Re:ちょろすぎる孤独な吸血女王   作:虚子

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第七話 『三周目のスバル、そして四日目』

 

 

「――ぅううあああああああああッ!!! ハッ、はぁ、はぁ、はぁ……」

 

 

 スバルは手を前に突き出して、襲いかかってくるラルトレアを引き離そうとして虚空をつかんでいた。

 体を起こし、荒い息を整えることに専念する。現状はちゃんと把握できている。使用人の時の部屋ではなく、一番初めの客室へ戻ってきていた。

 

 

「ッ、ふぅー……戻ってきた……いや、戻ってこれたって言うべきか……」

 

 

 傷の消失はそれを意味する。スバルは巻き戻されたことを確信していた。その証拠に、傷の他にも、目の前の二人の存在がある。

 

 

「なんか……ごめんな。それと、おはよう」

 

 

 抱き合ってこちらを警戒しているレムとラムの姿だ。

 まるで見知らぬ男が急に目覚めて絶叫したのを目の当たりにしたかのように驚きようだ。いや、まさにそうなのだろうが。

 

 気の抜けた挨拶に対しても、二人が返事をしてくれない。なので、一発元気百倍になる挨拶をかますことにする。

 

 

「ご迷惑をおかけしました。ナツキ・スバル、ただいま起床します!」

 

 

 ベッドから唐突に跳ねあがってからのダイナミック自己紹介。

 

 そのままの勢いで部屋を飛び出して、二人を後回しにしてスバルはある場所へと向かった。

 

 

「ラルトレア……」

 

 

 廊下を突っ走て、その客室の前にまでたどり着く。しかしドアの前で立ち止まってそのまま動けなくなる。

 ガクガクと足が震えだす。

 

 

 ――最後の記憶を思い返す。

 

 

『――――!!!!!』

 

 

 ラルトレアが醜く泣きながら、何かを叫んでいた。狂気に染まった顔をぐしゃぐしゃにして、スバルの首を絞めつけながら。

 痛みと恐怖で、スバルは彼女が何を言っているのか分からなかった。

 ただただ、怖くて、苦しくかった。

 

 

「クソッ、何だってんだ。ワケわかんねぇんだよ……」

 

 

 苛立ちが募る。

 スバルには分からなかった。

 ラルトレアが何に怒っていたのか、なぜあんなことをしたのか。

 

 一度目でスバルは死んだ。何者かの手によって。それに何かしらの形でラルトレアが関わっていたことだけは確かだ。

 

 

「一度目は俺の体調が悪くなって、鎖の音がして、殺された。襲撃者がいたんだ。屋敷の中に」

 

 

 そしてスバルの死とともに、巻き戻った。

 『死に戻り』だ。

 ラルトレアはそれを覚えている。一度目の記憶をスバルとともに保持している。そのラルトレアが急におかしくなった。

 

 

「考えても埒があかねぇぞ!」

 

 

 なけなしの勇気を振り絞ってスバルはドアノブをひねって、部屋に入った。ラルトレアがいるはずの客室。

 しかし、そこには。

 

 

「……ラル……いな、い……?」

 

 

 誰もいない。

 あるのは空の2リットルビンだけだ。カーテンが開けられ、朝日が差し込んでいた。ベッドも使われた形跡はない。

 

 窓辺に立って、屋敷の外を覗いてみる。見晴らしの良い場所らしく、広大な庭が一望できる。

 

 

「……一体全体どうなってんだよ」

 

 

 ラルトレアが居ない。

 その事実に少しホッとしているスバルがいた。ラルトレアが居てくれなくてよかった。そう思ってしまうほどに。

 

 

 怖かったのだ。ラルトレアの瞳を見た時、スバルは人間として本能的な恐怖を感じた。これまで何度も死んだが、あれほど怖いと思ったことはない。

 

 これまでに、死にたくないと数え切れないほど思ったことはある。腹を切り裂かれて死んだ時は必死に飛び出た内臓をかき集めた。そのときは生きたいという一心だった。

 焦りと不安感にまみれていた。

 

 だが、あれは違った。

 抗いようのない巨大な力が、素っ裸のスバルをギュゥウウと握りしめた。逃げる隙間など一つもなかった。

 焦りとも不安感とも違う。

 あのとき味わったのは強烈な拒絶感だ。もうやめてくれ、と。何度も願った。

 

 怖いのだ。

 裸の自分を、どうしようもなく巨大な手が握りしめてきて、どうすることもできない。

 怖いのに、逃げることもできない。

 怖いという感情、逃げるという意思さえもその巨大な手は掴み取ろうとしてくる。

 

 

 それでも怖くて怖くて、そして希望の光に縋り付いた。逃げたいという意思が消されても、何度でもその意思は蘇ったのだ。

 そこに声がした。

 エミリアの声が。

 

 

『スバル、スバル……返事をして、スバル……』

 

 

 その声だけを頼りに、強大な力から全力で逃げた。だがちっともスバルは前に進めない。100kmくらいは進んだろうと思っても、スバルは1mmしか前に動いていない。

 まるで誤差みたいなものだった。だがスバルはあきらめなかった。

 

 

「どうするナツキ=スバル……数日後には襲撃者、ラルトレアはどこにいるか分かんねぇ。ああッ! くそ! どんづまりじゃねぇか!!」

 

 

 ラルトレアを探す。

 おそらくラルトレアは何かを知っている。何かを知ってあんなことをした。スバルには考えられなかったことだ。

 

 ここにきて、ラルトレアの本性が出てきた。

 

 

「人間じゃ、ねぇんだな。わかってはいたけど、軽く考えすぎてたってことだよな……」

 

 

 あのときのラルトレアはラムをまるでゴミのように扱っていた。あんなことをできてしまうということ自体に恐怖さえ感じる。

 

 スバルはラムを殺しているのを見たとき、ブルッて少し漏らしてしまったくらいなのだ。

 

 そのあと、ラルトレアはスバルさえも殺した。

 腕を引きちぎられ、足をもがれて、血を吸われるのも恐怖と痛みでスバルの心はぐちゃぐちゃだった。

 

 

「…………」

 

 

 恐怖を思い出しながら、スバルは両手で顔を覆って黙り込む。落ち着くために窓辺に腰かけると、何かが置いてあったのか床に落としてしまう。

 

 パリンッ。

 甲高い音が聞こえて、指の間から見てみるとそこにはグラスがあった。割れて、その中身をこぼしている。

 

 血だ。

 血の入ったグラスが割れていた。

 

 

 吸血鬼。血を吸う人外、という認識しかスバルにはない。

 ラルトレアは吸血鬼だ。

 自分からそう言っていたし、血を飲んでいるのを見る限りそれは本当なのだろう。そして――

 

 

 コンコン。

 

 

「お客様。当主、ロズワール様がお戻りになられました。どうか食堂へ」

 

 

 スバルの思考を遮るように、開いた扉をレムがノックしていた。部屋の中を覗くように、首を回している。

 おそらくはラルトレアを探しているのだろう。

 

 そこである考えがよぎった。

 

 ――レムは、レムはどうしたんだ。

 

 ラムは死んでいた。ロズワールもエミリアもどうなったのかスバルには分からない。知っているのはラムが殺され、エミリアの声がしたということだけだ。

 

 

「お客様、お連れのラルトレア様はどこに行かれたのでしょうか」

 

「――ラルた、いや、ラルトレアならたぶん、屋敷を出てったんじゃないか。もともと、気まぐれな子、だし、な」

 

 

 スバルは自分の顔が引きつっているのを感じていた。無理に笑おうとして笑えていない。

 それをレムは不安げに見ながらも、それでこの場は納得してくれるようだった。先を歩くレムについていきながら、スバルは食堂へと向かっていく。

 

 

「…………」

 

 

 ただ無言で廊下を歩きながら、スバルはこれからのことを考えていた。自分はどう行動すべきか。ラルトレアにはどう対処すべきか。

 ただ、どれだけ考えても、うまくまとまらない。

 

 焦りが焦りを呼び、ラルトレアのことを思い出そうとして首を振った。

 

 今のスバルには、噴水の前でラルトレアと出会ったとき、あのときの彼女の寂しげな表情を思い出すことはできなかった。

 

 

 

 

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 ロズワールとの初対面を何事もなく迎え、食堂で朝食を取っていた。レムとラムが配膳を行い、ロズワールを上座に、エミリアとスバルが向かい合うように座る。

 誰も殺されていない。

 

 ラルトレアは姿を現さなかった。何もせずに、どこかへ消えた。

 

 おそらくはベアトリスも襲われていない。禁書庫の司書という名のあの引きこもりドリルロリは健在だろう。そもそも二回目でも襲われているかも怪しいところだ。

 

 何はともあれ、スバルは内心安堵していた。引きつった笑いが出なくなるぐらいには。

 

 

 ラルトレアの不在、スバルの表情が固いということ以外は、一回目と何も変わらない朝食の風景が広がっている。

 

 そしてまた同じ会話の流れになっていく。途中ラルトレアのことを何とか、というか結構怪しまれながらも誤魔化したあとに、エミリアの徽章の話になり、彼女が女王候補であること、スバルへのご褒美の話になる。

 

 

 

「じゃ、ロズっち。数日でいいから屋敷に泊めてくれ。そのあとは別の場所に行くから、ちょっぴりの餞別を」

 

「ふぅむ、ちょっぴりというと……家が建つぐらいかな?」

 

「いーや。純粋に、一周間ぐらい衣食住に苦労しないぐらいでいい。あとは勝手に生きてくから」

 

「エミリア様の言う通り、それはそれは……欲のない話だよぉ?」

 

「いいんだよ。ラルたんが向かった先にもアテがあるし。そんなに迷惑はかけられねぇからな」

 

 

 エミリアも、誰もラルトレアがどこに行ったのかということを問いかけることはない。早口でまくしたてることで、それをさせない雰囲気をわざと作っていた。

 エミリアもその言葉に何事か考えているようだった。

 

 

「そこまで言うなら仕方ない、聞き届けましょ。ラムとレムに用意させておくかぁら――滞在は、三日でよかったかな。他に何かあれば聞くけど?」

 

 

「そだな。んじゃ……紙と羽ペンと、童話貸してくれ。読み書きの練習は続ける約束なんだよ。こう見えて、俺ってば約束は守る主義なんだぜ?」

 

 

 

 

 

 

 

 ――一応は、三度目になるロズワール邸。二度目は一日目の朝しか過ごしていないため実質二度目というべきか。

 

 今回は使用人ではなく、スバルは数日限定の食客となった。

 

 

 

「呪いと鎖……ラルトレア……これじゃ何もわからねぇ」

 

 

 

 わかっていることは、一度目の四日目の深夜に何者かの襲撃があり、それがラルトレアを凶行に走らせたということ。

 

 今の何も分からない段階で、忌避してしまうラルトレアではあるが、襲撃者とラルトレアがグルだとは、まだ、思いたくはない。

 

 

「だから、今回は、情報収集の一点賭けだ。正直、最初から諦めてるっぽくて選びたくない作戦なんだが……」

 

 

 情報が不足しすぎて何が起きているかさっぱり分からない。襲撃者のこともラルトレアとの関係性も手がかりすらない。

 なら、ラルトレアが話をしに戻ってきてくれる可能性と、情報を掴むことに徹する作戦しかない。

 

 

「パックにはそれとなく、エミリアたんを守るよう伝えてあるしな。あとはあのロリと、ロズワールにそれとなく……それとなくってどうやんだよ。対人スキル低い人間に求める内容じゃねぇぞ」

 

 

 羽ペンを耳の上に挟んで、ぐっと背筋を伸ばす。考えるべき問題の多さと複雑さに頭が痛くなる。

 

 

「どうしたもんか……と」

 

「失礼するわ、お客様」

 

 

 コンコンと戸を開いたのは、桃髪の鮮やかなメイド姉――ラムだ。彼女は手にお茶の載ったトレイを持ち、机に向かうスバルを見ると眉を寄せ、

 

 

「あらお客様、本当にお勉強しているのね」

 

「おい、超失礼だな。仮にも客人、ゲスト、VIPですよ俺」

 

「という名の居候。そういう認識よ、お客様」

 

 

 毒を吐かれるも、使用人としての日々が綺麗さっぱりなくなってしまった今となってはこれも嬉しい。

 だから、スバルは出されたお茶を口に運んでゆっくり味わい、

 

 

「うん、マズイな」

 

「お屋敷で出される最高級の茶葉を、罰が当たりそうな感想ね」

 

「苦いもんは苦い。ダメだ、やっぱ葉っぱだわ。一緒に飲む相手がお前じゃ見栄張る気にもならねぇ」

 

「ずいぶんと馴れ馴れしいお客様だわ」

 

「ずいぶんと馴れ馴れしいメイドに言われたくねぇよ」

 

 

 三周目が始まって、すでに二日目の夜へ突入している。

 そのあいだ、スバルはといえばほとんど文字の習得に集中していた。エミリアと会話しようにもラルトレアの影がチラついてしまう。

 

 となると、今回はラムやレムとはお客様としか接していない。使用人をしていた頃に比べれば希薄な付き合いになる。

 

 しかし。

 こうやって現実逃避の為に部屋に引きこもってひたすら字を覚えている時に、頻繁に部屋に訪れてくるのだ。

 

 そんなひとときも、瞬く間に過ぎ去っていく。

 スバルが何をしようが、何もしなくとも、時間とは容赦なく経過していった。

 

 

 スバルはベッドの上で寝返りを打つ。そして考えるのは、リミットである四日目の夜のこと。消えたラルトレアのこと。

 

 今になっても、スバルはラルトレアをどうすべきか全く答えを出せないでいた。

 

 

 ただ、いくつも可能性の中でスバルは揺れていた。あまり詰まってるとは言えない脳みそを振り絞る。

 そうして考え疲れたスバルの意識は眠りの谷に落ちていった。

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

「えっと。たったの三日ですが、お世話になりました」

 

 

 ロズワール邸、玄関ホール。

 ロズワール、エミリア、レムとラムに見送られる形で、スバルは頭を下げた。微妙な面持ちのエミリアとは視線を合わせることができない。

 

 彼女はずっとラルトレアが気掛かりなようだった。

 スバルに問い掛けたいのだろうが、スバルはそれをずっと封殺してきた。持ち前の空気の読めなさを発揮し、いきなり大声を出したり、変な行動を取ったりもした。

 

 

 

「そぉれじゃスバルくん、息災で。短い間だぁったけど、楽しかったよぉ?」

 

 

 手を差し出してくるロズワール。その握手に応じて、

 

 

「おう、こっちこそお世話になりました。土産も持たせてもらったし、至れり尽くせりだったよ」

 

 

 次にロズワールの背後の双子に向ける。無言の二人に、スバルは上げた手で肩を叩き、感謝を告げることにした。

 レムについては仕事を褒めることができたのだが、姉様に至ってはどうも褒めるところが見当たらない。

 

 無理やりに絞り出した称賛と感謝の言葉にも毒を吐かれながらも別れを告げて、背を向ける。

 玄関の扉が開くと、一直線の街道が広がっていた。

 

 

「――じゃ、またな」

 

「……うん、気を付けて。ケガしないようにね」

 

 

 少し元気のないエミリアをできるだけ見ないようにして、スバルは街道へ一歩を踏み出す。

 

 街道をひとり、しばらく進んだところで足を止める。

 スバルは周囲の様子をうかがってから、道を外れて森の中へと突き進んでいった。

 草木を掻きわけて森の奥へ向かう。斜面を上り、そのまま数十分ほど山中をハイキングしたところで。

 

 

「よし、ここだ」

 

 

 急に視界が開け、高い空が見える。スバルは山の中腹部にある丘に辿り着いていた。そこから見下ろして、ある建物を視界に入れる。

 

 

「屋敷がよく見える。なにかあれば……」

 

 

 すでに四日目の朝を過ぎている。一周目から考えると、あと残り十時間ほどでタイムリミットがくる。

 

 

「あとは、事が起きるのを待ち構えて、見極めるだけだ」

 

 

 十時間程度ならば、スバルでも張り込みできる。

 そうしてそれだけ待てば、おのずと結果は見えてくる。情報が来るのをスバルは待っているだけでいい。

 

 だが、屋敷の中ではそれもままならないことがあるだろう。

 襲撃者の攻撃――もしくは呪いを受けて、スバルの意識が飛んでしまう可能性だ。

 

 

 それゆえに、今回スバルはエミリアたちを囮にした。

 

 むろん、スバルは彼女らをむざむざ見殺しにするわけじゃない。何かあれば屋敷を走り回り、敵襲を知らせるつもりだ。

 

 だがそうはいっても、間に合わない確率の方が高い。

 リスクとメリットを天秤に置いて、彼女らを苦しめるであろうという悔しさを噛みしめながら、この数日を過ごした。

 

 

 

「ラルトレア……いるんなら今出てきてくれよ……」

 

 

 

 スバルは身を低くして体を隠し、木々の間からロズワール邸を監視する。冷や汗をぬぐいながら、時が過ぎるのを待った。

 

 

 

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 スバルを見送ったあと、エミリアは自室に戻っていた。スバルの異常さとラルトレアの不在が気掛かりで仕方がなかった。

 

 

「パック、本当にラルトレアがどこに行ったかわからないの?」

 

「もともとあの子の気配は薄いんだよね。残念だけど本気で隠れられたらボクにもお手上げだよ、リア」

 

「そう……なら、しかたないのよね」

 

 

 申し訳なさそうにするパックはエミリアの銀髪の中へともぐりこんで、エミリアをそっとしておくことしたようだった。

 それを感じながらも、エミリアはいまだ納得がいってなかった。

 

 そんなエミリアさえ気後れさせてしまうほど、スバルはおかしかった。

 

 もともとスバルはふつうではないけれど、いつも以上に、言動が常軌を逸していた。あまりの見ていられなさに、ロズワールもレムもラムも黙っていた。

 

 でもスバルがどうしてほしいかはわかっていた。

 

 

 絶対にラルトレアには触れないでほしい、そんな一心であんなヘンなことをしていたんだと思う。

 

 いきなり叫びだしたり、変なダンスを踊りだしたり、必要以上に姿を出さなくなってずっと部屋にこもっていたのだ。

 

 

「私はどうすれば――」

 

 

 椅子に座って、つくえの上で腕枕をしながらつぶやく。その独り言に、誰も反応することはない。その、はずだった。

 

 

 ――。

 

 

 

「――ぇ?」

 

 

 何かが聞こえた。

 

 ふわっと背後から、何かが忍び寄ってきて、エミリアにささやいたのだ。

 

 感情もなく、狂ってしまったように平らな声で。

 

 

 

 

 

 

 ――しねばよい。

 

 

 

 

 次の瞬間、エミリアは影に引きずり込まれた。

 

 


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