ハイスクールD×D イマジナリーフレンド   作:SINSOU

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本編
1話


「どうして?」

 

私は問いただす。

 

「どうしてですか?」

 

私は私なりに頑張ってきた。

 

「私の何が間違っていたんですか?」

 

誰かの為になると思って、この町の人を守れると思って、だから私は頑張った。

 

「教えてください」

 

私は再度問いただす。

目の前の存在は、私の視線に耐えきれなくなったのか、視線を逸らす。

 

「教えてよ」

 

それでも私は問いただす。

けれども相手は顔を背けたまま、黙ったままだ。

 

「ああ、そうなんだ」

 

私は気付いた。いえ、気付かされた。

 

私はもう

 

「いない存在なんですね」

 

世界から消えていたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「夢殿、悪いがそこにあるプリントの束を、職員室まで持って行ってくれないか?

 量が多くて大変だと思うが、こっちも馬鹿トリオのせいで手が離せなくてな。

 手が足りなかったら他の奴に手伝ってもらってくれ」

 

「大丈夫です。問題ありません」

 

先生の頼みごとを、私は快く請け負った。

 

私は、『誰かの助けになる』ことが好きだ。

それは亡き両親の教育の賜物なのか、それとも自分の性質なのかは判らない。

でも、自分が誰かを笑顔に出来るなら、それで嬉しかった。

 

しかし、快諾したものの確かに、見るからにプリントの量が多く、

どうあっても私だけでは手が足りない。

でも私には問題なかった。

 

「さてと、頑張りますか!」

 

私にはそれが出来る『力』があった。

 

私はプリントの束を両手に抱え、自分の胸の方へと動かす。

この時、数少ない、というか極少の理由だが、自分の身体に正直感謝する。

なにせ、出っ張っていたらプリントが途中でズレテしまうからだ。

決して、現実逃避ではない、絶対にだ!

 

だが、流石に量が多くてバランスが取り辛いので、私はこっそりと『力』を使う。

 

すると、ぐらぐらしていた紙の束が、

ズレもなくスッと一つに纏まり、運びやすくなった。

 

「ありがとう」

 

私は『友達』に感謝する。

 

「これでよし、では職員室までファイトー!」

 

私はゆっくりと、慎重に職員室まで持っていった。

 

 

 

「お願い、ことなちゃん。今度のかるた大会の助っ人をお願いできないかな?」

 

「オフコース!任せたまえ!ちょっと百人一首覚えてくるから!」

 

急遽熱を出した部員の補欠として、私は何かと呼ばれることが多い。

流石に運動部や吹奏楽部といったものは無理だが、出来る限りのことはした。

 

「ことなちゃん、学校新聞で良いネタないかな?」

 

「エロトリオの一人に恋人が出来たみたいだよ。しかも、かなり美人でボン、キュッ、ボーン!

 それと、旧校舎の方で、なにやら謎の光が見えるとかあるみたいよ」

 

何かをするにはそれを知らないといけないから、私は多くのことを知ろうとした。

まぁ、流石に個人的な事まで首を突っ込むようなことはしなかった。

 

「ことなちゃん!私・・・」

 

「大丈夫、任せなさーい!」

 

自分を頼ってくれる人たちのために、私は出来ることをしようと思っていた。

 

 

『誰かのために何かできる』

それが私にとって大事なことだった。

『誰かのために何かできる私』

それが私にとって大切な自分だった。

 

 

 

 

 

 

『これからよろしくね、ことな』

 

『リアス先輩、よろしくお願いします!』

 

先輩から差し伸べられた手を、私は力強く握り返した。

 

姉妹が看板娘をしているケーキ店『カデンツァ』の大人気オレンジスコーンを家で食べるため、

偶然近道のために横切ろうとした公園での出来事。

羽を生やしたコスプレお姉さんと、朱い水溜りに倒れていた、悪名高い兵藤一誠。

そして紙から突然現れたリアス先輩。

その時の私は、まるでファンタジーの世界にいるかのようにおぼろげだった。

 

その翌日の帰り道、学園のマスコットと呼ばれる後輩の塔城小猫に引っ張られ、

私はオカルト研究部へと案内され、そして全てを教えられた。

 

悪魔、天使、堕天使、本当にファンタジーのような話を聞かされた。

正直、頭が痛くなったと思う。

それでも、私の住んでいる町を守るということは、理解出来た。

だからこそ、私は先輩たちと一緒に、町のために頑張ろうと思った。

 

リアス先輩から悪魔にならないか?というお誘いを受けた。

悪魔になれば、様々な特権や、人間とは比べ物にならない力を得られるという。

でも、私は断った。

数少ない両親の形見である、『人間』としての自分が好きだったからだ。

もちろん、先輩に直接そんなことは言わなかったが、何となく察してくれたと思う。

瀕死で止むを得ず転生してしまった兵藤は、別段気にもせず、むしろ喜んでいた。

まぁ、目の前にぶら下げられた人参につられたとしか思えなかったが。

 

その後、私は唯一の『人間』として、オカルト研究部の一員となった。

悪魔契約のスケジュール管理や備品の整理、

そして部費管理と言った事務を私は担った。

自分の力を使って、備品や書類の整理をせざるを得なかったこともあった。

時に、搭城さんや木場さんも手伝ってくれたり、

姫島先輩からは小休止にお茶を御馳走になったりと、仲が良かったのかもしれない。

 

私には他の皆のような魔力はなく、転移出来なかったせいもあり、

悪魔の契約を行うことが難しかったのだ。

それに私は、雑務の方が好きだったので、別段気にすることはなかった。

しかし、魔力が無さすぎて転移できなかった兵藤エロ誠が、

自分にドヤ顔をかましたのが気に入らなかった。

 

時折、事務だけに限らず、お菓子を作って振舞ったこともあった。

クッキーやおはぎ、頑張ってケーキまで作ったと思う。

 

マスコットの搭城さんが美味しそうに食べていた姿には、違う意味で涎が出ました。

うん、まるで小動物的な可愛さが爆発してました。リスみたいな感じ。

先輩の一人である、大和撫子を形作った姫島先輩からは、

免許皆伝を承る程にお茶を入れるのがうまくなった・・・気がする。

学園のイケメン王子様と呼ばれる木場さんからは、事務や備品類について教えて貰った。

感謝しきれないと言われた際は、本当に嬉しかった。

 

みんな、私の頑張りで笑顔になってくれていた。

 

一応、私と同時期に部員になった、一誠にも感謝はしている。

内心、エロ行為のせいで辟易しているが、それでも感謝してくれるのは満更でもないからだ。

ただ、ハーレム王に俺はなる!と宣言したことは、流石に看過されるものではなかった。

エロリーダーよ、まずは去勢されたらいいと思うんです。

 

その時の私は、本当に皆と一緒で楽しかったんだと思う。

 

 

 

 

 

私は吐いた。

今朝食べた目玉焼きや玄米、お昼に食べたトマトサンドイッチ、

夕飯に食べたフルーツが混ざった吐瀉物を、私は地面にぶちまけた。

 

「はぐれ悪魔を討伐しに行くわよ」

 

リアス先輩の言葉から始まった、町を守る為に大切な活動、『はぐれ悪魔狩り』

何でも、主のために悪魔となったが、力に魅入られて主から逃げ出し、

その力を悪いことに使う悪魔が、はぐれ悪魔という。

これから、その悪魔を捕まえるようだった。

私はよく解らなかったが、町の見回り隊みたいなものと思っていた。

エロリーダーもそんな感じだった。

 

だが、私は甘かった。

 

むせ返るような血の匂い、そして人と獣を混ぜた怪物。

それをまるで簡単に殺す先輩たち。

 

イケメン王子の木場さんが、化け物の両腕と体を切り裂いた。

怪物の悲鳴に耳を塞ぎ、切り傷から迸る真っ赤な血に、私は目を逸らした。

 

マスコットと呼ばれた可愛い搭城さんが怪物を殴り倒し、

まるで重機がぶつかったかのように、ぶっ飛ぶ怪物に私は呆然とした。

 

大和撫子と思っていた姫島さんが、楽しそうに怪物を焼いて痛めつける光景に目を疑った。

皮膚が、肉が焼け焦げる匂いに、私は口元を押さえた。

 

赤い髪を靡かせて、目の前を光景をエロ魔人に教えていたリアス先輩が、

姫島先輩によってまっ黒焦げになり、息も絶え絶えな怪物を消滅させた。

エロ魔人が、まるでカッコいい!というように目を輝かせていたが、

私は耐えきれずその場から走りだして、近くの床に吐いた。

 

リアス先輩が、そんな私を心配するように言葉をかけてくれた。

 

「ことなには刺激が強すぎたようね。

 でも大丈夫、何かあったら、私が、私たちが守るわ。

 だって、ことなは大切な家族であり仲間だもの」

 

心配してくれる先輩の言葉に、私はただ「ありがとうございます」と言うしかなかった。

 

私は、先輩たちが倒した怪物よりも、それを作業のように倒した『先輩たち』に恐怖していた。

もちろん、そんなことは言えなかった。

 

だがその日から、私の中で何かが変わってしまったと思う。

先輩たちを見る眼が、何か変わってしまったような気がする。

 

 

そしてそれを後押しするように、物事が起き始めた。

 

 

「はぐれエクソシスト・・・ですか?」

 

傷だらけの一誠を抱え、転移で返ってきた先輩たちが、私と一誠に説明する。

何でも、召喚した人の家に行ったら、その人が酷い有様で殺され、

そこにはぐれエクソシストと呼ばれる人間がいたのだという。

 

部長曰く、魔を祓う教会の戦士だが、憎しみか、それとも快楽に呑まれてしまい、

悪魔や悪魔に関わる存在全てを殺すようになる危険人物だとか。

 

「はぐれエクソシストと関わるのは得策ではないわ。

 それに、あちらには堕天使という後ろ盾がある。

 仮にそのシスターを助けようとしたら、私たちまで戦うことになるわ」

 

その言葉に、エロ魔人が黙り込む。

皆を巻き込みたくないという葛藤に苛まれているのだろうか。

 

だが、私はここで疑問が浮かんだ。それはほんの些細な事なのかもしれない。

でも、私はそれが引っかかってしまった。

 

殺されてしまった人はいったいどうなったのか?

 

リアス先輩は、一誠が無事であることを嬉しく思っている。

だが、その危険人物に殺されてしまった犠牲者に対する言葉がない。

私はそのことを尋ねてみた。

リアス先輩は『大丈夫、もう済んだから』とだけ答えてくれた。

その時の顔を、私は見逃さなかった。

私は、私たちを優しく見守るリアス先輩の姿が、少し歪に見えた・・・気がした。

 

 

 

 

 

「よろしくおねがいします、ことなさん」

 

「よろしくね、アーシアちゃん」

 

元気よく私に声をかける存在がいた。

彼女の名は、アーシア・アルジェント。

太陽の光を放つような金色の髪、全てを包み込むような、優しい笑顔を持つ、『悪魔』だ。

正確には、『元聖女という人間』から転生した『悪魔』だ。

 

兵藤一誠が、教会に連れ去られたこの子を救おうと乗り込んだので、

私も恐怖心にかられながらも助けに行ったのだ。

そこで行われたのは、一方的な戦いだった。

 

襲ってくる神父や天使たちを斬り倒し、殴り飛ばす木場さんと塔城さん。

アーシアを攫った堕天使と戦う一誠。

私は震えながらも、襲い来る神父さんたちを、どうにか『力』で気絶させていった。

バットを振り回して応戦したが、殴った感触がとても気持ち悪かった。

手に伝わった肉や骨の感触が、今でもこびり付いている。

正直、忘れられない記憶となった。

 

そして、人間を蔑視する堕天使と戦うも、アーシアは死んでしまった。

だがリアス先輩によって、アーシアは悪魔に転生し、見事助かったというわけだ。

助かったアーシアを抱きしめて喜ぶ一誠と、それを嬉しそうに見つめる先輩たち。

だが、私は気付いた。気付いてしまった。

 

『彼女の回復能力は僧侶として使えるわ』

 

リアス先輩はそう言っていた。

 

もしかしたらリアス先輩は・・・違う!そんなことはない!

私はかぶりを振った。そんなはずがない。

だってリアス先輩は、この町を守ると私に言ってくれたんだから。

人間と仲良く付き合いたいと言ってくれたのだから。

まさか、『アーシアが死ぬことを望んでいた』とか、

『死んだら貴重な力が手に入る』とか、そんなことを考えているはずがない!

きっと私の想い過ごしなんだ!

 

目の前のアーシアを見つめる私は、

彼女が助かったことに安堵する反面、彼女の行く末がとても怖かった。

そして、私が死んだらどうなるんだろうか、そんなことを、私は思ってしまった。


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