ハイスクールD×D イマジナリーフレンド 作:SINSOU
「ことな、急な話だけど、しばらくの間は部活はお休みよ」
「はぁ・・・・・・?」
いつものように、オカルト研究部へ遅れてやってきた私は、
リアス先輩の言葉の意味が解らなかった。
急な話過ぎて、頭の理解が着いて行かない。
「しばらくの間、私たちは修行のために山籠もりするの」
「はい・・・・・・?」
混乱する私を、リアス先輩は優しく諭すように言う。
その言葉に、私の頭は、ますます理解が追いつかなくなった。
修行?山籠もり?一体急にどうしたというんだ。
「リアス先輩、ことな先輩がますます混乱してます」
「あら、ことなには難しかったのかしら」
「いえ、部長、そういう問題じゃないと思いますよ」
搭城さんの言葉に、リアス先輩が素で聞き返し、木場さんがツッコミをいれる。
取りあえず、私は詳細な説明を求めた。
「というわけで、私たちはレーティングゲームに勝つために、修行するの。
だから、10日間は学園を離れるから、それで部活は出来なくなったというわけ」
「・・・・・・そうですか」
リアス先輩の説明を受けた私は、ただただ返答するしかなかった。
そもそも、リアス先輩に婚約者がいたということ自体が初耳だ。
その上、リアス先輩の結婚契約を破棄するために、婚約者と戦う?
なんだそれは。
私にはまったく意味が分からない。
なんでも、リアス先輩の実家であるグレモリーの家は、
相手側であるフェニックス家(魔獣フェニックスの血を引くとか)と婚約していたと。
それは、先の戦争による純血悪魔の大半が滅び、
純血悪魔の血を絶やさない為に、両家が同意した契約だとか。
だが、それにリアス先輩が大反対。
散々駄々を捏ねるリアス先輩に我慢できなかったのか、
今日、私がいない時に婚約者が「いい加減にしろ!」と迎えに来たのだとか。
そして、両者の意見が平行線ということで、レーティングゲームによる決闘が決まったとか。
取りあえず、リアス先輩や部活のみんなは、
その婚約者のことが大嫌いということは何となく解った。
特に兵藤は、先ほどから人一倍熱いオーラを放っているからだ。
まぁ、ハーレムを持っているいうことらしいので、大半が嫉妬なんだろうけど。
「あの焼き鳥野郎!あんなイケ好かねぇキザハーレム野郎に部長を渡すわけにはいかねぇ!
絶対に部長との婚約を阻止してやる!」
「一誠先輩、同族嫌悪って知ってますか?」
「どうぞくけんお・・・?ってどういうことですか?」
「えっと、それは僕からは・・・」
なにやら叫んでいる兵藤のことは放っておいていいだろう。
別段、いつものことだし。
搭城さんの皮肉を、アーシアちゃんは意味が解らなかったのか、木場さんに聞いている。
だが、リアス先輩の説明の中で、私に引っかかった言葉があった。
レーティングゲーム。
前にリアス先輩から、悪魔の駒の流れで説明して貰ったものだ。
なんでも、天使や堕天使との戦いで大半の同胞を失った悪魔たちは、
数を少なくした代わりに、その小数を即戦力として鍛え上げる方向へと転換。
その際に、人間界のチェスを参考にしたのがレーティングゲームで、
各駒に特性を与えることで、より強力な戦力として活用できるようになったとか。
『騎士』は速度の向上、『戦車』は身体の耐久性と攻撃力の増加、
『僧侶』は魔力の底上げ、『女王』は騎士・戦車・僧侶・兵士の特性を供え、
『兵士』は敵陣地で『王』を除いた駒へと昇格し、その特性を得られる。
どうして駒の特性がそうなるのかは、私からしたら全く解らないが、
基本的ルールは、私たち(人間界)でお馴染みのチェスと似ている。
そして、チェスという基盤を得たこのゲームは、悪魔の上流貴族の中では大ブーム。
それぞれが、自分の眷属を互いに戦わせて、その優劣競うようになった。
レーティングゲームに勝敗によって、その地位も名誉も得られるとか。
ある意味、レーティングゲームが、悪魔社会の一部となったとも言える。
まぁ、私が気になるのは、そんなことじゃないけどね。
ゲームに勝つために必要であり、自身を着飾るためのステータスとして、
優秀な『駒集め』が行われていうということだ。
そりゃそうだ、駒の特性があろうと、それはあくまで付加される特性だ。
基本的な能力が優れていれば、それだけで試合に有利だと私は思う。
いくら優れていようとも、人間がドラゴンと身体能力で勝てるとは思えない。
だから、他の競争相手よりも更に優秀で、より素晴らしい駒を集めようとするのは自明の理だ。
それこそ勝つために、駒集めに『血眼』になったりするんじゃないだろうか。
『ところで、仮に眷属になるのを断られた場合、どうするんでしょうね?』
「ことな?」
「あ、すみません、少し考え事をしていて・・・」
リアス先輩の言葉に、私は考えるのを止めた。
というか今、私は何を考えていたの?
いくらリアス先輩たちが怖いからって、考え過ぎなんじゃないかな。
あの時(殺し合い)は確かにショックを受けちゃったし、
今もそれが後を引いているとはいえ、リアス先輩たちは、まだ信じられると思う。
そうだよ、私たちの住んでる駒王町を守るって、リアス先輩は私に言ってくれた。
約束してくれたんだもの。
今はまだ、信じても良いと思う。恐いけど。
私は、悪い考えを払拭するように、今後の予定についてへ思考を切り替える。
取りあえず、リアス先輩と話をつけないとね。
「それで、みなさんは10日間も修行に出かけるということですが、
その間の部活や部室、契約の方はどうしたらいいですか?
私、みなさんが帰ってくる間、契約書の分類、部室の掃除とかしておきますけね。
あと、学園へ部活動の書類を提出したいのですが、どういう風に書いた方が良いですか?」
「?」
私の言葉に、リアス先輩はまるで「貴女は何を言ってるの?」という顔をする。
まるで、私の言葉が予想していなかった、とでも言うかのように。
リアス先輩どころか、部室にいる他のみんなも、そんな顔をしている。
あの兵藤どころか、アーシアちゃんまでもだ。
あれ?私、何か変なことを言ったのかな?
だって、10日間、婚約を解消するためのゲームに勝つために、山に籠って修行してきます、
なんて書いて提出したら、
受理されるどころか、下手しなくても、職員室呼び出し、説教、反省文提出になる。
流石にそれは駄目だと思う。
それに、パトロールのお仕事があるし、契約の依頼は毎日のように来るのだから、
10日間も留守にしたら、契約書の束で部室が埋まってしまうと思うの。
だから、私がやっておきます、と言ったのに。
みんな、私を見て、おかしな顔をしてるんだよね。
まるでみんな、『私も一緒に着いて行くと思っていた』という顔をしているんだから。
嫌だ
「ことな」
「はい、何ですかリアス先輩?」
リアス先輩は私にゆっくりと近づいてくる。
まるで、授業で問題が解らない生徒に、解りやすく教えようとする先生の様だ。
その顔は、見る者を安心させてしまう、優しい顔だ。
優しい微笑だ。
嫌だ
「あ、あの!私、明日も、その明日も、他の人の代わりというか、助っ人をを頼まれちゃって!
えっと・・・そう!だからあの、本当に申し訳ないんですけど、
私はリアス先輩たちと一緒に行けないかなぁ・・・って」
リアス先輩が私の前に来た。
「だから、あの、本当に・・・ごめんなさい。
みんなが決意をしてる中、私だけが参加できないのは、心苦しいんですけど、
本当にごめんなさい」
私はリアス先輩に頭を下げた。
リアス先輩は黙ったままで、私に注がれているであろう視線に、
私は身体が震えだすのを必死に堪えている。
恐い。
「ことな」
リアス先輩の唇が開き、私は頭を撫でられた。
私は予想外のことに驚き、頭を上げてしまい、リアス先輩と目があってしまった。
リアス先輩は、優しい顔で私を見ていた。
「そんなに自分を責めなくてもいいのよ。
正直に言ってしまうと、確かにことなにも手伝ってほしいと思ったわ。
だって、あなたはあなたが思っているよりも、私たちにとっては凄い存在なのだから」
一瞬、私の身体が強張る。
「でもだからと言って、ことなにはことなの生活があるものね。
それを私の都合で壊してしまうのは、私にはとても心苦しいし。
それにことなの気持ちも、痛いほど伝わってきたわ」
「リアス先輩・・・」
「だから、私たちがいない間は、お仕事のこと、しっかりと頼むわよ。
大丈夫、私たちは絶対に勝つんだから」
リアス先輩の言葉に、他のみんなが声を上げる。
「その通りです部長!俺があの焼き鳥をボッコボコにして、部長に勝利を届けます!」
「あらあら、一誠君は燃えてますね」
「どう見ても、ハーレムを見せつけられた恨みですよ、変態」
「これは僕も、一誠君を見習わないといけないのかな?」
「わ、私も!頑張ります!」
その姿に、私は少し安心した。
ああ、私は行かなくていいんだ、と。戦わなくていいんだ、と。
だから私は、リアス先輩の言葉を受け入れた。
「分かりました!
夢殿ことな、みなさんがいない間、このオカルト研究部を守護します!」
「守護するだなんて、大げさなんだから」
私の言葉に、みんながくすくすと笑いだし、私は気恥ずかしさで顔を真っ赤にした。
私は、安心した。
リアス先輩やみんなの笑い声に、私は安心した。
安心して・・・しまった。