食戟のソーマ×ジョジョの奇妙な冒険~Sugar Soul~   作:hirosnow

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遠月の試練 その1

 遠月茶寮料理學園__東京都のK市に所在する中等部と高等部から成る日本最大の料理学校である。

 非常に厳しい少数精鋭教育が特徴で、高等部の千人近い新1年生のうち、卒業まで辿り着く者は指で数える方が早いと言われている。

 それを聞いてまず、二条(にじょう)理莉香(りりか)が持った感想は__「何だよ、それ?学校じゃなくね?学校の名を語った、別の何かだ」、とのことである。

 それでも、毎年、外部から転学を希望する者は絶えず、3月の上旬に編入学試験が行われることは、恒例になっていた。何しろ、卒業すれば、一流料理人として、スターダムを歩むことができるのだから。一方で、学園側からすれば、優秀な人材は、喉から手が欲しいのだから、入学を希望する者と、これを受けいれる者の間で、需要と供給が成立していたのである。

 ただし、中等部への1年次からの入学とは異なり、編入学となると、それは狭き門だった。なにしろ、遠月の容赦のないほど、ハードなカリキュラムについて行かないとならないのだから。

 

 

 二階堂(にかいどう)圭明(よしあき)も、その登龍門を潜らんとする若き挑戦者の一人だった。

 仕草から、身に着ける衣服から、育ちの良さを感じさせる。彼の家は、名の知れたフランス料理店だった。二階堂に限らず、料理や食材に関わる家柄の息女が多い。それは、(ひとえ)に、「遠月」というブランド力の賜物と言える。卒業すれば一流の料理人として道が開け、在籍していたというだけで(はく)がつく。親からすれば、家業を営む上で、付加価値を求める思いがあったのかもしれないし、或いは、単純に大切な我が子にこれから歩む道を楽にさせてあげたいという親心なのかもしれない。

 だが、それは、遠月の理念とは必ずしも一致するものではなかったが。

 両親の思惑を知っていたかどうかは定かではないが、二階堂は家柄というものに、歪んだプライドを持った人間だった。遠月に在学するべきなのは、一流の店の息女であるべきであり、自分は有名店の跡取りだ。従って、遠月にいるべきは自分なのだと、法学部の学生からすれば、一笑に付すような稚拙な三段論法が彼の頭にあった。

 そんな彼にも、ある日、運命的な出会いが訪れる。遠月学園の門を潜り、試験会場に向かう最中(さなか)の出来事だった。

 たまたま、同じ方向に向かう理莉香の姿を視界に捕らえたのだ。妙に大人びた理莉香は、二階堂には衝撃を与えた。クラスには、可愛い子、綺麗な子というのは存在する。けれども、どこか垢抜けない印象があり、理莉香はクラスの女子生徒のいずれにも分類されない存在だったのだ。

 二階堂は、静かに、なるべく自然な動作を装って、理莉香に接触することを試みた。

「ねえ、君」

 理莉香は自分に声を掛けられていると思わなかった。そのことを理解するまでに時間を要した。

「君だよ、君」

「あたし?」

「そうそう。君も遠月の編入学希望者だよね?」

 理莉香は、取り敢えず、二階堂からの問いを肯定した。

「実は僕もなんだよ。奇遇だね。いや、むしろ、運命といった方が相応しいかな」

 なんとも、乏しい語彙力だな、と、理莉香は半ば呆れた顔で、聞き流していた。

「ねえ。この試験が終わったら、僕のお店に来なよ。うちはフランス料理を経営しているんだ。本当なら、予約が必要なんだけど、ほら、僕はそこの息子だから、特別に招待をしてあげるよ」

 白ける理莉香とは対照的に、二階堂の話に熱がこもる。

「今日の出会いに、そして、美しいあなたのために」

 バァアアアアアアアッン!!

 ドラマかアニメなら、そんな効果音が鳴り響いただろうと思われる。

「エ?本当?嬉しい…こんなこと、殿方から言われたの、初めてだわ」

 けれども、二階堂の目の前から理莉香は消えていた。代わりに、彼の目の前には、ゴツいオカマさんが頬を赤らめて、瞳を潤ませていた。

「え…ええ!?」

「もう離さないわ、ダーリン!」

「離せ!離してくれええええ!」

 遠月の庭に、断末魔にも似た、若き料理人の叫びがこだました。

 なお、この騒動における真犯人は二条理莉香である。彼女はスタンドを出して、二階堂の向きを自分からオカマさんの方へ向けたのだ。このことを、当の本人である二階堂圭明は知らない。

 

 

 遠月学園への編入学を希望する者たちは、一室に集められた。希望者は総勢で、二十名弱といったところだった。その数が多いか、少ないのかは理莉香は分からなかった。しかし、その中で、異彩を放つ者はいる。

 特に目立った行動を取らずとも、自然と存在感が浮き上がってくるのだ。

 理莉香が気になった人間は三人いた。一人は、女生徒だった。透き通るような肌をした、ハーフの美少女だ。

 それから、黒髪の少年。妙に覇気のない、気怠そうな雰囲気を醸し出していたが、理莉香には、どこか油断を許さない()()()を感じさせるのだ。

 最後にもう一人。それは、先ほど理莉香に声を掛けてきた二階堂圭明だった。頬には、真っ赤な口紅がキスマークを(かたど)り、その両目は何かを喪った哀しみで、涙に濡れていた。


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