ハイスクールD×D イマジナリーフレンド   作:SINSOU

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5話

『友達』のことに気付いたのは、子供の時だった。

 

忙しいお父さんとお母さんだったから、大半の時間を私は一人で過ごしていた。

それが私にとっての日常だった。

育児放棄をされたわけでもないし、時間があれば一緒に過ごしてくれるなど、

とても優しい両親であったことは、今でも確信できる。

お休みの日の時は、家族一緒に遊園地に行ったこともあったのだから。

 

それでも、平日は一人で両親を待っていた。

もちろん、お父さんもお母さんも大好きということは、昔も今も変わらない。

でも、静かな家で一人でいたのは、とても寂しかった。

本を読んだり、お人形で遊んだりとしてたけど、やっぱり寂しかった。

私だけしかいない家は、時計の秒針音が響く程、小鳥のさえずりが木霊するほど、

絵本の擦れ音が反響するほどに・・・・・・静かだったからだ。

 

でもある日、その子が私の前に現れた。

その子は、本を読んでいた私の前に現れた。

その子は、私に手を差し出してくれたの。まるで、握手を求めるかのように。

 

そして私はその手を握り、『友達』になった。

その子はぺこりと、私に頭を下げた。

 

 

 

 

「あ・・・あああああ・・・・・ああ・・・」

 

レディプスの目に映ったそれは、歪だった。

それは『手』も『腕』も『胴体』も『脚』も『首』もあるというのに・・・・・・、

『頭』が無かった。

そう、あるはずの『頭』が無かったのだ。

いや、『頭』に当たる部分だけが、まるで水で暈された絵の具のように、滲んで見えるのだ。

ゆえに、その表情どころか、それがはたしてヒトと言える頭なのかも判らないのだ。

そして更に歪なのは、それが服を着ているということだ。

隣にいる少女と同じ服を。

それが、それの歪や、異質さを引き立てた。

 

だが確かなことは、それは今も、引き剥がそうと必死なレディプスを嘲笑うかのように、

彼女の腕をつかんで・・・いや握りしめていることだ。

あまりにも馬鹿げた膂力を供えている。

 

怯えるレディプスを、ことなは無機質な目で見つめている。

そして、何を言おうか考えるかのように、

穴の開いた右手の人差し指を頬に当て、何度か頭を左右に揺らす。

一見すれば、カワイイと言われるだろう、この仕草。

なお、右手の甲からは血が流れ続けて、彼女が揺れる度に血の飛沫が地面を染める。

少しの時間が過ぎ、ことなはにっこりと笑う

 

「そういえば貴女、さっきなんて言ったっけ?」

 

「!?」

 

ことなの言葉に、レディプスは身体をビクンと撥ねた。

それを、無機質な目で見ながら、ことなは尋ねる。

 

「私の友達を食べる、って言ったよね?」

 

「ちが・・・ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁあ!?」

 

レディプスの腕から、メキリと音が聞こえた。

 

「目の前で、私の友達を食べるって言ったよね?」

 

「知らない!そんなのしら・・・あぁぁぁあぁぁぁぁぁあぁぁ!?」

 

腕が軋み、音を立てはじめる

 

「私の目の前で、私の友達を食べるって、私に言いましたよね」

 

「なによ、なんなのよ、何なのよアンタは!このばけも」

 

「そんなことは訊いてないの」

 

レディプスの右腕が、ぐるりと360度回った。

 

 

 

 

 

「ひぃ・・・ひぃ・・・ひぃ・・・」

 

自分の右腕を見下し、痛みで思考が止まりそうなのを、レディプスは必死に耐える。

彼女の右腕は、一周回って元通りになっている・・・手首だけが。

そして、それをガラス玉のような目で見下す、ことなと『友達』

なお、ことなの左ももには、千切れたレディプスの肢が刺さったままである。

 

ことなは、壊れたラジオのように「ひぃ・・・」としか言わないレディプスに顔を寄せ、

まるで意味が変わらないという顔をしながら話しかける。

 

「えっと、レディプスさん・・・でしたっけ?

 ほら、正直に言ってくれませんか?『私は貴女の前で友達を食べると言いました』

 これでいいんです。正直に認めてくれませんか?

 私だって、貴女を痛めつけたいわけじゃないんですよ。

 貴女があまりにも強情で、自分が言ったことを知らないと嘘を吐くのが悪いんです。

 だったら、私だってムキになっちゃうじゃないですか」

 

レディプスは、その無機質な目に見つめられながらも、首を必死に横に振る。

両者の意思疎通は、理解されてはいても、決定的な部分でずれていた。

 

ことなからすれば、ちゃんと罪を認めてくれればいいのだ。

そう、認めてくれるだけでいいのだ。

だが、レディプスからすれば、それは死刑執行へのサインに等しいのだ。

それも自分のだ。

この状況で、仮に認めてしまった場合、確実に自分は殺されると思っているからだ。

だからこそ、認められない、認められるはずがない。

だが悲しいかな、発した言葉は口には戻せない。

言ってしまった事実は覆らない。

 

恐怖か、それとも絶望して自棄をおこしたのか、レディプスは突然叫びだした。

 

「なによなによなによ!私が何をしたって言うのよ!

 主様に認められて、私はあの方のために頑張ろうと誓った!

 なのに、あいつは私を捨てた!捨てやがった!

 『もうお前はいらない、より優れた者を見つけたから』それで私は捨てられた!

 挙句、私は主を裏切ったはぐれ悪魔?何よそれ、裏切ったのはあいつなのに!」

 

「・・・」

 

「尽くしたのに!頑張ったのに!なんで私が悪いみたいに扱われるのよ!おかしいわよ!

 だったら私も好きに生きても間違いじゃないわ!

 あいつらがはぐれ悪魔というのなら、その通りになってやっただけよ!

 それのどこが間違いだっていうのよ!

 なにがはぐれ悪魔は悪よ、それを生み出したのはお前達だろうが!」  

 

自分を見下してくることなに、レディプスは睨みつけて叫んだ。

 

「お前だってそうだ。大方、悪魔に協力してるんだろ?

 だがそんなものは悪魔には無意味だ。

 ここの領主さまのために頑張ろうが、どうせお前も捨てられる。

 いくらお前が媚びようが、悪魔は自分勝手で、自分のことしか考えないんだからな!

 あはははははははは!

 お前も私のように、大切なものを奪われる! そして私と同じになるんだ!」

 

そして、狂ったように笑いだすレディプスに、ことなは告げる。

 

「それで?」

 

「え・・・?」

 

ことなの言葉に、レディプスは燃え上がっていた怒りが、急激に冷えていくのを感じた。

 

「貴女の言いたいことは解りました。

 ですが、私が聴きたいのはその言葉じゃないんです。

 『私は貴女の目の前で友達を食べようとしました』この言葉です。

 だから早く言ってくれませんか?私だって待つのは得意じゃないんです」

 

ことなの言葉に、レディプスは目の前の餓鬼が異質な存在に見えてきた。

言葉は通じているのに、言葉が通じていない。

 

「狂ってる!お前は狂ってるわ!」

 

「だから、私が聴きたいのはそれじゃないんだってば。いい加減にしないと肢を引き抜くよ?」

 

まるで動じずに告げてくることなに、レディプスは心が折れた。

それに、これ以上をいたぶられると自分は死ぬだろう。

 

「わ、私は、ああなたのま、前で、貴女の友人をた、食べると言いました。

 ごご、めんなさい」

 

「はい、分かりました。始めからそう言ってくれれば良かったんですよ。

 それじゃあレディプスさん、一緒に病院に行きませんか?

 私も貴女も怪我をしてますし、友達もお医者さんに診て貰わないといけないし」

 

そういうと、ことなはレディプスの肢が刺さったまま、倒れている友人の元へと進み、

穴の開いている右手と無傷の左手で彼女を背負い、病院の方向へと進み始める。

が、当たり前だが、重傷のことなが出来るはずもなく、直ぐに倒れた。

その寸前で、『友達』が二人を支える。

『友達』とやらが離れたことで、

レディプスはボロボロの身体を動かして、その場から逃げ出した。

 

「なんなのよ、なんなのよあいつはぁあぁぁぁぁ!」

 

遠ざかるレディプスを見ながら、ことなは「大丈夫かな」と心配するが、

多分大丈夫なのだろう。

それよりも重要なのは、友人の容態だ。

それがことなにとって重要なのことなのだ。それに

 

「私には、悪魔なんて関係ない、関係ないの」

 

ことなは決意するように呟く。

 

「今日のことで解った。私はこの町が、友人が大好き。

 でも、それが簡単に壊れてしまうんだって。

 恐いけど、私にはこの町を、友達を守れる力がある」

 

ちらりと、ことなは自分を支えてくれる『友達』に顔を向ける。

 

「助けてくれてありがとう。そして、酷いことさせてごめんね」

 

そう言うことなに、『友達』は首を横に振る。

そして、ことなの頭をポンポンと叩き、撫でる。

 

「ありがとう、気を遣わせちゃったね。

 でも大丈夫。私だって君に頼りっぱなしは嫌だから」

 

『友達』は、撫でていた手を頭から離すと、親指を立てる。

その仕草に、ことなは少し笑顔になった。

 

「それで悪いんだけど、私たちを病院まで運んでくれないかな?

 右手と左脚が痛いし、友達を放っておけないし」

 

そういうと、『友達』は首を縦に振り、二人を抱えて病院へと跳んだ。

『友達』に抱えられながら、ことなはレディプスの言葉を思い出す。

 

『ここの領主さまのために頑張ろうが、どうせお前も捨てられる』

『お前も私のように、大切なものを奪われる! そして私と同じになるんだ!』

 

その言葉は、ことなの頭に刻み込まれていた。

彼女の言葉は、嘘偽りがないのかもしれないし、自棄をおこした戯言かもしれない。

でも、ことなにそれを考える事なんて出来ない。

なにせ、それを判断する情報がなく、そして嘘と言える自信も無かったからだ。

だからこそ、ことなは呟く。

 

「リアス先輩たちは、違うもの」

 

ことなの呟きは、空に消えていった。


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