FRAME ARMS:RESEMBLE INFINITE STORATOS 作:ディニクティス提督(旧紅椿の芽)
どうも、白アーキテク子を予約しようか財布と相談中の紅椿の芽です。
真面目な話、今月やってくるヤクトファルクスやら、来月くるかもしれないアルペジオ新刊とかがあるもので財布が現在氷河期です。やばい、キュポアーキテクト買えねえ…………アーキテクトマンも買いたいというのに。
さて、財布が死にかけている作者のことは置いておいて、今回も生暖かい目でよろしくお願いします。なお、今回は若干地の文が少ないです。ご了承くださいませ。
「…………ねぇ、なんでこうなったの?」
「…………私に聞かれてもわかるわけないじゃん」
無理矢理取らされた休暇を何とかして過ごすべく街へ出た私——一夏——と雪華は、その先で出会った私の上官である真緒さんに絡まれた。そこまでは良かったような気もするんだけどね…………問題はその後だよ。
「ん? なんだお前ら、全然食ってねえな。どっか調子悪いのか?」
「い、いえ
「それならいいんだがよ。てか、気にせずガンガン食ってくれていいんだぞ?」
「そうそう。浩二の言う通りだ。遠慮なんてしてんじゃねーよ。お、そこのエンガワ、プリーズ」
「そう言うお前は少し遠慮を覚えろ。この金は俺とお前で割り勘な」
丁度真緒さんが雪華に何か欲しいものがないかと聞いている時に、偶然私の部隊の隊長である葦原大尉が来たんだよ…………その後で聞くと、元から真緒さんと出かける予定があったとか無かったとか。それで、時間帯が丁度お昼頃だったと言うのもあってか、二人の手によって私達はお昼御飯を一緒にさせてもらうことになってしまったのだ。そんなわけで私達が連れてこられた先は…………ここ最近オープンしたばかりという回転寿司店だったんだよ。慣れない…………なんか慣れない。元々こういうところに来たことがあんまりないから余計にだ。いや、だって…………我が家じゃ贅沢は敵みたいな感じになってたし、そもそもで高級品に手を出すわけにはいかない。ましてや、庶民の味方であるとはいえ回転寿司など以ての外だ。いや、お寿司自体は食べたことあるけど、スーパーの値切り品とかその辺だし。ぶっちゃけ、こういうのに対する耐性が半端なく低いのだ。おまけに、上官二人の奢りということになってしまってるし…………本当、私はどうしたらいいの? 雪華も雪華で戸惑っているようだし。節約根性が染み付いているせいか、可能なまで経費の削れるところは削りたいのだが、かといって上官に奢られるというのもどうかと思ってしまう。そんなわけで、借りて来た猫以上に大人しく固まってしまってる私達なのである。
「へいへい。ちゃんと払うから心配すんなっての。この間、給料しっかりと引き出してきたわけだし」
「これで忘れてきたなどと抜かしやがったらどうしようかと考えていたんだがな。——それにしても本当に食わねえんだな、お前ら。お前らくらいの女子は食わねえっていうけどよ、幾ら何でも食わなすぎだろ…………」
そういってぼやく葦原大尉の目線の先には私達が食べ終えた皿があった。枚数は二枚。一人分じゃなくて、私と雪華で二枚である。しかも、私に至っては一番値段の安いカッパ巻きだ。いや、だって…………そんな風に奢るなんて言われても、こっちはガチンガチンに緊張しちゃってますし、どうしても一歩引いちゃいますって…………。
「そうだぞー。これじゃ奢り甲斐がねえじゃん。あ、次は赤貝なー」
「こいつのいう通りだ。別に強要してるわけじゃねえけど、こう、食ってもらわねえと体裁的になんかまずくてな…………。ほれ、赤貝」
いや、体裁的って言われても…………本当、未だに私の節約根性はそう簡単に変わることもなく、私の頭から離れることはない。トロ? ウニ? そんな高級品に手を出すわけにはいきません。赤身と玉子で充分です。いや、それどころかカッパ巻きで事足ります。なんだかんだであれ美味しいし、安いし。
「こいつなんて見てみろ? もう既にお前らの十倍は食ってるぞ。というかこの間、隊長格総出で館山の各隊にいる若年兵共に焼肉奢ってるんだから、その分食ってもらわねえと本気で困るんだよなぁ…………」
「あー、それ横須賀でもやったぞ。確かあん時は…………あ、うちの若年兵全員に中華を食わせたわ。どいつもこいつもがっつくように食ってたから見てて清々しかったな、あれ」
「お前のところもか。うちも食い盛りがこれでもかと食ってたわ。特に筋肉マッチョの明弘は『プロテインの補給をしねえと…………』って言ってな。そのかわり悠希はあそこの激辛ラーメンを平然と食ってて、俺以外の隊長格共が言葉を失ってたわ」
…………なにそれ、私初めて聞いたんですけど…………。というかそれって絶対私達がこっちに派遣されてから行われたやつですよね? あ、でも、その理屈だと箒とシャルロットにも食べさせなきゃいけないんじゃないかな…………?
「そういや、あの特務隊のやつと民間協力のやつはどうしたんだっけか?」
「あー、彼奴らな。確か、金髪のやつが民間協力を表明した日に、大将殿が二人を料亭に連れてったらしいぞ。うちの中将がそんな事言ってたな」
…………なんか次元の違う話が聞こえてきたんだけど。というか、箒とシャルロットが西崎大将と一緒にご飯食べた的な事言ってたよね!? 絶対それ緊張するやつでしょ!? 私だったら絶対緊張してそれどころじゃないような気がするよ…………現にこんな状況なわけだし。
「てなわけだ。うちの軍に所属する若年兵で外食をしてねえのはお前らだけ。流石にそれは切ねえだろ? というか、こっちからしても切ねえ気分になるんだよ」
「そ、そんな事を言われましても…………」
節約根性はなかなか抜けない。というか、少々無茶がありませんか? 別にそういうことは気にしなくてもいいんですけどね…………いくら大人の好意には甘えろと言われても、これだけはどうにもできないのである。そんな私たちの様子を見て、呆れてしまったのか、葦原大尉は軽くお茶を啜ってから言葉を紡いだ。
「ったく、この頑固真面目中尉とお付きの整備士は…………仕方ねえか。——紅城中尉及び市ノ瀬軍曹に命令する。たらふく寿司を食え、以上」
「まさかの職権乱用ですか!?」
「無茶苦茶ですよ!?」
「お? 返事はどうした、二人共? 因みに従わないと、後ほど別なものを奢るぞ。例えば回らねえ寿司とか——」
「りょ、了解しました!! だ、だから、それだけは勘弁を…………!!」
「み、右に同じく! ですので、それだけは堪忍してつかぁさいぃぃ…………!!」
おっそろしいこと言わないでくださいよ、大尉!! なんですかそれ!? ここで食べなかったら回らないお寿司って…………私を拷問にかけて洗脳するのと同じ意味ですよね!? そのレベルの物を奢られるよりは、現状を喜んで受け入れます! …………だって、高級品を奢られるなんて、その後が物凄く怖いんだもん…………。前にセシリアからお詫びの品として貰った茶器一式と茶葉だって、まだ全然使ってないし。使うのが怖すぎるんだもん…………。
「…………お前ら、揃いも揃って奢られる事に耐性なさすぎじゃね? 特に一夏」
「い、いやだって…………こんな事初めてですし…………」
「…………人のこと言えないけど、一夏の奢られる事への抵抗感って半端ないよね」
「…………なぁ、雪華よ。うちの中尉殿はいつもこんな感じなのか?」
「…………そうですよ。学食でも、カテゴリの中で一番安い物を注文していく性格ですから。それすら奢られる事を拒否してますよ」
「学生特有の奢り奢られができねえなこれ…………」
「べっ、別にいいじゃないですか!」
だって奢られるとかそういうの本気で苦手なんですもん! 割り勘なら全然大丈夫です…………その事を弾は理解してくれてるから、いつも割り勘にして貰ってる。てか、奢り奢られなんてやってたらいつの間にか家計が火の車になってますよ!? それだけはなんとしてでも避けなければならない。全くもって家事ができない姉を持つと、こんな風に家計とお金に厳しくなるんです!
「まぁ、それはさておき。お前ら、食うと意思表示してんだから、ちゃんと食えよ?」
とはいえ、こんな風に真緒さんからも圧力に似たものをかけられてしまっては、食べるしかないだろう。しかしだ…………どれを取ればいいのかわからない。えっと…………白皿より赤皿、赤皿より銀皿、銀皿より金皿が高いんだね。
「じゃあ、一夏。そこの甘海老取ってもらえる?」
「う、うん、わかった。じゃ、私はこれに——」
「「ちょっと待ったァッ!!」」
「ぴゃんっ!?」
な、なに!? ちゃんと新しいお寿司を取りましたよ!? 皿も私一人の分としては二皿目のやつですよ!? なんかまずい事でもしちゃいましたか!?
「なんでまたカッパ巻きなんだよ!? 他にもあるだろ!?」
「で、でも、白皿以外は値段が…………」
「子供がそんな事気にしなくていいんだぞ? もっとちゃんと栄養のあるやつ食わねえと、部隊の連中に示しがつかねえだろ」
「じゃ、じゃあ納豆巻きで…………」
「なんでそうなる!? もっとこう…………魚を食え! 浩二、トロサーモンと中トロ、それに紋甲イカと牡丹エビをこいつに食わせてやれ!」
「お前に言われなくてもそうしてやる! さらに俺はそこにエンガワとヒラメ、穴子を追加だ!」
…………や、やばいんだけど…………本当にやばい事になってしまったんだけど…………! わ、私の目の前には既に白皿などはほとんど無く、色付きの皿…………金皿はまだないようだが、それでも赤皿がほとんどを占め、銀色の皿に乗せられたマグロのお寿司がこれでもかと存在感を放っていた。怖い…………これだけで既に相当な額になっていると思うんだけど…………やばい、考えただけで目眩がしてきそうだよ。
「さぁ、食うがいい、一夏よ。俺が選ぶ寿司界の王道達だ」
いや、大尉…………そんな風に言われても本気で困るんですけど…………。とはいえ、一度取ってしまった皿は戻せない以上、食べるしかないのだろう。というか、なんだろ…………私の目には目の前のお寿司達が輝いて見えるような気がする。…………とりあえず、いただくとしますか。そんなわけで一番目に手にしたのはなんか大葉の上に乗った白いひだひだののようなネタ。確かエンガワとか言ってたっけ。スーパーの安物でも一つだけ入ってることがあったようななかったような…………まぁ、食べてみない事には始まらないか。
(…………なんじゃこりゃ!? かなり美味しいんですけど!?)
口に入れた瞬間、もう何かが一瞬にして振り切れたような気がする。お寿司ってさ、美味しいって事は知ってたけど、やっぱこっちの方が断然美味しいです。なんかみずみずしい感じがするし。そんな事を考えているうちに、皿の上に残っていたもう一つを口の中に運んでいたよ。
「はふぅ…………美味しいですぅ…………」
思わず顔がほころびそうになる。そんな私を見てなのかどうかはわからないけど、葦原大尉と真緒さんの表情もなんだかいつもよりも優しい感じのものになったような気がする。しかし、今の私は食べる事に夢中であんまり気にしていなかった。
「おお、そうかそうか。そいつは良かった」
「お前のその笑顔を見れただけで、連れてきた甲斐があったってもんだぜ。なぁ、浩二?」
「そういう事だな」
箸を止めて二人の会話を聞こうと思うたけど…………いや、もうこれダメだ、箸が止まんない。贅沢はあんまりしたくはないけど…………でも、今日くらいは少し贅沢したっていいよね? バチが当たったりしないよね? そんな事を思いながら、私は手に持っていた穴子の皿を空けていたのだった。うーん! やっぱり美味しいです!
◇
「…………あーぶねー、また愛が噴き出るところだったじぇ…………」
「雪華、口調口調。また壊れかけてるよ?」
「おっと、危ない危ない」
お昼ご飯を葦原大尉と真緒さんに奢ってもらった後、私達は当初の目的である水着を買いに来ていた。とはいえ、どういうのがいいのかよくわかんないんだけどね。ほら、水着なんてそうそう選ぶ機会ないし。着水訓練は戦闘服とかでやってたし、挙句脚の傷の事もあるから尚更である。そもそも水着ってほとんどミニスカートみたいなものじゃん…………どうやってこの太腿まである傷跡を隠せと。いや、いつも通りニーソで隠すしかないのはわかってるよ。
というか、さっきから雪華が何やら壊れかけているんだけど…………出かける前の大量出血に近い状態に陥らなきゃいいけど。てか、なんでそんなに鼻血が出そうになるわけ? 新手の病気? もしそうなら病院送り確定だよ?
「それにしても、一夏はどんな水着にするの? 愛しの彼を一撃必殺できるようなやつ?」
「な、ななな、何を言ってるの!? そ、そんな弾に見せる予定は今のところ…………」
急に何を言い出すの、この子は!? お陰で顔が今ものすごく真っ赤になっていると思うんだけど! …………ま、まぁ、でも弾に見てもらいたいなぁって思いはあるよ。けど、そんな余裕なんてきっとないと思う。私達は夏休みも任務に就いてなきゃいけないわけだし、休暇もこれ以降は暫くは本気で取れないだろうし、そう簡単に遊びにいけるわけない。うぬぅ…………そう考えたら、なんだかちょっぴり寂しく思えて来たよ。
「あーあー、お熱いことで。いっそ彼に見てもらって決めたら? それなら万事解決じゃない?」
「…………あのさ、今日は一応平日だよ? 休日な訳じゃないんだし、弾は普通に学校があるから無理だって。邪魔はしたくないもん」
「…………ほんと、真面目だよね、一夏って」
いやいや、常識的に考えてそうでしょ。学校がある中で、授業中にケータイでもいじっていたらどうなるのか。下手したら弾が留年してしまう。中学の時も、私も人のことあんまり言えない立場だけどさ…………弾の成績、かなりやばい感じだったし。だから、これ以上下げさせるわけにはいかない。それに、この間電話した時はそろそろ期末試験って言っていたし、尚更邪魔はしたくないかな? お互いにやり取りは控えるって事に決めたし。
「まー、でも、何れにせよ決めないといけないでしょ。第一、なんか一夏が大尉とどっか行っちゃってたし」
「ああ、あれね…………まぁ、ちょっとモノ選びを頼まれちゃったから、断れなくてさ…………」
実を言うと、あの回転寿司店を出た後、葦原大尉に頼まれてある場所へと付き合わされたのだ。なお、雪華は真緒さんと話に夢中になってたから、私達が離脱した事には気づいてなかったけどね。で、その付き合わされた場所っていうのが…………アクセサリーショップだったんだよ。
◇
『なぁ、一夏。ちょっと聞きたいことあるんだけどさ、いいか?』
『どうかしたんですか? …………流石に学園の生徒の写真を撮って来てとか言う気じゃないでしょうね』
『悪いが、今日はその話はナシだ。というか、マジでその系統の話じゃねえんだ』
『じゃ、どういう用件なんです? しかも、なんか大尉とは縁のなさそうな場所にまで来て…………』
『いや、婚約指輪を探そうかと思ってな。女ってどういうのが好みなのか、ちょっと参考にまでさせてもらおうかと』
『…………大尉? エイプリルフールまではあと半年以上もありますよ?』
『バーカ、誰が嘘なんてつくかよ。で、お前さんの好みはどうなんだ?』
『そ、そんな事を急に聞かれても…………わ、私にはわかりませんよ。でも…………大尉がその人に合っていると思ったら、それでいいんじゃないですか?』
『結局はそうなんのな…………まぁ、この辺のシルバーリングにしておくか。彼奴、シンプルな方が好きだろうしな』
『というか…………誰にそれ渡すんですか? こんな事を言うのはなんですけど、大尉が選びそうな人があまり出てこないので…………もしかして民間人ですか?』
『いや、普通に軍のやつだ。お前も会ったことあるぞ』
◇
…………というやり取りがあったんだよ。いや、本気で驚いた。まさかあの葦原大尉が誰かと結婚を決めるなんて…………前は誰も来ないとか言って嘆いていたのに。でも、相手は誰なんだろ…………私もあったことがある人…………? 基地のオペレーターの人かな? それとも整備班? まさかまさかの真緒さん…………は無いか。葦原大尉とは国防軍の前身組織である自衛隊の時に同じ部隊にいたそうだけど、それだけだって言ってたし。うーむ…………本当にわからない。
「うん? 一夏、どうかしたの?」
「あ、いや、なんでもないよ。ちょっと考え事してただけ」
どうやら私はその事が頭から離れないようだ。現に雪華に話しかけられるまでずっと考えてしまってたし。しかし、この事は誰にも話せないのだ。葦原大尉からの命令でね、この事は他の人には絶対に喋らないようにしてくれって言われてるんだよ。勿論、喋ったら懲罰があるようで…………それだけは避けたい。だから、私は雪華になんでもないかのように答えた。
「そういえば、雪華はもう決めたの?」
「私はこれにするよ。サイズも丁度いいし、色も気に入ったしね」
そう言って雪華が手にしていたのはダークブルーのビキニタイプの水着だった。…………そういえば最近大きくなったとかなんとかって言ってたから、恐ろしいくらい似合うのだろう。しかも、雪華はその名前の通り雪のように綺麗な白銀の髪を持ってるからね…………ちょっと想像してみただけで似合ってると思ったよ。
「へぇ〜、いいじゃん。似合ってると思うよ」
「一夏がそう言ってくれるなら間違いないね。それじゃ私の買い物はこれで終わりかな。一夏は決まった?」
「あ、あはは…………全然決まらないよ」
いや、あるにはあるんだけどね…………こう、なんて言うか、今ひとつピンと来ないんだよ。どうせ海に入んないわけだし、それに日焼けもしたくないわけだし…………私の要求仕様を満たすものがない。この辺だけはどうしても妥協ができなかった。いや、無かったら無かったで代用案考えるけど。でもなぁ…………もしかしたらこの辺にはないのかもしれない。他にないのかなと思って周りを見渡してみる。すると、私の目にはある広告が飛び込んできたのだ。『現品限り、20%OFF』の貼り紙が。これは行かねば…………!
「ちょっと雪華、私向こうの方見てくるね」
「おー、いってらっしゃーい」
そんなわけで、私はあの貼り紙が出してあったところへと向かう事にした。どうやら、ここにあるのは全て去年のデザインのものらしく、在庫の処分セールみたいな感じになっているようだ。とはいえ、それでも二割引になっているという事の方が私にとっては大きく、デザインが少し古いと言われてもなんとも思わなくなってしまってるのだ。というか、みんな普通にデザインはいいと思うんだけどなぁ…………どうして新しいものばかりに気が惹かれてしまうのだろうか。
ともかく、今は私の目ぼしいものを探す事にしよう。さっきからずっと探しっぱなしだし、そろそろいい加減決めなきゃいけないような気がするしね。
(あっ、これなんかどうだろ?)
手にしたのは白の水着。だけど、なんか色々ついたセット商品のようである。しかも、そのどれもが私の要求仕様を満たしているではありませんか! 値段は…………うーん、二割引になっているとはいえ少しだけ値段はするね…………でも、色々ついてこの値段と考えれば妥当かも。よし、ならば雪華に見てもらってから買う事にしよう。多分、これなら何も文句は言われない…………はず。
◇
「雪華ー、こっちは準備できたよー?」
「…………今度こそいかがわしい格好してたり、煽情的な格好をしてたりしないよね?」
「…………雪華の主観で言われても私にはわからないよ。多分、大丈夫だとは思うけどさ」
「うーん…………まぁ、見てみないことには始まらないか。おっけー、それじゃオープン」
そんな雪華の声を合図に、私は試着室のカーテンを開けた。今回私が選択したのは白のビキニタイプの水着。あんまり派手な装飾がないから落ち着いた雰囲気がする。さらに、これには同色のパーカーとパレオが付いている。日焼け対策もしっかりと考えられたものだよ。
「ど、どうかな?」
しかし、雪華の反応がない。私の方をずっと見つめ続けている。え、ちょ…………もしかして、立ったまま気絶したとかそういうオチだったりしないよね…………? 念のため、目の前で手をかざしたりしてみた。うーん…………反応は今ひとつ。そんな風に思ってたら、いきなりびくついて再起動する雪華。…………一体何があったんだろ?
「っ! 思わず見惚れてしまったよ…………てか一夏、その水着似合いすぎ」
「え? そ、そうかな?」
「うん。これ以上ないくらい似合ってる。残念なのは生脚じゃない事くらいかな…………まー、でも、白の水着パーカーに黒ニーソの組み合わせも悪くはないね。眼福眼福」
何やら顎に手を当てて納得したような感じの雪華。どうやら、この格好は大丈夫だったようだ。それを聞いてホッとしたよ。これでダメだったら本当何を選んだらいいのかわからなくなりそうだったもん。
「で、一夏。サンダルとかはどうするの? 流石に砂浜をニーソで直接歩くわけにはいかないでしょ」
「別にサンダルを買うほどじゃないかな、って。ほら、学園の内履きの予備とかあるし。それで十分かなって——」
「——わかった。それじゃちょっと見繕ってくるからそこで待ってて」
「いや全然わかってないでしょ!?」
そう私が言うも時すでに遅し。雪華は謎の足の速さを発揮して、何処かへと消え去ってしまった。というか、わかったと言っていながら、私の考えを完全に否定したでしょ!? やっぱり内履きじゃ頼りないか…………せめて運動靴あたりが丁度いいのかな。一人残された私は雪華が戻ってくるまで、そんな事を考えていたのだった。いや、ぶっちゃけお金とかあんまり掛けたくないし。
「一夏、これなんかどう? その格好ならこれが似合ってると思うよ」
どうやら全力疾走してきたと思われる雪華が私の前に現れた。手には一足のサンダルが持たれており、本当に見繕ってきたようだ。いや待って。それって…………どう見てもなんか高価そうなやつだよね!? 大丈夫なの、それ!?
「ささ、試しに履いてみてよ」
雪華の言われるがままに、足元に揃えて並べられたサンダルへ足を入れた。まさかのヒール付きという事に驚くが、なんだか履き心地はいい。つま先あたりにある小さなリボンのデザインも可愛いし、割といいやつかも。後は、足首辺りでストラップを留めて、と。あんまり履いたことのないヒールに、思わずバランスを崩してしまいそうになるけど、いつもの訓練のお陰か、体幹はしっかりしていたようで、大きくバランスを崩すことはなかったよ。砂浜で歩いたらどうなるかは全然わかんないけど、今の時点ではいいものだね、これ。
「…………完全にグラビアアイドルやんけ」
「うん? 何か言った?」
「べっ、別に何も? それより、どう? 感想は?」
「うーん、そうだねぇ…………やっぱりなかなかヒールは慣れないかな。でも、つま先辺りのリボンが可愛いし、折角雪華が選んでくれたんだから、これも買う事にするよ」
買う事に決めたのはいいが…………私のお財布は一足早い冬に突入するかもしれないね。下手したら氷河時代にまで遡ってしまうほどかもしれない。…………当面はご飯と漬物だけで頑張ろ。とりあえず、付いていた値札をチェックし——えぇぇぇぇぇっ!? こ、これも現品限りセール対象!? しかもこっちは三割引で買えるの!? どうやら私と割引はなんらかの運命があるのかもしれない。これでお財布の中に大寒波が来る事はないと思うよ。…………それでも当面の間は白ご飯と漬物だけで頑張る事になると思うんだけど。てか、お給料銀行からおろしてこなきゃ。
「それじゃ、着替える前に一枚ポチッと」
ちょっと考え事にふけっていたら、なんかケータイのシャッター音が聞こえてきたんだけど…………よく見たら雪華が私にケータイのカメラを向けていた。って!
「ちょっとちょっと!? 何勝手に写真撮ってるのさ!?」
「え? いーじゃん一枚くらい。記念に押さえておこうかなーって。…………ついでに私の一夏フォルダを潤したいし」
「最後何か言った…………?」
「いや、何も?」
何故だろうか…………今の雪華の言葉はなんだか信用できそうにないんだけど。ひとまず、この水着達を購入するべく、着てきた服に着替える為に私はまた試着室の中へと入ったのだった。
◇◇◇
(さてさて…………一丁仕事をやってみるとしますか)
学園へと帰った私——雪華——は早速ある事をしようと考えていた。丁度一夏は今この場にいない。というのも、今日出かける時に、通学用のローファー無くしちゃったからね。新しいやつを注文、受け取りに事務局の方へと行ったんだよ。…………今になって、あのシンデレラ状態の一夏も写真に収めておけば良かったと思ってる。あれはあれでなんか色っぽい感じだったし。それを言ってしまったら朝のあのスク水ニーソなんてモノを持ち出した一夏の姿も撮っておけば良かったと思ってしまう。…………いや、やめておこう。アレは理性が完全に壊れてしまう。ついでに館山基地の一夏清純派に尋問されるかもしれない。あ、私は一応清純派だよ。てか、清純派が一大派閥だ。…………まあ陰ながらやばい方の派閥もあるそうだけど。
とりあえず、今はやらなければならないことをやるとしよう。そう思った私は机の上に置きっ放しとなっている一夏のケータイに手を伸ばした。しかも、画面ロックにはパスワードが全然かかってない。…………無用心すぎでしょ、これ。いや、友軍が同じ部屋だから気を抜いているのか。だからと言ってパスワードをかけないのはどうかと思うけど。でも、今の私には都合がいい。…………一夏、敵ってのは味方の中にも潜んでいるんだよ? 指紋をつけないように手袋をはめ、私は一夏のケータイに手を伸ばした。
(さーて、例の情報はどこにあるのか…………お、発見発見)
一夏のケータイをいじり始めてから一分も経たずに、私は例の情報を見つけることができた。いやー、なんとわかりやすいところに置いてあるのやら。あとはこの情報を私のケータイへとコピーして、と。これで下準備は完了ってところだね。
(ふふふ…………一夏、悪く思わないでよ。これも仕事のうちなんだからね)
あとは一夏にバレないよう、ケータイの位置を戻して、例の情報を利用して情報を送って完了。ふぅ…………一夏が戻ってくる前にできて良かったよ。バレたら…………どんな目に遭わされるのかわかったものじゃない。一夏、普段はなんかほわ〜んとした雰囲気だけど、怒った時は本当に怖いんだよね…………しかも、やばい時は冷え切った笑顔で怒るから余計にだ。念の為、バレることがないようにと、私は心の中で祈った。
「ただいま〜」
「あ、おかえり一夏。ちゃんと受け取りできた?」
「まぁね。でもさ…………流石にこれで新しく頼むの二回目だからさ、事務局の先生に怪しまれたよ。いじめでもされてるんじゃないか、って。前はそうだったかもしれないけど、今回は別にそんなことじゃないんだけどね」
「まぁアレは完全に事故だったし。でも、もし一夏に手を出したらその周辺が全力で潰しにかかるから…………特にエイミーとか」
「あ、うん…………けど、なんか容易に想像できた私もどうかしてると思うよ」
「そのうち一夏の信者が新たなる宗教を作り始めたりして…………」
「流石ににそれはないと思うなぁ。じゃ、そろそろ夜ご飯でも食べに行こっか」
「らじゃー♪ で、一夏は何にするの?」
「…………白ご飯と沢庵かな。学園のキャッシュコーナー、今日はメンテナンス日だったからお金おろせなかったし」
「まさかの極貧!? それで大丈夫なの!?」
「明日の昼まではなんとか持たせるよ…………それまでには終わるそうだし」
「…………何か買ってあげようか? お金はその後で返してもらえればいいよ」
「…………部下に奢ってもらう上官ってなんなんだろうね」
◇◇◇
「あ゛ー…………やっと手伝い終わったぁ…………ん? メール? 誰からだ? 市ノ瀬…………? ——『どうも、一夏の部下の市ノ瀬雪華と言います。本日、素晴らしいものに巡り会えたので、共有できればいいと思い、この画像を送ります』…………? どういうことだ? ——って、こ、こいつは…………ッ!? お、おい! 蘭! ちょっと来てみろ!!」
「何よ、お兄。そんなに大声出さなくても聞こえてるって」
「いいから、黙ってこれを見てみろ…………やべえぞ、これ」
「…………お兄、ちょっと私部屋に戻る。やばい、一夏さんやばい」
「…………俺もそろそろやべえわ、これ」
「…………あ゛ーもう! 一夏可愛すぎんだろぉぉぉぉぉっ!! 会いてえ! マジでそろそろ会いてえよぉぉぉぉぉっ!」
『…………一夏さん可愛いぃぃぃぃぃっ!! あんな人が私のお義姉さんになるかもしれないとか、最高〜ッ!』
その頃、雪華の手によってとある画像を手に入れたある兄妹は、揃いも揃って喜びの叫びを上げていたのだった。
一夏の水着姿…………言わずとも、榛名改二の水着グラです。
今回はキャラ紹介及び機体解説は行いません。
感想及び誤字報告をお待ちしております。
では、また次回も生暖かい目でよろしくお願いします。