FRAME ARMS:RESEMBLE INFINITE STORATOS   作:ディニクティス提督(旧紅椿の芽)

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EXCEED様、bram様、評価をつけてくださり、ありがとうございます。



どうも、最近『一夏TSの人』と呼ばれてみたいと思ったりしている紅椿の芽です。



いやー、それにしても白アーキテク子とキューポッシュアーキテク子が予約始まりましたね。皆さん、お財布の用意は大丈夫ですか? 私はサイフのライフがゼロになったので多々買えない…………ヤクトがトドメを刺しにくるのだ…………。



さて、多々買えぬ作者は放っておいて、今回も生暖かい目でよろしくお願いします。





Chapter.41

『——ソレデ、アノ者ヲ休マセタノカ?』

「さぁな? あの真面目すぎる奴の事だ、無理やり仕事でもしてそうだ」

『人間トハ理解ニ難イナ…………何故素直ニ休マンノダ? 妾達ハ命令サエアレバ、ソレニ従ウマデダガ…………』

「その理解できないことをするのが人間なんだ。まぁ、あの職業病の奴だけは特殊かもしれんがな」

 

私——箒——は、アリーナにて模擬戦の相手を待っていた。ついこの間の戦闘で私の機体であった妖雷は完全に破損してしまい、修復よりも新規に組み上げた方が低コストであると告げられてしまった。それに関しては仕方ないと割り切るほかない。寧ろ、あの状況でそこまで持ってくれた機体の方に感謝せねばならん。だが、機体がなくては私が任務に従事できないというのも事実である。その為代理の機体を使うつもりでいたのだが…………都合よく新たな機体が来た。それが、今私が装備している[NSG-Z0/G-AN]、マガツキ・裏天である。まぁ、偶然にも鹵獲というか、意気投合したというか…………何れにせよ月面軍の機体ではあるのだが…………一夏がアーテルと戦闘している際に、援護しようと考えていたら、こいつを纏っていた。敵の機体に乗れること自体驚いてしまうような状況だったが、それ以上にこの機体のコードが友軍コードへと書き換わっていたのだ。以前の機体以上に馴染むマガツキを事実上鹵獲したわけだが…………上層部からの指示は『敵機体の運用データ採取』だった。バラして研究などではない、私が扱ってデータを取れとの事だ。予想していなかった回答に、思わず西崎大将に直接聞くことにしたのだが…………答えは全く同じ。暫定的に私の機体として扱われることになったのだった。

 

『シカシダ…………ヨモヤ貴公ガ妾ノ乗リ手トナルトハ…………思ッテモイナカッタゾ』

「それはこちらの台詞だ。再び共闘する事になるとはな…………運命とはわからないものだ」

『違イナイ。ダガ、貴公ニナラバ妾ヲ預ケテモ構ワヌ。上手ク扱ウガイイ』

「ははっ…………あまり期待はしないでくれ。私はまだ未熟者だ。精々機体を潰さないよう頑張らせてもらうさ」

 

実際、私はまだ乗り始めて二年も経ってない。操縦技術に関しては皆より劣る。特に一夏と比べてしまえば天と地ほどの差があると言っても過言ではないだろう。あれほど自在に操れるのだからな。それでも訓練を増やそうとするのは奴が真面目だから故なのだろう…………尤も、それを止めなければ過労で倒れてしまうかもしれないんだがな。だからこそ、今回無理にでも先に休ませようとしたわけだ。そうでもしなければ、あいつは本気で過剰労働で倒れるぞ。その事には他の面々も同意だった為、無理矢理休暇にさせてやったのだ。まぁ、三日全て休んだところで誰も文句は言わない。寧ろそうさせるべきだという声もあったくらいだ。それだけあいつは——一夏は愛されているのだろう、そう私は思った。

 

『何ヲ思ッテイルノカ分カラヌガ、貴公ノ相手ガ参上シタヨウダゾ』

 

裏天の言葉を受けて私は思考を一度切り離し、現実へと目を向けた。目の前には様々な機体が存在している。黒い輝鎚、蒼いラピエール、橙色のフセット…………色の統一性など皆無だ。尤も、防衛戦主体であり、迷彩の通用しない相手が相手なのだから、パーソナルカラーで染め上げても問題はないのだろう。かく言う裏天はさらに目立つ紅色だ。隠密性など全くもって考えらていない。さらに言えば、外観はまさしく鎧武者。これを作った者は余程趣味丸出しで作ったのかもしれんな。…………どうやら、月も地球も開発陣はアホしかいないと言う事に関しては共通してるようだ。

 

『さて、模擬戦を始めるのはいいが…………本当にお前一人でいいのか?』

「ああ、構わないさ。驕っているわけではないのだが、此奴の力というものを試してみたくてな。私が振り回されないよう、慣熟訓練せねばならん」

『だからと言って、流石に三対一じゃ箒が不利なんじゃ…………』

「何を言うか。不利な状況程燃える展開などないだろう?」

 

橙色のフセットに搭乗するシャルロットへ、私はそう返答した。どうにも私は男勝りな性格なようでな…………そのような危機的状況ほど身体が力を帯びてくるような感覚に襲われるのだ。不謹慎ではあるが、その感覚につい虜になってしまった。尤も、実戦では常に命がけであるが故に、気分が昂ぶってしまうような事もある。どうやら私は相当、戦場に毒されてしまったのだろうな。

 

「それよりもだ、セシリアの奴は戦えるのか? どうやら先ほど大量出血をしたそうじゃないか」

『それも一夏の部屋でな。人間があそこまで大量の血を流す光景を、こんななんでもない平和な時に見るとは思わなかったぞ』

『し、仕方ありませんわ! あ、あれは一夏さんがとても素晴らしい格好をしていたからであって…………』

『…………寧ろ僕はここまで回復しているセシリアに驚きだよ。床に広がった血のシミを取るの大変だったんだからね』

 

なんでも、セシリアと雪華が何故か大量に鼻血を出して倒れてしまったそうだ。現在ではラウラとシャルロットの手による輸血が功を成し、普通にしてはいるようだが…………一体それほどまでの被害を出した一夏の格好とはどのようなものなのだろうか? 割と姉さんの手によって様々な服に着せ替えさせられていた一夏を見てきた以上、私は動じないとは思うが。

 

『んんっ! み、皆さん! 今日の目的は箒さんの慣熟訓練ですのよ!? 私を弄り倒すのが目的ではありませんわ!!』

「まぁ、それはそうだな。終わってから弄り倒すとでもするか」

 

あんまりですわ!? と嘆き、スナイパーライフルを杖代わりにしてるセシリアの言葉を無視し、私は武装の一覧を確認する。背部と腰部のウェポンラックにはこの機体に装備されている武装が搭載する事が可能だそうだ。量子化された中身はエネルギーコンデンサがほとんどを占めているが、格納可能なのは大弓である可変ベリルショット・ランチャー[ウガチ]、大太刀のベリル・スレイヤー[ハバキリ]、そして長槍のベリル・スピア[カゲツ]。そう、武装の殆どが格納可能なのだ。とは言え、背部ウェポンラックで補助武装扱いとなっている脇差の近接要撃刀[サツガ]ですら、我々が扱っていた日本刀型近接戦闘ブレードを越えるリーチを有しているのだがな。取り回しに優れるとしたら腰部ウェポンラックにある近接投擲短刀[アマクニ]だろうか。

 

『ならそう言う事にしておこう。各員、弄る為の弾薬(ネタ)を用意しておけよ』

 

そう命令を下すラウラは両手に重機関砲を装備していた。まぁ、装甲と武装に関しては他の追随を許さぬ輝鎚だからな。しかし、私とてその程度で怖気付いては、国を正す刀としての第零特務隊、その一員である事への意識に対して反く事になる。私も武装を展開する事にした。選択したのは大太刀であるハバキリだ。無論ベリルウェポンとしての能力はカット済みだ。もう一つは左手に装備した大弓ウガチ。弓を広げ、その中心に備え付けられた砲口を露わにさせた。ベリルショットとしての機能はカットしてあるが、代わりに模擬弾としてのダミーレーザーを照射できるそうだ。

 

『うわぁ…………こっちの方が数は多いのに、なんか勝てる気とか全然しないけど…………でも、ヴェルちゃんに相手にされなかった分の八つ当たりさせて貰うね!』

「素直でよろしい、シャルロット。お前は後で特別教練だな。隊長に教わった死ぬほど辛い奴をさせてやる」

『そ、そんなぁ!?』

 

素直になるのはいいが、時と場合によるぞ。私は両手にアサルトライフルを装備した彼女に対してそう警告した。そう言うのは、思っていても心のうちに留めておくのが正しいのではないか? 私にもよくわからないが。

 

『ところでだ、始める前に聞いておきたい事があったのだ』

「どうしたラウラ?」

 

急にラウラが私へと質問をしてきた。一体何の用事なのだろうか? 少なくともこの模擬戦に対するものではないだろう。それに関しては昨日のうちにしっかりと話は通してある。

 

『なに、一夏についてのことだ。あいつ、しっかりと休暇を取っているのだろうかと思ってな』

「ああ、それなら心配するな。つい先程、雪華と共に寮を後にして外出したそうだ。ここまできたら大丈夫だろう」

『そうだな。——では、その調子で明後日まで頼むぞ』

「了解だ。任せておけ」

 

尤も、一夏の事だから仕事に復帰するとか言いそうだがな。だが、それはさせんぞ。お前にはたっぷりと休暇を過ごしてもらはなければならん。それが、我々ができるお前への礼みたいなものだ。

 

「話は以上か?」

『ああ、そうだ。今度こそ模擬戦を始めるとしようか』

「そうだな、時間も押している。早く始めるとしよう」

 

もう話すネタは残ってない。実戦と同じように、攻撃はいつ始まるかわからない。それが私の緊張感を良い意味で高めていく。私は一度深呼吸を行った。準備は整った。ならばやる事はただ一つ。

 

「——行くぞ」『——イザ、参ル』

 

私は裏天のスラスターを全て解放、一気に距離を詰めるべく、あの三人めがけて突き進んだのだった。

 

◇◇◇

 

「悪いな、せっかくの休日なのにさ」

「気にしなくて良いわよ。私もこの機体のデータを取らなきゃだしね」

 

私——鈴音——は秋十と共にアリーナにいた。いつもならバオダオを装備しているところだけど、今日はちょっと違う。私にはいくつかの任務が同時に課せられている。そのうちの一つに学園へ派遣されている部隊への合流がある。でもそれとは別にもう一つ…………機体のデータ取りがあるのよ。それも、フレームアームズじゃない…………ISのね。今私が装備しているのは、中国第三世代型IS[甲龍]。イメージ・インターフェイスを搭載した第三世代兵装の試験機よ。機体の構成、バランスについてはフレームアームズと同じような物だけど…………この常に浮いているような感覚というものは慣れない。人は地面から離れる事はできないんだと、身をもって感じたわ。

 

「にしても、なにやら物騒な雰囲気の機体だよな、それ…………その肩のスパイクでぶん殴ったりしないよな…………?」

「心配しなくて良いわ。まぁ、タックルくらいなら使えるかもしれないわね」

「心配する要素しかねえよ!? お前は俺を殺す気か!?」

 

なにやら騒いでいる目の前のアホは放っておくことにしようかしら? どうせこの後は模擬戦でさらに騒がれるだろうし。あいつ、訓練はしてるようだけど、未だにリアクション芸人並みの反応をしてくれるのよね。まぁ、見てる分には面白いから良いんだけど。

そんな風に思ってる時、近くのアリーナからなにやら物騒な音が聞こえてきた。そっちの方に目をやれば、なにやら上空に向かって尋常じゃない弾幕が張られていたり、レーザーが飛び交ったり、爆発が生じたりと…………凡そ模擬戦の域を超えたナニカが行われているようだった。…………あっちの方に参加しなくて良かったような気がするわ。私の代わりに連れていかれた新兵同然のシャルロットには内心合掌しておこう。

 

「…………なんか、向こうを見てたらこっちが平和に思えてきたんだが…………」

 

実際のところ本当に平和そのものなんだから、秋十の意見には賛成する。私が実戦を経験したのがちょうど半年前、それ以降は試験任務とか前線から離れた仕事が多かったからあまり経験はしてないけど…………それでも、ここが平和だって事だけは言える。あんなにも命が簡単に消えていくような場所はこれ以上増えなくていい。

 

「…………そうね。それじゃ、私達もあいつらに負けないように派手にやるわよ!」

「うっそだろおい!? ちょ、タンマ! タンマだタンマ!!」

「タンマ無し!」

「オーマイガーッ!!」

 

そんな風に叫ぶ秋十を余所に、私は両手に青龍刀を展開、一気に斬りかかった。なんとか反応はできたようで、秋十は両方の青龍刀をロングブレードである雪片で受け止めている。うーん、やっぱり出力がバオダオより低い感じがするわ。同じように青龍刀を振り下ろしたけど、いまひとつパンチが足りないのよね。

 

「あら? 叫んでいた割にはよく受け止めたじゃない」

「アホか!? 死ぬかと思ったわ!! お前は俺を三枚おろしにする気か!?」

「いやいや、そんなつもりはないわよ。もしかして、肉叩きの方がお好みかしら?」

「んなわけある——ぐえっ!?」

 

接近していた秋十を甲龍の第三世代兵装である衝撃砲で吹き飛ばした。しかし、衝撃波とはいえ、空気の塊でしかないからそんなにダメージないと思うのよね。これなら重レーザー砲の方が明らかに充分威力は上だ。…………なんか、評価するにあたって、全部バオダオと比べてる気がする。

 

「さぁ、まだまだ続くわよ!」

「俺はモルモットかよぉぉぉぉぉっ!?」

 

悲鳴にも似た叫び声を上げながら、衝撃砲を避けようと必死になる秋十。全く…………私に反撃くらいしてみなさいよ。なんで一夏の前なら格好良くなるのに私の前じゃそんな情けない感じになるのやら…………もう少し、その引き締まった格好良い表情を私に見せなさいよ…………バカ。

 

◇◇◇

 

「全く…………お互い派手にぶっ壊しやがって…………」

 

アメリカ軍横須賀基地にて、私——エイミー——とレーアは目の前の男性から小言を貰っていた。というのもだ、前回の戦闘で両方の機体を派手にぶっ壊してしまったのが原因だ。レーアは背部の推進ユニットの喪失にACSクレイドルを半分以上破壊され、私に至ってはオーバーロードによるアーキテクトの歪みに複数箇所の装甲ブロックが損傷…………なんで戦闘を継続できていたのかが不思議に思えてくるような状態である。そんなわけで、修理する必要ができ、なおかつ軍から基地への出向命令が出た為、無理を言って此方へと来たわけだ。

 

「全くもって返す言葉がない…………」

「本当にすみません…………」

「別に責めてるわけじゃねえんだけどさ…………あー、改造権限俺も欲しーなー…………」

 

さっきから小言を言いながら嘆いているこの男性は、レオナルド・ドルーリ技術少尉、通称レオ少尉。所属は米海軍第七艦隊整備班だ。私達が学園への派遣部隊に選定された時、この基地での専属整備士として彼があてられた。とはいえ、本人は改造権限と呼ばれる、機体の強化改修に関わる権限を持ってない事が相当不満なようだ。確かに、改造権限がない人は強化改修ができないという軍規定がある。つまり、レオ少尉には強化改修ができないというわけだ。

 

「仕方ないですよ、そういう軍規定なんですから」

「と言ってもなぁ…………どう見たって強化改修した方が手っ取り早いレベルだぞ、これ」

 

既に私たちの機体は、損傷した部分のパーツが取り外され、一部アーキテクトが剥き出しとなっている。私の機体に至っては両腕のアーキテクトが交換済み。確か、試作のアーキテクトだったはずだから、本国辺りから取り寄せて交換することになったのだろう。何れにせよ、前の状態に修復するのは厳しいかもしれない。

 

「何をどうやったらこのグリズリーの腕アーキテクトがオーバーロードなんて引き起こすんだ、エイミー。どう考えてもあのデカい拳が原因だろ?」

 

ひ、否定できない。実際、オーバードマニピュレーターの負荷は尋常じゃなく、何度か軋みを上げるレベルのものだ。それを無理やり取り付けて扱っていた上に、地上戦としては激しい動きをしていたから、限界を超えてしまったのかもしれない。さらにそこにブルーパーのシールドを無理矢理取り付けているから、さらに負荷は大きいはずだ。…………こんなバランスの悪い機体でよく今まで生きてこれたと思った。

 

「しっかし、本当にどうしようかねぇ…………エイミーの方はアーキテクトの換装待ち、レーアに至っては交換用パーツが不足…………これ、少なくとも後一週間はかかるぞ?」

「流石に対地攻撃型のスティレットはブルーオスプレイズ(米海軍第七艦隊所属第八十一航空戦闘団)本隊に最優先か…………」

「そりゃ仕方ないさ。今のお前は陸の四十二機動打撃群なんだから」

「でも、一週間は待てないですよ…………せめて三日なら」

「改造権限さえあれば、すぐにでも組み上げられるんだけどなぁ…………ほら、マクディネル・ドゥレム社での研修でそこそこ技術は身につけて来た整備班一同いるし」

 

そう言ってレオ少尉が親指で指した方向には、私たちの機体の状況チェックをしている、何やらガタイのいい男達が勢揃いしていた。整備より前線にいる方が自然なんじゃないかって言えるくらい、皆さん筋骨隆々だ。

 

「…………まぁ、でも上の決定ですから。諦めて待つことにしますよ」

「そうだな…………それまでの間は生身で任務をこなすか」

 

とはいえ、機体がなければ仕事ができないというのも事実だ。フレームアームズは私達の商売道具であり、自身の身を守る鎧でもあり、人々を守る剣でもあるのだ。生身でアントとやりあうなんて事だけは考えたくはない。どう考えても小銃程度で勝てるような相手ではない。一先ず、今日のところは学園へ戻って任務の続きを開始しようかと思った時だった。

 

「おー、レオ。ここにいたか」

「ん? なんだよおやっさん。また俺にタバコ買ってこいとか言うんじゃねーだろうな?」

 

レオ少尉に話しかけて来たのは、どうやら整備主任のようだ。って、レオ少尉!? 主任にそんな口聞いて大丈夫なんですか!? その人、どう考えてもあなたより階級上ですよ!?

 

「んなわけあるか。先月から禁煙してるの、お前ならわかるだろ」

「いや知らねーし。しかも、月末に死ぬほど吸いまくってたじゃねえか。ヘビースモーカーってレベルじゃねーぞ、あれ」

「そうか? 俺にとってあれは普通なんだが…………まあいい。とりあえず、お前さんに伝えることがあったんだ」

「タバコじゃねえなら…………酒か? もうあのテキーラ飲みきったのかよ」

「そいつは後でだ。さっき四十二機動打撃群のボスから連絡があってな。お前さんに改造権限を譲渡するそうだぞ」

「ふーん、なんだ改造権限が俺にも来るのか——って、はあぁぁぁぁぁっ!?」

「というわけで、あの二機はお前さんに任せたぞ。第四倉庫の装備を自由に使ってくれ。そんじゃ用件は伝えたからな。シーユーアゲイ〜ン」

「お、おい待てよ、主任!? …………行っちまいやがった」

 

…………なんか物凄い会話の流れを見たような気がする。というか、さらっと流したけど、私達の所属する米陸軍第四十二機動打撃群の指揮官であるジェファーソン大佐からの命令って言ってましたよね!? 何がどうなってこうなったのか皆目見当がつかない。現状で唯一分かっていることといえば、レオ少尉に改造権限が与えられたという事だけだ。

 

「くっそ、あのオヤジ…………もっと詳しく話せよ…………状況わかんねえじゃねえか」

「え、えっと…………大丈夫ですか?」

「…………大丈夫に見えると思うか? とりあえず第四倉庫にでも向かうか…………」

 

後であのオヤジにノンアルコールビールを飲ませてやる、と謎の誓いを立てたレオ少尉の後を追って、私達は件の第四倉庫へと向かうことにしたのだった。

 

 

「こんなクソ辺鄙な倉庫に来たわけだが、純正セイレーンエンジンなんてあるか…………?」

 

第四倉庫へと到着した私達は早速中へ入ることにした。ここに来るまでかなりの距離があったんですよ…………なんでも、基地の中でも一位二位を争うかのレベルで辺鄙な場所に建っている倉庫だそうで。こんなところにまともなパーツが存在しているのか…………少々不安に感じてきた。

 

「ここにあるパーツ群は…………ゲェッ!? なんだこの気の狂ったラインナップはよ!?」

「ど、どうした!? なにかまずいことでもあったのか?」

「まずいも何も…………これを見てみろよ!」

 

そう言って私達にタブレット端末を見せてくるレオ少尉。どうやら端末にはここの倉庫に収蔵されているパーツ群のリストが表示されているようだった。だが…………そのリストを見ても、私には何が何を指し示しているのかはわからない。

 

「えぇっと…………これって…………」

「何が悲しくて取り終わった残り物か、誰も使わなかった誤発注のモンしか無えんだ! そりゃ、全部使えばイロモノになるのは分かってるけどよ…………幾ら何でもこれで修復はキツイじゃねーか!」

 

…………つまり、私達はある意味御蔵入りとなった物の終着駅に着いてしまったといわけなのだろうか。結構やばい雰囲気で頭をかきむしるレオ少尉を余所に、レーアは端末からパーツの吟味をし始めた。

 

「金がある軍ならではの失敗だろこれ!? なんでイオンレーザーライフルとセンサーだけを取られたキラービークにセンサーユニットとカナード翼をもがれたソリッドラプター、結局誰も使わなかったレイジングブースターとか…………俺はこんなイロモノパーツ供で何をどうしろと言うんだ!?」

 

…………まぁ確かに、ここにある装備は見た感じ一部の有用そうなパーツだけをもぎ取っていった残りみたいな感じがプンプンしている。その他にも何やら発注ミスで届いたと思われる機体のパーツや、頭のおかしそうな武装がこれでもかと転がっていた。どう見ても試作品のようなものまであるような気がするのは気のせいではないはずだ。こんな状況では、まともな機体を組めるのは無理だろうと、少ない知識ながらもレオ少尉に同情してしまう。

 

「なぁ、レオ少尉。パーツが決まったから見てくれないか?」

「うっそだろおい…………で、どんな感じに——まーじか、これ…………」

「どうかしたんですか?」

 

呆れ返るようなレオ少尉の声を聞いて、私もレーアが出してきたタブレット端末を覗いてみる事にした。そこに表示されていたのは…………結構正気を疑うような代物だったような気がする。

 

「…………s2-E型用のセイレーンがないから、ソリッドラプターのエンジンを積むのはわかる。二基積めば出力はほぼ同じレベルだしな。けどよ…………なんで脚をレイジングブースターに交換しようなんて考えた!? 被弾したら終わりだぞ!?」

「一応、素のスティレット並に装甲が強化されているようだがな」

「いやいやいや、そういう問題じゃねーから…………あとこれ、キラービークのウイングとノズル、それにスラスターパックを背負うのかよ…………」

「爆弾倉を使うにはそれなりの出力が必要だからな。いっそ爆弾倉を軽量なミサイルキャリアに変えてもらってもいいが、面倒になるぞ?」

「ハイハイ、分かった分かった…………で、それ以外のセッティングは今まで通りにするのか?」

「当たり前だ。人間工学を無視したレベルの強化もしてくれて構わないぞ」

「いや、人命無視な設計はしたくねーよ…………」

 

真面目でクールそうに見えるレーアだが、実を言うとかなりのスピード狂であったりする。この改造を聞いているだけで、前の状態より速度を上げているように思えてきた。

 

「はぁ…………うちの整備班が狂宴と化すなこれ…………それで、エイミーよ。お前さんはどーすんだ? ロクなパーツねえから選択肢はほぼねえけどよ」

 

レオ少尉にそう言われるも、本当にいいパーツがないからわからない。タブレット端末を受け取ってリストをチェックしていくが、特に興味を惹かれるようなものは…………あれ? これはどうなのだろうか? もしかすると使えるかもしれない。

 

「レオ少尉、これってどうなんですか?」

「うん? どれどれ——って! グラップラーガーディアン!? なんでこれがここにあるんだよ!?」

「えっと…………何かまずいものだったんですか?」

「…………フレームアームズ用のパワーローダー。パワードガーディアンを近接戦用に改良したやつなんだが…………コストが馬鹿高いってことで少数生産で終わっていたはずだぞ…………そんな珍品がどうしてこんなパーツの墓場にあるのやら…………」

 

…………どうやら相当凄いものだったようだ。とはいえ、私もこれをそのまま使う気は無い。

 

「…………で、これをどうすんの? そのまま使う気はねえんだろ?」

「あ、やっぱり分かっちゃいましたか。そうですね、クロー部分を取り外した腕をオーバードマニピュレーターと本体に接続してもらって…………」

「既に気が狂ってやがんなおい!?」

「あとは、脚部装甲をブルーパーへと変更、履帯はガーディアンのものを接続してください」

「…………整備班の狂宴に二次会が追加されてんじゃねーか…………」

 

レーアよりは大人しめだと思うんですが…………何故かレオ少尉は頭を抱えて唸っている。一応あと二つはパーツを選択できるようなので、折角だし選ばせてもらうとしよう。…………とはいえ、目ぼしいのは先程のグラップラーガーディアンとブルーパーの脚部装甲くらいであり、残りは少々微妙なラインだ。どうしようかと思い、タブレット端末から目を離しあたりを見回して見る。無造作に置かれたパーツ群が視界に入り込むが…………とある一角、そこに私の目は止まった。見た所小型ミサイルコンテナにアームでシールドが繋がれているように見える。なんなのかを確認しようとするも、端末のリストには記載されていない。

 

「レオ少尉…………なんですかあれ? リストにはなかったようなんですが…………」

「…………どれだよ全く…………ああ、あれか。あれは確か整備班が悪ノリして作った奴だったな。ミサイルコンテナと二本のフレキシブルアーム、そしてそれぞれについた小型機関砲付クローシールドの複合ユニットだ。そんでもって名前が…………『ブレイカーユニット』だったか?」

 

…………武装盛りすぎじゃ無いですか? 明らかに一機に積める武装の殆どをそれ一つが占めているように思えてならない。だが…………それで私の機体の力が強くなるのならば…………

 

「完成したのはいいが使えるやつがいないもんだし、そのまま放置されてたわけだ。で、それがどうかしたのか?」

「…………あれ、私の機体につけてもらえませんか?」

「…………誰かこの子達に常識というものを教えてあげて、マジで」

 

 

「よーし…………久々の改造だお前ら! しっかりオーダー通りの機体を仕上げろよ!」

「「「イェアァァァァァッ!!」」」

 

第四倉庫から戻ってきた私達は、早速機体の改造に取り掛かるという事となり、区画の隅からその光景をしばらくの間眺めていることにした。筋骨隆々な男達がやけにテンション高くなっているようだが…………余程改造がしたくてたまらなかったようだ。その熱気ぶりには少々ドン引きしてしまいそうにはなるが…………。

 

「それにしてもあのパーツ…………お前、よく選ぶ気になったな」

「あの腕、ですか?」

「違う違う。ブルーパーの脚部装甲だ。お前とブルーパーの関係は…………彼奴なんだろ?」

 

レーアはそう重々しい雰囲気で言葉を発した。やはり、レーアには気付かれていたようだ。無理もない。彼と一緒にいたのは何も私だけではない。レーアもその中に含まれるのだ。そう…………マーカス少尉の輪の中に。

 

「…………だって、私の命は彼によって救われたものですから…………彼の最期を見届けた私には、こうやって彼を忘れないようにする義務があります…………」

 

この間の戦闘で目撃したウェアウルフ・スペクター…………奴が現れたのがマーカス少尉の命日の前日だったのは、何かの因縁なのだろうか? 恐らく、私には…………彼の存在を忘れるわけにはいかないと、奴が教えにきたようにも、もう一度彼を戦場へ連れ戻したようにも思えてならない。しかし、前者であるなら…………私はその通りにする事を選ぶ。だからこそ、彼の愛機であったブルーパーの装甲パーツを私の機体に取り付けてもらうのだ。それに…………同じブルーパー乗りの一夏さんが持っている強運にあやかりたいという思いもある。そして、もう身近な人を失いたくないから…………。

 

「そう、か…………それもそうだな。まぁ、お前らしいといえばお前らしいか。そう思ってれば、天国の彼奴も喜んでるだろうさ」

「そうだといいんですけどね…………」

 

ふと格納庫の外に目を移し、空を見上げてみた。そこには雲ひとつない、日本の夏の青空が広がっている。それは何処と無く、あの日の空と似たような雰囲気を持っていて…………どこか憎たらしく思えてしまった。

 

「さて、と。エイミー、辛気臭い事はあんまり考えるな。上からマーカスが腹を抱えて笑ってるかもしれんぞ?」

「ちょっ…………! レーア! いくらなんでもそれはないんじゃないですか!?」

 

クックッと何かをしめたような笑みを浮かべるレーア。そんなやりとりをしていたら、さっきまで辛気臭く考えていた自分が少しだけアホらしく思えてきてしまった。けど、それでいいもかもしれない。あの人、辛気臭いのは苦手だったから…………だったら少しでもバカ笑いしてる方がいいのかもしれない。

 

「しかしレーア…………そんな風に余裕見せてる余裕があるんですか?」

「何故だ? 学園に戻るまで後二時間もの時間があるんだぞ?」

「いや、そうではなくて——」

 

「なに!? 空気の流れに乱れが生じて速度が出ない!? そのパターンならAGM-247を積んでおけ! なんとかなる!」

 

「——…………魔改造、されてますよ?」

「AGM-247…………フェニックスⅡ対地ミサイル!? いかん! あんな条約スレスレのものは使うわけにはいかん!」

 

どうやらとんでもないものが積まれようとしていたようで、レーアは急いで整備班の元へと駆け寄っていった。バタバタした日はあまり好きではないが、見ている分には楽しいものだなと思う。

 

(そういえば一夏さん…………真面目に休暇を過ごしてますよね…………?)

 

ふと、自分の今の上官に休みを無理やり取らせた事を思い出す。噂ではワーカーホリックになっているとかなんとか…………休ませて正解だったのかもしれない。そんな事を思いながら、私は青空に描かれた飛行機雲の白線を眺めていたのだった。






キャラ紹介

マガツキ・裏天(cv.沼倉愛美)

型式番号はNSG-Z0/G-AN。学年別トーナメント前日に、多数のヴァイスハイトに囲まれ、エネルギー切れを起こしていたが、遭遇戦となってしまった箒と共に生き延びる。現在は彼女の機体として運用されており、彼女のサポートをしつつ、彼女が裏天の話し相手になっているようである。
本機は本来のNSG-Z0/G マガツキ・崩天とは異なり、カラーリングは本体を紅に、TCSオシレータはライトブルーになり、各所をシルバーに染めている。また、装備面でも変更があり、G型に取り付けられている陣羽織型イオンブラスターは廃され、代わりに腰部にウェポンラックが追加、脚部の追加スラスターも形状変更がなされている。この変更による追加装備一式は別名『朱羅』と呼称される。

[可変ベリルショット・ランチャー『ウガチ』]
大弓型に変形可能なベリルショット・ランチャー。通常時は連射速度を重視しているが、大弓型では単発になるが、高出力・高精度の射撃が可能だ。また、本装備と腰部ウェポンラックを組み合わせることでセイルスラスターとなる。

[ベリル・スレイヤー『ハバキリ』]
裏天の全高を超える長さを持つ大太刀。一対多を想定した兵装であり、本機の主兵装である。

[ベリル・スピア『カゲツ』]
小型のTCSオシレータ製刀刃部を持つ長槍型のポールウェポン。ベリルウェポンの例に漏れず、TCSを展開しているため、リーチは見かけ以上に長い。

[近接投擲短刀『アマクニ』]
腰部ウェポンラックに搭載された大型のクナイ。非ベリルウェポンであり、エネルギーを消費することはない。

[近接要撃刀『サツガ』]
上記のアマクニと同じ。しかし、こちらの方がリーチでは優っている。取り回しの良さは日本国防軍が正式装備している日本刀型近接戦闘ブレードと同等である。




さて、今回は久々のキャラ紹介という事で、マガツキ・裏天を紹介しました。(ほぼ機体解説なのにキャラ紹介と言い張る作者)。
裏天の元ネタわかる人はいますかな? ヒント、フレームアームズシリーズじゃないよ。でもコトブキヤ商品だよ。作者は予約できなかったやつだよ…………。

感想及び誤字報告をお待ちしております。
では、また次回、生暖かい目でよろしくお願いします。



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