真・仮面ライダー 〜CASE・8〜   作:リアクト

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この回まではかなりねっとり書いたつもりです。
話の中で色々説明するのって難しいねぇ・・・。


第4話「変身」

sideA

 

「はぁ・・変身」

 

 バックルが少しだけ前に動き、隙間から青い煙が吹き出す。それは八幡の身体に纏わりつく様に拡がり、きっかり3秒後には八幡の頭部、胸、両腕、両脚を覆っていた。

 

 装甲はつやのあるコバルトブルーに所々山吹色のラインが走っている。強化スーツのつやのない黒と相俟って、その造形は美しいと言えるものであった。八幡自体も細身だが筋肉はしっかりついているので、一言で言えば「ヒーローのライバル的」なビジュアルである。

 

「よし、成功なり!」

「・・・あっちぃぃぃぃっ!!!」

「ひ、比企谷!?」

 

 八幡は思った。服が一瞬で炭化する程の高熱って何度くらいなんだろう。考えない方がいいなこれ。

 

「義輝」

「む、いかがなされた、陽乃嬢」

「いくら比企谷くんでもこれ、高熱過ぎない?やっぱり生身のまま変身するのは結構厳しい気がするんだけど・・・」

「熱いのは慣れる!というか、正直これでも相当熱を抑えたのだ。物質が運動する際の熱、気体レベルにまで小型化したナノマシン群、さらにそれを固体として固着させるだけのエネルギーが同時に発生するのだ。最初の頃なんか鉄製のマネキンが溶けた挙句、一部が蒸発したのだぞ。さらにその熱にナノマシン自体が耐えられず、見るも無残な姿に・・・」

「あーもういい、分かった、お前は頑張った」

 

 そもそも服が炭となって無くなってしまう以上、変身時はともかく、人前での変身解除など絶対に出来ない。そもそも八幡の身体と装甲の間に余計なものが入るのは好ましくない。これは使い終わったそのまま安全な場所まで戻らないと、うっかり解除した日には怪人全身タイツ男の誕生である。

 

「比企谷くん、どう?動きづらいとかない?」

「・・・ちょっと待っててください」

 

 八幡はそのまま、整備工場の片隅にある、トレーニングスペースに移動した。

 

『動くのは問題ない。むしろ生身の時より動き出しがかなり軽いな』

 

 おもむろに、置いてあるバーベルを片手で持ち上げる。

 

『!・・・こいつはすげぇ』

 

 バーベルは、ベンチプレスで八幡が日常的に使用する重量、140kgに設定してある。それを八幡は片手でひょいと持ち上げていた。

 

「普段の10倍くらいの腕力になってる感じだ。重さは感じるけど、10kg程度か?米の袋を持ってるくらいの感覚だな・・・」

「ふむ」

 

答える八幡に材木座は、少し思案顔になる。

 

「細かい調整はこれからとして、とりあえず使用に耐えられるだけのものにはなったか。パワーアシストも上手く動いているし、慣れてくればもっと軽く感じるようになる」

「・・・お前すげぇな・・・」

「すごいのは雪ノ下研究所だ。建設会社なのにナノマシン研究施設に巨額の資金を投じ、あげくに一介の高校生のアイデアを形にしてしまうのは、正直我でも引くレベルだぞ」

「ふふー、すごいでしょー。ちなみにナノマシン部門のスポンサーはわたし個人だからね。感謝してもいいのよ?」

「・・・ほんと、感謝してます。ありがとうございます、陽乃さん」

「!・・・急に名前とか、不意打ち好きだよねぇ君は・・・」

「比企谷」

 

 それまで3人の話をじっと聞いていた沙希だったが、どうしても聞いておきたいことがあった。

 

「さっき、それ使った時に熱がってたけど、大丈夫なの?火傷とかない?」

「ああ、大丈夫だ。強化スーツすげぇわ。熱かったのは皮膚が出てる部分だけだったし、それも一瞬だった。多少赤くなってるかもしれねぇが、火傷って感じじゃねぇな」

「そ、ならいいけど。でも、それはアレだね」

 

 沙希はまだ少し心配そうな眼で言った。

 

「「変身」してから使ったほうがいいかもね」

「だな、流石にあそこまであちぃのは生身だとなぁ・・・」

 

 苦笑交じりに八幡は答えた。

 

「ねぇ、比企谷くん。わたしさ、君の「変身」については知識はあるし、実際他の人の変身は見たことあるんだけど・・・」

 

 そう切り出したのは陽乃だ。

 

「実際、比企谷くんの「変身」は見たことないんだよねぇ。実際、どんな感じ?あ、興味本位って訳じゃなくて、装甲の着用が可能なのかなって」

「・・・あたしは見たことあるんですけど、大丈夫だと思います。・・・マスク以外は」

「それも問題ねえだろ。被るんじゃなくて顔に貼り付く感じだし、真ん中にもちゃんとスペースはあるし」

「んー・・・」

 

 陽乃はそれでも少し納得がいっていない様子だった。

 

「そもそもさ、比企谷くんの遺伝子は、何と融合されてるの?気になって調べたんだけど、全然資料が見当たらなくてさー」

「ああ、それはそうですよ。だって」

 

 八幡はこともなげに言った。

 

「俺の親父は、廃棄扱いのレベル3特異体でしたから」

 

 

sideB(八幡視点)

 

「廃棄・・・扱い?それに特異体って・・・」

「雪ノ下さん」

 

 この先は、かなり突っ込んだ話になる。話す俺も、聞く人達にも覚悟が必要になる。

 

「この先の話をする前に、みんなに聞いておきたいことがある。・・・ここからの内容は、本来聞くべきではない、聞いたら後悔するような話だ。これを聞いて、それでも。・・・それでも、俺はここに居てもいい、んだろうか」

「比企谷」

「川崎・・・」

「あんた、ちょっと勘違いしてるよ。・・・あたしは、あたし等はさ、多分家族の次にあんたの事を知ってる。あんたの今を知って、それでもこうやって関わってる。今更あんたの過去がどうであっても、それで変わるような関係じゃない。本当はあんたもわかってるんだろ?」

「うむ。八幡の身体がどうあれ、我らがそれを理由に離れることは有り得ん。強制でも欺瞞でもない、お主といたいからこそここにいるのだ。見返りなども求めておらん。そもそも、お主がここにいる、これこそが我らにとっての一番の見返りだからな」

「材木座・・・」

「八幡。お前が言いたくないことは言わなくていい。だが、言いたいことは言っていいんだ。お前自身が楽になるためだけでもいい。おれ達に受け止めきれない事は、どうすれば受け止めて、そして前に進めるのかをみんなで考えりゃいい。お前を貶めるやつなんてここにはいない」

「おやっさん・・・」

 

 やべぇ。

 泣きそうだ。

 これが、俺の。

 俺の、生命を張ってでも守りたい存在か。

 望むところだ。

 

「・・・改造兵士レベル3特異体、サンプル008番。それが俺の親父に「財団」がつけた認識名です。CIAが付けた通称は「Masked Rider Eight」。ですが、親父はその時既に廃棄扱いでした。改造はしたけど、能力が上手く発現しないんで、抹消されたそうです。その後脱走したってくらいしか知りませんが」

 

 この話は俺が親父から直接聞いたものだ。親父は俺が小学生の時に死んだが、その前に俺に全てを教えて逝った。

 

「俺は財団に改造されたわけじゃない。改造されたのは親父です。俺の本当のお袋は、俺を産んだ直後に殺されました。今のお袋はそれからしばらくして、俺が5歳の頃、娘と一緒に再婚した人です。・・・だから、小町にはこの遺伝子は入っていない」

「・・・」

 

 酷い話だ、と自分でも思う。正直自分では実感がないのだが、聞く方はかなりきついだろう。俺だってこんな話はしたくもないし、知らないで済むならそれが一番いい。

 だが、こいつらには話さなければいけない。

 俺が生命を張ると決めた、そして俺の心を全力で守ってくれる人達だからだ。

 

 俺は欺瞞や嘘を嫌う。だがそれが、必要悪であることも分かっている。誰彼構わず本当の事を話せば、どうなるかは眼に見えている。背けたい、背けておきたい真実なんて、この世の中にはいくらでもある。

 だが、こいつらは別だ。過去のとある出来事が原因で、こいつらは俺のことを知った。知ってしまった。そして、逃げ出そうとする俺の眼を見て、俺という存在を丸ごと認めてくれた。

 

「雪ノ下さん、俺の「体内変身」のシステム自体は知ってますよね」

「うん。「財団」の開発した、改造兵士計画のレベル3。人間と、動物の遺伝子を融合させて強靭な肉体と闘争本能を無理やり引き出し、局地戦用のゲリラコマンドとして開発された、バイオサイボーグ、だね」

「そうです。厳密には俺が直接改造された訳じゃなく、受精された時から遺伝子の組成が人間と違うので、いわゆる「ミュータント」の類になりますが」

「あんたは人間だよ。前にも言ったでしょ。ちゃんと人間だから」

 

 いつの間にか、川崎が俺の手をそっと握っていた。そうか、だから俺は落ち着いて、こんな「体内変身」しそうな話が出来ているのか。

 

「・・・続けると、俺は感情の波が強烈に大きくなったとき「体内変身」します。・・・俺には、人間にはない器官が1つあります。それがこの」

 

 俺は自分の前髪を上げ、額を見せた。額には薄く、縦に1本皺が入っており、少し盛り上がっている。

 

「松果体に直結した、「第三の目」です。普段はこんな感じなので、前髪で隠せば分かりません。これが、感情の起伏によって、目を開けるんです。これは視覚ではなく、「直感」を使って事象を判別するものだそうです。あと、融合した生物の本能を理性で抑え込む機能もあるとか。俺も詳しいことはよくわからないんですが、」

 ここで言葉を区切る。どうしてもこの続きが出ない。もうここまで話しているのだ。何を言ったところで手遅れでもある。だが、理屈ではない、感情の部分が、言葉を紡ぐ邪魔をする。

 ふいに意識が川崎に包まれている手にいった。川崎はさっきよりも強めに手を握ってくれている。・・・そうだよな。よし。

 

「これが開くと、細胞活動が活性化して、さらに細胞活動促進分泌物が身体中に放出されます。そうすると、細胞そのものが人間から、融合した生物に変化しようとします。これが「変身」と呼ばれる現象です」

 

 うん、大丈夫だ。

 

「そして俺の、正確には親父の遺伝子と融合した生物は“オオエンマハンミョウ”です」

 

 オオエンマハンミョウ。獰猛・頑丈・俊敏と、三拍子揃った昆虫である。体色は黒。クワガタのような顎をもち、頭・胸に比べて胴がでかいのが特徴で、体長は6センチほどにもなる。俺が変身した際には、顎の部分が角のように上に伸びる。下から見たような感じといえばわかりやすいだろうか。何れにしてもかなりアレな見た目である。

 

「ハンミョウと言えばあれか、ゴミム「おっとそこまでだ材木座。・・・まだ命は惜しいだろう?」・・・お、おう、すまぬ」

「あ、そういえばこれ、解除はどうやればいいんだ」

「おお、それはな、最初にベルトを巻いた時に入れたスイッチをもう一度押すのだ」

「こうか」

 

 スイッチを押すと、装甲が解除され、青い煙になって霧散する。なるほど、使い捨てってのはこういうことか。

 

「あ、使い終わったナノマシンはほっといて大丈夫よ。自然に分解されて土に還るエコ設計だからねっ」

 

 至れりつくせりっすね。

 

「でもこれ、俺の身体の「体内変身」とパスワードがかぶるのがなぁ・・・」

「仕方なかろう。体内変身という言葉自体は今初めて知ったのだからな」

「そうだけどよ・・・」

「いいではないか、変身。お主もぶっちゃけ格好いいとか思ったであろう」

 

 痛いところをつきやがる。

 まぁ、何にせよ、使わないに越したことはない。普通に暮らしている分には使うことなどまずないんだが・・・

 

「・・・来てる」

「え?」

「財団。・・・レベル2だな。微かに機械音がする」

「・・・何も聞こえないよ?」

「普段は割と迷惑な能力なんだけどな。聴覚と視覚は、普通の人間よりかなりいいんだ。意識しなければどうってこともないんだが」

 

 聞こえちゃったんだよな。

 ここを襲撃する、話し合いがさ。

 

「・・・早速これかよ・・・」

 

 目が疼く。掻痒感と共に、額が裂けていく痛みを感じる。

 

「くっ・・・ぐぅぅぅぅぅぅぅうううううぅぅぅぅぅうううっ」

「比企谷っ」

「大丈夫だ・・・川崎、みんなも少し離れてろ。・・・材木座、早速使わせてもらう・・・ぜ」

「八幡・・・うむ、すがるばかりなのは情けないが、頼む」

「ばぁか・・・ぐ、ぅぐぅぅうあああああああっ!!」

 

 限界だ。これ以上の変化は、こいつらと言えども見られたくはない。

 俺はナノドライバーを腰に当て、装着した。

 

「変・・・身!!」




インナーは黒、装甲はコバルトブルー+山吹色ライン。
シャドームーンの銀色部分に当たるのが装甲の場所です。
デザインはZO系。顔は・・・ガタックっぽいのかなぁ・・・。

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