ハイスクールD×D イマジナリーフレンド 作:SINSOU
カテレアとアザゼルが戦いを始めた時は、アザゼルが有利だった。両者に力の差をいえば、アザゼルがカテレアの上をいく。伊達に堕天使総督の地位についていない。だが、それでもカテレアは負けじと食い下がっていた。
アザゼルが幾重にも放つ、彼自身の身の丈を越える巨大な光の槍を、カテレアは何重にも重ねた防御法陣でそれを防ぐ。その度に、周りには抑えられない力の余波が放たれる。
彼らの攻防の余波は、無差別に彼らの周りを襲う。駒王町の運動場は幾重にも穴が穿たれ、見るも無残な惨状へと変える。運悪く、彼らの周りにいた禍の団の魔法使いや、三勢力の護衛である悪魔、天使、堕天使たちを容赦なく血煙に変える。彼らの放たれた攻撃が学園を覆う結界に当たる度に、轟音と震動が響く。万が一に結界が破れ、彼らの攻撃が外へ放たれたなら、駒王町は一瞬にして阿鼻叫喚に変わるだろう。
カテレア・レヴィアタンは、自身の家名であったレヴィアタンの座をセラフォルー・シトリーに奪われたが、決して弱くはないのだ。だがアザゼルに勝つためには、力不足だった。
彼らの攻防がしばらく続いた後、不意にカテレアが動きを止めた。その姿は無防備と言ってもよかった。だが慎重派であるアザゼルは攻撃をしなかった。慎重であったために、不意に動きを止めたカテレアを警戒したが故だ。
「悔しいですが、このままでは私が負けるのは時間の問題みたいですね」
「おいおい、今更命乞いをする気か?悪いが、命乞いを聞く気はねえぜ。お前等みたいな輩を野放しにすれば、世界が終っちまうからな」
カテレアの言葉に、アザゼルは言葉とは裏腹に警戒を強める。彼の思考は、カテレアの行動を読もうと巡らす。
すると、カテレアは胸元から小瓶を取り出し、中に入っていた物を飲み干す。
その瞬間、彼女の纏っていたオーラが変わった。カテレアの魔力が先ほどとは比べ物にならないほどに、爆発的に増大したのだ。その力は空気を、結界に覆われた学園を震わせた。
「あがああああぁぁぁぁあぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぎぃいいいいぃぃぃいあぁぃあいいいい!!!!!」
それと同時に、カテレアが悶え苦しみ、その絶叫が響く。まるで憎しみと痛みと慟哭を織り交ぜたような叫び声。
その叫び声と共に、カテレアの身体に変化が起きた。
彼女の身体を突き破るように、その頭からは2本の角が生え、彼女の四肢は黒い鱗に覆われている。
彼女の背にある蝙蝠の片翼が千切れ、代わりに鱗に覆われた翼が生える。そして彼女にあるはずのない、蜥蜴の如く尾すらも生えた。
「ぐぎぃぃぃいああああぁぁあいぐるぅぅぅぅぅえいえええええああぃぐあぁあああああ!!」
だが身体が変化していくせいだろうか、彼女は苦痛も伴った叫び声を上げ続けた。その姿は、見る者を唖然とさせるほどに。そして彼女から放たれる魔力が静まる。だが、先ほどの光景に、誰もが口を閉じていた。それほどまでに、カテレアは異形になったからだ。
額を突き破って生えた二本の角、鱗に覆われた四肢に、同じく鱗に覆われた尾に片翼。顔や肉体は元のままであったが故に、その違いが目についた。
「カテレア・・・ちゃん・・・?」
始めに声を上げたのはセラフォルー・レヴィアタンだった。カテレアからは憎悪されているが、セラフォルー・レビアタンはカテレアのことを嫌いではなかった。一方的に憎悪されていることを理解してはいた。だがセラフォルーはカテレアと手を取り合えることを願っていた。故に、襲撃の件に驚いていたのだ。
セラフォルーがもう一度声をかけようと口を開けるが、されを遮るようにアザゼルが何重もの光の槍を放つ。カテレアは自身に向かってくる槍を一瞥すると、鱗に覆われた右手を横に薙いだ。たったそれだけで、光の槍は粒へと消える。
先ほどまでは、何重もの魔法陣を展開してようやく防げた攻撃が、たった腕の一振り。どう見ても異常としか言えないほどにカテレアは強くなった。それを自覚したからだろうか、カテレアは口元を笑みに歪め、笑い声をあげる。
「素晴らしい!素晴らしいわ!これが!これが無限龍の、オーフィスの力!これなら負けない、これならセラフォルーにも勝てる!勝ってレヴィアタンの名を取り戻せる!勝って汚名を雪ぐことが出来る!私は、私はもうレヴィアタンの恥なんかじゃない!」
変わり果てた自分の姿を、カテレアは抱きしめる。ぎゅっと抱きしめ、目の前のアザゼルへと顔を向けた。
「まさかオーフィスの力を取り込むなんてな」
「流石の堕天使総督のアナタでさえ、無限龍の力までは予測できなかったようですね」
アザゼルの言葉に、カテレア・レヴィアタンは優越に笑う。オーフィスの力を取り込んだ彼女は、異形と化した自身の身体を愛おしそうに、むしろアザゼルに見せつけるかのように撫でまわしつつも笑う。
「ったく、オーフィスの野郎、面倒なことしてくれるぜ。お前のその変化、どうやら龍の力を発現させたみたいだな」
「ええ、私にも理解出来ます。私の中を駆け巡る龍の力が」
「旧魔王派は純血主義の集まりだろうに、どういう心境の変化だ?その姿、どう見ても雑ざりものだぜ」
アザゼルの嫌味に、カテレアは笑う。
「それがどうしました?確かに私はもはや純血な悪魔ではないでしょう。ですが、もはやそれは些細なこと。憎きセラフォルーを殺せれば、私はレヴィアタンになれる。その為なら、純血などどうでもよくなったのです」
「カテレアちゃん・・・」
カテレアの言葉に、セラフォルーは言葉を詰まらせる。それほどまでに、カテレアにとっては、レヴィアタンの座は重要なものだったのだ。
「セラフォルー・レヴィアタン、私は貴女のその目が嫌いです。貴女のその、私を憐れむその目を向けられる度に、私は屈辱を感じてきた。貴女への憎悪を滾らせてきた!お前がレヴィアタンになった時、私は周りからなんと言われたか知っていますか?レヴィアタンの恥、レヴィアタンの失敗作、その言葉を聞く度に、私がどれほど惨めだったか、知っていましたか?知りようがないでしょう!お前は私は見ていなかったのですから!」
カテレアの纏うオーラが暴れ出す。
「ですが、それももう終わりです!お前を殺せば元に戻る!何もかもが元に戻るんです!私が本当の意味で、カテレア・レヴィアタンになれるのです!」
「カテレアちゃん!」
セラフォルーの言葉を無視し、カテレアはアザゼルに視線を戻す。
「そのためにも、貴方はさっさとご退場願いますよ、アザゼル。」
「おいおい、俺は前座ってか?確かにお前は強くなった。だが。だからと言って俺を舐めてかかるのは慢心が過ぎるぜ?」
「ええ、ですから手を討っておきましたよ」
その瞬間、横合いから光の奔流がアザゼルを襲った。
「な、なんだ!?」
俺は玄関先で部長や朱乃さんにギャスパーと一緒に、木場や小猫ちゃんが来るのを待っていた。二人はことなを会議室に連れて行った後に来ると言っていた。でも、二人とも来るのが遅い気がした。
こっちはギャスパーを襲った魔法使いたちを冥界に送った後、直ぐに玄関先へと急いだ。だが、木場と小猫ちゃんははおらず、かといってまだ来ていない。おかしい、それほど会議室からは遠くないはずなのに。
すると、轟音と共に玄関先で何かが落ちてきた。俺たちが駆け寄ると、土煙が晴れ、そこにいたのは・・・!
「こんな時に反旗かよ、ヴァーリ・・・!」
「ああ、その通りだアザゼル」
傷だらけの堕天使総督と上空に浮かんでいる白龍皇だった。
その後、白龍皇の正体が実は先代ルシファーの子孫であり、戦いたいという目的の為に俺たちを裏切ったという事実を聞かされた。ギャスパーを利用したその事実に、俺は腹が立った。
「ふざけんな!お前の勝手な目的に、ギャスパーを、俺たちを巻き込むんじゃねぇ!」
だが、俺の言葉にヴァーリは心底つまらない顔をする。
「それしか言えないのか?まったく、これが今代の赤龍帝とはな。いや、そうだ、これならどうだ?」
するとヴァーリは何かを思いつき、嬉しそうな顔で俺を見る。
「兵藤一誠、君は復讐者になるんだ。今から君の両親を殺そう。いや、君の両親だけじゃない、友人どころか、この町の人間を全て殺そう。そうすれば、君はその力を何倍にも高めてくれるはずだ、俺を殺すために。それなら、たかが人間として死んでいくより、何倍も素晴らしいじゃないか!君は晴れて赤龍帝としての運命へと導かれ、俺は強くなったライバル(君)と殺し合える。どっちも得をするというものだ」
俺は目の前の奴が、何を言っているのか理解できなかった。俺の両親を殺す?友人を殺す?この町の人間を殺すだって?
「ふざけるな!てめえの勝手な都合で俺の家族を!みんなを!殺させてたまるかぁ!」
俺の思いを受け取ったのか、赤龍帝の籠手がより激しく輝きだす!
「ああ、やっぱり先ほどよりも強くなった。アルビオン、思った通りだ。彼奴は単純明快故に、怒らせれば強くなる」
『ああ、純粋な怒りだからこそ、その強さも桁違いだ』
ヴァーリが何か言っているが、そんなことはどうでもいい。取りあえず、俺はお前をブッ飛ばさなきゃいけねえんだ!俺は怒りのまま、ヴァーリへと突っ走っていった。
だが突如、新校舎の玄関から黒い靄が溢れだす。まるで濁流のように溢れだした黒い靄は瞬く間に広がり、駒王学園の地面を覆う。
「な、なんだ!?」
俺は突然の出来事に出鼻を挫かれた。部長たちも、目の前の出来事に混乱している。
「な、なんですかこれは!?」
「おいカテレア、これもお前の差し金じゃねえのか?」
堕天使総督やエロい服装の褐色のお姉さんも同様にとまどっっている。
そんな中、何かの気配が新校舎の玄関から感じた。まるで何かが這い出てくるような感覚だ。
それはゆっくりとこっちに近づいてくるのが解る。カツン、カツンと一歩一歩、大地を踏みしめるかのように足音が響く。
そして外の光に照らされ、それが姿を現した。
「こと・・・な?」
『 』
それは黒い靄を纏った、夢殿ことなだった。