ハイスクールD×D イマジナリーフレンド   作:SINSOU

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17話

「夢殿・・・さん?」

 

僕は自分の目を疑った。

それは僕だけじゃなく、部長も一誠くんも他のみんなもそうだった。

だってそこにいたのは、来るはずのない夢殿さんだったんだから。

彼女の出で立ちは、寝間着だろう色柄のパジャマの上に防寒具のジャンパーを着て、

靴ではなくスリッパを履いている。

どう見ても、急いでやって来た恰好だった。

 

コカビエルの宣戦布告の際、

一般人の夢殿さんを巻き込むわけにはいかないという部長の提案で、

僕たちは夢殿さんには連絡を取らなかった。

ただの人間でしかない夢殿さんを巻き込むわけにはいかなかったからだ。

 

だからこそ、今この場にいる夢殿さんの姿に、僕たちは理解できなかった。

どうして彼女が来たのか、それ以前にどうして彼女がここに入れたのだろうか。

駒王学園は、コカビエルとの戦いの被害を抑えようと結界が張られている。

そしてそれを維持しているのはソーナ会長たち、生徒会のみんなだ。

あのソーナ会長が、危険と判っている場所に夢殿さんを入れるわけがない。

なら、彼女が無理矢理入ってきたということになる。

でもどうやって?

 

そんな考えが僕の頭の中を駆け巡る。

部長も同じように、今の状況を理解しようと必死の様子だ。

でも、今はそんなことは関係ない。

この場は夢殿さんにとってはあまりにも危険すぎる場所なんだ。

彼女をここから逃がさないと!

 

そう思い、僕はさっきまで折れかけていたことを忘れ、

生み出した剣を杖に立ち上がろうとする。

 

「夢殿さん!」

 

そう言って僕は彼女の手を掴もうとして、その手を止めた。

 

「夢殿・・・さん・・・?」

 

なぜなら僕を見た彼女の目が、まるで光すら呑みこんでしまったような、

炭のように澄み切った黒一色に染まっていたからだ。

その目を見ると、その中に吸い込まれてしまうような、そんな黒色。

 

『なんですか、木場さん?用があるなら早く言ってください。

 私にはやらなくちゃいけないことがあるので』

 

まるで人形のような無表情で、抑揚のない声で、彼女は話す。

その異常な姿に、僕は何て声を書けていいのか分からなくなった。

普段の彼女とはあまりにも違い過ぎて、まるで別人になってしまったのかと思えてしまうほどに。

 

『用がないなら話しかけないでください。私は行きますので』

 

そう言うと、彼女はコカビエルの方へと足を向ける。

呆けていた意識を取り戻し、僕は彼女の手を掴む。

 

「待つんだ夢殿さん!どうして君がここにいるのかは分からないけど、ここは危険だ!

 早くここから離れるんだ!」

 

『私に触れるな』

 

その瞬間、僕の身体は宙に浮いて、気付けば地面に倒れていた。

 

「祐斗!?」「木場ぁぁ!!」

 

部長やイッセーくんの声が聞こえる。

そんな中、痛む身体に呻きながらも目を開ければ、夢殿さんが僕を見ていた。

そこからは何も感じなかった。ただ、感情もなく僕を見ていただけだった。

 

 

「貴様、何をやった?」

 

すると、それに浮いていたコカビエルが動く。

どうやら夢殿さんが何をしたのか気になったらしい。

彼女はコカビエルの方へと顔を戻す。

 

『そんなのはどうでもいいんです。関係ないんですよ。

 今、用があるのは貴方なんですよ、コカビエルさん』

 

「ほう?人間風情が俺に用だと?」

 

彼女の言葉に興味を持ったのか、コカビエルが答える。

 

『ええ、貴方を謝らせに来ました』

 

ピシリと空気が凍った。

コカビエルの纏うオーラが、より鋭さをました。

 

「俺を謝らせるだと?」

 

『はい。貴方の自分勝手極まりない、自己満足でしかない行動に巻き込まれた私たちに対して、

 私は貴方に謝罪を要求しに来ました』

 

彼女は語りだす。

 

『戦争したいのであれば、勝手に一人でやってください。

 戦いたいのであれば、一人で勝手に突っ込んで死んでください。

 戦いたいと言ってる癖に、結局は誰かを巻き込まないと戦えない。

 カッコいいことを言っているようですけど、やってることは自分勝手なんですよ。

 正直、自分が気持ちよくなりたいだけの自慰行為の癖に、大義を語るなんて反吐が出ます。

 周りを巻き込んで、それが正しいってなんですか?

 無関係な人まで巻き込んで、傷を負った人を考えずに、自分さえよければ何をしても構わない。

 堕天使が最強?邪魔さえなければ勝っていた?

 そんなの私たちには関係ないんですよ。

 自分の鬱憤を晴らすために、人を巻き込まないでください』

 

彼女の身体から黒い何かが溢れだす。

 

『それともなんですか?

 戦いたい戦いたいと言っていますけど、

 自分一人じゃ何にもできないだけじゃないんですか?

 周りを巻き込むことでしか、自分を正当化できないだけでしょ?

 それを自己正当化するために、何だかんだで鎧を纏っているだけ。

 戦闘狂の堕天使?は?ただ自慰行為に夢中なだけ存在でしょ?』

 

夢殿さんから漏れ出した黒い何かは、まるで地面を這うように広がっていく。

 

「人間風情が俺を虚仮にするか、なら死ね」

 

コカビエルが指を鳴らすと、コカビエルの足元に黒い影が現れる。

それは僕たちがなんとかして倒した番犬

 

「ケルベロス!?まだいたっていうの!?」

 

驚く部長を余所に、ケルベロスは夢殿さんへと向かう。

夢殿さんは、ぶつぶつとまだ呟いており、ケルベロスに気付いた様子が無い!

 

「夢殿さん!早く逃げるんだ!」

 

僕はボロボロの身体に鞭を打って叫ぶ。でも声が掠れてしまい、彼女に聞こえた様子が無い。

 

「ことなぁぁぁぁ!逃げろぉぉぉ!」

 

イッセーくんが叫び、彼女に向かって走り出す。でも、どう見ても間に合わない!

僕は、みんなを守るって誓ったのに!夢殿さんを守れないのか!?

そしてケルベロスが口を開き、彼女を呑みこもうとして、

 

『お座り』

 

跪いた。

 

 

一瞬、僕たちは何が起きたのか解らなかった。

だって、夢殿さんを呑みこもうとしたケルベロスが、突如彼女の前で頭を垂れた。

いや、むしろ地面に頭を叩き付けたと言った方が正しい。

ケルベロスは必死に頭を動かそうとするけど、

まるで頭を何かに抑えられたかのように動けない。

そんなケルベロスを一瞥すると、夢殿さんは何もなかったかのように会話を続ける。

 

『そんなにサーゼクスだのミカエルだのと戦いたいのなら、

 わざわざ聖剣を奪わなくても、勝手に天界に突っ込んでくださいよ。

 わざわざこの町になんて寄り道せずに、一人で冥界に突っ込んで行ってくださいよ』

 

すぐ隣に自分を丸呑み出来る怪物がいるというのに、夢殿さんはコカビエルに喋り続ける。

その光景はまさしく異常だった。だからこそ、みんな動けない。

すると、抑えられていたケルベロスの頭の1つが、少しずつだが口が開いていく。

その口内からは赤い炎が顔を覗かせ、自分を抑えている邪魔者を焼き殺そうとする。

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

アーシアさんの叫び声が聞こえる。

僕たちは、夢殿さんが黒焦げの死体どころか、そのまま灰になる姿を予期して、

炎が彼女に狙いをつけ放たれる瞬間、その首が飛んだ。

 

「え?」

 

炎を吐き出そうとした頭は、

そのままゆっくりと放物線を描き、駒王学園の野球ネットに突っ込んだ。

放たれた炎は夢殿さんを外し、校庭の一部を燃やす。

一方、さっきまで頭が付いて首には、さっきまであった頭が無く、

そこから溢れるばかりに血が噴き出ていた。

その傍にいた夢殿さんは、その血を避けることなく浴び、真っ赤に染まっていく。

 

『邪魔です』

 

その声と同時に、頭2つとなったケルベロスが真横に飛び、

校舎に衝突して瓦礫の下敷きになった。

瓦礫の下からは赤黒い液体が溢れ、地面を染めていく。

 

「ことな・・・?」

 

部長でさえ、その光景を理解するのを止めていた。

目の前にいるのは、寝間着の上にジャンパーを羽織った夢殿さん。

なのに、今の彼女は僕たちの知っている彼女ではなかった。

 

「な、なんだこれ!?」

 

下を見たイッセーくんの驚きの声に、僕らは自分の足元に目を移す。

気付けば、僕たちの足元は学園の校庭ではなく、真っ黒に染まっていた。

そしてその中心にいるのは、夢殿さんただ一人。

 

いや、違う

 

彼女の傍に誰かいる。

 

「なに、あれ・・・?」

 

それは僕たちからすれば、突然現れた存在だった。

その姿は人の姿に近く、足も手も身体もある。

大きさからして、夢殿さんと同じような大きさだ。なぜか、彼女の服装と同じ格好をしてる。

でも、彼女とはっきり違う点が一つあった。

 

「頭が・・・ない?」

 

そう、本来あるはずの頭が無いんだ。

首から上にあるはずの頭の部分が、まるで煙のように揺らめいていて、形がはっきりしない。

それこそ、それが本当に頭なのかも分からないし、そもそも人のような頭かも分からない。

ただ、それが夢殿さんの傍に立っている。まるで彼女を守るかのように。

 

『ありがとう』

 

夢殿さんがそれに声をかけた。まるでその表情からして、違和感なほどに優しい声で。

まるで古くからの『友達』のように・・・!?

 

「まさか・・・!?」

 

僕の言葉と同時に、部長も声を上げていた。

まさか彼女の言う『友達』が、

 

「あれだっていうの・・・?」

 

部長の呟きが、僕たちに響き渡った。

 

 

「ほう、随分と面白い力をもっているじゃないか」

 

空に浮かんでいたコカビエルが、面白いものを見るかのように、夢殿さんを見つめている。

 

「神器の類いか、それとも異能か知らないが、もう少し楽しめそうだな」

 

『貴方が楽しもうがなんだろうが、私にはどうでもいいです。

 今、この瞬間に貴方がするべきことは、私たちに迷惑をかけたという謝罪です』

 

「は?」

 

『私の大切な学校をこんなに滅茶苦茶にしたこと、私たちの町に迷惑をかけたこと、

 リアスさんたちに迷惑をかけたこと、色々と謝ってもらわないといけないんですよ』

 

「え?」「な、何を言ってるんだよ・・・?」「夢殿さん・・・?」

 

彼女の言葉の意味が分からない。

謝らせる?一体夢殿さんは何を言いたいんだ?

混乱する僕たちを余所に、コカビエルが大声で笑いだす。

 

「カハハハハハハ!俺を謝らさせるだと?

 先ほども聞いたが、冗談にしては些かつまらんぐがぁあぁぁ?」

 

その瞬間、宙に浮いていたコカビエルが地面叩き付けられた。

まるで地面に引っ張られたかのように。

 

『謝るんだから、まずは地面に手を付けないと駄目ですよ?』

 

土煙を見据えながら、夢殿さんは言う。

 

「吠えたな人間ごときが!ならば俺に謝罪をさせてみろ!出来るものならなぁ!」

 

少し砂を浴びたコカビエルが、両手に光の槍を生み出し、彼女を見据えている。

 

『なら謝らせます。絶対に謝らせます。何をしてでも謝罪させます』

 

そして僕たちを余所に、コカビエルと異形が激突した。


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