FRAME ARMS:RESEMBLE INFINITE STORATOS   作:ディニクティス提督(旧紅椿の芽)

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どうも、二ヶ月近く姿をくらましていた紅椿の芽です。


此処最近一人暮らしを始めて、実家に積みを置き去りにしてきております。そのためついこの間届いたゼルフィカールNEも実家に溜まっているという…………その他三十近い積みプラが溜まっているのに。


さて、そんな死に体の作者の事は放っておいて、今回も生暖かい目でよろしくお願いします。なお、今回は作者的にギャグ回であると思っているので、その点を留意しておいてください。





Chapter.40

あの襲撃からもう一週間が経とうとしていた。既に学年別トーナメントも終わり、殆どの学生はいつも通りの生活へと戻っている。本来なら一週間以上かかってしまうトーナメントだったそうだけど、結局行事としては中止になってしまった為、一回戦のみ行ってのデータ取りとなってしまったようだ。まぁ、開催するまでに散々襲撃されたからね…………アントの大群にアナザー…………この学園は呪われてるんじゃないのかって勢いで襲われてない? 前のクラス対抗戦だって量産型フレズヴェルクに襲撃されて中止に追い込まれているし。…………その度に負傷してるような気もしなくない私ってなんなんだろうかとふと思ってしまった。

そんなわけで、警戒強化の命を受けてしまった私達派遣部隊だけど、その前に三日ほど休暇を貰えることになったよ。しかし、全員が同時に三日間も休んでしまったら警備の手が薄くなってしまうのは明白だ。結果、そのうちの各員が一日だけ休めることにして、それ以外は交代で警戒任務に当たることにしたんだよ。まぁ、私は一番最後の日でいいかなと思って、その旨をみんなに伝えたんだけどね…………

 

『何? お前が一番最後? 馬鹿も休み休み言え。お前が一番最初に休暇を取るべきだろう?』

『そうですよ! 一夏さんは働きすぎです! 少しは身体を大事にしてください!』

『全くだ。それに前回はあのアーテルとやりあったのだから、身体を休めるのは必要な筈だぞ?』

『てか、あれだけ戦闘した後なんだから、少しは仕事から頭を離しなさい! 過労でぶっ倒れるわよ!?』

『流石に僕も過労で倒れる同級生の姿は見たくないよ。絶対すぐに休んだ方がいいって』

『なんでしたら、最早三日全部一夏さんは休んでもいいんですのよ? それだけの功績はあるんですから』

『いやいやいや!? なんでそんなにみんな私をいの一番休ませようとするのさ!? ちょっと訳わかんないよ!?』

『お前が一番最後に休暇を取ると言い出したからだろう。書類作業に単独戦闘に警備任務…………過労死してもおかしくないぞ。という訳だ、同じく整備で過労死しそうな雪華と共に休みを取れ。雪華、一夏が仕事をしないように見張っておけ』

『はーい。という事で一夏、早速明日は必ず休暇にするからね。仕事は絶対しないように』

 

…………と、なかば強引に休暇を取らされる羽目になってしまったのだった。というか、三日全部休暇にしてもいいってどういう訳さ、セシリア。もう榴雷の修復作業自体は完了しているわけだし、ちゃんと仕事に戻れるよ? それにそんなことをしたらみんなの負担が増えることは確実じゃん…………そういうことにだけはしたくないんだけどなぁ。しかし、決まってしまったものは覆すことができないのも事実。という訳で、現在寮の自室にて時間を持て余しているところだ。いきなり休暇と言われても何をしたらいいのか…………予定を立てる暇もなく休暇にされてしまってはどう過ごしたらいいのかよくわからない。いつもだったら、休暇の予定を立てていたところに突然出撃がかかるような状態だったから尚更だ。

 

(あ、そういえば…………まだ中将に送る今週分の報告書作ってなかったっけ…………どうせだし作っちゃお)

 

ふと、未製作の報告書を思い出した私はパソコンを取り出し、机の前に座った。休暇といっても過ごす予定が決まってないのであれば、一層の事こうして仕事をした方がいい。それに見張り役の雪華も用事があるって今は部屋にいないから、お咎めを受ける心配もない。忘れないうちに報告書を作り上げてしまおうと思った私は、パソコンの電源ボタンに手を伸ばした、その時だった。

 

「…………一夏? 一体何をしようとしているのかなぁ?」

 

丁度、電源ボタンに指先が触れるか触れないかのところで、部屋の入り口から声をかけられた。その声のした方向に私は反射的に顔を向けていた。それも、非常にギクシャクとした動きで。

 

「あ、あれ、雪華? よ、用事があるって出てたんじゃ…………」

「その用事が終わったから部屋に戻ったの。で、どこぞの真面目中尉殿が仕事しようとしてたから声をかけたわけ」

 

そう言う雪華の顔はどこか黒い感じのする笑顔だった。や、やばい…………何がやばいのかはよくわからないけど、なんだかあれはやばい気がするよ! 今背筋がぶるって震えたもん! ぶるって! その表情のまま迫ってくる雪華。なんだか怖いんだけど!?

 

「そ、そういえば、せ、雪華の用事ってなんだったの?」

「ああ、それはね…………さっき中将に電話しておいてさ、『一夏が休暇中に報告書を書きそうになったらどうします?』って聞いたの。そうしたらね」

「そ、そうしたら…………?」

「『提出期限を三日後に設定するから作業を阻止、休暇に専念させよ』と命令を受けたんだよねぇ」

 

中将!? 一体どんな命令を雪華に出しているんですか!? しかも提出期限を延期させるとか正気ですか!? 確かこれ、そこそこ重要度の高い書類だったような気がするんですけど!? 突然のことに私の頭は処理ができず、完全に混乱していた。

 

「という事で、この作業用パソコンは今日一日没収〜」

「あっ…………ちょ…………! わ、私の仕事道具がぁ〜…………!」

 

混乱している隙に、私の作業用パソコンは雪華に没収されてしまっていた。…………本当、どうしたらいいんだろ? 仕事以外の過ごし方が思いつかないんだけど…………何処かに出かけるにしたって、何も目的がないとどうしようもないし…………。

 

「はぁ…………なんでこの真面目中尉殿はすぐに仕事に手を伸ばそうとするのやら…………自ら過労死しそうになる人ってそういないよ」

「いや、そんなつもりはないんだけど…………単に過ごし方に迷ったらそれに手が伸びちゃうだけだし…………」

「…………完全に仕事脳になってない?」

 

私の心情を話したら何故か呆れの溜息をつかれてしまった。だって仕方ないじゃん…………どうせいつかはしなければいけない事なんだし。私としては働きすぎているという感覚がないんだよね…………なんだかんだで戦線を離れたり、療養とかで休まされている時もあるし…………下手したらみんなより仕事してないかもしれない。だから、その分をこういう時に働いて埋め合わせようと思っていたのだ。まぁ、パソコンを没収された以上、やれることなんて無くなったんだけどね…………訓練に参加しようとすれば、他のみんなから全力で追い出されそうだし。

 

「というかさ、一夏は来週の準備とかしてるの?」

「来週何かあったっけ?」

 

私がそう答えたら、雪華は呆れたような顔をして額に手を当てていた。むぅ…………だって襲撃続きでそんな事頭からすっかり消え去ってるよ。まずアナザーをどうにかしなきゃいけないわけだし。完全にあいつ、私だけを狙ってきているようにも思えたから…………だから次こそは絶対に倒さなきゃ…………!! …………というか、来週って何かあったっけ…………?

 

「…………来週臨海学校があるって話があったでしょ」

「そうだっけ…………?」

「そうなの! で、その一日目は自由時間があるんだよ。水着とか必要になるじゃん。折角だし買いに行かない?」

 

あー…………そういえばそんな事も言ってたっけ。クラスのみんなもなんだかその事で頭がいっぱいになっているようだった。しかし、海かぁ…………いつも見ているような凄惨な光景が広がるような海じゃなくて、学園島から見えるような平和な海なんだろうなぁ…………。そういえば、私ってあんまりそういう機会がなかったから水着なんて学園指定の物しかないや。私としてはそれで十分な気もする。それに…………ある意味爆弾を抱えてる脚だからね…………気が進まないというのはあるかも。あ、でも泳いだりしなければ大丈夫か。

 

「うーん…………一応手持ちはあるし、この格好なら大丈夫かなぁとは思ったんだけど…………」

「なんだ、ちゃんと準備してたんじゃん。で、どんな格好なの? ちょっと見せてよ」

「うん、いいよ。少し待っててね」

 

そんなわけで、雪華にその格好を見せることとなった私は、一度シャワー室の方へと向かった。まぁ、この格好なら大丈夫だろう、この時点で私はそう思っていたのだった。

 

 

「着替えてきたよ」

「さてさて、どんな格好——」

 

シャワー室から出て雪華に今の格好を見せたら何故か固まってしまっていた。え、えーと、雪華? 一体どうしてしまったのだろうか…………私には見当もつかない。

 

「お、おーい、雪華——」

「——ブッハァァァッ!!」

「せ、雪華ぁぁぁぁぁっ!?」

 

突然だった。そう、突然雪華は盛大に鼻血を噴き出してしまったのだ。って! なんで!? なんで急にそうなったの!? 雪華ってそんなに血圧高かったりしたの!? もう訳がわかんないよ!?

 

「え、えっと、雪華? だ、大丈——」

「——この、アホ真面目中尉ィィィィィッ!! なんちゅー格好してくれてんだ!?」

「え、えぇぇぇぇぇっ!? せ、雪華!? く、口調! 口調がなんだかおかしいんだけど!?」

「お主が原因だ、お主が!!」

 

ちょ、ちょっと誰か助けて!! 雪華が…………雪華が壊れちゃったよ!! というか原因が私にあるってどういうことなの!? 全然意味わかんないんだけど!?

 

「その格好…………誰がどう見てもいかがわしい動画の服装にしか見えんわ!! 何をどう考えたらスク水に白ニーソなんて格好を選ぶんだよ!! 確かにこの学校指定の水着はスク水だし、一夏は傷を隠す必要があるからニーソとかは必須だけどさ…………それを組み合わせるのは完全に目に毒だからね!! ——ご馳走様ですッ!!」

「全くもってわけわかんないんだけど!?」

 

そう言い切った雪華はさっきよりも多く鼻血を噴き出して倒れてしまった。って、今の出血の量はやばいって!! 一体何リットルの鼻血を噴き出してんのさ!? ゆ、輸血パック…………輸血パックはどこ!?

 

「え、衛生兵…………衛生兵——ッ!!」

 

最早どうするべきか正常に判断できなくなっていた私は、そう叫ぶしかなかったのだった。いや、誰だって目の前であれだけの出血をされたらこうなると思うよ…………そう滅多にあるような事じゃないと思うけどさ。

 

「い、一夏さん! どうかしたんですの!?」

 

そんな私の叫び声を聞きつけてか、セシリアが私達の部屋へと入ってきてくれた。よし、これでなんとかなる!

 

「せ、セシリア…………雪華が…………雪華が!!」

「せ、雪華さんがどうかした——ブッハァァァッ!!」

「セシリアッ!?」

 

セシリアの方へと振り返ったら、何故かセシリアまでもが盛大に鼻血を噴き出してしまっていた。って、なんで!? なんでそうなるわけ!? 何が原因なのさ!?

 

「…………せ、雪華さん…………彼女は最高ですわ…………」

「せ、セシリアぁぁぁぁぁっ!?」

 

そのまま気を失うセシリア。一度に二人も倒れてしまった為に、もう私の手に負えるような事態ではないことを理解した私は、すぐさまラウラへと連絡、応援の到着を待っていたのだった。…………もう、どうしたらいいのこれ。

 

「ピャゥ…………?」

 

まるで不思議がるようなヴェルの声だけが虚しく部屋に響いたのだった。そんなある日の朝の出来事である。

 

 

「あ゛〜…………なんかふらふらするぅ…………」

「…………それでも出かけると言い出す雪華も雪華だけどね」

 

あの後すぐに来たラウラとシャルロットのお陰で雪華とセシリアはなんとか助かった。というか、あれだけの出血をして蘇ってくる二人も二人な気がするけどね…………輸血パックも無しに復活したんだから。それにそのままセシリアは訓練へ、雪華は私と一緒に学園の外に出ているよ。見た目からは想像できないくらいタフすぎるんだけどこの子…………下手したら私よりも丈夫なのかもしれない。

 

「いやぁ、それにしても予想以上の破壊力だったよ…………まさかここまでくるとは想像してなかったね」

「破壊力って何…………あの格好、そんなにまずいものだったの?」

「勿論。特にエイミーが見たら昇天するんじゃない?」

「ま、マジですかい…………」

 

どうやら私のあの格好は相当ダメなものだったらしい。蘇った直後の雪華に、あの格好だけは危険すぎるからやめてくれと言われたくらいだし。しかし、そうなると臨海学校の自由時間に着る水着がなくなってしまう。まぁ、泳ぐ気はさらさらないんだけど。とはいえ、泳がなくてもいいから海岸でゆっくりしようと言われた以上、水着に着替えた方がいいだろうし。きっと一人ジャージで海岸にいたら浮いて見えると思う…………そうなるのだけは絶対に避けたい。目立つのは苦手な方だから。

 

「でもさ、さっきから私に色々言ってる雪華は準備とかしてるの?」

「私は後水着を買えばいいだけだから、すぐに終わると思うんだけどね。他の必要品は学園の方で安く買えそうだし」

「まぁ、確かに学園の購買ならなんでも揃ってるからね。下手なスーパーよりも品揃えが良さそうだよ」

 

本当にそう思えるくらい品揃えが良すぎるから困ってしまうのだ。洗剤やシャンプーなどの消耗品だけでなく、生鮮食品、挙げ句の果てには銃弾までもが揃っているという…………何このラインナップ。最後のものが揃っている時点でブラックマーケットなんじゃないかと思うんだけど。というか、どこから仕入れてくるのさ、そんな物。そもそもで銃弾を消費するような人なんてそういるもんじゃ…………いました。ここにいましたよ、私です。今の所撃ったことはないけど、学園内じゃ拳銃を携行してるからね。本当、使う日が来ないことを祈るよ。

 

「まぁでも、少し洒落たものを買うには外に出なきゃいけないけどね」

「それは仕方ないんじゃないかな。…………というか、普通に外出したけどさ、大丈夫かな?」

「何が? ヴェルちゃんの事ならシャルロットに任せたから大丈夫でしょ?」

「…………いや、それだから不安なんだよね。ヴェル、実を言うとシャルロットにはまだ慣れてないんだよ」

 

◇◇◇

 

「うぅ…………ヴェル…………一夏じゃないからって、そっぽ向いて無反応だけはやめてよぉ…………」

「…………」

 

◇◇◇

 

「…………なんでだろう、容易に想像できたんだけど」

「下手したらご飯すら食べないかもしれないよ…………」

 

なんだろう、そう考えたらものすごく不安になってきた。ヴェルがどう思っているのかは知らないけど、何故かシャルロットにはまだ慣れていない。と言うか、シャルロットが頭を撫でようとするとそれを避けるようなそぶりすら見せるんだよ。なんでなのかは本当にわからない。しかし、今日の中で比較的自由に動けるのがシャルロットしかいないと言うのも事実。今頃、ヴェルに無視され続けて心が折れているかもしれない。…………後で何かお詫びしとこ。

 

「シャルロットってヴェルちゃんに嫌われるような事したの…………?」

「というより、ヴェルから一方的に触れ合おうとしない感じ。理由はわからないけど、初めてあった時からずっとだよ」

「シャルロット…………御愁傷様」

 

雪華はそう言って空に向かって合掌していた。いや、勝手に殺さないであげてよ。流石にそこまでじゃない。

しばらくそうやって合掌していた雪華だけど、その手を解いた時に焦ったような顔をしていた。一体どうしたのだろうか?

 

「ね、ねぇ一夏…………次のモノレールの時間っていつだっけ…………?」

「え? 確か十時ちょうどじゃなかったっけ?」

「…………その次の奴は?」

「一時間に一本だったから十一時頃じゃない? それがどうかしたの?」

 

雪華は自分の腕時計を見て何やら汗が流れ出ていた。今日ってそんなに気温高いかな…………一応六月は終わって七月に入ったけど、そこまで暑いって感じはしないよ。そう思いながらも、雪華につられて私も自分の腕時計へと目をやっていた。同時に額から汗が流れ落ちてくる。

 

「…………ねぇ雪華」

「…………言わなくてもわかるよ」

「「あと五分でモノレールが出る!!」」

 

そう声が合わさった瞬間、私達は一気に走り出していた。やばいやばい…………一本遅らせるなんてことをしたら、それこそ虚しい時間を過ごしてしまうことになる。それだけは絶対に避けなきゃ…………!!

全速力で走って駅に着いた私達は一目散に切符の発券機に向かった。残り時間は三分程度…………果たして間に合うのだろうか。焦り過ぎて財布から小銭を取り出す手が震えてるよ。

 

「じゃ、私先にホームに向かってるから!」

 

先に切符を買い終えた雪華はホームへと向かっていった。って、私置き去り!? 流石にそんな目には逢いたくないので、私も急いで切符を発券する。切符が出てくるまでのこのわずかな時間すら、今の私には煩わしく思えてしまった。ああもう、焦れったい!

発券完了共に、切符を引っ手繰るように取った私は改札めがけて全力で走り出した。切符を改札へと通し、すぐに開いたゲートを通過し、出て来た切符を素早く取る。もう時間の猶予は殆どない。

 

(ま、間に合ってぇぇぇぇぇっ!!)

 

モノレールへ駆け込み乗車した直後、ドアは閉まり、モノレールは出発していた。ギリギリ間に合ったぁ…………その事にホッとする。二度とこんなハラハラする乗車はしたくないよ…………。

 

「な、なんとか間に合ったね…………」

「そう、だね…………次からはもう少しゆとりを持って行動しよ? 流石に心臓に優しくないから…………」

「…………以後気をつけまーす」

 

先に乗っていた雪華とも合流できたし、まあいっか。さて、あとは二十分くらいこれに乗っていれば本土に着く。それまでの間はゆっくりできそうだ。そう思った私だったが…………なんだろ、ちょっと違和感を感じていた。なんか、右足の方だけすこし冷たいような感じがするんだけど…………。

 

(あっ…………)

 

あー…………これじゃ冷たく感じるはずだよ。だって…………靴が片っぽ、脱げて無くなっていたんだから。

 

(はぁ…………何でこうなるかな)

 

なんか朝からあんまりいい事起きてない気がするよ…………そんな事を思いながら、私は思わず溜息をついていたのだった。

 

 

「え、えっと…………一夏、大丈夫?」

「…………まぁ、なんとかね」

 

モノレールから降りた私達はそのまま駅を後にしていた。雪華には大丈夫と言ったけど…………内心全然大丈夫じゃない。歩いているときはなんか変な感じがするし、乗っている間はなんか視線を浴びていたような気がするからね…………目立ちたくはなかったよ。てか、脱げてしまった片っぽはもう諦めた方がいいかもね…………どこで脱げたのか分かんないし、下手したらレールの上に落ちてるかもしれないし…………見つかる方が確率低いと思う。しかも、よりによって無くしたのが通学用の靴だったから、学校に履いていくのも無くなったわけだし…………本当どうしたらいいんだろうね。

 

「それにしても、今の間履くものを買わなきゃね…………学園に戻れば発注できるけど、流石にそれまでこれでいるってのも辛いよ」

 

というか、周りの視線がなんか集まってるような気がするんだけど…………うぅ…………目立ちたくなんてないのに。てか、これで小石とか踏んだら絶対痛いやつだよね…………絶対踏みたくないよ。痛い目に合うのは戦闘の時だけで十分だもん。いや、戦闘でも痛い思いはしたくはないけどね。

 

「まぁ、それはそうだよね…………怪我とかしないでよ? 何もない時に怪我するとかアホくさいし」

「いやいや、流石にそれだけはな——痛っ…………!」

 

くぅっ…………足の裏から決して弱くはない痛みが襲って来た。足をよけるとそこには親指の爪くらいはありそうな小石があった。そこそこ大きいけど、話に夢中で気がつかなかったよ。というか痛い、純粋に痛い。同時になんだか切ない気分になってきた。

 

「…………言ってるそばから踏む人っている?」

「だってぇ…………気がつかなかったんだから仕方ないじゃん!」

「いや、そこは気付こうよ。てか、この事が葦原大尉とか瀬河中尉に知られたらネタにされかねないよね」

「…………ネタにされて弄られる未来が見えたんだけど」

 

あの人、面白そうな事を見つけるとそれをネタに弄ってくるからね…………あと瀬河中尉も。できればこんな事は二人に知られたくはない。あの二人、特に私のことになるとかなり弄ってくるからね…………なんでなのか理由を聞いたら『面白いから』と簡単に答えられたし…………本当、堪忍してつかぁさいぃぃ…………。

 

「——ほうほう。で、誰に知られたらネタにされて弄られるって?」

「誰、って…………それは葦原大尉か瀬河中尉——」

 

突然後ろから声をかけられて、私は思わず後ろを振り返った。あれ? この声に聞き覚えがあるんだけど…………もしかして…………

 

「いよっ、久しぶりだな、お前ら」

「せ、瀬河中尉!?」

 

まさかまさかの瀬河中尉だった。ここにいるという事は休暇でも貰えたのだろうか? って、ここに御本人がいるってやばい! もしかするとさっきの話を…………

 

「だってそりゃ仕方ないだろ? 誰だって面白いネタがあったら弄りたくなるじゃん」

 

…………殆ど最初から聞かれてたんですけど。あー、終わったー、これ完全に折檻されるやつだ。折檻されると思ったのは雪華も同じようで、私と同じように顔を青くしているよ。

 

「いやいや、そんな顔を青くしてどうしたんだよ? 別に私は何も思っちゃいねーぞ?」

「えっ…………ほ、本当ですか?」

「一応、私の方が階級下なんですけど…………」

「今日は私もオフだし、雪華もこんな日まで階級のことなんか気にすんな! というわけで、二人とも今日一日私のことは『真緒さん』と呼ぶように」

「「は、はーい」」

 

そういう瀬河中尉——じゃなかった、真緒さんはなんか生き生きしてるような感じだった。てか、真緒さん、今日は休暇だったんですか…………。

 

「で、ところでさ、何で一夏は靴片っぽなわけ? 新世代の最先端ファッション?」

「いやぁ、実はこれには理由がありまして…………」

 

真緒さんが私が靴を片方しか履いてない事に気がついたようで、雪華が何やら真緒さんの耳元で説明している。…………なんだろ、少し嫌な予感がしてきたんだけど。雪華、話を膨らませたり、有る事無い事吹き込んだりしてない…………よね?

 

「…………というわけなんです」

「なるほどなぁ…………つまり一夏は王子を待つシンデレラであった、と」

「ちょ、雪華!? 何を吹き込んでくれちゃってんのさ!?」

 

なんか盛大な勘違いをされているような気がするんだけど!? でも、よく見たら雪華もなんだか困惑してるような感じだし…………というと、真緒さんの勝手な想像といったところだろうか? どちらにせよ、私が弄られているという事に変わりはない。

 

「い、いやぁ、私は普通に伝えただけなんだけどねぇ…………?」

「なんか此処の所お前の事弄ってなかったから無性に弄りたくなった」

「理不尽!?」

 

完全に真緒さんが勝手に私の事を弄っていただけだった。いや、無性に弄りたくなったって…………私はあなたの欲求を満たす何かですか? いや、確かに今の所ネタになるような状況になってることは否めないんですけど…………できればあんまり弄られたくないってのが本心である。というか、そろそろ爪先立ちしてるの辛くなってきたんだけど…………。

 

「まぁ落ち着けって。とりあえず、代わりの靴でも買いに行くとしようぜ? 流石にその体勢でいるの、辛くなってきたんじゃねえの?」

「…………やっぱりバレてましたか」

 

どうやら、私がこの体勢でいる事に限界を感じていることがバレてしまったようだ。実際のところ、本格的に足が攣りそうな感じになってきている。こんなところで足を攣ったら最高のネタとして弄られてしまう事間違いない。

 

「というわけだ、さっさと買いに行くぞ。雪華、この辺の店を紹介してくれ。私はあんまりこっち来ないからわかんねぇんだ」

「了解です、真緒さん。それじゃ一夏、早く見繕いに行くよ」

「えっ、ちょ…………えぇぇぇぇぇっ!?」

 

真緒さんに両肩を背後からがっちりと掴まれ、雪華に先導され、何処かへと拉致られて行く私。というか、雪華!? 一体私は何処へと連れられて行くの!? 現状を把握できてない私の脳はパンク寸前になっていたのだった。

 

 

「まぁ、いいのが見つかってよかったな」

「え、えぇ…………それは、まぁ…………」

「割と即決な一夏には驚いたけどね…………」

 

二人に連れられた先は某有名な靴屋であった。とはいえ、此処で長々としているわけにもいかず、目に止まった黒っぽいスニーカーにすぐさま決めたのだった。いや、だって割と安い方だったし…………今日はあんまり手持ちないからそんなに高いのは買えないかなぁと思ったからね。

 

「でも…………本当に良かったんですか? 真緒さんが支払いで…………後でちゃんとお返ししますよ」

 

だが、自分の財布からお金を出そうとしたら、その間に真緒さんがカードで支払いを済ませていたのだ。割と安いとはいえ、そこそこの値段はする感じのもの。お金に関しては我が家の生活もあってか少しシビアになっている私からしたら、それが気がかりで仕方なかった。

 

「いーから、気にすんな! 偶には大人っぽい事させてくれよ。それに、お前には何度か命を助けて貰ったからな…………その礼みたいなもんさ。だからお返しとか考えるなよ? これ以上、お前から借りを作ったらどれだけ返せばいいのかわからなくなっちまうぜ」

 

そう言われてしまうと私からは何も言い返せなくなってしまう。いやでも…………確かに入学前は何度か真緒さんの援護に入った事はあるけどさ、それはあくまで任務だったわけだし、して当たり前のことだから、あんまり礼とか考えなくてもいいのに…………それに、同じ中尉の階級とはいえ、真緒さんの方が上官みたいなものだから、そんな風に思わなくてもいいと思うんだけどなぁ…………。まぁ、葦原大尉からは『大人の好意はちゃんと受け取っとけよ』と言われた事もあるから、今回はその通りに従う事にした。

 

「いやでも…………なんだかすみません」

「だから、気にすんなっての。あ、でも一夏にばっかだとなんかあれだな…………よし、此処は雪華、お前にも何かしてやろうか?」

「えっ!? そ、そんな…………わ、私は特に何もしてませんよ!?」

「お前なぁ…………基地配備の時は私等の機体の整備をしっかりとしてたじゃねえか。間接的だが、お前も私の命を守ってくれてるわけだ。その礼くらいさせてくれよ。いや、寧ろさせろ」

「まさかの命令形ですか!?」

「あはは…………」

 

そんな雪華と真緒さんのやりとりを見ていて、思わず乾いた笑いが出てしまった。今日の真緒さんは何がどうあってこんなにも私達に構いたがるのだろうか? 今履いている靴の感覚を確かめながら私はそう思った。







今回はキャラ紹介及び機体解説は行いません。
感想及び誤字報告お待ちしております。
ではまた次回も生暖かい目でよろしくお願いします。



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