ハイスクールD×D イマジナリーフレンド   作:SINSOU

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24話

「ことな・・・!?」「夢殿さん!?」

 

「・・・」

 

リアスさんや木場さん等の言葉を聞き流しながら、私は堕天使総督の方へと目を向ける。

堕天使総督・・・確かアザゼルだったか?は、私を観ながらもそのにやけた顔を崩さない。

まるで面白い物を見るような顔。それは隣にいる白龍皇と同じような、不快な視線。

 

「お前さんだろ?俺に向かって殺気を飛ばしてたのは」

 

沈黙する私を余所に、アザゼルは話す。それは質問ではなく確認。

始めから私だと分かっている上で、ただその事実確認をしているだけだと感じた。

 

「これでも命のやり取りをしてきた身なんでね。そう言ったことには聡いんだよ。

 というか、それ位しないと伊達に堕天使総督なんてやってられねぇ」

 

自虐する様に、口元を歪めるアザゼル。その顔すらも、今の私には不快に感じる。

この人にも見えていないだろうけど、私の身体からは既に『手』が生えている。

やろうと思えば、直ぐにでもこの男へと襲いかかることが出来る。でも私はそれを抑え込む。

目の前の存在が私にとっては不快だった。でも一応、堕天使の一番偉い人なんだ。丁重に扱わないと駄目だと。

私は深く息を吸い、そして吐いた。黒く歪んだ感情は少しずつだけど静まっていき、『手』も私の中へと戻る。

良かった、なんとか落ち着くことが出来た。

 

でも、なんで私はこの人を襲おうと思ったんだろうか?あれ?なんで?

 

自分の中に起こる違和感に戸惑いつつ、私は自分の過ちを認めた。

 

「すみません」

 

そして私は、アザゼルさんにただ頭を下げて謝罪する。

もう一度確認するけど、仮にもこの人は堕天使総督。そしてそんな偉い人に対して、私は殺気を当ててしまった。

だから私は謝らなければならない。

 

「いや、別に気にすることはないぜ?誰から殺気を当てられるなんて久々なんでね。そしてその相手がコカビエルを痛めつけた件の相手となれば、気になるってもんさ」

 

当の堕天使総督は、別に気にした様子もなく、むしろ面白いというように笑う。

 

「ことな、お願いだから気をつけてちょうだい。相手は堕天使総督よ。何かあったら大問題なんだから」

 

「そうだぜことな。お前のせいで部長に迷惑がかかったら俺は怒るからな」

 

「リアスさん、本当にすみませんでした」

 

変態が何か言っているが、確かに私の行いでリアスさんに迷惑をかけてしまった。だから私はリアスさんにも謝る。

 

「でだ」

 

堕天使総督が手を一つ叩き、場を鎮めた。そして私の方へと視線を向ける。

 

「お嬢ちゃんからの意見はどうなんだい?」

 

「なぜ、私に意見を聞くんですか?私はただの一般人ですよ?それこそ皆さんとは違い、ただの人間です。この会議は悪魔・天使・堕天使が主役の筈です。一応、私はリアスさんの部員なので悪魔側として参加してますど、人間の私に発言権はないと思います」

 

「へぇ?慢心してただろうが、俺んとこの幹部を痛めつけた奴が『ただの人間』、ねぇ?」」

 

堕天使総督が溜息を吐く。

 

「一応、お前さんのことは事前に知ってるんだ。腹の探りは止めて、腹を割らないか?」

 

その言葉に私も溜息を吐く。正直に言えば、今すぐにでもここから出たい。ギャスパー君の所へ駆け込みたい。でもそれは出来ない。この状況で、私が拒否的な対応をすれば、必ずリアスさんたちに迷惑がかかる。それどころか悪魔に、ひいては世界に迷惑がかかりそうで怖い。

見渡せば、魔王様も天使様も、それこそリアスさんや支取会長達さえも私を見ている。

 

「解りました。それは『私個人』の意見を言ってもいい、という事で良いでしょうか?みなさんもそれでいいですか?」

 

「おう、助かる」

 

「ええ、私は何も言うことはありません」

 

「私としても助かるよ」

 

緊迫した空気が微妙にほぐれた・・・気がした。

でも、悪魔・天使・堕天使の偉い人たち+その他の視線を受けるとか、正直に言うと逃げ出したい。それこそ、ギャスパー君の気持ちが痛いほどに解ってしまうほどに。でも、ここで逃げるわけにもいかない。なぜなら、私なりに思うことが言える機会が来たのだから。

 

「『私個人』としては、この会議の内容に関しては何も言いません。兵藤くんの言う通り、平和が一番ですから。

それでですね、私がリアスさんたちと一緒に過ごし、今の会談から自分なりに思ったことがいくつかあります」

 

まずはサーゼクスさん等の方へと顔を向ける。私の行動に、サーゼクスさん等は微笑み、逆にリアスさんらはぎょっとしていた。

 

「実は私、はぐれ悪魔に襲われたんです。確か、リアスさんたちが婚約を破談にするための山籠もりをしていた時だった思います。確か彼女、名前をレディプスと言ってました。私が何とか退けた際に彼女が言っていたんです。自分は主に裏切られた、だから主を殺したと。サーゼクス・・・さん、私がリアスさんから聞いたのは、はぐれ悪魔は、堕落、または力に呑まれた悪魔って聞いたのですが・・・」

 

「ことな!?」

 

リアスさんが声を上げ、びくりと塔城さんが反応した。

サーゼクスさんは、私の顔をじっと見つめ、そして溜息を零す。

 

「はぐれ悪魔の殆どが力に呑まれた者達だ。それは確かなことだよ。彼らはとても危険で、放っておくと冥界だけではなく、人間界にまで危険を及ぼす。だからはぐれ悪魔を野放しには出来ない」

 

「それが主に非があったとしても・・・ですか?」

 

私の言葉に、サーゼクスさんの雰囲気が変わった。隣にいるセラフォルーさんもだ。

 

「どんな理由があるにしても、主殺しは罪だ。そしてその罪は償わなくてはいけない」

 

その言葉に、誰かの顔が強張った。

 

「でも安心してほしい。私たちも、君のいう事は既に気付いているし、そのための対処はしている。自身の眷属を蔑ろにする主に関しては、それ相応の罰を与えることを、被害にあってしまった眷属を守ることも約束するよ」

 

「これでも私たちは魔王だからね。やらなきゃいけない義務は果たさないと」

 

そう言い終えると二人の雰囲気が元に戻った。でも、私の身体は震えが止まらない。やはり魔王という存在はこうも恐ろしい存在なんだ。はっきり言って、意識を保っているのが不思議なくらい。

 

「そうですか・・・。ありがとうございます」

 

私は頭を下げつつも、ちらっと塔城さんを見る。でも彼女は俯いてしまい、その顔を見ることは出来なかった。

ふと何かしらの視線を受けた。そっちの方へと顔を向くと、何やら言いたげなリアスさんの顔があった。

 

あ、目があっちゃった。

私は内心でやらかしたことに気付いた。そりゃそうだろう、何せ魔王様はリアスさんのお兄さんなんだ。そのお兄さんに対し、私は不躾なことを言ったかもしれない。そう考えれば、リアスさんが何か思っても仕方のないことだ。ちらりと横を見れば、同じように支取会長も私を見ていた。こちらはリアスさんほどではないけど、顔の表情が硬かった。これが終わったらまたリアスさんと支取会長に謝ろうと決めた。

あと、変態は私を見るんじゃない。なんでお前もそんな目で私を見る。取りあえず変態は無視しておこう。

 

 

「次に天使様にお聞きしたいんですが、良いでしょうか?」

 

「ええ、構いませんよ。ああ、私のことはミカエルで構いません」

 

次に私は金色の翼を持つ天使様、ミカエルさんの方を見る。ミカエルさんの印象は、柔和で優しさを纏った人、いや天使。その黄金の翼があることで、神々しい雰囲気を醸し出している。確かにこの人は天使様なのだろう。

 

「ミカエルさん、失礼を承知で聞きます。システムを脅かす存在、アーシアちゃんやゼノヴィアさんのような人は、システムを守る為に追放する、と言ってましたよね?」

 

「ええ、心苦しいことです。神の死により、システムを維持するためにセラフ(私たち)が全力を尽くしています。ですが困難を極め、神のように十全に動かすことも難しく、加護も慈悲も以前のように与えることが出来ないのです。そのため、不安定であるシステムに影響を与える物を教会から遠ざける必要がありました」

 

「これに関しては先ほども言ったように、アーシア・アルジェントやゼノヴィア・クァルタに過酷な道を歩ませることになりました。それについては、私たちの力不足故、申し訳ないことをしました」

 

改めて謝罪するミカエルさんの姿に、アーシアちゃんとゼノヴィアさんは慌てふためく。

でも、私が知りたいのはそうじゃない。

 

「では、アーシアちゃんやゼノヴィアさん『以外』の人たちはどうなったのか知っているのですか?」

 

「それは・・・」

 

柔和だったミカエルさんの顔が少し強張った・・・気がした。

 

「アーシアちゃんとゼノヴィアさんに関しては、『私』は何も言いません。二人が納得しているのですから。でも、二人以外にも異端になってしまった人はいるはずです。二人のように、信じていた物から否定されてしまった人もいると思います」

 

「ことなさん?」「ことな?」

 

私の言葉に、アーシアちゃんとゼノヴィアさんが戸惑う。でも私は気にしない。

そう、二人だけではないはずだ。こうなってしまった人は、二人以外にもいるはずなんだ。

 

「私は信仰心があまりないので想像が出来ません、ですが、信じていたものに裏切られた人の気持ちは少なからず解ると思います。確かにシステムは大事だと思います。それで多くの人が救われているのも事実だと思うから。でも、そのために異端にされてしまった人たちのことについて、ミカエルさんはどう思っているのですか?」

 

目の前のミカエルさんは、サーゼクスさんと同じように私を見つめる。

隣の天使が私を睨みつけるが、ミカエルさんの視線に気付き、「申し訳ありません」とと頭を下げた。

 

「痛ましいことです。私たちの力不足ゆえに、多くの信徒の手を離してしまった。これは許されることではありません。だからこそ私はこの場にいるのです。この手から零れおちた彼らを救うためにも、私たち天使は、悪魔や堕天使と手を取る必要があるのです」

 

「不躾な質問をして本当にすみませんでした。無関係な私が言うのもどうかと思いますが、お願いです。道を失った人たちも助けてください。本当にお願いします」

 

「ええ、言われるまでもありません。彼らは私たちにとって大切な信徒なのですから」

 

ミカエルさんの顔は、始めに出会った時のように柔和になっていた。

ちらりとアーシアちゃんとゼノヴィアさんを見れば、二人とも私に対して何かいいたげな視線を送ってくる。

普段から怒らないアーシアちゃん故か、その顔は少し怖かった。ゼノヴィアさんはもっと怖かった。

 

「で、最後は俺か」

 

私はその声の方へと顔を向ける。私を見ながら、堕天使総督のアザゼルさんが苦笑いをしている。

 

「大方、俺の部下が町を襲ったことに関してだろ?それに関しての話は済んだはずだ。レイナーレ達はお前等が倒し、コカビエルに関してはこちらで罰した。なら問題はないんじゃないか?」

 

「でもそれは貴方のせいで」

 

「俺の監督不足が招いたことは事実だ、それは認める。だが既に罰は下された。これ以上の罰を下すのは些か酷ってもんじゃないのかい?」

 

「なら神器を持っている人を殺している件は・・・」

 

「それは自衛のためだ。言っただろう?神器持ちは危険になる可能性がある。だったら先に目を潰すのは当たり前だ。俺は堕天使総督だ。組織を守るためならどんな手でも使う」

 

「でも・・・!」

 

私の感情が徐々に熱を増していく。目の前の堕天使総督は確かに罪を認めているしそれの対応をした。でも、納得できない。納得できるはずがない。こいつは『まだ謝っていない』。

『ごめんなさい』『すみません』『悪かった』その言葉が出てこない。

この人は本当に心を痛めているのか?反省しているのか?解らない、分からない、判らない・・・。

 

「ことな・・・?」

 

どうして謝らない。どうして謝らない。どうして謝らない!

目の前の男は、自分の行いを反省していない。むしろ棚に上げて言い訳をしている。

組織を守るため?既に処分は終えていた?だから仕方がないと?しょうがないと?

 

ふざけないで

 

私の気持ちは澄んだ水のようにまっさらになる。混ざり混ざった色が漂白され、澄み切った透明な色になる。

 

『いいよ、出てき・・・!』

 

「ことな!」

 

両肩を掴まれ揺さぶられる。

はっと意識を取り戻すと、目の前にリアスさんが立っていた。

 

「あなた今・・・何をしようとしたの?」

 

「え、あれ?え・・・?」

 

私は今思ったことを思い出し、頭を抱える。

あれ?どうして私は、え?なんでリアスさんが私の肩を掴んで、あれ?そもそも私は何をしようとしたの?

混乱する頭で、私は周囲を見回す。すると周りの全員が、それこそこの部屋にいる全員が私を見ていた。

 

「わ、私、私は・・・」

 

私は目の前の堕天使を攻撃しようとした、『友達を使って』

 

「ことな、お前何しようとしたんだよ!!」

 

兵藤が私に声を荒げる。

 

「ち、違います、私はそんなつもりじゃ・・・」

 

違う。

 

「そんなつもりってなんだよ!今お前、何かしようとしただろ!?」

 

「ち、違う・・・。私はそんな・・・」

 

「ことな、落ち着きなさい。良いから、お願いだから落ち着いて」

 

リアスさんの優しい声が聞こえる。でもその瞳を見た時、私は感じた。微かに怯えていることに。

 

「いいから深呼吸をして、心を落ち着かせるの」

 

ちらりと周りを見れば、誰もからもがそんな目だ。

怯える者、興味を持つ者、警戒する者、驚く者。そんな様々な視線だ。

 

「すみません。少し頭を冷やして来ます」

 

私は失礼だと思いつつも、会議室から飛び出した。

そうだ、ギャスパー君のところへ行こう。そこへ行けば、少しは頭が冷えるはずだ。

そんなことを思いながら、私は止める誰かの声を無視して、会議室から逃げ出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「夢殿さんを追いかけます!彼女一人だと心配ですから!」

 

「あ、私も行きます」

 

「ええ、お願いね」

 

木場祐斗と塔城小猫が夢殿ことなを追いかけるように、会議室を飛び出した。

リアスは、あの二人なら大丈夫だと思い、ことなのことをお願いした。

 

「アザゼル、どういうつもりなんだい?私の可愛い妹の友達をああした理由は?」

 

夢殿ことなが飛び出して行った後、残された者の視線はアザゼルへと注いだ。

悪魔陣営からは警戒、敵視を含み、天使陣営からは咎めるような視線だ。その視線を受けつつも、アザゼルは苦笑いをする。

 

「いや、悪気はなかったんだがなぁ。あの嬢ちゃんの持つ力に興味があってね。どうしたらそれを見れるかと思ってたんだよ」

 

「なっ!?」

 

その言葉に、リアスが何か言おうとするが、サーゼクスがそれを静止する。

 

「でもだからと言って、あんなに追い詰める必要はあったのですか?」

 

「ああなるとは思ってなかったんだよ」

 

ミカエルの咎めに、アザゼルはぼりぼりと頭を掻く。

 

「渡された資料から、俺はあの嬢ちゃんが神滅具の1つ、『魔獣創造』を持っているかもと思っていたんだよ。資料によれば、『友達』っていう奴を呼べるみたいだからな」

 

「神滅具ですって!?」

 

神滅具という言葉に、会議室は驚きに包まれる。

神滅具、それは神すらも殺せる力を有した神器。兵藤一誠の『持つ赤龍帝の籠手』、ヴァーリの持つ『白龍皇の翼』がそれに当たる。そしてそれ以外にもいくつか存在し、そしてどれも各々の力を宿している。

 

「でもありゃ違うな。資料にもあったように神器の反応がなかった。別段、隠してるような素振りでもなかった。多分、異能の類いだ。ただし、『それ相応』の力を持った、な」

 

「それはどういうことですか?」

 

「言っただろ?不意打ち、慢心に油断をしていたとはいえ、うちのコカビエルをヴァーリが来るまで『痛めつけた』んだ。その事実がある時点で、あの嬢ちゃんの力はヤバい代物だとは思うのが普通だ。そしてさっきのアレだ」

 

「あれというは・・・」

 

「嬢ちゃんから発せられたどす黒い負の感情のだよ。お前等も感じただろ?ただの人間が持つには不相応な感情をな。資料にもあったが、力を使いだすと嬢ちゃんは感情を抑えられない。つまり嬢ちゃん自身の感情による影響が大きいってことだ。普段は使いこなしているみたいが、さっきのように感情的になれば容易に暴走する。そしてその力はコカビエルほどではないがそれ相応と見ていい」

 

その言葉に、会議室の空気は静まる。

 

「まあ資料に乗ってる本人の言い分だと、こっちには率先して攻撃するつもりはないらしいがな」

 

その言葉を終えると、アザゼルは大きく伸びをした。誰もがアザゼルの言葉を聞き、黙っている。

ただ一人を除いて、誰もが信じられない顔で。

 

そんな中、リアスに木場祐斗からテレパシーが送られた。どうやら無事に夢殿ことなに合流出来たようだ。

 

「二人がことなと無事合流したみたいね。それで、ことながもう少し頭を冷やしたいみたいで、ギャスパーの所に行くようです」

 

木場祐斗からの内容を伝え、ひとまずは落ち着けるような雰囲気になった瞬間、『世界が停止した』


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