ハイスクールD×D イマジナリーフレンド 作:SINSOU
冷えた。
会議室の扉を開けた瞬間、私の身体は氷のように、石のように、固まった。
私は無意識のうちに、自分の身体を抱きしめた。
まるで、極寒の世界に放り込まれたような感覚に陥った。
目の入ってきたのは、何も変わらない職員会議室。
それこそ、プリントやらを持っていくたびに何度も訪れ、何度も目にした光景だ。
もしかすると、他の生徒よりも多く訪れたかもしれない。
だというのに、まるで別の空間に感じた。
寒い。
必死に自分の身体を抱きしめるけど、それでも身体が震えだす。
チラリと他の人を見ると、私ほどではないけれど、みんな緊張しているように感じた。
特にアーシアちゃんは変態と手を繋いでいる。
多分、人見知りで恐がりなギャスパー君がいたら、その場で泣いてしまいだろう。
そのギャスパー君は、まだまだ『停止世界の魔眼』を使いこなせていないため、部室に待機している。
恐がってうっかり発動!時よ止まれ!なんて事故は流石に拙いとのこと。
この日のために色々と特訓をやっていたのだが、どうも成果はよろしくなかったみたい。
人見知りや引きこもによる運動不足克服の件は、流石に「私もちょっと待ってください」と言ってしまったけど。
ゼノヴィアさんがデュランダルを振り回し、塔城さんがにんにくやら十字架やらを持って、泣き叫ぶギャスパー君を追いかけ回している姿を見れば、誰だって止めると思う。
寧ろ彼の人見知りや対人恐怖症が悪化しなかったことが奇跡だと思う。
その後は、変態がボールを投げて、それをギャスパー君が止める。そんな特訓をしていたかな。
なんか変態が、「時間を止められたら、女の子のパンツを見放題!おっぱいも触り放題じゃないかひゃっほぉぉぉぉぉぉ!」と叫んでいたので、ギャスパー君に悪影響を及ぼさないか心配になりました。
話を戻すけど、そんな理由でギャスパー君はこの場にはいない。
やはり心細いのか「お、お留守番、が、ががんばりますぅぅぅぅぅぅ!」と半泣きだった。後で様子を見に行くことにしよう。私も、この中にはずっといたくないと感じたから。
そんなことを考えていると、リアスさんが中に入っていくので、私たちもそれに続く。
そして目に入ってきたのは、なんか豪華そうなテーブルとそれを囲むように座っている方々。
まずは、リアスさんと同じような赤い髪の男性とその隣にいる銀色の髪のメイドさん、そして黒い髪をツインテールにしている女性。
事前にリアスさんから、この会議には魔王様、リアスさんのお兄さんが出席すると教えて貰った。
そのことから、多分この人がリアスさんのお兄さんで、悪魔の魔王様なんだろう。
そしてツインテールの黒髪は、授業参観に来た人だったろうか?確か生徒会長のお姉さん?だったけ。
この人も魔王の一人らしいけれど、私の中では魔法少女コスプレの人という認識が強い。
授業参観になぜか魔法少女のコスプレをしてやってきたせいで、一騒動があったのを覚えている。
今はコスプレではなく、装飾が施されたドレスの出で立ちだけど。
次に、金髪で柔和な顔立ちをしている男性とその隣にいる少女。
男性の方は、絵本や漫画などでよく見るような光の輪っか頭にあり、金色の翼をしている。
その隣にいる少女は、同じように頭に輪っかがあるが、男性とは違い、白い翼だ。
多分、この二人が天使様なのだろう。
そして最後、背中に何枚もの黒い翼を生やしている男性。
私から見ても豪華そうなローブを羽織っている。
その姿に、私たちの町を襲ったあの堕天使の姿とダブった。その瞬間、一瞬だけど心が冷えた。
間違いなく、この人が堕天使の人だ。コイツガ止めなかったセイで・・・。
私は頭を振り、そんな思考を追い出した。私は今、何を思ったんだろうか。改めて堕天使の方をこっそりと見る。
ぱっと見た出で立ちは、なんちゃってちょい悪親父。
黒髪なのに一部を金髪のメッシュをしてるせいで、更にその印象が強くなる。
顔立ちはイケメンなので、仮に町を歩いてナンパをすれば、大抵の女性が引っかかるだろう。
でも、ニヤケタ顔からの印象からか、この人は女を泣かせるタイプと感じた。
そしてその隣に銀髪の青年。多分、この人が確か『白龍皇』という、あの白い鎧の中身だろう。これもリアスさんから聞かされた。何でも、私が事件の後に寝込んでいた間に何度かやって来たらしい。
あの時のことしか印象が無いせいか、私はこの人に対しては悪い印象が強い。白龍皇が私の方を見ると、口元を歪めた気がした。
その姿に、私は意識なくギリリと歯を噛みしめた。
「夢殿さん?」
私の名前を言われ、私ははっと我に返る。
木場さんが私を心配そう見ている。多分、ぼうっとしていたのだろう。
気付けば、リアスさんたちは壁際に設置された席へと移動している。そこには既に蒼那会長たちが座っていた。
「大丈夫ですか?」
「あ、え・・・うん、私は大丈夫です」
塔城さんの言葉に、若干上ずったように答えたが、誤魔化す様に席へと着く。
そして私たちは、目の前で行われている会談を見続けている。
聞き耳を立てれば、互いに協力云々、種族を守るため云々の内容が聞こえる。
会談が始まってから何分たっただろうか?
魔王様、サーゼクスさん?がリアスさんに事件の説明を促した。
そこからはリアスさんが事件のあらましを説明する。私の名前が出た瞬間、私の身体はびくんと少し跳ねた。
「これが事件の報告になります」
リアスさんが報告を終えると、各陣営の人々は異なる反応をする。
溜息を吐く者、顔を顰める者、そして楽しそうにニヤつく者、全く違った。
でも、私が感じる圧迫感、見られている感覚は、各々の方向から同じように感じた。
サーゼクスさんがリアスさんに礼を言い、席に着かせる。
「まずは堕天使総督の意見を聞こう」
サーゼクスさんが堕天使総督、確かアザゼルさん?の方へと顔を向ける。
「今回の件においては、我が堕天使中枢組織『神の子を見張る者』の幹部であるコカビエルが、他の幹部および総督の俺に無断で、そして単独で行ったことだ。奴の処理は『白龍皇』が行い、その後はこっちで話し合いを行い、永久冷凍の刑に処した。もはや奴は一生氷漬けだ。これらに関しては既に送った書類に全部書かれていはずだぜ?。それが全部さ」
不敵な笑みをしながら、アザゼルはそう締めくくった。
は?
無意識に左腕を掴んでいた右手の力が強くなる。
それで納得しろと?それで全部終わったと思っている?ギリギリと右手の力が強くなる。
貴方のせいで私たちの町は危険に晒されたって言うのに、それなのに謝罪がないのか?
つまり、『自分は悪いと思っていないってことか?』ギリィ・・・と、歯の軋む音が聞こえた。
「夢殿さん!」
木場さんの言葉に、私は力んでいた右手を離した。隣の椅子に座っていた木場さんが、心配そうな顔で私の肩に触れていた。
「ありがとうございます」
感情に流されていた心を、私は一端落ち着ける。大丈夫、私は大丈夫。そう自分に言い聞かせる。
そんな私を置き、会談は進んで行き、気付けば、いつの間にか和平の話になっていた。
悪魔、天使、堕天使は、戦争によって大きな傷を負った。
そのせいで、もはや戦争を続けることも難しく、このまま続ければ共倒れとなる。
各陣営も、これ以上は戦争を続ける気もない。ゆえに、ここで負の連鎖を断ち切る為に和平を結ぶとか。
「ではここらで赤龍帝殿の意見をお聞きしたいのだが、よろしいでしょうか?」
ミカエルさんの言葉で、一同の視線が変態へと向く。
変態はミカエルさんに対し、どうしてアーシアを追放したんだ!どうしてこんな良い子を!と問いただす。
ミカエルさんの説明では、神が死んでしまったため、神の代わりに奇跡を行うシステムを天使たちが運営している。
だが、そのシステムは極めて繊細なため、神と同じように動かすことが出来ず、加護もかなり限定されるらしい。
そして繊細ゆえに、システムに影響を与える物を遠ざける必要があったとか。
結果、悪魔を癒す『聖女の微笑み』は極めて危険と判断し、追放という処分にしたとか。
また、神の不在を知る者も同様に危険視されたため、ゼノヴィアさんも追放処分を受けたという。
そしてミカエルさんの謝罪に対し、アーシアちゃんとゼノヴィアさんは、多少なりと思うところはあったらしいけど、今の生活に満足していると答えた。
確かに二人は満足しているのだろう。一緒に過ごしているとそんな印象を受けた。
でも私は思った。じゃあ、他の人はどうなんだろうかと。
それこそ、アーシアちゃんやゼノヴィアさんと同じように、システムを守るために異端とされた人々はいるはずだ。
信じていた者に裏切られた人たちだって、他にもたくさんいるかもしれない。
必死に祈っても、その祈りが届かずに絶望した人がいるかもしれない。
その人たちは今、幸せになっているだろうか?と。
そんな考えが頭が過る中、変態が今度はアザゼルさんに突っかかっていた。
結局はアザゼルさんの口に翻弄されてしまっていたが。
でも、私は確かに聞いた。
『たしかに俺たち堕天使は、危険な存在、害悪になる可能性のある神器保有者を始末している。だが組織としては当然だろう?将来的に危険な存在になるかもしれない者を事前に知ったら、先に始末することは。ただの人間であるお前では、赤龍帝の力を暴走させ、俺たちや世界を危険にさらすかもしれなかったからだ』
『それにお前が悪魔になったことを少なからず喜んでいる奴はいるぞ?』
その言葉は、私の中に汚泥のようにこびり付いた。
確かにそれは正論だ。危険な者を始末したくなるのは当然の理屈だ。誰が危険と判っている者を放置するだろうか?
仮にそんな奴がいるとすれば、それははっきり言って馬鹿だろう。
だから、堕天使総督の言葉は道理がある。だが私は思う。
それは、あなた達にも当てはまる理論ですよね?と。
私の心が黒く染まりだす。視界から色彩が消えだし、モノクロへと変わっていく。
目の前では、変態が「和平が一番です!その通りです!俺、部長とエッチしたいです!」とほざいている。
そんなことを聞きながら、私の心が冷えていく。
少なくとも、今の私には理由が出来た。貴方の言葉が正しければ、私もそれが出来る。
だから、これは正しいことだ。そう思いながら、私の中から『手』が伸びて
「で、さっきから時折、俺に殺気を飛ばしている嬢ちゃんの意見はどうなんだ?」
堕天使総督の視線が、私へと向けられた。