FRAME ARMS:RESEMBLE INFINITE STORATOS   作:ディニクティス提督(旧紅椿の芽)

45 / 46


うおぉぉぉぉぉっ! 榛名バンジーしてえぇぇぇぇぇっ!!



どうも、紅椿の芽です。



更新が三ヶ月も遅れてしまった事、大変申し訳ありませんでした。活動報告で三月中には上げられると言っていたのに、実際はできなかった事、深くお詫び申し上げます。今後もなるべく遅れないように努力しますが、リアルでの事情が忙しいのでどうなるかはわかりません。地球が誕生して、今の姿になるのを見届けるくらいの気持ちでお待ちいただけると幸いです。



遅れた理由? そうですね、冬イベで沼っていまし(パァン
あとはアズレンで周回地獄に(ダァンッ
他にはアーテルちゃん組んで(ピチュ-ン
加えてかくりよの宿飯とかフルメタとかのアニメを視聴し(ブッピガァン



さて、久々に書いたので大分文章が変な点があるかもしれません。その点は誤字報告等で教えていただけるとありがたいです。



では、前書きはこの辺にして。今回も生暖かい目でよろしくお願いします。





Chapter.45

司令部(コマンドポスト)よりグランドスラム04、目標は確認できたか?』

「グランドスラム04、未だ目標と会敵せず。接触予想時刻まで残り二分です」

『了解。引き続きヴァイパーチーム(第二三航空戦闘団)と共に警戒せよ』

 

現在、私——一夏——は太平洋の沖合の海上で待機していた。勿論、ブルーイーグルは展開済み。右手にはイオンレーザーカノン、左手には例の新兵装であるベリルショット・ライフルを装備している。さらに、私から半径約三百メートルの位置にツーマンセルで第二三航空戦闘団——瀬河中尉が率いる部隊が展開している。同時にこの海域は封鎖されており、無断で侵入した船舶の拿捕ないし撃沈が許可されているのだ。…………まぁ、そんな事態にならないでくれるほうが嬉しいんだけどね。しかも今いる位置…………まさかまさかの臨海学校開催地から約二キロの海上っていう…………物凄くヤバげな位置なのである。おまけに今回の作戦で、主力扱いになってしまってるし…………色々と緊張が折り重なりすぎて、トリガーガードにかけている指が僅かに、そして小刻みに震えていた。

 

『そういや一夏』

「は、はい!」

 

突然背後で警戒していた瀬河中尉が私に声をかけてきた。緊張しまくってる最中、割と唐突だったこともあってか、私の返事はどこか裏返ったような変な感じの声だった。それがどこか面白かったのかはわからないが、通信越しに瀬河中尉が笑ってる声が聞こえてくる。

 

「…………何も笑うことないじゃないですか」

『いや、悪い悪い。つい変なツボに来ちまったみたいでさ』

 

そう言って軽く笑い飛ばす瀬河中尉。人の恥ずかしい声で笑わないくださいよ…………とはいえ、基地ではよくあったこのやり取りのお陰で緊張がほぐれたのは事実だ。刻一刻と迫る敵機との接触予想時刻だが、それと反比例するかのように私の心は不思議と落ち着いていった。これも瀬河中尉のお陰だろう。

 

「そういえば、私に何か話があるんじゃなかったんですか?」

 

元はと言えば、この流れを作ったのは瀬河中尉が話しかけて来たからだ。何か私に聞いておきたい事でもあったのだろうか? とはいえ私程度が話せる程度の事に大したものは無い。ましてや、重要な話は出撃前のブリーフィングで確認してあった筈だ。そうであるはずなのに、このタイミングで聞いてくるとは…………一体どのような用件なのだろうか。

 

『うーん…………特にはねえよ。なんとなく話しかけただけさ』

 

強いて言うなら頑張って生き残ろうぜ、と彼女はいつもの口調で付け加えて来た。…………まぁ、このタイミングで変な事を聞かれるよりはマシなのかなと自分の中で勝手に完結させる。それに、こんな風にして待機するのは慣れているはずだ。私は深呼吸をして少し肩の力を抜いた。そして、右下に表示されていた接触予想時刻がゼロになりそうになった時、広域通信が入った。

 

『こちらヴァイパー06! ターゲットを確認! これより07と共に牽制攻撃を開始、至急グランドスラム04並びに全機、当ポイントにて合流してください!』

 

その内容を理解するまでにそう時間はかからなかった。考えるよりも前に、私は全フォトンブースターを最大出力で起動、一気に示されたポイントへと向かう。波一つ、風一つない、不気味な程静まった海を眼下に、私は全速力で駆け抜けた。

 

『さて——ヴァイパー01より各機へ。先にパーティ始めた奴がいるみたいだが、私達もその会場に乗り込むぞ!! お前ら、しっかりついてこいよ!』

『『『イエス・マム!!』』』

 

後ろをチラッと見ると、編隊を組んだスーパースティレットⅡとスティレット、現在配備が進められているジィダオ(JX-25F)の混成部隊がこちらの後を追ってくる。しかし、私が彼らにスピードを合わせる必要がない事は、ブリーフィングで共有済みだ。寧ろ、今回の作戦では私の動きを制限するような命令は出ていない。この混成部隊が私の支援部隊とのことだ。これほどの戦力で迎え撃つ相手だが…………アントや月面軍のものではない。そうであるならば敵対するものがなんなのか…………その答えはもう、私のすぐそばにまで来ていた。

 

「——こちらグランドスラム04、目標を確認。以後、対象を『ゴスペル01』と呼称。これより、戦闘を開始する…………ッ!!」

 

もう一つの太陽とでも言える程眩い光を放ちながらこちらへと進んでくる銀色の機体。その鋼鉄の翼はどこか天使を想起させる。だが、私達はその自由な翼を断ち切らなければならない。それが私達に課せられた任務なのだ。そして、これが実戦では初となる組み合わせの戦闘。——そう、今回の敵機は同じ人類の機体であるIS…………その最新鋭機なのだから。

 

『——』

「とりあえず、これでっ…………!!」

 

迫り来る銀色の機体にイオンレーザーカノンを放つ。狙いはその推進機構と思われる大型の翼を模したユニットだ。ブリーフィングで聞いた情報通りなら、あそこさえ潰せばそれでいい。機体そのものを撃破する必要はないのだ。だが、それでいて早急に片付ける必要がある事案であるため、ベリルショットに次いで破壊力の高いイオンレーザー兵装を用いるしかない。

 

『——!』

 

しかし、その破壊の奔流は紙一重で躱されてしまう。直線的すぎたというのもあるが、それ以上に向こうの反応速度の方が早いと悟る。装甲の表面を焦がしている事から一定のダメージを与えられたようにも感じられるが、向こうはシールドエネルギーがあるから、大した障害ではないだろう。

 

『ヴァイパー01よりグランドスラム04! これより支援攻撃を開始する! お前ら! 気を入れていくぞ!』

『アイマム! 俺達の本気、見せてやろうじゃねえか! 姐さん、派手にやりましょうぜ!』

『新型機の力、存分に振るわせてもらうわよ!』

 

未だ速度を緩めずこちらへと迫り来る銀色の機体——シルバリオ・ゴスペル。福音の名を冠した機体は私と交差し、そのまま後方の瀬河中尉達に襲いかからんとする。だが、その先に待っていたのは、飛来する無数の弾丸。制空装備としてスティレットにもジィダオにもスティレット用のガトリングガンが装備されているようだ。銃弾の雨をもろに受けてしまった福音は両腕を交差し、そのにわか雨を避けるべく一気に上昇していった。私もそれに追従するように、高度を上げていく。だが、速度は向こうの方が早かった。

 

(『——今回の作戦目標はこの銀の福音。アメリカ・イスラエル共同開発の軍用機だそうだ。ハワイ基地での起動試験中に突如として暴走。軍用機であることから、競技用のリミッターは完全に外され、戦闘能力は極めて高い。事には注意して当たってくれ』か…………)

 

軍用機——本来ならアラスカ条約でISの軍事利用は禁止されているはずだが、実際のところそんなものは形骸化しているとお姉ちゃんや束お姉ちゃんは言っていた。それに、昨今の防衛事情はISが主力を担っていると世間にアピールされている。しかし、作り出した束お姉ちゃんはそんなつもりは全くなかったのに。完全に兵器として生み出されたフレームアームズに搭乗している私が言うのもどうかと思うけど。現実はそんなISでの覇権争いよりも、アントの攻勢を凌いで戦争を終わらせるためにフレームアームズの方が圧倒的に各国軍の中核をなしているしね。

 

(って、考え事をしている場合じゃない…………! 今は目の前のあいつをなんとかしないと…………!)

 

思考を現実に戻し、もう一度イオンレーザーカノンのトリガーを引いた。空よりも蒼いレーザーは一直線に突き進み、僅かに照準がズレてしまったのか、福音に当たることはなかった。幾多もの銃弾が福音を捉えんと放たれてはいるが、有効打にはなっていないようだ。そして、福音は突如として上昇をやめ、その場に静止する。…………なんだろう、ものすごく嫌な予感がした私は三度目となるイオンレーザーカノンの発砲をしようとしたときだった。

 

『——敵機確認。銀の鐘(シルバー・ベル)、攻撃開始。目標を殲滅する』

 

先程まで加速に使っていた背中の翼を広げ、その開いた隙間にエネルギーを充填していく。その水色のエネルギーがなんなのかはわからない。そもそも詳細なデータを渡されない状態でここに来ているのだ。命をかけようにも、あまりにもこれは分が悪すぎる話だ。信じられるのは、ここにいるみんなと自分の勘だけ。

 

「全機、散開——ッ!!」

 

やばい、そう直感した私は思わず叫んでいた。それは銀色の翼から、無数のエネルギー弾が放たれたのとほぼ同じタイミングだった。福音がふわりと機体を翻した直後、全方向に向かって放たれたエネルギー弾。私はその場から一気に急上昇して避けたけど、攻撃する相手を見失ったエネルギー弾は海面に突き刺さり、そのまま爆ぜた。私の場合、以前アーテル・アナザーと戦ったから、あのくらいの海面の爆ぜ方程度では驚きはしなかったが、それでもあれだけの威力があるという事をまざまざと見せつけられたような気がする。

 

『うぐっ…………!?』

『ヴァイパー08! 損傷を報告しろ!!』

『…………シールドが抉れただけですよ。まだまだいけます!』

 

瀬河中尉達はガトリングによる銃弾の雨をエネルギー弾の雨にぶつけ、撃ち落としていた。流石に十二機もの機体から放たれる幾多もの銃弾は暴風のようにエネルギー弾を呑み込んでいくが、それでも何発かはすり抜け、被弾している様子だ。幸いにも避弾経始を考慮したスラッシュシールドへの着弾だそうだから、被害は最小限に留まっているが、それがいつまで続くかはわからない。

 

(くっ…………アナザーより動きが悪いというのに、やりにくい…………!)

 

再度エネルギー弾を振りまこうとしている福音に目掛けてイオンレーザーカノンを放った。攻撃動作の直前で、恐らく大きな隙となるこの一瞬に私は賭けることにした。これなら外すことはない、今までの事から私はそう考えていた。大概、こういう攻撃動作に入った機体はその動きを完全に打ち消す事は出来ない。況してやあの広範囲に振り撒く攻撃だ。反動も凄まじい事だろうし、それだけのエネルギーを充填しているわけだから、下手に動作を止める事もできないだろう。そう思っていた——数瞬前までは。

 

「んなっ…………!? 躱された…………!? このタイミングで!?」

 

そう、福音はかなり無茶な体勢ではあったが、攻撃動作を止め、強引にレーザーを避けたのだ。当たると思って放った一撃だった故に、躱されてしまった事による悔しさはより一層強い。だが、そんな事も悠長に考えてられない。私がその場から飛び退くと、足元にエネルギー弾が通過していった。あと一瞬、上昇するのが遅かったら私の足は吹き飛んでいた事だろう。なにせ、いくらブルーイーグルの素体が強化されたゼルフィカールとはいえ、その元は紙装甲とまで言われるほど装甲が薄いバーゼラルド。一発の被弾でも命取りになるのだ。

 

『グランドスラム04! どうすんだこれ…………どう考えてもすぐには片付きそうにねえぞ!』

 

瀬河中尉のスーパースティレットⅡを含めたスティレット達がガトリングやらミサイルを撃ち放って、攻撃を仕掛けているようではあるが、そのどれもが有効打になっているとは言い難い。瀬河中尉が思わずそんな風にぼやきたくなるのも当然だろう。戦闘開始から早五分。IS相手ならこちらの戦闘力を考慮すればすぐにでも終わる話なのだろうが、現実はこうだ。これが軍用機の力と言ったところだろうか。だが、止めなければならない事にかわりはない。もし止められなかったら、この広範囲にわたるエネルギー弾の雨が何も知らない、平和を謳歌している民間人の頭上に降り注ぐ事になるかもしれない…………そう考えれば考えるほど、この状況を打破することができずにいる自分が情けなかった。そして、自分とは違い、そんな悩みなどとうの昔に忘れたように、今やれることだけを精一杯やっている瀬河中尉からの嘆きがどことなくはっきり聞こえてきた。…………このままじゃ実弾メインが殆どの私達が先に戦闘不能になるだろう。この短時間でこうなのだから、それも時間の問題だ。もう、一気に決めるしかない…………。

 

「そう言われても…………片付けなきゃ、怒られるだけで済みそうにはないですよ!」

 

瀬河中尉の嘆きに返した私は、イオンレーザーカノンの残弾全てを福音めがけて放った。数本の光条が今度こそ、あの銀色の機体を焼き尽くさんとばかりの勢いで突き進んでいく。いくら弾速が純粋なレーザーと比べて遅いとは言え、重粒子イオンのレーザーはほぼレールガンと同等の速さで放たれている。本来なら避ける事も難しいだろうが…………福音は、有機的かつ機械的にその破壊の奔流を躱していくのだ。ベリルショット系列を除けばTCSを強引に押しつぶせるほど強力なイオンレーザーカノンにを全て躱されてしまっては、焦りとイライラで頭に血が上ってしまう。福音はエネルギー弾を適当にばら撒きながら、この空域を縦横無尽に駆け抜けている。

 

『くそっ…………このままじゃジリ貧だぞ!! 残弾五割を切りそうだ!』

『このくらい…………まだ蚊に刺された程度よ!』

『オラオラァ! 逃げてばかりいるんじゃねえぞ、銀色野郎!』

 

聞こえてくる通信には、今の状況に苦しみ、苛立っているような声が絶えず流れていた。それでも、まだ戦いを諦めるような雰囲気は感じられない。どこまでいっても、軍人は軍人。任務を遂行することが第一だ。ならば私も…………こんな頼りない軍人だけど、自分のできる事…………やり通してみせるよ…………!

 

「これ以上…………好き勝手は、やらせないんだからぁぁぁぁぁ——ッ!!」

 

イオンレーザーカノンを格納し、日本刀型近接戦闘ブレードを引き抜いた私は、フルスロットルで福音めがけて突っ込んだのだった。

 

◇◇◇

 

IS学園臨海学校開催地。

二日目となる今日は海岸で『限定的環境下における運用』といった題目の元、運び込まれた訓練機のパッケージ換装演習と実機訓練が行うことが予定されている。だが、砂浜には普段と違う場所であろうと訓練に励む生徒の姿は全く見られない。それどころか、訓練機である打鉄とラファール・リヴァイヴの姿すらない。賑やかさがピークに達していた昨日とは打って変わり、どこか不気味な静けさと波の音だけが空間を支配している。一体生徒たちはどこへ行ったのだろうか? その答えは旅館にある大広間に存在していた。

 

「——状況を説明する」

 

空中投影ディスプレイに表示されたデータをバックに、千冬は話を始めた。この場には秋十と簪の専用機持ちだけでなく、箒や鈴、セシリア、シャルロット、ラウラ、エイミー、レーアといった一夏を除く各国軍のFAパイロットも集められている。加えて、整備担当の雪華もだ。女性陣が息を飲んでそのデータを凝視する中、その雰囲気に飲まれ、秋十は若干居心地の悪さを感じ取っていた。明らかに自分が踏み込んでいいような場所ではない事を肌で感じ取っていたのだ。しかし、そんな一人の心境に構っていられるほど、事態に余裕はない。千冬は構わず言葉を続けた。

 

「二時間前、ハワイ基地で起動実験に当たっていたアメリカ・イスラエル共同開発の第三世代機『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』——以降福音と呼称する——が突如として制御下を離れ、暴走。何を思ったか、日本に向けて全力で接近中とのことだ」

 

千冬からの言葉にこの場にいる皆が騒ついた。無論彼女自身も驚いていないわけではない。本来ならありえるのことないISの暴走。事例を過去十年を遡っても記録には存在していない。故に、絶対防御の存在もあってか、ISには安全神話が付き物だった。そして今、その安全神話は脆くも崩れ去ろうとしている。しかも、現状最も技術力の高いアメリカの最新鋭第三世代機によってだ。

 

「現在、日本国防軍本土防衛軍所属第二三航空戦闘団が迎撃に当たっている…………紅城もそこで戦っているそうだ」

 

千冬はその言葉を紡ぐと、思わず唇を噛み締めていた。無理もないだろう。戸籍上は違うとはいえ、血の繋がった妹なのだ。そのような場所に肉親が行き、生死をかけて戦っているとなれば、誰でも心配することだろう。そのように心配で仕方ないと思う一方、その役割を自分が肩代わり出来ないことが歯がゆくて仕方なかった。自分の力は何のためにあるのか…………ただこうして状況の指示しか出せない自分が嘆かわしいと彼女は思っていたのだった。

 

「そんな…………一夏が瀬河中尉達と…………」

「彼奴に重責を負わせすぎだろう…………何をしているんだ国防軍は…………」

 

一夏がすでに戦闘を行っていると聞いた雪華は、思わず祈るように手を合わせ、箒は一夏に重要な役割を押し付けている国防軍に対して憤りを感じていた。しかし、彼女は知らないが、それは仕方のないことである。扱いに難があるゼルフィカールをさらに鋭角化したような尖りきった性能を持った暴馬と言っても過言ではないブルーイーグル。その機体を自らの手足のように扱い、かつ軍務に忠実な人材はそうなかなか見つからなかった。一夏という逸材を得る事が出来たのは、軍部にとって奇跡に等しい事だっただろう。そして、着実に成果を出している一夏に軍部は希望を見出し、そして彼女を反攻の旗頭としてしまったのだ。結果として、館山基地ならびに横須賀基地の士気は他の基地に比べて飛躍的に上昇し、月面軍の侵攻ラインを少しづつだが押し戻しつつあるとの事だ。だが、この結果とは反対に、何処へでも出撃しなければならない責務が一夏に生じてしまった。国防軍の旗印となりつつある故、仕方のない事なのかもしれない。だが、それはまだ十五歳の少女に与えるには、あまりにも大きすぎる期待と責任であった。箒は、あまり詳しくは理解していないものの、一夏がいる今の立ち位置を大きくは推測していた。同時に漏れ出た溜息は一夏の疲れを肩代わりしたものなのか、それとも一夏の事に気付けず、何も出来ずにいる事への悔しさなのか、それは本人にしかわからない。

 

「しかしだ、有効となる戦力があるのであればそれを使うのが軍というもの…………私達は所属している時点で既にその巨大な装置の歯車。一夏もお前達も、そして私も…………使われる運命なのだ」

 

そんな彼女たちの言葉に、ラウラはこう返すしかなかった。彼女の言葉は間違ってはいない。それが組織という大きな存在の中での個人としての立場であり、在り方でもある。だが、それは個人的な感情を一切含めない場合でのもの。個人的な感情が織り混ざった今、その言葉には個人的な感情を殺すための道具としての側面が際立っている。言葉を放ったラウラ自身ですら、一夏が駆り出されている状況に苛立ちにも似た感情を沸き立たせていたのだから。言葉とは裏腹に納得した表情を見せない彼女を見た面々は口を閉ざしてしまった。

一体何分が経過したのだろうか。実際の時間では十数秒程度ではあるのだろうが、刻一刻と迫る暴走機体との接触の事もあってか、重々しい空気がより一層時間を長く感じさせていたのだった。

 

「…………話を続けるぞ」

 

その空気を一番最初に破ったのは千冬だった。無理もない。今回の作戦指揮担当は彼女に任せられているのだ。このまま誰もが口を閉ざした状態では何も始まらない。そんなことはこの場の人間誰しもが思ってはいるが、集団心理が作用している中、誰かがきっかけとならなければならない。千冬は軽く咳払いをしてから話を続けた。

 

「現在国防軍が交戦中との事だが、我々も出撃せよとの命令が下された…………なんとも言い難いものだが、これは——」

「——国際IS委員会からの横槍、ってところだろうね」

 

千冬の言葉を遮って話を繋げた声の主に皆の注目が集まった。その場にいたのは、本来この場にいるはずのない人間——

 

「——束、何故貴様がここにいる? そもそもお前は今、あっちの方(・・・・・)で取り掛からなければならないはずだろう?」

「ああ、そっちの件(・・・・・)ね。それならもうすぐでカタがつくそうだし、向こうの現場指揮官に任せてるよ。それよりも…………今はこっち」

 

突如として現れた束に困惑するも、彼女がスクリーンを指差すと、皆の視線も自然とそこへと動いていた。そこには進行を続ける福音と、それと何度も切り結ぼうとしている蒼の機体が映し出されている。

 

「一夏姉っ…………!」

 

苦戦しているようにも見えるその姿に、秋十は思わず声をあげていた。無理もないだろう。血の繋がった家族が戦場に立たされてしまっているのだ。不安にならないはずがない。

 

「彼女が負けるなんて事はまずないだろうけど、万が一の時に備えて布陣を構築しなくちゃね。で、ちーちゃん、どうするの?」

「…………委員会の連中は軍を退かせて、こちらのみで対処せよ、などと言ってきている。ふざけた事を…………余程、FAの存在を認めたくないようだな」

「まぁ、私が言えるかどうかわからないけど、私利私欲の塊が集まったようなところだからね…………私が思うに、あいつらの命令なんて馬鹿正直に聞かなくていいよ」

「「「なっ…………!?」」」

 

束の言葉はその場にいた全員を驚かせた。学園の実質的な運営を担っている国際IS委員会の命令を無視するという事がどれほどのものなのか。それを理解した上で束がその言葉を口にしたのだと考えると、それは一体どういう意味なのかと誰もが疑問に思わざるを得なかった。

 

「だって、よくよく考えてみてよ? FA乗り達は兎も角、あっくんもそこの眼鏡っ娘もあの動きについていける?」

「…………そ、それは…………」

「…………流石に無理…………」

「でしょ? それに独自に行動を取ろうものなら、今彼らが行なっている作戦の邪魔をする可能性の方が高い。責任逃れ…………なんて思ってもらっても構わないけどさ、もし作戦が失敗したら誰が責任とれるの? 最悪の場合、日本が火の海にまた飲まれるかもしれない。その責任は誰が取れるっていうのさ? ——つまりはそういう事。委員会の連中は色々過信しすぎている。それに連中の事だし、切り捨てる事だって躊躇わないだろうよ」

 

そういうヒトモドキの巣窟だから、と束は言葉を紡いだ。責任——言葉にするのは簡単なものだが、それを実行する事が出来るのかと言われるとできない人の方が多いのではないだろうか。ましてやその命令が下されていたのは若干15歳の少年少女達だ。言葉の意味は知っていても、それを出来るのかと言われてしまえば、無理であると答えざる得ない。千冬は立場上気づいてはいたが、だからこそ苛立ちを隠せずにいたとも言える。この場に立ってから彼女自身がまだベテランとして胸を張って言えるほど時を経てはいないが、戦場にかつて身を投じた事、あの恐怖をその身に刻み込んでいるから故、彼らを戦場に送り出したくなどないのだ。例え千冬が教師としての立場にいなくても、肉親を、家族に『戦場で死んでこい』などと命令を出せるわけがない。委員会の命令に心底ヘドが出るような思いをしている千冬の苛立ちは最高潮に達しようとしていた。

 

「…………さて、とりあえずは防衛用のユニット配置を考えなきゃね。ちーちゃんとしては、どう考える?」

「…………士官学校も出ず、単騎戦力としか扱われてない私に聞かれてもそう答えは出んぞ」

 

話を切り替え、束は千冬に陣地の案を問うが、当の千冬は苛ついていた事もあってか、思わず言葉に怒気を含んだ返しをしてしまった。その言葉に束は「おおう怖い怖い」と少し飄々とした態度で受け流す。千冬はそんな態度でいてくれる親友に感謝しつつも、今は気持ちを切り替えなければならないと感じ、先ほどの自分を戒める。

 

「…………とはいえ、あのような物騒な天使を近づけさせるわけにはいかん。よって、この小島を最終防衛ラインとする」

 

気持ちを切り替えた千冬はディスプレイに投影されていた地図の一部を拡大表示し、とある小島を示す。一夏の交戦空域からは離れてはいるものの、いつこちらに向かってくるのかわからない上に広域殲滅型などという無差別兵器にも等しい以上、本土から離れた位置に防衛ラインを設定するほかない。

 

「教員部隊は速やかに撃鉄仕様打鉄並びにクアッド・ファランクス仕様リヴァイヴは拠点防衛、その他の機体はそいつらの護衛だ。織斑、更識両名も護衛に回れ。——ボーデヴィッヒ、派遣部隊の編成を任せる。期待してるぞ」

 

一度千冬はラウラにその場を譲った。かつての教官から指名されたラウラは内心喜びつつも、今はそんな状況ではない事を一番理解しているが故に表情を一層引き締める。

 

「派遣部隊の編成も教員部隊同様だ。飛行能力を有さない私とエイミーは地上からの砲撃。箒、鈴、レーア、シャルロットは我々砲撃部隊の援護並びに遊撃。セシリアは適宜狙撃と遊撃を頼む」

「あの、私はどうすれば…………」

「雪華には補給の用意を頼みたい。一番大変な仕事を一人に任せてしまうが…………やれるか?」

「…………いつも何機を整備していると思っているんですか。やってやりますよ、少佐殿?」

 

派遣部隊の編成に関して、誰も異論を唱えることはなかった。

 

「まぁ、妥当な配置よね。すばしっこい動きができる私のバオダオにはちょうどいいわ」

「全く…………ラウラさんは少々面倒な役振りをしますわね。ですが、私とラピエールにお任せください」

「ま、まだこの空気に慣れてないけど…………でも僕とフセットならやれるよ」

「制空戦闘なら任せてくれ。さらに強化されたスティレットの力を見せてやるさ」

「砲撃能力は下がってますが…………任されたからにはやってみせますよ」

「マガツキは防衛向きの機体だからな…………任せてもらおう。万が一の際は弾の一発たりと通さん」

 

各々の意思は既に固まっていた。ラウラはそれをしっかりと感じ取ると、千冬へと目配せをした。後の事は任せるという意味を込めた視線を受けた千冬は再び皆の前に立つ。

 

「よし…………では、作戦開始は二十分後とする。各員、準備を怠るなよ!」

「「「了解!」」」

 

千冬の言葉に、その場にいた皆が敬礼をして返答する。慣れた者は一糸乱れず、不慣れな者は若干揃ってはいないが、誰しもがその命令に従う事に迷いを持ってはいなかった。

 

「——お、織斑先生!」

 

だが、そんな時だった。交戦の状況をモニタリングしていた真耶が唐突に千冬に声をかけた。千冬は思わず彼女の方へと目を向け、彼女が受け持っていたディスプレイを見つめた。彼女達が会議をしていた間、交戦状況は既に大きな変化を迎えようとしていたのだった。

 

◇◇◇

 

「せやあぁぁぁぁぁっ!!」

 

鈍い音が響き渡る。振るった日本刀型近接戦闘ブレードは福音が取り出した大剣のようなもので弾かれてしまった。確かにフレームアームズ用の武装はISのそれより遥かに威力は高い。だが、あの分厚い刀身の大剣と細身の近接戦闘ブレードではこちらの方が分が悪い。

 

『下がれグランドスラム04!』

 

その合図で私は福音に弾かれるようにして距離をとった。直後福音へと迫る幾多もの銃弾達。ジィダオの持つリニアライフルの銃弾とスティレットが放つガトリングガン、そして瀬河中尉のスーパースティレットⅡが装備している機関砲が独特な音楽を奏でていた。福音はその嵐から身を守るように翼をしならせ、大剣を盾のようにしていた。だが、この隙を逃すわけにはいかなかった。

 

「こいつでっ…………!!」

 

私は左手に構えていたベリルショット・ライフルを放った。あの時アナザーが私に向けて撃った時よりも蒼さが増した光波が射出される。直後、福音の片翼が爆ぜた。根元の方からうまく飛ばせたかはわからないが、それでもあの厄介な翼を潰せた事は大きいはずだ。

 

『ちっ…………一夏! こっちはもう弾が持たねえ! 悪いがもう支援射撃は厳しいぞ! だが、奴のシールドは大分削れたはずだ! トドメは任せるぜ!』

 

いくらシールドエネルギーを削っているとはいえ、どれほど削れているのかはわからない。だが、とにかく福音の動きを封じることが最優先だ。そう思った私はベリルショット・ライフルを格納、近接戦闘ブレードを左手に持ち替え、ベリルソードを装備した。そのまま全フォトンブースターを一気に点火、その距離を勢いよく詰めた。

 

『——!?』

「次で…………おしまいにする…………っ!!」

 

片方の翼を潰されたことで安定性を失った福音は、ふらつきながらも私を迎え撃とうと大剣を構え直し、片翼に残された砲門を開こうとしていた。さっきまでの状態ならエネルギー弾を放たれる恐れがあるため回避していただろう。だが、私には直感的にそれをしなくても問題ないと思った。故に回避などしない。そのまま前に突き進んだ。

残された十八もの砲門が開かれ、その全てが私へと向いていた。しかし、いつまで経ってもエネルギー弾が放たれる事はなかった。それが意味する事——それは、弾切れもしくはシールドエネルギーの枯渇のどちらかだ。いずれにせよ、もうあの厄介な攻撃にさらされる事はない。

福音に迫った私はベリルソードを振るった。向こうもそれを読んでか、大剣を振るい、私の一撃を防ごうとする。だが…………その手は悪手だ。ベリルソードの刀身表面には他のベリルウェポンに漏れず、TCシールドが展開されている。これにより通常装甲に対して脅威的な切断力を発揮するのだ。

 

『——!?!?』

 

それはISの武装に対しても同じだ。切り結んだ大剣はその意味を成さず、無惨にも切り裂かれる。想定外の事に判断ができなくなったのか、福音は動きをさらに鈍らせる。ベリルソードを振り抜いた反動で前につんのめったような体勢になっていた私は、そのままの勢いを利用してその場で宙返りをするかのような機動をとる。その動きのまま、近接戦闘ブレードを振り抜くる。硬い金属を切り裂く手応えと、耳障りな音が確実に攻撃が当たっていることを私に感じさせる。そして、それらがなくなった瞬間、残されていた翼は切り落とされた。ロクな武装も攻撃手段も残されていないにもかかわらず、それでもなお福音は抵抗を続けようとする。

 

「少し…………大人しくしてて!!」

 

私はベリルバスターシールドをディアクティブで装備、福音をその大型シザークローで挟んだ。それでも福音は暴れる事をやめない。いくらこちらの方が出力で上だとしても、流石に片腕だけで耐えるのは厳しいものがある。

 

「これで…………終わりだよっ!!」

 

ベリルバスターシールド以外の武装を格納した私はそのがら空きとなった背中にある翼の付け根へと右手を伸ばす。少し膨らんだところにある小さなレバー。それを一気に引いた。その瞬間、そこを中心に福音の至る所へと黒い光が奔った。そして機体は粒子へと変換されていく。

 

(『強制剥離(パージ)システム』…………暴走下にあっても必ず機能するように設計されている安全装置、か…………)

 

標準規格として取り付けられているその装備のお陰で、今こうして操縦者を確保する事が出来た。もしこれが付いていなかった場合…………最悪、操縦者諸共撃墜しなければなかった。いや、そうしなければ日本に住む人々の安全が脅かされる訳だし、何より軍人である以上はそうなる事も肝に命じておかなきゃいけない。そして、もし最悪の事態になった時、私が自らの手で下さなきゃいけなかったかもしれないんだ。そう考えると思わず手が震えてしまう。その一方で、そんな事態になる事が無くて安堵している自分もいる。

 

(…………殺す事にならなくて、よかった…………)

 

全ての武装を格納し、私は操縦者を抱え上げた。いくらディアクティブ状態のベリルバスターシールドとはいえ、そんな物騒なもので人を掴まえいる事には抵抗があるからね。まぁ、ブルーイーグルだと色々干渉しているから安定感ないし、一先ず瀬河中尉に引き渡すとしますか。っと、その前に

 

「グランドスラム04より各機へ。『ゴスペル01』の無力化を確認、並びに操縦者を確保。よって現時刻を以って状況を終了、これより一時合流します」






今回はキャラ紹介及び機体解説は行いません。
感想及び誤字報告をお待ちしております。
では、また次回、生暖かい目でよろしくお願いします。



▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。