FRAME ARMS:RESEMBLE INFINITE STORATOS   作:ディニクティス提督(旧紅椿の芽)

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どうも、二ヶ月近くスランプで地獄を見ていた紅椿の芽です。



本当、読者の皆さん、お待たせして申し訳ありませんでした。どんなに時間がかかっても失踪だけはしないように頑張っていきます。



しかし、今後も更新間隔は伸びてしまう可能性が高い事だけはご了承ください。



また、支援イラストを絵師のからすうり様よりいただきました。


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この場を借りて厚く御礼を申し上げます。



また、この小説が初回投稿より一年が経過しました。ここまで続けられたのもひとえに読者の皆様のおかげです。完結まで頑張っていきますので、今後とも生暖かい目でよろしくお願いします。



さて、長々とした前書きでしたが、今回も生暖かい目でよろしくお願いします。





Chapter.44

「ふぅ〜、いいお湯だった〜」

 

現在、既に夕食は終えており、丁度温泉から上がってきたところだ。久々にゆったりと入る事が出来たから良かったよ。…………まぁ、私の傷に配慮してなのか、入っていたの私一人だったんだけどね。のびのびと入れることに開放感と広々とした湯船を楽しめた反面、だだっ広い中でぽつんと一人ぼっちで入ってるのもなんだか虚しかった。べ、別に寂しかったとかそういうわけじゃ…………ないと思う。

そういえば、午後の自由時間もみんな楽しそうに遊んでいたね。午前中は日陰でのんびりとしていた私だけど、午後はちょっと身体を動かしたくなったんだよ。そんなわけで、流石にサンダルで動くのは厳しいし、かといってただ脱ぐだけだとニーソに砂が付いて後で大変だから、一応持ってきておいた学園の内履きと同じ運動用シューズを履くことにした。まぁ、なんだかんだでこっち慣れてるし、動きやすさではこっちが有利だ。…………とか言いながら、あのカオスなビーチバレーの第二ラウンドへ巻き込まれ、へばったのは言うまでもない。その後は木陰で試合の続きを眺めながらアイスを食べてた。うん、夏のアイスは格別だったよ。…………あれ? 意外と私、この自由時間を堪能してた?

 

(というか、なんでお姉ちゃんはこんな時間帯に呼び出してきたんだろ…………?)

 

そんな日を過ごした私だが、現在、お姉ちゃんのいる教員室へと向かっていた。というのもだ、温泉に入る前、私用に貸し切られている時間帯がある事を教えられた時に、風呂上りに来て欲しいと言われたんだよ。理由はわからない。特に悪い事をした覚えはないし…………何かをやらかしてしまった記憶もない。あったとして、この間靴を片っぽ無くしてしまったから新しく発注したくらいだけど、あれはなんだかお姉ちゃんに笑われるオチだったし。…………笑われたから、少しムッとしちゃっけどね。とはいえ、身に覚えがない事を考えていても仕方ない。少し脳の隅っこに追いやり、ひとまず思考の海から浮上することにした。

 

(…………なんだろ、なんとなく行きたくなくなってきたんだけど)

 

お姉ちゃんが何も細かい事を話さずに説明していく時なんてものは、大概ロクでもない事が起こる前兆だったりする。今回もそうなるんじゃないのかと考えてしまうと…………行きたくなくなるのは誰だってそうだよね? 下手したらこれ…………旅館の一室が太古の地球にタイムスリップしてたりしないよね? お姉ちゃん、実際にそうしてしまいそうな力はあるから不安である。しかも、掃除で。…………なぜ一向に改善できないのか、それは織斑家最大の謎である。いや、実をいうとお姉ちゃんが絡む家事全般がそうだから、対策のしようがないのだ。多分、このままだと一生浮ついた話が出る事はな——

 

 

 

 

 

 

——男を持ったからって、いい気になるなよ、一夏ァ…………——

 

 

 

 

 

「ひゃうっ!?」

 

な、なに今の殺気は…………どう考えてもお姉ちゃんのものだとは思うんだけど…………この距離で、しかも口になんて出してないのに人の心を読まないでよ!! 変な声出ちゃったじゃん!! 思わず周囲を見渡して、誰もいない事を確認した。万が一聞かれでもしていたら、どう考えても今の状況じゃ、完全に何かしらの電波を受けてしまった人としか見られないだろう。それだけは避けたい、絶対避けたい。あらぬ噂が立って被害を被るのはゴメンだ。

 

(あっ、教員室ここだ)

 

どうやらいつの間にか教員室の前に到着していたようだ。襖に張り紙なんてできないから、近くの壁に教員室と書かれた紙が貼り付けてある。中からは何やら賑やかな声が聞こえてくる。というか、どう考えても中にいるのはお姉ちゃんだけじゃない。襖で声が変質してしまっているから聞き分けにくいけど、秋十に箒、それに鈴もいる事はほぼ間違いないと思う。こんなに呼び集めて何をするつもりなのだろうか、そう思いながらも私は襖の木枠を叩いた。

 

『誰だ?』

「紅城です。呼ばれましたので此方にきました」

『おお、そうか。とりあえず中に入ってきてくれ』

 

返事を受け取った私はそのまま部屋の中に入ることにした。中にはお姉ちゃんの他、やはり秋十と箒と鈴がいたよ。しかもなんか凄い寛いでるような状態で。一体どういう状況? しかもなんかお姉ちゃんは奥の方に向かっていったし。

 

「お、やっぱり一夏姉も呼ばれたんだ」

「まぁね。それにしてもなんで呼び集めたんだろ? 箒は知ってる?」

「さぁな? 私も理由は聞かせてもらってない。そういう鈴はどうなのだ?」

「知らないわよ。てか、秋十、シスコンのあんたこそ知ってるんじゃないの?」

「シスコン関係ないだろ!? そもそも俺はシスコンじゃねぇ!!」

「ダウトだな」

「ダウトだね」

「ダウトだわ」

「クソァ!」

 

何やら打ちひしがれている秋十。いやいや、どう考えても秋十はシスコンの節があるでしょ。それはお姉ちゃんにも言えたことなのかもしれないけどね。お姉ちゃんはシスコンとブラコンのハイブリッドであるわけだし。…………あれ? それを考えると相当やばい人じゃない? 字面が何処と無く凶器じみてるよ。

とりあえず、そのまま立っているのもなんだし、腰を下ろすことにした。しかも、それを想定していたかのように人数分の座布団が敷かれている。…………もしかすると、これ秋十が敷いたものなのかもしれないと、ふと思ってしまった。いやいや、流石のお姉ちゃんでも座布団くらいは敷けるはず…………だよね? 断言できないあたり、前に聞いたパーソナルアビリティみたいに、戦闘スキルに全振りして家事スキルをほぼ喪失してしまったのかもしれない。

 

「ん? どうした? さっきまでの賑わいはどこにいった?」

 

そんな事を考えていたら、お姉ちゃんが奥の方から戻ってきた。その手にはいろんな飲み物のボトルが持たれている。多分、部屋に備え付けの冷蔵庫から取り出してきたものだと思う。とはいえ、何の目的があってここに集められたのかよくわかっていないのだ。そりゃおとなしくもなるよ。

 

「いや、そのなんていうか…………」

「何で集められたのか気になりまして…………」

 

そんな私の心を代弁するかのように秋十と鈴が言った。気にならないはずがないからね。集まったわけだし、理由を教えてもいいと思うんだよ。

 

「理由? そんなもの特にないぞ? 強いていうなら、昔の面々と集まってバカ話がしたくなったくらいだ」

 

…………だが、その理由を聞いた瞬間、思わずずっこけそうになってしまった。いや、座ってるからこけようにもこけられないか。いやいや、それにしたって、理由がものすごくシンプルでありふれてるような気がするんだけど!? というか、教師の口から出ていいようなセリフじゃない気がする。てか、今のお姉ちゃんって完全に自宅モードになってるような気がするんだけど…………。

 

「ば、バカ話…………予流石にそれは想外だった」

「普段の千冬さんからは考えられないセリフよね…………」

「自宅だとこんな感じだけどな…………外で聞くとなんか変な感じがするぞ」

「よし秋十、お前は学園に戻ったら私自ら指導してやろう。私のプライベートをバラした罪だ」

「…………うそーん…………」

 

再び項垂れる秋十とそれを見て勝ち誇ったような顔をするお姉ちゃん。その構図はどう見ても悪魔が人間を力で従えている様子にしか見えなかった。しかし、そんな光景もきっと見れるのはここにいる私を含めた四人くらいだろう。ここにいる面々、お姉ちゃんと昔から付き合いがあるからね。私達姉弟は言わずとも、鈴も転校してきてからすぐに家ぐるみの付き合いになったからね。ついでに言うと、私の事情を当時から知ってる数少ない人間だったりする。

 

「全く…………バカ話くらい誰でもするだろう。それとも何だ? 私は必要事項しか口にしない人工知能に見えるか?」

「いや、そんなことは…………」

「なら問題ないな。ここから先は基本無礼講だ。私はお前達をプライベートの呼び方で呼ぶ。だからお前達も私の事をプライベートの呼び方で構わんぞ」

 

なにやらとんでもない事をさらっと言ってしまっているお姉ちゃん。いやいやいや!? それをしちゃ一番いけないやつでしょ!? 第一に、もし誰かに聞かれでもしていたら、私がお姉ちゃんの妹である事実がバレちゃうかもしれないんだよ!? それだけは絶対に避けたいのに…………。

 

「で、でも織斑先生、それだと…………」

「心配するな。既に人払いは済ませてある。それに、教員室はどの部屋よりも離れている。余程でかい声で騒がなければ聞こえはしないさ」

 

それを聞いてふと安心する私。それなら多分大丈夫だと思うし、結構長い間他人のフリをし続けるのはけっこう辛いものがある。まぁ、今日くらいいつもの姿に戻っても大丈夫だよね?

 

「ふぅ…………わかったよ、お姉ちゃん(・・・・・)。今日だけはこっちで話すね」

「うむ。寧ろ久々にそう呼ばれて何となく安心したぞ…………」

 

うん、どう考えてもそのセリフは何だかキケンな香りがプンプンするよ。とはいえこうして普通の口調に戻ったのは約一ヶ月ぶりくらいだろうか。最後にこの口調で話したのはシャルロットの男装疑惑をお姉ちゃんに報告したときくらいかな…………近くにいるのに疎遠だったからね。そういう意味では、今この瞬間、私は本当の意味でお姉ちゃんと秋十の家族に戻ることができた。

 

「あはは…………でも、戸籍上は違う存だし、そう迂闊に呼ぶ事はできないよ」

「スキャンダル待った無しのネタになるもんなぁ…………」

「馬鹿者。所詮マスコミの戯言だ。気にするだけ無駄になる。寧ろよく考えてみろ? 身内に軍のエースがいるんだぞ? 真の英雄を讃えずにどうするんだ」

 

そんな事言われてもねぇ…………私自身そういうことがわからないし。というか、そもそもで私が軍のエースなんて気にも留めたことないよ。確かにライセンス持ちだけど、そういう事は関係ないし。そもそもあれはある意味特例だし。それにしてもお姉ちゃん、やけに饒舌な気がするんだけど…………もしかして、既にお酒入ってる?

 

「まぁ、言われればそうだな…………普段はこんななのに、戦闘になればこいつほど頼りになるやつはいないですから」

「そうよね。こっちに帰ってきてみたら、エースパイロットがあの一夏と聞いて驚いたわよ」

 

お姉ちゃんの言葉に便乗するかのように発言してくる箒と鈴。改まってそう言われるとどうしても恥ずかしく思えてくる。というか、結構私の事、広まってるみたいだね…………別に嫌な気はしないけど、変な噂が一人歩きしていないか不安に感じる。

 

「さて、そんな英雄を讃えてイッパイやるとしようか。適当に取り揃えてはみたぞ。遠慮はするな、好きなものを選ぶといい」

 

そう言ってお姉ちゃんは持ってきたボトルを私たちの前に置いた。かなりキンキンに冷やされているのか、既にボトルの表面には露がつき始めている。…………一気に飲んだら頭が痛くなりそう。おやつにアイス食べたらそうなったし。…………改めて考えると、私って軍人としてこれでいいのかと思えるようなことしかしてないような気がしてきたよ。

 

「では、私はこれを」

「それじゃ、遠慮なく」

 

そう言って箒と鈴は迷わずそれぞれラムネと烏龍茶に手を伸ばしていた。うーん、私はどうしようかな…………意外とそう簡単に決めることができない。

 

「そんじゃ、俺はコーラを——」

「よし、ドリアンサイダーだな?」

「待て千冬姉!? その恐るべきパワーワード感溢れる危険な物とコーラをすり替えようとするな! てか、そんなものあるのかよ!?」

「冷蔵庫に二本入ってたぞ?」

「マジであったし!?」

 

…………なんなの、ドリアンサイダーって…………単語からして物凄い異臭を放つ物のような気がしてやまない。そもそもそんなものを作った人の気が知れない。そして、それを用意する旅館側もどことなく頭のネジが二、三本吹っ飛んでいるんじゃないのかなと思ってしまう。

だがそうこうしているうちに、選択肢は既に無くなっていた。残っていたのは…………りんごジュース。物凄く平和なものが残っていてくれて、内心ホッとした。此処でさらなるキワモノが出てきたら、それはそれで精神的にやられそうだ。

 

「…………なんか、一夏がそういう子供っぽい物を持っても違和感感じないな」

「まぁ、一夏姉だから仕方ないっちゃ仕方ないんだよなぁ」

「い、いーじゃん別に!」

「今度棒付きキャンディでも持たせてみようかしら?」

「鈴も悪ノリしなくていいからね!?」

 

残ったりんごジュースを手にした瞬間、一斉に子供扱いされる私。…………もう! なんでこうならならきゃいけないんだよ! 望んで子供扱いされてるわけじゃないんだよ!? ま、まぁ、確かに飴とか貰って機嫌良くしたりする事はあるけどさ…………それでも、今なお子供扱いされていることには誠に遺憾である。

 

「まぁ、一夏を可愛がりたがる気持ちもわからんでもない。少なくとも此奴、実家にいる間、寝るときは必ずと言っていいほどぬいぐるみを抱きしめて寝てるんだぞ? 可愛くないわけがないだろう!」

「何を暴露してくれちゃってんの、お姉ちゃん!?」

「あと、これ五反田兄も知っているぞ。私が教えた」

「本当に何を暴露してくれちゃってんの!? 私はいろんな意味で死にたくなってきたんだけど!?」

 

知られてはいけない私の癖である。寝るときは抱き枕等々を使って寝ることが多い。というか、あれがあると物凄く落ち着いて眠れるんだよ。実家にいるときは大きめのぬいぐるみを抱き締めてたっけ。いかにも子供っぽいと思われてもおかしくないし、何より軍人としての体裁を崩したくない以上、そういう事は余計に知られたくなかったのだ。…………既に手遅れな気もしなくはないんだけどね。

 

「なにそれ物凄く可愛いんですけど!? 千冬さん羨ましすぎる!」

「これが姉妹の特権というものだ」

 

とかと、鈴に向かってドヤ顔を決めて発言するお姉ちゃんだが、当の言われてる本人は恥ずかしい思いでいっぱいだ。そういえば…………あのぬいぐるみ、実家に置きっ放しだ。話に上がってきたらなわか気になってきた。まぁ、私の部屋にあるわけだから多分大丈夫だろう。何が大丈夫なのかはわからないが。

 

「ちなみに、どんなぬいぐるみを使っていたのだ? ペンギンか? 熊か?」

「…………箒が私を子供扱いする気満々だって事はわかったよ。確か、ケータイに写真があったはず…………」

 

あからさまに箒が煽ってきてる気がしたので、私はそのぬいぐるみの写真を見せることにした。まぁ、可愛いやつだからきっと子供も扱いされるような気がしなくもないんだけどね。

 

「…………なんだこれは?」

「なに、どうかしたの——って、なに!? まさかの龍!?」

「違うよ。これはクロノサウルスっていう大昔の生き物。それをぬいぐるみにしてもらったんだ〜。他にも、リオプレウロドンやモササウルス、ティロサウルスもいるんだよ〜。みんな可愛いでしょ?」

 

ケータイには軽くディフォルメされていくつもの海竜の姿があった。これは昔束お姉ちゃんが暇な時に作ってくれたもの。もともと束お姉ちゃんが当時どハマりしていた古代生物を見た私も、ついそれに影響を受けちゃってね…………少しだけど、私も古代生物がちょっと好きなのだ。とはいえ、流石にディフォルメされてないと怖いけど。まぁ、束お姉ちゃんは毎回起こる我が家の大災害(グランド・カタストロフ)の度に、『ロストワールド〜』とか叫びながら半ばゲテモノじみている古代生物(に変異した黒い彗星)を拾い集めてたっけ。それよりはやっぱり、クロノサウルスやモササウルス達の方がまだ可愛い。とはいえ、一番は今のところヴェルに軍配があがるけどね。

 

「…………うーむ、一夏の趣味がどんどんわからなくなってくるぞ。守備範囲が広いのか狭いのかがよくわからん」

「というか、さらっと横に比較画像を表示させないの。ディフォルメされてなきゃ、どいつもとんでもなく凶暴そうじゃない…………」

「そうかな? 秋十はどう思う?」

「俺もそういうのは好きだからなぁ。詳しい事とか知らないけど、見た目がカッケェし。まぁ、可愛いかどうかと言われたら…………どうなんだろな?」

 

どうやら私の考えを理解してくれる人はこの場に居なさそうな気がする。理解者が少ない事が少しいたたまれなくなった私はりんごジュースをちびちび飲んでいた。それにしても、そんなに特別かな、ああいうのって…………ぬいぐるみだからふかふかして気持ちいいし、何より私の身長と同じくらいの大きさあるから抱きつきやすいし。なんか、わかってもらえなくて悔しい。べ、別に拗ねてるわけじゃないけど…………。

 

「…………おお、拗ねてる一夏もまた一興か…………」

「千冬姉…………その拗ねる原因作ったの、千冬姉にもあるからな…………」

「…………別に拗ねてなんかないもん」

 

私は半ばジト目でそんなことを口にしているお姉ちゃんを横目で見ながら、りんごジュースをちびちびと飲み続ける。今度家に帰ったら、その時はぬいぐるみを盛大にもふもふしてやる。あと、お姉ちゃんの隠し持っているワインやらブランデーやら日本酒を片っ端から没収してやる、そう心の中で誓ったのだった。

 

「…………なんか一夏が静かに燃えているんだけど」

「…………お前にも見えるか。私の気の迷いではないのだな」

「…………幼馴染だから、それくらいはわかるわよ。あの状態の一夏って、結構容赦ないこともね」

「…………それはわかるぞ。普段おとなしく、かつ優しいやつほど、キレた時大惨事になるのは間違いない」

 

…………そこの二人、なんで急に合掌しているのか私には全くわからないんだけど…………もしかして、それお姉ちゃんに対して? それなら大丈夫だよ、軽い禁酒法に処すだけだから。

 

「ところで、一夏」

 

不意にお姉ちゃんが私に声をかけて来た。さっきのこともあってか、私は若干ジト目になりながらだが、お姉ちゃんの方へと顔を向けた。

 

「そんな顔をするな。少しある事を聞きたくてだな」

「ある事って何?」

 

私がそう聞くと、お姉ちゃんは手にしていた銀色の缶を煽ってから言葉を続けた。って、それどう見ても缶ビールにしか見えないんだけど…………まぁ、今回は別にいいか。どうせ後で没収するわけだし。所謂最期の晩餐(?)ってやつなのかな?

 

「いや、お前と五反田の関係がどこまで進んだのかと思ってな」

「ひゃわっ!? なななにを、とと突然聞いてくるの!?」

「貴様らが不純異性交友してないか見ておかなければならないからなぁ…………なぁ、一夏ァ?」

「はうっ!?」

 

ふ、不純異性交友!? そ、そんなことしてないよ!? だ、第一、学園の外と中っていう隔たりがあるわけだからできるわけないじゃん! だが、その事を聞いて来た本人の目は、どう見ても獲物を狙う肉食獣の目である。今の立場からいえば、完全に私はその獲物であろう。だが、これだけは絶対言える。

 

「す、するわけないじゃん! というか、なんでここでそんな事を聞くのさ!?」

「何、お前が男を持ったからと調子に乗ってないか気になってだな…………なぁ、一夏ァ? あれだろ、クリスマスとかバレンタインとか、所謂リア充とやらが騒ぐ時にお前達も同じような事をしていたのだろう?」

「してないしてない!! その日も私は哨戒任務があったから!! そもそもで私、今年はそっちに帰ってないでしょ!? ちょっとメールのやりとりしたくらいしかしてないよ!?」

「十分しているじゃないか、一夏ァ」

「ぴぃっ…………!?」

 

完全に私が狩られる立場に追いやられてしまった。目の前のお姉ちゃんはどう見ても血に飢えた野獣の如き雰囲気を醸し出している。思わず私はそれに怯えてしまい後ずさってしまった。…………お姉ちゃんが未だに浮ついた話の一つも出てこないのって、絶対このリア充に対する嫉妬のようなものが原因だと思うんだよね。それさえなければいいと思うのに…………。それだから浮ついた話の一つも出ないんだよ。

 

「調子に乗るなよ、一夏ァ…………」

「ひいっ…………!?」

 

だからナチュラルに心を読まないでよ! というか、なんでその結論に至るわけ!? 私には全くもって理解できないんだけど!?

 

「そのくらいにしておけよ、千冬姉…………一夏姉が泣き出すかもしれないぞ」

「…………ハッ! 一体私は何をしていた…………? 何故一夏はそこまで怯えているのだ…………?」

 

お姉ちゃんの所為だよ! と声を出して言いたいところだけど、この場においてそれを言える人は私を含めて誰一人としていなかった。というか、なにあのダークサイドお姉ちゃん…………リア充に対する嫉妬によって生み出された第二の人格なの…………? いや、むしろお酒によって作られたものだと考えよう。私はそっちの説を信じ込むことにした。一先ずお姉ちゃんは一応正気に戻ったらしく、軽くビールを口に含んでから言葉を続けた。

 

「で、結局一夏は五反田とどこまで行ったんだ? コレか? ココまで行ったのか?」

「ちょ…………!? なんて破廉恥な事を聞き出そうとしているんですか、千冬さん!」

「千冬さん、それ完全にアウトですけど!? その顔で言うのも完全にアウトですよ!?」

「てか、男子の俺もいるんだからその話に持ってくのは勘弁してくれ!!」

「だーかーらー!! なんでそんな事を話させようとするのぉぉぉぉぉっ!!」

 

結局、その後も私はお姉ちゃんから散々弄られたのだった。というか、途中で箒と鈴も参加して来たし…………最後まで味方だったのは秋十だけだったよ。この時、私は絶対後で仕返ししてやると心に誓ったのだった。

 

 

「おお、なんか随分とやつれてねえか?」

「…………あー、あんまりその辺弄らないでもらえますか? 昨日散々弄られたので…………」

「お、おう。でも、そこまでやられるって一体何があったんだよ…………」

 

翌日、私は臨海学校開催中の旅館ではなく、館山基地の方に来ていた。というのもだ、どうやらブルーイーグルの修理が完了したようで、その受領のために来ている。あと、新型兵装も呉の方から届くそうだから、そっちもある。とはいえそんな私だが…………現在格納庫の壁にもたれかかって体育座りをしている。いや、昨日の事を思い出してしまうと…………うん、やめよう。逃げ出そうとして、スリッパ脱げて転んでまた連れ込まれたことは記憶から消し去った方がいいに決まってる。どう考えても黒歴史でしかない。そんな様子を、側から眺める我が部隊の隊長である葦原大尉。流石にこの状況で弄るのは憚られるようで、今のところ何もない。それが何処と無くいつもと違う感じがした。…………そう言えるってことは、弄られることに慣れ始めているということなのだろうか…………自分で言っていてなんだか切なくなってきた。

 

「とにかくそろそろ気を取り直せ。見てるこっちが切なくなってくるわ…………」

「…………」

 

俯かせた顔をを上げる気力が湧かない。もはや既にダメな状態になってしまっている。正直頭の中でどうにでもなれと思い始めているのも事実だ。弄られすぎて、どうしたらいいのかがわからない。昨日の事は片っ端から黒歴史として葬り去りたい…………誰でもいいから葬り去る方法教えて…………。

 

「どうも、お久しぶりなのです——って、紅城中尉…………? どうしたんですか?」

「おお、呉の技術部さんじゃねえか。いや、なんかこいつ、少しヘコんでるだけだからすぐになんとかなるさ。ほら一夏、呉の人間が来たぞ。マジで気を取り直せって」

 

どうやら呉の方から新型兵装と一緒に技術部の人も来たようだ。軽くため息をついてから立ち上がることにした。軍服のスカートに付いた埃を払い落とし、視線をその声のした方に向けると、そこには雪華と瓜二つの姿で、濃いめの金髪が特徴的な子がいた。ああ、呉の方って言うし、新型兵装って言ったらやっぱこの子なのか。

 

「あ、雷華…………うん、久しぶり。それと、前のように一夏で構わないから」

 

市ノ瀬雷華。前もブルーイーグルの件でお世話になった、とんでもない天才。だって普通に新型兵装を考案して形にしてくるんだから…………今度は何をもって来てくれたのだろうか?

 

「では、一夏さん、まずは此方を受け取ってください」

 

そう言って雷華より手渡されたものは蒼く輝くドッグタグ。そう、ブルーイーグルの待機形態である。そっか…………やっと直ったんだね。あの時は予想以上に破損させてしまっていたみたいだから…………今度はもっとうまく扱えるように頑張るから。

 

「うん、確かに受け取ったよ。ありがとね、雷華」

「いえ、ブルーイーグルの修理は館山の皆さんのお陰ですから。私は機体ではなく兵装担当なのですよ」

「そういえば新型兵装がどうとか言ってたな。それはどうしたんだ?」

「重装コンテナに格納して、既に搬入を終えているのです。案内しますので着いて来てください」

 

雷華にそう言われた私達は彼女の後をついて行く。向かった先は格納庫の奥に鎮座していた重装コンテナ。しかも、周囲にはテープが張り巡らされており、一際厳重に保管されている様子から、多分あの中に新型兵装が入っているのだろう。それを考えたら、萎えてた気持ちが持ち直したような気がする。まぁ、こっちに来た呉の担当の人が知り合いの雷華だったって事もあるんだけどね。知らない人だったら多分あの調子のままだったと思うし。

 

「今、コンテナを開放するので少し待っていてください」

 

雷華がタブレット端末に何かのコードを打ち込むと、それに呼応するかのように重装コンテナが重々しく開く。完全に展開したそれは、一種のハンガーのように中に入っていた武装をコンテナの中央にホールドしていた。でも…………その武装がなんなのかはよくわからない。一つはベリルバスターシールドと瓜二つだけど、もう一つの方が謎だ。

 

「まずは此方のベリルバスターシールドですね。ランチャーとしての機能をカットしているのでその分エネルギー消費は抑えられているはずなのです」

「そっか…………そういえば、シールドは前に壊されちゃったもんね」

「はい。それに、前回喪失した方ではランチャー、クロー、シールドと機能を持たせすぎてしまっていたので、二つに絞ることにしたのです」

 

つまり、シンプルな感じになったってことみたいだ。とはいえ外見上の差はほとんどない。多分、前と同じ感覚で使えると思う。

 

「そして、次の武装がXBS-R/L40。試作型のベリルショット・ライフルとなるのです」

 

雷華が視線を向けた先にあったのは、その特異な形状をした武装——銃本体と蒼いクリスタルユニットが目立つ長銃。ベリルショット・ライフル、その試作型とのことだ。だが、それを見た瞬間、思わずあの日のことが脳裏をよぎった。あの日の夜…………アナザーから向けられた、あの大型の銃、ベリルショット・ブラスターの破壊力を…………。それに、ベリルショット・ライフルということは、話でしか聞いてないけど、紅い魔鳥ことフレズヴェルク・ルフスと同じ武装、もしくはそれ以上の火力を有していることとなる。それだけの力を持ってしまうことに、少し不安を感じてしまった。

 

「次世代型の兵装として開発されたもので、アーセナルアームズと呼ばれるベリルウェポン群を構成するユニットの一つを強化したものとなるのです。威力、破壊力共に最高クラスであることは保証します」

「これは、ベリルバスターシールドのランチャー機能が削除されたのと関係があったりするの?」

「同時に取り扱うことができますが、そこと関係しているというわけではありませんね。この開発計画は切札たるブルーイーグルの運用の一環として行われたものなのです」

 

…………国防軍がブルーイーグルを異常なまでに強化したいというのはよくわかったよ。完全にフレズヴェルク系列に対する抑止力、もとい反撃の刃として今は存在しているようだ。無論、私としても、それが敵なのだから戦う為に必要な力であるわけだし、何よりアナザーにはもう負けるわけにはいかないから…………そう考えると胸のドッグタグを思わず握りしめていた。

 

「それにしても、こんなやばそうな武器をうちの軍はよく作るよな…………てか、これで倒せるレベルの敵が量産されてたりしたら、俺たちは完全に狩られる側じゃねえのか?」

「実際、月面基地攻略中の部隊からの報告によると、フレズヴェルク系列の簡易量産機が出てるそうです…………」

「私もそれと一度交戦してます…………というか、その為にTCSを貫通するATCS弾が装備じゃないですか」

「それはそうなんだがな…………この終わらねえ状況を見ていたらそう思わずにいられねえんだよ」

 

そう言う葦原大尉の顔はどこか苦虫を噛み潰したような表情をしていた。この終わる気配のない戦争…………それを私達はもう三年も続けているのだ。戦争としてはまだ短い期間なのかもしれないが、それでも私達からすれば長い期間なのだ。常に戦い続けているわけではないにしろ、いつ来るかわからない襲撃に、反攻作戦も上手く進んでいない。おそらくそれらが大尉の苛々を募らせていたのだろう。かくいう私も同じだ。一刻も早くこの無意味な戦争を終わらせたい…………その始まりをあのマガツキ・裏天から聞いた以上はそう思ってしまう。それに…………早く平和な世界を取り戻したい、私の大切な人がそこにいる…………守りたいと思える人がいる…………だからこそ私は戦うんだ。

 

「なぁ、一夏」

「なんですか、大尉?」

「平和を勝ち取るっての、やっぱ大変だよなぁ…………」

 

大尉のその言葉に私の思いも含まれている、そんな気がしたのだった。

 

「では、私はこれにて呉の方へと戻ります。一夏さん、ブルーイーグルの事、よろしく頼むのです」

「了解したよ、雷華。私じゃまだまだかもしれないけど、精一杯頑張るから」

 

こう言ってしまうのはどうかと思われるが、可愛らしい敬礼をしてきた雷華に向かって私と敬礼を返す。それがこうして今、私の元へ新たなる力を託してくれた彼女に対する返礼だと、私は思った。その姿が見えなくなるまで私は敬礼を続けよう、そう考えた時だった。

 

『——非常事態発生、非常事態発生! 各機の搭乗者は格納庫にて起動ののちに待機! 繰り返す! 各機の搭乗者は格納庫にて起動ののちに待機!——』

 

——どこまでも無情で、そして地獄の始まりを告げるアナウンスが格納庫へと響き渡る。そう、再び戦闘が、今目の前にまで迫ってきている事を、否が応でも私の頭に告げるには十分な事だった。






今回はキャラ紹介及び機体解説は行いません。
感想及び誤字報告をお待ちしております。
では、また次回、生暖かい目でよろしくお願いします。



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