ハイスクールD×D イマジナリーフレンド   作:SINSOU

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野良犬の法律

ペットは、法律的には『物』として扱われる。

飼い主(所有者)の所有物としてされるので、

万が一怪我をさせた場合は『器物損壊』、盗んだ場合は『窃盗』の罪状となる。

 

一方で野良犬は、法律では自然物『石』『木』として扱われる。

但し、自然物ではあるが、『命をあるもの』として扱われるので、

傷を付けた場合は『動物愛護』の面で罪になる。

 

『野良犬』が、元は飼い犬であり、

飼い主が世話を放棄して捨てた場合は、犯罪であるので飼い主に処罰が下される。

また、野良犬が人に危害を加え、元の飼い主が判明した場合は、

元の飼い主がその罪を償わなければならない。

 

 

『私の眷属になってくれないか?』

 

そう言われて差し出された手を、私は握った。

 

物心ついた時、私は一人だった。

私を産んでくれた両親は既におらず、気が付けば私は孤独に生きてきた。

だからだろうか、私は一人でいることが怖かった。

だからだろうか、私は言葉に抗えなかった。

 

私の声には特別な力があった。

聴いた者の動きを止める、それが私の力だ。

それ故に、私は他者と喋ることが出来なかった。

なにせ、気を許せば力が暴発してしまったことがあったからだ。

だが、私を認めてくださった主様は、私の声を気に入ってくれた。

それに、魔力が強ければ、私の声も効き難かったというのもあってか、

私は主様と会話をすることが出来た。

それは私にとって、とてもとても嬉しかったと言えるだろう。

 

さて、主様の眷属となった私だけど、私は『兵士』の役割を得た。

兵士は、他の眷属と比べて弱いものの、

昇格さえできれば、他の眷属と対等に戦えることが出来た。

それに、私の声を使えば、他の眷属の力にもなれた。

 

けれど、私がもっとも嬉しかったことは、主様の力になれたことだと思う。

一人ぼっちだった私を、主様は見つけてくれたどころか、

眷属という家族まで用意してくれたこと、忌み嫌った声を認めてくれたこと。

様々なことが私には嬉しかった。

だから私は、主様のために奮闘していった。

 

ある日のこと、主様が自身の女王と一緒にお出かけになられた。

主様の女王は、主様の自慢の眷属であり、他の眷属を遥かに凌ぎ、

私の声さえも耐えられるという、素晴らしき方だ。

主様が最も頼りにし、第一に信用しておられると言ってもいい。

私は兵士であり、立場的にも、力的にも到底敵わないにしても、気持ちだけは負けないようにと、

私はより一層、主様のために頑張ることを決めた。

 

 

 

 

「あいたたた・・・」

 

私はボロボロの身体に包帯を巻いていた。

今回、主様と主様のご友人とでレーティングゲームが行われ、

私は奮闘はしたものの、味方内で最初に脱落してしまった。

かつて猛威を振るっていた私の声は、相手方に警戒されていたらしく、

悉く防がれてしまい、相手との自力と連携の差で、私はやられてしまったのだ。

他の眷属の皆様は、それぞれ敵を撃破し、私だけがスコアを得られなかったのだ。

 

「私もまだまだって事ね。もっと頑張らないと!」

 

主様の勝利で終わったものの、私は自分の弱さを実感し、

改めて自分を見つめ、強くなろうと思い至った。

 

『いや、君のせいではないよ。相手が君を警戒していただけさ。

 それに、君のおかげで相手に勝てたとも言える』

 

そういっていただいた主様の言葉は、私を元気づけてくれた。

 

 

 

 

「よし、今日も主様のために頑張るぞ!」

 

主様の昇格を決める大事な公式試合、私は気合を入れた。

これに勝利すれば、主様の爵位も一つ上がる。

故に、ここは絶対に勝利する。

そして、活躍すれば主様に褒められる!

私は、主様に褒められる場面を想像し、顔がにやけてしまった。

それを、同じ兵士の子に見られ、弄りネタにされてしまった。

試合に関しては、私は一人を道連れにする形で倒すも、他は私よりも大きな成果を出していた。

試合には勝利したものの、私の心は晴れなかった。

試合後、しょんぼりの私を主様が慰めてくれたが、私は自分の情けなさに泣いた。

 

 

 

数日後、主様が他の子(眷属)を連れて出かけていった。

なんでも、活躍したご褒美として、主様に何でも要求できるとか。

それを聞いた私は、自分には無いだろうな、と諦めた。

ところが、主様が私の元へとやってきたのだ。

私は、嬉しさのあまり緊張してしまい、主様をあっけにさせてしまった。

混乱する私は、主様にプレゼントが欲しいと、ネックレスをいただいた。

ネックレスの光は、私の顔をにやけさせ、顔を真っ赤にさせた。

 

 

 

最近、レーティングゲームの勝率が悪い。

他の子は活躍しているのに、私だけが置いていかれる。

自分の声は相手に悉く対策され、自分は真っ先に倒されている。

どうして?私は焦った。

これでは主様のお力になれない。主様のおそばにいられない。

私の焦る気持ちとは逆に、私はどんどんと負けていくようになった。

どうして?どうして?どうして?と自分に問うも、答えは判らなかった。

 

 

ある日、主様が出かけないか?と私を誘ってくれた。

最近、他の子たちも、時折主様と出かけていたのを見ていたので、不思議に思っていた。

なんでも、眷属の労おうとしていたと、主様が答えてくれた。

 

『ありがとう。私のために頑張ってくれて。だから、私が労おうと思ってね』

 

私は、主様の言葉が嬉しく思えた。

こんな私を、主様は気にかけてくれていたということに。

そして、私は主様と一緒にお出かけした。

主様と一緒に過ごせた一日は、私を元気づけてくれた。

そして主様の御屋敷へと帰る途中、主様が私をある場所へと連れてくれた。

そこは、私が主様と出会った場所であり、主様に拾われた場所だった。

私は、あの時から今に至るまでの日々を思い出し、主様への感謝の気持ちがいっぱいになった。

 

『実は、君に伝えたいことがあるんだ』

 

そういう主様の顔は、一瞬見とれてしまうほどに美しく、

主様の言葉に、私は胸の高鳴りを覚えた。

そして主様は、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『君はもういらない』そう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一瞬、私の耳がおかしくなったかと思った。

その言葉が理解できなかった。

何を言ったのか理解できなかった。

 

『正直、君はもういらないんだよ』

 

混乱する私に、主様は言った。

 

『拾った時は使えると思っていたし、確かに君は私の役に立ってくれた。

 だが今の君は、もう私には必要ないんだ。

 レーティングゲームに勝つためには必要なことだからね。

 今までは、他に良い駒が見つからなかったから、情けで使ってやっていたが、

 君よりももっと優秀な奴が見つかってね。

 だから、駒を確保するために、君はもういらない。だから死んでくれないか。

 それに・・・』

 

主様は一呼吸おいて言い放った。

 

『お前のような転生悪魔ごときが、私に好意向けてくるのはウンザリなんだよ』

 

 

 

私の頭は真っ白になった。

主様の言葉が、私の頭を打ち負かす。私の心を打ち砕く。

何を言っているんですか?主様、私は主様のために頑張ってきたのに。

主様に拾われた御恩を報いるために、私は頑張って頑張って・・・。

 

『大体、私のような純血悪魔が、

 お前のような転生悪魔を好きになると本気で思っていたのか?

 それこそありえない。

 お前ごとき下等な存在が、高潔な私に仕えるだけでも、

 むしろ有難く思えるべきなんだよ』

 

主様?何を言ってるんですか?私は、私は主様のことのために・・・。

 

『最初は良いものを拾ったと思ったんだがな。

 もうお前は用済みだ。だから、さっさと私のために死んで、駒の空きになってくれ。

 私の手を汚させる気か?全く、最後まで使えない駒だな』

 

私に手を向ける主様に、私は泣きながら、混乱しながら、

止めてください!と叫ぶも、主様の手には強大な魔力が満ちはじめる。

 

ああ、本気だ。主様は本気で私を殺す気だ。

先ほどの主様の言葉は、全て本当だと私は思い知った。

それこそ、私の頑張りを心底あざ笑うかのように、踏みつけるように、主様は否定した。

否定しやがった・・・!

私の恋(気持ち)が憎悪に変わる

 

「あああああああぁぁぁぁぁあぁあああぁぁぁあぁぁAHHHhhhHHhhh!!」

 

私は、全ての想い(憎悪)を込めて、声を主にぶつけた。

それこそ、全ての想い(甘い思い出)を消し飛ばすように。

 

『馬鹿が、お前の力が私には効かないとわか・・・・・・!?』

 

主様だった悪魔が、驚いた顔をする。

掌に集まっていた魔力が霧散し、そのままの姿勢で、

悪魔は石像のように固まっていた。

 

『な、なぜ動けない!?くそ!一体何が起きたんだ!?』

 

自分のことに驚いている悪魔だが、そんなこと、私にはどうでもよかった。

悪魔は、私に顔を向けると、怒鳴り出す。

 

『くそ!転生悪魔ごときが私に何をした!さっさと私を解放しろ!』

 

ああ、うるさい。

 

「黙ってくれませんか」

 

「!?」

 

すると、悪魔の口が閉じ、相手は必死に口を開けようとするも、決して開かず、

無様にウーウーという音が聞こえるばかりだ。

逆に可哀想になったので、口を開けさせる。

 

「喋っても良いですよ」

 

『はー、はー・・・。よくも私に無様なことをさせたな・・・!

 散々可愛がってやった恩を仇で返しやがって!』

 

なんか聞こえるが、私は合点がいった。

そうか、私の力って・・・

 

「折れろ」

 

『ぐギャァァァぁぁぁぁぁぁ!』

 

私の一言で、悪魔の両腕と両脚が折れた。でも倒れない。

折れたままで、悪魔は立っている。

これで私は確信した。

私の声は、相手の動きを止めるのではなかった。

まさか、この時になって気付くとは、と私は自嘲する。

私は、四肢の折れた悪魔を見つめ、可哀想だなぁと思えた。

 

『助けてくれ』

 

目の前の悪魔は私に言った。

あの時のように、柔らかで、惹き込んでしまうような声で。

 

『す、素晴らしいじゃないか・・・!

 まさか君の声にこんな力があったなんて。私が悪かった。

 君はまだ使える。だから、先の言葉は無しにしよう。

 それにこの力は、あのフェニックスにも通じるかもしれない』

 

悪魔が何か言っている。

 

『君の力があれば、私はより上へと行ける。

 だからもう一度、私の力になってくれないか?

 それに、私の力になるのは君の望みでもあったのだろう?

 今の君ならば、私の力になれる。だから助けてくれないか

 それに君は・・・』

 

悪魔が微笑んだ、あの時(私を見つけてくれた時)のように。

美しい笑顔で。

 

 

 

 

『私が好きなんだろ?』

 

「死ね」

 

私は答えた。

 

目の前には、主様『だった』肉塊が転がっていた。

四肢は砕け、首は曲がり、身体の至る部分が捻じれている。

そして、顔だった塊は、誰が見ても苦痛を感じさせた。

 

でも、それを見ても、私は何も感じなかった。

ただ、肉の塊にしか見えなかった。

私は、首にかけていたゴミを千切ると、肉塊に放り投げた。

 

「さようなら」

 

そして私は、野良犬になった。

 

 

 

ペットは、法律的には『物』として扱われる。

飼い主(所有者)の所有物としてされるので、

万が一怪我をさせた場合は『器物損壊』、盗んだ場合は『窃盗』の罪状となる。

 

一方で野良犬は、法律では自然物『石』『木』として扱われる。

但し、自然物ではあるが、『命をあるもの』として扱われるので、

傷を付けた場合は『動物愛護』の面で罪になる。

これは人間の法律であり、適用されるのは人間社会である。

 

『野良犬』が、元は飼い犬であり、

飼い主が世話を放棄して捨てた場合は、犯罪であるので飼い主に処罰が下される。

また、野良犬が人に危害を加え、元の飼い主が判明した場合は、

元の飼い主がその罪を償わなければならない。

 

悪魔や天使、堕天使における『野良犬』とされるはぐれ悪魔の場合は、

その存在が危険なため、速やかに処理することを推奨されている。

なお、どのような経緯ではぐれ悪魔になった場合でも、はぐれ悪魔が『悪』とされる。


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