Muv-Luv ユウヤ・ブリッジスの第二な人生 作:nasigorenn
サークルでの活動を終えて、今俺達は大学の校門前まで歩いている。
「いやぁ~、それにしても悪くなかったぜ、アイツは」
「なに当たり前なこと言ってるんだよ、ユウヤ。俺達が全力で整備改造してるんだ。そいつが最高なわけないだろ」
「だな。ヴィンセントの腕は確かだよ。このまま本職に進んでもやっていけんじゃねぇの」
今話題に上がってるのは俺達のサークルで改造してる特殊な大型自動二輪車『不知火弐型』についてだ。
もう説明しなくてもわかるだろうが、この世界における相棒の姿ってところだろう。
その走りの感想が今の話題。いやぁ、今まで高機動車を使うことはあったが、まさか高機動二輪車を使う機会なんてなかったから出来るかどうかわからなかったんだが、案外イケた。いや、それどころかすぐに慣れて今じゃ俺を最高に興奮させてくれる。あの風を切り裂きながらギリギリの所まで容赦なく回せる操作感は魅力的であっちじゃ感じることのない快感を感じさせた。
今までピリピリしていたからなのか、こういうのもいいもんだな。
そう思いながらヴィンセント達と話していると、途中からクリスカが加わった。
「む~、今日も負けた。悔しいぞ、ブリッジス」
悔しがってるのは分かるんだが、どうにも本気なのかどうか分からない顔をするクリスカ。どちらかと言えば、子供がむくれてる感じみたいで、妙な可愛らしさを感じさせる。
「いや、かなりギリギリだろ。お前だって凄かったじゃねぇか」
「確かにマシンのコンディションでは此方が勝っていた。しかし、それでもタイムトライアルでは僅かだがそちらの方が速かった」
「確かにそうかもしれないけど、そのタイム差だって1秒ちょっとの差だろ」
「それでもだ。負けは負け、だから悔しいんだ」
ほんの些細な差だが、それでも悔しいようだ。
いや、その気持ちはよく分かる。俺もあっちではいつもそんな感じだ。負けるのが嫌だからこそ、より完璧を目指そうと必死になった。まだ完全に馴染んでるわけじゃないが、今の俺はそこまで追い詰められているわけじゃないから余裕があるみたいだ。
そんな風にクリスカと話していたら、横から野次が入った。
「おいおい、あまりイチャつくんじゃないよ。ウチのユウヤはイワンの犬には興味なんかねーんだよ。だからその駄肉を近付けるんじゃねぇ!」
「あらあら、タリサったら。ユウヤがそっちにばかりかまけてるからって焼き餅やいてるんじゃないの。それにあまりそういう差別的な言葉は良くないわよ」
タリサはどうやらクリスカと馬が合わないらしく、こうして良く噛みつく。
それを嗜めるのはステラの仕事となっているようで、まるで母親のようだ。見ていて微笑ましい気がしなくもない。
妙にほっこりしたような気分になったが、そこに爆弾を投下する奴もいた。
「そうだ、そんなに顔が近いとキスする手前みたいだぜ、お二人さん」
「あまりイチャつくなよ、羨ましいぜ。ヒューヒュー」
またニヤニヤ笑ってるVGにヴィンセント。こいつら、人をからかうのが本当に好きだよなぁ。
「そんなんじゃ……」
否定しようとしたんだが、それを遮られる。誰に? それはさ……。
「き、キス!? そ、そんなつもりじゃないんだ、ブリッジス! その、ただお前とこうして会話をしているのが嬉しくてだな、べ、別にその、出来ればそういう関係になりたいとか、そう思って………ぁぅぁぅ」
クリスカが顔を真っ赤にしてわたわたと慌てまくってた。
こいつ、何でこうも真っ赤になるんだ? 向こうのアイツとはこの辺りがまったく似ていない。
「おい、落ち着けって」
そう言って軽く肩を叩いてやる。
男に比べてやり小さい肩は、少し柔らかく女って感じがした。
「な、何をするブリッジひゅ…………うぁぁぁぁ」
俺に肩を叩かれたことに驚いたのか、俺の名前を噛むクリスカ。その後は恥ずかしがって頭を抱えて唸り始めた。
それが尚面白かったのか、男二人が爆笑してきた。
「あっはっはっは、マジでラブコメしてる!」
「どこの漫画だよ、これ。リアルでまさかこんなもんみられるなんて思わなかったぜ!」
そう笑ってる二人に何故だか凄く怒りたくなってきた。
何がラブコメだよ。俺は生憎そんなのと無関係な人間だっての。
だから突っ込みを入れようとしたんだが、それは校門の外側から聞こえてくる声によって止められた。今日は何故だか止められることが多くないか?
「ブリッジスさ~~~~~ん!」
その声は聞き覚えがある。いや、それも当たり前だ。何せ毎日聞いてる声なんだからな。
声の方を向くと、そこには此方に向かって手を可愛らしく振っている女子が一人。
着ているのはこの大学の付属校の制服、長く綺麗な黒髪をした大和撫子を体現したような奴がそこにいた。
そいつの姿を見て、俺は手で呼びつつ声をかける。
「どうしたんだ、唯依? こんなところに来て?」
そう、居候先の娘さんであり、向こうの世界では上司。そして俺にとって大切な………………。
「その、せっかくだからブリッジスさんと一緒に家まで帰りたくて…………来ちゃいました」
顔を赤らめつつ嬉そうにそう言う唯依。その姿は年相応の魅力にあふれている。
その可愛らしさに何故だか顔が熱くなる。
「お、これは正妻様の登場か?」
「やっぱ可愛いなぁ、唯依姫は」
VGとヴィンセントがそんな言葉をかけてくる。
こいつら、何かにつけてからかってくるよなぁ。飽きないんだろうか?
そう言われた途端、唯依が顔を真っ赤にする。
「そ、そんな、奥さんだなんて早すぎます。ま、まずは恋人になって次は婚約者に、そして最後に新妻で幼な妻で………キャーキャー!」
向こうの唯依と似ていて似つかない様子が何だか笑える。
出来ればもっと見ていた所なんだがそれよりも先に唯依が表情を変えることに。
その理由は唯依を警戒した顔で見るクリスカの視線を感じたからだ。
「ブリッジス、彼女は?」
クリスカは俺にそう聞いてくるが、先程までの雰囲気から変わってまさに、俺が知っている向こうのクリスカとそっくりな空気を醸し出す。
そう、まさに戦術機に乗るスカーレットツインの片割れのアイツと同じ雰囲気を。
その雰囲気にぞっとしつつも少しだけ懐かしく思っていると、俺が答える前に唯依が前に出た。
「あなたこそ誰ですか?」
こいつもこいつで何やらピリピリした雰囲気を出しながらクリスカに問いかける。
その雰囲気は向こうのアイツとそっくりだ。
おかしいな。向こうの二人は決してここまで逼迫した雰囲気は出さなかったはずなんだが………。
「私はクリスカ。クリスカ・ビャーチェノワだ。ロシアからの留学生で、ブリッジスとは『同じサークルで競い合う最高のライバルだ』」
「私は篁 唯依と申します。白陵大付属柊学園2年生で、『ブリッジスさんとは大家と家子の関係でもあり一緒に暮らしていて、私の家庭教師の先生です』」
互いにそう名乗り合う二人。やけにピリピリした空気が辺りに漂う。
そして睨み合うこと約数十秒………二人は何故か同時に動き………。
俺の腕に抱きついてきた。
まるでこれが自分の物だと主張するかのように。
「ブリッジスさんが嫌がっていますから手を離してくれませんか。これからブリッジスさんは私と一緒に帰って一緒にお勉強するんです!」
「悪いが手を離してくれ。ブリッジスとはこの後カフェで一緒にマシンの事について色々と意見交換がしたいんだ。二人っきりで!」
「「む~~~~~~~~~~~~~~!」」
睨みあう二人は更に俺を引っ張る。
その際に二人の大きな胸が俺の腕に大きくあたり、そのやわらかな感触を伝えてきた。その感触とこの雰囲気に気まずくなり、どうすれば良いのか分からず仲間に助けを呼ぼうと思ったのだが………。
「修羅場ですよ、軍曹。我らが盟友が見事に修羅場ってござる」
「流石はユウヤだ、まさにラブコメ主人公」
「け、所詮デカイだけの駄肉の癖に」
「まぁまぁ、ユウヤったら大変ね」
どうやら俺を助けてくれる仲間はこの場にいないらしい。