真・仮面ライダー 〜CASE・8〜   作:リアクト

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後でこっそり修正するかも。


第9話「再会」

sideA

 

「比企谷、明日の日曜日空いてない?」

 

 土曜日、バイトが終わった八幡は、「アミーゴ」で沙希のコーヒーとハヤシライスを食べていた。

 週末のバイク屋は混む。それも半分以上は金にならない。立花の人柄と人の良さのせいで、ちょっとした修理なら無料でやってしまうのだ。ここと立花レーシングとアミーゴ以外にも家賃収入はあるようで、維持自体は問題ないようだが、余裕があるとは言い難い。以前陽乃から出資の提案があったが、「趣味だから」と笑って断ってしまった。困ったもんだと思いつつ、そんな立花を八幡や沙希は好ましく思っていた。

 

「昼からなら空いてるな。なんかあんのか?」

「ちょっとね。大型取ったし、欲しいバイクがあるんだけど、ちょっとそれで相談に乗ってもらいたくて。あと京華があんたに会いたがっててさ、もし暇ならうちに来てくんないかなって」

「けーちゃんか、そういえばしばらく会ってないな。わかった、じゃあ昼ごろな。飯はどうすんだ?」

「あんたが良ければ用意しとく。いつもいつもあたしのご飯だし、どっかで食べてきちゃってもいいけど」

「いや、頼むわ。お前が作ってくれんならそれが一番美味い。おれがトマトを我慢してでも食えるのはお前の弁当だけだしなぁ」

「っ、わ、わかったよ。・・・あんま期待しないでよね」

「じゃあ期待しないで楽しみにしてるわ。なんか持ってくか?カタログとか」

「んー、一応持ってるし大丈夫かな。じゃあ明日待ってるから」

「おう」

「あーいかわらず仲良いわねー」

 

 言いながら入ってきたのは陽乃である。

 

「なんかもう恋人通り越して夫婦よね。あの比企谷くんがすごい自然に会話してるし、ひねてもいないし」

「元からひねてるつもりはないんですけどね。・・・なんかすごい気が抜けるっていうか、考えないで言葉が出せるんですよね、川崎だと」

「って言ってるけど、どうなの?紗希ちゃん」

「えっ、えっと、そ、そうですね・・・。でも学校では会話したことないんですけどね」

「おれも川崎も、あと材木座も、学校では独りだよな。材木座はちょっとアレだけど」

「人の彼氏に向かってアレって・・・まぁ、でも分かる気はするけど。・・・ね、比企谷くん」

「なんすか?」

「・・・あのさ、ちょっと言いにくいんだけどさ」

「はい」

「去年一緒にいた子、どうしたの?・・・女の子より可愛い男の子」

 

 急に空気が冷めた。

 沙希は陰鬱な表情で俯き、八幡の目は表情を無くす。それは、ある意味一番聞いてほしくないことだった。

 

「・・・すいません、ちょっと話したくないんです」

「・・・そっか、ごめんね」

「なんで急にその話なんすか」

「うん、ちょっとね。気のせいならいいんだけど」

「気になりますよ、そこまで言われたら」

「そうだよね。・・・あのね、昨日のことなんだけど、うちのPCに匿名で資料が送られてきたのよ。・・・これ」

 

 そこには氏名や年齢、性別などと一緒に、1〜4までの数字がふられている。なにかのリストなのは間違いないが、具体的にこれとわかるようなものは書かれていなかった。

 

「年齢も性別もバラバラですね。・・・え」

 

 数ページに渡るリストをパラパラとめくっていた沙希の目が、ある一点で止まった。そこには、とある人物の名前が書かれていた。数字は3となっている。

 

「なんだ、どうした川崎」

「え、や、ちょ」

 

 八幡は紙をひょいと奪うと、川崎の目が止まったあたりを探った。

 

「・・・おいなんだこれ・・・」

 

 そこには「戸塚彩加 16歳 男 3」と書かれていた。

 

「なんで戸塚の名前がここにある・・・」

「そこで最初の質問だったんだけどね。比企谷くん、紗希ちゃん。戸塚彩加くんのこと、なんて聞いてる?」

「え・・・と、戸塚は事故で亡くなったって・・・」

「おれもそう聞いてます。部活帰りの事故でと。葬式も出ました」

「だよね。わたしも義輝からそう聞いた。とすれば、これは死者のリストなのかな」

 

 陽乃の死者、という言葉に沙希はびくっと肩を震わせた。八幡は険のこもった視線を陽乃に向けている。陽乃はその反応を予想していたのか、特に気にしていない様子で続けた。

 

「ただね、気になるんだよね。比企谷くんなら気づくんじゃないかな。・・・戸塚くんがもう亡くなってるとしたら、ちょっとおかしくない?このデータ」

「何がですか。特におかしいところなんか・・・」

 

 八幡は気づいた。戸塚が事故にあったのは、去年高校に入ったばかりの部活帰り。丁度今頃だったはずだ。今はまだ4月。戸塚の誕生日は・・・

 

「気づいた?」

「はい。年齢・・・享年15歳、のはずです」

「ちなみにこのデータ、他の人も検証してみたんだけど、みんな亡くなったことになってるんだよね。だけど」

「年齢は上がってる・・・?」

 

 陽乃はうなづくと、資料を鞄にしまった。

 

「わたしと義輝は、このデータの出処は財団じゃないかと思ってる」

「「!!」」

「まだ想像の範疇ではあるんだけどね。確証がないからなんとも言えないけど、わざわざ技研に送ってきたことといい、かなり近い線じゃないかな。さらに言えば、改造兵士の素体にされてる可能性、とか」

「・・・仮にそうだとして、これだけじゃ何もしようがないですね」

「比企谷・・・」

「比企谷くんは、これが本当だったらどうする?」

「・・・言ったでしょう。これだけじゃ何もしようがないですよ。けど、仮にあいつが生きていて、改造されてて、敵として会ったら・・・」

「戦えるの?」

「出来るかどうかじゃない。やらないといけない。・・・んでしょうけどね」

「比企谷・・・?」

「戸塚を手に掛けるなんて出来るわけない」

「・・・てことはつまり」

 

 陽乃は出来るだけ平静を保つように、極めて冷淡な口調で言い放った。

 

「比企谷くんは手も足も出せず、ただ殺されることになるのかな」

 

 沙希は哀しい目で八幡を見つめた。八幡と戸塚の関係性はいまいちよくわからない。沙希が八幡と会ったのは戸塚が亡くなる直前。知り合ってすぐに、事故で亡くなったと伝えられたのみである。ただ、その少ない時間、そして今の八幡の様子から、戸塚が八幡にとってどういう存在だったのかは容易に窺い知れた。

 

「雪ノ下さん」

「なあに?」

「まだそうと決まった話じゃない。ただの間違いで、もしくは何か理由があって、あえて年齢を加えてるだけかもしれない。だけど、もし仮の話が本当なら」

 

 口とは裏腹に、八幡の目は鋭く、覚悟を決めていた。そして出た言葉は、普段なら決して言わない単語を含んでいた。

 

「俺が、戸塚を救います」

 

 

 

 

sideB(八幡視点)

 

 もし。仮に。本当なら。

 そんな曖昧な言葉で濁りきった話ではある。ただ、俺にはなぜか、それが事実だと思えてならなかった。そうであって欲しい、生きていて欲しい。そういう気持ちも当然ある。逆に生きていても、そんなに辛い目にあっているなら、俺が助ける。

 戸塚は、最初におれの秘密に感づいた人間だ。それが何かまでは当然わからないが、俺の身体が普通と違うことを見抜いた男だ。「濁った目」「腐った目」と言われるおれの目の由来を戸塚は見抜いた。中学の頃、初めて俺と会話をしたとき、戸塚は「気に触ったらごめんね」といいながら、優しい顔で言った。

 

「比企谷君、瞳の中に複眼があるみたい」

 

 ばれた、と思った。一般人は改造兵士なんて言葉、聞いたこともないはずなのに。瞳の中に複眼がある人間なんて、いるわけがないのに。普通なら想像すらしないことなのに。

 戸塚は、よどみなくそう言ったのだ。

 確かに俺の瞳の中は複眼になっている。視界自体は通常の人間と変わらない(という風に脳が処理している)が、一見すると濁っているように見えるのだ。俺の目などを凝視する人間などこれまで存在しなかったため、それに気づかれることはなかったのだが。

 さらに、

 

「僕はその目、好きだな。なんか優しい感じがする」

「俺の噂は知ってんだろ。優しいとか誰に向かって言ってんだ」

「比企谷君にだよ?だってそうじゃない。君は乱暴なこともするし、ちょっと怖い感じだけど、それは全部、誰かのためだっていうことも、僕は知ってる。後で辛そうな顔をしてるのも、結果誰かが助かってるのも。あと、自分のことになると、途端に面倒がることも、ね」

 

 ニコニコしながら嬉しそうに話す戸塚に、俺は完全に毒気を抜かれたのを覚えている。その会話の後、俺は戸塚とよく話すようになった。後で戸塚が教えてくれたのだが、俺の目に気づいたのは、以前戸部が話していたことと関係しているらしい。

 戸部が他の仲間とコンビニの入り口で座り込み、グダグダとダベっている時、怖くて中に入れず、困っていた美少女。それが戸塚だった。当時は戸塚のことも戸部のことも全く知らなかった俺には、うぜぇ馬鹿の身勝手に、何の罪もない女の子が困っている様にしか見えなかった。

 丁度俺もそのコンビニには用があった。普段ならそんな馬鹿どもはスルーして、普通に店の中に入ってしまうのだが、女の子が困っているならしょうが無い。ついでだし、俺もわざわざ馬鹿をよけるのが面倒くさくなってきたため、どいてもらうことにしたのだ。結果、そのグループのリーダーは顔の形が変わる程度、他のメンバーはそれを見て腰が抜け、パシリ扱いだった戸部はそれを機にグループから抜け自由になったと後から感謝された。全部結果論だし俺にはどうでもいいことなので、戸部を見るまで完全に忘れていた小話である。

 で、その時、感謝を伝えようとした戸塚は、買い物をしている俺の顔をじっと見て機会を伺っていたそうで、その時におれの目に気づいたらしい。その時はただ、普通の目の光と違う、くらいにしか思っていなかったらしいが。

 

「あの、ありがとうございました。怖くてお店に入れなくて、助かりました」

「・・・べつに」

 

 これがその時にした会話である。家に帰ってから、格好をつけてクールを気取ったことに身悶えしたのは言うまでもない。

 

 

 

 

sideC(八幡視点)

 

 翌日、約束通りに川崎の家に行き、バイクの話をした。どうやら欲しいバイクというのは、俺が今乗っているバイクと同じものらしい。SUZUKIのGSR750という、かなりごついバイクだ。新車で買うつもりらしいのだが、程度が良ければ中古でもいいとのことで、車体を見るときの注意点などを相談された。

 

「基本的には車体の下回り、電装系の取り回し、あとサビだな。使用感はしょうがないとして、マフラーの凹みは単純に見た目もだけど、性能に関わってくることもある。電気系のケーブルは素人が整備した時に、強引にしまいこんでたりすることがある。その時は良くても断線しやすくなってたりするから気をつけたほうがいい。サビはまぁ、無ければ無いにこしたことはないんだが、どうしても浮いてきてしまうこともある。磨けば取れる程度なら問題ない。あと、カスタム車はマフラー程度のものにしておくといいぞ。ていうか、おやっさんのとこで買えばそのへんは全部クリアされるから、それが一番だと思うがな」

「うん、もちろん立花さんとこで買うつもりなんだけどさ。あたしもそういうの、知っておきたいなって思って。・・・立花さんと比企谷、そういう話してる時すっごい楽しそうだし・・・」

 

 なにこの可愛い生き物。え、じゃあなに、俺らの会話に混ざりたいから聞いてきたの?やべぇな可愛すぎんだろこいつ」

「え、ちょ、あんたっ」

「あー、さーちゃんいいなー、はーちゃんにかわいいっていってもらったー」

 

 やべぇ、声に出ちまったか。

 

「ねーねー、けーちゃんもかーいい?かーいい?」

「おー、けーちゃんがいちばんかわいいなぁ。なんだもうこんにゃろ、ふわっふわな髪の毛しやがってー」

「えへへー、けーちゃんもかわいいってー」

 

 馬鹿お前、がっつり懐いてくる幼女が可愛くないわけねえだろう。ちなみに川崎の家に来てからずっと、けーちゃんは俺の膝の上に乗っている。こういう娘なら欲しいわ。

 

 その後、家に帰ってきた大志や下の弟ちゃん達と、夕飯までごちそうになって家に帰った。いいな、ああいうの。

 

 

 

sideD

 

「えー伝達事項がある。今日から転入生が入ってくることになった。急な話ではあるが、みんな仲良くするように」

「初めまして、戸塚彩加です。よろしくお願いしま・・・八幡!?」

「ん・・・え、と、戸塚ぁ!?」

「はちまーーーーん!!!」


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