艦隊これくしょん その刀は誰が為に   作:幻在

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事後報告

 

 

「・・・以上で、今回の事態は収拾しました」

通信室で、時打がそうマイクに向かってそう言う。

そして、次に来る言葉を待った。

すると、スピーカーからド派手な笑い声が聞こえてきた。

『ガッハッハ!!あの大和をぶっ飛ばしたか!』

『ちょ!?ていと・・・壱条長官!?なに大笑いしてるんですか!?』

と、スピーカーの向こうで笑っているのが時打をここに送り込んだ壱条豪真その人。

そして、彼にツッコミを入れたのが、彼が鎮守府で働いていた時から秘書艦についている艦娘、重巡の『筑摩』だ。

『流石だな時打!』

「いえ、俺なんてまだまだですよ」

『それに、天翔龍閃(あまかけるりゅうのひらめき)の二撃目を入れられたみたいだしな。流石・・・・おっと、この話は禁止(タブー)だったな』

「いえ、お気遣い無く」

『それはそうと、時打、お前に一つ話しておきたい事がある』

「え?なんでしょうか?」

『ああ、四月に開かれる定例会議の事だ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

医務室――――

そこには、ジェルベッドに座る大和と、その傍らに座る長門。

他にも、何人かの艦娘たち。

大和は高速修復材を使って体は完治したが、どうやら感覚の方はまだ戻っていないらしく、仕方なくベッドに寝ているのだ。

「そういえばよ」

天龍が、ある疑問を口にする。

「あの天翔龍閃(あまかけるりゅうのひらめき)っていう奥義。あれ、一体どうやってあそこまでのスピードが出せるんだ?」

その疑問に全員が騒めく。

二人だけを除いて。

「確かに、双龍閃でも、あそこまでのスピードはでませんものね」

「どうやってやってるんだろ?」

熊野と瑞鶴がそれぞれの疑問を口にする。

「そういえば・・・・」

そこでふと、大和が何かを思い出したかのように左手を顎に乗せる。

「あの時、提督は左足を踏み込んでいましたね・・・・」

「え!?」

そこで声をあげたのは天龍だった。この鎮守府で唯一の剣術を扱う彼女だからこその驚きだろう。

「左足って・・・・右足踏み込んだ後に更に左足を踏み込んだって事なのか!?」

天龍が信じられないような表情をする。

「それがあの奥義の特性なんだよ」

と、それまでリンゴの皮をむいていた響夜が口を開く。

 

 

 

抜刀術とは、本来は自分の刀で足を斬らぬように必ず右足を踏み込むのが定石。

だが、天翔龍閃(あまかけるりゅうのひらめき)の場合、そこから更に左足を踏み込むのだ。

足を斬らないのは勿論、手の振りや腰の捻りを殺さないように、抜刀より刹那の拍子でずらして踏み込む最後の一歩。

その一歩が刀に一瞬の加速と加重を与えて、もともとの神速の抜刀術を、超神速の抜刀術へ昇華させる。

それが天翔龍閃(あまかけるりゅうのひらめき)なのだ。

 

 

 

「そんなたった一歩で・・・」

長門がそう呟く。

「ああ、たった一歩だ」

「だけど、その一歩が難しいのです」

響夜に続くように電が続く。

「どういう事なの?電」

暁が電に聞く。

「その一歩は、捨て身だとか、死中に活を求めるといった後ろ向きな心境じゃ絶対にできないのです。必要なのは・・・・」

「生きようとする意志」

電の言葉を遮り、大和がそれに続く。それでその場にいる全員の視線が大和に集中する。

「あの時、提督の眼には、死にたくないという気持ちでは無く、生きるという気持ちが感じられました。誰かの為に生きようとする。誰かを悲しませたくないから死ねない。そんな気持ちが感じられました」

と、大和はそう言う。

「でも、私が喰らったのはそれ以上の威力を持つ二撃目。見る限り、一度目の踏み込み、抜刀の鞘走り、更に回転による遠心力と二度目の踏み込み、そして空間を挟んでの交差法。これだけの力を集中させたこの二撃目は、明らかに、私が捌いた一撃目よりも威力を遥かに凌いでいる。あれで提督が死なない様に強弱をつけてくなかったら、私は間違いなくぽっくり逝ってましたよ」

「や、やめてくれそんな洒落にならない事を・・・」

大和の言葉に苦い顔をしながら咎める長門。

それに笑いを零す一同。

「本当、とんだバケモノ提督が来たものね」

瑞鶴がそう零す。

「本当、全くだ」

それに同意する長門。

それから、彼女たちはしばらく談笑し、解散した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・四月の定例会議ですか・・・」

『そうだ。お前の鎮守府は一年も提督が不在のために出席できていない』

「そこで、とりあえず出てくれって事ですか?」

『そうだ。更にその会議には元帥も参加する事になっている』

「! 元帥が!?」

元帥とは、軍でいる、最高司令官の事だ。

「元帥が、何故・・・・あの人は本来なら大将のみで行われる最高会議のみでしか出席しない筈・・・」

『あるとすれば、大規模作戦だろう』

「!」

大規模作戦。

それは、いくつかの鎮守府が合同で艦隊―――『連合艦隊』を超える数の『大連合艦隊』を組んで、敵深海棲艦の泊地の奪還、あるいは殲滅といった大規模な作戦の事だ。

これには当然、大量の資材を使う為、かなり資材に余裕のある時にしか決行できないのだが、()()()()()()()()()()()

『日本があの世界中を襲った大地震、『世界大震災(ワールド・クウェイク)』のお陰で資源が山の様に手に入る様になってから、日本は深海棲艦との戦いにかなりの戦果を挙げている。今の所は、別の国でもなんとかなっているみたいだが、どっちにしろ、いずれ他の国の資源は枯渇する』

「だから、俺たちで終わらせないといけないんですね・・・・」

『その通りだ』

と、時打の言葉を肯定する豪真。

「分かりました。一応会議には出席しましょう」

『ああ、秘書艦はちゃんと連れてくるんだぞ』

「分かってますよ。では」

と、通話を切る。

そこで一息吐く時打。

そして、通信室の壁にもたれかかる時打。

「・・・アンタはどう思う?『姉さん』」

と、左腕の傷を、右手で握りしめる。




次回、瑞鶴編

『新戦力』

新たな戦力、それは一体だれか・・・

お楽しみに!

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