真・仮面ライダー 〜CASE・8〜   作:リアクト

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初投稿になります。読みづらかったらごめんなさいね。



第1話「部活」

sideA

「で、この作文はなんだ、比企谷」

「先生が出した課題でしょう、高校生活を振り返るとかなんとかって」

「とかなんとか、じゃない。分かってるならちゃんと振り返れ」

 

 比企谷八幡は、高校二年になってすぐ出された国語の課題「高校生活を振り返ってというテーマで作文を書け。原稿用紙2枚以上」の内容について、国語担当にしてクラス担任の平塚静に呼び出されていた。

 

「振り返ってるじゃないですか。入学初日に車に撥ねられた。復帰したらクラスに入れる余地がなかった。あとほら、ちゃんと書いてありますよ、夏休みは2ヶ月以上必要だと思うって」

「誰がカリキュラムにまで口を出せと言った。まぁ事故の件については気の毒だとは思うよ。それに伴ってクラスに居場所がなくなってしまったのも、正直同情を禁じ得ないが・・・」

「あとなんか書くことあります?あとはもう静かに過ごしてただけなんですが」

 

 そもそも、独りでいる時間を大切にしたい質である。事故がなければ友人の一人くらい作れたかもなあ、と考えたこともなくはないが、この総武高校という進学校は、その進学校という性質に比べ、落ち着きのない生徒がやたらと多いと八幡は感じていた。

 

「・・・比企谷」

「はい」

「君は、友人はいるかね?」

「多くはないですが、いますよ」

「・・・ほう」

 

 平塚は、少し意外に感じていた。この比企谷八幡という生徒、特にこれと言って問題のある生徒ではないが、他人との壁が厚く、高いタイプだとみている。自然そういう人間の交友関係は狭く深くなりがちである。妙に達観したところもあり、友人関係を作るには多少なりとも難ありかと思っていたが・・・。

 

「その友人について、少し聞いてもいいかね?いや、もちろん無理にではないよ。ただ、君はあまりそういう関係を好むタイプには見えなくてな」

「あー・・・まぁ、確かにあまり好きではないですね。正直面倒くさいとも思いますし。だから、自分から作ろうとしたことはないですよ」

「では、その友人というのは、どういう経緯で出来たんだ?」

「・・・それ、言わなきゃだめですか?」

「あぁ、いや、言いにくいなら構わない。ただ、君という生徒を少しでも知るためのきっかけにでもなればと思ってな。・・・聞かせてもらえないか?」

 

 八幡は少し考えた。

 正直、自分のことを他人に話すのは好きじゃない。どんなに言葉を駆使しても、自分の思う通りに相手に考えを伝えることは出来ないからだ。それで嫌な思いもしてきているし、勘違いしてきたことも少なくない。

 そもそも、誰にも言えない「あの事」がある以上、必要以上に交友関係を拡げるのは危険だとも理解している。

 だが、この平塚先生という人は、ある程度信頼出来るのではないだろうか。

 もちろん全部話す気などない。そんなことは誰にも出来ない。が、高校生活に関わる部分くらいは、話してもいいのではないかと、八幡は感じていた。

 

 この人は、俺の話をちゃんと聞こうとしてくれている。

 

「・・・学校に来られるようになってから少しして、バイトを始めたんですよ。今も続けてるんですけど、そこで2人ほど、同い年の友人が出来ました。2人ともここの生徒です。ただ、俺たち3人とも、基本的には独りでいるのが好きなんで、関わりはほとんどバイト先だけですけど」

「なるほどな。ちなみにバイト先はどこなんだ?」

「立花レーシングってバイク屋です。オーナーが親父の知り合いで、紹介してもらいました。そこで整備士見習いみたいなことをやってます」

 

 平塚は驚いていた。真面目ではあるが内向的で、覇気のない眼をしたこの生徒が、バイク屋でアルバイトをしているという驚き。さらに、立花レーシングという名前に覚えがあったからだ。

 

「立花レーシングって・・・まだおやっさん現役だったのか・・・」

「え、知ってるんですか?」

「ああ。高校生の頃私もバイクに乗っていてな、よくお世話になったよ。・・・そうか、今度挨拶にでも」

「やめてくださいよ、せめて俺の居ない時にお願いします。あと俺達の先生だとか言わないでくださいよ。ちなみに今は乗ってないんですか?」

「大学に入ってからは車に替えてな。バイク乗りの女は怖そうとかモテないとか・・・いや、いいんだ」

「先生・・・」

 

 平塚は話を変えようと、軽く咳払いをした。

 

「ところで比企谷、バイトはどれくらいしてるんだ?」

「木曜〜土曜、あと祝日ですね。水曜は店が休みだし」

「ふむ。・・・なぁ比企谷、ちょっと相談があるんだが」

「・・・なんか嫌な予感がするんですが」

「当たらずとも遠からず、かな。バイトのない日だけでいいんだが、部活動に参加してもらえないだろうか。部活といっても同好会だな、今のところ部員は1人しかいない」

「えー・・・」

 

 八幡は断ろうとした。が、ふととある思いがよぎる。

 平塚先生は悪い人じゃない。やたら男前な感じだし、そこかしこにガサツ感はあるが、生徒に対してきちんと真摯に付き合おうとしてくれる、ちゃんとした大人だ。ならば、話を聞いてみる位はいいのではないか。もちろん全面的に信頼している訳ではないし、強要してくる様なら断固として拒否する。だが、この人は、伝えようとするし、理解しようとする。正直やる気はないし、断るつもりではあるが、頭から拒否をするのは、礼儀としてよろしくない気がする。

 

「内容次第ですかね・・・。自分で言うのも何ですが、協調性もなければ努力も根性も嫌いです。そんな人間が入れる部活なんてありますかね?ついでに言うと、こう見えてコミュ障ですよ俺」

「協調性云々はともかく、コミュニケーションは取れてるじゃないか」

「俺の敵になる人じゃないのが理解ったからです。最初から責める感じで来られてたら、まともに会話とか出来ませんよ」

「そうか、光栄だな。確かに私は君の敵ではない。味方かと言われれば、立場上は中立ではあるがな。・・・で、内容だったな」

 

 平塚は一旦話を区切り、煙草に火をつけた。職員室で生徒の前ですよ、と八幡は頭の中で突っ込むが、余りにも自然で様になっているので、咎める気にはならなかった。

 

『ここを間違えると、比企谷は乗ってこない』

 平塚には、どうしても八幡をその部活に入れねばならない事情があった。が、それを言うつもりはない。言えば協力してくれる可能性も低くはないが、それでは強要するのとさほど変わらない。それは彼女の良しとするところではなかった。彼が聞いてくるまで、それは伏せておこうと決めた。

 

「君に、助けてもらいたい生徒がいる」

 

 

 

sideB(八幡視点)

「どういうことですか?」

 

 俺は混乱していた。部活動の勧誘かと思いきや、誰だか分からないが、恐らくその唯一の部員を助けて欲しい、という話なのだろう。人数が少ないから頭数として、という意味だろうか。それなら分からないでもないが、俺1人では意味がない。同好会が部活動に昇格するためには、最低でも3人で1年間活動し、なんらかの成果を出す必要がある。1人が2人になったところでどうにもならないだろう。もしかしたら他にも誘っているのかもしれないが、先生の物言いはもっと深刻なものを感じさせていた。

 

「部員を増やすこと、が助けになるわけじゃないですよね、その感じだと」

「鋭いな。そう、部員が増えること自体というより、現在1人で活動しているその生徒をサポートしてやって欲しいのだよ」

 

 そういう話か。正直めんどいな。

 聞けば、その生徒は2年J組、国際教養科の雪ノ下という生徒だそうだ。成績は学年で常にトップ、容姿端麗で教師の覚えもめでたい。が、問題なのはその言動、性格で、常に自分と同じ結果を他人に求め、それが当然だと判断し、至らない者を罵倒する。まぁ俺とはまず相容れることのない人柄のようだ。ストイックなのは結構だが、それを他人にまで強要するのは間違っている。元々俺は他人に期待をしない質なので、他人への要求も、承認欲求も極めて希薄だ。・・・と、ちょっと待て。

 

「先生、雪ノ下って・・・」

「気づいたか。そう、君を撥ねた車に乗っていたのがその彼女、雪ノ下雪乃だよ」

「先生」

「なんだね?」

「正気ですか?何故俺が、俺を撥ねた車の関係者を助けないといけないんですか?あの事故自体はもう終わったことだし、諸々済んだことなんでどうでもいいですが、感情的なものは別ですよ。慰謝料は親が受け取ったみたいですが、直接謝罪は受け取っていません。こちらから接触する気もないので、許せない気持ちがあるだけで何するつもりもないですが」

「正気かとは心外だな・・・まぁでも君の言うこともわかる。謝罪を受けていないというのは少し意外だったがな。雪ノ下雪乃という人間は、決して頑ななだけの融通の利かない人間ではないよ。恐らく、家の人間が既に謝罪したとでも言われているのだろう。そのあたりも踏まえて、一度会ってみてくれないか。そしてどうしても無理だということであれば、それ以上この話はしない。・・・頼むよ」

 

 頼まれてしまった。

 先生が雪ノ下ってやつのことを心配しているのはわかる。俺とて今更事故の件を掘り返すつもりはない。ないが、まだ疑問は残っている。

 

「なぜ俺なんですか?こういうのもなんですが、俺は人を助けてあげられる程自分に余裕のある人間じゃありません。正直自分のことで手一杯です。何をする部活なのかは知りませんが、助けられることなんてあるように思えませんが」

「私が心配なのは君もなんだよ、比企谷。先程まで私は、君に友人がいることを知らなかった。それどころか、君が他人と会話をしているところをほとんど見たことがない。今こうして会話してみると、普通に受け答えも出来るし冷静だ、何も問題ないようにも思ったが、」

 

 先生が俺の眼を覗き込む。

 

「比企谷、君は他人を信用出来ないだろう。信用しない、ではなく。失礼な言い方をしてしまえば、その友人2人のことも、大切にこそ思えど、信用することが出来ないのではないかね?」

 

 心臓が大きな音を立てた。この先生、やたら勘がいいな。授業はわかりやすいし、美人だし、モデルかってくらいスタイルもいいが、ちょいちょい独身を嘆いたりイチャついてる生徒を見て落ち込んだりする、ちょっと残念な人かと思ってた。

 

 他人を信用出来ない。それは言われなくてもわかっていることだ。そうなった理由もあるし、それについては受け入れるしかない。中学まではそれでもまだましではあったのだが、高校に上がる頃には他人に気を許すことが出来なくなっていた。その頃に親父が亡くなった事も深く関わっているが、今は関係のないことだ。友人達に対してはそれなりに心をさらしているつもりではあるが、どうしても言えないことがあるため、何でも相談出来る相手というわけではない。

 

「・・・俺のことはほっといてください。理由も事情もあることですし、それはどうしようもないことです。・・・まぁいいです、とりあえず行ってはみますが、まだ肝心なことを聞いていません」

「そうか、助かる。あぁ、詳細については向こうに行ってからにしよう。ついてきたまえ」

 

 先生はそう言うと、そそくさと部屋を出てしまった。しょうがない、言った手前、このまま帰る訳にもいかねえか。

 

 数分後、俺と先生は、特別棟のとある部屋の前に着いた。


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