Muv-Luv ユウヤ・ブリッジスの第二な人生   作:nasigorenn

10 / 11
普段忙しいのでたまにはこちらも更新しないとと思いまして。
短めで申し訳ないです。


ミッション10 俺と雨の日

 こっちの世界に来てあっという間に一ヶ月が経っちまった。

最初こそ違和感だらけだったが慣れれば快適なもんだ。こっちは命の危険に晒されることもないしな。現金だとは思うんだが、こうも平和だとついつい気が緩んじまうんだよ。きっと向こうにいたらこんな気持ちには絶対にならなかっただろうよ。それぐらい今はのびのびしてる。気持ちに余裕があるんだろうさ。それを悪いとは言わねぇと俺は思う。環境に適応してるといえばそうだし、そんな余裕がない奴はきっと人の事を思いやれねぇからさ。

まぁ、そんなわけでもうすっかりこっちの住人になってる俺がいる。向こうに帰る手段もないし、こっちで骨を埋めるのだって悪くないだろうよ。

まぁ、あれだ…………アイツの幸せそうな笑顔を見れるんだ。それだけで十分幸せだからさ。

 そんな事を考えつつも大学からの帰り道、俺は自分の間抜けさに軽く舌を打ちつつ走っていた。全身から感じる冷たさ、そして滴る雫に視界を遮られる…………つまりずぶ濡れ状態である。何故なら現在土砂降りだから。

今朝ニュースで天気予報を見ていなかった俺が悪いとしか言い様がなく、大学で講義を受けている間に空は曇って一気に降りだしやがった。

まさか雨が降るなんて思わなかったからなぁ………傘なんて持ってきてない。

それで今日雨が降ることが知っていた連中に借りれないか聞いてみたんだが、アイツ等………『男と相合い傘する気はねぇ!』と言ってきやがった。

ステラ達に頼もうとしたらアイツ等、今日は女子だけで遊びに行くってんで俺等よりも早く帰ったらしい。んじゃクリスカはと思ったんだが、今日は諸事情で休みときたもんだ。

だから頼りが全滅した俺は仕方なくこうして濡れながら走ってるわけだ。え、コンビニで買えばいいんじゃないかって? 残念な事に手持ちの金が足りなかったんだよ。

向こうとの違いとして唯一困ったことは俺が自由に出来る金が少ないことだ。向こうじゃ軍に所属しているだけで給付金は結構もらってたし、国連軍の施設だと配給制だから使う機会もなかった。だが、こっちだと俺の金は親からの仕送りや唯依の家庭教師代とかになる。家庭教師代は下宿させてもらっている身としてはもらえないと言ったんだが、そこは唯依の両親から半ば強引に渡されるようになった。案外押しが強い両親だ。

前と違いこちらじゃ金を使うことも多くなり、そのため今の予算でやり繰りするにはある程度の節制を余儀なくされる。だから安易に使うわけにもいかず、普段からあまり多くは持ち歩かないようにしているってわけだ。その結果がこの金欠。だから傘が買えずにこうして濡れ鼠になりながら走ってる。

そんな俺を嘲笑ってなのか、雨は更に酷くなり俺は雨宿りをせざる得なくなった。いや、最初からすればいいじゃないかって思われるだろうが走って行けば大丈夫だと思ったんだよ。最初はここまで酷くなかったからな。日本の季候を甘く見てたぜ。

入ったのは何かの店の屋根。どうやら今日は休みらしく閉まっていた。

そこでこの雨が止むのを待つこと約10分、こちらを見て声をかけてきた奴がいた。

 

「あれ? もしかして………ブリッジスさん!?」

「唯依か?」

 

山吹色の傘をさして歩いていたのは白い制服に綺麗な鴉色の長髪をした女の子………唯依だった。彼女は俺に気付き早足でこちらに来る。

 

「うわっ、ずぶ濡れじゃないですか!? ブリッジスさん、寒くないですか? 大丈夫ですか?」

 

俺を見て唯依は慌てた様子で心配してきた。その様子が当人よりも慌ただしいもんだから、そのことが見ていて可愛らしく見える。

 

「あ、あぁ、大丈夫だ。風邪引くほど柔じゃねぇからよ」

 

唯依の鬼気迫る表情に少し押されつつそう答えるが、唯依は心配そうにこちらを見てきた。その顔は自分がしっかりしていなければと自責の念に駆られているようだ。

 

「ブリッジスさんは今日早かったからてっきりちゃんと傘持ってきてると思ったのに」

「悪い、今日は天気予報見てなかったんだ。だから降るって知らなくてな。借りようと思ったんだがヴィンセントもVGも貸してくれなかった」

 

そう答えると唯依は俺を見てプリプリと怒り出した。

 

「もう、携帯に連絡してくれれば私、傘持って行ったのに!」

「いや、悪いと思って」

「寧ろそれでブリッジスさんが風邪でもひいてしまったら、それこそ私は心配になっちゃいます」

 

怒りながらも俺を心配する唯依。その姿がいじらしくて笑っちまった。

 

「何笑ってるんですか!」

「いや、唯依がいじらしくって可愛いなって思ってさ」

「なっ!? 可愛い……ですか」

「あぁ」

 

そんな俺を見て唯依は怒っていたはずなのに、今度はモジモジとしながら顔を赤らめて見つめてきた。

 

「そ、それじゃ仕方ないから、その………一緒の傘に入りませんか?」

 

恥ずかしがりながらそう提案してきた唯依。そんな態度を見せられるとこちらとしても気恥ずかしくて顔をそらしちまう。正直に言って唯依が可愛いと思った。

 

「あぁ、その………頼む」

「はい! わかりました」

 

そして唯依の持っていた山吹色の傘に二人で入りながら歩き始める。

傘のサイズが大きくないので、どうにも唯依との距離が近い。

 

「悪いな、唯依。狭いだろ」

「いえ、そんなことは………(ブリッジスさんがこんなに近くに………ぬくもりを感じて顔が熱くなっちゃう)」

 

二人で身を寄せ合うようにしながら歩く。唯依には悪いが、唯依の肩が俺の肩に触れる度に俺は少しだけドキっとしちまった。男とは違う柔らかな感触、そして冷えた身体にしみるように感じるぬくもりに確かな『女』を感じた。

それが更に胸をドキドキと高鳴らせる。そのせいで冷えているはずなのに触れる肩が妙に熱く感じた。

雨が降り注ぐ中、二人だけになったかのように感じる。

正直入りきれずに肩が濡れてるが、それでもまぁ………こういうのも悪くないかもな。

何よりも…………。

 

「唯依の顔をこうして見れるのも、その………いいな」

「え!? ブリッジスさん、さっき」

「いや、何でもない」

 

たまには雨の日も悪くはないな。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。