ベレッタの銃口が火を吹く。
左右誤差0.5秒だ。
それを時打は逆刃刀の逆刃で切断。
それと同時に駆け出す。
間合いでの勝負は確実にこちらが不利。
拳銃は飛び道具であるが故に、射程も長い。
それに比べこちらは刀。一応、間合いの外からの攻撃方法もあるが、それは使えば大きな隙を作る上に一時的に武器を手放してしまう事になる。
ならば、一気に距離を縮め、敵をこちらの間合いに入れる。
飛天御剣流の売りはその速度。
高速で動くが故に『神速』と呼ばれているそのスピードを生かし、接近する。
そして、時打は達也をこちらの射程に入れる。
右手に持った逆刃刀を体の左に持ってきて、横一線に薙ぐ。
それを達也は飛んでかわす。
そのまま銃撃。四発。
時打は右に走って回避。
(下手に龍翔閃や龍槌閃は撃てないか)
龍翔閃は相手をしたから相手を押し上げる技。一方で龍槌閃は空中から剣を叩き落す技だ。
一方で敵は空中でも攻撃が出来るが故にその様に一度放つと隙を作る技では下手に放てない。
そう考えている内に達也が地面に着地する。
そのまま銃撃を続行する。
それを横に走りながら回避し続ける時打。
「どうした?その程度か?」
達也が笑みの一つも浮かべずそう言う。
まさに、氷の闘争心。
「まさかな」
だが、時打はいきなり逆刃刀を振り上げる。
「!?」
それに一瞬、疑問に思う達也。
だが、今時打の足元にある物が眼に入り、とっさに防御に移る。
それは、ガトリングガンの残骸だ。
「土龍閃ッ!」
その残骸が物凄い勢いで達也に突っ込み、達也は防御はまずいと悟ったのかすぐさま転がって回避する。
その一瞬の隙を突いて、時打は接近する。
もう一度達也を射程に収める。
「くッ!」
達也は左のベレッタを時打に向けるが、いきなり時打の姿が消える。
「上か!」
否、飛んだのだ。
「ハァァアッ!」
上からの叩き落し、『龍槌閃』が、達也がとっさに下がった事で、その床が砕け散る。
しかし、直ぐに態勢を立て直し、すぐさま達也に接近。
達也が右のベレッタで時打の頭を撃ち抜かんと引金を引き、時打はしゃがんで回避。すぐさま銃口をしたに向けた達也はもう一度引金を引いて発砲。今度は体を右に向けながら左に体を移動させた事で回避する。その態勢のまま時打は剣を下段から振り上げ、達也は頭をさげて回避。だがすぐに刃を返し上段から振り下ろす。今度は達也が体を左に向け回避。右足をさげ、左のベレッタを時打に向けて引金を引く瞬間、時打がそのベレッタを弾き、左腕が大きく上がる。そのまま振り下ろすも達也が両手のベレッタを交差させて防ぐ。
そのまま鍔迫り合いに突入。
「く・・・」
「グ・・・」
ギリリッ、と互いの武器を押し付け合う。
だが、一瞬、達也が押し込み、そのまま押し切られる。
「うあ!?」
態勢を崩す時打。
そんな時打に左のベレッタの銃口を向ける達也。
そして・・・・
「・・・・開いてる」
なんて不用心なのだろうか。
ちょっとした人質なのだからしっかりと監禁しなければならないだろう。
翔鶴はそう思いながらも、寝室を出る。
道真がこの部屋を出て行ってから、すでに一時間近くが経過している。
外での戦闘の音が聞こえなくなり、扉が勢い良く開けられる音がしたので、きっと彼らが入って来たのだろうと確信していた翔鶴だったが、その数分後に聞こえた銃声で、翔鶴は不安に駆られたのだ。だから、居ても立っても居られず、こうして部屋を出てきたのだが、まだ銃声が聞こえる。
「大丈夫ですよね、提督」
そう思いながら、彼女は廊下を走る。
肌足の上に今は冬。更にはここまで広いとなるとどこもかしこも暖房が効いている訳がない。大理石の床が冷たいのは当然の事。
だが、止まっていられない。
翔鶴は廊下を走り続ける。
そして、角を曲がった先に、扉が見える。
そこから連続して銃声が聞こえる。
そっと開ける。
目の前には、何故か更に階段。
しかし、どうやらどこかのパーティールームらしく、両側から下が見えそうだった。
そして、そこを左に曲がって下を見た瞬間・・・
ダアァァァンッ!!
「え?」
一発の銃声と共に一人の見覚えのある人物が、頭から血を引き出して倒れていくのが見えた。
黒い髪に、少し整った顔立ち。
黒が主な江戸時代の頃の様な服。
そして、その右手に持たれた、剣の反り側に峰があり、その反対に刃がある、逆刃刀。
それはまさしく・・・・
「提督―――――!!」
翔鶴が悲鳴を上げる。
次の瞬間、時打が眼を見開き、左手を床に着き、そのままバック転して、床に着地。
片膝を床に着きながら、左手で頭の左側頭部を抑える。
生きてる・・・・
そう安堵した翔鶴はその場にへたり込む。
「ギリギリの所で頭を右に傾けたか・・・・・」
そう関心する達也を他所に、時打は翔鶴の方を見る。
外傷の無い翔鶴を見て、ホッと安心した様な表情の後、ニッと微笑む様に笑う時打。
そして、立ち上がる。
「待っていてくれ」
そう、一言言った。
その言葉に、ほのかに体が火照るのを感じながら、短く。
「・・・・はい」
そう、返事をした。
一方で、時打は翔鶴の姿を見て安心した事は本気だ。
だが、そもそも頭の側頭部をやられて、そこにある動脈を斬られている状態で大丈夫な訳が無い。
笑ったのは翔鶴を安心させる為の物でもあるが、ある意味ではやせ我慢とも言える行為だ。
もはや時間はかけていられない。
時打は逆刃刀を鞘に納める。
「? 抜刀術のつもりか?」
「時間が無い。こいつで決める」
そう言い、時打は、
「本気か?間合いの外で抜刀術を狙うのは無謀だと思うが?」
達也が面白くないとでも言う様にそう吐き捨てる。
「なあ、お前。俺が床を砕くのに使った技の名前を知っているか?」
「?
達也は、そういった。
それを聞いた時打は、ニッと、不敵な笑みを浮かべた。
「なら、安心だ」
瞬間、時打は思いっきり体を反時計回りに捻じり出す!
今の時代、『るろうに剣心』の名前を知っている者はいても、その中身を知っている者は少ない。
それが意味する答え。それは・・・・
「飛天御剣流抜刀術ッ!!」
そう叫び、時打は捻じれたバネが戻る様に体を回転させ、左手の親指で、刀の鍔を弾き飛ばすッ!!
「何!?」
これには流石に予想外だったらしく、反応が遅れるも、もう遅い。
「飛龍閃ッ!!」
鞘から矢の様に刀を弾き飛ばすこの技は間合いの外からの戦闘中に一回しか使えない貴重な技、『飛龍閃』。それ以降は警戒されて当たる確率がかなり下がってしまう。
だからこそ、こういう虚を突くタイミングで放つのが最大の得策。
弾き飛んだ逆刃刀の柄頭が、達也の眉間に直撃する。
「まさか・・・刀その物を飛ばしてくるとは・・・」
あっぱれとも言う様に、その場に倒れる達也。
「ハア・・・ハア・・・お、終わった・・・」
その場に膝まづく時打。
先ほどの攻撃で、左側頭部の傷口から血が更に噴き出す。
「提督!」
翔鶴は急いで下に向かうべく、すぐ先にある階段を駆け降りる。
そして、先ほど道真が出てきた扉から出る。
「提督!」
もう一度、彼の仮称を呼ぶ。
そのまま走り寄ろうとした瞬間、誰かに後ろ襟首を捕まれ、後ろに引っ張られる。
そして、誰かの右腕が首に回され左側頭部に何かが押しつけられる。
「動くなァ―――――!!」
「・・・は」
鬼村のコークスクリューのダメージで気絶させられた響夜。
だが、十分ぐらいで意識を取り戻し、起き上がる。
「おー、いてぇ。寝たのにまだ痛むとかこいつのパンチとんでもないな」
「そうだな」
「ッ!?」
いきなり後ろから声が聞こえ、振り向くと、そこには電を抱えた鹿丸がいた。
「な!?」
「わー!待った待った!」
電を取り戻そうと急いで立ち上がる響夜に片手を突き出す鹿丸。
「こいつは今、俺のナイフに塗り込んだ毒で麻痺ってるだけだ。本当は致死量なんだが、どういう訳か、死なないんだよなコイツ」
と、電を見る鹿丸。
よく見ると、規則正しい寝息を立てて寝ているだけだった。
「それに、負けた相手にわざわざ動けないところで止めと刺す後味の悪いことなんてしねえよ。それに、解毒薬も飲ませたし、そろそろ・・・」
「ええ、おかげでよ~く聞いたのです」
「え?」
突然、電が起きたかと思うと、腹に肘鉄を喰らい、地面で悶える鹿丸。
「ここまで運んでくれてありがとうなのです」
「おま、わざわざ仇で返す必要ないだろ・・・」
ふん、とそっぽを向く電。
一方で、鬼村のダメージは相当のものらしい。
「ぐ・・・う・・・・」
「おい、生きてるか?」
響夜がよろよろと鬼村に歩み寄る。
どうやら、まだ大丈夫のようだ。
「ああ。生きてはいるが、左腕はまずいな・・・・・誰か、棒とか持っていないか?」
鬼村がそう聞くと、電は仕方ないかのように、小太刀を鞘ごと帯から外し、鞘から小太刀を抜く。
そして、どこからか布を取り出し、鞘の方を鬼村の腕に押し当て、布で巻く。
「すまんな、娘」
「戦意の無い者には手を貸せ。お兄ちゃんの教えなのです」
そうこう言っている間に応急処置が終わり、立ち上がる鬼村。
「さて、俺らは時打たちの所に行くがどうする?」
と、階段の前に立つ響夜と電。
「俺たちも行こう。どちらにしろ、俺はこれじゃあ危害を加える事など出来ん」
「俺の方はいつの間にか投げナイフ没収されとるからな」
気が付くと、電の腹に鹿丸が太ももに巻いていた投げナイフのホルダーがあった。
「危険物はボッシュートです」
「シュートしてないだろ」
「いいのです!」
その様なボケ突っ込みをしながら、彼らはこの先にあるパーティーホールに向かう。
そして、扉を開けた瞬間・・・・
「動くなァ――――――――!!」
『!?』
翔鶴を捉えた道真が彼女に黒いリボルバー拳銃を押し当てている所だった。
「!? お兄ちゃん!?」
「電」
時打が電の声で振り向く。
左側頭部を負傷したようで、左手で抑えていた。
「達也・・・」
「気絶してやがる・・・」
一方、時打の後ろで大の字になって気絶している男が一人。
どうやら達也というらしい。
「野郎・・・」
響夜は道真の行為に激昂していた。
「お前らァ!今動いたら、この女を殺す!いいな!殺すぞぉ!」
先ほど、時打の一撃で伸びていた筈の道真。なぜ奴がこんなに早く気が付いたのかというと、答えは単純明快、時打が手加減したからだ。
逆刃刀といっても、威力を誤れば、相手を殺しかねない武器と同じだ。
だから、こういうひ弱な人間には手加減をしたのだが・・・
「お前・・・」
時打が立ち上がろうとした瞬間・・・・
「ッ!?」
ズダンッ!!
とっさに横へ転がり、飛来してきた弾丸を回避する。
「動くなと言っただろぉ!!」
「だめだ。完全に錯乱していやがる」
完全に血走っている道真。
どうやら、手加減したつもりが、頭のネジを一本吹き飛ばしてしまったようだ。
「ヒヒッ、どうだあ、この俺様が優位に立っている。この女がいれば、俺は無敵だァァ!ヒャハハハハ!!!」
狂ったように笑う道真。
「て、提督・・・」
涙目になって助けを求めるように時打を見る翔鶴。
「く・・・」
電も飛龍閃を撃てない事は無い。だが、今鞘は鬼村の折れた左腕を補強するために使っており、小太刀の方は今自分の右手にある。
投げれば当てられないことは無いが、だが、それまでに奴が翔鶴を撃つまでに間に合う保証は無い。
詰んだか・・・?
次の瞬間ッ!
「ぎゃぁ!?」
いきなり、何かの意を決したのか、翔鶴が道真の手を噛んだ。
それにより、道真の拘束を逃れる翔鶴。
「電ァ!!」
時打の怒号が響き、電は小太刀を振りかぶる。
「しゃぁぁんなろぉぉぉぉ!!!」
高速で回転しながら道真に向かって飛んでいく電の小太刀。
「この
道真がそれには気付かない様子で翔鶴に銃口を向ける。
間に合わないッ!
道真が引き金を引き、弾丸が発射される。
それがまっすぐに翔鶴の背中を狙う。
だが、そこへ電の小太刀が飛来し、弾丸の軌道を逸らす。
「ナァ!?」
これに驚く道真。
「提督!」
「翔鶴!」
走ってくる翔鶴を抱きとめる時打。
だが・・・
「終わりだァ!」
道真は往生際悪くまたしても銃口を向ける。
「死ねぇ!」
「く・・・」
「ひっ!」
翔鶴が小さく悲鳴を上げた瞬間・・・
ダァァアンッ!!
一発の銃声が放たれた。
血が飛び散る。
「な!?」
「え!?」
響夜と電の表情が驚愕に包まれる。
それは、鹿丸も鬼村も同じだった。
そして―――――時打と翔鶴も。
血を流したのは道真だ。
そして、そんな奴に弾丸を打ち込んだのは――――――達也だ。
「達也!?」
「ふん」
時打が彼の名を呼び、達也はつまらないものでも見るかのように無表情だった。
そして、道真は床に仰向けになって倒れる。
「・・・・殺してないよな?」
「とっさだったから、心臓に当て損ねた」
ベレッタをコートの下のホルスターに入れる達也。
「もとより、こんな男の事は単なる雇主。護衛の任務が失敗した時点で契約は破棄されたも同然だ」
「容赦ねえなおい・・・」
響夜が顔を引きつらせながらそう言う。
「そんな事より、さっさと行ったらどうだ?じきに警察が来る」
達也が、時打の方を見る。
「え?あ!?」
そこで思い出したのか、大いに慌てた表情になる時打。
「そうだった!急いでここから出ないと!」
時打は軍人だが、その軍人がこんな犯罪染みたことをしていたなんてバレればすぐさま解任されて終わりだ。
その上、艦娘である電もいる事に加え、一般人扱いされている響夜も協力していたなんてバレればもっと立場が悪い。
「裏道がある。そこを使え」
達也が指さす場所。それは、翔鶴がいた寝室のある上の階だ。
「良いのか?」
「どっちにしろ、
地味にカッコいいセリフを吐く達也。
「そうか・・・・ありがとう」
「礼を言っている暇があるならさっさと行け。それと捕まるな」
そう言い残した達也を置いていき、時打は翔鶴を横抱きする。
「て、提督!?」
「ほら、行くぞ」
「あう~」
俗にいう。お姫様抱っこである。
当然、逆刃刀は回収した。
電の鞘の方は、ガトリングガンの残骸から出てきた鉄棒で代用したから問題は無い。
そして、時打たちは、道真邸を脱出した――――。
次回、翔鶴編最終回です!
ちなみに次編あります!
ですので楽しみにしてください!
では!