ハイスクールD×D イマジナリーフレンド 作:SINSOU
扉を開けた僕の目の前に入ってきたのは、沢山のぬいぐるみが所狭しと床に散らばった部屋。壁一面には、至る所に飾られた写真の数、数、数・・・。こちらに笑顔を向ける女性の写真。顔から厳しさを感じる男性の写真。公園だろうか。草原を走っている少女の写真。三人一緒に写っている写真。それらがびっしりと敷き詰められている。そして天井には丸い照明が空間を明るく照らし、そこには『WELCOME』と色画用紙で飾られた看板が吊るされていた。まるでおもちゃ箱をひっくり返したような、パーティー会場のような飾りつけをされた部屋だった。
以前、聖剣事件の際に夢殿さんの部屋に入ったことはあったけど、まるで真逆だった。確かに可愛い小物や家具はあったけど、それだけだ。ある意味、必要最低限の物しかなく、そこに特有の生活感は薄く、無機質に近い印象だった。
一体どういうことなんだ?確かに扉には夢殿さんの名前があったはずなのに
そして部屋の中央には、レースが飾られた丸テーブルと椅子が置かれ、そこに座っているのは・・・
「夢殿・・・さん?」
僕の声が聞こえたのか、椅子に座っている、
『あら?私をご存じ?ご存じかしら?あらあらまあまあ!今日はなんて嬉しいのかしら!
トコトコと僕の方に走ってくる夢殿さんの顔をした少女。彼女は戸惑っている僕の手を掴むと、そのまま僕をテーブルの方へと連れて行く。すると椅子の1つが勝手に後ろに下がった。まるでそこに座れと言うように。
『さあさあ早く座って!座って!』
少女はそのまま僕を椅子に座らせると、反対側の椅子にちょこんと座り、僕を面白そうに見つめる。
『あはっ!こんなところに来るなんて珍しいわ!それでそれで、いったい貴方は何方でどなた?』
「いや、僕は・・・」
僕を見つめる彼女の視線を受けながら、僕は自分の名前を応えようとして、一瞬戸惑ってしまった。この夢殿さんの顔をした少女に対し、僕は警戒心を抱いていたからだ。そんな僕の態度に、少女はうんうんと頷き、ゆっくりと口元をニンマリと歪めた。
『良いの良いのよ問題ないわ。これは幻・妄想・幻想。全てはただの泡沫の夢。何を思おうと、何を考えようと、一切合財むだむだむだで無駄の無駄!残念無念にさようなら!』
彼女から飛び出す言葉の羅列に、僕の頭は混乱する。一体彼女は何を言っているんだ?
『だから正直にゲロしてもばれることはないの。だからなーんにも問題ないわ』
僕は椅子を倒して立ち上がった。その僕の姿に彼女は笑う。まるで悪戯が成功した子供のように嗤う。すっと椅子の上に立った彼女は、右手を斜め上に伸ばし、左手を胸に添える。まるでオペラ歌手のように。舞台に立つ役者のように。
『きゃははは!驚いた?驚いてるてる吃驚仰天?自己紹介がまだでしたね?私はわたし、ゆめどのことな!正直・・・貴方は私を知っているけど、わたしを知らないから自己紹介。さあ、自己紹介も終わったし、改めて座りなさいな木場キバのダークナイトファングさん』
ガタッと、僕が倒した椅子がまるで時計を巻き戻すかように起き上がり、僕の身体は彼女の指示に従ってしまう。座ったことに満足したのか、夢殿さんはうんうんと頷く。
『あなたはお客、わたしは主催。今は楽しいティータイム!外の喧騒なんてどうでも良いじゃない。蝙蝠さんや白鳩さんに黒鳩さんの喧嘩なんて問題ないわ。どうせみんな、ごめんなさいと謝るんだから。それにここから出れなきゃ、なにも出来ないでしょ?それともそのちんけな棒切れで私を斬ってみる?』
彼女が指を指せば、テーブルの上に、いつの間にか聖魔剣が置かれている。
『それとも私を刺してみる?グッサリグッサリズッコンバッコンピストンみたいに。あ、ちょっとエッチかも』
僕の左手が勝手に聖魔剣を掴み、意思を無視して目の前の夢殿さんに振り下ろそうとして、
『あら残念』
右手で産み出した魔剣で弾き飛ばした。
「僕は騎士だ。たとえ君が夢殿さんのなんであれ、むやみに命を奪う気はないよ。僕はみんなを守る」
僕の言葉に、呆けた顔のゆめどのことな。でもすぐにニヤリと顔を歪める。
『それはそれは素晴らしいわね、
「え?」
最後の呟きが聞き取れなかったが、ゆめどのことなが笑顔で語りだす。
『さあさあさあ!今は楽しいティータイム!そしてゲストあなた様木場様!喋って笑ってさようなら!満足したらはい終わり!ここから出るにはそれしかないわよ。なにせ私が主催者だもの。だから私が満足したら出ていって良いよ。それにあなたに出来ることはなんてそれしかないんだから』
『だから、私の質問に答えてくれないかな?木場裕斗さん?』
ガラス細工のような瞳で、彼女は僕を見つめていた。
『じゃあ最初の質問。リアスさんって、木場さんの命の恩人なんだっけ?』
僕は首を縦に動かす。
『それで、リアスさんの騎士なんだから~命令は絶対遵守だよね?』
少し面白そうに笑みを浮かべる夢殿さん。
『じゃあさ』
「ここは・・・どこですか?」
私はことな先輩と祐斗先輩といっしょにいて、そして・・・・!
ことな先輩の足元からあふれ出した黒い靄に足を取られ、そのまま視界が真っ黒に染まり、気付いたらここにいた。
『搭城さん、どうしたの?』
「えっ」
目の前で不思議そうな顔で私を見ていることな先輩。周りを見れば、そこはことな先輩の部屋だ。色々と整理整頓された机。棚には教科書やノートが綺麗に立てられている。ベッドには青いかけ布団に青い枕。そして床には水色のカーペットが敷かれ、その上に丸い木製のテーブル。私たちはカーペットに腰を下し、テーブルを挟んで向き合っていた。
『大丈夫?急にボーっとしてて、心配になって声をかけたんだけど』
「あ、えっと、その、ごめんなさい。ちょっと考え事をしてて・・・」
少し頭を振って眠気を飛ばす。あれ?どうして私、ことな先輩の部屋にいるんでしたっけ?
『本当に大丈夫?塔城さんが、私に話したいことがあるからって、リアスさん等に聞かれたくないからって言ったから、部屋によんだんだよ?』
ああそうだ、確か私、ことな先輩に話さないといけないことがありましたっけ。
「ごめんなさいことな先輩。わざわざ私からお願いしたのに・・・」
『気にしないでいいですよ。それでえっと、そう!確かお姉さん・・・のことでしたっけ?』
人差し指を左のこめかみに当て、首を傾げる先輩。
「はい。私の姉様についてです」
私はあの時から感じている、姉さまに関する考えを話した。あの優しかった姉さまが及んだ凶行。それで確かに私は苦しんだ。心が壊れそうになった。姉様は主を殺した最悪のはぐれ悪魔だ。でも、それで終わらせていいのだろうか?あのおぼろげだけど優しかった姉さまと、別れの際の顔と呟き。それが、私を姉様との関係を繋ぎとめていた。
『ごめんなさい。それについては私からは何も言えないわ。だってこれは塔城さんの問題だもの』
申し訳なさそうな顔をすることな先輩。私は首を振って感謝を述べる。先輩が聞いくれただけでも、私には助かるから。
『直接的な事は言えないけど・・・そうだ!塔城さん、これ必要でしょ?』
先輩が取りだしたのは黄色いファイル。中に何枚かの紙が入っている。
「これって・・・!」
『そう、SS級はぐれ悪魔、黒歌・・・君のお姉さんの書類。こっそりコピーしちゃった♪』
「な、なにしているんですか!」
私は声を荒げた。これが部長さんに知られたら・・・!
『大丈夫大丈夫。リアスさんも皆も、この子を見ているようでちゃんと見ていないから。もちろん・・・貴女もね』
「えっ・・・?」
今なんて・・・
『これで少しは塔城さんの手助けになれたかな?』
「は、はい。でも!もうこんな無茶をしないでください!私、ことな先輩になにかあったら・・・」
ポンと私の頭にことな先輩の右手が置かれる。
『大丈夫、もう無茶しないから。私の大切なものを奪わない限り、私は何もしないわ』
ゆっくりと私の頭を撫でる右手。その優しさに、私は目を細める。これも私の中にある猫のせいなのでしょうか。
『ところで塔城さん』
ふと右手が止まる。
『私も塔城さんに聞きたいことがあったんだ』
ゆっくりと顔を私に近づけてくることな先輩。
『塔城さんにとって、私って友達?』
「当たり前じゃないですか。私はことな先輩を信頼してます。わたしだけじゃなく、部長や皆さんも同じ気持ちです。」
『ありがとう!その言葉を聞けて取ってもう嬉しいわ』
私に抱きついくることな先輩。顔を頬ずりしながらありがとうと言ってくる。
『じゃあ塔城さん、仮にだけどね』
そっと、ことな先輩が耳元でささやいた。
「え?」
今、私は一体何を言われたの?ことな先輩の言葉に、私は思考が止まった。
『お友だちの契約金は、イクラおいくらHow much?一万一兆、それとも一京?契約対価は私の心?心の切り売りマジ野蛮!丸ごとならばマジ外道!ねぇねぇ教えて小猫ちゃん?私の価値はどれくらい?』
顔を上げれば、そこにいたのは、黒いドレスをきたことな先輩。その顔は酷く歪に笑っている。
「ことな・・・先輩?」
『貴女みたいな子を、後輩にしたわたしはいません!』
ドンッと突き放された私は、そのまま床に倒れてしまった。何が起きているのか分からず、私の頭は混乱するばかり。
気づけば、今までことな先輩の部屋にいたのに、今私たちがいるのは、写真が床や壁、天井にまで貼られた、異常としか言い様のない部屋だ。
足元を見れば、そこには私や部長、それに他のオカルト研究部のメンバーが写った写真。みんな笑顔で写っている。
明らかに異常な光景に、私は頭を抑える。同時に、ぼやけていた意識がはっきりした。
思い出した。本当の私がいる場所は駒王学園で、今、謎の人たちに襲われている。おそらく、目の前のことな先輩の顔をした存在も敵が化けたに違いない。
「あなたは一体、誰なんですか」
『酷い!酷いわ小猫ちゃん!私は貴女の友達、ゆめどのことなよ!貴女とは、あんなに愛し合った仲なのに!あんなに一緒だったのに!夕暮れはもう違うい・・・ところで夕暮れっていつぐらい?まあ、一緒にいた体感時間三十分くらいだよ。でも大丈夫だよね?だって私たち友達だもの!』
「もう良いです」
これ以上、話をしていると怒りでどうにかなってしまいそうです。とりあえず、ことな先輩の顔をしたこいつを倒そう。ことな先輩の顔で、ことな先輩の声で喋る、そのふざけた言動は、私の心を腹立たせる。ことな先輩を、これ以上馬鹿にするなんて許さない!
私は四肢に力を込め、叩き伏せようと跳び
『ねえ塔城さん、貴女は』
その顔目掛け、握った拳を突きだした。
その顔は、泣きたいのを堪えるように、くしゃっと歪んだ。