ハイスクールD×D イマジナリーフレンド   作:SINSOU

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22話

「注文が決まったら私を呼んでちょうだい」

 

そう言ったウェイトレスは、私たちにメニューを渡すと、直ぐにレジの方へと歩いていった。

腰まで伸びた茶色の髪が、動きに合わせてゆらゆらと揺れる。

ウェイトレスとは言ったけど、彼女の服装は黒色のワンピースに白のエプロンを着ている。

なんと言うか、普段着の上にエプロンをつけただけのような姿だ。

そして今の仕草は、ウェイトレスとしては清々しいほどに駄目な振る舞いと言える。

多分、初めての人は失礼なウェイトレスだな!と内心で怒るかもしれない。

でも常連の私からすれば、いつも通りの振る舞いなので寧ろ安心する。

もうあの人の言動に慣れてしまったのかもしれない。

 

「あ、今日はあの日なんですね」

 

私はいつも通りの対応に苦笑するけれど、他の三人は違う。

特に一度ここに来た木場さんと塔城さんは少し戸惑っていた。

舞ちゃんはメニューの方に目を向け、「おおぉ!?パフェがある!」とはしゃいでいる。

 

私も初めての時は戸惑ったので、二人を見ていると懐かしい気持ちになりました。

 

「リーシャさん、どうしちゃったんですか?」

 

レジの方へを視線を向けつつ、塔城さんが私に尋ねてくる。

きっと今の振る舞いに、二人は彼女に何かあったのではないか?と思っただろう。

二人からすれば、一度やってきたとはいえ、朗らかで柔和だった人が、急に淡白になったんだから。

それこそ、『人が変わったかのように』。あの時の私も、今の二人と同じようにそう思った。

でも理由を知ってしまえば、なぁんだ、と納得できるものなのだけど、

大抵は戸惑いが強いせいでそこまで回らないのかもしれない。

 

私は口元に手を当てて笑いを堪えつつ、二人に事情を説明することにした。

 

「あの人はリーシャさんじゃないですよ」

 

「それはどういうことだい?」

 

私の言葉に木場さんが関心を隠さずに聞いてきた。

 

「でも、あれはどう見てもリーシャさんですよね?」

 

塔城さんも木場さんに続いて尋ねてくる。私は二人に、一端落ち着くように言い、

二人が落ち着いたのを見て、ネタばらしをする。

 

「あの人はアーリィさん、リーシャさんのお姉さんです」

 

「え?」

 

「でも、あの姿はどう見てもリーシャさんじゃ・・・」

 

「私たちは双子なんですよ」

 

「え!?」

 

突如、後ろから聞こえた声に、私を除いた三人が振り向く。

そこにいたのは、腰まで伸ばした茶色の髪を一つに纏め、メイド服のような姿のリーシャさんだ。

 

「こんにちは、リーシャさん」

 

慣れていた私は、普通にリーシャさんに挨拶をする。

 

「こんにちはことなちゃん。やっぱりことなちゃんは解ってたのね」

 

「ええ、一度体験してますから」

 

「あら、そうだったかしら?」

 

悪びれる様子もなくコロコロと笑うリーシャさん。

この人、柔和な雰囲気を醸しているけれど、結構な悪戯心をお持ちのようだ。

そんなリーシャさんに少し呆れていると、レジの方からアーリィさんがやって来た。

 

「リーシャ、確かに私も時間がある時は手伝うとは言ったわ。

 でも私には接客は向いていないと何度も言っているわよね?

 この不定期のサプライズにしても、楽しんでいるのはリーシャだけよ?」

 

「!?」

 

「おお!?そっくりです!」

 

溜息をこぼしているアーリィさんに、木場さんと塔城さんは驚き、舞ちゃんは目を輝かせた。

なにせ目の前には同じ顔が二人もいるのだから。

ただし、リーシャさんの目はたれ目で柔和な雰囲気を纏う一方、

アーリィさんの方は少し吊り目で、そのせいで少し怖い雰囲気が漂っている。

 

「で、いい加減注文は決まったのかしら?」

 

こちらを見ながらアーリィさんが、少し急かす様に言ってくる。

長身と吊り目が相まって、彼女の雰囲気はリーシャさんと真逆の印象を与えてくる。

 

「もう、姉さんたら」

 

それをリーシャさんが咎める姿は、同じ双子の姿からして異様な光景だ。

そんなことを思いながら、私たちはメニューに目をおとし、各々の注文をするのだった。

 

 

 

 

 

 

「いやぁ申し訳ないです。折角のデートに私が付いてきもがぁ!?」

 

「デート?」

 

「舞ちゃん!」

 

いきなりの直球ストレートな爆弾発言をする舞ちゃんに、私は顔を真っ赤にする。

慌てて舞ちゃんの口を塞ぐも、二人にバッチリ聞こえたみたいで、

木場さんと塔城さんは首を傾げて、私の方へと視線を向ける。

二人の視線に晒され、私は顔から火が出るかのような恥ずかしさを覚え、顔を下に向ける。

ちらりと二人に視線を向けると、木場さんが何か気付いたのか、私に笑顔を見せる。

ああ良かった、木場さんは冗談だと気付いてくれたんだ。

 

「そうだね、実は夢殿さんからぜひにと誘われてね。

 でも僕だけだと楽しくないと思って、せっかくだから塔城さんも誘ったんだ。

 そうだよね、塔城さん」

 

「はい、その通りです」

 

「もう二人とも!」

 

私の想いとは逆に二人とも舞ちゃんのノリに流され、私だけが顔を真っ赤にする羽目になってしまった。

私のあたふたする姿に、他の三人が笑いだし、凄く恥ずかしかった。

丁度よくケーキやパンケーキセットが来なければ、私はもう少し弄られていただろう。

運んできたリーシャさんが、ネズミを見つけた猫のような目を私に向けていたのは、多分気のせいだと思います。

 

 

 

 

「それにしても、二人は仲良しなんだね。ええと、君は・・・」

 

「はい!私は舞、前園舞です。気軽に舞ちゃんと呼んでください!」

 

「ええと、前園さんはずっと夢殿さんと付き合いがあるのかい?」

 

木場さんの質問に、舞ちゃんはニッカリと笑い、私に両手を握る。

 

「そうです!私はことなちゃんとずっと友達なのです。!これからもずっとです!」

 

「ま、舞ちゃん・・・恥ずかしいよ・・・」

 

「あはは、本当に仲が良いんですね」

 

塔城さんの言葉に、私はこくりと頷く。

正直、舞ちゃんがいなかったら、私はあのままだったかもしれない。

もしかしたら、あのまま潰れていたかもしれないと思うと、舞ちゃんは私の恩人だ。

塞ぎこんでいた私を、強引だったけど、舞ちゃんはその手を引っ張ってくれた。だから今の私がいる。

そう思いながら私は、既に木場さんと塔城さんと笑顔で談笑している舞ちゃんを見つめた。

 

パンケーキや紅茶を飲みながら、舞ちゃんが私を膝で突っつく。

ちらりと舞ちゃんに目を向けると、プレゼントの入った紙袋を指さしている。

あ、お礼のことををすっかり忘れていた。

私は紙袋からお礼のプレゼントを取り出し、二人に渡す。

 

「これ、お二人へのお礼です」

 

「「え?」」

 

突然のことか、予想していなかったのか、木場さんも塔城さんも驚いた顔をしている。

私は二人に、私が床に伏せっていた時のお礼だと説明すると、

二人は「そんなこと、お礼を貰うようなことじゃないよ」と言い出す。

が、そこは舞ちゃんが、

「これはコトナちゃんが私を誘って買った物なのですよ。だから貰ってくれませんか?」と暴露。

「そういうことなら貰わないわけにはいかないね」とすんなり貰ってくれた。

しかし、そのために私は何度目の気恥ずかしさを味わう羽目になった。

 

 

「これは、白い馬のキーホルダーかな?」

 

「こっちは白猫の髪飾りです」

 

「おお!?これは花のペンダントではないですか!」

 

そして何を思ったのか、三人とも私のプレゼントをその場で開けたのだ。

これも舞ちゃんが、「では早速プレゼントの中身を確認しましょう!」と言ったのが原因だ。

正直、公開処刑な気分です。

 

白い馬を選んだのは、私がある店で幸運のお守りの棚で商品とにらめっこしていた際、

白い馬は良い運を運んでくれる象徴と言うのを、店の人から言われたからだ。

ペンダントや髪飾りもあったのだが、男の子なので、無難のキーホルダーにしてみた。

決して、木場=騎馬、だから馬!ではない。決してない!

 

塔城さんの白猫に関しても同上で、こっちは塔城さんの姿がアクセサリーの白猫とタブったから。

いつも髪留めをしている塔城さんを思い出し、髪飾りなら使ってくれるかな?と思ったのも理由だ。

決して、小猫だから猫!ではない。

 

舞ちゃんのは朝顔のペンダント。これはお店の人が花言葉を教えてくれて、その言葉を聞いて選んだ。

そしてこのペンダントには、ある秘密があるが、多分舞ちゃんは気付かないだろう。それでいいと私は思う。

各々が私のプレゼントに喜んでくれている。それだけで私は嬉しかった。

そんなゆったりとした雰囲気の中、私たちは時間を過ごして行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ!今日は楽しかったね!」

 

そして今、私たちは家に帰る途中だ。

木場さんと塔城さんは、カデンツァの前で別れ、今は私と舞ちゃんしかいない。

 

「今日は舞ちゃんに弄られ、木場さんや塔城さんに弄られっぱなしだったよ・・・」

 

「あははは、可愛いことなちゃんが見れて、私は満足です!」

 

「もう!」

 

そんな会話を続けながら、私たちは歩いている。

そして互いの家へと向かう分かれ道で、不意に舞ちゃんが止まった。

 

「舞ちゃん?」

 

その仕草に、私は舞ちゃんに言葉を投げる。その後ろ姿に、一瞬だけど恐くなった。

 

「二人とも、良い人だね」

 

「舞ちゃん?」

 

舞ちゃんは私の言葉を無視して話す。

 

「私、ことなちゃんがまた倒れたって聞いた時、すごく、すっごく心配になったんだよ。

 この前だって、私を助けようと無茶して、怪我までして、ずっと入院してたんだから」

 

舞ちゃんの言葉は続く。

 

「だからことなちゃんが欠席したと聞いた時、本当に恐かったんだよ?

 もしかしたら、またことなちゃんが無茶したんじゃないかって。それで私、どうして?って考えたんだ。

 どうしてことなちゃんが酷い目にあっちゃう?って」

 

「舞ちゃん!」

 

「そうしたら気付いたんだ。

 ことなちゃんが怪我をするようになったのって、急に具合が悪くなったのってさ。

 『ことなちゃんがオカルト研究部に入った後からずっとなんだよ』」

 

ぞわりと背筋に緊張が走った。

 

「だから私、木場さんと塔城さんに出会えたことは幸運だと思ったんだ。

 だって二人ともオカルト研究部の人だもの。だから私、ずっと二人を見てたんだ。

 話してる時も、プレゼントを開ける時も、ケーキを食べてる時も、ずっと二人を見てたの。

 もしも二人が、ことなちゃんに怪我をさせる様な人たちだったらって」

 

そして一端、舞ちゃんは言葉を止めた。舞ちゃんの沈黙がいやに重かった。

まるで海の中にいるような、上から押さえつけられるような感覚。

 

「でもそうじゃなかった!」

 

くるりと私を向いた舞ちゃんは、いつも通りの笑顔だった。

 

「二人ともことなちゃんのことを心配してた、私にでも解るくらいにね。

 だから私、二人のことを信用しようと思ったんだ。この二人ならことなちゃんを大切にしてくれるって」

 

「舞ちゃん、まるで私がお嫁に行くような言い方だよ?」

 

「いやいやいや、ことなちゃんが私の知らない内に友達の輪を広げていたことに、私は驚いているのです」

 

「それは褒めてないよー!」

 

先ほどまでの雰囲気が嘘のように、私たちは笑いあう。薄暗くなりつつある小道で、私たちは笑いあった。

そして別れる際に、互いをぎゅっと抱きしめる。舞ちゃんの体温を感じた気がした。

 

「じゃあねことなちゃん!無理しちゃだめだよ!絶対だからね!絶対だからね!」

 

「はいはい分かってるから!それじゃあまた学校で!」

 

互いにバイバイと手を振る私たち。そして私は、嬉しい気持ちで家の扉を開けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして私は、和平会談が行われる日まで、いつも通りの日常を過ごした。

いつも通りに大忙しに学校を走り回り、桐生ちゃんからは嫌味交じりに心配されたりもした。

オカルト研究部の方は、新メンバーのゼノヴィアさんとの距離感に四苦八苦している。

やっぱり、初めて会った時の印象が未だに抜けきれていない。

でも、なぜだろうか、あの時と比べると酷くアホっぽく思ったのは気のせいだろうか?

 

また名前だけは知っていたギャスパー君とも、初めて顔を合わすことが出来た。

初めて会った時は、女子生徒の制服を着ていたので、てっきり女ことと思ったのだが、男の子だったことに吃驚。

ちらりと変態を見れば、案の定、初めて会った際に浮かれ、そしてショックを受けていたことを、小猫ちゃんから教えて貰った。

ギャスパー君は、その目に時間を止める力を持っているらしく、そのせいで酷い扱いを受けていたという。

そのせいで人見しりになり、引きこもりにもなってしまったとか。

その姿に、私はかつての自分を重ねた。それは舞ちゃんがいなかった時の私だった。

何もかもに絶望し、誰とも顔を合わせたくなくて、家に籠っていた私だ。

 

だから私は、気付けばギャスパー君を抱きしめようとして、怯えたギャスパー君に時間を止めらたのは凄くショックです。

取りあえずは、互いの距離をゆっくりと小さくするために、紅茶や御菓子を差し入れる様にした。

始めは怯えていたけれど、今では多少なりと一緒に食べれるようになったので、努力は裏切らないことが証明されました。

 

そんな日を送り、そして気付けば和平会談当日。

 

「さあ、みんな行くわよ」

 

リアスさんの言葉を受け、私たちは会議室の扉を開いた。




ラベンダー

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