艦隊これくしょん その刀は誰が為に   作:幻在

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これで翔鶴編最終回です。
次編は誰が主役なんでしょうね~。

それと、他の小説の為、しばらくこの小説の投稿遅れます。
それだけを了承して、本編をどうぞ。


帰還

マルマルマルマル――――深夜零時。黒河市第五区。

佐加野診療所。

 

 

 

そこを任されている医師、佐加野涼子は机に向かって何かを書き留めていた。

「えーっと。今日は風邪の子供が二人、怪我をした老人一人ね。あとは・・・」

 

ドンドンドンッ!

 

「?」

突然、強く叩かれる扉。

「誰かしら?」

そう思いながら、涼子は診療所の扉に向かう。

まだ強く叩いてくる。

「はいはい、今開けますよ」

そして、扉を開けた。

瞬間に落胆。

「よ、姉ちゃん」

「・・・・」

 

ピシャンッ!

 

「あー、ばからし」

そう口に出してから、ふと、自分の弟、佐加野響夜の左肩に誰かがもたれかかっていた事を思い出す。

瞬間、勢いよく振り向いて、勢い良く扉を開ける。

そして、訝しむような眼で見てくる響夜を他所に、彼の左側でぐったりしている黒い武士服の男を見つける。

「何があったの?」

よくみると、腰に刀を差していた。

他にも、彼の背には顔だけをこちらに向けて苦笑いしている白髪の少女、響夜の右側に小学生ぐらいの身長の女の子が一人いた。

「その前に怪我人いるのにいきなり扉を閉じた事を謝れ」

「うっさい。そもそもアンタが何か言わないのがいけないんでしょーが」

「その前に扉閉じただろ!?」

ぎゃーぎゃーと口喧嘩を始める涼子と響夜。

と・・・

「おい・・・」

ふと、黒武士の男が顔を上げて、左側面から血を流しながら、彼らの喧嘩を止める。

「やばいんだ・・・喧嘩してないでさっさと見てくれ・・・」

「お願いします」

白髪の少女もそういう。

それに溜息をつく涼子。

だったのだが・・・・

「って、アンタ、動脈やられてるじゃない!?」

顔色が悪い男の容態を見て、慌てて、彼女は四人を診療所に入れた。

 

 

 

 

 

「ふ~ん、それで道真邸を潰してきたと」

涼子は呆れながら、タオルを絞る。

黒武士の男と同じ服装の女の子、海軍の天野時打と駆逐艦の電は、部下ともいえる艦娘の翔鶴を助ける為に山の裏にある鎮守府からこの黒河市にやってきた。

そこで響夜と出会い、協力関係となり、そして情報屋を通して翔鶴と思われる道真邸に突撃。

時打の頭の負傷はその時のものらしい。

その後、翔鶴を救出。そして脱出したはいいが、途中で時打に頭の怪我で失血、限界がきて途中で動けなくなり、仕方なく、彼が抱いていた翔鶴を背中におぶり、時打を担いでここまで来たらしい。

「まあ、そんな所だ」

「ハア・・・喧嘩好きの弟がいると、どうしてこうも迷惑事ばっか持ってくるのかしら・・・」

響夜に包帯を巻きながら、そう呟く涼子。

「あ、あの・・・」

そこで白髪の少女、翔鶴が少し遠慮しがちに涼子に声をかける。

「この度は、助けていただいてありがとうございます」

「ああ、いいのよ。ろくでなしな弟だけど、その友達が怪我をしたら治してやるのが、姉の務めだからね」

と、響夜の包帯を巻き終えると、バンッと響夜を叩く。

「はい、終わったわよ」

「ありがとな、姉ちゃん」

「今日は泊っていきなさい。もう遅いし」

「あ、ありがとうなのです」

ぺこりと、お辞儀をする電。

「礼儀正しいわね」

よしよしとそんな電の頭を撫でる涼子。

一方で時打。

現在、怪我の治療をした直後に寝てしまい、規則正しい寝息をたてて寝ていた。

「一応、大丈夫なんですよね?」

翔鶴が、そんな彼を心配そうに眺めながら、そう聞く。

「明日には起きれると思うわ。それに、いつまでも鎮守府を空けとく訳にもいかないでしょ?」

「まあ、はい」

因みに、隠そうと思ったが、治療の際、すぐさま時打の身分証明書を見られたので誤魔化す事ができなかったのだ。

いまごろ、鎮守府の皆は心配している頃だろう。

「では、提督が起きたら、すぐにここを出ます」

「ええ。その方が良いわ」

涼子は微笑み、そう言う。

 

 

 

 

翔鶴と電が寝て、診察室には、響夜と涼子しかいない。

「それで、これからどうするの?」

「どうするって何が?」

響夜は疑問符を浮かべながらそう聞き返す。

「どうって、この辺り一帯を支配していた組織が落ちたのよ?それでどうしてあなたが狙われないと言われないの?」

「う・・・」

よく考えてみると、この黒河市はある組織によって支配されている。

それは警察でさえ手出し出来ない程のだ。

一見して、街は平和そうに見えるが、裏ではその組織の傘下たちが数々の違法行為をやっている。

その傘下の一つを潰したのだから、その組織に狙われていてもおかしくない。

「特に道真の方は武器の買い取りを任されている人間よ。これで、ルートの一つが潰れたわ。おそらく、奴らはどうしても貴方たちを狙うわ」

「なに、そんときゃ返り討ちにすりゃいいだけだ」

「貴方ね・・・・その組織の最高幹部の実力を知ってるの?」

「・・・・」

それは響夜でも知っている。

組織の最高幹部は全部で十人。

正確には、実力面で認められた人材ばかりだ。

一人、一騎当千の力を持つらしい。

「例え、二重の極みを習得したアンタでも、そいつら一人相手をするのがやっと。話を聞く限り、あの時打って人でも連戦はキツイと思うわ」

「じゃあ、どうしろってんだよ?」

響夜は不貞腐れる様にそう聞き返す。

「それはアンタが考えなさい。私はこれでもこの街に唯一の医者よ。そう簡単に相手も手出し出来ない筈よ」

「そうだな。姉ちゃんの腕に叶う奴なんている訳ないな」

ニッと誇らしそうに笑う響夜。

「さて、そろそろアンタも寝なさい。考えるのはその後でも良いでしょ」

「そうだな」

そう、立ち上がり、響夜は診察室を出て行く。

「おやすみ姉ちゃん」

「ええ。おやすみなさい」

 

 

 

マルヒトマルマル――――深夜午前一時。

容態が安定して、顔色も良くなっていく時打。

今はぐっすり眠っており、起きる事もなさそうだ。

一方の翔鶴は、まだ寝られないのか、そんな時打を見ていた。

「・・・・」

 

 

―――あの時、ただ、提督が助けに来てくれた事に、喜びしか感じられなかった。

彼女を建造した、時打が着任する前の前の提督。

その人は、優しかったし、誰よりも、自分たち艦娘の事を気遣ってくれた。

だけど、前に出る事なんて無かった。

深海棲艦との闘いは、あくまで自分たち艦娘の役目。

ただの人である人間がする事では無い。

だから、提督というのは、守られて当然の存在だと、翔鶴は思っていた。

もちろん、そんな彼に恋をする艦娘はいた。翔鶴や瑞鶴はそうではなかったが。

だけど、彼の転勤が決まり、次に来た提督によって全てが崩れた。

艦娘を道具、あるいは自分の娯楽の為の者だと思い、何人もの艦娘を、戦績欲しさに沈めていった。

気付けば、自分と瑞鶴を含めたあの頃の全ての艦娘が消えた。

そして、周りにはあの提督によって建造された艦娘しかいなかった。

ただ、その艦娘たちも、何人もが死んだ。

そして、失った。

長門は陸奥を。

暁たちは電を。

川内と神通は那珂を。

大切な誰かが消えて、心の中に、どこか、ぽっかりと穴が空いてしまった者たちが、沢山いた。

そんな中に、沢山の提督が来た。

皆、翔鶴たちの提督の事を知らない。だから、何度も追い返し、提督がいない日々が一年近く続いた。

そして、そんな中、彼が来た。

長門の放った砲弾を刀で斬り、その場にいる艦娘たちを恐怖させた。だけど、彼が自分たちに放った言葉は、また、衝撃を与える物だった。

 

『生きろ。何が何でも生きろ』

 

翔鶴は、その時はまだその言葉の真意を知らなかった。

ただ、恐ろしかった。

いつ、彼が自分たちに危害を加えるか、それが怖かった。

だから、彼が、助けに来てくれた時は、本当に、嬉しかった。

 

いつの間にか戦う事も出来なくなり、存在意義がなくなった自分を、助けに来てくれた提督。

 

自らの立場が危なくなるのを覚悟の上であの豪邸を襲撃し、怪我を負ってまで、自分を助けに来てくれた提督。

その時は、また、瑞鶴たちと一緒に暮らせるのだと思った。

だけど、よく考えてみると、あの時の自分の気持ちには、もう一つ、ある感情があった。

 

正に、一目惚れともいうべき感情が――――

 

 

「~~~!!」

そう自覚してしまうとつい枕に顔を埋めてしまう翔鶴。

ただ、確かに、あの白コートの男との戦いの時にみせた笑みに、翔鶴は体が火照るのを感じた。

「・・・これが『あの人』が感じた、『恋』という感情なんでしょうか・・・・?」

答えてくれる人はいない。

ただ、そう、信じる自分がいるのもまた事実。

「・・・・これからどうしよう・・・」

だが、一つ、疑問に残る事があった。

あの白コートは、時打に向かって一度だけ言った『飛天童子』という言葉。

あれは一体、どういう意味なのだろうか?

そんな疑問が、どうしても、心に残ってしまう。

そう思いながら、彼女は彼の寝顔を見ながら、眠りに落ちた。

 

 

 

 

 

 

マルキュウマルマル――――午前九時、朝。翌日。

 

『じゃあ、翔鶴は助けられたのか!?』

長門が、携帯越しにそう問いかける。

「ああ。ちゃんと助けられたよ」

診療所の居間にて、時打が自身の携帯の向こう側にいる長門に言う。

『そうか・・・良かった・・・』

時打がそう答えると、長門は心底安心した様にホッと息を吐くのが聞こえた。

と、突然、何か奪い取るような音が聞こえた後、威勢の良い、されどどこか焦っているような声が聞こえた。

『ねえ!翔鶴姉と代わって!今すぐ!』

どうやら、誰よりも姉の安全を確認したいようだ。

「分かった。ほら、翔鶴」

「はい」

時打が自分の携帯を翔鶴に渡し、翔鶴がそれを耳にあてる。

「瑞鶴?」

『翔鶴姉!よがっだぁ~~~!!』

「もう、瑞鶴ったら」

ここからでも聞こえて来るほどの鳴き声が聞こえ、心底安心する時打。

 

 

 

昨夜、時打たちが起こした道真邸襲撃事件。

それによって、見つかった違法武器買取の疑いによって、道真とその部下。更には彼に雇われていた者たちまで拘束されてしまい、文字通り、壊滅してしまった。

当然、時打たちと対決した達也たちも拘束された。

その事はすぐに道真の豪邸のある第七区に知れ渡り、その周辺の五区、四区などにも知れ渡った。

これには多いに動揺する人もいれば、社会のゴミがいなくなったと言う人もいた。

とにかく、その五区を支配していた道真がいなくなった事で、五区の住民は少し混乱した程度で、それほどの大騒ぎにはならなかった。

そう、一般人は・・・・

 

 

 

 

 

「ただいまなのです」

街の様子を見に行っていた電が戻って来た。

「お、おかえり電」

「様子どうだったよ」

響夜が電に問う。

「いましたよ。団子屋でお団子食べてたり、話してる振りして見張ってたりとあちこち」

「まずいな・・・マンホールまで辿り着けるか・・・」

翔鶴は向こうで時打の携帯で鎮守府にいるであろう艦娘たちと話し合っている。

「ほとぼりが冷めるまで、しばらくここにいる方が良いかもしれないけど・・・」

「鎮守府をしばらく開ける訳にもいかない。どうしたものか・・・」

時打が考え込む様に腕を組む。

「とにかく見つからない様にしないといけないわね」

と、響夜の姉の涼子がなにやら包み持ってきて現れた。

「翔鶴ちゃんは・・・と、今は電話中か」

「それは?」

時打が聞くと、涼子が包みの中を開ける。

すると、そこには翔鶴に似合いそうな白い着物が出てきた。

「翔鶴ちゃん用の着物よ。流石にあの恰好のままじゃダメでしょ?」

確かに、翔鶴の恰好は普段、外では着ないような弓道着だ。

普通に目立つし、もしかしたら翔鶴の容姿について何か聞かされているかもしれない。

「ただでさえ翔鶴、美人なんだしな」

「ふえ!?」

「ん?」

突然、素っ頓狂な声が聞こえ、振り向いてみると、通話が終わったのか携帯を持って突っ立っている翔鶴がいた。

その顔は、真っ赤だった。

「え・・・あの・・・その・・・」

「ん?どうした翔鶴?」

「え!?あ!いえ!なんでもありません!それとこれお返しします!」

「お、おう」

妙に慌てながら携帯を返してどっかに行ってしまう翔鶴。

「?」

(気付いてないですね)

(鈍いな)

(鈍感ね)

「何?俺もしかして気に障る事いった?」

三人の視線に冷や汗をかく時打。

「鈍感」

鈍男(にぶお)

「気付けバカ」

「何故か罵倒された!?」

若干ダメージを受ける時打であった。

 

 

 

 

 

「わあ、ありがとうございます」

「良いのよ。それぐらい」

あれからなんとか落ち着いた翔鶴は、涼子から貰った着物を着ていた。

「提督、電ちゃん、どうでしょうか?」

早速二人に見せに行く翔鶴。

「似合ってると思うのです!」

電が笑みを浮かべながらそう褒める。

「ああ、似合ってるよ」

「あ、ありがとうございます」

なんでか知らないが、彼に褒められると心臓が高鳴ってしまうのはどうにかならないだろうか?

まあ考えた所でどうにもならないが。

「おい、そろそろ良いか?」

響夜が何故か大きな包みを持ってやってきた。

ちなみに服装は悪一文字のボロコートの代わりにスタジャンである。

「あー、あれ着てねぇと落ち着かねえな」

「どうしたんだ?それ」

響夜の包みに疑問を持つ時打。

「え?ああ、しばらくお前らの所に世話になるからその荷物」

「へえ・・・て、ええ!?」

今、とんでもない事を言わなかったかこの男は。

今、()()()()()()()()()と言わなかったか?

「なんでだよ!?」

「「なんでですか!?」」

見事にハモる海軍組三人。

「仕方無いでしょ?響夜がここにいると、ヤクザの面子が押しかけてきて乱闘になるからしばらく離れて暮らしてるのよ」

「そ、そうなのか?」

時打たちが目を点にしてそう聞き返す。

「ああ。俺も姉ちゃんに悪いと思ってるからな。仕方ないんだわこれ」

うんうんと頷く響夜。

「どうします提督?一般人を鎮守府に、それも世間から隠されている所に招くなど・・・」

「既に山裏の鎮守府の事はこいつにバレているし、ここの情報屋にはもうとっくにバレてるみたいだし、別に上にバレなきゃ問題ないだろ?」

「そんな事言ってると本当にバレてしまうんじゃないんですかお兄ちゃん!?」

ちなみに、長門たちにはこの事を話していない。

理由はすぐさま翔鶴に代わったからだ。

「と、とにかく長門に聞いてみよう・・・」

と、また携帯を取り出し、長門に事の顛末を話す。

「―――――と、いう訳なんだが・・・」

『まあ・・・一応、悪い人ではなさそうだが、大丈夫なんだろうな?」

怪しむような長門の声が電話越しに聞こえる。

「大丈夫だよ、見た目はあれだが内心良い奴だから」

『まあ、お前がそう言うならそうなんだろうが・・・翔鶴や電は良いのか?』

「はい。大丈夫なのです」

「あれでも恩人ですから」

電と翔鶴がそう言う。

『そうか、分かった。先にこちらから皆に説明しておく。あとは、無事に帰って来い』

長門は最後にそう言い残し、電話を切った。

「よし、良いそうだ」

「よっしゃ!悪いな」

ニッと笑う響夜に、つられて笑う時打。

「そうと決まれば、あとは実行あるのみだ!」

と、荷物を担ぐ響夜。

「そうだな。準備は良いか?翔鶴、電」

「はい、いつでも行けます」

「はいなのです」

着物に着替えた電を見て、準備OKだという事を確認する時打。

時打も、黒の武士服から藍色の武士服に着替えている。

「よし、それじゃあ行こうか!」

 

 

 

 

 

「そのマンホールの場所はまだなのか?」

「ああ。もう少しかかる」

追っ手の目を搔い潜りながら、彼らは鎮守府に続くマンホールに向かう。

もし、マンホールに入る所を見られれば、そこから敵がなだれ込んでくるかもしれない。

それだけは避けなければならない。

一応、翔鶴は布で顔を、髪は着物の下に隠している。

だが、一応誰にも見つかる事なくマンホールまでにつき、入る所も見られていないので、安心した。

そして、薄暗い地下水道を突き進んでいき、そして、目の前に梯子が見えてきた。

「ここだ」

「いよいよか。どんな所なんだろうな?」

「まあ、良い場所とだけ言っておく」

そして、梯子を上り、マンホールを開ける。

その先は、黒河鎮守府の裏手だった。

「ここが?」

「正面はこの先だ。行こう」

四人が出て、そして、海岸が見える、正面に向かった。

そして・・・・

 

 

 

「翔鶴姉!」

「わ!?」

瑞鶴が勢い良く翔鶴に抱き着く。

「翔鶴姉!翔鶴姉ぇ!」

「瑞鶴・・・瑞鶴・・・!」

きつく抱きしめ合う姉妹。

その眼からは、涙を流していた。

「司令官――!電――!」

「ん?雷か」

更に、身長が電ぐらいの似た顔をした少女、雷がやってきた。

「おつかれ」

「はいなのです」

「おう」

そして、もう一人。

秘書艦の長門だ。

「おかえり、提督」

「ああ」

彼女は時打に挨拶をすると、彼女は響夜の方へ向かう。

そして、彼の前で止まると、敬礼をする。

「この黒河鎮守府で秘書艦を務めている長門だ。今回の件で、貴殿の協力に感謝する」

「いや、そんな堅苦しいのは無しにしてくれないか?むず痒くて仕方が無い」

「今は少し我慢してくれ。そして、貴殿をこの鎮守府でかくまうという話だが、全員の了承を得た」

長門は、敬礼を解き、その右手を響夜に差し出す。

「ようこそ、黒河鎮守府へ」

「おう、よろしく」

響夜も、ガシッと、長門の手を握り、握手をする。

ふと、鎮守府側からいくつかの足音が聞こえてきた。

振り返ると、そこには、この黒河鎮守府に在籍する、たった約三十隻の艦娘たち。

「提督」

長門が後ろから声をかけてくる。

「改めて、歓迎会だ」

「え?」

一瞬、茫然とした時打を他所に、長門は彼女たちの元へ。

そして、先頭に立つと、声を挙げた。

「天野司令官に敬礼ッ!」

そして、全員がバッと敬礼をする。

「ッ・・・・」

その光景に、少し圧倒される時打。

中には、少しぎこちない者もいる反面、自分に信頼を置くかの様なしっかりとする者もいた。

「司令官」

ふと、時打の傍らにいる電が仮称で呼びかけてくる。

「何か言う事は?」

気付けば、翔鶴や瑞鶴、雷もやっていた。

その光景に、フッと笑った時打は、この場にいる全員に向かって言い放つ。

「俺が、お前たちに告げる命令はたった一つ」

 

沈めはしない。悲しませたりなどしない。

 

「生きろ。何がなんでも生きろ。だけどそれを理由に、仲間を見捨ててはならない。必ず、皆で生きろ。鎮守府(ここ)は、お前たちの家なんだから」

 

 

この刀、汝らが為に――――


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