ハイスクールD×D イマジナリーフレンド   作:SINSOU

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4話

目覚ましが鳴る前に、私は目を覚ました。

不思議なことに、今日は珍しく目覚めが良いと感じる。

本当に、安らかに眠れた、そんな気分だ。

最近は、なぜか寝つきも悪く、寝ても直ぐに目を覚ましてしまうことが多かったのに。

 

早く目が覚めてしまったが、私のすることは変わらない。

いつものように朝ご飯を作り、仏壇にご飯を添える。

朝ご飯のついでに、お昼のお弁当も作っておく。

最近は、身体が不調気味だったせいか、

冷凍食品で誤魔化していたのだが、今日は時間があるから、少し手を加えてみることにする。

食べ終えた食器を洗い、歯磨きをして洗顔し、パジャマから制服に着替え、掃除機をかける。

授業の用意は、寝る前にやっておいたのだが、今一度鞄の中身を確認。

よし、忘れ物はない。

 

玄関前の姿見で自分の容姿を確認する。

髪のセット・・・よし!

制服は・・・襟元よし!皺は無し!リボンよし!イッツパーフェクト!

うん、何故か絶好調な気がする。

少し早いが、私は家の門前で待つことにした。

いつもは、友人がチャイムを鳴らしてから家を出るが、今日は自分が待ってみよう。

彼女の驚く顔が目に浮かび、私は少し意地悪な顔になった。

 

 

 

「あれー!?ことなちゃん、今日はどうしたの!?」

 

案の定、私の姿を見た彼女は、まるで珍しいモノを見たように、目を丸くして驚いた。

 

「いやぁ~、今日はすこぶる目覚めが良くてさ。だから待ってみようと思ってね」

 

「ほへぇ~、珍しいこともあるもんだね。

 なんか、私を待つことなちゃんが、すっごく違和感に思えるよ」

 

「あはは、いつもは私が待たせてるからねぇ・・・ごめんなさい」

 

「いやいや、私は迷惑だなんて思ってないから!」

 

ぺこりと頭を下げる私に、友人は焦ったようで、手を前であたふたと交差しながら否定する。

その姿に、私はプッと息が漏れた。

 

「あ、ああああー!?ことなちゃん、今笑ったでしょ!笑ったよねぇ!」

 

「ごめんごめん。慌てる姿が、あんまりにもおかしくって・・・!」

 

必死に笑いを堪えつつも、私は涙目の友人を慰め、

購買でおやつの菓子パンを奢ることでなんとかことをおさめて貰った。

 

「じゃあ、行こうか!」

 

「はいはい、そう急がなくても間に合うって」

 

急ぐように私を引っ張る友人の姿を、私は微笑ましく見守っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

学園は、いつものように平穏だった。

いつものように騒がしく、いつものように忙しく、いつものようにゆったりとしていた。

ただ昨日と違うこともあった。

 

学園の二大お姉さまである、リアス・グレモリー先輩と姫島朱乃先輩、

学園の貴公子と陰で呼ばれている、木場裕斗さん、

学園のマスコットの扱いである、塔城小猫ちゃん、

ある意味で、学園に花を添えている方々が欠席していることだ。

 

なんでも、体調不良を起こし、その養生の為、少しの間お休みするとか。

学園を(ある意味で)盛り上げている人たちのお休みと言うことで、

殆どの生徒は、お姉さまたちの養生が、心配でたまらないという様子だった。

それにより、学園の雰囲気は割かし沈んでいる気がする。

この雰囲気に、私はみんなの影響力と言うものを少し実感した。

 

「学園の二大お姉様たちだけじゃなく、他の人たちもお休みだなんてねぇ。

 そういえば、ことなってオカルト研究部の一員だったよね?

 なにか原因とか知ってるんじゃないの?」

 

「いやいや、知ってるわけないでしょ。

 それに、所属してるといっても、私は割と幽霊部員みたいなものだから・・・。

 ほんと、一体どうしたんだろうね?」 

 

まぁ、事実を知っている私からすれば、

まさか『山籠もりしてます』と言えるわけがないので、白を切ることにする。

数少ない友人?である桐生ちゃんのジト目を受けながらも、私は誤魔化した。

 

あ、兵藤も欠席していることに関しては、寧ろ欠席したことは歓迎されていたが、

残りのエロトリオ(松田・元浜)の相変わらずの所業のせいで、

あまり気付かれなかった、と言った方が正解かもしれない。

 

憐れ兵藤。

恨むなら自分の所業を恨むがいい。

所業が多すぎて困りそうだけど。

 

 

「ことなが知らなきゃ、私が知ってるわけないでしょ」

 

私の問いに桐生ちゃんが苦笑する。

いや、桐生ちゃんなら知ってそうだから、なんて口が裂けても言えない。

カウンターで、私の乙女の尊厳と精神削られるので。

胸揉みは、女の子同士でもセクハラなんですよ・・・。

 

「あ、そうそう。

 さっき1年生があんたを探してたけど、なになに?何かやらかしたの?」

 

「桐生ちゃんが思っているようなことはないよ。

 多分、いつものように、部活か何かのお手伝いのお願いでしょ」

 

桐生ちゃんは、「あんたは相変わらずだねぇ」と半ば呆れ顔だ。

 

「いつも思ってるんだけどさ、少しは自分のことも考えなよ?

 今日は顔色良いけどさ、最近はかなり暗かったんだから。」

 

「え、ほんと?」

 

「ほんとよ。誤魔化せてたと思ってそうだけど、気付いてた子もいるんだから」

 

前にも友人に言われたが、桐生ちゃんからも言われるとなれば、

私の顔は相当酷かったのかもしれない。

 

「ありがとね。気をつけてみるよ」

 

私はお礼を言って、教室を出て行った。

 

 

 

 

 

 

「さて、お仕事をしますか」

 

私は一人、オカルト研究部の部屋で、一人契約書を仕分けていた。

いつもならば、リアス先輩がソファに腰かけ、その傍で姫島先輩が笑顔で立っている。

そして、木場さんや搭城さん、アーシアちゃんや兵藤が、契約のお仕事で出かけていく。

だが、今日から10日間は、みんなはいない。

だからだろうか、けたたましさはなく、まるで静寂に支配された様に静かで、

私の仕分ける紙の音や、椅子や机の軋む音が、より響いた。

だが、私は何故かそれに安らいでいた。

理由は何となく思いつく。

 

私が仕分けをしている最中、時折リアス先輩は、こっそりと私を見ていた気がする。

まるで私を監視するかのように。

遅刻常習犯の私だからこそ、見られているのは仕方がないと思うのだけど、

私は時折寒気のようなものを感じてもいた。

リアス先輩の視線は、『私ではない何か』を見ていたような、そんな気がした。

まぁ、気のせいだと思うけどね。

 

そう思っている間に、気が付けば仕分けも終わり、

後は備品の確認をすれば、私の仕事は終わりとなる。

 

「さて、早く終わらせておうちに帰ろうっと」

 

私は、気合を入れた。

 

 

 

 

そして、それから1週間が過ぎ、大きな問題もなく、私は日常を過ごせた。

いつものように先生や後輩から頼られ、忙しく駆け回っていた。

そして、いつものように、書類整理を終えると、偶然、友人と出くわした。

なんでも、彼女の部活もちょうど終わったところらしく、偶然が重なったみたいだ。

と言うわけで、珍しく二人で帰ることにした。

 

普段は一人で返っていた帰り道だが、今日は隣には友人がいる。

それだけで、何か心が落ち着いていた。

 

「いやー、ことなちゃんと帰れるなんて久々だねー」

 

「え、そう?・・・あ、確かに久々かもね」

 

話しかけてきた友人の言葉に、私は前のことを思い出した。

オカルト研究部に入る前は、偶に一緒に帰っていたかもしれない。

だが、最近では一人で帰っていた、と今気が付いた。

 

「ことなちゃん、色んなことで忙しかったみたいだしね。

 今日は元気いっぱいだったけど、前なんか倒れそうな雰囲気もあったんだよ?」

 

「え、本当に?

 前にも指摘されたし、桐生ちゃんにも言われたけど、私ってそんなに酷かったの?」

 

私の問いに、友人は「うん」と肯いた。

 

「まぁでも、今日は良い感じみたいだし、少しはゆっくりしなよ?」

 

「あはは・・・善処します」

 

友人の言葉に、私は首を縦に振らざるをえなかった。

友人を怒らせると、後が怖いことを知っているからだ。

でも、不思議と心地いい気がした。

なんだろう、私がこんなに安心できたのって、いつ以来だろうか。

 

そんな会話をしていた中、ふと何かを思い出したように友人は私に顔を向けた。

 

「そうそう、ことなちゃん!『コウモリ人間』って知ってる?」

 

一瞬、私はそれに該当する存在が頭を過るも、まさかね、と思い至る。

私は首を横に振ると、友人は顔を近づけてきた。

 

「なんでも、この町にコウモリの比翼(つばさ)を生やした人間がいるんだって。

 夜、窓の外を見たら、月にそれっぽい影が映ったとかなんとか」

 

「へ、へぇ~?でも、それっぽいだけでしょ?それだけじゃいるのか解らないじゃない」

 

私が言うと、「そうなんだよね~」と苦笑いする友人。

でも私の中では、十中八九、先輩たちだよね・・・と確信していた。

 

「それじゃもう一つ、『誘い女』ってのは?」

 

「なにそれ?」

 

 

私の表情に、友人はしたり顔で話してくる。

 

「なんでも、夜に道を歩いてると、不意に声をかけられるんだって。

 で、声の方を見ると、綺麗な女性が立っていて、

 夜道で迷子になったので家まで連れて行ってほしいって頼まれるの。

 そして、親切心から彼女を案内してしまったら、いつの間にか異世界に足を踏み入れてしまい、

 二度と帰ってこないって話」

 

「なら断ればいいじゃない」

 

私の一言に、友人は「だよねー」と苦笑する。

あれ?私はおかしなことを言っていないはずだが。

 

「でも、不思議なことに断ることが出来ないみたいで、必ず案内してしまうんだってさ。

 いやー、恐い噂だよね」

 

そう言って、自分の話に恐がる友人を見ながら、私はふと疑問に思った。

 

「でもさ、もしもそれが本当だったら、何でそんな噂が立つのよ。

 だって連れられた人は帰って来ないんなら、そんなことを話せる存在はいな「あのぉ・・・」

 

その声は、まるで艶美な声だった。

聞いた者を嫌でも惹きつけさせる、顔を向けさせるような声だった。

 

嘘だ

 

私は願った。それはただの噂話でしかないはずだ。

だって、そんな噂が立てられるはずが・・・!

 

いや、いた。

噂話を発信できる存在は、まだいた。

『連れ去る側』がそれを発信できる存在なのだ。

 

「あのぉ・・・すみません」

 

自分の身体が勝手に、声の方へと進む。

 

駄目だ。お願いだからそれは駄目だ。

 

チラリと目で友人の方を見れば、

彼女も同じように必死に抗っているも、私よりも体が進んでいる。

 

徐々に徐々に、私の身体は動き、心の中でパニックを起こしていた。

そして私は見てしまった。

 

「すみません、道を案内していただけませんか?」

 

長い髪の女性がいた。それは人からすれば綺麗と言っても良いほどだ。

だが、彼女の下半身は人ではなかった。

それは細長い足が8本、胴体から伸びており、

後ろには人間にはあるはずのないものが見えていた。

 

「にげ・・・!」

 

そう言おうとした私は、突然、腕に熱い何かを感じ、声が出なかった。

まるで熱した鉄の棒を刺されたみたいに、熱くて痛い。

見れば、細長い何かが私の右腕を貫いていた。

それは肢だった。

 

「あぶないあぶない。無駄に大声出されるのも困っちゃうのよ。煩くってね」

 

目の前の化け物は、私が叫べなくなったことに満足したのか、笑っている。

 

 

痛い

 

 

「それにしても不思議ね。私の声は特別なのに、声を上げようとしただけでも凄いわ。

 こっちの子は、私の声に意識を奪われているっていうのに」

 

目で友人を見ると、彼女の目に光はなく、気を失っているようだった。

 

「あ、なた・・・は、はぐれあく、ま、なの?」

 

 

苦しい

 

 

私の問いに相手は、面食らった顔をするが直ぐに笑顔に戻った。

 

「あら、それを知っているってことは、貴女はただの人間じゃなさそうね。

 そうよ、私ははぐれ悪魔のレディプス。

 元の主に捨てられて、はぐれ悪魔になった憐れな存在よ」

 

レディプスの言葉に、私は何かを感じたが、痛みにあえぎながらも言葉を出す。

 

「ここは、リアス・グレモリー、先輩、が、治め、る領地です・・・!

 はやく、にげない、と、直ぐに、みんなき、ます、よ」

 

私は彼女に嘘を言う。

リアス先輩たちは、後3日間は山籠もりで、本当はいるはずがない。

これは賭けだ。

私は、こんな化け物と戦えない。私の心は、恐怖に絡め取られていたから。

それでも、何とかこの場を脱しなきゃいけない。

横にいる友達を、大切な友達をなんとか助けたいから!

だから、相手が逃げるように誘導する。

 

 

恐い

 

 

「あら、そうなの?」

 

私の言葉(ブラフ)に、レディプスは考え込む。

 

「はぐれ悪魔なら、死にたくないでしょ?だったら、早く、逃げた方がいいです、よ。

 もうすぐ、リアス先輩が、みんなを。連れてきます。

 そうしたら、貴女は確実に、死にます。

 それは、貴女にしたら、嫌なはず、ですよね」

 

 

早く消えて

 

 

畳みかける私の言葉に、レディプスは「そうね」と答える。

私の右腕から、彼女の肢が抜かれる感覚と激痛に意識が飛びそうになるが、何とか踏ん張る。

 

「確かに、ここって誰かさんの領地みたいだし。逃げた方が良いかもね。私も死にたくないし」

 

よし、これで後は、彼女がここから離れてくれたら、友人を連れて病院に行かなきゃ。

もちろん、私の傷も見て貰わないといけない。

でも、どう説明しよう・・・。

私は、賭けに勝ったことに心の中で安堵した。

 

 

「でもね」

 

その言葉と同時に、私は叫び声をあげた。左脚にレディプスの肢が刺さったのだ。

レディプスは、私と友人を交互に見て、舌なめずりをした。

 

「別にあなた達を食べてからでも、逃げる時間はあると思うの。

 それに、私に口答えする存在って、なぁんかムカついて、つい虐めたくなるのよ」

 

「なによ・・・それ・・・!」

 

 

ふざけるな

 

 

レディプスの言葉に、私の心は変わっていく。

目の前の存在に対する恐怖から、怒りへと。

私の身体が震えだす。傷口が抉れて痛みを発するも、そんなことはどうでもよかった。

 

その姿に、レディプスは私が恐怖に震えていると勘違いしたのか、

綺麗だった顔を下卑た笑みに変えてこういった。

 

「そうだ!私に楯突いたお仕置きとして、こっちの子をあなたの目の前で食べてあげるわ!

 せいぜい、なにもできない自身の無力さを呪いなさい。

 でも大丈夫、その後はあなたの番だから!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

は?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今こいつはなんて言った?

今こいつはなんて言いやがった?

私の友達を喰うと言ったか?

私の友達を食べると言いやがったのか?

私の日常を奪うと言ったのか?

私の大切な存在を奪うと言いやがったのか?

 

 

 

 

 

 

 

許せない

許さない

その瞬間、私の心は切り替わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

駒王町近くの山では、リアス・グレモリーたちが必死に特訓をしていた。

ここ一週間、彼らは来たるライザー・フェニックスとの戦いに勝利するため、

自分たちの力を鍛えていたのだ。

そんな中、一際特訓に励むのは兵藤一誠であり、

彼は、自身の弱さを嘆きつつも、それに負けない心で頑張っていた。

 

「くっそー!なんで強くなれないんだよ!こうしてみんなと修行してるってのに!」

 

「あら、まだ話せる余裕もあるみたいだし、もう少しきつめでもいいみたいね、一誠」

 

リアスの言葉に、一誠は涙目になりつつも、

部長の為と、泣きながらランニングをしに出かけていった。

 

「一誠も頑張っているんだけど、まだあと一押しって感じなのよね」

 

「あら、それはリアス自身の勘かしら?」

 

自身の言葉を聞かれ、リアスは少し考え込むように答える。

 

「そうね、今度の戦いは一誠が要と考えても良いわ。

 だから、一誠には頑張ってほしいんだけど、まだ何かが押し切れてない気がするの。

 特訓メニューにしてもそう、一誠には基礎訓練を中心にやってるけど、

 やっぱり他の考えもあった方が良かったかもね」

 

「やはり、ことなちゃんも来てほしかったと?」

 

朱乃の言葉にリアスは、僅かながら首肯した。

ことなの存在は、思いのほかオカルト研究部に多大な影響を及ぼしているのだ。

それこそ、スケジュール管理や備品整理など、事務がメインであるが、

契約仕分けにおける、人の見る目が特に良いと思えた。

 

仮に彼女がここにいたなら、別の意見を言ってくれたかもしれないのだ。

そう思うと、ことなに断られたのは予想外のことだった。

それは仕方がないと割り切るしかない。

 

「それにしても、リアスがことなちゃんを部員にしたなんて不思議ね」

 

朱乃の言葉に、リアスは彼女の方へ顔を向ける。

 

「だって彼女はただの一般人よ?

 人間に悪魔のことを知らせるなんて、そう簡単にしていいわけじゃないわ。

 なんなら、彼女の記憶を消してしまえばよかったのに」

 

「本当に彼女、ただの一般人かしら?」

 

「えっ?」

 

リアスの思いも寄らない言葉に、朱乃は驚いてしまった。

なにせ、ことなからは別段、何も力を感じなかったからだ。

それこそ、一般人と思えるほどに。

だが、そんな朱乃にリアスは言葉を続ける。

 

「彼女、学園では助っ人として有名だけど、あまりにも量をこなし過ぎてるのよ。

 それこそ人の何倍もね。普通は倒れてしまうはずが、彼女はそれを続けている。

 それに、私と彼女が初めて会った際、私が来るまでの間、堕天使を退けていたのよ?

 普通の人間だったら、殺されていたわ」

 

リアスの言葉に、朱乃は更に驚く。

 

「じゃあ、彼女は神器保有者か、何か特別な力を持っていると?」

 

朱乃の問いに、リアスは首を縦に振る。

 

「彼女は私たちに何かを隠している。それがどんなものかは解らないけどね。 

 だからこの機会に、彼女に教えて貰おうと思ったんだけどね」

 

リアスは「結果はご覧のとおりよ」と肩を竦めた。

 

「仮に、ことな自身が力の使い方を恐れていたとしたら、

 私たちが力の使い方を教えてあげられたら、ってね。

 そうなれば、私たちは本当の意味で仲間だと思えるの。

 彼女、少し私たちに遠慮し過ぎなのよ」

 

「そうね、リアス。

 きっとことなちゃんも、私たちと本当の意味で友達になりたいと思っているわ」

 

リアスと朱乃は、互いに笑いあうと、

ランニングを終えて帰ってきた一誠に、笑顔で手を振った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぎぇぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁ!?」

 

レディプスは突然の痛みに悲鳴を上げた。

目の前の生意気な餓鬼を刺していた自分の肢が、突然引きちぎられたのだ。

まるで、万力に握りつぶされたかのように、ぐしゃりとだ。

 

突然の出来事と痛みに混乱するレディプスだが、彼女の悲劇は終わらない。

今度は、彼女の後ろ足が一本引き抜かれたのだ。

そう、文字通りの意味でだ。

 

「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

またも謎の出来事に襲われたことに、レディプスは混乱した。

何かいる。今この場には、私や餓鬼たち以外に何かいる!

そう思い、レディプスは直ぐに思い至る。

 

まさか、餓鬼の言っていた援軍が来てしまったのか?

いやそうに違いない!くそ!思いのほか早すぎる。

クソ、もう少しで餌にありつけたというのに、くそがぁ!

自身の運の悪さを呪うが、思考を切り替えて直ぐにこの場から逃げようとする。

が、レディプスは気が付いた。

 

周りの風景が違うのだ。

さっきまでは市街地の十字路にいた筈なのに、ここはどこだ?

周りを見渡せば、炎にまかれていた。

なんだ?一体何が起こっているんだ!?

 

混乱するレディプスにもう一度悲劇が起こった。

レディプスの肢がもう一本潰れたのだ。

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

もはや叫ぶ言葉すら失ったレディプスは、先ほどまでの余裕はなかった。

 

 

「なんだ!?なにが居るっていうんだぁぁぁ!?」

 

もはや訳が解らないレディプスは、ふと見えた。いや、見えてしまった。

 

先ほどまで自分がいたぶっていた餓鬼が、自分を無機質な目で見ているのを。

つまり、この現象は目の前の存在によるもの。

だったら!

 

「死ねぇぇぇえぇぇぇえぇぇぇえぇ!」

 

レディプスは、無我夢中でその少女を殺そうと突進し、突き殺そうとその手を向ける。

結果は、自分の手が少女の頭を貫き、

自分はこのおかしな世界から解放される・・・・・・はずだった。

 

レディプスの手は、僅か数センチ、彼女の眼球の手前で止まった。

否、止められた。

レディプスの手は横から現れた『手』によって、その動きを停められたのだ。

 

「あ、あああ!?あああああああ・・・!!?」

 

もはやレディプスの思考は、ミキサーに掻き混ぜられたかのように、錯乱していた。

 

「ありがとね」

 

目の前の少女は、その『手』にお礼を言う。

まるで、心から許せる『友達』のように。

 

「なんだ!なんなんだこいつはぁぁぁぁぁ!!」

 

その言葉に、少女は面食らった顔をし、納得したような顔になる。

 

「そうだね、仲間外れはいけないね」

 

そういうと少女は、「出てきていいよ」と『手』に声をかけた。

 

その言葉を筆頭に『手』に変化が起こる。

今まで『手』しか見えていなかったのが、

少しずつだが『腕』が現れ、『肩』、『胴体』が見え始めたのだ。

 

「は、離せ!離せぇ!」

 

なにか恐ろしいものを感じ、レディプスは必死に『手』を離そうとするが、

まるで石にように、万力のように、決して彼女を離さない。

その間も、それは『脚』が、『首』が、現れ始め、そして

 

「紹介するね、私の『友達』だよ。仲良くしてあげてね?」

 

夢殿ことなは、微笑んだ。


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