FRAME ARMS:RESEMBLE INFINITE STORATOS   作:ディニクティス提督(旧紅椿の芽)

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どうも、最近前書きのネタが尽きてきたと感じてる紅椿の芽です。



この間、無事ヤクトファルクスが私の財布を氷河期にしていってくれたのですが、つい密林を確認してたらアーセナルアームズが後ほどやってくるようでして…………多々買いは依然終わらないようですわ。



さて、財布氷河期を迎えた作者は放置して、今回も生暖かい目でよろしくお願いします。





Chapter.43

「海だぁっ!」

 

誰かがそう歓喜の声を上げていた。私——雪華——達を乗せたバスは、現在臨海学校開催予定地の海岸へと向かっている。太平洋側であるため、もしかするとアントが襲撃してくるかもしれないが、まぁ、一夏をはじめとするある意味おかしな防衛部隊がいるわけだし、多分大丈夫だろう。…………というか、そんな事態にだけはならないで欲しいと心から願う。

周りの女子達は皆どこか浮き足立っているような感じだ。いや、皆毎日のように海を見てるはずでしょ…………と、思ったけど、学園島から見るのとこうやって半分旅行気分で見るのとでは違うものなのかもしれない。私も、横須賀配備の時は毎日のように海を見ていたわけだし。とはいえ、今の私にはそんな楽しみに浸っている余裕はない。

 

([SA-16s2-R スーパースティレット・レイジング]に[M32BC ウェアウルフ・ブレイクキャリア]…………また、手のかかる機体を持ってきてくれたものだよ、あの二人)

 

私はタブレット端末に表示された情報に目を通していた。ついこの間、私たちの部隊に配備された機体だ。搭乗者は勿論、レーアとエイミーである。最早改造されすぎて、これをまともに整備できるのか自信がなくなってきたよ…………なんで脚を丸々大出力ベクタードスラスターに改造するかな…………あと、なんであんなカニのハサミみたいなものを取り付けようと思ったのかな…………なんで条約すれすれの対地ミサイルを積むかな…………なんで腕を丸々交換するかな…………突っ込みたいところを上げればキリがない。なんか、パワーで無理やり解決しました感満載の、如何にもアメリカンな仕上がりになっていることだけはわかる。…………整備パーツ、ちゃんと届くよね?最早不安を感じるレベルだ。これならまだブルーイーグルの方が整備は少し楽なのかもしれない。なお、一番整備が楽なのがラウラ隊長のハーゼってどういうことなんだろ…………セシリアのラピエールは見た目変わってないけど、中の電子機器はほぼ新規だし。一夏の重火器満載榴雷は期待を裏切らず、そこそこ面倒だよ。

 

「…………わふぅ…………おはよ〜、雪華〜」

 

そんな化け物火力の榴雷を操る我らが副隊長が私の横でお目覚めである。この子、バスに乗って暫くしたらすぐ寝てたんだよね。原因? 昨日の夜、愛しの彼と長電話してたのが原因だよ。聞いてる私とヴェルはまたかと思って顔を見合わせていた。なお、ヴェルの世話は生徒会長が引き受けてくれたらしいよ。何故か関わりがあまり無いのに、すぐ懐いていて、それを見たシャルロットが思いっきりへこんでいたけどね。ただ、その後で一夏と生徒会長がヴェルを連れて学園長室に向かったから、結局どうなったのかはわからない。

 

「おはよ、一夏。もうすぐ目的地に着くそうだよ」

「あ、もうそんなところまで来たんだ。…………随分寝ちゃったなぁ」

「ついでに寝顔、めっちゃ撮ったけど誰かに送ってもいい?」

「いや、それはやめて!? 恥ずかしいっていうか…………と、とにかくダメだからね!!」

 

そう言って、先ほどの眠気はどこへ消えたのか、顔を真っ赤にした一夏は首を横に振って拒否していた。うーん、残念。かなり可愛い寝顔だったんだけどね…………こっそり件のアドレス先に送りつけておくとしますか。

 

「そういえばさ、雪華。今雪華が見てるのって、もしかしてレーアとエイミーの新しい機体?」

「それは合ってるけど…………なんでそう思ったの?」

「レーアってさ、意外とスピード狂みたいだし。なんか、ブルーイーグルとスティレットで訓練した時、異常なまでにスピード出そうとしてたもん。それに、エイミーも砲撃戦よりは接近戦を好むみたいだしさ。だから、そう思ったんだけど」

 

…………本当、一夏の観察眼には頭が上がらないよ。今のデータには搭乗者の名前なんて一切書かれてないってのに。そんな風に周りの事をよく見ている一夏だからこそ、周りに気配りをするのが上手いのかもしれない。今でも、部隊員の特性を理解しているためか、ラウラから各員の配置を決めるように言われてるそうだし。…………一夏って、何気ハイスペックだよね。少なくとも、さっきまで物凄い幸せそうな顔をして、可愛らしい寝息を立てて寝ていた人と同じ人とは思えない。まぁ、そんな可愛らしい様子と国防軍のエースと称される強さというギャップがいいからか、国防軍館山基地と横須賀基地では完全にアイドル扱いである。基地の男性からも女性からも愛される存在って、なかなかすごいと思うんだよね。とはいえ、何人かの大人達はまるで自分の娘を愛でるように接したりしている。一夏も一夏であんまり子供扱いされるのは勘弁して欲しいみたいだけど…………いやいや、飴玉とかもらって満面のの笑みを返したらそりゃ子供扱いしたくもなりますわ。かくいう私も、そんな一夏の様子を陰ながら見ていて、思わず(鼻血)が噴き出そうになった事が何度もある。ある意味、国防軍が持つ大量破壊兵器なのかもしれない。

 

「いやはや、ほんと一夏の観察眼って凄いよね…………」

「うーん…………みんなの様子を見ていたら誰でもわかると思うんだけどなぁ…………?」

 

それができたら誰も苦労しない。こんな風に、例え優れた能力を持っていようとも、一夏はそれを見せびらかすような事はしない。というか、自分がそれだけの力を持ってる事を自覚してないのかもしれない。何せ、陸戦型の機体しか乗った事がなかったというのに、ぶっつけ本番で空戦型のブルーイーグルに搭乗して、そしてしっかりと戦果を上げてくるんだから…………もしかすると、一夏はどんな機体でも直ぐに使いこなせる能力の持ち主なのかも。…………なんか、テストパイロットに物凄く向いてる性質だ、これ。そして、そんな事はないと謙遜する姿も、全然嫌味ったらしい感じがしないというのもすごい。

そんな事を思いながら、機体の全データに目を通し終えた私はタブレット端末の電源を落とした。あまりにも処理するデータが多すぎて、バッテリーがものすごい勢いで減ってる。とりあえず、バッテリーを温存して、旅館で充電させてもらうことにしよう。

 

「それにしても…………なんか、こうやって見る海ってなんだか綺麗だよね」

 

一夏はそんな事を言って窓の外を眺めていた。私も一仕事を終えたから、それにつられて窓の外へと目を向ける。そこには一面の蒼に輝きを放つ海原が見えた。やはり、横須賀や館山、学園島で見る海とはまた違った景色のような感じだ。

 

「確かに。いつも見てるはずなのに、どこか違うように見えるね」

「うん。やっぱりさ、それだけここが平和って事だからなのかな?」

「私にはわからないよ。けど…………この景色を一夏達が守ってるって事だけは言えるかもしれないね」

「…………なんか、そういう風に言われるとちょっと恥ずかしいかな…………」

 

照れ顔の一夏もまた可愛い。とはいえ…………確かにこの景色は一夏達が命を張って守ってきた日本の景色だ。きっと、私のような一整備士にはわからないような苦しみや悲しみを背負ってしまっているのかもしれない。それにだ…………どんなに命を懸けて守ろうとも、世間は一夏達を非難し続ける。私には受け入れがたい事だったよ…………一夏は割り切ってるようだけど、私はまだできていない。親友が命を張ってるというのに、それを否定されなきゃいけない理由がわからない…………それにだ、その偽りの情報を鵜呑みにして、軍を叩いてくる人もいる。そんな人たちの矛先は…………一夏。私は整備士という立場上目立った事はないし、箒はまさかの『篠ノ之束の妹』なんていう凄まじいビッグネーム持ちだから、狙われる事なんてない。そうなると狙われるのは一夏となってしまうのだ。幸いにも私達の一組にはそんな風に思ってる人が今は全くいないようだが、他のクラスや学年にはまだいるらしい。今はまだ直接的なものはないが…………前のような目を覚ましてくれないような状況に陥ってしまうのだけは嫌だ。一夏を失うかもしれない恐怖はもう感じたくない…………。

 

「どうしたの、雪華…………? 少し顔色悪いよ? もしかして、酔っちゃった?…………もう少しで旅館に着くみたいだから、それまで我慢してて。…………その、ごめんね」

 

どうやら私が少し険しい表情をしてしまったせいか、一夏が心配そうな眼差しを向けて、私の顔を覗き込んできた。どうやら何か見当違いの事を考えてるみたいだけど…………まぁ、いいか。こんな風に他人を気遣える彼女には、やはり敵わないと私はふと思った。目的地に到着したのはそれから間も無くだった。

 

◇◇◇

 

「まさか部屋割り、こんな風になるなんてね」

「ある意味予想通りというかなんというか…………」

 

旅館へと到着した私——一夏——達は、それぞれが割り当てられた部屋へ荷物を置きに行っていた。部屋へと到着したのはいいけど、部屋割りは私、雪華、箒、そしてシャルロットという…………まさかの日本国防軍勢揃いといったところだよ。まぁ、信頼できる仲間と一緒だから、安心できるというのはあるけど、折角の課外授業だから他の人と交流したいっていうのもあるんだよね。とはいえ、私達は基本的に任務が最優先だからそんな事言ってられないんだけど。

 

「機密に関してはこの面々なら心配する事もなかろう。そういう意味では安心できる」

「いや、でも、僕だけなんかものすごい場違い感があるんだけど…………」

 

そう言ってシャルロットはなんだか苦笑いを浮かべていた。まぁ、それはそうだよね。一応、私達の部隊に所属しているわけだけど、書類上では民間協力といった形に落ち着いてる。やはり軍属と民間ではどうしても何か壁みたいなものがあるみたいだ。

 

「まぁまぁ、そういう事はあんまり気にしないで。寧ろ気にされると、私達も少し困っちゃうから」

「そうだぞ? こいつなんか、年が同じなら階級が下だろうと、自分が落ち着かないからって自分の事を名前呼びさせるような奴だからな」

「それに関しては否定しないね。そのせいで子供扱いされること多いけど」

「ちょっとちょっと二人とも!? なんか私が物凄く幼いイメージになってるんだけど!?」

「…………僕も、一夏って子供っぽいと思う時があるよ」

「シャルロットまで!?」

 

この場にいる面々はみんな私の事を子供扱いするわけ!? そんな風に思われていたと知った私は思わず膝をつき項垂れてしまった。

 

「まぁそう落ち込むな。ほら、飴ちゃんをやろう」

「慰めるフリをして、さらっと私を子供扱いしてるしぃ…………!」

「なんだ、いらないのか?」

「…………一応貰っとく」

 

なんか、箒が私の事を完全に子供扱いしてくるんだけど…………なんでさ、なんでみんなそんな感じで私をいじってくるのかなぁ…………。だけど、そんな風に飴玉に釣られてしまう私も私である。箒からもらった飴玉を私は早速口の中に放り込んだ。その瞬間、異様なまでの爽やかさと清涼感が口の中を支配していく。って、

 

「こ、これハッカ飴じゃん…………!? うぅ…………口の中、スースーするぅ…………」

「よしイタズラ成功だな」

「鬼ぃ…………箒の鬼ぃ…………!」

 

なんだろ…………目の前のしてやったりといった感じの顔をしている箒に一発リボルビングバスターキャノンを撃ち込みたいと思ってしまった。うぅ…………ハッカ飴、私あんまり得意じゃないのにぃ…………。ちょっと苦手なものが口の中に入ったからか、少しだけ涙が出てきた。

 

「…………一夏の破壊力ってやばいよね、雪華」

「…………一夏が話のネタに絡むとなんか楽に話せるでしょ。てか、やばい、一夏やばい」

 

残された金髪銀髪コンビに目をやるけど、私を助けてくれるような感じではないようだ。なんか私から目をそらしているし…………うぅ…………薄情者〜!

 

「…………なんでここまできて弄られなきゃなんないのかなぁ…………」

「そういう星の元に生まれたからには仕方ないだろ。運命だ、運命」

「弄り始めた本人が言わないでよ!!」

 

あうぅ…………これが四面楚歌っていう状況なのかなと変な考えが出てきちゃったよ。別に嫌な感じはしないからいいんだけどさ…………あ、いや、弄られることが好きって意味じゃないからね!? できれば弄られたくはないけど。

 

「そういえば一夏」

「…………何?」

「そう拗ねないでよ。ちょっとヴェルちゃんの事で気になってさ。結局お世話どうしたの?」

「ああ、ヴェルの事。それなら、学園長にお世話をお願いしてきたよ。生徒会長に頼もうと思ったんだけど、なんか学園長が鳥好きみたいだから、そっちの方がいいってさ」

 

◇◇◇

 

「よく人に懐いた狗鷲だ…………どれ、ヴェルだったかな? 神戸牛が手に入ったのだが、お主も食べるかい?」

「ピャゥ…………ピャゥ…………」

 

◇◇◇

 

「…………ヴェルちゃん、警戒とかしなかったの?」

「全然。学園長に渡した時もすんなり懐いてくれたし、多分大丈夫だと思うよ」

 

全く面識のない学園長に対して、ヴェルは普通に慣れていたような感じがした。全然警戒とかしてなかったし。今頃餌付けでもされてるんだろうなぁ…………高級品の味とか覚えられたら困るけど。

 

「…………あんなにお世話頑張ったのに、なんで僕には懐いてくれなかったのかなぁ…………?」

 

結局、お世話したけど懐いて貰えることはなかったシャルロットが項垂れていた。…………まぁ、仕方ないよね。これに関してはヴェルの気分次第ってところが大きいから。本当、なんでシャルロットだけを避けているのかわからない。なのに初対面の学園長には慣れちゃってるし…………なんか今改めて考えるとヴェルってかなり謎めいた性格してるね。

 

「それだけは私にもわかんないよ。さて、と。そろそろ海にでも行こっか。自由時間、もう始まってるからね」

「そうだな。…………まぁ、あのバカな姉が来ない事を祈っておこう。来たら来たで私の手に負えん」

「あはは…………ま、まぁ、多分大丈夫でしょ」

「さて、私はカメラのセッティングを…………」

「雪華!? 何をする気なの!?」

 

ただ海に行くだけなのに、どうしてこんな風に盛り上がるんだろう? まぁ、纏まりとか無いけど、変にお通夜ムードで行くよりは全然いい。荷物からそれぞれの水着を取り出した私達は、少し出遅れたかもしれないけど、海へと向かう事にしたのだった。

 

 

(うぅ…………日差し強いなぁ)

 

砂浜へと出た私を待っていたのは、照りつけるような夏の日差しだった。空は雲ひとつない蒼、余計に太陽が燦々と輝いている。まぁ、曇天の空と比べたらこっちの方が夏らしくていいけどね。とはいえ、日焼けだけはしたくないかな…………一応日焼け止めは塗ってきたけど、どこまで効果あるのかわからないし。…………そういうけど、殆ど地肌が出てるところなんて無いんだよね。上はパーカー着てるし、足も黒ニーソで覆っちゃってるから、多分日に焼けることはないと思う。

 

「うむ…………やはり水着は砂浜だと映えますなぁ」

「…………雪華、キャラがおかしいのと、そのカメラは何?」

 

そんな私の背後から声をかけてきた雪華は、なぜか知らないけどカメラを持ってきていた。雪華もダークブルーの水着を着ており、いつもは私と同じように流している髪も、今日はリボンで一つにまとめている。なんかお人形さんみたいな感じがするなぁ…………。

 

「決まってるでしょ。一夏の水着姿を収めて——」

「いやだからなんで!?」

 

…………どうやらカメラを持ってきたのは、私の水着姿を撮るためだったようだ。なんで私のばっかり撮るんだろ、この子は。

 

「心配しなくていいから。どうせ私の自己満足の為だし」

「…………信用していいんだね?」

「私の整備並みには」

 

そこまで言うなら多分大丈夫なのだろう。というか、そう思いたい。撮った写真がもし葦原大尉や瀬河中尉に渡ったりしたら…………おそらく私は相当弄られる事になるだろう。私はそれなら構わないといった意思を示すと、雪華もこっちで自由に撮るって言いながら、別の場所へと向かって行った。なんか雪華もフリーダムだねぇ…………。一方の私はといえば、出来るだけ日に当たらない場所を探して、辺りをぶらぶらしていた。そんな時、パラソルが立てられている一角を見つけた。しかもビーチベッドまで準備済み。よくよく見ればそこにいたのは蒼い水着を身に纏ったセシリアが、めっちゃ優雅に寛いでいた。

 

(う、うわぁ…………めっちゃセレブ!!)

 

しかも、セシリアが貴族であるということも相まってなのか、かなり様になっている。一人だけなんかバカンス気分でいるように思えて仕方ないんだけど。そんな風に見ていたら、セシリアが私に気づいたのかこちらを向いてきた。

 

「あら…………? 視線をやけに感じると思いましたら、一夏さんで——ブッハァッ!」

「せ、セシリア!?」

 

なんかセシリアが私の方を向いたらまたもや鼻血を噴き出したんですけど!? 一体どういうことなのさ!? もしかしてこの日差しで逆上せちゃったの!?

 

「だ、大丈夫!?」

「こ、これしきの事…………何の問題もありませんわ…………」

「いやいや!? どう見ても重傷にしか見えないんだけど!?」

「少々お時間を頂ければ、すぐに止まるかと…………折角の水着が私の血で汚れてしまうかもしれませんので、一夏さんは離れてくださいまし…………」

 

いやいや、それよりもセシリアの事の方が重要でしょ、と思って近づこうとしたけど…………そんな事を言う前にセシリアが手で制してきたから、それに従うことにした。というか、セシリアって、前にも同じように鼻血を噴き出したことあったよね…………しかも、私の方を見た瞬間に。全くもって私には理解ができない。何をどうやったらそんな風に鼻血が出るのさ。

 

「ふぅ…………なんとか止まりましたわ」

「いや、見てるこっちは恐ろしくビビったんだけど…………本当に大丈夫?」

「ええ、もう大丈夫です。それよりも一夏さん、とてもお似合いですわ。そのパーカーの下にはちゃんと水着、着ていらっしゃるんですの?」

「ちゃんと着てるって。まあ、見せたりはしないけど」

「…………そうしてもらわないと、こちらの体力が持ちそうにありませんわ…………」

「何か言った?」

「い、いえ! な、なんでもありませんわよ!」

 

そう言うが、明らかに動揺を隠しきれてないセシリア。一体何を呟いたのか気になるところだけど、本人がなんでもないって言ってることだし、別に気にしなくてもいいか。

 

「それよりも、一夏さん。一夏さんはこれからどうお過ごしの予定で? その格好では、泳ぐに些か不便では?」

「まぁ、泳いだりはしないよ。足の傷のこともあるわけだし。木陰に座ってただのんびりしてるだけかな」

「でしたら是非こちらを。ビーチベッドがもう一つありますので、お使いになる時はどうぞご自由に」

「あはは…………折角だけど、遠慮させてもらうよ。なんか高級そうだから使うのにちょっと抵抗が…………」

 

そう、セシリアが持ってきているものが物凄くセレブ感満載なものなのだ。流石にこれを使っていいなどと言われても、そう使う気になれるわけがない。怖すぎる…………使うのが怖すぎるよ。ただでさえそういうものには慣れてないっていうのに…………。というか、そのアンティーク調な家具のような物を持ってきたのさ? もしかして…………フレームアームズに量子変換して持ってきたのだろうか? あの量子変換って武器弾薬の他にも物資を積めるから…………可能性がなくもない。とりあえず、その事は今は別に考えなくてもいいか。

 

「あら、残念ですわ」

「ごめんね。じゃ、私は向こうにいるから」

「ええ。では、また後ほど」

 

セシリアと別れた私は木陰の方へと向かった。あそこなら直接日が当たる事は無いだろうし、いい感じに平らな石があるから座るにも大丈夫そうだ。そこに腰を下ろした私は徐に眼前に広がる光景を見つめていた。基地では散々見慣れているはずの海。でも、今はみんなの楽しそうな声が聞こえてくる、そんな平和な光景がそこにある。戦場から離れていると実感するとともに、自分はここにいてもいいのかと不安になってくる。今も館山基地じゃ、警戒態勢を敷いているわけだし。私も警備任務と護衛任務に就いているとはいえ、実戦環境からは遠く離れてしまっている。最前線で命を張っているみんなから見たら、私はどんな風に映っているのだろうか…………この任に就いてから私はずっと、それが心のどこかにあった。

 

(はぁ…………本当にこれでいいのかな…………)

 

そう考えたら、思わずため息が出てしまっていた。なんだろ…………空の青さとは正反対…………私の心はどこか曇り空が広がっていた。

 

「あ、一夏。ここにいたんだ」

 

そんな時、ふと声をかけられた。視線を砂浜から上にずらすと、そこにはシャルロットがいた。オレンジ色の水着を着ており、どこか彼女らしい色だと私は思った。

 

「うん。それよりも…………その後ろの、何…………?」

 

だが、そんな事より、私は彼女の後ろにある物体が気になってな仕方なかった。え、えーと…………何なの、そのバスタオルお化け?

 

「——ッ!? お、おい…………本当に一夏のところへと連れてきたのか…………!?」

「その声…………もしかして、ラウラ…………?」

 

いやいや!? なんで!? なんでラウラがバスタオルを全身に纏ってミイラみたいなことになっているのさ!? もうなんか、さっきまでの陰鬱な考えがどっかに吹き飛んでいったんだけど!?

 

「ほらほら、折角可愛いの買ったんだからさ、一夏にも見せてみたら?」

「み、見せられるか! これ以上この姿を見られれば、我が黒兎隊の名が…………!」

「どんな姿をさせてきたのシャルロット!? ラウラがここまで動揺するの初めて見たんだけど!?」

 

特殊作戦群に身を置いているラウラがここまで動揺するなんて…………本当にどんな格好をさせてきたの!? しかしだ…………ラウラはどこか一般的な常識から外れているところがある。もしかすると…………彼女の物凄い勘違いなのかもしれない。

 

「うーん…………可愛い格好だと思うんだけどなぁ…………というか、そのままじゃまともに楽しめないよ?」

「そ、それは困るが…………ええい!! こうすればいいのだろう!!」

 

半ばヤケになったラウラはまるで輝鎚の積層装甲のように身に纏っていたバスタオルを全て脱ぎ捨てた。その下から現れたのは…………全体的にフリルをあしらった黒の可愛らしいデザインの水着だった。しかも、何時もは単純に下ろしているだけの髪をツインテールにしているから尚更可愛い。

 

「ぐぬぬ…………わ、笑いたければ笑うがいい…………」

 

いや、そんな風に若干の恥じらいを持った感じで言うのは卑怯じゃないかな…………。

 

「いやいや、とっても似合ってるよ。なんかいつもと違うラウラが見れた気がするね」

「せ、世辞ならいいぞ…………」

「そんなことないって。ね、一夏?」

「うん。お世辞なんかいらないよ。純粋に私がそう思ったんだから」

 

実際、めちゃくちゃ似合ってるから、そんなことを言う必要はないんだけどね。とはいえ、そう言われた本人はなにやらポーッとしているようだ。

 

「あらら…………なんかラウラがトリップしちゃったみたいだから、向こうで落ち着かせてくるね」

「ラウラがこうなるなんて、すごく珍しいけど…………まぁ、わかったよ。じゃ、また後でね」

「うん…………よーし、トリップしてるうちにラウラをみんなにも見てこよーっと」

 

ラウラの両肩を掴んで押していくシャルロットはどこかいい感じの笑顔だった。…………というか、さらりとやばいことを口走ってないかな…………不安になってくるんだけど。一応シャルロットの扱いって民間協力だけど予備少尉という感じだからね。それよりもはるかに階級が上のラウラをこんな風にしているところに一抹の不安を感じる。だが、それ以上に今まで軍人オーラを出して下に見られないようにしていたラウラの立ち位置が一瞬にしてクラスのマスコットみたいな状態になる方が少し心配である。まぁ、それはそれでいいのかもしれないけど。

 

(それにしても…………こんな風にゆっくりしているの、いつぶりだろう…………)

 

少なくとも、ここ最近はなかったような気がする。休暇をもらった時はあるとはいえ、結局なんかドタバタとした日々だったし。…………おまけに言えば、前回交代制で休暇を取るとき、結局三日分全部休暇にさせられたし…………なんでさ、なんでそんなに私を無理矢理休ませようとするのかな? 訳がわからないよ…………。流れてくる潮風が何処と無く心地よい。そんな風に寛いでいると、視界にビーチバレーをしている一行を見つけた。そこではなんと、お姉ちゃんが打ったスパイクを受けて吹き飛ばされる秋十と鈴の姿が…………何をしてるの、お姉ちゃん。

 

「あ、一夏さん!」

「なんだ、ここにいたのか」

 

そんなカオスな状況のビーチバレーを眺めていたら、エイミーとレーアの二人がこちらに来ていた。どちらもビキニタイプの水着だけど、エイミーは薄緑色、レーアが水色といった感じだ。なおエイミーの水着のデザイン…………どこなく子供っぽく見えてしまうのは私だけなのだろうか?

 

「うん、泳ぐよりはここでゆっくりしていたいしね。二人はどうしてたの? 泳いで来たみたいに見えるけど」

「ちょっと、あそこのブイまで遠泳してきました。丁度いい運動になりますよ」

「久々の遠泳だったからな。つい調子に乗って二人でその先のブイまで泳いできたぞ」

 

…………わー、すごーい。って、そんなに泳いできたの!? 元気だねえ…………と、どこか御年寄臭く考えてしまった。一方の私、多分泳げたとしてもそこまで泳げる気がしない。絶対途中でへばる自信がある。

 

「しかしな…………こっちに戻ってきたら、何やら物騒な事が起きているんだが…………」

「あれ、なんなんですか…………?」

 

そう言って二人が指差した先にあったのは、おそらくビーチバレーでは出ないような音を出してプレーしているお姉ちゃんと、それを受け止めようと必死になっている秋十と鈴に谷本さんの姿があった。

 

「異次元ビーチバレーボール、じゃないかな…………? 少なくとも戦闘ではないと思うよ」

「…………遊びって、あんな風に砲撃音がするものなんですね」

「…………笑えん冗談だ」

 

どうやら二人にはあれが未だに遊びという事が信じられないようだ。まぁ、私の場合はあれを見慣れてきてしまっているから驚かないというだけで、初見だったら多分自分の目を疑うよ。なんでボールが砂浜に落ちただけで、砂が派手に舞い上がるのかな…………? どう考えてもあの一撃、下手な銃よりも威力あるよね? あ、ボールが耐えきれずに破裂した…………。

 

「…………そろそろお昼ご飯でも食べに行こっか?」

「…………丁度よくバレーボールも終わりましたからね」

「…………物理的に、だがな」

 

世にも珍しい、ボールが破裂した事で終わりを告げた試合を横目に、私達はお昼ご飯を食べに行くことにしたのだった。…………今起きていたことはきっと悪い夢だと、私は自分に言い聞かせていた。

 

「…………チッ、軟弱なボールだな。もっと頑丈なものはないのか」

「…………織斑先生の打撃に耐えられるのって、ボウリングの球くらいなんじゃないですか…………?」

「ほぅ…………山田君、なかなか君も言うようになったじゃないか?」

「い、いや、私はそんなつもりは——いやぁぁぁぁぁ…………!!」

 

…………後ろから山田先生の断末魔はきっと空耳だろう。そう思った私はもう何も気にしないことに決めたのだった。






今回は機体解説及びキャラ紹介は行いません。
感想及び誤字報告をお待ちしております。
では、また次回、生暖かい目でよろしくお願いします。



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