FRAME ARMS:RESEMBLE INFINITE STORATOS   作:ディニクティス提督(旧紅椿の芽)

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歪曲王様、このよ様、評価をつけてくださりありがとうございます。



どうも、暫くの間行方をくらましていた紅椿の芽です。



最近艦これの夏イベが始まり、E-1すら突破できない丙提督と化しております。狭霧を早くお迎えしたい…………今回こそイベント限定艦を入手せねば。



あ、単位はなんとか回収したので、更新間隔は多分短くなると思います(必ず短くなるとは言ってない)。



では、もしかすると御都合展開か超展開しているかもしれませんが、今回も生暖かい目でよろしくお願いします。





Chapter.38

暗闇と化した夜空に閃光が迸る。振るわれる大鎌の一撃をベリルソードで受け止めた。スパークが発生し、干渉波が機体を揺らすけど…………その程度で退くわけにはいかない。

 

『ドウヤラ、マタ腕ヲ上ゲタヨウダナ』

「お前に言われても…………嬉しくないよッ!!」

 

左手にセグメントライフルを展開し、トリガーを引いた。至近距離での一撃…………この距離でもアナザーに躱されてしまう可能性がある事は否定できない。それでも、不意をつければそれで十分。

 

『ソノ手ハ食ラワン』

「それで結構…………ッ!!」

 

案の定、セグメントライフルの一撃を警戒したアナザーは回避運動を取った。その間に私はアナザーと距離を取る。ブルーイーグルは近接戦闘向けのセッティングがされているけど、本当は高機動射撃型…………ある程度距離があったほうが戦いやすい。一度ベリルソードを格納し、右手にもセグメントライフルを展開した私は、アナザーへと射撃を続けた。予備弾倉はこの間修理に出した時に全部で四つ追加されている。アナザーの主兵装は巨大な鎌であるベリルスマッシャー。胸部ガンポッドもあるけど、あれは牽制用らしいから、撃ってこないはず…………得意とする近接戦闘さえ封じれば私の方が少し優位になる。

私はセグメントライフルを左右交互に一発ずつ放つ。アナザーにしっかりと照準を合わせているが、放たれた弾はアナザーを掠めるか、躱されてしまっていた。やっぱり反応速度が普通じゃない…………前に交戦した時も、こんな風に紙一重で躱されていた。ある時は身体を反らし、ある時は推進器を全て切ったかのような自由落下、そこを狙っても急上昇で…………人が乗っていないから出来る芸当なのだろうか。それを見ていると…………一刻も早く蹴りをつけたいというのに、自分がアナザーのいいように弄ばれている。私は思わず歯噛みしてしまっていた。

 

(当たらない…………っ!!)

 

この状況が苛立ちを募らせ、やがて焦りを生み出していた。再度照準を合わせ直し、セグメントライフルを放つ。

 

『ドウシタ? 私ハ此処ダゾ?』

 

だが、そんな攻撃もアナザーにとってはなんてない事なのか、機体を大きくひねって躱していく。

 

(くっ…………!!)

 

アナザーの小馬鹿にしたような物言いと動きに、私は苛立ちを抑えきれず、奥歯を噛み締めていた。暫くして、弾切れを知らせるアラートが鳴り響く。私は空になったマガジンを破棄し、予備弾倉をマガジンキャッチへと展開した。正常に装填されたのか、アラートは鳴り止む。同時にマガジンに装填されている弾数も表示された。改めて銃口をアナザーへと向けなおし、トリガーを引いた。

 

『ホゥ…………流石ノ腕ダ。ヤハリ、私ガ見込ンダダケノ事ハアル』

「全部躱している癖に…………っ!!」

 

一発、また一発と外れる度に、焦りが生まれてくる。戦闘開始から既に三分が経過…………未だ致命傷を与えられていない。向こうはウェポンラックに大鎌を携え、回避に徹しているから仕方のない事だと頭の中で割り切っているけど…………リニアライフルの銃弾を避ける機動力と反応速度が、非常に厄介に感じていた。

 

『フッ…………貴様トノ戦イハ実ニ良イ。貴様ハ…………私ニ相応シイ相手ダ』

「バカにして…………!!」

 

飄々と弾を避けるアナザーにそう言われた私は思わず頭に血が上りそうになった。なんなの本当に…………!! どう見ても私をバカにしているとしか思えない。こうなったら、意地でも当ててやるんだから…………っ!!

 

『ナラバ私モ、貴様ノ為ニ用意シタモノヲ見セナケレバナ』

「ッ——!?」

 

アナザーの言葉に一瞬薄ら寒いものを感じた私はそのまま左へと機体を振った。直後、私の横を通り過ぎる青い閃光。な、なに今の…………明らかに射撃兵装だって事はわかる。でも、あれは…………ベリルショットの光と同じ…………! けど、海水面に着弾して盛大に水飛沫を上げていることから、今までの光弾よりも遥かに威力が高いことが伺える。もし、あれが直撃していたと考えると…………ぞっとしてしまう。アナザーは左手に構えている銃火器をこちらに向け、グレイヴ形態にしたベリルスマッシャーを右手に持ち、私へと迫ってきた。私は直ぐにベリルソードを呼び出し、放たれる青い光弾を躱しながら、アナザーへと接近する。光弾が掠める度に塗装が焼ける音が聞こえるけど…………気にしてなんかいられない。遠ざかったらあの光弾に確実にやられる…………なら接近戦を挑むしか、私には思いつかなかった。振り上げられた薙刀(ベリルスマッシャー)とそれに打ち合う(ベリルソード)。私とアナザーの間に再びスパークが飛び散った。

 

『ドウダ? 貴様ノ為ニ用意シタ[ベリルショット・ブラスター]ノ威力ハ?』

「お前に似て…………とっても凶暴だよッ!!」

 

おそらく、アナザーに顔があったらとっても悪い笑みを浮かべているのかもしれない。というか、私にはアナザーがその歪んだ笑みを浮かべいるように見えた。ベリルソードを大きく振るい、アナザーを押し込む。干渉波の影響もあってか、アナザーは簡単に私から距離を取る。だが、代わりにやってきたのは光弾による応酬。それを躱した私はセグメントライフルを放つけど、呆気なく躱されてしまった。再び鳴り響く弾切れのアラート。セグメントライフルでは有効打を与えられていない…………こうなったら、同じベリルショットで対抗するしかない!! 私は弾の切れたセグメントライフルを格納し、ベリルバスターシールドを展開した。

 

「こいつで…………ッ!!」

 

射撃形態にし、光弾を何発か放つ。正確に狙って撃ったそれらはアナザーへと向かって飛んでいく。しかし、アナザーもベリルショットの威力を理解しているのか、さっきまでよりも大きく回避していた。

 

(これなら…………いける…………ッ!)

 

互いにベリルウエポンを構え、距離を詰める。剣と斧を交わらせ、再度スパークを飛び散らせた。互いに片腕だけで得物を振るっているが、一撃の攻撃力を高めたアックス形態に対してベリルソードは押さえ込むのに少々非力だ。かといって、お互いのベリルウェポンの出力は同じくらいなのか、一方にかき消されるということはなく、拮抗した状態が続いていた。

 

「ちっ…………!」

 

一度刃を滑らせ、アナザーの後方へと躍り出る。そして、すぐさま方向転換し、ベリルバスターシールドから光弾を撃った。アナザーはその動きに気がついていたのか、難なく光弾を避けた。不意打ちが通用しないなんて…………一体どんな反応速度なの!? 前から思っていたけど、あの機体…………戦闘能力が極めて高すぎる! なんでアナザーに襲われて生き残れたのか、自分でもわけわかんなくなったよ! 本当、あの時は奇跡に近かったのかもしれない。

 

『楽シイ…………実ニ楽シイゾ、紅城一夏。貴様トノ戦イ、終ラセルニハ勿体無イ』

 

嬉々とした声を上げながら私に斬りかかってくるアナザー。私はそれを迎撃するべく光弾を放つ。しかし、アナザーは光弾に光弾を当てることで無効化し、私へと接近してくる。って、どういう技量を持っているの!? あんな早い光弾に光弾を当てるなんて…………機械ならではの正確な計算による照準がなせる技なのか、それともアナザー自身の腕なのか…………私にはわからない。けど、やはりアナザーは一筋縄ではいかない相手であることははっきりとした。この戦いを楽しんでいるなんて言っている以上は、今の私にとって相当の強敵だ。でも…………それでも、私は…………!!

 

「うるさいっ! ここで…………終わらせるよ!!」

 

あいつを倒さなきゃいけないんだ…………!! 私に傷を負わせ、私と戦い、今もこうして戦いを続けている…………これ以上、アナザーの好きにはさせない!! そう意気込んだ私はベリルソードを振り上げ、再びアナザーへと斬りかかった。アナザーは大鎌に戻したベリルスマッシャーを突き出し、私の一撃を受け止める。すかさず私は右大腿部からイオンレーザーソードを引き抜き、一気に振り抜いた。TCS同士が干渉し、TCSが展開できない状況ならそれなりのダメージを与えることができると思っていた。

 

『フウ…………コノ鬩ギ合イガ堪ラン。今ノハ焦ッタゾ』

(これも避けられた…………!?)

 

だが、アナザーはその一撃を躱し、私から少しだけ距離を取ってから、また詰め寄ってきた。同時に振るわれる大鎌。私はその一撃を受け止めるべく、ベリルソードを構えた。

 

「っぐっ…………!?」

 

しかし、やってきたのは腹部への強烈な痛み。バランスを崩し、機体が墜落しそうになるけど、ブルーイーグル側のオートバランサーが機能し、最悪の事態は避けられた。頬の内側を噛んで痛みを紛らし、アナザーの方へと視線を向けると、左脚を突き出したあいつの姿があった。そこで私はアナザーからの蹴りをモロに受けて吹き飛ばされたのだと理解した。つまり、ベリルスマッシャーはブラフだったの…………!? 一方のアナザーは私の上方に出て、まるで私を見下ろすかのような位置にいた。その大鎌とわずかに漏れている月明かりによって、私には死神のようにも見えていたのだった。それに畏怖したのか、それとも体力がなくなってきたのか…………私は攻撃に移ることができず、ただ武器を構えているだけだ。

 

『来ナイノカ? ナラバ——此方カラ行カセテ貰ウゾ』

「——ッ!!」

 

アナザーがそう言った直後、一気に降下して距離を詰めてきた。私は反射的に同じように降下し、海面すれすれを飛行していた。後方で光弾が海面に着弾し、水飛沫をあげる音が聞こえてくる。できればそうやって水が舞って、光弾の威力が減衰してくれると嬉しいけど…………あの威力だ、効果はきっと薄い。それでも無いよりはマシかもしれない。

 

『逃ゲテイルバカリデハ、埒ガアカナイゾ?』

 

そんなことは、私が一番わかっているよ…………! アナザーに今の自分の心境を言われてしまったことに、腹立たしく感じていた。ベリルソードを握る手に力が入る。私はセグメントライフルを再度呼び出し、後ろに向けて放った。次々と吐き出される銃弾。だが、どれもこれも手応えはない。流石に全部避け切ったか…………!

 

(このままじゃ、ジリ貧なのは私…………なんとかしなきゃ…………!!)

 

そう思うが、打開策は出て来ない。今の私に出来ることは、アナザーの攻撃を避け続けること、それだけしかなかったのだった。

 

◇◇◇

 

「あの動き…………本当に一夏なの…………?」

 

突然会議室を飛び出した一夏を追って外へと出た残りのメンバーは、そこで繰り広げられている戦いに驚きを隠せなかった。シャルロットや学園長、真耶に楯無、そして箒や鈴、雪華は知らないが、それ以外のメンバー——かつてドイツでの作戦に参加した六名は、一夏と相対する機体に見覚えがあった。いや、見覚えがあっただけでは済まない。一夏に二度と消えない傷を負わせた魔鳥——フレズヴェルク=アーテル・アナザー。苦い思い出を作り出した元凶と一夏は戦っているのだ。その一夏の動きに、鈴はそう言葉を漏らしていた。

 

「確かに、あれは一夏だ…………だが、各軍で噂になっているアーテルと同等の戦いを行えるとは思っていなかったぞ…………」

 

暗闇の夜空に青い軌跡を描きながら、各所でスパークを飛び散らせている二機の様子を見て、箒はそう呟く。実際にはクラス対抗戦の時にも一夏はアーテル・アナザーと交戦していたのだが、その時は一夏以外は戦線を離れており、誰も見ていない。また、その戦闘は第一級機密指定レベルのものであり、アーカイブ化されたデータすら閲覧することはできないのだ。榴雷を扱っている時とは違う、初めて見る一夏の戦闘を前に、誰もがただ息を飲んでいた。

 

「束…………紅城は…………一夏は…………あいつは、あんな化け物と渡り合っていたのか…………?」

 

千冬は自分の隣に並ぶ束に向かって問いかけた。自分の愛する妹が、強敵と命を賭けたやり取りをしているのだ。心配するなという方が無理である。自身もあの魔鳥と同型機であるフレズヴェルク=ルフスとの交戦経験があるが、もっと単調な動きであれほど有機的な動きをするものではなかった。だからこそ感じる、あの魔鳥が持つ圧倒的強さの恐怖。自分よりもこの戦争に詳しい束なら何か答えてくれる、そう千冬は思っていた。

 

「…………そうだね。ゼルフィカールを預けられたいっちゃんは、ずっとあんな奴らを相手にしていたんだよ。私もログを勝手に見てわかったことなんだけどね…………」

 

それに、と束は言葉を続ける。

 

「少なくともいっちゃんはあいつと何度か会っている…………一度目はドイツ、二度目は館山基地周辺、三度目は学園の近海…………そして、四度目が今の状況。三度目の前にも防風林で会ってるみたいだけどね」

「…………待ってくれ、束。一夏は…………そんなに奴と戦っていたのか!?」

「初回と前回、前々回はそうだけど…………それ以外はいっちゃんを助けるような動きをしていたみたいだよ。特に、四月中旬に会った時は」

 

その時はいっちゃん、気絶してたから気がつかなかったみたいだけどね、と束は付け加える。それを聞いた千冬は理解に苦しんでいた。何故だ…………一夏を敵とみなしているのであれば、全力で殺しにかかっているはず…………なのに、何故敵に塩を送るような真似をしたのか——千冬にはアーテル・アナザーの考えがわからない。

 

(四月の中旬…………一夏が暴行を受け、意識を失っていた時期か…………もしや、奴があの件に絡んでいるのか…………!?)

 

四月の中旬にも一夏とアーテル・アナザーが会っていると知ったことから、そのような考えが千冬の脳裏を過ぎった。そんな時だった。

 

「——おい、エイミー!! よせ、何をする気だ!?」

「離してください、レーア!! 早くしないと、一夏さんが…………一夏さんが…………ッ!!」

 

千冬は騒ぎ声の聞こえる方へ視線を向けた。そこには、満身創痍といっても過言ではないウェアウルフ・ブラストを展開して今にも飛び出しそうなエイミーと、それを押さえつけているレーアとセシリア、ラウラの姿があった。

 

「レーアさんの言う通りですわ! エイミーさん、ここは堪えてくださいまし!!」

「じゃあセシリアは、一夏さんに死ねと言っているんですか!!」

「馬鹿なことを言わないでくださいな!! 誰もそんなことは思っておりませんよ!!」

「それじゃあ行かせてください!! 私ならまだ戦えます!!」

 

エイミーの悲痛な叫び声が静寂を打ち破る。満身創痍となっても一夏の為に動こうとする…………その彼女の姿に、千冬はいかに一夏が仲間に慕われているのか、改めて感じていた。だが、流石にそのような状態で出撃しようとすることを認めるわけにはいかない。若干、興奮気味のエイミーを宥めるべく、千冬は声をかけようとした。

 

「馬鹿者!! 貴様の機体じゃ、足手纏いが関の山だ!! オーバーロードを引き起こした機体で行くなど、ただの蛮勇にしか過ぎないぞ!!」

「ですが…………!!」

「行ったところで貴様に何ができる!? 悔しいが…………奴の動きについていけるのは、一夏だけだ。ここは堪えるんだ…………!!」

 

だが、千冬が声をかける前に背後から押さえつけていたラウラがエイミーを叱りつけるような声で宥めていた。その彼女の声もまた、悔しさが滲んでいるようであった。頭を覆うバイザーによって表情こそ読み取れないが、エイミーは抵抗することなく、その場に崩れ落ちる。

 

「でも…………でも…………もう嫌なんですよ…………! 自分の上官を失うのは…………!! マーカス少尉の二の舞には…………なって欲しくない…………もう傷ついて欲しくないんです…………!!」

 

嗚咽の混じった声で言葉を紡ぐエイミー。その悲痛な声に誰もが言葉をかけられず、彼女から顔を背けていた。理解はしている…………このままでは一夏はさらに劣勢に追い込まれるだけだと。最悪の事態が脳裏を過ぎる。だが、だからと言って現行の戦力では一夏の援護にもならない。約三分の一の戦力が稼働不可能であるこの状況…………狙いすましたかのように襲撃してきたアーテル・アナザーを恨みがましく睨みつけるとともに、今戦うことができない自分たちの不甲斐なさを嘆いていた。そんな彼女達の様子を千冬は見るに耐えられなかった。

 

「…………ちーちゃん」

 

そんな千冬に束は背後から声をかけた。その手にはアーテル・アナザーの情報を表示しているタブレット端末があった。それを千冬へと見せる束。

 

「…………なんだこれは…………」

「今までいっちゃんが会敵した魔鳥のデータ…………よく見るとどれも右肩に羽根のマーキングがあるの。一番最初にいっちゃんを襲ったやつと同じマーキングが…………」

 

束の言う通り、表示されている画像にはアーテル・アナザーの特徴の一つである紫色の羽根を模したマーキングが右肩に付けられていた。しかも一枚だけではない。その画像全てにマーキングがあったのだ。そう、一夏に一生消えない傷を残したあの魔鳥が持っていたものと同じマーキングを。

 

「なんだと…………!? まさか奴は…………一夏は奴と戦う運命にあるとでもいうのか!?」

「そこまでは私にもわからない…………でも、いっちゃんに固執しているということだけは確実だね。おそらく何度か助けたのも、自分が戦いたいから…………いっちゃんと戦いたいから、そのために助けただけなのかもしれないね」

 

そう束は自分の考えを千冬へと言うが、肝心の千冬はそんな彼女の言葉など耳に入っていなかった。自分の妹が知らないうちにどちらかが尽きるまで終わらない戦いの連鎖へと巻き込まれていたことに胸を痛めていた。家族の事を第一に想う彼女であるからこそ、今の状況がとても心苦しく感じられていたのだった。まばゆい閃光を放ちながら空へ複雑な軌跡を描いていく二機。次第にその攻防の動きが下へと向かっていく。そんな時、シャルロットが叫び声をあげた。

 

「な、何…………!? 何が起きたの!?」

 

シャルロットが指差す方向。そこには一際大きい水柱が立ち上っていたのだった。

 

◇◇◇

 

「うっ…………くっ…………!!」

 

海面ギリギリを飛行していた私を狙ったベリルスマッシャーの一撃を回避したが、その熱量で海面から水柱が立ち上り、余波でブルーイーグルを激しく揺さぶった。思わず機体バランスを崩して海の中へダイブしそうになったけど、ここでもオートバランサーが機能して海底へのご招待を免れる事になった。さっきから急上昇したり、海面すれすれの飛行で回避したり、セグメントライフルによる攻撃をしてきたけど、未だに劣勢な事に変わりはない。

 

「これでも…………っ!!」

 

水柱の中めがけてセグメントライフルを撃ち込む。流石に光弾はあれで無効化されてしまうかもしれないけど、実弾ならまだ通用するはずだ。今のマガジンに残っている弾を全て撃ち込んだ。弾切れのアラートと表示が出ると同時に、残された最後のマガジンを装着した。泣いても笑ってもこれが最後のパックだ…………今の所一発も碌なダメージを与えられてないけど、それでもやるしか道はない。まだ一発も撃ってないイオンレーザーカノンもあるけど、今のこの状況じゃ取り回しが悪い。水柱が消えた瞬間が勝負だ。

 

『——ソウダ、私ガ望ム戦イハ此処ニアッタ。貴様コソ、私ヲ満タス存在ダ』

 

水柱が消えた時、アナザーはそう喜びのような声をあげていた。右肩の装甲と、左脚部のウエポンラックに当たったようで、そこだけパーツが損傷していた。先ほどの攻撃が通ったとでも言うのだろうか? でも、とりあえずアナザーに攻撃を当てることができたのは確かな事だ。だが、攻撃を受けたアナザーは喜びの声をあげている。わからない…………その考えが私には理解できそうにない。それが不安を呼び、武器を握る手に思わず力が入っていた。

 

『私ガ望ムノハ、コノヨウナ命ノ賭ケ…………泥臭クモ、意地デモ勝利ヲ掴モウトスル戦イヲ、私ハ待ッテイタ…………ッ!!』

 

そう言ってアナザーは両手に構えたベリルスマッシャーを大鎌に変形させて私へと斬りかかってきた。しかも、動きはさっきまでよりもキレがかかっていて、何よりも速く感じた。まずい——頭の中で警告が出ると同時に、私はその場を離れる。直後、その場所をベリルスマッシャーが交差して通過した。

 

「こ、のぉっ…………!!」

 

距離をとった私はセグメントライフルをそのまま放ち続ける。直撃させられる自信は今のアナザーの動きによってほとんどなくなってるけど…………それでも足止めくらいにはなる。進路を妨害するように放つが、悉く避けられ、妨害の意味を成していない。本当に不味いんだけどこれ…………!

 

『フハハハ!! ドウシタ? ソノ程度デ終ワルノカ!!』

「…………んぐぅっ…………!!」

 

振るわれたベリルスマッシャーをベリルソードで受け止めるも、その威力までは完全に殺せず、私の体を軋ませた。アナザーが今までとは違う、感極まったような声を出してから、急に調子が良くなっているような気がするけど…………それでも私は負けてなんていられない! とにかく早くこの状況をなんとかしなきゃ…………! ベリルスマッシャーを二つも押さえ切るのは流石に無理だと思う。ならば…………賭けてみるしかない!!

 

「これで…………っ!!」

 

クローモードにしたベリルバスターシールドをアナザーへと振り下ろした。シザークローを強引に折りたたんで、普通のクローのようにして攻撃を仕掛けた。せめてこの一撃で何か決められると思ったけど…………そううまくはいかなかった。

 

『コノ距離デソレヲ喰ラエバ、私トテ無事デハ済マナカッタナ』

「綺麗に回避しておいて言うセリフ…………!?」

 

だが、その至近距離での一撃をアナザーは回避した。それを合図に私たちはお互いに距離を取る。セグメントライフルの残弾はあと一発。とはいえもう効きそうにない気がする。そう思った私はセグメントライフルを格納し、展開している武装はベリルソードとベリルバスターシールドだけにした。残弾もエネルギーも心許ないけど…………エネルギー残量が少ないのは向こうも同じ。ベリルウエポンは高出力であるだけあって、エネルギーの消費も激しい。私の場合はベリルソードもベリルバスターシールドもジェネレーターセルを内蔵しているそうだから、独立したエネルギー流路を持っている。とはいえ、そのエネルギーが尽きれば使えなくなるのは当たり前だ。ベリルショット・ランチャーとして何発か撃ったベリルバスターシールドのエネルギー残量は単純な近接装備のベリルソードよりも消費が激しかった。あと何発撃てるのか…………少なくとも五発、多くても八発が限度だろう。でも…………だからと言って、ここで退くわけにはいかない!! 攻勢に出るべく、私はベリルソードを構え、一気に加速しアナザーへと斬りかかった。だが、その一撃はグレイヴに変形させたベリルスマッシャーによって受け止められてしまう。

 

『楽シイナァ、紅城一夏。貴様モソウ思ワナイカ?』

「どこがだよ!! アナザー…………お前は一体何がしたいの!?」

 

一度離れてベリルショット・ランチャーを放った。流石にその一撃はまずいのか、アナザーも回避運動を取るが、その不安定な体勢からベリルショット・ブラスターを放ってきた。間一髪で躱したけど、右肩のスラストアーマーの表面が焼けていた。回避に意識がいってしまった私にアナザーは接近、ベリルスマッシャーを振り下ろす。私はそれをなんと受け止めた。

 

『私ガ求メテイルノハ強者トノ戦イ…………実力ト運ヲ兼ネ備エタ者トノ、全テヲ賭ケタ戦イダ!!』

「なら、なんで私なの!? 私以外にも強い人はいっぱいいるってのに…………!!」

『貴様ハアノ時、私ノ攻撃ヲ避ケテイタ。不意打ニモ関ワラズダ。ダカラコソ、私ハ貴様ヲ倒シタイ…………私ガ貴様ト戦ウノニ、ソレ以上ノ理由ハ無イ!』

「くうっ…………!」

 

無茶苦茶な理由だ。ってか、あの時私って攻撃を回避してたの!? しかもそれだけのことで私に攻撃を仕掛けてきたの…………? 戦いたいという理由しかわからないアナザーのことが、私には理解できない。力を入れて振るわれたベリルスマッシャーの刃を滑らせ、その勢いで私はベリルソードを振り抜く。再び切り結び、一段と大きなスパークが飛び散った。

 

『ソレニダ…………貴様ト私ハ似テイル。ソウ思ワナイカ?』

「どこが!? 私とお前は全然違う!!」

『地球デ生マレタ者ガ、月ノ技術ヲ使ッテイル。機械ト人ノ差ハアレド、ソノ事実ニ変ワリハナイ』

 

加エテ、と機械音が混じった篭った声でアナザーは言葉を続けた。

 

『二度目ニ会ッタ時、貴様ガソノ機体ヲ使ッテイタ…………オリジナル(・・・・・)モ貴様ト似タ機体ト戦ッテイル。ナラバ、貴様ヲ打チ倒ス事デ、私ハオリジナル(・・・・・)ヲ超エル事ガ出来ル…………私ノ絶対的ナ力ハ不動ノモノトナルノダ!!』

「い、一体何を言って——」

『ダカラコソ、貴様ヲコノ私ガ倒サネバナランノダ!! 貴様ヲ生カシタノハ、コノ戦イヲ楽シミ、私ノ手デ我ガ宿敵ナル存在ヲ倒ス、ソノ為ダ!!』

「ぐうぅ…………っ!!」

 

切り結んでいたベリルスマッシャーに力を入れて私を弾き飛ばすアナザー。最早アナザーが何を言っているのか理解できなくなっているけど…………私を倒そうとしていることだけはこれでもかとわかった。でも、そんなことに思考を割いている余裕はない。弾かれた衝撃でアナザーと距離が離れてしまった。目の前には二本のベリルスマッシャーを振りかぶったアナザーの姿があった。けど、この距離じゃ避けることは無理だ。私はベリルソードとベリルバスターシールドを構えて受け止めようとしたけど、その時に警告音が鳴った。

 

(ベリルバスターシールドのエネルギー残量無し…………!?)

 

頼みの綱の一つであるベリルバスターシールドのエネルギーが尽きてしまった。TCSを展開できず、クリスタルユニットも輝きを失いつつある。まずい…………これじゃ、普通のシールドと何も変わりないよ!! おそらく撃ち過ぎてしまったのが原因かもしれない。大鎌に変形したベリルスマッシャーがベリルバスターシールドに触れる直前、私はベリルバスターシールドをパージした。エネルギーの尽きたシールドは干渉波を発生させることなく大鎌に貫かれ、切断されてしまった。残る一振りはベリルソードで受け止めたけど、体勢が悪いせいで再び弾かれてしまった。

 

(ま、まずい…………! は、早く体勢を立て直さなきゃ…………!!)

 

体勢を立て直し、墜落を免れた私だけど、目の前には既に距離を詰めていたアナザーの姿があった。わずかに漏れる月明かりを背に、クリスタルユニットを発光させている姿に、私は思わず恐怖してしまった。ベリルソードを構え直そうとするも、機体の反応が少し遅く感じてしまう。ベリルスマッシャーの刃は、もう眼前まで迫っていた。

 

『——墜チルガイイ』

「きゃあぁぁぁぁぁっ!!」

 

なんとか間に合ったベリルソードと交錯し、直接的なダメージはなかったものの、干渉波とそれに乗じたアナザーの蹴りをもろに受けてしまった私は大きく吹き飛ばされてしまった。体勢を立て直そうにも高度が低すぎる…………!

 

「がっ…………はぁっ…………!!」

 

落下し続けていた私は、近くの小島に叩きつけられてしまった。あまりの衝撃に一瞬意識が無くなりそうになる。でも、墜落時の衝撃による痛みでなんとか意識は飛ばすにすんだ。頭の中ではすぐにここから離脱すべきだってわかってるのに、全身を強く打ち付けたせいか、思うように身体を動かせない。しかも、叩きつけられた衝撃で殆どのフォトンブースターが損傷してしまっている。逃げようにも逃げられない状況に私は追い込まれてしまっていた。…………なんでこんな風に冷静に考えてられるのか、私でもよくわかんないや…………。

身体を動かせない私の前にアナザーがゆっくりと降り立った。ベリルスマッシャーの片方は大腿部のウェポンラックに携えている。

 

『貴様トノ戦イ…………楽マセテ貰ッタ。終ワラセルニハ惜シイ』

 

ゆっくりと、でも確実に、私へと迫ってくるアナザー。迫り来る死神の存在に、思わず逃げ出したくなりそうになるけど、身体が痛くて動かせない…………何より、恐怖が私を支配していた。

 

『シカシ、始マリガアレバ終ワリモ存在スル。———此処デ貴様トノ戦イハ終ワリダ。楽シマセテ貰ッタ礼トシテ、楽ニ逝カセテヤロウ』

 

そう言ってベリルスマッシャーを頭より高く振り上げた。一段と強い輝きを放ったその大鎌をアナザーは振り下ろす。普段よりも遅く見えるその攻撃。ああ、これが死ぬ直前なんだ…………と、変な考えが頭の中に浮かび上がっていた。

 

(…………悔いが残る人生だったなぁ…………)

 

走馬灯のように今まで起きたことが脳裏を過ぎった。そういえば、結局任務は遂行できなかったね…………それにお姉ちゃんや束お姉ちゃん、秋十に皆…………そして、弾…………約束なんてしてたけど、それも守れそうにないよ…………ごめんね…………。どこか生きることを放棄しようとしている自分がいる。逃れられない絶対的な存在を前にしたからなのだろうか…………私にはわからない。

 

(…………い、嫌だ…………わ、私は…………私は…………まだ、死にたくない…………死にたくないよ…………!!)

 

でも、生きたいと願っている自分がいる事も確かだ。ベリルスマッシャーの切っ先は、もう目と鼻の先…………ゆっくりと、でも確実に迫ってきているその一撃から目を背けたくて、私は思わず目を瞑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ヤラセナドサセン!!』「やらせるわけにはいかん!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな声が聞こえたと思ったら、何かが弾けるような音が聞こえた。聞き覚えのある音…………あ、干渉波とスパークが生じる音だ…………。それにいつまで経っても痛みがこない…………もう死んでしまったのかと不安になったけど、打ち付けたところが痛むからまだ生きてる…………の? どうして…………私は生きてるの…………? 恐る恐る私は閉じていた目を開けた。そこには…………

 

「これ以上、一夏をやらせる事はさせん!!」

『アーテル・アナザー…………妾ノ前ヨリ立チ去ルガ良イ!!』

 

——大弓を構えているマガツキ・裏天を纏った箒の姿があった。その信じられない光景に私は思わず目を見開いてしまう。ど、どうして…………箒がマガツキを…………!? 意識がだんだん薄れてきていても、その事が頭にしっかり焼きついて、疑問に思わずにいられなかった。私から視線を外し箒と対立すアナザー。静寂が両者の間に存在していた。私にはそれがなんだか長く感じてしまっていた。けど、アナザーは不意に何を思ったのかベリルスマッシャーをウェポンラックへと携える。

 

『——興ガ削ガレタ。今回ハ退イテヤル。ダガ、コレダケハ言ワセテ貰オウ。次コソ決着ヲ付ケル…………紅城一夏、ソノ時ガ貴様ノ最期ダ』

 

私に頭を向けてそう言ってきたアナザーは、ゆっくりと宙に上がっていく。あるところまで上がったアナザーは変形し、その場から一気に飛び去って行った。完全に姿が見えなくなったことを確認した私は思わず脱力してしまった。緊張と恐怖から解き放たれ、全身に力が入らなくなっている。

 

「無事…………ではなさそうだな。一夏、立てるか?」

 

箒がこっちを向いてそう言ってくる。バイザーに覆われて表情は読めないけど…………きっと心配そうな顔をしていると思う。…………さっきまで死ぬかどうかの瀬戸際にいたのに、今じゃこんな考えができるくらい余裕があるよ…………意識は大分薄れ始めてるけどね…………。

 

「ほう、き…………? ごめん…………力が入らないや…………」

「そうか…………わかった。これから、お前を抱き抱えて運ぶ。一旦機体を解除してくれ」

 

言われるがままに私は機体を解除させる。非発光体へと変化したブルーイーグルは私の胸にドッグタグとして戻っていた。ブルーイーグル…………無茶、させちゃったね。機体が解除され、露出した肌を優しく撫でる潮風がどこか心地よく感じられた。機体の解除を確認した箒は私を抱き抱え、ゆっくりと上昇し始める。

 

『それじゃ戻るぞ。痛かったりしたら遠慮なく言ってくれ』

 

箒はゆっくりと機体を進めた。戦闘で火照ったからだろうか、やはりこの涼しい風がどこか気持ちの良いものに感じられる。なんだろ…………急に眠くなってきちゃった…………視界も段々ぼやけてきたよ…………。意識を保てそうにないや…………。

 

「ほうき…………」

『どうした一夏? どこか痛むのか?』

「…………ううん…………ちょっとだけ、ねても…………いい…………?」

「…………ああ。着いたら起こしてやる」

「…………ありがと…………」

 

そろそろ限界かも…………ぼやけていく意識の中、箒の同意を得た私は少しだけ寝る事にした。完全に意識を手放したのはその直後の事だった。





今回はキャラ紹介及び機体解説は行いません。
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では、また次回も生暖かい目でよろしくお願いします。



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