艦隊これくしょん その刀は誰が為に   作:幻在

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限定、終わってしまいましたね・・・・

そして、自分は一度キス島の方は置いて、ジャム島の方へ進路変更しました。

鈴谷「鈴谷が旗艦だよー」
大和「大和、頑張ります!」
響「練度が高いからって使い過ぎじゃないかな?」
吹雪「それほど頼りにされてるってことなんだから!頑張ろう!」
飛鷹「ついに私の時代が来たァァァアアア!!!」
隼鷹「うわあ・・・飛鷹がハイになってる・・・・」

と、以上がジャム島攻略組です。
だが・・・・羅針盤が中々ボスマスを目指してくれない!。
進路ズレる度に、戦艦タ級にボッコボコにされかけるわ、潜水艦の開幕雷撃で飛鷹が大破させられるわで、もう大変。
バケツがないんだから手加減してよ!

赤城「そして練度の低さも問題になりますねぇ・・・」

ジャム島攻略組「・・・・・」

だから演習やってるけど、最近やってなかったからボッコボコだ。

とまあ、そんな訳で、本編どうぞ!


定例会議

四月中旬。

定例会議当日。

その道中、時打と長門は迎えの車に乗り、大本営のある、横須賀に向かっていた。

一応、説明しておくが、各地方に、『本部』・・・『本営』となる鎮守府が存在しており、その更に上の『大本営』のあるのが横須賀だ。

各地方には、そこを統率する大将級の人間、『指令長官』がおり、関東にある鎮守府を統率しているのは、時打を黒河に送った壱条豪真だ。

というか、『長官』と呼ばれる存在は、その全てが各地方の司令長官だ。

そして、その更に上に存在するのが『元帥』だ。

日本にある全ての鎮守府に命令を下せる人物はその人以外に存在しないらしい。

 

 

 

「今回、その人が出てくるってなると、なんか緊張するな・・・」

「私は初めての会議だからな・・・」

言動とは裏腹に、かなりガチガチになっている時打と長門。

そのお陰で時間の流れが早く感じられ、気がつけばもう横須賀についていた。

「着きましたよ」

「は、はい・・・行くぞ長門」

「あ、ああ・・・・」

と、緊張しているのか何気に浮かない顔をしながら、時打と長門は、大本営の建物を見上げる。

ちなみに、長門はあるジャケットを着て貰っている。

黒いジャケットで、背中に、時打が考えた黒河鎮守府の紋章。

桜の花に、大きく筆書きで『黒河』と描かれている。

何故こんなものを着ているのかというと、以前に言った、他の同一の艦娘との区別をつける為だ。

よく、勘違いされて別の鎮守府に行ってしまう事が今までに多々あった為に、その措置的なものだ。

それと、以前に前任の提督が使っていた紋章だが、時打が容赦無くボツとして捨てて、新しく、時打の天才的な画力と才能を見せつけるかの如き完成度でこの紋章を描いたのだ。

「ここで会議が・・・・」

「ああ。俺、学生だったはずなのに、もうここまで偉くなったんだなぁ・・・・」

「え!?提督って学生だったのか!?」

思わぬカミングアウトに驚く長門。

「あれ?言ってなかったっけ?」

「聞いてない!」

「そ、そうか・・・」

なんだかんだで、時打と長門は大本営に入っていく。

ある程度の受付を済ませ、時打たちは指定された部屋へ。

受付係の話では、なんでも最後らしい。

「気ぃ引き締めろよ長門」

「ああ、分かっている」

部屋に行くにつれて、緊張が高まっていく。

そして、その部屋の前に立ち、そして、ゆっくりと開けていく。

中に入った瞬間、突き刺さるような視線をいくつも感じた。

「「ッ・・・・」」

その重圧に圧倒される時打と長門。

配置は、横長の机が横三列といった感じで、それぞれの机に、各鎮守府の名前が入った立札があった。

二人は、その重圧を感じながらも、自分たちの鎮守府の立札を見つけ、そこへ向かって歩き出す。

そして座る。

始まるまで、まだ数分の猶予がある。

ふと、長門はある鎮守府の提督に目をつける。

「あれが・・・・」

横須賀の提督だ。

傍らには、正規空母の赤城がいた。

提督の方の容姿は、かなり軍服をきっちりと着こなしており、提督帽も上手い具合に似合っている。

顔立ちは、それなり良いが、その雰囲気から笑みを浮かべる事は無さそうでもある。そして眼鏡、それも額縁眼鏡だ。

何より、その眼光。かなりの歴戦を潜り抜けてきたような眼をしている。

隣の赤城は、彼の秘書艦だろう。

 

 

横須賀は、現在の全国に存在する鎮守府で、最強と言われる艦隊がある。

それは、あの赤城を旗艦に、加賀、蒼龍、飛龍の四人からなる、『南雲機動部隊』だ。

どういう意図なのかしらないが、あの提督がそういった編成にしたらしい。

それでも、戦果は良いもので、他の鎮守府に比べ、ランキングがあるなら間違いなく全国レベルでトップ10に入るだろう。

それほどまでに、強い艦隊なのだ。

なんでも完全に数で劣る状況から、艦載機の練度のみでその状況を打破して勝利を収めたと聞いた。

 

 

「どうした長門?」

「ああ、いや・・・横須賀の提督の事を見ていてな」

「横須賀・・・?翔真さんの事か」

「ん?知っているのか?」

時打の言葉に、興味を持つ長門。

「ああ、関東の司令長官、壱条豪真の息子だよ。フルネームは壱条翔真」

「え!?提督、横須賀の提督と知り合いだったのか!?」

「まあ、長官に会いに行った時に、何回か会った程度なんだけど、その度に航空戦の事について色々と教えてもらってな」

「そうなのか・・・」

思わぬ時打の人脈に驚く長門。

と、そこへ正面の横にある扉が開く。

そこから、時打にとっては見知った人物が出てくる。

豪真だ。

その表情は、時打にいつも見せる友好的なものでは無く、司令長官という立場に立つ者の威厳を醸し出す厳つい表情だった。

その傍には秘書艦の筑摩。

更には、もう一人。年齢は豪真よりもありそうで、一見して六十代であろうか?

「あれが、元帥・・・・火野柱(ひのばしら) 玄隆(げんりゅう)

初めて見る元帥の存在に、唾を飲み込む時打。

その傍らには・・・・・なんと吹雪だった。

「・・・・」

元帥ともあろう者がまさかの駆逐艦を秘書艦にしているなんて誰が思ったか・・・・

いや、既に見慣れているであろう周りの提督にとっては慣れている事だろう。

とりあえず、姿勢を正す。

それぞれが自分の為に設けられた席に座り、豪真が席に座る提督や秘書艦たちを見渡す。

「これより、定例会議を開く」

そうして、春季定例会議が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

変わって、黒河鎮守府。

「ただいまぁ」

「お帰りなさい瑞鶴・・・・・ってその袋どうかしたの?」

瑞鶴と翔鶴の五航戦組の部屋にて、街に出掛けていた瑞鶴が、大きな紙袋を持って帰ってきた。

その服装は私服そのものだ。

「えへへ、『るろうに剣心』です!」

「ええ!?」

なんと、瑞鶴が持ってきた袋の中身は、全てが『るろうに剣心』の漫画なのだ。

「なんでそんな大量に・・・そもそもお金はどうしたの?」

「スッた」

「はいアウトおぉぉぉぉぉぉお!!」

瑞鶴が右手の人差し指と親指で丸を作ったので、それに対してどこから取り出したのか、翔鶴がハリセンで瑞鶴の頭を引っぱたく。

「まあまあ、これを読めば、提督の事が少しでも分かると思うよ」

「う・・・・よ、読まないわ!」

と、ほんの少し顔を赤くして部屋を飛び出す翔鶴。

「可愛いなぁ。さーてと・・・・」

ニヤニヤと顔に笑みを浮かべながら、瑞鶴は一冊、るろうに剣心の第一巻を取り出し、読み始める。

しばらく読み進めていき、京都編あたりに差し掛かった辺りで、瑞鶴はとある人物に目をつけた。

「あ、この人・・・・」

その人物とは、かの隠密御庭番衆御頭の四乃森(しのもり) 蒼紫(あおし)

・・・・・・の、使う剣術だ。

 

 

御庭番式小太刀二刀流。

その話の中で、御庭番衆の先代御頭が習得されていたとされる二刀剣術。

作中では、その技は三つ程だが、瑞鶴は、自分も小太刀の二刀流を使っているという事もあって惹かれた。

 

 

そして場面は一気に縁との最終決戦へ。

その時、剣心の放った『龍鳴閃』なる技の影響を受けた蒼紫と、蒼紫の事が好きだというのがバレバレである少女、巻町(まきまち) (みさお)が、聴覚を鍛えられているのを知った瑞鶴。

「聴覚・・・・か・・・・」

全て読み終えた瑞鶴は、それを山積みになっている別巻の上に置く。

そして、手を頭の後ろで組んで、畳の上に寝転がる瑞鶴。

「・・・・・」

気付けば、読み始めて三時間はたったのか、すでに窓の外は夕焼け色に染まっていた。

と、そこで眠気が襲い、そのまま抵抗する事なく、眠りについた・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日は、新しい艦娘が着任するらしい。

なんでも、深海棲艦の攻撃によって壊滅した鎮守府の所から来るらしい。

全く、不幸なものだ。

あの提督のいるこの鎮守府に配属されるとは。

 

 

 

 

来た。

そして実に不愉快で愉快だ。

かの一航戦様だ。

あのミッドウェーで沈んだ、哀れな正規空母。

さて、彼女は一体、どういった風になってしまうのか・・・

 

 

楽しみだ。

 

 

 

 

 

 

つまらない。実につまらない。

なんだ奴は。何事にも動じないなんて。

提督にバカされているんだぞ。そこで何故怒らない。

まるでつまらない事の様に・・・・

そして、どうして私ばかり気をかけるのだ。

今回の出撃だって、本当なら私にあたる筈だった急降下爆撃を代わりに受けるなど、本当に、一航戦なのか?

 

 

 

 

 

誰も来る事の無い竹林で、あの一航戦が木刀を振るっていた。

何か嫌味を言ってやろう。そう思い、近付いて声をかけた。

『何故そんなもの振っているんですか?』

嫌味たっぷりな表情と声音でそう聞いてみた。

『そうね・・・・こうしてると、落ち着くのよ』

なんでも、以前いた鎮守府の提督は、よく木刀を振るっていたらしい。

彼女は、それに少し興味を持ち、一緒に木刀を振るっていたそうだ。

それが日常に染み込み、暇さえあれば素振り、嫌な事があれば素振り、楽しい事があっても素振り。

そうしていれば、なんだか落ち着くらしい。

そんな理由に、私は、なんだかいつもの対抗心が生まれ、次の日には隙を見て街にでかけ、そこで木刀を売っている店に行き、そこにあった、彼女の持っている木刀より短い、長さでいえば小太刀ぐらいのものを二本買った。

とにかく、あの一航戦だけには負けたくなかった。

素振りしている所に勝負を持ち掛け、素人同然の剣で彼女になぐりかかった。

全然、歯が立たなかった。

基本だけはしっかりしているのか、まだ剣を振ったことのない私では、本当に敵わなかった。

 

 

 

 

 

それからというもの、私は竹林にいっては彼女に勝負をふっかけ、そして返り討ちに遭うのを繰り返した。

だけど、いつしか、彼女とも拮抗するようになってきて、何日か立つ頃には、ほぼ互角に戦えるようになった。

だが、結局はそこで止まり、互角になってからというもの、なかなか勝ち越せなくなり、そもそも負けるどころか勝つ事さえも出来なくなってしまったのだ。

そんなある日、時間を忘れて散々打ち合った後、疲れ果てて背中合わせに地面に座った時の事だ。

『・・・貴方を見てると、思い出す事があるの』

『思い出す事?』

『ええ。同じ貴方と、こうして何度も打ち合った、あの頃の事を』

前にいた鎮守府でも、彼女は、別の私とこうして剣をぶつけ合っていたみたいだった。

そして、戦闘では、良き相棒同士だったという事を。

『もしかしたら、私は、前の貴方と、ここにいる貴方を重ねてしまっているのかもしれない。それほどまでに、楽しい』

私は、それを黙って聞いていた。

『私は、その事をずっと引きずっている。それほどに、私は、貴方が、愛おしい・・・』

嗚咽が聞こえた。

振り向いてみると、彼女が膝を抱えていた。

それが、余りにも、寂しそうで、悲しそうで、ほおっておく事が、出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、私は彼女を―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッハァ!?」

飛び起きる。

「ハア・・・・ハア・・・・ハア・・・・」

上がっていた息を整え、右手で片目を覆った。

そして、自分が泣いている事に気付く。

「・・・・・・『加賀』さん・・・」

そして、誰もいない部屋で、静かにそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今回、議論する事は、最近発見された姫級の深海棲艦の事についてだ」

横須賀鎮守府にて、元帥である玄隆がそう言う。

「吹雪」

「はい」

と、吹雪が手に持っていたタブレット端末を操作する。

それと同時に、部屋の電気が消える。

そして、正面のスクリーンに映像が映し出される。

そこには、骨の様な白髪と体。その両側には滑走路の様な板に、その右側にはまるで砲台の様な口がある。

「あれは・・・・」「まさか飛行場姫か?」「でもあいつって・・・」「五十年前に沈められた筈じゃあ・・・」

そう、その深海棲艦の名称は『飛行場姫』。

深海棲艦が現れた五十年前のたった四年後に沈められた筈の深海棲艦の『姫』の名を持つ存在だ。

「お前たちが知っている通り、この飛行場姫は五十年前の『鉄底海峡突破作戦』にて沈められた。だが、横須賀の南雲機動部隊が、太平洋のマーシャン諸島付近で、陸上にこの飛行場姫の存在の確認。更に・・・」

玄隆が吹雪に合図を送る。

するとスクリーンの画面が切り替わり、今度は子供の様な深海棲艦を出した。

先ほどの飛行場姫とは対照的に黒いフード付きのジャケットを着ており、見た目は北方領土を支配していたといわれる北方棲鬼に似ているようだが、身長からしてあきらかにこちらの方が高い。

だが、間違いなく奴が深海棲艦だと分かる要素が、腰から尻尾の様に伸びている異形な艤装。

 

深海棲艦の中で、最も厄介な戦艦、『戦艦レ級』だ。

 

「お前たちも知っているだろう。砲撃はともかく、雷撃も可能、艦載機を飛ばすのも可能。しかもその練度が一機に対して零戦が十機といったふざけた練度と性能だ。更にヲ級改フラグシップが四隻、横須賀の南雲機動部隊でなければ間違いなく航空戦でやられていただろう」

会場が騒めく。

ふと時打は、翔真の方を見た。

翔真は何も言わず、隣の赤城は俯いて、スカートの様な袴の裾を握りしめている。

悔しいという気持ちが滲み出ているのが丸分かりだ。

どうやら、かなり一方的な展開だったようだ。

それを見かねた様子で、玄隆は続けた。

「他にも、装甲空母鬼が三隻も発見。他にも南方棲戦鬼を二隻のうえ、戦艦棲鬼を一隻にニ個の機動部隊を発見した。そして、敵はここを拠点に、北マリアナ諸島に向かって攻撃しようとしている事が分かった」

北マリアナ諸島。

そこは、フィリピンとの海上交通路(シーレーン)を防衛する為の大事な泊地だ。

「ここをやられれば、まず、間違いなくフィリピンとの貿易は難航する。奪い返す事は可能だが、それにはかなりの年月がかかるだろう。だから、まずはこちらから先手を打つ」

玄隆はそこで言葉を切った。

そして・・・

「今回、私がここへ来たのは他でもない。ここ、関東地方にある鎮守府で、この敵泊地を叩く!」

玄隆が威厳ある声でそう言う。

そして、会場から、おお!、といった歓喜の声が漏れる。

「今回の大規模作戦は、敵戦艦などの敵艦を討つ水上打撃部隊、飛行場姫を叩く陸上砲撃部隊、そして、敵艦載機を落とし、飛行場姫を封殺する航空機動部隊の三つに分ける。それで、これから言う鎮守府から、指定された艦種を出してもらい、それをそれぞれの部隊に入れる」

そこで言葉を切った玄隆。

そして、今回の大規模作戦に参加させる鎮守府の名前を告げた。

 

「横須賀、小田原、鎌倉、鴨川、南房総、黒河。この四つだ」

 

「・・・・・・・・・え?」

その最後の名前にポカンとする時打と長門。

そして、騒めく。

「黒河?」「あれだろ?ブラック鎮守府の」「そうそう。なんか艦娘の轟沈記録を()()したっていう」「なんであんな所が・・・・」

「ッ!」

誰かが言った言葉に長門がカッとなり、立ち上がって叫ぼうとしたが、時打に肩を掴まれ、まるで人間離れした筋力で、立ち上がるのを阻止される。

「落ち着け長門。ここで歯向かえばお前はともかく、鎮守府にいる皆の立場が危うくなる」

「ッ・・・だが・・・」

「長門」

時打が、声を低くして長門の名前を呼んだので、長門は黙り込んでしまう。

「大丈夫だ。今は、耐えろ」

「・・・分かった」

と、浮きかかった腰を下ろす。

その時、どこかで安堵の息を漏らした音がした。

「これから、その六つの鎮守府の提督に説明をする。会議が終わった後、すぐに長官室に」

それだけを言い、玄隆は黙った。

そして、ある程度の報告を済ませた後、会議は終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

長官室にて。

「納得できません!」

まず、一人の女性が声をあげた。

南房総の提督、『柏木(かしわぎ) 亜美(あみ)』だ。

容姿としては、スポーツ系女子の様で、赤みがかかった茶髪で短髪だ。

秘書艦には、龍鳳で、亜美の行動にかなりオドオドしている。

「どうしてブラックである黒河をこの作戦に参加させたのですか!?」

その矛先は、元帥である玄隆に向けられている。

「柏木提督に賛成します。私も、ブラックなどと協力する気などありません」

彼女の言葉に同意した一人の男性。鎌倉の提督で、名前は『岩倉(いわくら) 久三(きゅうぞう)』。

かなりほっそりとした、がり勉タイプを思わせる容姿で、髪の色は時打同様、黒。

しかしその顔は、いつにもまして険しい。

傍らの秘書艦は北上も、真剣な表情でいた。

「それに、黒河に在籍する艦娘はたった三十隻しかいないと聞いています。そんな小規模な鎮守府から大規模作戦に参加させるなど、気が狂っているのかと聞かれてもおかしくありません」

「それになんども艦娘を轟沈させていると聞きます。こんな奴の率いる艦隊など、あったところで足手纏いになるだけです」

と、更に同意するのが鴨川の提督、『郷天(ごうてん) 神代(かみよ)』。

三十代くらいで、かなり鍛えているのか、図体がかなりでかい。

秘書艦の龍田は、その光景を面白そうに見ている。

「ハハハ・・・・酷い言われようだ」

「ッッッ・・・・慣れているんだなお前は」

その様子に、苦笑している時打と、今すぐにでもぶん殴りたいと言わんばかりに拳を握りしめている長門。

「貴方たちも何か言いなさいよ!翔真、三鷹!」

と、亜美が横須賀の提督、『壱条 翔真』と、小田原の提督、『三鷹 悠馬』の二人に話を吹っ掛ける。

三鷹の方は、男だが、髪が肩ませに伸びており、頭の後ろで結っており、身長は、この中で一番背が低い。

その傍らには、秘書艦の叢雲がうんざりしたような表情でたたずんでいる。

「ええ、僕に言われても・・・・」

「・・・」

三鷹は困った様に、翔真は・・・・実に不愉快とでもいうな表情でいる。

「・・・なによ?」

亜美が訝しむような眼で翔真を見る。

「・・・・お前たちは、一つ勘違いをしている」

と、翔真が亜美たちに向かって言い放つ。

「艦娘をわざと轟沈させていたのは前任の『秋村(あきむら) 禅斗(ぜんと)』だ。こいつが着任したのは二月の中旬。それから艦娘が轟沈したという報告は一切されていない」

「そんなの関係無い」

だが、そんな翔真の弁護を一蹴した神代。

「なに?」

「今時、刀を持つ提督がどこにいる。いくら銃刀法違反が適用されないといっても、そんなものを持つ提督などいない。それでも持っているという事は・・・・」

と、時打に歩み寄り、身長の関係上、時打を見下す神代。

「・・・ろくでもない奴だという事だ」

「貴様ぁ・・・・」

その神代の言葉を聞いた長門が、とうとうブチ切れて敵意をむき出しにする。

「提督は・・・ッ!?」

それで何かを言おうとした途端、ビュンッ!と何かが長門の眼前で止まる。

「少し、黙っててもらえるかしらぁ?」

「龍田・・・・貴様・・・・」

艤装の一部である槍を長門につきつけている龍田に、長門は今にも爆発しそうな怒りを向ける。

だが・・・・

「確かに、俺はろくでなしだよ」

と、時打は、龍田の槍の穂先を掴む。

そして、無理矢理長門から反らす。

「!?」

それに目を見開く龍田。

グググ、と、長門から反らされた槍を、今度は思いっきり押し込む。

その腕力に、思わず下がってしまう龍田。

「・・・・貴方、本当に人間?」

「さあな・・・・もしかしたら、何千人も斬り殺してる殺人鬼かもな」

と、冗談に聞こえない冗談を言い合う龍田と時打。

時打の槍を掴んだ右手からは血が流れ出ていた。

「た、大変・・・」

と、同じ長官室にいた豪真の秘書艦である筑摩が慌てて包帯を取り出そうとする。

「大丈夫だ筑摩。それほどの傷じゃない」

と、そんな筑摩に優しく微笑み、心配ないような素振りを見せる。

「それでだ。俺の鎮守府が参加するのはいささか不満だと思うのは、当然でしょう。俺の鎮守府は()ブラックですから」

しかし、と付け加える時打。

「そもそも、作戦を実行するのに、その様な事実が必要でしょうか?」

「なんですって?」

亜美がくいつく。

「そうでしょう?必要なのは、()()()()()()()()なんですから」

「・・・どういう意味よ?」

亜美はまだ理解できていない様だが、代わりに久三が聞く。

「今回の作戦に参加する程の練度があると?」

「ええ」

その質問に、即答する時打。

「何を言い出すのかと思えば・・・・小規模な鎮守府に、その様な艦娘が存在する訳が・・・」

「黒河の瑞鶴は、横須賀の加賀に匹敵する艦載機運用能力を持っている」

その久三の言葉を遮る様に、豪真が割り込む。

「長官・・・・」

「父上・・・・」

「他にも、電の白兵戦に、暁の単独戦闘にも目を見張るものもある。それに、そこの長門の砲撃戦も、かなりの戦果を叩き出している。それは、岩倉、お前の所の陸奥に匹敵するぞ」

「なに!?」

「ッ・・・!?」

豪真の言葉に、驚きを隠せない久三。それと同時に目を見開く北上。

そして、陸奥という名前を聞いて、身を強張らせる長門。

「それに、今回の編成で、その四隻を同行させるつもりだ。他二隻は流石に本人に任せるが、間違いなく、この四隻は信頼していい」

それが、実力的な意味だという事だと悟った久三は、悔しそうに顔を歪める。

「で、ですが・・・・!」

それでも食って掛かる亜美。

「見苦しいぞ、柏木」

瞬間、玄隆の放った威圧で、押し黙ってしまう亜美。

(これは・・・・剣気!?)

その正体に気付いた時打が眼を見開く。

(この人、何か剣術を・・・・)

そう考察するも、次に玄隆が発した言葉で断ち切られる。

「それに、これは最高司令官である私の決定だ。異論は許さん。特に、他人の鎮守府を蔑むような輩の言葉はな」

「「「・・・」」」

それで、押し黙る三人。

「とにかく、今から必要な艦種を書いた資料を渡す。それを受け取ったら、各自帰って良し。以上だ」

そして、その場にいる提督六人が、その名簿を受け取り、解散した。

そして帰り際に、亜美が一言。

「・・・せめて、邪魔だけはしないで」

それだけを言い残し、部屋を出て行った。

その後ろから、龍鳳が謝る様に頭をさげ、追いかけて行った。

「天野」

「あ、翔真さん・・・と三鷹さん?」

「三鷹で良いよ。よろしく、天野くん」

と、挨拶を交わす三人。

「赤城も久しぶり」

「ええ。お久しぶりです。立派になりましたね」

と、微笑む赤城。

「それよりも、その右手、どうにかした方が良いんじゃないのか?」

「え?・・・あ・・・」

と、時打は右手の状態を思い出した。

するとどこからか手刀が時打の頭に当たる。

「いて」

「バカなんですか?」

「わ、悪かったよ筑摩・・・」

と、時打の右手を包帯で巻く筑摩。

「今回は済まなかったな、天野 時打」

そこで玄隆が口を開いた。

「いえ、お気遣い無く」

「そうか・・・・大和は元気にしているか?」

「え・・・ええ、まあ。元気ですよ?」

「そうか」

それを聞いた玄隆が、ふう、と息を吐いた。

「時に、豪真から聞いたのだが、艦娘と決闘したらしいな」

「え!?」

「ほう」

玄隆のいきなりのカミングアウトに驚く三鷹、それに対して翔真は面白そうに右手を顎に乗せる。

「まあ」

「ええ!?」

赤城は、驚いた様だが、大きなリアクションはせず、一方の叢雲は盛大に驚いている。

そして、当の本人たちは、完全に固まっていた。

「それも、そこの長門と、大和を相手取ったらしいな」

「い、いやぁ・・・・・それは、同意の上での決闘でして・・・・決して、何か、縛りを付けるようなものでは・・・・」

「はい・・・私も、彼を認める上で、決闘を申し込んだのであって・・・・というか、私が申し込んで・・・」

ダラダラと汗を流す時打と長門。

「なるほど、豪真がお前の話をするわけだ」

「いやあ、それほどでもない」

玄隆の言葉に、照れたように、頭をかく豪真。

「あとで覚えていろ・・・・」

一方で、時打は恨めしそうに睨む。

豪真の隣では筑摩がごめんなさいごめんなさいと連呼するように頭を上下させている。

「まあ・・・決闘したのは事実ですし、否定する事もしませんが・・・・決して、邪な気持ちがある訳じゃありませんよ?」

「それは、俺が保証しよう。お前もそうだよな?」

「まあな」

時打の訂正、豪真の保証、そして翔真の同意。

「うわあ・・・・長官と壱条提督にここまでやらせてしまうなんて・・・・凄い人なんだなぁ・・・」

「そうね・・・」

三鷹がそう関心し、叢雲がそれに頷く。

「それじゃあ、俺たちもそろそろお暇とさせていただきます」

と、敬礼をした時打と長門は、部屋を出ようとする。

「あ、そうそう、時打」

「? なんでしょう?」

豪真に呼び止められて、振り向く時打。

「依頼されてた建造の件、今日だぞ」

「え!?本当ですか!?」

思わず声をあげる時打。

「ああ、それも――――」

 

 

 

 

 

「――――高速戦艦だ」

 

 

 




次回『高速戦艦!その名は霧島!』



金剛と思ったか?残念だったなぁー!!ハーハッハッhゴハァ!?

不知火「うちの提督が失礼しました。次回を楽しみに」

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