太平洋、マーシャン諸島、西。
「敵艦見ユ!戦艦二、軽巡一、雷巡一、駆逐二です!」
「総員、戦闘配備ッ!」
神通の報告を聞き、武蔵が艦隊に命令を下す。
「敵、視認まで、あと五百!」
「砲弾装填、徹甲弾!」
敵が見えてきた。
射程まで、あと、二百。
「第一斉射・・・」
武蔵がそう構える。
それと同時に、長門、陸奥、那智、足柄が主砲を構える。
そして、敵が射程に入った瞬間・・・・
「って―――――!!」
同時に砲撃。
全ての主砲、副砲が敵に向かっていく。
筈れる砲弾もあったが、長門、武蔵の砲弾は全弾直撃。
あっという間に戦艦二隻の轟沈させる。
「戦艦二隻とも大破、軽巡と雷巡も大破し、駆逐は航行不能!」
神通からその様な報告を聞き、武蔵は新たな命令を下す。
「次弾装填、第二斉射用意!」
新たに装填する五人。
「って――――!!」
武蔵の怒号と共に、砲弾を射出。
そのほとんどが残りの敵に直撃し、沈める。
「敵艦隊全滅・・・・お疲れさまでした」
神通が、水偵からの連絡を伝え、安堵の息を漏らす。
「お疲れ~」
龍田もそう言う。
「あー、また武蔵にMVP取られた~」
足柄がそうぼやく。
「そんな事ないぞ?」
「どういう意味だ武蔵?」
那智が主砲の調子を見ながらそう尋ねる。
「タ級に砲弾を直撃させたのは長門だ。それでいて、自分の火力じゃ倒せないからと、主砲の角度を調整して、私に止めを刺せるようにした。そうだろう?」
と、武蔵は、いまだ敵艦隊が沈んだ方向を見ている長門を見る。
長門は、振り向きながら苦笑する。
「よしてくれ、私はそんなつもりで撃った訳じゃない」
「そ、そんな事、ないと思います!」
雪風がそう言う。
「雪風?」
「今までの戦いから見て、長門さんは冷静に戦況を分析して、今自分ができる事を十分に理解しています!それは、とても素晴らしい事だと思います!」
雪風の必死の称賛に、やや呆気にとられる長門。
「そういう事だ。素直に言葉ぐらいは受け取っておけ」
「・・・・そうだな。ありがとう、雪風」
長門は、そう言い、雪風の頭を撫でる。
そこで、長門は、旗艦である武蔵に向き直る。
「それで、かなりの敵を倒した筈だが、機動部隊はどうにかなったのだろうか・・・・?」
『その点については問題ないよ』
無線越しに三鷹がそう言う。
『今の所は順調といった感じ。特に大きなイレギュラーも無いし、このままいけば、スムーズに作戦を成功させられると思う。ただ・・・』
「まだ戦艦棲鬼や、レ級が出てきていない・・・という事だな?三鷹提督」
武蔵が、そうつなげる。
『ええ』
そこで亜美が続ける。
『機動部隊の方では、片方がすでに敵機動部隊との交戦を始めている。もう片方はそろそろ飛行場姫を捉えられるそうよ。でも、肝心の戦艦棲鬼二隻とレ級がいないのよ。予定では、そろそろそちらと会敵してもおかしくない筈なんだけど・・・』
亜美の言葉が濁る。
「はいはい。これ以上の暗い話はやめにしましょう」
パンパン、と手を叩きながら、龍田がそう言う。
『そうだね。武蔵、今は前進しよう』
「了解した。行くぞ!」
そうして、武蔵率いる水上打撃部隊は進撃した。
「まだ機動部隊からの連絡はこないのデスカー?」
「すみません、どうやら今攻撃を始めたようでして・・・」
「足止めを何度か喰らったみたいですね」
金剛の不満のある声に、霧島が自分の受けた伝令を伝え、電がそう予測する。
「ふ~む、つまり、私たちはその攻撃が終わるまでしばらく待機って事デスネ?」
「はい。そうなります」
霧島が金剛にそう伝える。
「待つ事に越した事はありませんよ」
電がそう言う。
「そうですネー・・・・」
ちらりと、電を見る金剛。
そこで、自分の提督、久三に言われた事を思い出した。
「白兵戦の可能な電?」
「ああ」
金剛は、差し出された資料を見て、そう呟く。
「牙突という、剣術でいう
「Wow!それは頼もしいネー!」
「油断はするな」
感嘆する金剛は久三から発せられた低い声に首を傾げる。
「この電は、あの飛天童子と呼ばれた男の艦娘だ。ソイツから手ほどきを受けているという事は、結局は
「・・・・」
その事に何も言わない金剛。
久三は、中学生の時に、故郷で、今は捕まっている殺人鬼と呼ばれた男に、家族を全員殺されている。
その為に、人殺しをした事にある人間は一切信用しないようにしているのだ。
特に、三千人も人を殺したと言われる、飛天童子の様な男には――――
「テートクの考えている事には、何も言わないでおくネ。でも、せめて、艦娘だけは信じてあげて欲しいネ」
金剛は、そう言い残した。
「川内二号機より電信、我敵艦発見セリ!」
川内がそう叫ぶ。
「川内二号機に随伴していた榛名三号機からも電信、川内二号機ノ電信、真実ナリ。北東から接近してきます!」
榛名が続けてそう叫ぶ。
「OK!皆さん!用意は良いデスカー?」
金剛の言葉に、全員が頷く。
「Yes!これより、敵艦隊の迎撃に向かいマース!」
その号令に、全員が一斉に進撃を開始する。
「川内、敵の編成は?」
「はい。軽巡二、駆逐四の水雷戦隊です」
「水雷戦隊なら、楽勝だな!」
摩耶がそう自身を持って言う。
「油断してはダメよ摩耶。前回それで雷撃喰らって大破したじゃない」
「な!?次は当たらねーよ!」
鳥海の思わぬカミングアウトに摩耶が否定しなくも強がる。
「否定しないんだ・・・・」
霞がジト目でそう呟く。
「まあまあ。ほら、まずは目の前の敵に集中する」
陽炎がそう言っている他所で、天津風は電をふと睨む。
その視線に気付く電は顔を天津風に向ける。
「・・・お手並み、拝見させてもらうわ」
「分かったのです」
天津風が素っ気なくそう言い、電は微笑みながら答える。
「視認まで、あと二百!」
榛名がそう叫ぶ。
「了解ネ!徹甲弾装填!全主砲、発射用意!」
金剛がそう叫び、水平線に浮かぶ敵を睨む。
一方で、ここは飛行場姫のいる島、ノックス・アトール島。その上空にて、激しい乱戦が繰り広げられていた。
零戦五二型や烈風が、敵艦載機と、拮抗した戦いを繰り広げている。
練度としては、零戦隊や烈風隊の方が上かもしれないが、その隊は、爆撃機を護衛しながら戦わなければならないので、そこに気を配らなければならないのだ。
ようやく、何機かの爆撃機が乱戦を抜け、飛行場姫に向かう。
そこから、飛行場姫に向かって、爆弾を落とす。
その爆弾は飛行場姫に直撃し、滑走路を破壊する。
だが、目まぐるしい勢いで、その滑走路は修復される。
深海棲艦には、こういった規格外な能力を持っている奴が多い。
それは、レ級も同様であり、戦艦棲鬼も、同じような事に、その艤装に、バケモノの様な剛腕を持つ。
そして、飛行場姫に与えられた能力、それは、滑走路の高速修復。
なんらかのストックが無くならない限り、無限に回復し続けるそれは、連続で爆撃しない限り、絶対に封殺などできない。
だが、すでに、三回目の
そして、その回復力は徐々に劣ってきている。
このまま行けば、必ず飛行場姫は封殺されるだろう。
だが、その顔には、笑みが浮かんだままだった。
その南東の海。
「今の所は上手くいっているみたいね」
「流石、蒼龍と龍鳳の爆撃機体!」
「いえ、そんな・・・・」
加賀の言葉に、同意する様に、蒼龍と龍鳳を褒める瑞鶴。
龍鳳は、それに頬を赤くする。
「まだ油断は出来ないわ。まだ周辺に送り出した偵察隊からの連絡がまだ来ないからといって、打撃部隊が叩くはずだった戦艦棲鬼やレ級がこちらに来ないとは限らないわ。まだ見つかっていないみたいだから、警戒を厳とするように」
加賀の指摘に、すぐに気を引き締める瑞鶴と龍鳳。
「「はい!」」
そんな加賀に、蒼龍が声をかける。
「少し緊張しすぎじゃありませんか?もう少し気を楽しても良いんじゃ?」
「こういう作戦の時ほど、イレギュラーはおきやすいものよ。今だって、上手く行き過ぎてる」
加賀は、飛行場姫が攻撃されているだろう、方角を見据える。
その顔には、慢心など一切なかった。
四人の背後には、初雪と皐月の二人。
「なんか退屈だな~。初雪、なんか面白い話ない?」
「ない」
「即答だね・・・」
一方で、こちらは完全に遊び人モードとなっている駆逐艦の二人。
「ちょっと、電探の方にはなにもないの?」
「え?あ、はい。何もありませんよ?」
と、皐月が21号対空電探のスコープを覗き、そう言う。
「そう・・・・」
それが、範囲外からなのか、それとも、本当に異常がないからなのかは分からない。
『一応、索敵機の捜索範囲を広げておいてくれ』
無線越しに、時打がそう言う。
「わかりました」
それを受けた加賀は、すぐに自分の艦載機たちに電信。
了解の電信が帰ってきた所で、第三次攻撃隊が、帰還する事を告げた。
「第三次攻撃隊。戻ってくるそうです」
『そうか、すぐに、第四次の用意をするんだ。間を開ければ、その分、奴が補給するかもしれないからな』
「了解」
とりあえず、ここまでは良い。
特に大きな異常も無く、損害も少ない。
この調子なら、無事に飛行場姫を倒せるかもしれない。
そんな思考を片隅に押しやりながら、味方が帰ってくるであろう水平線を見る。
「あれ?」
ふと、龍鳳からその様な声が漏れる。
「どうしたの?」
瑞鶴が聞く。
「はい。先ほど、天野提督に言われた通りに、捜索範囲を広げろと電信を送った第三隊から返事がこなくて・・・・」
「え?」
瑞鶴は、それを聞くと、龍鳳が飛ばした偵察隊の飛んで行った西南を見る。
「・・・・・」
瑞鶴は、その方角を真っ直ぐに見る。
「? 瑞鶴?」
「シ・・・・」
声をかけてきた加賀を無視して、瑞鶴は、その方角へ眼をこらす・・・・・否、耳を澄ました。
――――――ざざー――――――――ざざー――――――――――
海の漣の音。
もっと、耳に神経を集中させる。
――――――――――ざざー―――――――――ざざー――――――
遠くへ、聞こえる様に・・・・・・
――――――ざざー――――――ざざーざーざーざざざーざざーざざざざ・・・・・
「!?」
聞こえた。何かが近付く、不規則な音が。
瑞鶴は、すぐさま、矢筒から彗星を強引に引き抜く。
「!? 瑞鶴!?何をして」
「お願い、確認してきて!」
その方角に、矢を放つ瑞鶴。
それは、無数に分裂し、それが、艦載機、艦爆の彗星へと変貌する。
そのまま全速力で、爆弾を抱えたまま飛んでいく。
「瑞鶴!」
加賀が、瑞鶴の肩を掴む。
「どういうつもり!?なぜいきなり・・・」
「龍鳳の偵察隊が落とされた可能性があります」
「!?」
瑞鶴の言葉に、息を飲む加賀。
それは、その場にいる全員にも同じ事だった。
「すみません。爆撃用の彗星をかってに・・・・ッ!?」
瑞鶴が、加賀に謝ろうとして瞬間、彼女が顔を強張らせる。
「さっき飛ばした彗星から電信・・・・・我、敵艦ヲ発見、艦種・・・・戦艦棲鬼・・・・!?」
ざわり、と、その場の空気が重くなる。
だが、そんな空気を破ったのは加賀だった。
「全員、戦闘配備!初雪は本部に電信!私と蒼龍は攻撃隊を飛ばして、戦艦棲鬼を迎え撃つ!龍鳳は飛行場姫を攻撃する為に温存!急いで!」
『は、はい!』
加賀の言葉に我に帰った一同が、すぐさま行動に移る。
加賀、蒼龍が弓をつがえる。
「え?」
またもや瑞鶴の表情が強張る。
「瑞鶴、どうしたの!?」
「・・・・敵、三式弾・・・・! 撃墜されました」
「三式弾・・・・まさか・・・・」
「敵艦、水平線上に出現!」
皐月の叫び声に、全員がその方角を見る。
そこには、まったくの無傷の深海棲艦が一隻。
その容貌は美しいが、異形ともいえるのが、その背中の艤装。
巨人の様なその灰色の艤装を纏う、その存在は、まさに、獣と飼い主の様だ。
肩の砲台が、こちらに標準される。
「ッ!?砲撃がくる!衝撃に備えて!」
加賀がそう叫ぶも、戦艦棲鬼は、その主砲を放つ。
(大丈夫、第一射なら、直撃はしないはず)
加賀がそう考える。
だが、その加賀の目の前に、何かが割り込んでくる。
「え?」
そんな声をあげた瞬間、閃光が迸った。
「――――飛行場姫を攻撃していた機動部隊から電信、戦艦棲鬼が現れました!」
時打がそう叫ぶ。
「な!?」
亜美が思わず立ち上がる。
それと同時、管制室の空気が変わる。
「どういう事よ!?」
「どうやら、予測されていたようだな」
翔真が、手を顎にあててそう言う。
「ッ!?こちらからも電信、こちらも戦艦棲鬼を発見した模様。敵は、三式弾を撃ってきているとの事です!」
更に追い打ちをかけるように、三鷹がそう叫ぶ。
「そんな・・・」
「バカな!?」
その報告に、久三が叫ぶ。
「深海棲艦が三式弾を使うなど、前代未聞だ!?何故今になって・・・」
「誰かからの
豪真が、そう呟く。
「敵は、艦娘の誰かを鹵獲して、そこから三式弾を持ち出した。あるいは、敵が独自にその三式弾を作り出したという事か・・・」
豪真が苦い顔をする。
重い沈黙が、その場を支配する。
だが、ふと時打が、耳にかけたヘッドフォンから、新たな電信を受け取る。
「・・・・・飛行場姫を攻撃していた加賀から連絡・・・・・空母蒼龍、中破。同じく龍鳳、小破。駆逐艦の皐月と初雪はどうにか回避したようですが・・・・空母瑞鶴が、加賀を庇い、大破しました」
翔真が眼を見開く。
「なお、加賀は無傷。しかし、戦艦棲鬼の猛攻により、発着艦は困難との事・・・・」
「空母棲鬼の方はどうなっている?」
時打が、暗い声でそう言い、それを聞いた豪真は、翔真の方に向いてそう聞く。
「はい。空母棲鬼は、姫にまでおいつめました。しかし、その合間に飛龍が小破。大鳳も中破したとの事です。更に、決定打となる攻撃が成功せず、未だに拮抗状態が続いているとの事」
翔真がそう報告する。
「増援は見込めんか・・・・」
「長官、ここは、陸上攻撃部隊を先行させ、早急に飛行場姫を撃滅するべきかと思います」
落ち着きを取り戻した久三がそう言う。
「いや、まだだ」
「ッ、このままでは、いずれ機動部隊が・・・」
「悪いがそうも言ってられんぞ」
久三の言葉を遮り、神代が切羽詰まった声でそう言う。
「どうやら、こっちの方に、レ級が現れた様だ」
『!?』
神代が頬に汗を流しながらそう言う。
「これで、三部隊とも、抑えられた訳か・・・」
その重い空気の中で、時打は、ただ祈る事しか出来なかった・・・・
次回『まだまだ続く、敵の攻撃』
果たして、反撃の狼煙はあがるのか?
お楽しみに!