真・仮面ライダー 〜CASE・8〜   作:リアクト

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バトル回です。
勢いで書く派なので、わかりづらかったらごめんね?

追記 誤字報告いただきました。ありがとうございます。


第5話「試闘」

sideA

 

 八幡がナノドライバーを試していた頃。

 立花レーシングから200m程離れた場所にある工場跡地に「それ」は潜んでいた。

 身長は2メートル近い。頭からマントのようなものを羽織っており、両肩が異様に盛り上がっている。身じろぎするたび、マントの中から金属を擦り合わせたような機械音がしている。

 

「・・・限・界。整・備・ノ・必・要・ア・リ。・・・レ・ー・ダ・ー・展・開」

 

 機械音声のような声を出した「それ」の顔にあたる部分から、小さな羽虫のようなものが飛び出た。羽虫は工場の外に飛んでゆき、程なくして「それ」は動き出した。

 

「整・備・場・発・見。整・備・後、レ・ベ・ル・3・特・異・体・ノ・索・敵・ヲ・継・続」

 

 「財団」の造った、改造兵士レベル2。

 人体に機械を埋め込み、爆発的なまでの戦闘能力を身に着けた、戦闘用サイボーグである。

 開発の主軸がレベル3に移行したため量産には至らず少数を残して廃棄処分されたが、すでに稼働を開始し、処分し損ねた個体は、命令をリセットされないまま日本各所に潜伏していた。姿を隠すため、またエネルギー消費を抑えるため、潜伏先で自らを仮死状態にし、命令を実行する日をただひたすら待っていたのだ。その命令は「脱走した財団の改造兵士の殲滅」。疑問や反論を持つ余地の無い程徹底的に改造・洗脳された兵士は、十数年振りに活動を開始したのであった。

 周囲に転がる廃材や機械をものともせず、ただ真っ直ぐに出口へ向かう。

 出口を出ると、羽虫の飛んでいった方向を見る。その視線の先には「立花レーシング」の看板があった。

 

 

 

sideB(八幡視点)

 

 身体が灼ける。身体中あちこちが悲鳴を上げ、皮膚が裂ける感触がある。四肢からは棘が生え、皮膚は硬く、黒く変色し、顎が割れ、額の「第三の目」が開きだす。俺がパスワードを言えたのは、俺の顎が大きく割れて角のような形状に変わっていく直前だった。

 

 さっきの青い煙が俺を包み込んでいる。体内変身を見られることを嫌がる俺のために、あえて煙を身体にまとわりつかせるようにしたのだと俺が聞いたのは、少し後になってからだ。体内とベルト、両方の変身が終えると、俺の身体は漆黒に染まり、装甲のコバルトブルーと山吹色が目を引く「怪人」になっていた。

 

「ギチ。・・・キチキチ」

 

 これじゃあ俺が悪役みてえだな、と言ったつもりだったが、顎が丸ごと変形しているために擦過音のようなものしか聞こえない。それでも声帯自体は残っているので、練習次第では話せるようになるのかもしれないが、この見た目で他人と談笑するなど考えられない。

 

「比企谷!」

 

 ふいに声がしたので後ろを振り返ると、少し怯えたように、それでも真っ直ぐな眼で俺をみる川崎が立っていた。その横には雪ノ下さん、材木座、そしておやっさんが俺を見つめている。

 

「いってきな。・・・帰ったら、コーヒー淹れたげるから!」

 

 右の拳を俺に突き出す。それに応え、俺も右拳を握り、軽く前に出した。

 さぁ、行こうか。

 

 店の外に出て目を凝らす。そこには俺より頭一つでかい人間が、マントを被ってこちらに歩いてくるのが見えた。

 

『どこの世紀末救世主だよ・・・』

 

「・・・レ・ベ・ル・3、確・認。整・備・前・ニ・排・除」

 

 なんだ、まともにしゃべれねえのか?思っていると、そいつはマントを引きちぎるように脱ぎ捨てた。

 

 そこに居たのは、1匹の巨大な、二足歩行の蜘蛛だった。

 グロいなおい。人のこたぁ言えねえけど。レベル2の中身は人間+機械だ。見てくれは蜘蛛でも、機能はそれとは限らない。それでも、腹から伸びる4本の副腕を拡げるそいつを見てると、そのうち糸吐いて巣でも作るんじゃねえかという気がしてくる。

 

 まぁいい。

 まずは突っ込んでみようか。

 

 

 

sideC(沙希視点)

 

 戦闘が始まった。

 あたしは、ホラーとか怖いものが嫌いだ。今目の前にいる蜘蛛みたいなやつは、目に入るだけで卒倒しそうになる。

 でも、あたしは見なきゃいけない。

 比企谷が、あの面倒くさがりでやたら達観した、あたしの大切な友達が戦っているんだ。多分みんな同じ気持ちなんだろう、陽乃さん達も店の窓から戦いを見つめていた。

 

 まず、比企谷が仕掛けた。お互いの間合いに入る直前、一瞬貯めを作ったかと思うと、一足飛びに蜘蛛男の懐に潜り込む。体勢を低くし、振り回してくる副腕を躱しながら、相手のみぞおちあたりに右拳を叩き込む。攻めながらもカウンターになった感じで、蜘蛛男は数メートル後ろに吹っ飛んだ。が、そのまま反撃のために走り出すあたり、自分から飛んで体制を整えたのか。

 蜘蛛男はすこし距離を取ったところで立ち止まり、副腕を畳んでそのまままっすぐ突きを出してきた。4本もある腕を不規則に、それでも最短距離で打ち込んでくる。比企谷は腕を躱し、いなしつつ攻撃を返そうとするが、当たらない。

 蜘蛛男の副腕はリーチが長い。そのせいで、比企谷が間合いを上手く測れていない。当たってはいないものの、自分からの攻撃も届かない。一旦蹴りで強引に離れれば、とも思うが、相手の手数が多すぎて、離れるのに合わせて畳み込まれそうだ。ジリ貧に見えたその時、比企谷の動きが変わった。

 

 突きを下に躱した比企谷は、そのまま身を沈め、腰の回転で蹴りを蜘蛛男の足元に放った。

 水面蹴り。蜘蛛男の突きの回転が上がるのを待っていたのだろう。受けきれないなら躱すとばかりにしゃがんだ先で、水面蹴りの置き土産だ。なんか、ただでは起きない比企谷らしくてつい笑ってしまう。

 比企谷の急な動きについていけないのか、蜘蛛男は蹴られた足をもつれさせた。一瞬動きの止まった、そこを比企谷は見逃さない。立ち上がりざまにアッパー気味に掌底を蜘蛛男の顎にいれる。そのまま間合いを取るのかと思ったら、逆に後ろに回り込んで密着した。なるほど、そこなら副腕は当たらない。後ろから蜘蛛男の首に腕を回した比企谷は、そのまま勢いをつけて身体を反転させ、背負投げのような形で、蜘蛛男を脳天から地面に叩き落とした。

 

「・・・強い」

「うむ。改造云々ではない、戦い慣れした動きだ」

「あ、比企谷もだけど、あの蜘蛛男もさ。レベル2って言ってたよね。てことは、レベル3のなんとか体の比企谷の方が強いんじゃないの?」

「・・・今の比企谷くんだと、五分五分ってところかな」

「陽乃さん・・・」

 

 わたしも詳しくは知らないんだけど、と陽乃さんは断りを入れてから話し出した。

 

「レベル3はね、戦うことで強くなる、つまり成長する改造兵士なの。今の比企谷くんは、変身してから戦った経験がほとんどない。要は原石の状態ね。それに対して、レベル2っていうのは、機械的に力を出すから、最初から戦闘能力が高い。その代わり、成長はしないんだけどね。・・・今まで比企谷くんが互角でやれてるのは、彼自身の技術に加えて、相手の調子が悪いせいだと思う」

「あれで調子が悪いんですか・・・」

「うん。だって、完全な状態なら、戦車を1分経たずに無力化出来るだけの戦闘能力を持ってるんだもの。動画を見たことがあるけど、あれは出鱈目だったわね。あの蜘蛛男がなんで調子悪いかは知らないけど、ナノドライバーの性能テストには丁度いい、かな」

 

 え?

 

「テストって・・・!じゃあ比企谷は・・・!」

「沙希ちゃん」

 

 たまらず陽乃さんを怒鳴りつけそうになったところを、立花さんに止められた。目線の先を見ろ、と無言で合図されたあたしは、軽い口調で言う陽乃さんの拳が硬く握られているのを見た。

 

「陽乃、さん・・・」

「ごめんね、長年の癖でこういう言い方しか出来なくてさー。でもね沙希ちゃん」

 

 陽乃さんはその時だけ、本当の顔を見せてくれた様な気がした。

 

「わたしもね、気持ちは一緒だよ」

「・・・はい!」

「そ・れ・にぃ」

 

 陽乃さんは今度こそいたずらっぽく微笑み、わたしを見た後、比企谷が戦っている外を向いた。

 

「あのベルトにはね、まだ秘密があるの」

「え?」

「今、義輝がそれを伝えに出ていったよ。・・・うん、流石わたしの義輝だね」

 

 

 

 sideD(八幡視点)

 

 やつの頭を叩きつけてからも、攻防は続いていた。隠し玉を持っているだろうことはわかっているので、落ち着く暇を与えないように攻撃を絶やさない。だが、このままやつを倒せるとは思えない。

 決め手のないまま、時間ばかりが過ぎていく。そしてついに、その時が来てしまった。

 

「特・殊・攻・撃・発・動」

 

 距離を取らせない様に全力で攻撃しなかったのが災いした。一瞬の間をついて、俺の腕をやつが撥ね上げる。

 

 次の瞬間、視界全てが光に覆われた。

 光の奔流が俺の身体を吹き飛ばす。受け身を取る間もなく、俺は地面に叩きつけられた。

 

「ゴッ・・・ギキィィィ・・・」

 

 なんだ今のは。何をされた?

 霞むおれの眼が捉えたのは、蜘蛛男の副腕が、自分の胸を開いている光景だった。開いた胸には、でかい銃口のようなものが見える。

 

『ビーム!?・・・ふざけんなよ馬鹿野郎・・・』

 

 直撃を食らったおれの胸部装甲は半分ほど溶けていた。その銃口は追撃をするべく、ぼんやり明るくなり始めている。

 

『やべぇ、・・・終わったか』

 

 ごめんな、みんな。あんだけ偉そうに守るとか言っといて、いきなりのていたらくだ。

 死を覚悟した俺の脳裏に浮かんだのは、コーヒーを淹れるあいつ。

 くそ、そのコーヒーは俺んだ。

 

 遠くで誰かが俺を呼んでる声がする。あれ、お迎え?

 

「八幡!!目を覚ませ!!」

「!!」

 

 反射的に横に転がり、第二撃を躱せた。奇跡だ。

 声の主を探すと、果たしてそれは材木座だった。

 

「八幡、聞け!思いっきり腰を捻って、右足に意識を集中させろ!ナノドライバーからの力を、右足の装甲に集めるんだ!」

 

 あ?腰?

 よろよろと立ち上がり、腰を捻って構える。左足が前、右足が後ろ。右足に意識を向けると、そこは燃えるように熱くなっていた。

 

「今だ、蹴りを撃て!」

 

 え、蹴り?今この体勢から撃つってなると・・・あれか。

 こないだ、川崎に教わったやつ。

 

「ギ・・・ォォオオオオオオッ!!」

 

 俺は渾身の力を込めて、蜘蛛男に自分の脚をぶつける。

 中段回し蹴り。

 派手な技ではないが、防御の上からでもかなり効く。

 

「いけぇっ、ライダーキック!!」

 

 ・・・なんだって?

 またあの中二病、わけのわかんねえこと言いやがって。

 ・・・ちょっと格好いいじゃねえかよ。

 

 蹴りをそのまま振り抜く。勢い余って一回転し、蜘蛛男を見ると、胴体が大きく抉れ、副腕がちぎれかけていた。

 

「継・続・不・能。任・務・失・敗・・・」

 

 激しい爆発音と光、そして熱風。

 もうもうと立つ煙が晴れると、蜘蛛男は腰から下を残し、跡形もなくなっていた。

 

 

 

sideE

 

「比企谷!」

「比企谷くん!」

 

 変身を解き、半ば放心状態で佇む八幡に、沙希と陽乃が走り寄る。第三の眼はすでに閉じ、体内変身も解除されていた。

 

「八幡、よくやったな!」

 

 立花の声に我に返った八幡は、

 

「・・・勝った、のか・・・?」

「勝ったよ!すごかったよ比企谷!」

 

 いつになく興奮している様子の沙希。その眼には涙がいっぱいに溜まっている。

 

「そ・・・か、勝った、のかぁ・・・」

「比企谷!?」

 

 気が抜けて倒れ込みそうになる八幡を、沙希が慌てて支える。

 

「あー・・・疲れたわ・・・あ、そうだ、川崎」

「なに?」

「コーヒー、淹れてくれよ。大盛りで」

「ぷっ・・・わかったよ、好きなだけ飲みな」

「ばぁかお前、そんな飲んだら腹たぽたぽんなるっつの・・・」

 

 言いながらアミーゴに向かう二人を見送る陽乃達。

 

「成功したねぇ・・・」

「うむ。生成したナノ装甲を再分解、エネルギーに変えて攻撃する一撃必殺の技。変身後一定時間が過ぎないと使えないのが難ではあるが・・・」

「んーん、義輝は頑張った。・・・かっこよかったよ」

 

 陽乃は材木座の頭をくしゃくしゃと撫でた。

 

「わたし達も行こうよ。喉カラッカラ」

 

 談笑しながら店に入っていく陽乃達を、少し離れた上空から、羽虫がじっと見つめていた。




次回はもうちょいこの流れの話を書いてからの炭回、かな?

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