ハイスクールD×D イマジナリーフレンド 作:SINSOU
「おはよう!ことなちゃん」
「おはよう!いい天気だね!」
一緒に登校する友人と出会い、私は笑顔で応える。
彼女はいつも、一緒に登校しようと、自分の家の前で待っていてくれる。
なぜか、今はその姿に引け目を感じてしまう。
身体が重い。
「あら、ことなちゃん!今日も学校行ってらっしゃい!」
「おばさん、行ってきまーす!」
ゴミ袋を両手に抱えたおばさんにも、笑顔で挨拶をする。
ゴミだしの日の時は、いつも登校時間と重なって、いつも出会う。
元気の塊のような人で、その姿を見習おうと尊敬している人だ。
でもなぜか、もうおばさんの様にはなれない、と思ってしまった。
学園に行きたくない。会いたくない。
「見て!リアスお姉さまに姫島お姉さまよ!ほんと、お二人とも綺麗だよねぇ」
学園の門を通ろうとした際に、友人の言葉に私は一瞬身体が固まった。
「って、なんで変態がお姉さまたちと一緒にいるのよ!?お姉さまたちが穢されるわー!」
声の方へ顔を向けると、遠目からでも見える朱い髪をした女性が見えた。
その隣には、烏の濡れ羽色の髪をポニーテールした大和撫子。
黄金の髪を靡かせ、女子の心をつかんで離さないような美形の王子様。
そんな人たちとは逆に、こじんまりとして抱きしめたくなるような、
思わず愛でてしまいたくなるような女の子。
まるで純真無垢な女の子を体現したような、思わず頭を垂れてしまいそうな、
そんな慈悲を纏った女の子。
そして、学園二大お姉さまと一緒にいることで、顔を極限までだらしなくした変態。
言わずと知れたオカルト研究部の方々が、こっち(校門)へ歩いてきた。
その姿に、何故か私は一歩下がった。
私も、彼らと同じなのに。
恐い。
「ねぇ、ことなちゃん!何であんな変態が一緒に登校してるのよ!こんなの絶対おかしいよ!」
「ほんと、フシギダネ」
なんで、そんな顔で登校できるんですか?
私は、和気藹々のオカルト研究部に疑問ばかりが浮かんでくる。
あんなこと(殺し合い)があったのに。
あの時の出来事は、今でも頭にこびり付いている。
自分の行いが、両手にへばりついて消えてくれない。
相手の骨が折れる音、折れる感触、叫び声、映像、その全てが私に残っている。
成り行きとは言え、一緒に教会へと乗り込み、
襲ってきたとはいえ、私は相手を殴り飛ばしてしまった。
言い訳をしたところで、その事実が消えることはない。
私は自分の意志で、相手を傷つけてしまったのだ。
そのことを思うと、私は、
自分が犯罪者になってしまったと、自分が最低なことをしてしまったと、
自分が最低な人間になってしまったと、罪悪感でいっぱいになる。
私に声をかけてくれる友人や近所のおばさんに、顔を向けられなかった。
そんな私とは反対に、
笑顔で、楽しそうに、まるであの時のことなど無かったかのように、
学園生活を満喫するリアス先輩や姫島先輩たち、
そして一緒に登校する兵藤を、私は理解出来なかった。
怪物を簡単に殺し、襲ってきた人たちを簡単に殴り飛ばし、
そして、堕天使たちを簡単に消滅させた先輩たち。
なのに、なんで兵藤は一緒に笑い合ってるの?なんで楽しそうなの?
悩んでいる私がオカシイの?
どうして?私はその問いをあの人たちに訊きたかった。
でも、どんな答えが返ってくるのか恐い。だから、訊けない。
仮に訊いたとして、
それに何の意味があるだろうか?
「・とな・・ん!こ・・ちゃん!」
「え?」
不意に体が揺さぶられ、顔を上げると、心配そうな友人の顔が見えた。
「ことなちゃん、どうしたの?顔色が悪いけど、大丈夫?」
思考の迷路に足を踏み入れた私の顔が酷かったのか、友人の声に我を取り戻す。
心配する友人に対し、私は「何ともないよ」と笑顔で応える。
「問題ないよ。ちょっと寝不足気味だし、疲れが溜まってるのかな?」
眠れるわけがない。眠れるわけがないよ。
友人が私の顔をじっと見つめると、少し怒ったような顔になった。
「ことなちゃん、頑張るのも良いけど、自分のことも見なきゃダメだよ?
ことなちゃんのおかげで、みんなは助かってるのも事実だけどさ。
でも、肝心のことなちゃんが倒れちゃったら、私、心配になっちゃうよ?」
「ありがとうね」
本当に私のことを心配していくれているのか、友人の言葉が私の心を癒した、と思う。
「ごめん、ことなちゃん!
急なお願いだけ、私たち(漫研)の手伝いお願い出来るかな!?
今、木場☓兵藤派と兵藤☓木場派で言い争ってるせいで、人手が足りなくて!」
「もちろんオッケーだよ。でも、その両派は滅べばいいんじゃないかな?」
私は、醜い争いが繰り広げられている漫研部員に笑顔で言い放つ。
人の考え方はいろいろあるけれど、流石に本の題材は隠した方がいいと思うの。
私の了承に女子部員は、言質を取ったからね?と口元を歪める。
そして『逃がさない』とでも言うかのように、私の手をがっちり握りしめ、
確実に修羅場と化している部室へと私を引っ張っていった。
「夢殿」
職員室にオカルト研究部の書類を届け、職員室から出ようとした際に、担任に声をかけられた。
まるでオカルト映画に出てくるゾンビのような状態の先生に、「ひっ!?」と声を上げた。
すぐに謝る私を、先生は苦笑いで許してくれた。
どうやら、何か忙しい様子であまり寝ていないのか、目に隈も出来ている。
「またお前に頼むのも悪いんだが、これを教室まで持って行ってくれないか?本当にすまん」
「はい、大丈夫です。直ぐに持っていきますから」
私は、先生の机に積まれている紙束を持ち上げ、教室を後にする。
その際、「先生、ちゃんと休んでくださいよ」と一言添えた。
返答は苦笑いだった。
「ことなちゃん!」
「ことなさん!」
「ことっち!」
「ゆーちん!」
「いっぺんに頼まないでー!私の身は一つしかないんだよー!?」
いつもの日常のように、私は助っ人として引っ張り回されていた。
考える余裕もなく、私は引っ張られていった。
でも、今の私にはそれが救いだった。
何かしないと、また変な思考になってしまうから。
オカルト研究部の部屋で、リアスは友人であり、部員の姫島朱乃と共にいた。
一誠たちは、それぞれの仕事へと向かったため、今は二人しかしない。
リアスは、ソファに深く身体を預け、静かに待っていた。
オカルト研究部、唯一の『人間』である、夢殿ことなである。
部室の扉が開き、リアスがそちらへ目を向けると、夢殿ことなが息を切らして立っていた。
どうやら、急いでやってきたのだろう。
だが彼女には申し訳ないが、すでに部活の時間は始まっている為、遅刻である。
「あら、ことな。今日も来るのが遅かったわね。また助っ人で忙しかったの?」
「はい、すみませんでした。
皆さん頼ってくるから、なかなか断り辛くて・・・」
最近になって遅刻するようになったコトナに、リアスは少し小言を口にする。
その言葉に、ことなは申し訳なさそうな顔をして、頭を下げる。
「一誠やアーシア、他の皆はもう仕事に出かけたわ。
で、ことなが一番最後にやってきたの。
学園生活を満喫するのも良いけれど、だからと言って毎度遅刻するのも駄目よ?
あなたは私たち、オカルト研究部の部員なんだから」
「すみません、気をつけてはいるんですけど・・・」
リアスは、彼女の言葉に眉をしかめる。
内心では怒ってはいないのだが、ことなに緊張を持たせるためのポーズである。
その仕草に、ことなは一瞬、身体が固まる。
「部長、ことなちゃんも悪気があっての事じゃないのですから、それ位にしてはどうですか?」
朱乃の言葉に、リアスは「仕方ないわね」と溜息を吐く。
ことなにしても、悪気があって遅れてくるわけではないのだから、
そこまで怒るのも気が引けてしまうのだ。
「そうね、ことなの助っ人ぶりは有名だもの。それを怒っても仕方ないわね」
「姫島先輩、ありがとうございます」
「あらあら、お礼なんて良いですのに」
ことなは朱乃にお礼を言い、直ぐに彼女の名が貼られた机へと脚を運ぶ。
机の上には、積み上げられた契約者の願いと契約者の関する書類が置かれている。
ことなの仕事は、契約内容の吟味、内容の仕分け、
そして部員全員の一週間分のスケジュール管理を行うことだ。
彼女のおかげで、契約と町のパトロールの遂行がスムーズに行くようになった。
彼女の存在で、他にも色々と大助かりだ。
しばらくすると、部室の扉が開いた。
「部長!ビラ配り終わりました!」
「終わりました!」
一誠とアーシアが入ってきた。一誠は汗がビッショリであり、少し息を切らしている。
「二人ともご苦労様。少し休みなさい」
「「はい!」」
リアスの労いの言葉に、二人は嬉しそうに応える。
一誠に至っては、少し顔がにやけている。
「リアス先輩、書類の選別が終わったので、私は備品を整理してきます」
リアスたちが、一誠等と共にゆっくりしていると、ことなが立ち上がった。
見れば、大量にあった契約書は、綺麗に選別され、各棚に入っている。
思いのほか早く終わらせたことに、リアスは少し驚いた。
「あら、もう終わったの?だったら、ことなもゆっくりしたらどう?
お茶とお菓子もあるわよ?」
「いえ、私は大丈夫ですから」
リアスはことなにも休憩するよう言うが、
ことなはリアスの申し出を断ると、直ぐに部室から出っていった。
その姿に、一誠は少し眉を顰める。
「なんだよ、ことなの奴。せっかくの部長の御誘いを無下にしやがって。
俺だったら、部長の御誘いなら、何でも喜んで頷くってのに」
「あら、それは嬉しいわね」
「い、イッセーさん!私のお願いは駄目でしょうか!?」
「あらあら、私は仲間はずれですか?」
一誠の発言に、女性陣がやいのやいのと騒ぎ出す。
すると、魔法陣が光り、木場と小猫が帰ってきた。
「部長、帰ってきました・・・って、おや?お取込み中だったかな?」
「一誠先輩が、部長たちに絡まれてにやけています。変態」
「いや、違うんだよ小猫ちゃん!というか木場は俺を助けてくれ!」
一誠は小猫には弁解を、そして木場には救援を求めるも、
しばらくは。もみくちゃにされるのであった。