ハイスクールD×D イマジナリーフレンド 作:SINSOU
「裕斗!」
その声で僕はボーっとしていた意識を戻した。あれ?僕は今までどこに・・・!?声の方を振り返れば、僕の目の前には酷い光景が広がっていた。
床に蹲っている部長。抑えている部分の服は赤い染みが広がり、足元には真っ赤な水溜りが出来ている。。他にも全身を焼かれたかのように黒焦げになって倒れている姫島さんや、木の十字架に貼り付けにされたアーシアさんがいた。姫島さんからは黒い煙が立ち上っており、アーシアさんの真っ白だった修道服は真っ赤に染まっり、彼女の頭には茨の冠が置かれ、棘が彼女の額に突き刺さっていた。まるで、
なんだ、一体なんなんだこれは?
「何してるんだ木場!早くそいつを斬るんだ!」
一誠君の声がした。部長たちの近くには、一誠君が右手で肩を抑えていた。見れば左にはあるべき腕が無く、そこから真っ赤な血が迸っていた。
「これは何が起ったんだ!?」
混乱する僕を余所に部長が叫ぶ。
「祐斗!早くその裏切り者を斬るのよ!」
「キバァ!早く、早く裏切り者を、
「え?」
その言葉に、僕は頭を殴られたような衝撃が走った。
「みんな、一体何を言っているんですか?」
彼らの言っていることが解らない。
「ゆう、と、さん・・・。はや、く、ことなさんを・・・」
アーシアさんから漏れた、微かな声が耳に入った。
「そうです、わ。はやく、裏切り者、を、」
姫島さんからの声が聞こえた。
「だからみんな!一体何を言ってるんですか!」
僕は叫んだ。一体全体、この光景はなんだ?一体何が起きたって言うんだ!そう叫んだ僕の足を何かが掴んだ。
「木場さん・・・」
見下せば、そこにいたのは夢殿さんだ。彼女の身体は血を浴びたかのように所々に血が付いている。そして彼女の目は、身体は、縋りつくように僕を掴んだ。
「違う・・・違います!私じゃない!私はなにもしてません!木場さん、助けてください!私じゃないって言ってください!違う違う違うちがうちがう」
僕は泣き喚く夢殿さんを落ち着かせようと手を伸ばした。
「騙されないでください祐斗先輩!夢殿先輩は私たちを裏切ったんです!」
小猫ちゃんの声がした。
そこには、四肢を切り落とされ、床を這いずっている小猫ちゃんがいた。
「夢殿先輩は私たちを騙していたんです!禍の団と結託して、情報を流していたのは先輩なんです!それを問いただそうとしたら、彼女は力を使って私たちを・・・」
「違います!」
夢殿さんが叫ぶ。
「ふざけるなぁぁ!俺たちを騙していて愉しかったと言っていたくせに、アーシアを泣かせて笑っていたくせに何が仲間だ!木場!早くそいつを殺すんだ!」
「あなた達との友達ごっこは愉しかったですよ?でも自分は死にたくないので情報を流したと笑っていたじゃないですか!信じていたのに!信じてのに!」
「私は脅されていたんですと言っておいて、近づいたリアスを貫いて、うっそでーす!でも許してね?と笑っていたではないですか!」
「そうよ祐斗!自分が助かりたいために仲間を裏切ったことなを私は許さない!さぁ殺しなさい祐斗!これは命令よ」
みんなが叫んでいる。夢殿さんを殺せと叫んでいる。その声が、その言葉が不思議と身体に沁み込んでいく。聖魔剣を握っていた手に力が籠る。ああ、早く裏切り者を斬らないと。
「違う!違う違う違う!私は裏切ってない!私は、そんなこと知らないし、喋ってません!でもみんなが、私を殺そうとしたじゃないですか!お前のせいだ!お前が原因だって!だから友達が暴走したんじゃないですか!どうして私の話を聞いてくれなかったんですか!」
夢殿さんが叫んでいる。
彼女の言葉が僕を必死に留めている、違う。夢殿さんはそんな人じゃない。臆病だけど、それでも僕たちを友達と言ってくれた。信じていると言ってくれたのだ。そんな夢殿さんが、どうして裏切るんだ?握っていた手が緩んでいく。
「祐斗!あなたは私の『騎士』なのよ!ことなのせいで皆こうなってしまったのよ!さぁ、早く『騎士』の仕事をしなさい!殺すのよ!」
「木場さん!言いましたよね?私を守ってくれるって!私は何もしてない!信じてください!」
僕は、僕は・・・!
『斬りなよ』
僕の目の前に僕が立っていた。
『ほら部長が言ってるよ?』
でも、でも夢殿さんを斬れだなんて・・・!
『君は部長の『騎士』だよ。ほら、主が斬れと言っているんだ。君は悪くない。それに、悪いのは裏切った夢殿さんだよ?信じていたのにそれを踏み躙ったのは夢殿さんだ。彼女は君たちを傷つけたんだ』
僕が握っている聖魔剣を指さした。
『ほら、それで彼女を殺すんだ。大丈夫、君は悪くない。裏切ったのは夢殿さんだし、命令しているのは部長だ。君はただ命令に従うだけなんだ』
『それにリアスさんは木場さんの恩人でしょ?ほら、命の恩人の言葉は素直に聞くものよ?さぁ、斬りなさい』
僕の隣に、黒いドレスの夢殿さんがいた。その顔は微笑ましい笑顔で諭すように優しく僕に語りかける。
斬れ
切れ
キレ
きれ
斬れキレきれキレキレキレキレ切れ斬れキレキレ切れ斬れレレレレ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺セせせえセせコロセェ!!
違う!僕は、僕はそんなことをしたくない!でも部長が命令してる。それは正しいことで。でもそれは夢殿さんを殺すことで。
「祐斗!」
「木場さん!」
『さぁ!!』
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
僕は剣を振り下ろした。
『あら残念』
それが答えた。その顔には意外という驚きの表情が、声には失望を滲ませた、がっかりしたような声だ。
私はその声を聞きながら、乱れた呼吸を整えていく。
『それ痛くないの?』
ことな先輩の顔をしたそれは、それに指をさした。右手の掌が肩にくっつくまで曲がった私の右腕を見て、気持ち悪そうに顔をしかめながら。
痛みでおかしくなりそうです。このまま千切った方が楽になるかも、と思ってしまうほどに、私の右腕は痛みしか感じない。
もしも、もしも私が右手を殴ってでも止めなければ、私はそのままことな先輩の顔をしたこいつを殴り潰したに違いない。むしろそうした方が正しかったとさえ思ってしまう。
それでも、私は気になる言葉を聞いてしまった。
「何を知っているんですか?」
『うん?』
私は左手で首元に手をかける。
「貴女が夢殿さんの何を知ってるんですか!答えてください!夢殿さんの何を知っているって言うんですか!!」
自然とと首を締めていく力が籠っていく。ギリギリと締めていく感覚が手に伝わっていく。
『何でも』
それが口元を歪めた。
『何でもかんでもみーんな知ってるよ?嬉しいこと、哀しいこと、恐ろしいこと、面白いこと、みんなみーんな知ってるよ?』
その両手が、首を締めている私の手にかかり、ギリギリと開かされていく。夢殿さんの顔をして、同じ見た目をしているのに、私に触れている真っ黒い手は人とは言えないほどに力が強い。
『私は何でも知ってるよ?それじゃあ貴女は知ってるの?この子のことを知ってるの?友達トモダチ、でも他人。貴女はこの子の友達宣言。でもでもそれって有効制限?それはこの子が強いから?それはこの子が凄いから?前は見向きもしなかったのに、友達発言マジウケる』
「何を、言っているんですか・・・」
解らない。この人が何を言っているのか解らない。ことな先輩の言っていることが解らない。
私を見つめることな先輩の目元が下がる。
『ねえ、小猫ちゃん』
優しい声が聞こえる。
『どうして私と友達になってくれたの?』
『どうして私に相談するの?』
『どうして私を信じるの?』
『どうして私を頼ってくるの?』
『どうして私に近づいたの?』
『どうして笑顔で、他人を傷つけられるの?』
『どうして悪魔を殺せるの?』
『どうして守ってくれなかったの?』
『どうしてどうしてどうしてどうして・・・・・・』
濁流のように聞かされ続ける、ことな先輩の『どうして?』という言葉の波。その波に呑まれ、私は呼吸すら出来なくなってしまう。苦しい、助けて、息が、息が出来ない!そのまま意識が失いそうになり、視界が真っ暗になろうとして・・・
『もういいかな』
パチンと音がして、音の濁流は止まった。
意識がもはや保てない。頭に靄がかかり、視界はパチパチと明滅を繰り返している。ふと、顔を何かで触られた。
さて小猫ちゃん、君に私の秘密をちょこっと教えてあげよう』
こつんと私の額になにかが触れて、
『追体験レッツらスごー!』
情報が流れ込んできた。
ことな!
おとうさん!おかあさん!
ごめんねことな、寂しくなかった?
うん!あのねあのね。わたし、『ともだち』ができたたんだよ!だからもうだいじょうぶ!
そうか。でも友達に任せるのも悪いから、今度一緒に出掛けよう。もちろん、友達も誘ってね。
わーい!おとうさんだいすき!
おとうさんみて!『ともだち』だよ!
うん?そうか、君が友達か。ことなと友達になってくれてありがとう。
おとうさん?どうしてそっちをむくの?『ともだち』はこっちだよ?
でもことな、ことなの友達はこの子じゃないの?
え?
ことな、最近はどうだい?
うん、私は大丈夫だよ。心配しないでいいから。お父さんもお母さんも忙しいでしょ?
でもねぇ・・・。
大丈夫だって。私は一人でも頑張れるから。二人ともお仕事行ってらっしゃい。
そうだ。今度の日曜日、久々に遠足に行こうじゃないか。
遠足って、私はもう子供じゃないんだよ?
貴女はいつまでたっても私たちの子供よ?そうね、お弁当も作っちゃおうかしら!
もう、お母さん!
なんで?
どうして?
教えてよ?
どうしてこうなったの?
お前の父親のせいだ!お前の父親が俺にぶつかってきたんだ!そうだ、そうに違いない!俺は悪くない!悪くないぞ!寧ろ俺は被害者だ!お前の家族がいなかったら事故に合わなかったんだ!俺の責任じゃない!お前の父親が!お前らのがいたせいで!死ね!死んでしまえ!
どうしてこんなに冷たいの?
呼ばれてなくても速参上!ことなちゃーん!遊びに来たよー!
五月蠅い。なんで構う。どいつもこいつも信用できない。みんなみんな大っ嫌い。
家に入れてよー!ことなちゃーん!ほら、ことなちゃんの好きな牡丹餅持ってきたんだよー?食べちゃうよー!
どうして、どうして、私なんかに構ってくれるの?
ことなちゃん!やっと開けてくれたね!
舞、ちゃん?
はいこれことなちゃんの牡丹餅。
えっと、ずっといたの?
そうだよー。ずぅっと待ってたのに酷いよことなちゃん!なんで直ぐにでてくれなかったの!
えっと、ごめん、なさい?
うしうし、良く出来ました。
じゃあことなちゃん、一緒に食べよ?
うん。 牡丹餅、おいしいなぁ
そうだ!目の前でこいつを食べてあげるわ!そして貴女を食べてあげる!あはははは!絶望して死になさい!
許さない
他人など知ったことか!俺は!お前達を殺して戦争を起こす!
許さない
俺は強い奴と戦えるなら世界などどうでもいいんだよ。
許さない
まずはこの町諸共あなた達を消し飛ばします。
許さない
ゆめどのことなは、目の前で膝をつき、動かなくなった塔城小猫に微笑む。彼女の両手がゆっくりと伸び、塔城小猫の顔に触れた。
まるで陶器を扱うように優しく触れ、下がっていた彼女の顔を上げる。
塔城小猫の眼は光のない真っ黒に染まり、口からは「あ、あ、あ、あ、あ・・・」と、壊れたラジオのように「あ」を繰り返していた。
『さて小猫ちゃん、しっかりきっかり答えてちょうだいな』