レ級が砲撃する。
「くぅ!」
それを、どうにか避け切る電。
今、艤装を外した状態の電では、唯一の武器である小太刀の間合いにレ級を入れなければ勝機は皆無。
かといって、弾切れを狙う内に、爆撃機や雷撃機、甲標的からの攻撃を受けないとも限らない。
ならば、牙突の突進力を持って、敵に接近する。
「牙突・壱式!」
そして、恐ろしい程の突進力でレ級の二度目の砲撃を切り抜ける。
だが、踏み込むのは一度切りのこの技ではすぐに失速する。
だから、更に右足で踏み込む。
そうすれば、元の加速を取り戻し、レ級に接近できる。
そして、もう一度、左での踏み込み。
「ハァアッ!!!」
左手を突き出す。
だが、牙突がレ級に直撃する瞬間、右脇腹に強い衝撃が走る。
「ぐあ!?」
「にひひ・・・」
レ級が嗤い、電は見た。
それは、レ級の腰から、尻尾の様に伸びている、異形の艤装からだった。
それが、電の右側面から攻撃を与えたのだ。
突進技は、その発動の最中、標準を合わせる為に、視野が極端に狭くなる。
更に、牙突の弱点に、照準を合わせる為の右手が突き手の反動加重を兼ねる為に、前に突き出さなければならない事にある。
その一瞬の死角に滑り込まれれば、いかに足掻こうと、牙突は無効にされる。
このレ級は、それを、一度電が砲弾を防いだ時に見切ったのだ。
「この野郎ッ・・・!!」
吹っ飛ばされながらも、なんとか両足から着地する電。
だが、視界の隅で、白い筋がいくつも、電に向かって突撃してきていた。
「雷撃!?」
それを認識した電は慌てて跳躍。
魚雷を回避する。
だが、どうやら四方八方から撃ち込まれていたようで、魚雷同士が激突。水柱を巻き起こす。
「うわぁぁあ!?」
視界を塞がれ、更には空中にいる事と、魚雷が爆発した事によっておこる爆音。
その為に、目の前から来る攻撃を予測できなかった。
「っ!?」
砲弾だ。
それも、レ級が放った、大和型に匹敵する、おそらく四十六センチ砲の徹甲弾だ。
「うわぁぁぁああ!?」
それを悲鳴を上げながらも、かなり体に負荷をかけて、体を捻って回避。
その瞬間、骨や筋肉が悲鳴をあげる。
「つぁ!?」
そのまま水面に着水。
体中が、先ほどの無理で痛むが、そんな悠長な事を言ってられず、すぐに立ち上がってレ級を睨む。
一方のレ級は首を傾げていた。
どうやら、先ほどの攻撃で仕留めるつもりだったらしく、どうして外れたのかを理解できていないらしい。
「ヤァァアッ!!」
電が、その間に小太刀を右手に持ち替え、走り出す。
それに気付いたレ級も主砲を向ける。
レ級が砲撃する。
その雨を掻い潜り、レ級の懐に潜り込む。
そのまま右手に持った小太刀を右斜め下から斬りあげようとする。
だが、その前に、レ級の艤装が、今度は電の右側から、薙ぎ払われる。
そして、それがレ級の目の前を通過。
「・・・?」
だが、感じる筈の手応えが一切無い。
「天野流・・・」
突如、目の前にある艤装から声が。否、その下。
慌てて下を向くと、電が、右足を折りたたみ、左足を横に真っ直ぐに、上半身を水面と水平になるように
「虎伏」
天野流虎伏。
超低姿勢での回避。そこから繰り出すカウンターは、完全に相手の虚を突く。
艤装の下から出ながら、そして立ち上がりながら、レ級に小太刀を突き立てる。
だが、一瞬の合間、レ級の右手が慌てて電の小太刀をそらし、レ級の頬を小太刀が霞める。
(外した・・・・・!?)
「がぁ!?」
一瞬、その事で呆けたのがいけなかったのか、いきなり腹に痛みが走る。
そのまま後退してしまうも、背中になにかが当たる。
「ッ!?レ級の艤装!?ガッ!?」
更に、右の頬からの衝撃と痛み。
レ級が殴ったのだ。
そこから、背中にあるレ級の艤装が逃げ道を塞いでいるせいで、レ級のラッシュに打ちのめされる電。
「こ・・の・・・・」
だが、怪力ではあるも素人同然のラッシュの中に、一瞬の隙を見つける電。
「舐めるなァ!!!」
「!?」
いつの間にか左に構えなおした小太刀で、超高速の突きを繰り出す。
牙突・零式。
電の切り札の内の一つ。それがレ級の右肩に直撃する。
「ガァ!?」
レ級からその様な声が漏れ、吹っ飛ぶ。
電は、小太刀を固く握りしめ、レ級が吹っ飛ばされていくのに任せながら、引き抜く。
そして、レ級が水面に落ちる。
このまま、奥の手の電式を撃ち込めば、それで終わる。
だからすぐに構えようとする電。だが、それよりも早くレ級が動く。
艤装の尻尾が動き、電の足に向かってその口を大きくあける。
「ッ!?」
慌てて跳び退くも、伸ばしていた右足を噛まれる。
「ッ!?しまった!」
そのまま逆さまになる。
レ級の顔に笑みは無い。どうやら電の先ほどの牙突が効いたのか、切れた様だ。
「・・・シズメ」
「!?」
その瞬間、視界が急変、直後に何かに叩き着けられ、激痛が体を貫く。
そのまま何かに振り回されるように、何度も何かに叩き着けられる。
水面は地面ほど固くは無い。しかし、それは、衝撃の伝播の差だ。
例えば、水を張った風呂に、手を叩き着けてみるとしよう。すると、手がじんじんと痺れたり、痛かったりするだろう。
それは、もともと水の持つ、粘性が関係している。
この粘性が、水面に叩き着けられる衝撃を逃がす事が出来ず、水を一時的に『固体』にしてしまうからである。
ある程度の高さからおちれば、水面は地面と同じ様になり、十五メートル以上の高さから叩き着けられればただでは済まない。
「がぁぁああ!?」
もう何十回と叩き着けられる電。
だが、その中で、一瞬だけ、目の前に敵の尻尾が見え、それを認識した瞬間に、電は牙突・零式を放つ。
「!?」
牙突が艤装の顎に直撃すると、顎がこじ開けられ、もともとあった遠心力で上空へ吹き飛ばされる。
そのまま受け身をとる事も出来ぬまま水面に叩き着けられる。
「がぁ!?」
かなりのダメージを負ったのか、まともに立ち上がる事のできない電。
一方のレ級は、散々叩き着けて疲れたのか、息を整えていた。
「ぐう・・ああ・・・・」
―――死ねない。
その執念のみで、電は立ちあがる。
「はあ・・・はあ・・・」
先ほど、レ級の艤装に噛みつけれたからなのか、右足の骨が折れているかもしれない。
これでは、牙突が使えない。
かといって、他の技を繰り出しても、壊れた右足では、十分な踏み込みが効かず、不発に終わってしまう。
逆転の鍵になる牙突・電式も当然の様に使えない。
レ級が主砲を向ける。
確実に仕留める気だ。
一方で電は、何の悪あがきなのか、なんとか手放さなかった小太刀を左手に持つ。
そして、牙突の構えをする。
それを見て、レ級は、バカにする様に、笑みを浮かべる。
それは勝利を確信している目。
「ハア・・・ハア・・・ハア・・・・」
電は、ダメージがかなり応えているのか、息が荒い。
しかし、レ級はそんな電に構わず砲撃。
更に、周りに展開させていた甲標的からも魚雷を放つ。
極め付けに電の直上から爆撃機を落下させる。
もはや絶体絶命。
万事休すか・・・・
「――――生きる意志は、何よりも、何よりも、どんな力よりも強い」
そう、暗示をかけるかのように、電はそう呟く。
その瞬間、電は左足で、真上に跳躍。
直後に砲弾よりも速く、いくつもの魚雷が、電の真下で正面衝突。爆発を巻き起こし、水柱がたつ。
電は、その水柱に乗る。
その先にレ級の放った砲弾。
読まれていたのだ。
レ級の顔に狂喜的な笑みが浮かぶ。
だが、その表情は驚きに包まれる。
「ハァァァアアア!!!」
なんと、直上から来ていた爆撃機が落とした爆弾に、一度空中前転を促しで回避、その尻に足を乗せ、更に跳躍したのだ。
「!?」
これには、流石のレ級も驚かずにはいられない。
更に、電は、爆弾を落として、落下コースから外れようとしていた敵艦載機に左足を乗せる。
そのまま、レ級に突っ込む。
その構えは、牙突のまま。
「オォォォォオッ!!!」
これは、電が考えた、対空の参式と対を成す、空中から突き出す牙突。更には、それに、零式の要領も加わり、更に威力が加算された、牙突。
「牙突・肆点零式!!」
その牙突が、レ級の心臓のある左胸に直撃する。
「アアア!?」
あまりの激痛に、悲鳴を上げるレ級。
そのまま持つれあう様に、倒れる電とレ級。
「う、あぁぁぁああああ!!」
だが、電が、止めと言わんばかりに、小太刀を捻るッ!!
「ア゛・・・・」
レ級は、短く、そう声を漏らすと、やがて、死んだように、動かなくなる。
事実、轟沈だ。
「ハア・・・ハア・・・ハア・・・」
叩き着けられた衝撃で、体のあちこちから血を流す電。
そして、レ級の横に力尽きたかのように寝転がる電。
「ハア・・・ハア・・・か、勝った・・・・」
電は、そう呟き、空を仰ぎ見る。
次回『長門、勝利への一撃』
その拳、全てを破壊する。
次回をお楽しみに!