戦艦棲姫、南方棲戦鬼の砲撃が長門を襲う。
だが、長門の波盾によって全て防がれる。
「く・・・・響夜から聞いてはいたが、確かにそこまで連発できそうにないッ!」
攻撃が激しすぎて、かつ下がりながら撃っているので中々接近できない長門。
「艤装を外したのはまずかったかな?」
だが、その顔には笑みが浮かんだままだった。
「さて、少し無茶をするか」
長門はそう呟くと、突然、敵二隻を周回していた所を、まるで神風をするかの様に突撃を開始する。
「「!?」」
一瞬、驚いた二隻だったが、すぐに落ち着きを取り戻すとすぐさま砲撃を再開する。
長門の周りに、いくつもの水柱があがる。
「ふ、その程度か!?」
だが、長門に当たる事は無い。
水柱の合間に見える敵の主砲、副砲の向きから、着弾場所を予測。
そこから、どのように回避するべきかを導き出し、あとはその方向へ避けるだけ。
そして、長門と二隻の距離は超至近距離へ。
戦艦棲姫が、迎え撃つ様に、艤装にある剛腕、その右腕を振り上げる。
長門も、右拳を引き絞る。
「アアア!!」
「オオオ!!」
雄叫びと共に、二人の拳が激突。
外見だけの話なら、戦艦棲姫の剛腕が、長門の華奢な腕を弾くか折れるかのどちらかの運命を辿っただろう。
だが、長門は、艦娘として、その体からありえない程の膂力を有している。
さらに、響夜が、漫画から現実へと編み出し、それを長門が命懸けで習得した一撃必倒の必殺技―――
―――破壊の極意『二重の極み』が重なる。
「ぎゃぁぁああ!?」
戦艦棲姫、ではなくその艤装が悲鳴をあげる。
その右腕は、肘の辺りまでにまるで破裂したかのように血を吹き出していた。
「!?」
「余所見していていいのか?」
「ッ!?」
戦艦棲姫が艤装の方を思わず振り向き、その後に長門の声が聞こえ、振り返った途端、長門の左拳が炸裂する。
戦艦棲姫はそのまま吹っ飛ぶ。
だが、その顔は殴られた衝撃で歪んだだけにとどまり、先ほどのル級のようにはならない。
その理由は、長門は右手の二重の極みしか習得していないから。左では二重の極みは使えないからだ。
だが、これで、一時的にだが、南方棲戦鬼の方へ集中できる。
「!?」
南方棲戦鬼の顔が驚愕に染まる。
「喰らえェ!!」
二重の極みが南方棲戦鬼の胸に直撃する。
口から血を吹き出し、水面に倒れ伏す。
南方棲戦鬼は、耐久は高いが、実は装甲はかなりの紙。
なので、比較的倒しやすいのだ。
「アアア!!」
「ッ!」
その光景を見た戦艦棲姫が怒りに歪んだ顔で両肩の主砲を放つ。
だが、長門は体を背中から海へ投げ出す事で回避。
そして水面に向かって二重の極み。
「!?」
一瞬の目くらまし。
その間に態勢を立て直す。
「アアア!!!」
「オオオ!!!」
またもや双方が同時に突撃を開始。
長門が先に右拳を放つ。
だが、戦艦棲姫はそれを迎撃するのではなく、本体自らが回避。
「!?」
「アアア!!」
艤装の方が叫んだかと思うと、その残った左の剛腕が、長門を右へ吹っ飛ばす。
「ぐぅ!!」
その痛みに顔を歪ませるも、すぐに態勢を立て直す長門。
すぐに戦艦棲姫は砲撃を再開。
それを巡行しながら回避。
そして、また接近をする長門。
「まずはあの艤装を破壊するッ!!」
そう標的を絞り込んだ長門は、まずは邪魔なあの異形のバケモノの破壊に専念する。
その為に・・・
身構える戦艦棲姫。
「オオオ!!」
拳を振り上げる長門。
だが、それよりも、艤装の左腕が動く。
「ッ!?」
それに目を見開く長門。
その拳が、長門を捉える。
だが、長門は、いきなり拳のくる方向へ進行方向を変える。
「!?」
そして、左手の手袋を破きながらも、回避しきる長門。
そしてついに、艤装の懐に潜り込んだ!
「オオオッ!!」
拳が、戦艦棲姫の艤装に直撃する。
「ギャァァアア!!?」
艤装が悲鳴を上げる。だが、完全破壊には至らない。
「もう一度だ」
だが、再び腕を引き戻した長門が、今度は大きく踏み込んで、その拳を、先ほど拳を叩き込んだ場所に叩き込む。
「ギャァァァアア!?」
その威力で、艤装が完全に粉砕される。
「!?」
「終わりだ」
そして、長門が、もう一度、拳を振り上げる。
その拳を戦艦棲姫に向かって振り下ろす。
「――――終ワラナイ」
「!?」
突如、戦艦棲姫の呟いた言葉に動揺する長門。
だが、拳は止まらず、戦艦棲姫へ。
だが、その右手首を、戦艦棲姫は左手で掴む。
「な!?」
「オオオ!!」
そのまま背負い投げを繰り出す。
(コイツ!?武術を!?)
だが、叩き着けられる前に腕を引き抜き、遠くに投げられるにとどまる長門。
すぐに立ち上がって、戦艦棲姫の方を向いた瞬間、いきなし視界が急変。
そして、左頬に鋭い痛みが走る。
「ガ!?」
そのまま、また水面に叩き着けられる。
(今、殴られたのか!?)
まさか、本体もかなりの怪力だと誰が思ったか。
ただでさえ、自分の艤装に守られている筈の存在が、ここまで戦闘できるのだと誰が思ったか。
このままではマズイ。そう思った長門はすぐに立ち上がる。
そして、自身の直感に従い、右腕を顔の前にたてる。
その直後に重い衝撃が走る。
「・・・・」
「そう来るだろうと思ったよ」
戦艦棲姫は笑わず、長門は笑う。
戦艦棲姫は右拳を突き出していた。
だが、その瞬間に、右手を振り上げる。
それに応じるように長門も笑みを引っ込め、左手を振り上げる。
そして、拳が正面衝突する。
「ぐ」
「グ」
その重さに、思わず顔をしかめる長門と戦艦棲姫。
筋力は同じ。
だが、長門には、決め手である二重の極みがある。
「おおお!!」
長門が右拳を振り上げる。
そのまま戦艦棲姫に振り下ろす、
戦艦棲姫は、体を横にして、紙一重でかわす。否、胸を掠めた。
「ッ・・・・!? ごぷ!?」
だが、突如、口から黒い液体を吐き出す戦艦棲姫。
「掠ッタダケデ・・・」
「まだまだ行くぞ!!」
「!」
もう一度右手を引き戻し、長門が振り上げる。
だが、今度は空振りに終わる。
「二度モ効カンゾ」
しゃがんで回避したのだ。
そして、右手を長門の腹に叩き込む。
「ぐ!?」
思わず下がる長門。
だが、それよりも。
(さっきのは・・・!?)
何かに驚いている長門。
だが、戦艦棲姫は攻撃をやめない。
「く!」
(考えている暇は無いか!)
防御の姿勢に入る長門。
交差させた腕にまた戦艦棲姫の右拳が叩き込まれる。
(やはり・・・・)
それで後退する長門。
そして、何かを確信する。
(二重の極みを、習得しようとしている・・・!)
そう、先ほどから戦艦棲姫は、右拳の拳を立てて、長門に片手二連撃を入れているのだ。
その形は、まさに、二重の極みの型そのもの。
「・・・原理ハ、理解シタ」
戦艦棲姫は、そう言う。
「後ハ、ヤリ方ヲ覚エルダケダ」
身構える長門。
深海棲艦に、ここまで知性のある存在がいたなど、思わなかったのだ。
そのまま膠着状態が続く。
だが、突如、彼女たちの周りに立ち上った水柱が、その沈黙を破った。
「「!?」」
水柱の方向から見て、長門から三時の方向、戦艦棲姫からは九時の方向から飛んできた。
その方向には・・・・
「長門!!」
武蔵たちだ。
何人かが、中大破しているが、それでも誰一人として沈んでいない。
「ココマデカ」
ふと戦艦棲姫がそんな事を言う。
そちらに向くと、戦艦棲姫は、武蔵たちを見て、まるで諦めたかのような顔をしていた。
それは、決して生きる事を諦めたのではなく、この戦いを続ける事に対しての諦めだった。
「次会ウ時マデニハ習得スル。ソレマデ首ヲ洗ッテ待ッテイロ」
戦艦棲姫は、そう言い残し、去っていく。
「! 逃げいくわよ!?」
足柄がそういう。
「逃がさん!」
那智がそう言い、主砲を向けるが、以外にも、武蔵が手を挙げてそれを止める。
そのまま長門へ歩み寄る。
「・・・・・奴とは何を話したんだ?」
長門に、そう問うた。
「・・・再戦だ」
長門は、そう言った。
次回『瑞鶴、誇りの為に』
その背中には、守るべきものがいる。
次回をお楽しみに!