艦隊これくしょん その刀は誰が為に   作:幻在

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赤城「もう二話目ですね」

幻在「ああ、そうだな赤城」アームロック

赤城「いたたたた!?ちょ!?ごめんなさい!ボーキ食うのやめますからアームロックはやめて下さい!」

幻在「次はちゃんと許可貰えバカ野郎。いくらうちの鎮守府でたった二隻しかいない正規空母だからってそこまで特権がある訳じゃないぞ」

赤城「うう・・・すみません・・・」

吹雪「まあまあ司令官。漫才はともかく、そろそろ本編に行きませんか?」

夕立「ねえねえ、夕立の出番まだ~?」

幻在「まだだ。かなり先になるが我慢してくれ」

夕立「う~、ケチ~」

幻在「そう思うならキス島で戦果上げてこい」

初霜「では、本編をどうぞ!」


大和の過去 其ノ弐

いつもの服装に着替える。

妖精たちが治してくれたのか、綺麗に元通りになっている。

廊下を歩いてみると、あの頃、とまで言わないが、それでも、皆に元気が取り戻されていた。

時々、こちらをちらりと見る艦娘もいたが、声をかけてくる事は無かった。

そうしている内に、執務室の扉の前にたつ。

「・・・・・」

そこで少し深呼吸をして、扉をノックする。

「大和です」

「入ってくれ」

返って声に従い、大和は執務室の扉を開ける。

そこには、執務机ではなく、その前にあるソファに座っている時打の姿だった。

他は誰もいない。

「・・・」

「秘書艦の長門には席を外して貰ってるよ。なんだか嫌なムードだったからな」

「はあ・・・」

「さ、座ってくれ」

「いえ・・・・お気遣い無く・・・」

と、遠慮する大和。

「いやいや、立っていても疲れるだけだろ?話しは長くなりそうなんだし、駄菓子もあるぞ」

と、向かい合っておかれているソファの間にある長方形の机には、確かにせんべいなどの菓子が置かれていた。

「・・・・分かりました」

と、大和は観念して、時打の向かいに座る。

「それで・・・・」

時打は、大和に対して、一度も笑みを向けていない。

それが、何を意味するのか、分からないが、とにかく大和も油断しないようにしていた。

いつ、自分の心の隙に入り込んでくるか、分からなかった。

「それで・・・・なんで帰ってきた?」

「え・・・?」

「何故、今頃になって帰ってきた。このまま帰らなければ、戦う事はもうしなくて済む筈だが?」

「それは・・・・」

よく考えてみると、自分は、ここに帰ってくるまでの記憶がすっぽりと抜けてしまっている。

思い出そうとしても、何かがフラッシュバックする訳でもなかった。

「思い出せないか?」

「・・・・はい」

そんな大和を見抜くように、時打は問いかけた。

「そうか、それじゃあ、次は、どうしてこの鎮守府を出て行ったかだ」

「ッ・・・・・」

その質問に、口を自ら固く結ぶ大和。

「悪いな。俺はここの提督として、ここの艦娘の事情は全て知っておきたいんだ」

「ッ・・・・それでどうするつもりですか・・・?」

大和は時打を睨む。

時打は、一つ間を置いて、言う。

「別に、なれる事なら相談相手になるさ」

「・・・・・は?」

その以外な返答に口をあんぐりと開ける大和。

「俺じゃあ解決できない事はこの鎮守府にはいくらでもある。まだ過去のトラウマを抜け出せてない艦娘や、提督という存在を警戒している奴だっている。課題がまだまだある」

ただ、と一息おいて。

「出来る事なら、俺が解決したい」

と、俯きながら、そういう。

「・・・・・」

その言葉に、大和は見つめる事しか出来なかった。

だが、大和はまだ彼を信用できなかった。

「じゃあ・・・その刀はなんですか?」

「ああ、これの事か」

と、時打は、自分の左側にある刀に手を伸ばす。

「今の時代、提督でさえも刀を持つ人はいない筈。それでいったい、()()()()()()()()()()()?」

「・・・・」

時打は、何も言わない。

 

―――これだけははっきりさせたい。

 

誰かを殺している人間に、この鎮守府は任せられない。

いずれ、ここにいる艦娘も斬り殺されるかもしれない。

それだけは、絶対に阻止しなければならない。

いや、もう既に、誰かが・・・・

「――――確かに、俺は過去に、何千人もの人を斬り殺した」

「ッ!?」

時打の答えに、身を強張らせる大和。

 

人殺し―――

 

その事実を知った今、なんとしてもこの事を、誰かに―――

 

時打が、鞘に納められた刀を、自分の前に持っていき、ゆっくりと抜き放つ。

「ッ!」

まさか、抜くのか?ここで斬り殺して隠蔽する気か?

思わず、艤装の展開準備に入る大和。

そっちがその気なら、容赦は・・・・

 

 

その刀を見た時、大和は唖然とした。

 

 

「刃が・・・・逆さま・・・・?」

「そう」

と、時打は、抜き放った刀を、机に鞘と平行になる様に置く。

「逆刃刀・深鳳。それがこの刀の銘だ」

「・・・・」

「こんなもので、人が斬れるかよ」

その事実に、大和は唖然とする大和。

「し、しかし、反対の刃で他人を・・・」

「それじゃあ、なんでわざわざ刃を逆さまにつけたんだよ」

「ッ・・・」

確かに、人斬り殺すのが目的なら、わざわざそんな刃を反対つけた逆刃刀など必要無い。

ならば・・・何故・・・?

不殺(ころさず)

「え・・・?」

「それが俺が立てた誓い。誰も殺さないという、俺が過去に殺し過ぎた人々への償いの誓いだ」

「・・・・」

その眼に、偽りなど感じられなかった。

時打は、机に置いた逆刃刀を持ち上げると、それをゆっくりと、鞘に納める。

「さて、これでこの刀の話は終わりだ。さて・・・俺の過去を話せば、お前は何かを話してくれるか?」

「え?」

「その方が公平で良いだろう?」

「そ、それはそうですが・・・・」

もししょうもない事だったらどうしよう。そう考えてしまう大和。

だが、先ほど、何千人も殺したと言っていた。

それはつまり、彼が殺し屋だった頃の話だという事。

 

―――だが、何かおかしい。

 

彼の若さからして、過去に殺し屋だったなんてありえない。

少なくとも、学校には通っていた筈で、それが海軍学校なら尚更、殺しの依頼を受ける事など、受けれても、やる事はできない筈だ。

だったら・・・どうやって。

「飛天童子って名前を知っているか」

「ちょ、まだ聞くとは・・・」

「いいから黙って聞いてろ。俺には、部下であるお前の過去を聞く権利がある」

「ッ・・・・」

そう言われると反論できない。

「それで、どうなんだ?飛天童子って名前に聞き覚えあるか?」

「・・・・・・はい」

かつて金山市に君臨していた最強の人斬り。

子供の身であらゆる敵を討ち取った人物で、金山市壊滅に導いた張本人。

その殺人した数は・・・・実に約三千人。

「それが貴方だと言うのですか?」

「そうだ」

と、時打は、左腕をまくしたてる。

そこには、痛々しい程の刀傷。

「これはその時のものだ。ある相手にやられてな」

「そう・・・なんですか・・・」

大和は俯いてしまう。

「それで・・・・どうしてここを出て行ったんだ?それも海の方に」

「・・・・・」

口を、また堅く結ぶ大和。

「・・・・まだ、信用したとは言ってません」

「そうか・・・・」

「だから、まだ話しません」

と、大和は要件を、破棄した。

「結構だ」

と、時打は椅子に深くもたれる。

「お前、長門たちと同じ部屋にするか?それとも、別に個室で寝るか?」

その状態のまま呟く時打。

これには、少し考え、大和は口を開く。

「別の部屋で・・・お願いします・・・・まだ、顔を合わせられません」

「そうか・・・・この部屋を出て、右に行って、そこの廊下の角をまがれば電がいる筈だ。そいつに案内を任せる」

「はい」

力無く、そう答えて、立ち上がる大和。

そして、部屋を出ていくとき。

「大和」

「?」

時打が呼び止める。

それに振り返る大和。

時打は立ち上がっており、真っすぐにこちらを見ていた。

「・・・・ここの奴と、仲良くしてやってくれ」

大和は、それに返事をせず、出ていく。

そして、でてった時に、ドアにもたれかかる。

「・・・・できませんよ・・・・・・見捨てた大和なんかが・・・ここの子たちと・・・・」

大和は、一筋、頬に光を落とした・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。マルキュウマルマル―――午前九時。

「どうしても出たくないのですか?」

「はい・・・・でたくありません・・・」

「それでも日本最強の戦艦、大和なのですか?」

「今の大和は最強でもなんでもありません・・・」

「ッ・・・・・それでも大和撫子なのですか?」

「大和は大和撫子ではありません・・・」

「名前に大和がついているでしょ!?」

ここは時打が提供した大和の部屋(仮)だ。

中には電と大和。

だが、今、大きな問題があった。

 

 

まさかの大和が引きこもりだったのだ。

 

 

「これは誤算だった・・・・」

「私もですわ・・・」

隣で最上型重巡の熊野がそういう。

なんでも長門が気分が悪いといって秘書艦の仕事を休んで、代わりにしっかりしていそうな熊野に頼んだのだ。

「あの噂の大戦艦が、ここまでの引きこもりだったとは・・・・」

「それは私も同じです」

「流石にこれは予想外だったわ・・・・」

片側には吹雪、叢雲の特型駆逐艦唯一の二人だ。

「大丈夫なんでしょうか・・・」

更に神通もいる。

「・・・・なんか多すぎない」

『それを言ったら負けです』

纏めて一括されてしまい、縮こまってしまう時打。

「あーもー!」

「え!?ちょ!?何するんですか!?」

「手加減!部屋から出ていけ牙突!」

なんか妙に長い名前が出てきたと思ったら、扉が勢い良く相手大和が転げ出てくる。そして、顔面から床に落下。

「むぎゅ!?」

年頃の女の子が出していいのか分からない悲鳴が聞こえ、思わず吹き出しかける一同。

「いたたぁ・・・・・ッ!?」

額を抑えながら起き上がり、時打たちの姿を確認した途端、その顔を一気に曇らせる。

「あ・・・・あの・・・・・」

「あー、やっと出てくれた」

大和の背後から電がずかずかと出てくる。

「って、何初っ端から暗い顔しているんですか?」

「・・・」

大和は何も話さない。

それに頭をかく時打。

「とりあえず、食堂行こうぜ」

「・・・大和は食べすぎます・・・・」

「いや、食べすぎるとか過ぎないとかの問題じゃ・・・・」

「資源が無くなってしまいます・・・」

と、どんどん声が小さくなっていく大和。

「・・・・・熊野」

「私にも無理ですわこれは」

艦娘の、それも日本の軍艦でこういったお嬢様言葉を使うのは熊野だけなので、独特な喋り方に半ば混乱している時打。

「仕方無い・・・・・とりあえず、飯とかは食わなくて良いから、今日一日外で過ごせ。良いな?これは命令だぞ?」

「・・・・・命令とあらば・・・」

と、よろよろと立ち上がる大和。

しかし、未だに、その顔は暗いままだ。

 

―――相当、深いな・・・・

 

「熊野、後で」

「了解ですわ」

と、小声でそう声を掛け合う時打と熊野。

「お前ら、また後でな」

「はい、司令官」

「わかりました」

「分かったわ」

「お仕事頑張ってなのです」

そして、執務室に戻る時打と熊野。

「それで・・・」

時打は、執務机の前に立ち、それに右腕に置く。

「お前なら何か知っている筈だ。大和がいた時に何があったのか」

熊野は、あの前任の提督に最初に建造させられた艦娘だ。

つまり、今の鎮守府では、翔鶴、瑞鶴に次ぐ最古参組なのだ。

「資料よると、大和がいなくなったのは、十年前。それも、あのクソ提督が着任したばかりで、ある作戦に出撃した頃だな」

「はい、その時、私は参加していませんでしたが・・・・」

そこで暗い表情で俯く熊野。

だが、一度、目を閉じた後、熊野は顔を上げ、真っすぐにこちらを見て、告げた。

「資料にある通り、その作戦で帰って来たのは・・・・長門さんだけです」

「そうか・・・・」

短く返事を返し、左手を顎におき、時打は考える。

 

表情を見て、今の相手の心理を見抜く事は時打の十八番だ。

だが、流石に相手の記憶まで読み取れない。できたらそれはすでに異常な発達を見せた科学の域か、超能力の域である。

しかし、その時の事を熊野に聞きたいが、流石にその時のトラウマを呼び起こさせるわけにはいかない。

相手を説き伏せるには相手の過去を知るか、それとも剣を交え、その技から相手の意思を読み取る他無い。

この場合は、相手の艤装、だが・・・・・

 

「最悪、決闘か・・・」

つい、口に出す時打。

「やめてくださいまし。大和さんはあれでもこの鎮守府のエースを務めていた方ですわ。長門さんとは実力が違いすぎますの」

「そうなのか?」

「ええ。大和さんは、今までに長門さんでは沈められなかったレ級を九隻も沈めているのですよ」

「あのレ級をか」

レ級とは、深海棲艦の戦艦で、戦艦ル級の最上位クラスである戦艦ル級改フラグシップよりも上の存在で、一介の艦娘では、一対一で当たるのでは死は免れない。

戦艦並みの火力と装甲、更には雷撃も可能で艦載機も飛ばせる、いわば万能戦艦なのだ。

こんなチートみないな戦艦に今までどれほど苦労させられたかは、言うまでも無いほどに強力な深海棲艦なのだ。

「それは凄いな」

「褒めてる場合じゃありませんわ。当たれば死ぬ事は必至。勝ち目なんてありませんわ」

「でもなあ・・・・」

それでも食い下がる時打。

「はあ・・・・・うちの提督は優しいけどバカなんですのね」

「剣術バカなら否定しない」

「そりゃ剣持ってますからね」

と、ズレた方向で胸を張る時打に呆れる熊野。

「まあ、一応その事も視野に入れとくか」

「ちょ、させませんわよそんなこと・・・・」

「そーいうと思ってー!」

突然、執務室の扉が開け放たれる。

「もう既にあの闘技場の改修工事を始めてるよー!」

と、明石が思いっきりそう報告した。

「ちょ!?明石!?」

「そうか、資材回しとくよ」

「提督まで!?」

時打と明石の行動についてこれなくなってきている熊野。

「なんでしょう・・・この蹂躙されてる感・・・」

ズーンと、項垂れる熊野。

「まあまあ」

そんな熊野の背中をさする明石。

「とりあえず、いつでも良いようにしておくから」

「ああ、頼む。それで、艤装の方は?」

「完璧よ。不調はもうないわ。ちゃんと妖精たちに聞いたから」

ちなみに、おさらいしておくが、艦娘と艤装とその中にいる妖精との関係は、人間の体でいう中枢神経と体と運動神経の関係なのだ。

艦娘(中枢神経)妖精(運動神経)に命令を下し、艤装(からだ)を動かすといった感じだ。

たいていの艤装の管理はその妖精たちが受け持つ。

「そうか、大和の要望は出来る限り聞いてやってくれ」

「アイアイサ―!」

元気よく返事をする明石。

「全く、内の提督は色々と規格外ですわね」

「よく言われるよ」

フッと笑う時打。その様子に呆れる熊野。

「ま、一応準備はしとくよ」

時打は深鳳を持って執務室を出ようとする。

「どこに行くんですの?」

「竹林。いつでもやれるように体を温めておかなきゃ」

「今すぐやるって訳じゃないのに」

「良いんだよ。備えあれば患いなし、ていうだろ?」

「そうですわね。私も見ても良いかしら?」

「構わないよ」

と、彼らは竹林に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鎮守府一階廊下。

「・・・・・」

電は、酷く呆れていた。

さっきから大和がそわそわしているのだ。

ただでさえここは艦娘の数が少ないのに何を気にしているのだろうか?

「大和さん?」

「ひゃい!?」

なんとも情けない声を出した大和。

それにジト目になる電。

一方の大和は顔を赤くし、縮こまる。

「もう少し堂々としたらどうなんですか?」

「や、大和はただ・・・会いたくない人が・・・」

「会いたくないって誰なのです?」

「そ、それは・・・」

電に聞かれ、言葉を濁す大和。

だがそれは、大和たちの進行方向にある曲がり角から出てきた人物によって遮られる。

「あ・・・・」

電は、大和の視線に気付き、その方向に視線を向けると、そこには長門がいた。

「あ、長門さん」

「あ、ああ・・・」

ふと、長門がいつもの調子じゃないという事に気付く電。

そして、長門は大和と目を合わせる。

その視線の先には、怯えた表情で長門を見る大和。

その様子に、見ていられなくなったのか、長門は目を反らし、彼女たちに背を向け歩き出す。

「提督によろしく言っておいてくれ」

「あ、分かったのです」

と、長門をさっさと歩いて行ってしまい、すぐ隣の角を右に曲がっていく。

電は、そんな長門を見送ると、大和の方へ視線を戻す。

そこには、俯き、両手でスカートの裾を握りしめる大和がいた。

「・・・・」

 

―――何があったのです?

 

 

電は、そう心の中でつぶやく事しかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

先ほど長門が曲がった廊下のすぐそこで――――

 

 

バキッ!

 

 

鈍い音が響き、長門が、今自分を殴った()()()()()を見つめる。

「・・・・何をやっているんだ・・・私は・・・」

その声には、酷い後悔が感じ取れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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