ハイスクールD×D イマジナリーフレンド   作:SINSOU

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7話

「ことな先輩、こんにちは」

 

昼放課、私が一人で弁当を食べていると、珍しく声をかけられた。

場所は、学園内であまり人が来ない中庭。

昼ごろになると、太陽の位置関係で、ちょうど陽が入ってあったかいのだが、

普段は四方を校舎で囲まれているので、薄暗くてじめっとしている印象の方が強いのだろう。

ここでご飯を食べようと、そうそう思わないかもしれない。

 

それも相まってか、静かで、若干ひんやりと涼しくも、太陽の陽でほんのり暖かい、

私のお気に入りの場所だ。

大半の生徒は教室か、校庭の方でご飯を食べている中、

こんな場所でご飯を食べに来るのは私ぐらいかと思っていたのだが。

 

「こんにちは、塔城さん。珍しいね、こんな場所に来るなんて」

 

「先輩が見えたので、少し気になりまして」

 

振り返れば、駒王学園のマスコット代表であり、

オカルト研究部の一員である、搭城小猫さんがいた。

溢れんばかりのパンを抱えて。

 

 

 

「意外ですね、ことな先輩が一人でご飯を食べるなんて」

 

「そうかな?」

 

しばらく黙々と弁当を食べていたのだが、それに耐えきれなくなったのか、塔城さんが呟く。

私としては、なんら意外性も何もないと思っているのだが。

 

「先輩は、放課後とかは助っ人で多くの場所に顔を出してます。

 ですので、交友関係が広そうで、ご飯を食べる時も、大勢の方と食べるかと思っていたので」

 

塔城さんの言葉に、私は苦笑する。

いやはや、私は塔城さんからそのような印象を受けていたのですか。

 

「あはは、私だって一人でいたい時はあるんだよ?

 例えば、今みたいなお昼の時間なんか特にそう。

 普段が忙しいからこそ、こういった時間はゆっくりしたいの」

 

私の言葉に塔城さんは、まるで予想外という風な顔をする。

別に私は悪くはないのだが、謎の罪悪感が生まれ、謝罪する。

 

「塔城さんの夢を壊してしまった・・・のかな?ごめんね」

 

「いえ、そう言うわけでは・・・ないです」

 

私の言葉に、塔城さんは戸惑ったように応える。

うん、困り顔もかわいいね。

もう少し見てみたかったけれど、また罪悪感が芽生えたので、「冗談だよ」と言っておく。

そしてまた、私たちは黙々とお昼を食べる。

 

 

「ことな先輩って、私が思っていた想像と違いますね」

 

「へ?」

 

私は突然の言葉に、呆けたような反応をしてしまった。

それはそうだろう。

唐突に「貴女は私の思っていたのと違う」なんて言われれば、誰だって戸惑う。

それこそ、失望という意味で使われることが多い言葉なので、余計に反応に困った。

 

「えっと、塔城さん?なんか私、塔城さんに失望されるようなことをしたの?

 ねぇ、正直に答えて。私、何か塔城さんを不快にさせる事でもしたのかな?

 もしもそうだったら素直に言ってくれる?

 ごめんね、今まで気付きもしないでごめんなさい。

 私、できうる限り善処するから!だから今すぐに言って!お願いだから!

 ねぇ、お願いだからさぁ!」

 

私は塔城さんに詰め寄り、顔を近づけながら叫ぶ。

 

「いえ、そうじゃないです!先輩が思っているのと違います!

 ですから落ち着いてください」

 

私の言葉に戸惑う塔城さん。

一瞬、私は時計の針が止まったかのように静止し、顔を真っ赤にする。

いけない、悪い癖が出た。

 

少し呼吸を整えて心を落ち着かせて、改めて塔城さんに顔を向ける。

 

「大丈夫・・・ですか?」

 

「大丈夫だよ。いやはや、見苦しい姿を見せてごめんね」

 

「いえ・・・」

 

少し驚いていたようだが、塔城さんは改めて語り出す。

 

 

「私が思っていたことな先輩の印象って、

 いつも走り回っていて、いつも誰かを助けていて、凄い人だなぁって思っていたんです。

 人のために何でも出来る人、そんな風に思っていたんです。

 でも、そうじゃなかったんですね」

 

塔城さんは、私に向かってクスリと笑う。

 

「先輩は凄い人です。

 でも、悩んだり、一人になりたいって思う人だったと知れて、

 なんだか近くに感じられました」

 

彼女は私をじっと見つめてきた。

 

「ことな先輩、私たちはことな先輩の味方です。だから、悩み事があったら頼ってください。

 私だけじゃないです。

 部長や姫島先輩、祐斗先輩やギャーくんに、アーシアちゃんも同じ気持ちだと思います。

 あの変態はどうだか知りませんけど」

 

「ありがとう、塔城さん」

 

私の言葉に、塔城さんは安心したような笑みを浮かべる。

ところで、今の会話で気になったのが一つ。

 

「ギャーくん?」

 

「えっと、部長のもう一人の『僧侶』です。

 理由があって、今は会えないんですけど、悪い子じゃないので安心してください」

 

「そうなんだ。ぜひ会ってみたいなぁ。私もオカルト研究部の一員だもの」

 

「そうですね」

 

私の言葉に答えるように、微笑む塔城さん。

 

 

ふと私は、この瞬間ならば聞けるかと思い、問いかけてみた。

 

「どうして、塔城さんは戦えるの?」と。

 

 

 

 

私は、その問いに一瞬戸惑った。

 

『どうして、塔城さんは戦えるの?』

 

目の前のことな先輩から問われた言葉。

その問いに、私は少し落ち着いてから、言葉を発した。

 

「部長への恩返しをしたい、からだと思います。

 私、魔王様に助けてもらったんです。その際に、部長の悪魔になりました。

 その後、部長や皆が私に親身になってくれたんです。」

 

 

思い出すのは、あの日の光景。

幼き自分の目の前には、手を真っ赤に染めた姉さまと、横たえた悪魔。

自分を見る姉の顔は、見られてしまった驚きと戸惑い、今にも泣きそうな顔だった。 

 

「ごめんね・・・」

 

そして姉さまは、私の前から姿を消した。

 

その後は、殺されそうになった自分を、部長のお兄さんであるサーゼクス様に助けられ、

部長のけん属になるということで、命を助けられた。

いわば、グレモリー家の方々が、私の命の恩人なのだ。

だから、私は恩返しとして、部長のために戦う。

 

「そうなんだ。塔城さんにとって、リアス先輩は大切な人なんだね」

 

「そうですね、でもそれだけじゃないんですけどね」

 

「?」

 

ことな先輩の首を傾げる様を見つつも、私はもう一つの理由を思い出す。

 

姉さまは、主を殺してはぐれ悪魔になり、私はその責務によって悪魔に転生した。

周りは、姉さまが力に呑まれたからと言うけれど、私はそうは思えない。

なぜなら、私に優しかった姉さまの姿が、あの時の姉さまの顔が、姉さまの言葉が、

今でも私の中に残っているから。

だから私は、姉さまに会って確かめたい。確かめなければいけない。

だから私は、負けるわけにはいかない。負けられるわけがない。

だから、私は戦う。戦わなけばならない。

これが私の、もう一つ理由。

 

私に言葉に何を感じたのか判らないけれど、何かを考えるように黙った後、静かに聞いてきた。

 

「ねぇ、塔城さん。」

 

『リアス先輩は信じられる?』

 

「!?」

 

先ほどまで、自分を元気づけるような、周りをあったかくする先輩の声が、

なぜかその言葉を聞いた瞬間、私の全身に寒気が走った。

まるで、無防備の自分の身体に、肌に、冷たい手が触れられた様な、そんな感覚。

 

私は、目の前のことな先輩を見る。

外側にはねた黒い髪のショートカットで、目元が少し上がってキリッとして、

綺麗とかカワイイという印象よりも、『元気』『明るい』といった印象を与える顔立ち。

いつもなら、その顔から見えるのは、明るい太陽のような笑顔。

でも、その時の先輩の目は、ガラス玉のように無機質に見えた。

まるで、一切の温かさが失われたような、人形のような印象。

その顔からは、自分の中を見透かされるような無遠慮かつ無機質な視線。

そして何故か、『先輩とは別の何か』が私を見ているような感覚があった。

 

時間が止まったかのような、その場だけが時間から切り離されたような、静かすぎる環境。

数秒?数分?どれくらいの時間が過ぎたか判らないが、

言葉を発せない私を見ていた先輩が、言葉を発した。

 

「なーんてね!塔城さんには不問だったね」

 

ことな先輩は、いつもと変わらない笑顔で私を見つめ、

食べ終えていた弁当をしまい、ベンチから立ち上がった。

あれ?さっき感じたのは気のせいだったのかな?

 

「あの、先輩、今の質問はどういう意・・・」

 

「塔城さん、もう昼休みも終わりそうだし、この話はもうおしまいってことで」

 

気付けば、いつの間にか予鈴が鳴る時間になっていた。

どうやら、先輩と楽しくおしゃべりし過ぎていたようだ。

 

先輩は、くるりと私の方へと向き、似合わない真剣な顔で語る。

 

「塔城さん、ごめんね。

 私、大切な人を守りたいって思う気持ちはあるの。

 でも、私は今まで戦った経験なんてないからさ。

 みんなはどうして戦えるのか、不思議に思ってた。

 だから、塔城さんの戦う理由を知りたかったから、意地悪な質問をしたの。」

 

先輩は、私に頭を下げて謝る。

 

「いえ、それならいいです。先輩も、色々と不安なことばかりですからね」

 

「そうなんだよね。いやはや、私も皆と負けないように頑張らないと!」

 

 

そう言って、ことな先輩は気合を入れる。

そして、私に向かって手を差し出した。

 

「塔城さん、私、大切な人を、大切なこの町を守りたい。

 そのために、私は、みんなをサポートするように頑張る。

 だから塔城さん、貴女も貴女の目的の為に、お互いに頑張りましょう」

 

「そうですね、ことな先輩、改めてよろしくお願いします」

 

私はことな先輩の手を握り返し、それを見て先輩がうんうんと頷く。

 

「これで塔城さんは、私の『友達』だね!」

 

私から見た先輩の笑顔は、とても眩しかった。




もしかすると、6話のように追加するかもしれません。
ご迷惑をかけますが、すみません。

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