艦隊これくしょん その刀は誰が為に   作:幻在

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瑞鶴編
新戦力


とある竹林にて、一人の女性が木刀を振るっていた。

ただただ素振りを繰り返すのみで、特に技がある訳じゃない。

そんな彼女に、声をかける少女が一人。

その少女の両手には、小太刀の様な木刀がそれぞれの手に一本ずつ。

そんな少女に、女性は微笑み、彼女に木刀を向ける。

少女はそれに応じるように右手の木刀を女性に向ける。

そして・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・ん?」

眼を開け、その眠気に思わず身(じろ)ぎをする瑞鶴。

「んん・・・・んあ・・・?」

一瞬、寝ぼけていたが、すぐに体を起こし、眼を擦った後に大きく伸びをするといった決まった動きをする。

「んふぇえ~・・・だめですよぉ~・・・・てぇとくぅ~」

と、どこからか腑抜けた声が聞こえ、そこへ視線を向けると、反対側のベッドで何やら良い夢を見ている様子の翔鶴がニヤニヤしながら身動ぎしていた。

「全く、翔鶴姉ったら」

そんな姉の様子に思わず微笑む瑞鶴。

そして、姉から視線を外し、少し浮かない顔をする瑞鶴。

「・・・・どうして・・・あんな夢を・・・」

すでに忘れていたと思っていたあの頃の夢。

「・・・・忘れられる訳ないか」

そう、一人納得して笑う瑞鶴。

そして、視線はクローゼットへ。

ベッドから降りた瑞鶴は、クローゼットを開けて、そこにある、二本の木刀に目を付ける。

そして、それを片手でまとめて手に取る。

「・・・・また、やってみようかな」

そう呟き、瑞鶴は鎮守府の外へ出る。

 

時刻はマルゴーサンマル――――午前五時三十分。

 

まだ起床には早いが、それでも、練習するにはいい時間だろう。

そこへ・・・・

「よう瑞鶴」

「あ、提督さん」

と、鎮守府の外周を走って来たであろう時打がやってきた。

「どうした?こんなに朝早く」

「ちょっと、眼が覚めちゃって」

「ふ~ん・・・それでその木刀は?」

「え・・・・あ・・・・」

と、時打は、瑞鶴の両手に収まっている小太刀サイズの木刀に目を付ける。

「これは・・・」

「良かったら練習相手になってやろうか?」

「え・・・」

時打の提案にきょとんとする瑞鶴。

「それ持ってるって事は、多少はできるんだろ?こんな時間じゃあ相手もいなさそうだし、俺が相手になってやるよ」

「・・・・折らないでよ、これでも大事な思い出なんだから」

「わかってる。鞘でやるよ」

と、竹林に移動した時打と瑞鶴。

時打は鞘から刀を抜き、その刀を竹に立てかけ、鞘の方を持つ。

そして、鞘を右手に、右半身になる時打。

一方で瑞鶴は、左半身になり、右手の木刀を時打に向け、左手の木刀を頭上に持っていき、その切っ先も右手と同じ方向に向ける。

木葉が舞い、ハラリとその場におちる。

「・・・・行きます」

「来い」

瑞鶴がそう宣言し、時打はそれに答える。

そして、瑞鶴が踏み込んだ―――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

四月九日。

マルキュウマルマル――――午前九時。

執務室にて。

「最近、流石に俺もここの戦力不足を感じるようになってきた」

時打が執務机でそう言う。

「だれかが中破、もしくは大破する度に、長時間の入渠が必要になってくる。これだと、いざって時の出撃ができなくなる」

「それは確かに問題だ」

その時打の言葉に、同意する長門。

「だから、俺がこの鎮守府に来て初の建造をしようと思う!それで来てもらったのがお前たちだ」

と、時打は目の前いる艦娘たちにそう言う。

「軽巡だけでなく、駆逐艦の面倒を見てくれている川内。重巡の事を把握している古鷹。戦艦の事の全般を任している大和。空母組最大の練度を誇る瑞鶴。そして秘書艦の長門。お前たちに、どの艦娘を建造すべきかを聞きたい」

と、時打はそう言う。

最近、単独出撃(クエスト)に手を出してきた時打。

だが、その中で、少し危険なクエスト中破者が出てくる事が多々あった。

その為にゆっくり入渠をさせているのだが、このままでは資源が枯渇してしまう可能性があるのだ。

「ただでさえ報酬の少ない依頼やってるからねぇ・・・」

川内がそう言う。

「練度の低さも問題ですが、確かに戦力の増強は必要でしょう。提督は、何を希望されるんですか?」

大和が続くように言い、時打に尋ねる。

「出来るだけ、装甲が固く、長く運用できる・・・・正直に言って、戦艦あたりが欲しい所だ」

と、時打はそう答える。

「やっぱりそうですよね・・・」

古鷹が、そう反応する。

「提督さん」

そこで瑞鶴が手を挙げる。

「なんだ瑞鶴?」

「今提督さんの権限で使えるドックっていくつぐらい?」

瑞鶴に向いていた視線が一気に時打に集まる。

「俺の階級では一つが限界だ。一度の建造で一隻といった所だ」

「そっか・・・・じゃあ、戦艦を建造するべきだね」

瑞鶴がそう言う。

「何故、そう思う?」

時打が問う。

「戦闘を楽にするには、私たち空母の第一次攻撃もそうだけど、やっぱり、敵を決定的に沈めるには高い火力による砲撃。それを考えると、やっぱり必然的に戦艦になるでしょ?」

と、瑞鶴がそう説明する。

「なるほどな・・・・こんな意見が出たが、異論のある奴はいるか?」

時打の言葉に、誰も何も言わない。

「そうか、それじゃあ決まりだな。建造するのは戦艦。それに見合った資材を送る。良いな?」

『はい』

全員、同時に応える。

「よし、今日は解散だ。お疲れ」

と、それぞれが部屋を出ていく。

そして残ったのは時打と長門、そして瑞鶴だ。

瑞鶴はくつろぐようにソファに座る。

「お前は翔鶴の所に行かないのか?」

「ここで待ってても、結局翔鶴姉はくるからね」

「言えてるな」

時打が問い、瑞鶴が答え、長門が同意する。

と、時打は執務机の上にある一枚の紙を広げる。

「またスケッチか?」

長門は、時打がスケッチブックを使わない事に驚きつつ、そう聞く。

「いや、明石から図面用紙貰ってな。試しに艦載機、設計してる」

「そうなの?」

瑞鶴が興味深そうにまだ書き入れ途中の図面を見る。

「へえ・・・・結構分かりやすく描けてるじゃん」

「そうか?俺、こういうのさっぱりだからな・・・」

「でも、骨組みはしっかりしてる」

そう褒める瑞鶴。

そこへ。

「提督―――!!」

明石が元気良く入ってくる。

「お、お邪魔します」

更には翔鶴。

「お兄ちゃーん!」

「執務、お疲れ様」

「雷様が来てあげたわよー!」

「こら!もうちょっと静かにしなさい」

電を筆頭に第六駆逐隊の面々。

「一気ににぎやかになったな・・・」

「まあまあ、これぐらい騒いでてくれた方が良いだろ?・・・・ほい完成!」

若干引いている長門に、時打がそう言い、図面に最後の一筆を入れる。

「あ、完成したの!?」

「ああ。素人の設計だけど、結構かけたと思うよ。うん」

と、図面を明石に渡す時打。

それを覗き込んだ明石。そして他の面々。

「えー・・・ほうほう・・・・・・・・て・・・・・」

しばらくその図面を眺めていた明石。

だが、突然、それを見たまま固まってしまう。

「・・・・・あれ?明石?」

若干青ざめる時打。

何か気に障る事でもしたのだろうか?

「・・・・これ本当に提督が描いたものですか?」

「あ、ああ・・・・そうだが・・・・」

何故だか明石の醸し出す雰囲気に、その場の全員が引いてしまう。

と、明石はズカズカと扉の方へ歩いていく。

「お、おい!?明石!?」

と、明石は扉に図面を持たない方の片手を扉に手を置いて、止まる。

そして、振り向く。

「・・・・・・明石?」

その顔は――――――――笑っていた。

「待っていて下さい提督。一日時間があれば完成できます」

「え?」

と、勢いよく部屋から出ていく明石。

その明石をただ黙って見送っていく一同。

「・・・・なんだったんだ?」

「さあ・・・・」

流石に、長門でも今の明石の行動は理解できないらしい。

 

 

 

 

 

それから数時間後、夕張が執務室になだれ込んできて、なんだか明石が怖いと泣きついてきたのは別の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして次の日。マルロクマルマル――――午前六時。

「ふっふっふ~」

「おい明石、なんか顔が怖いぞ」

悪い笑みを浮かべている明石に、引いている時打。

ここは鎮守府の正面の海面の崖。

何故か朝っぱらから呼び出され、

「昨晩、提督が描いてくれたあの図面」

「ああ、あれね。あれがどうかしたのか?」

「実は・・・・それを元に新しい艦載機を作っちゃいました!!」

「な!?」

明石のサムズアップと共に言い放った言葉に絶句する時打。

あんなドシローが描いた図面で何かを作ったというのか?

「お、おい明石。それ、大丈夫なのか?」

「ええ。初めて描いたにしては予想以上な出来でしたよ。あの頃の技術で出来る物であったけど、誰も思いつかなかった設計・・・まさに、天より授かりし設計図・・・・・さあ、御覧ください!」

と、明石は、海上にたたずむ瑞鶴に合図を送る。

瑞鶴は不承不承ながらも頷き、その右手に持たれた『漆黒の矢』を弓につがえ、引き絞る。

そして、放つ。

それは真っ直ぐに飛んでいき、その姿を変え、一機の黒い艦載機に変わる。

「あれは・・・!」

デザインは、時打が設計したものと同一であり、両翼には白い日の丸。

その艦載機は空高く舞い上がると、物凄い勢いで急降下してくる。

その速度は――――あの烈風さえも凌いでいる。

「お、おい!?あれ大丈夫なのか!?」

いくら丈夫に作られている飛行機でも、その全てに、限界速度というものがある。

スピードが上がれば上がる程、その機体にかかる重圧は強くなり、その限界を超えた瞬間、機体が耐えられなくなり、バラバラに分解してしまう。

さらに、スピードが烈風以上となると、いくらなんでも無茶が過ぎる。

そして、その黒い艦載機は、水面ギリギリで平行になろうと機体を持ち上げる。

そのまま物凄い勢いで時打たちの前を突っ切っていく。

「ば、バラバラにならない・・・・」

その事に唖然とする時打。

「最高速度時速814.9Km・・・・・最高高度9000m・・・・・凄い、予想以上の成果ですよこれ!」

「マジか・・・・」

作った本人である明石も驚いてはしゃいでる。

「機体の重量を徹底的に軽くし、かつ、超高度でもパイロットが活動できるように操縦席の居やすさを最大に保ち、さらには秒間三百発のガトリングガンを搭載して、あの速度。装甲とかの強度は烈風と同じなのに、あそこまでの速度が出るなんて・・・・すごいですよ!提督、開発部門の人間だったら、絶対に勲章ものですよ!」

「そ、そうなのか・・・・?」

「はい!」

未だに信じられない様子の時打。

まさか、自分の描いた設計図が、ここまでの性能を発揮するとは思ってもみなかったのだ。

と、どうやら堪能し尽くしたのか、瑞鶴の元へあの黒い艦載機は戻っていく。

そして、矢に戻る。

瑞鶴は、未だに、あの艦載機の性能に戸惑っている様子だった。

「提督!あの艦載機に名前付けて下さいよ!設計者は貴方なんですから!」

「え!?俺!?」

突然、話しを振られ、戸惑う時打。

そして、ぽりぽりと頬をかいて、考えた後・・・・

「・・・・黒風(こくふう)

「ほうほう、それはまたどんな理由で?」

「黒い風みたいだから、黒風(こくふう)。これで良いか?」

「黒風ですか・・・・・良いですね。よし、それじゃあ、あの艦載機の名前は『黒風』です!」

 

 

 

―――――開発により、艦上戦闘機『黒風』が完成した。

 

 

 

 

 

 

 

 

定例会議まで、あと一週間。




次回『定例会議』


ついに、初めての定例会議に出席する時打。
そこで議論される事とは・・・?

お楽しみ!

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