真・仮面ライダー 〜CASE・8〜   作:リアクト

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最近小町とシロニンジャーが被って見えます。

本当は放映時間に合わせて日曜8時に投稿したいんだけど、出来た試しがない私。


第11話「彩加」

sideA

 

 翌日早朝、八幡と沙希は総武高校の校庭にいた。約束の時間にはまだ少し早いが、ここで材木座と合流する手はずになっている。

 

「ちっと早かったか」

「まぁでもそろそろ・・・あ、来たよ」

「すまぬ、ちと遅れたか」

「いや、まだ大丈夫だ。・・・例のものは出来たか」

「ふ、愚問だ八幡。我の手にかかれば出来ぬものなどありはしない」

「面白いラノベ」

「ぐっ」

「完結してる物語」

「ぐおぉぉおぉおっ」

「まぁそれは冗談としてだ。川崎にも軽く説明しておいたほうが良いな。材木座、時間があまりない。手早く頼む」

「あいわかった」

 

 材木座は背負っていた大きめのリュックから、ナノドライバーを取り出した。少し形状が変わっているようにも見える。

 

「これが本来のナノドライバーだ。先日の試作より、防御力、攻撃力共に上がっている。まぁ細かい仕様はのちほど。・・・川崎殿、このヘッドセットをつけておいてくれ」

 

 材木座が取り出したのは、スマートフォンなどにもよく使われる、片耳タイプのヘッドセットだった。

 

「見た目はよくある片耳イヤホンだが、これは変身後の八幡との対話をするためのものだ。ナノドライバーにも同様の装備がついている。ただし、現状は体内変身していない状態、便宜上第1形態と呼んでいるが、その状態でしか会話は出来ない。ちなみに現在、体内変身後の八幡との会話の出来る、声帯伝導仕様を開発中だ」

「お前のその頭ん中は一体どうなってんだ・・・。話を戻すと、この装備で戦闘中も会話が可能になる。これで逐一、情報を俺に送ってくれ。多分もう少ししたら雪ノ下さんから連絡があるはずだ。例のメールのデータ分析の結果次第では、こっちの出方も変わることになる」

「我もそのヘッドセットを使う。グループ通話可能にしてあるゆえ、意思疎通は問題ない。その他の仕様は・・・む、時間か」

 

 約束の時間の5分前、校庭の端に戸塚の姿が見えた。他には誰もいる様子がない。単独行動なのか。八幡は、これが戸塚の独断による行動であるならば好都合だと考えていた。

 

「早いね八幡。・・・材木座くんと川崎さんもいるんだ」

 

 

 

sideB(八幡視点)

 

「よう戸塚。話の邪魔にはならねえから、この2人は気にしないでくれ。・・・他のやつが登校してくるまであまり時間がない。手早くいこうぜ」

「・・・いいよ。じゃあ昨日の続きだね。八幡、僕は君と敵対はしたくない。だから、一緒に財団に行こう」

「断る。だが、お前と敵対したくないのは俺も一緒だ。・・・だから、お前が俺と一緒に来い。俺が、俺達がお前を守ってやる」

 

 ド直球の投げ合いだ。だが、下手にもって回るより、こっちの方が今はいい。

 

 実は昨日、俺は一瞬揺れた。戸塚と一緒に財団に行き、中から壊してやろうと考えたのだ。昔の俺なら迷わずその手を使っただろう。だが、今は、俺には守るものがある。守りたい人達がいる。ミイラ取りがミイラになりかねないその手段を、今の俺が使うわけにはいかなかった。

 

「やっぱり格好いいね、八幡は。・・・でも、それは駄目なんだ。両親に売られたとはいえ、それ以来僕を強くしてくれたのは財団なんだ。だから裏切る訳にはいかないし、裏切る気もないよ」

「決裂か」

「決裂だね」

「・・・残念だ」

「・・・残念だね」

「・・・だったら」

「だったら?」

 

 俺はナノドライバーを腰に付ける。しゅる、と小気味いい音を立て、ベルトが巻かれた。

 

「力づくでも止める。・・・変身!」

 

 青い霧が俺を包む。初めての時と同じように一瞬激しい熱さが全身を包むが、わかってさえいれば我慢は出来る。

 数秒後、俺はコバルト色の装甲に身を包んだ「仮面ライダー」となった。

 

「・・・へぇ」

 

 眉にかかる髪の向こう側、戸塚の額が赤く光った。「眼」が開いたらしい。俺と同じように顎が裂け、皮膚が黄疸の様な色に変わっていく。あの戸塚のきれいな顔が、と思うと我を忘れそうになるが、なんとか耐えることが出来た。無防備な体内変身中に攻撃を仕掛ければほぼ確実に勝てるのだが、その後のことを考えると手を出す気にはなれなかった。

 

“八幡、解析結果が届いたぞ。名前と一緒に載っていた数字の意味が判明した”

「改造レベルじゃねえのか?」

“我もそう考えていたが、違ったようだ。あの数字は「精神汚染深度」だ。基本5段階で表示され、戸塚殿の汚染度は真ん中の3、ということだ”

「つまり?」

“まだ完全ではない。助けられる可能性が上がったぞ、八幡”

「・・・よっしゃ」

“表層意識はともかく、深層意識に語りかけることが出来れば、上手くいくかもしれん。健闘を祈る”

「おう」

 

 目の前では戸塚がある昆虫に近くなっていた。透明な羽が生え、顔や手足は山吹色、胸板は黒光りしている。眼は巨大な複眼で、先の鋭く尖った細い尻尾のようなものが生えている。一部フォルムが違うが、これは。

 

「・・・やべぇな」

“・・・オオスズメバチ・・・”

“比企谷!”

「・・・川崎」

“お願い、死なないで。・・・それから、比企谷の親友を救ってあげて”

「おう」

 

 俺の心は、川崎やおやっさんに守られている。身体は材木座や雪ノ下さんに。そして俺は、こいつらを守る。

 

 もちろんお前もだ、戸塚。

 

【・・・お待たせ、八幡】

 

 

 

 

 

sideC

 

「戸塚!?」

【どうしたの?・・・ああ、こうやって話せるのが不思議なのかな。僕ら改造兵士はね、お互いの意志の疎通が出来るんだ。体内変身しなくてもね。理屈は知らないけど、相手に伝えたい言葉を思い浮かべると、その通りに伝わるよ】

【・・・こう、か。なるほど・・・】

【普通の人間には全然聞こえないけどね。僕達は特別な存在なんだ。だからさ、八幡】

 

 いつの間にか、戸塚の身体が宙に浮いていた。

 

【今からでも遅くない。一緒にいこうよ】

【断るって言っただろ。あの頃よりちょっとだけ、守るものが増えちまったんだよ】

【どうしてもだめ?】

【ああ】

【じゃあしょうがないね・・・死んで?】

 

 身体1つ高い位置から飛び込む様に戸塚が襲いかかる。頭から突っ込んでくるが、腹の下から棘の尾を突き出している。

 

「くっ・・・」

 

 転がるように避ける八幡だったが、体勢を整えた時には、戸塚は既に空中で正面を向いていた。

 

(あの羽をどうにかしねぇとジリ貧だな・・・)

 

 融合された遺伝子の発現状況は、その個体によって左右される。融合元になる人間の遺伝子との共鳴によりその能力は内容、強度共に違いがあるが、戸塚のそれは飛行能力が高いようだった。八幡の中にあるオオエンマハンミョウにも羽はあるが、元々前羽が癒着しており、飛べる種類の昆虫ではない。代わりに進化した後脚の力は強いが、それで上がった後は自然落下する他はない。対して戸塚はホバリングから高速飛行まで、凡そ考えうる限りの飛行が可能である。

 

(やるならすれ違いざまに毟るくらいしかねぇか・・・)

 

“八幡”

「材木座か、どうした」

“あの飛行能力はいかん。制空権を取られた以上、圧倒的に不利だぞ”

「んなこたぁわかってんだよ」

“まあ落ち着け。一先ず躱しつつ話を聞け。今回のナノドライバーにはまだ仕込んだネタがある。上手く使えば戸塚殿を落とすことが出来るかもしれん”

 

 戸塚は相変わらず空中にいる。そして頭から突っ込んでくることを繰り返している。八幡も避け続けてはいるが、タイミングもスピードも戸塚次第のため、このままでは疲弊して毒針の餌食になるのは確実だった。

 

“まず、あの攻撃から避けるとき、戸塚の身体に触れるようになれ。どこで触ってもいいが、自分の意志で、触ろうと思った所にだ。普段ならともかく、今の戸塚なら羨ましくはない”

「私情を絡めるんじゃねえよ馬鹿。・・・っても、避けるのが精一杯で触るどころじゃねえぞ」

“慣れろ”

「マジか。・・・頑張るわ」

“それが出来たら新装備の出番だ。まずは慣れることだな”

「わーったよちくしょう」

 

「ねえ」

「む、いかがした川崎殿」

「比企谷、実は結構余裕じゃない?」

「・・・その心は?」

「声が焦ってない」

「ふむ。・・・これは推論だが、戸塚はパワー自体はそれほどでもないのかもしれん」

「どういうこと?あの速度が出せるだけの力はあるでしょ?」

「確かにスピードは即ちパワーではあるが・・・。その力が少なくとも上半身に集中している可能性は高い。更に、あの飛行自体、かなりデリケートな制御が必要になっているようだな」

「飛ぶために力を使いすぎてるってこと?」

「逆だ。狙いを八幡に定めて飛ぶのに、パワーを抑え込む必要があるのだろう。恐らく八幡は、あの攻撃自体にはそれ程危機感を抱いてはおらぬ。問題なのはあの尾だな」

「スズメバチの毒針・・・」

「しかも、本当に同じ種類の毒かすらわからん。現状、触れること自体が命取りくらいの気でいたほうがいいだろう。八幡が体内変身すればやりようはあるだろうが・・・」

 

 そして、その時は訪れた。八幡に向かって飛ぶ戸塚とすれ違いざま、八幡が右拳を当てるようになっていた。

 

「材木座!右手でクリアだ!」

“腕か、好都合だ。次に来たとき、右拳を握り込んで、ドライバーのスイッチを2回押してそのまま拳を突き出せ”

「・・・こうか!」

 

 八幡が言われた通りにすると、右腕の装甲が変形した。それは、オオエンマハンミョウの顎のように2本、巨大な角が突き出たような形であった。

 

“いけ、八幡!”

「おう!」

 

 もう10数回に渡り同じように攻撃を躱し続けた影響は、戸塚にもあった。身体が慣れてしまっているため、急な相手の行動の変化についていけなくなったのだ。

 勢いづき、そのまま突っ込んでくる戸塚に、八幡は腕を突き出した。その拳の勢いに乗って、角が更に倍ほどの長さに飛び出た。

 

“ダブル!パイルバンカー!!”

“なんであんたが叫んでるのよ・・・”

 

 

 

 

sideD(八幡視点)

 

「はぁ・・・はぁ、強いなぁ八幡は・・・」

 

 攻撃されたショックで変身が解けた戸塚は、倒れながら呟いた。それはあの感情のない笑顔の口調ではなく、本来の戸塚の声だった。

 

「・・・解けたのか、戸塚」

「気づいてたんだ。・・・ううん、今は気絶してるだけ。主導権は向こうが持ってるから、僕はこういう時にしか出られないんだ」

「二重人格か・・・?」

 

 呟く材木座に、戸塚は軽く首を横に振った。

 

「正確には「人格の置き換え」だよ。僕はまだステージ3だから元の人格が残ってるけど、最後までいくと元の人格は完全に消えちゃうんだ。最後までいくのは時間がかかるらしいから、まだしばらくはこうやって出てくるチャンスもあるんだけどね」

「ひどい・・・」

「でもこうやって八幡にまた会えたのは嬉しいよ。・・・ねえ八幡、どうして僕の意識が残ってるってわかったの?」

「メールで資料が送られてきてな。最初はなんのことかわからなかったが、解析したら精神汚染の深度が書かれてることがわかった。それとその前に、昨日の別れ際に聞いた質問で、だな」

「質問・・・?」

「俺が「今のお前に、俺の眼はどう見える?」と聞いた時、お前は「相変わらず、優しい目だ」と言った。俺の眼をそう言うのは戸塚彩加ただ1人だ。あれを聞いた時、元のお前は残ってるって確信してた。で、資料の解析で裏付けがされた。だったら後はどうやってお前を元に戻すか、だ」

「それから戸塚殿。一つ知らせたいことがある」

「なに、材木座くん?」

「お主のご両親はな、お主を売ってなどおらなんだぞ」

「・・・え?」

「財団に騙されておったのだ。ご両親は本当にお主が亡くなったと今も思っている。会いに行きたくはないか?」

 

 こいつは本当に有能で、優しい男だ。口調と中二センスさえなんとかなれば絶対モテるのに。あ、雪ノ下さんがいるからいいのか。

 

「・・・その話はまたいつか、かな。そろそろ向こうが起きそう。今のこの話は向こうは聞いてないから、僕はこのまま財団に戻るよ。明日からはまた普通に高校に行くことになると思う。安心して、高校生活では邪魔しないはずだから。まだ今のところはね。だから八幡」

 

 戸塚は俺の眼を見て言った。

 

「いつか、僕を助けてね。・・・頼っても、いいかな?」

「当たり前だ。俺は絶対に見捨てない。だから、待ってろ」

「ありがと・・・。川崎さんも、八幡をお願いね。僕の親友は、何かを守るためなら平気で無茶しちゃうから・・・」

「わかったよ。いつか、元の戸塚でコーヒー飲みにきな」

 

*  *  *  *  *

 

戸塚が去った後、俺達はへたり込みながらグダグダとしゃべっていた。戸塚が言うには、例の裏戸塚は、表戸塚の人格が残っていること自体は知っているらしく、彼ら同士はそれなりに上手くやっているらしい。今日以降の生活については、表戸塚が上手く伝えてくれることになった。

 

「・・・7時か・・・学校どうすっかな・・・」

「いや、出なさいよ」

「我は帰る。卒業はもう既定路線だしな」

「いいなぁ、理系の変態は・・・」

「ちょっと八幡!?」

「ったくもう・・・。でもまぁ正直、あたしも今日は疲れたよ。まぁなんにも役立たなかったけど」

「んなことねえよ。背中にいるから俺が自我を保っていられたんだ。まぁ、今日のところはもう帰ろうぜ」

「しょうがないねえ。ちょっと早いけどお店いこうか。朝ごはん食べるでしょ?」

「おお、マジか!」

「わ、我もよいのか?」

「もちろん、陽乃さんも起きてるなら呼んでいいよ」

 

 そんなことを言い合いながら駐輪場に向かう俺達だったが、去った後に残る1人の人影には気づかなかった。

 

「・・・今のは・・・?」


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