止(おんみょうはっし)

 

 

弾かれた小太刀が、砲弾の中の一つに突き刺さる。

その途端、閃光をまき散らしながら爆発!!

「く!」

光に目を細めるも、なんとか舞い戻ってくる小太刀を右手で掴む瑞鶴。

「おおお!!」

まだ砲撃が続く。

その中を、掻い潜る瑞鶴。

そして、戦艦棲姫に近付く瑞鶴。

その途端、戦艦棲姫の剛腕が動く。

左腕が振り上げられ、それを横に薙ぐ。

そこに、瑞鶴がいる。

完全に直撃コースだ。

そして、それが瑞鶴に直撃した。その瞬間、瑞鶴の姿が描き消えた。

「!?」

それに目を見開き、驚く戦艦棲姫。

残像だ。

振り切った左腕の方向から、瑞鶴が現れる。

そのまま反時計回りに回転。

そこから、右手の小太刀で、超高速の三連撃を繰り出す。

 

回転剣舞だ。

 

「ッ!?」

それを上体を反らす事で、なんとか左脇腹を掠める。

「まだまだァ!!!」

瑞鶴がそう叫ぶと、戦艦棲姫の周りを、残像を描きながら回転する。

「!?」

 

流水の動き

 

動きの緩急をつけて、相手に残像を見せる歩法だ。

その動きで、戦艦棲姫を撹乱する。

そして、両手の小太刀で戦艦棲姫を攻撃する。

剣舞ともいわれるそれは、祭りなどでやる儀式剣舞とは違い、実践で使われる実践剣舞。

「オオオ!!」

四方八方から、艤装の剛腕に守られている戦艦棲姫を徐々に追い詰めていく。

だが、突如、戦艦棲姫が両腕を振り回す!

「あ!?」

つい決定打を与える為に近付き過ぎていたのが仇となったのか、その剛腕の餌食になる瑞鶴。

「が!?」

「瑞鶴!」

加賀が思わず叫ぶ。

だが、空中で態勢を立て直した瑞鶴が、水面に上手く着地。だが、膝をつく。

「ぐう・・・」

その様子ににやりと笑う戦艦棲姫。

「ぐ・・・加賀さん!」

突然、瑞鶴が加賀に向かって叫ぶ。

「今のうちに、飛行場姫を叩いてください!」

「!? 何言ってるの!?一人だけで、戦艦棲姫相手に勝てると思ってるの!?」

「はい!」

まさかの肯定。

それに思わず表情を固まらせる加賀。

「絶対に勝ちます!だから、加賀さんは、()()()()()()は、飛行場姫を攻撃してください!お願いします!」

そして、瑞鶴が駆け出す。

「暁の水平線に、勝利をッ!!」

瑞鶴は、そう言い、戦艦棲姫に突っ込む。

「く・・・・全艦、発艦準備!」

「瑞鶴、轟沈(しず)まないでよ!」

「お願い、必ず、生きて・・・!」

加賀が蒼龍と龍鳳にそう言い、二人は悔しそうに顔を歪めながらも、弓を、飛行場姫の方へ向ける。

「攻撃隊、発艦ッ!!!」

 

 

場面は、瑞鶴へ。

「オオオオオ!!!」

両手の小太刀を逆手に持つ。

「御庭番式小太刀二刀流奥義・・・・ッ!!」

何かの危険を感じ取った戦艦棲姫は剛腕を自分の前で交差させ、防御の姿勢に入る。

「回転剣舞・六連ッ!!!!」

六連撃の斬撃が、三連ずつ交差しながら戦艦棲姫の両腕に叩き込まれる。

その剛腕から黒い液体が噴き出す。

「ぎぃ・・!!」

艤装が、声を漏らす。

(だめだッ!まだ足りない!)

何が足りない?

剛腕が瑞鶴を襲う。

それを、なんとか両手の小太刀で左へ反らす。

だが、ただ掠っただけで吹っ飛ばされてしまう。

 

―――力が足りない。

 

なんとか踏みとどまった瑞鶴はまた飛行場姫へ駆け出す。

そして、撹乱する様に、流水の動きを発動する。

だが、戦艦棲姫はそれを見切ったかのように、残像の中にいて、見つかるはずの無い瑞鶴の位置へ剛腕を振るう。

「な!?」

それに反応出来ず、小太刀を交差させる事で、防ぐ。

「う、わぁぁああ!?」

重い衝撃と共に、大きく後ろへ吹っ飛ばされる。

 

―――速さが足りない。

 

防御などもってのほか。この戦艦棲姫相手に、瑞鶴如きの防御力で、あの剛腕を防ぐ事などできない。

 

 

 

 

 

 

 

――――ソレガドウシタ?

 

 

 

 

 

「アアアアアァァァアアアアァァァアァアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!」

絶叫。その直後、瑞鶴の体に変化が訪れる。

力が漲みなぎってくる。

まるで、『鬼』になったかの様だ。

瑞鶴の両手が閃く。

戦艦棲姫の四方八方から、斬撃の雨が降り注ぐ。

その重さは、先ほどの回転剣舞・六連を凌いでいる。

「!?」

「アァァァアァァアアアアア!!!!!!!!!!」

そして、戦艦棲姫は見た。

瑞鶴の黄色だった眼が、自分たち深海棲艦の様に、血の様な鮮血の色になって輝いていた。

 

鬼人化

 

のちに、そう呼ばれるこの身体強化(ブースト)は、防御の一切を捨てて攻撃に転じる諸刃の剣。

体の血流を、心臓の動きを、自らの意志で加速させてドーピングする事によって、自身の身体能力を大幅に向上させるのだ。

だが、その副作用として、血管にはかなり高い圧力がかかり、使う時間が長ければ長い程、自分の体を傷付ける。

眼が赤いのは、その血が眼にも集中しているからである。

まさに、諸刃の剣として相応しい、奥の手である。

「ごふ!?」

血を吐き出す瑞鶴。

とうとう、血管が破裂し、それが瑞鶴の口へ逆流してきたのだ。

すでに、鬼人化を発動して

だが、それでは止まらない。

もはや、後先考えている暇など無い。

眼から血が流れる。

血管が破裂する。

骨が悲鳴を上げる。

内臓が傷付く。

口の中が鉄の味に染まる。

だけど、自分の後ろには、今、必死にこの作戦を成功させようとしている、大切な人たちがいる。

だから、今更この痛みで、根を挙げてなどいられない。

だからッ!!

 

 

 

小太刀二刀流・鶴翼乱舞ッ!!!

 

 

 

四方八方からの攻撃をやめて、真正面からガードを崩しにかかる瑞鶴。

「アアアアアァアァァァァァァァアアァアアアアアアアアァァアアアッッ!!!!!!!!!!!!!!!!」

縦横無尽。

とまる事なきその、鶴翼の乱舞は、徐々に、戦艦棲姫の両腕を削っていく。

「これでぇぇぇぇぇえぇぇぇええどうだあぁぁぁぁぁああぁぁぁああぁあああああ!!!!」

再び絶叫。

その瞬間、艤装の剛腕が吹き飛ぶ!!

「!?」

「終わりだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁあああああああ!!!!!」

そして、両手の小太刀を、逆手に持つ。

「御庭番式ィ小太刀二刀流ゥ奥義ィィ・・・・!!!!」

そして、恐ろしい速さで回転する瑞鶴。

「回転剣舞・六連―――――――――――――――!!!!!!」

六撃全てが戦艦棲姫の本体に叩き込まれる。

その瞬間、瑞鶴の両腕が限界を超えた。

「あ・・・」

戦艦棲姫をすり抜け、その背後で水面に倒れ伏す瑞鶴。

その腕は、真っ赤に染まっていた。

「ぐぅ・・・うぁああ・・・」

痛みに悶え苦しむ瑞鶴。

だが、まだ敵が沈んだかどうかを確認していない。

なんとか、後ろを見る瑞鶴。

そこには、水面に倒れ伏し、沈んで行っている戦艦棲姫の姿があった。

「・・・・おわ・・・った・・・?」

掠れた声で、そう呟く瑞鶴。

そのまま茫然とする瑞鶴。

だが。

 

 

ドオォォォォォン!!!

 

 

 

「きゃぁぁああ!?」

いきなり、瑞鶴に何かが直撃する。

 

魚雷だ。

 

「なんで・・・・!?」

魚雷が飛来した方向を見ると、そこには、敵の異形の黒い艦載機。

それも、数百機もいた。

「・・・・・嘘」

そして、瑞鶴の視線の先にある水平線に・・・・空母を主とした編成の艦隊が眼に映った。

その方角は、マーシャン諸島の南東。

完全に、こことは違う場所から来た航空部隊だ。

空母ヲ級改flagshipが二隻、ヌ級elite一隻、随伴艦の軽巡一隻に駆逐二隻といった編成だ。

「あ・・・く!!」

瑞鶴は急いで立ち上がろうとする。

だが、すでに鬼人化の反動でまともに体が動かない上に、小太刀を振るう為の両腕も死んでいる。

しかし、このままでは、後ろで必死に飛行場姫を攻撃している加賀たちに危害が及ぶ。

なんとかしなければ、なんとか・・・・なんとか・・・!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突如、上空から降り注いだ弾丸の雨が、敵艦載機を撃墜する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・え?」

それに茫然とする瑞鶴。

思わず空を見上げる瑞鶴。

太陽の光に顔をしかめるも、確かに、その光の中にある、十個の黒い斑点が見えた。

それは、徐々に大きさを増していき、そして、その姿を確認できるようになった。

「あれは・・・・!!!」

それは、上空から物凄い勢いで急降下してくる。

そして、敵の艦載機たちを、怒涛の勢いで落としていく。

敵の航空部隊の旗艦であろう、空母ヲ級改flagshipが眼を見開く。

数百機に対してたったの十機。

その十機が、()()()()()()()()()()()、敵の異形の艦載機たちを落としていく。

その姿を、瑞鶴は知っている。

黒い塗装。そこに描かれている白い日の丸。

烈風を超える性能。

それは、ああ、それは間違いなく・・・・

突如、無線に通信が入る。

そして、そこから、とても見知った声が聞こえた。

『お待たせ、瑞鶴』

「翔鶴姉・・・・!!!」

 




次回『逆転の鍵、黒風、白狼の初陣』

その強さ、恐れ戦け!

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