FRAME ARMS:RESEMBLE INFINITE STORATOS   作:ディニクティス提督(旧紅椿の芽)

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凪波 海敷様、評価をつけてくださりありがとうございます。



どうも、ここ最近大学の単位が怪しくなってきた紅椿の芽です。



というわけで、当面の間は更新がストップする可能性が非常に高いです。単位を落とすと地獄が待っているので、勉強の方に集中します。なので、次回の更新を気長にお待ちください。



さて、一旦作者の事情は放っておいて、今回も生暖かい目でよろしくお願いします。





Chapter.37

「——それでは、会議を行う」

 

アント群の殲滅が完了し、生徒達が寝静まった頃、学園長からの通達で緊急の会議が開かれる事となった。現在、学園の会議室には学園長を始め、お姉ちゃん、山田先生とそれに生徒会長。後は今日乱入してきた教員部隊の人が一人に私達派遣部隊…………と、結構な人数が集められていたよ。まぁ、仕方ないかな。私達は直接戦闘に関わったわけだし、そこの教員部隊の人だって乱入してきたわけだし、お姉ちゃん達は避難誘導に当たっていたから、ここにいる誰も彼もが当事者になるよ。

 

「…………と、いきたいところなのだが、少し質問してもいいかね?」

 

会議が始まるのかと思いきや、その前に学園長が質問をしてきた。なんで質問をしてきたのか…………まぁ、なんとなくだけど私もわかるよ。というか、私の方からしたいくらいなんだけど…………。

 

「そこの真紅の機体…………それは一体なんなのだね?」

 

そう、この場に箒と共同戦線を張ったという真紅の機体——マガツキ・裏天がいるのだから。いや、なんでここにいるのかってそりゃ思うでしょ!? 型式番号と機体の特徴から見て、あれ完全に月面軍の機体でしょ!? 武装は全くしてないところから交戦する意思はないと思えるけどさ! 仮にも敵であるそれを呼び込んじゃっていいわけなの!? 箒曰く、『人には無害だから気にするな』と言われているんだけど…………私からすれば不安要素しかない。何処にそんな自信があるのか…………てか、今回の戦闘で箒は何かあったの? 洗脳でもされたわけじゃないよね!?

 

「学園長…………此奴に関しては後で申し上げます。ですから、それまでお待ちいただけるでしょうか? 此奴は人に危害を加えるつもりはないようですので」

「それならいいのだがね…………何分、なんとも威圧感があるというか、趣味丸出しというか…………」

 

学園長の言いたい事はわかるよ…………威圧感があるのは間違いないし、なんでこんな武者鎧の姿にしちゃったのかっていうのがあるね。武装も刀とか弓とか槍とか…………月面軍って何がしたいの? 武士の姿をさせるなんて…………今は戦国時代とかじゃないんだけどなぁ…………って、それは今いいか。まぁ、箒の言ってる事は間違ってないと思うし、学園長もそのことに納得はしたようだ。

 

「まぁ、それは追々聞くとして…………今回の戦闘状況及び被害状況を報告してくれるかね?」

 

ようやく本題に入る事が出来たようだ。まぁ、マガツキの存在がこの空間のシリアスさを少し吹っ飛ばしているような気もしなくないけど…………それは別にいいか。それにしても報告かぁ…………今回はかなりの被害が出てしまったからね。報告書にまとめている時、かなりびっくりしたよ…………。

 

「では、戦闘状況については私、ラウラ・ボーデヴィッヒの方からさせていただきます」

 

そう言うとラウラは席から立ち上がり、空間投影ディスプレイに表示されている学園島のマップを使って解説を始めた。

 

「まず、今回の襲撃では射出カプセルによる突入がありました。これらは私と紅城中尉が撃破に当たりましたが、六つのうち三つの落着を許してしまいました。落着したカプセルより敵機が出現。それだけでなく、学園島北東方面にはいくつかの敵部隊が展開。これらの鎮圧に我々は分隊を編成して対応していました」

 

マップには射出カプセルの落着地点が表示される。偶然にも私とラウラの前に三つも落ちてきたからね…………あれはなかなかに怖かったよ。しかも、その中から出てきたのは黒い榴雷…………ウェアウルフ・スペクター。火力を強化された機体が三機だよ? 私やラウラも火力の高い機体を扱ってはいるけどさ、その他に非装甲アントもいたら私達でも火力不足だ。何より、スペクターの砲撃がかなり厄介だったからね…………動きはかなり制限されたよ。

 

「結果として敵は我々が撃破、そのうちの一機を鹵獲した次第です」

 

ラウラは戦況の状況をかなり掻い摘んで説明してくれた。こっちは敵を撃破することに必死だったから、そんな内容をいちいち覚えてなんていられないよ。それに、今回も機密指定レベルの内容があるからね…………流石にフレズヴェルク級のものじゃないけど、ウェアウルフ・スペクターの存在とか、射出カプセルが何処から飛んできたのかとか。知られたらそれこそ大変な事になる筈だ。少なくとも、榴雷という存在が知られている以上、ウェアウルフ・スペクターに関しては漏らしてはいけない。まぁ、教員部隊が乱入してきたときに見られてしまっているかもしれないけど…………あの状況じゃそれどころじゃなかったかもしれない。乱入してきたのは四人だけど、今ここにいるのはそのうちの一人。残り三人は学園の病棟のベッドで寝かされているらしい。…………生きていられただけ奇跡かもしれないけどね。スペクターの砲撃、きっとリミッターとかそういうの無いから。あのロングレンジキャノンの破壊力は、四月の模擬戦で榴雷によって証明されてるもん。

さて、それは後でまた話に持ち上がるだろうし…………次に被害状況の報告をするのは私。私はラウラと入れ替わるように、さっきまで彼女が立っていた場所に立った。

 

「では、続いて被害状況の報告を私の方からさせていただきます」

 

私は手元にある書類に纏められた被害の報告書に目を落とした。

 

「まず、学園施設への被害です。校舎等には奇跡的に損害はありませんが、防風林などの場所は戦闘により、地面が抉れるなどの被害が出ています。また、撃破した敵機の残骸も残されているので、現状は立ち入り禁止とすべきだと判断します」

 

襲撃してきたアント群はスペクターも含めて四十七体。その全ての残骸が未だに撤去できず、その場に安置されたままだ。スペクターの残骸なんかは特に見せられるわけにもいかず、今の所は暫定的に重装コンテナ内に押し込めて隠しているといった状態。…………いらない混乱を引き起こさないようにするためだから仕方ないけど、隠し事をしなきゃいけないってのは大変だね。

 

「その他防護板がいくつか損傷もしくは全損していますが、施設等の損害は極めて軽微に終わっています。ですが…………問題はこちらです」

 

私は空間投影ディスプレイにデータを表示した。もう一つの損害…………それは、機体の損傷だ。こっちの方もみんなから聞いて処理したから間違いはない筈だけど…………予想以上に酷い損害が出てたよ。

 

「まず私達の方の被害から。オルコット少尉のラピエールは損傷無し。私の榴雷やボーデヴィッヒ少佐のハーゼ、そしてドッスウォールのフセットは、それぞれリアクティブアーマーが損失したり、アーマーエッジが摩耗していますが、損傷は極めて軽微です。凰少尉のバオダオはスラッシュシールドを一つ喪失していますが、機体そのものに大きな損傷は見られません。これらの機体は補給物資が届き次第修理可能。順次、任務に戻ることができます」

 

しかし、と言って私はさらに言葉を続けた。そう…………本題はここからだ。

 

「シグルス少尉のスーパースティレットⅡが主機損傷によって中破、篠ノ之少尉の妖雷は過負荷によって駆動系と推進系が全損、ローチェ少尉のウェアウルフは左滑腔砲の喪失及び各駆動系への過負荷によってオーバーヒート…………この三機についてはオーバーホールが必要なレベルです」

 

ここまで損傷が酷いというのに、みんなかすり傷程度で済んだのが本当に奇跡だと思うよ。特にレーア、主機損傷って相当やばいでしょ!? 飛行能力を失ったスティレットなんて装甲も轟雷と比べて貧弱だから、即撃破されてしまうことだってあるのに…………。それに箒、駆動系と推進系が同時に全損してるのによく生き残れたよね!? 確か、あのマガツキと互いに利用しあって戦ったら生き残れたって言ってたっけ…………月面軍の機体と共同戦線張ること自体おかしいというのに、それで生き残っちゃうんだから…………サバイバビリティ高いね。そしてエイミー…………スペクターと一人で交戦してたって聞いたけど、本当に一人で倒しちゃってたよ…………。私達はかなり苦しめられたから、それ相応のダメージが機体に響いているのは仕方のないことだと思う。てか、みんな本当によく生き残れてたよね…………詳細な内容を聞いていたら、みんなが無事で生きていられたことが嬉しくて、思わず泣きそうになったもん。本当、誰も死ななくてよかったよ…………。

 

「そうか…………オーバーホールに関してはどれほどかかる見込みなのだね?」

「少なくとも一週間は…………昨今の軍事協定によってどの国でも全ての機体を修理できるのが幸いですね」

 

特に轟雷系列やスティレット系列は未だに主力機の中にあるから、どの国でも整備可能だって雪華が言ってたっけ。そのほかにも多国籍部隊となったら、使用する機体の詳細を提出しなきゃいけないからね。それによって、私たちの部隊は雪華による一括整備が行われているわけなんだけどね…………本当、一人に整備のほとんどを任せてごめん。

 

「せめてもの救いと言ったところか…………そういえば、先程の戦況報告の際に、学園側の機体も損傷したと聞いたのだが?」

 

学園長はそう言って、教員部隊の人を横目で一瞬見た。未だにあの人は全身の震えが止まってないみたいだけど…………仕方ないよね。死という概念を実感したことがないから…………戦場の恐怖に飲まれて、今もその恐怖に襲われているのだろう。その様子を一瞬見た私は、一息ついてから報告を続けた。

 

「…………はい。訓練機であるラファール・リヴァイヴ四機の内、一機が大破、装甲破損率八割。二機が中破及びシールド全損、残る一機は中破寄りの小破、武装全損。精密な検査は終わっていませんが、いずれの機体もメインユニット及びコアに損傷はないと思われます」

 

コアに損傷がないと聞いて安心する一同。絶対数が限りている以上、壊れたなんてことがあったら、大惨事確定である。そもそもで、箒曰く束お姉ちゃんがコアを新しく作る気がないみたいな感じらしい。そうなった以上、コアの損傷なんて、ISの破棄以外の選択肢を捨てるしかない。また、メインユニットと呼ばれるコアと直接繋がる重要なパーツが破損したとなると、修理に軽く一ヶ月はかかる上に、コストもかかるそうだ。セシリアから聞いた話なんだけど、前に私が(故意にじゃないよ?)イギリスのブルー・ティアーズを大破まで追い込んでしまった時は、そのメインユニットまでダメージが及んでいたらしい。つまり、リミッターを外されたアントの攻撃を受けてそこが無事だったというのは、ある意味奇跡にも近い事だろう。

 

「そうか…………状況は理解した。紅城君、君は座ってくれて構わない。——織斑先生、生徒達の被害はどうなっているかね?」

 

報告を終えた私は学園長に言われるがまま、自分の席へと戻った。そして、役割をお姉ちゃんへと引き継ぐ。

 

「紅城から連絡を受け、すぐさま生徒達を速やかにシェルターへと避難させた為、避難時に転倒した若干名を除けば怪我人はいません。この目で見たわけではありませんが…………あれほどの戦闘でここまで被害が少ないのは奇跡と言えるでしょう。——いや、奇跡ではない。彼女らの奮闘があってこそ、であると言えます」

 

そう言うお姉ちゃんの目は力強くて、だけどどこか哀しげな、そんな感じがした。…………お姉ちゃんも、前に実戦に参加したことがあるもんね。もしかすると、自分が戦えないことに憤りでも感じているのかもしれない。…………こんなこと言うのもなんだけどさ、お姉ちゃんはそう言うこと気にしなくてもいいのに。私は、望んでこの世界に足を踏み入れたんだから…………まぁ、足手纏いになることも多々あるけど。それでも、お姉ちゃん達を守りたいって想いは変わらない。守りたい人が命を張るなんて事はあって欲しくない…………私の勝手な意見なんだけどね。でも…………最後の一言は少し嬉しかったよ。

 

「ありがとう。君も席に座ってくれたまえ。さて——状況は理解した」

 

お姉ちゃんを席に座らせた学園長は軽く咳払いをしてから言葉を紡ぐ。その瞬間、どこか武岡中将にも近い、凛とした雰囲気を感じ取った私は、思わず背筋を伸ばしていた。

 

「一先ず、人的被害は無し、施設への被害も極最小限である為、明々後日より学年別トーナメントを開始する。ただし、あくまでデータ取りの為、行うのは一回戦のみ。また、派遣部隊の諸君は、機体の状況と残骸の状況とを鑑みて、参加を取り消させてもらう。君たちはシフト制で立ち入り禁止エリアの警備を任せる。…………参加を期待していた者がいたらすまない」

 

学園長の口から出てきたのは今後の動きについてだった。まぁ…………それは仕方ないかな。ある意味、重要機密の塊がゴロゴロ転がっているわけだし。現在、生徒達は自室待機を命じられてる上に就寝時間である為、それを見られる心配はない。でも、監視は必要だよね。それに…………トーナメントに参加できなくて良かったと思っている私がいる。ISを相手するとなると、こっちも武装を加減しなきゃいけないし、かなり神経を使うからね。

 

「いえ。我々は任務遂行の為に派遣されている身分。新たなる任務、只今をもって受領させていただきます」

 

どこか申し訳なさそうな顔をしていた学園長に向かって、ラウラがそう言っていた。そう、私達は軍人…………任務を遂行することが重要だ。護衛任務も警備任務も怠るわけにはいかないよ。学園長に向かって敬礼をしているラウラに続いて、私も敬礼をする。それにつられて他のみんなもいつの間にか敬礼をしていた。

 

「…………若さ故の生真面目さ、か…………わかった、そういうことにしておこう。だが、ここにいる以上は軍人であるとともに学生である事を忘れぬように」

 

そう言って、少し笑みを浮かべる学園長に、私は少しだけ緊張がほぐれたような気がした。いや、だってさっきから気が張り詰めっぱなしだったし…………未だにこういう緊張に慣れてないって、ある意味問題なような気がしてきたよ。

 

「では、教員の方には明日会議を開く旨を伝えてくれたまえ。詳細は追って話す」

「了解しました、学園長。——山田先生、手伝いを頼みますよ?」

「はい! 必要とあらば徹夜でもして手伝います!」

「いや、そこまでしなくてもいいんだが…………というか、下手したら我々全員が徹夜する羽目になるぞ…………?」

「更識君。君達生徒会にはいつも通り、学園内の情報統制を。生徒達にはシステムトラブルと伝えておいてくれるかね?」

「ええ、了解しました。では明日にでも、緊急の全校朝会を開かせて貰いますね」

「それくらいは構わんよ」

 

お姉ちゃんや生徒会長にも仕事が言い渡される。そして、この場で情報統制が行われる一部始終を見た気がするよ…………でも、それは必要な事だから仕方ない。下手に情報が流れてしまったら変な混乱を招いてしまうかもしれないしね。それに生徒会長は私達と間接的に繋がりがあるそうだし、少しは信用しても大丈夫だと思っている。

 

「さて、今後の動きについては一通り話したか…………残るは、君の話を聞くだけだ」

 

学園長は徐に視線をある一点へと向けた。その先にいるのは——あの教員部隊の人。大分震えは治まっているように見えるけど、どうなのかはわからない。もしかするとちょっとした事でまたあの恐怖を思い出してしまうかもしれない。下手するとPTSD——心的外傷後ストレス障害を引き起こしかねない、ってラウラが言ってた。まぁ、あそこまでパニック状態に陥ってたらね…………むしろ、そんな事を感じていなかった私が少しだけ異常なのかもしれないって思ってしまった。これも、度重なる戦闘による慣れなのかな…………?

皆の視線を向けられた教員部隊の人は思わず肩を竦めていた。でもあの人…………私達に暴言を吐いてきた人じゃないような気がするんだよね。一人だけなんだかがむしゃらにアサルトライフル撃ってた人がいたし…………もしかするとその人なのかもしれない。

 

「君は——君達は何を思って勝手な行動をとったのかね? おそらく織斑先生から待機命令が出ていたはずだが?」

 

学園長の言葉に、目を見開く教員部隊の人。そのまま上げてきた顔には、申し訳なさと、悔しさ、そして…………驚愕が入り混じっていた。口を震わせた彼女は、小さい声だけど…………少しずつ語り始めた。

 

「わ、私は…………香木原先生から、し、出撃の命令が、お、織斑先生から出たって聞かされて…………」

「…………なに? 私はそんな命令を出した覚えはないぞ?」

「わ、わかっています…………で、ですが、か、香木原先生に、言われるがままに、私は…………」

 

少しだけ荒くなった息を整える彼女。深呼吸を繰り返した彼女は言葉を続ける。

 

「か、香木原先生は、あなた達のことを疎ましく思ってたみたいだけど…………わ、私は違うから…………あなた達を守りたいって思ったから…………」

「…………我々を守りたい…………? それは、我々に対する侮辱と捉えていいのか?」

「ら、ラウラ…………!」

 

まさかの言葉に、怒りを露わにするラウラ。確かに、軍人を守りたいって言われたら力がないなんて言われてるのと同じだし、腹は立つかもしれないけど…………今ここで変に怒りを出しちゃ、あの人は喋れなくなっちゃいそうな気がしたから、私はラウラを宥めた。その間に、目配せで続けるように伝える。尤も、それが確りと彼女に伝わったかわからないけど。

 

「あ、あなた達は…………わ、私達教員が守らなきゃいけない生徒だから…………そ、そんな生徒達だけに命を張らせるのは、嫌だったから…………だから…………!!」

 

そう言う彼女は体を抱え込んで、涙を流していた。…………そんな風に思っていたんだ…………確かに私達のことを疎ましく思う人もいた。そのことに変わりはないよ。でも…………こんな風に、思っている人もいるなんて、思いもしなかった。私達は口を開けなかった、言葉が出なかった。ただ、彼女のすすり泣く声がこの部屋を支配していた。

 

「——つまり君は、良心の呵責に耐えられなかったということかね?」

 

そんな中、学園長だけが静かに声を上げる。その言葉に教員部隊の人は、頷いて答えていた。そんな彼女に学園長はさらに言葉を投げかけていく。

 

「君、年はいくつだね?」

「…………こ、今年で、二十一になります…………」

「その若さでそう言える者はそうそういない。生徒を守ろうとする必死さは伝わったが、君がしてしまったことは彼らの足を引っ張ってしまった。そして、君自身も…………相当な恐怖を感じたのだろう?」

 

彼女は学園長の言葉に力なく頷いていた。

 

「今回の過ちは一歩間違えれば君達だけではなく、彼女達にもより多くの被害が出ていたかもしれない。——それこそ、命を落としかねない。今回の件は明確な妨害行為であるとして、君含めた四人全員には半年の減俸及び二週間懲罰房での謹慎処分とする」

 

その言葉に、彼女の俯いた表情にはより暗い影が落ちたように見える。だが学園長は、しかし、と言って言葉を続けた。

 

「——君のような若い者が生徒達を思って行動する事に感心させられたよ。生徒を守るのが教師の務め…………その心、大事にしてくれたまえ」

 

そう言って、教員部隊の人の肩を軽く叩いた学園長は、自分の席へと戻った。叩かれた教員部隊の人は、一瞬なにが起きたのかわからないような感じをしていたが、掛けられた言葉を理解した途端、嗚咽を漏らしながら涙を流していた。…………この人がとってしまった行動は間違いだったって事は、私達が経験してるからわかっている。でも…………その根底にある想いが認められただけでも、彼女にとっては十分だったのかもしれない。尤も、それを知っているのはあの人だけだけどね。

 

「以上で会議を終了とする。——君、外で教員が二人待機している。懲罰房まで案内してもらうといい」

「…………は、はい…………し、失礼します…………」

 

学園長の言葉に、教員部隊の人は一人会議室の外へと出て行った。残っているのは、山田先生を除けば軍に関係していた人しかいない。状況を察したお姉ちゃんが山田先生と箒に問いかけた。

 

「なぁ、篠ノ之少尉。そいつの事は山田君が知っても大丈夫な事なのか? 彼女は軍属でもなければ、軍との繋がりもほぼないぞ?」

「…………多分大丈夫でしょう。此奴が、可能な限り多くの人間に伝えたいと言っている以上は…………」

 

そう言って箒は視線を真紅の機体——マガツキへと向けた。それに呼応してか沈黙を保っていたマガツキはバイザーのデュアルアイを点灯させる。思わず警戒心を強める私達だけど…………マガツキについての事を知っている箒はそれを手で制止してきた。

 

「箒…………」

「心配するな。彼奴は結果として私の命を救ってくれた…………目の前で武器を破棄した事からも、奴は信用に足り得る」

 

マガツキによって箒が助けられた事はログを見る限り、確かな事。その事に間違いはない。でも…………同じように目の前でヴァイスハイトを撃破したアーテル・アナザーのように、戦いを求めての事なのかもしれない。最近はあの白い魔鳥が来ないから少しだけ安心してるけどさ…………こんな風に新しい敵の存在が出た以上はどうなるかわからない。というか、ログの中でマガツキと箒が会話をしているところを見て、どこかアーテル・アナザーと私の会話と近しいものを感じたよ。まぁ、アナザーは私を敵として見ているみたいだけど。

マガツキは先ほどまで私達が報告を行なっていたところまで歩みを進めた。

 

『——妾ノ名ハ、NSG-Z0/G-AN マガツキ・裏天…………此ノ争イノ始マリヲ伝エルベク参上シタ』

 

マガツキの言った言葉に、思わず私達は動揺してしまった。この戦争の始まり…………? 一体どう言う事なの…………? そんなの、そっちが勝手に攻め込んできたからじゃないの…………!?

 

「戦いの始まり…………? 貴様らが、勝手に侵略を開始したからに決まっているだろう!! ふざけた事を吐かすな!!」

 

マガツキの言葉に怒りを隠せなかったラウラは吠えるようにそう言った。多分それは、ここにいるみんなが思っている事に違いない…………私は開戦から戦っているわけじゃないし、そんな詳しいことなんてわからないけど…………月が私達に攻撃を仕掛けてきたって教えられたよ。

 

『…………其ノ事ニツイテハ、謝罪シテモ足リナイ事ハ承知シテイル。ダガ、全テノ始マリハ、月ニ送ラレタ"一ツノコア"ト"二体ノアーキテクト"ナノダ』

「…………待ってくれたまえ! もしや、それはまさか…………!」

 

学園長は先ほどまでの冷静さを失い、声を荒げていた。お姉ちゃんもまた目を見開き、驚きを隠せていない。いや…………驚いているのは私達も同じ…………だって、一つのISコアと二体のアーキテクト、そして月って言われたら…………!

 

「——『プロジェクト・リスフィア』」

 

突如として聞こえてきた声。だけど、それはこの場にいる誰のものでもない。でも、私にはこの声に聞き覚えがある…………私達はその声が聞こえてきた方へ目を向けた。

 

「姉さん…………」

 

そう、声の主は束お姉ちゃんだった。特徴的なウサ耳のカチューシャをつけてないし、普通に白衣姿でいるから一瞬わからなかったけど…………声と雰囲気でわかった。言わずとも、箒にはわかってしまったみたいだけどね。

 

「束…………貴様、いつからそこにいた?」

「ただの偶然だよ…………今の学園の惨憺たる状況を生み出した大元の原因はフレームアーキテクトを作った私の責任でもあるからね…………その状況視察のついでに、十蔵さんに挨拶って思って来たら、なんかすごい事になってたからつい顔を出しちゃったわけさ」

 

そう言って肩を竦める束お姉ちゃん。束お姉ちゃんはそのまま視線を私達からマガツキと学園長の方へと向け直す。

 

「十蔵さん、それと月の使者…………話の腰を折ってごめんね。私の事は気にしなくていいから、話を続けて。——私も、責任があるから」

 

束お姉ちゃんはそう言うと、適当な場所に腰を下ろした。それを見届けたマガツキはまるで頷くような仕草をしてから言葉を発した。

 

『——続キトイコウ。月ニ送リ込マレタコアトアーキテクトハ、当初月裏面ノ調査トT結晶ノ採掘、ソシテアーキテクトノ生産ヲ行ナッテイタ。シカシ、事ハソウ上手クイカナカッタノダ…………突如トシテ、ISコア——コアナンバー467、固有名称[Re:Sphere(地球再生)]ノ基本プロトコルガ暴走、其ノ目的ヲ変化シテシマッタノダ…………』

「ISコアの暴走…………!? 一体何が原因なの!? それに、あのコアの基本プロトコルは、『生産』と『拡張』しかなかったはず…………!!」

『ソウダ。アレハ正常ニ生産プラントヲ稼働サセテイタ。シカシ、アル時、何ラカノ事故デコアガ直接T結晶ヘ触レテシマッタ…………ソレガ全テノ始マリナノダ』

 

マガツキはまるで一息つくような仕草をしてから言葉を紡ぐ。

 

『ソノ際、周囲ニハT結晶ノ光ガ散ッタ…………大キナ輝キダッタ。ソノ光ニ飲マレタノハ、コアト地球製アーキテクト二体、ソシテ月プラント製アーキテクト十数体。ソレヲ皮切リニ、コアノ基本プロトコルハ、『生産』ト『拡張』トイウ曖昧ナ定義ノ隙間ヲ見ツケ、兵器トシテアーキテクトヲ作リ出シ、地球ノフレームアームズヲ模シテ其ノ戦力ヲ強化シテイク。——コレダケナラマダヨカッタノカモシレンナ』

 

マガツキはまるで天を仰ぐかのように視線を上に上げた。本当…………人間が乗ってるって言われた方がしっくりくるくらい、人と同じ動きをしてるよ。

 

『コアハアル結論ニ至ッテシマッタノダ…………人類ノ生活圏ヲ開拓スル事デ人口増加ヲ解決スル本来ノ『リスフィア計画』トハカケ離レタ、人類ヲ殺ス事デ人口増加ヲ抑制シ地球ヲ再生スル、コアノ導キ出シタ偽リノ『リスフィア計画』…………アノ光ヲ受ケ、戦闘用AIデアル月面回路ヲ生ミ出シ、人類ニ叛逆ノ牙ヲ剥イタノダ。——コレガ、此ノ戦イノ始マリナノダ』

 

衝撃的な事実を聞かされた私達は思わず言葉を失ってしまった。まさか、この戦争の原因が暴走したISコア…………然も、平和利用を目的として送り込まれたものが、こんな風に多くの人の命を奪うことになるアントの総大将みたいな感じだなんて…………信じられなかった。もしかするとこの事も情報統制などで私達のような一兵士には伝わることがなかったのだろうか…………そんな風に思ってしまった。でも、途中で束お姉ちゃんが見せた驚きと焦り様から、誰も知らなかった事なのかもしれない。

 

「だ、だが、貴様にも積まれているのだろう…………その、月面回路が。ならば、何故貴様は我々が得をするような情報を流してきた…………? 私には貴様のことが理解できん…………」

 

皆が沈黙を保っている中、お姉ちゃんがマガツキに問いかけた。本来敵であるはずのマガツキが、どうして私達にその情報を流してきたのか…………それは私も気になっていたことだ。いや、私だけじゃない…………この場にいるみんなが気になっていることだと思う。

 

『…………確カニ、妾ニハ月面回路ガ積マレテイル。ダガ、人類ヲ殺メヨウナドト思ッタ事ハナイ。先程言ッタガ、貴公等ガ『アント』ト呼称シテイル月ノアーキテクトハ二種類イル。一ツハ月プラント製、モウ一ツハ——地球製。妾ハ月面回路ト地球ノ自立思考プログラムノ協議演算ノモト、今此ノ場ニイルノダ。故ニ、攻撃ノ術ヲ持トウトモ、貴公等ニ手ヲ出スツモリハナイ』

 

攻撃の意思がない事は聞いていて理解できた。それに、こんな防御力もない生身の人間がいるところで武器を取り出さない事からも、その言葉に嘘偽りはないように思えた。けど、束お姉ちゃんにはある言葉が引っかかっていたようで、身を乗り出してマガツキに問う。

 

「…………ねぇ、今、月面回路と地球製の自立思考プログラムって言ったよね…………?」

『嗚呼、確カニ妾ハソウ言ッタ』

「でも、アントって月面回路しか積んでないよね? それってどういう事なのかな…………?」

 

束お姉ちゃんは、マガツキが月面回路と地球製の自立思考プログラムを有していることに疑問を抱いていたようだ。言われてみれば確かにそうだ。だって、アントって月で生産されたアーキテクトなんだよ…………? なのに地球で作られたプログラムを持っているなんて…………私には少し理解ができない。

 

「それともう一つ。最初に送った二体のアーキテクトはどこに行ったのかな…………?」

『…………流石ニ気付ク者モ居ルカ』

 

マガツキがそう呟いた瞬間、束お姉ちゃんの目が疑念から確信へと変わっていた。

 

『…………妾ハ送ラレタ地球製ノアーキテクト、ソノ片割ヲフレームトシテイル。ソノ事ニ、嘘偽リハナイ』

「そう…………それで、残りの一機はどこ? まだ月にいるわけ?」

『彼奴ガ何処ニ居ルカ…………交信ハアルガ、場所ハ妾ニモ分カラヌ。——ダガ、貴公等ハ彼奴ト会ッタ事ガアル筈ダ。少ナクトモ、貴公ハ確実ニナ』

 

そう言ってマガツキは私を指差してきた。…………って、わ、私!? 私が会ったことあるの!? 一斉にみんなが私の方を向いてくるけど、心当たりなんて——待って。マガツキと同じように人みたいに話す機体…………一つだけ心当たりがあったよ。そう思った瞬間、私の胸から下げているドッグタグから警報が鳴り響く。灰色じゃなくて蒼い方のタグ…………私はブルーイーグルの頭部周りにある網膜投影ユニットを展開し、情報を確認した。

 

「お、おい、一夏。一体何が——」

 

隣でラウラが話しかけてきていたけど、私の耳には入ってこなかった。情報を確認した瞬間、自然と駆け出し、会議室を後にしていた。間違いない…………あの信号…………絶対あいつの物…………! 見間違えるはずがないよ…………!!

 

「ッ——!!」

 

私は近くの廊下の窓を開け、そこから飛び降りる。同時にブルーイーグルを緊急展開した。落下が強制的に止められ、その推力で一気に上昇していく。暫く飛翔して海上に出た時——その姿は見えた。真夜中、星一つ見えない曇り空なのに、ある一点だけは青く輝いているように見える。流れ星などではない。敵機の接近を知らせる警報がこれでもかと鳴り響いているのだ。それに…………戦況マップには、あいつを示す機体番号が表示されていたから…………はっきりとわかったよ。

 

「行くよ! ブルーイーグル!!」

 

私は速度を上げてその青い光へと突き進む。既にベリルソードは取り出しており、いつでも振り抜ける状態だ。私が加速した事を感じ取ったのか、戦況マップ上に表示されている向こうを示している光点のが私に近づく速度が速くなっている。次第にその姿がはっきりと見えてくる…………間違いない、絶対にあいつだ…………!! パールホワイトの装甲と青いクリスタルユニットを持ち、両手には大鎌を構えている。そして…………右肩にある羽根を模したマーキング…………私はその姿を忘れた時はないよ…………!!

私がベリルソードを振るうのと、向こうが大鎌——ベリルスマッシャーを振るうのは同じタイミングだった。暗い曇天の夜空にTCSの干渉によるスパークが迸った。

 

『——久シ振リダナ、紅城一夏』

「フレズヴェルク=アーテル・アナザー…………ッ!!」

 

あの因縁深い、白い魔鳥が私の目の前に存在していたのだった——。




今回、キャラ紹介及び機体解説は行いません。
感想及び誤字報告をお待ちしております。
では、また次回、生暖かい目でよろしくお願いします。



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