真・仮面ライダー 〜CASE・8〜   作:リアクト

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なんかもうダラダラした文章でごめんなさいね。


第8話「謝罪」

sideA

 

 翌日、八幡は早めに登校していた。ナノドライバーの調整に予想外の時間が掛かり、その間のつなぎとして前回のドライバーを渡しておくとの連絡が入った。実際にレベル2に襲われた以上、備えておくに越したことはない。八幡の練度では、体内変身のみでレベル2と戦うのは、勝てたとしても少々きつい。そんなわけで、人目につかない時間に受け渡しをするため、いつもより1時間も早く登校してきたのである。

 

 教室に鞄を置き、約束した屋上へ足を向けた時だった。

 

「ヒッキー!」

 

 由比ヶ浜が、少し驚いた顔でこちらに走ってきた。

 

「・・・よう」

「お、おはよ、早いねヒッキー」

「ああ、今日はちょっと用事がな。・・・それより、昨日は済まなかったな、依頼放り出しちまって」

「ううん、あのね。・・・」

「・・・なんだ?」

 

 由比ヶ浜は顔を伏せ、一瞬逡巡したかのような顔をした後、意を決した様に顔を上げ、そして

 

「ヒッキ、ううん、比企谷くん。・・・ごめんなさい、あとありがとう!」

 

 深々と頭を下げたのだった。

 

 

 

sideB(八幡視点)

 

 驚いた。

 俺は昨日、敢えてきつい言い方をした。「三つ目」が痛んだのもあるが、過去の記憶が呼び起こされ、どうにもならなくなってしまったのだ。言ってしまえば、昨日のあれは半分八つ当たりのようなものだった。責められるくらいのことはあるかと思っていた、のだが。

 

「・・・昨日ね、ひっk比企谷くんが帰っちゃった後、ゆきのんと少し話したの。急に帰っちゃった時はひどいと思ったし、ムカついたんだけど、でも、言われたことは間違ってないと思ったの。あたし、弱くて、つい周りに合わせちゃったりして、そうやって今まで来たから。だから、ちゃんと見逃さないで、怒ってくれたのが、後になったらちょっと嬉しいなって・・・」

 

 由比ヶ浜の話は続く。

 つまり、雪ノ下の説教+説得により、これまでの自分を思い直し、クッキー作りを一から教えてもらったと。で、なんとかクッキーと呼べるものを作ることが出来たと。なら、この件は解決でいいんだろうな。

 

「由比ヶ浜。お礼をする相手にはちゃんと渡せたのか?」

「・・・うん。それもちゃんと言うね。・・・ひっk比企谷くん。昨日はありがとう。あと去年、サブレを助けてくれて、本当にありがとう。言い出せなくて、すごく遅くなっちゃってごめんなさい。・・・クッキーは、そのお礼の為に作りたかったの」

 

 去年のサブレてなんだ?

 

「ちょっといいか。・・・サブレってなに?」

「え?・・・あ、そっか。えとね、去年の入学式の日、ひきぎゃやくんが助けてくれた犬。あれ、あたしの家の飼い犬なの。リードが壊れちゃって、道に飛び出しちゃったんだ」

「あーそういう・・・。そうか、じゃあ有難くいただく・・・これ大丈夫だよな?」

「だっ、大丈夫だし!ちゃんと出来たやつだもん!」

「そうか、ありがとな。で、去年のことは気にしなくていい。正直俺自身忘れてたわ。うまいことボンネットに転がったから、怪我もしなかったしな。だから、これでおしまいだ。・・・じゃあな」

「あっ、ひk比企谷く「ヒッキーでいい」・・・え?」

 

 俺は、勝手に付けられるあだ名が嫌いだ。それは今まで、悪口以外のあだ名を付けて来られなかったからだ。川崎や材木座などはそれを知っているからか、比企谷と呼ぶ。だが、こいつはあれだ。悪気はないんだ。ただ少し、思い込みが激しくて、自分の思考と他人の思考をごっちゃにしてしまう傾向があるだけだ。だったら別に構わない、と俺はその時思っていた。

 

「言いづらそうだからな。俺の名前を呼ぶたびにカミカミになってたんじゃあんたも俺も面倒くさいだろ。だから、ヒッキーでもヒキタニでも好きに呼んでくれ」

「!・・・うん、ありがとヒッキー!」

 

 依頼は終わったし、もう話すこともないだろうけどな。

 由比ヶ浜はそれまでの沈んだ顔から、一気に光が差すように明るい表情になった。なんだ、そういう顔出来るんじゃねえか。ヘタレ顔しか見てなかったから新鮮だわ。

 

「じゃ、俺ちょっと用事があるからこれでな。じゃあな」

「うん、またあとでね!」

 

 ・・・後でね?あぁ、そういえば同じクラスだったか。とはいえ席が近いわけでもなく、接点なんかないけどな。

 

「あ、あたし奉仕部入るから!これからよろしくね!!」

 

 ・・・え?

 

 

 

sideC

 

「比企谷八幡、か」

 

 八幡と由比ヶ浜が和解した頃、「財団」の会議室では二人の男女が互いにあさっての方向を向きつつ、言葉をつなげていた。

 

「比企谷、というとレベル3特異のCASE8ですね」

「立花が手引して脱走した個体か。やつ自身は中途半端な体内変身しか出来ない出来損ないだ。だからこそ放置していたのだが・・・」

「子供の代で発現するのは興味深いですね。発現自体に時間差があるのか、まだ見つかっていない体質的な相性があるのか。いずれにしても放置しておく訳にはいかなくなったか」

「一応雪ノ下技研の目もあります。目立つ動きは控えてはいますが」

「まぁ例のレベル2が勝手にとはいえ手を出してしまったからな。今更隠すことでもないとは思うが、かといって派手にやるわけにもいくまい」

 

 男の方は初老といえる歳格好ではあるが、背筋がしっかりと伸びているせいか、年齢よりも若々しい。一方の女は、地味な色のスーツに身を包んではいるものの、それでも漂う色香を隠せてはいない。どちらも胸に財団幹部のバッヂをつけている。

 

「やつの協力者は立花、雪ノ下技研、材木座、あと川崎といったか。技研と材木座が組んでいるのが厄介だな。・・・あの時始末しておくべきだったか」

「となると、川崎がアキレス腱となりますか。彼女は生活面、メンタル面での協力者といえます。具体的な障害ではないにせよ、比企谷八幡の精神面には深く影響するかと」

「うむ。ただし、事は慎重に運べ。・・・なんとか比企谷八幡の完全覚醒の前に始末しておきたいものではあるが」

「おまかせください。まずは前哨戦として、ちょっと面白い趣向をご用意しております」

「いいだろう。まずは預けてみようか」

「は、では手配を」

 

 女が部屋を出ると、初老の男は懐から煙草を取り出し、火を着けた。

 

「これで上手く捕獲出来れば良し。・・・そうでなくとも元々イレギュラーだ、失うリスクは大して無い。あとは精神面での影響がどこまであるか、か」

 

 

 

sideD(八幡視点)

 

 あれから数日経った。

 俺はバイトがあるため、あの日以来奉仕部には顔を出していない。由比ヶ浜が本当に入部したのかどうかはわからない。

 そもそも、あの雪ノ下雪乃が、そうおいそれと入部を許可するとも思えない。女子なら話は別なのだろうか。

 まあいい。とりあえず飯を食おう。

 俺の昼飯は、前の日に川崎がバイトに入っている時は、川崎が作っておいてくれる。それを冷蔵庫に入れておいて、朝レンジで温め、冷ましてから持ってくる。真夏ならそのまま持ってくればいいのだが、まだそこまで暖かくはない。川崎の作る弁当は、俺の楽しみのために昼まで見ないようにしているのだが、いわゆるハズレだったことは一度もない。たまにあえてのプチトマトが入っていたりするが、そこは我慢だ。

 普段兄弟の面倒をみているとは言え、川崎の家事スキルは高い。俺の強化スーツの採寸など、手際の良さはプロ並みだった。

 考えてみればすごいコミュニティだ。完璧家事の川崎、天才技術者の材木座、ビジネス無双の雪ノ下さん。こいつらがいれば出来ないことなんてないんじゃないか。つくづく俺は恵まれている、そう思いながら弁当を持って教室を出ようとした、のだが。

 

「はぁ?あーし達とお昼食べないとかなに?説明しろし」

「まぁまぁ。結衣だってそういう日もあるよ。明日また一緒に食べればいいじゃないか」

「そういう問題じゃないし。なんでそういうこと今の今まで黙ってたって話。一言あーしに言ってくれてもいいじゃん!」

「ごめんね、優美子」

「ごめんとかいらないし。いいから座ってお弁当食べろし」

「っべーわ、優美子ガチギレだわー」

 

 うるせぇなおい。周りもチラチラ見てんじゃねえか。・・・って結衣って由比ヶ浜か。最近なにか吹っ切れた感じではあったが、あの女の勢いには勝てないか。あれはまぁ勝てないな。周りには・・・知ってるやつは特にいないか。

 

「おい」

「うっさい、なんだし!・・・ってあんた誰よ」

「あっ・・・」

「ヒッキー!?」

「同じクラスの比企谷だ。まぁ名前知らないのはお互い様だな。とりあえずそこの金髪縦ロールのあんたさ」

「あんたじゃないし!」

「じゃあお前でもてめえでもいいわ。とりあえずうるせえ。そっちの金髪イケメンのにーちゃんも言ってんだろ、また明日って」

「あんた何様!?いきなり横から偉そうにすんなし!!」

「しーしーうるせぇってんだよ。飯の時間にギャーギャー騒ぐとかガキかてめえは。身内ノリは身内だけの時にやりやがれ」

「はぁああ!?こっちがなにしてようとあんた如きには関係ないし!」

「あ、あのよ、優美子」

「戸部は黙ってろし!」

「いや、・・・っべーなぁ・・・」

「戸部?・・・あ、お前戸部じゃねえか。同じクラスだったのかよ」

「ひ、ヒキタニくん、ち、ちーす・・・」

「なに、知り合い?」

「戸部」

 

 俺は戸部の机に軽く拳を置く。少しずつ力を加えていくと、合板の机がミシリと鳴いた。

 

「ヒ・キ・ガ・ヤだ。何回言わせんだお前」

「あっ、ご、ごめん、ヒキガヤくん。いやー、俺最初に覚えた読み方がどうしても抜けなくてさー。ほんとごめん」

「・・・まぁいいけどよ」

「戸部っち、ヒッキーと知り合いなの?」

「ひ、ヒッキー?・・・まぁ、うん。前に話したっしょー、中坊んときにちょっと荒れててさー。そんときにちょっとなー」

「何人かでコンビニの前に座り込んでてな。ちょっと注意してどいてもらっただけだ」

「えっ、ちゅ、ちゅーしてどいてもらっ・・・まさかのはち×とべ!?でもでもやっぱりとべ×はちが王道・・・キマシタワー!!」

「ちょっ、姫奈擬態、擬態しろし!!」

 

 今まで静かだったちょっと地味めな眼鏡の美少女が急に叫んだと思ったら、盛大に鼻血を吹いた。うん、意味はわかるけどほんとやめて。

 

「結衣、ここは大丈夫だからさ、明日は一緒に食べような」

「う、うん、みんなごめんね、後でちゃんと話すから!」

「由比ヶ浜さん、これはどういうことなの?・・・あなたが是非というから、ずっと待っていたのだけれど」

「あっ、ゆきのん!ごめんね、今行くところだから!一緒にいこ?」

「はぁ・・・仕方ないわね」

 

 何この茶番。

 

「ち、もう時間ねえじゃねえかよ・・・」

 

 言いながら弁当を掴み、教室を出ようとすると、さっきのイケメンさんから声を掛けられた。

 

「ちょっといいかな。ヒキタニくんだっけ?少し聞きたいことがあるんだけど」

「ヒキガヤだ。聞いた名前はちゃんと覚えような。で、なんだよ?」

「君は結衣と知り合いなのかい?あと、戸部とも」

「戸部のことはさっき本人から聞いただろ。あれから何回か顔合わせた程度のことだ。由比ヶ浜はこないだちょっと話した。それだけだ」

「そうか。・・・じゃあ、雪ノ下さんとは?」

 

「・・・どっちの?」

「えっ?」

「姉と妹、どっちの雪ノ下さんだよ」

「え、陽乃さんを知ってるのかい?」

「てことは妹の方か。部活の部長だ。もういいな、俺は飯を食うんだ」

「え、ちょっと」

 

 イケメンさんの物言いに含むものを感じた俺は、とっとと退散することにした。めんどくさいのは嫌なんだって。

 

 ちなみに弁当を堪能している間に午後の授業が始まったので、そのままシエスタを楽しんだのは言うまでもない。更に帰った後、それを知った川崎から叱られたのも言うまでもないか。


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